説明

気泡セメント組成物

【課題】水中不分離性と高流動性を有する気泡セメント組成物の提供。
【解決手段】セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤及び水を含有してなる気泡セメント組成物や自己充填水中不分離性気泡セメント組成物。ベントナイトや骨材を含有しても良い。水セメント比40〜120%、密度0.8〜1.3g/cm、強度3.0N/mm以上が好ましい。セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤、水及び気泡を混合してなる気泡セメント組成物の製造方法。水と起泡剤を混合して製造した気泡と、セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤及び水を混合してなるセメント組成物とを混合してなる気泡セメント組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に土木分野で使用するセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの覆工コンクリートの上部背面部には空洞部が発生することが多く、地下水或いは地山の崩落による悪影響が生じる。そこで、空洞の充填には、トンネル覆工コンクリートへの荷重負担の小さい気泡セメントモルタル或いは気泡セメントペーストが用いられている(特許文献1、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【0003】
特許文献1には、セメント、ベントナイト、水、セルロース系混和剤及び気泡を含有した気泡セメントペーストが示される。しかし、流動性は、JIS R 5201によるフロー値で140〜200mmの低流動性であり、得られる最高強度も2.5N/mm未満である。
【0004】
特許文献2には、超速硬セメント、細骨材、増粘剤、水及び気泡を含有した気泡セメントモルタルが示されるが、得られる強度は1.3N/mm以下である。
【0005】
デュータンガムについては、後述する特許文献3、特許文献4が挙げられる。しかし、水中不分離性については、記載がない。デュータンガムは高粘度なため、流動性を確保できないと考えられていた。デュータンガムを使用しても高流動性を確保できることは、当業者が想到できないことであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−54794号公報
【特許文献2】特開2000−128661号公報
【特許文献3】特開2008−184344号公報
【特許文献4】特公平07−068283号公報
【0007】
これに対し、本発明者は、デュータンガムを用いた気泡セメント組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤及び水を含有してなる気泡セメント組成物であり、ベントナイトを含有してなる該気泡セメント組成物であり、骨材を含有してなる該気泡セメント組成物であり、水セメント比が40〜120%である該気泡セメント組成物であり、密度が0.8〜1.3g/cmである該気泡セメント組成物であり、強度が3.0N/mm以上である該気泡セメント組成物であり、該気泡セメント組成物からなる自己充填水中不分離性気泡セメント組成物であり、セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤、水及び気泡を混合してなる気泡セメント組成物の製造方法であり、水と起泡剤を混合して製造した気泡と、セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤及び水を混合してなるセメント組成物とを混合してなる気泡セメント組成物の製造方法である。
【0009】
本発明は、流動性と水中不分離性が大きいといった効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0011】
本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。本発明におけるセメント組成物(セメントコンクリートということもある)とは、セメントペースト、モルタル又はコンクリートを総称するものである。
【0012】
本発明で使用するセメントは、通常市販されている普通、早強、中庸熱、低熱及び超早強等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに、フライアッシュや高炉スラグ等を混合した各種混合セメント、並びにエコセメント等が挙げられる。
【0013】
本発明で使用するデュータンガムは、例えば、微生物キサントモナスカムペストリス、ATCC53159を培養し、炭水化物を好気性発酵することにより得られるヘテロ多糖である(特許文献3、4参照)
【0014】
デュータンガムは、例えば、2個のグルコース、1個のグルクロン酸、及び3個のラムノースを構成単位とする。デュータンガムの化学構造は、例えば、式(1)で示される。
【0015】
【化1】

【0016】
デュータンガムの粘度は、25℃、0.25%水溶液で2000mPa・s以上が好ましく、3000mPa・s以上がより好ましい。デュータンガムの粘度は、25℃、0.25%水溶液で5000mPa・s以下が好ましく、4000mPa・s以下がより好ましい。デュータンガムの粉体の粒度は、80メッシュ通過率80%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
【0017】
デュータンガムの使用量は、水100部に対して、0.05〜1.0部が好ましく、0.1〜0.6部がより好ましい。0.05部未満だと粘性が低く分離するおそれがあり、1.0部を超えると粘性が大きく、ポンプ圧送性が悪く、施工性が悪くなるおそれがある。
本発明で使用するポリカルボン酸塩系減水剤は、不飽和カルボン酸モノマーを一成分として含む重合体や共重合体又はその塩である。不飽和カルボン酸モノマーとしては、ポリアルキレングリコールモノアクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールモノメタクリル酸エステル、無水マレイン酸、アクリル酸やメタクリル酸及びアクリル酸やメタクリル酸の塩等が挙げられる。ポリカルボン酸塩系減水剤は、これらの不飽和カルボン酸モノマーと重合や共重合が可能なモノマーを、更に重合や共重合をするものも含む。ポリカルボン酸塩系減水剤は、構成分子中にオキシエチレン単位構造を有しても良い。
【0018】
ポリカルボン酸塩系減水剤の固形分濃度は、5〜50%が好ましく、10〜40%がより好ましい。5%未満だと減水剤量が多くなるので生コンプラントでの計量に支障をきたし、コンクリートの製造量が低下するおそれがあり、50%を超えると粘度が高くなり、生コンプラントでの計量に支障をきたすおそれがある。
【0019】
ポリカルボン酸系減水剤の使用量は、セメント100部に対して、固形分換算で0.01〜3部が好ましく、0.1〜2部がより好ましい。0.01部未満だとセメント組成物の所定のワーカビリティーが得られないおそれがあり、3部を越えるとセメント組成物の凝結が不良となり、初期強度発現性が小さいおそれがある。
【0020】
本発明における起泡剤としては、アルキルエーテルサルフェート塩等の高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ロジン石鹸、マレイン化ロジン石鹸等のアニオン系界面活性剤、ポリエチレングリコール、高級アルコ−ル、エチレングリコ−ルのイソブチルエ−テル等のノニオン系界面活性剤、トリエタノールアミンハロゲン酸塩等のカチオン系界面活性剤、アミノ酸型両性界面活性剤、ポリペプチド等のタンパク系起泡剤等が挙げられる。これらの中では、アニオン系界面活性剤及び/又はノニオン系界面活性剤が好ましく、アニオン系界面活性剤がより好ましく、アルキルエーテルサルフェート塩、高級アルコ−ル及びエチレングリコ−ルのイソブチルエ−テルの複合系が最も好ましい。
【0021】
起泡剤の使用方法は、例えば、起泡剤を数10倍に希釈した溶液を、発泡機を用いて気泡を製造し、セメントペーストに混ぜ、気泡セメント組成物とするプレフォーム方法と、水と起泡剤をミキサで撹拌し、気泡を発生させ、セメントを混合し、気泡セメント組成物とするミックスフォーム方法が挙げられる。
【0022】
起泡剤の使用量は、気泡セメント組成物中の空気量が200〜500リッター/mとなるように使用量を調整することが好ましく、280〜400リッター/mとなるように使用量を調整することがより好ましい。200リッター/m未満だと自重が大きくなるおそれがあり、500リッター/mを越えると所要の強度が得られないおそれがある。
【0023】
軽量で高強度の硬化体を得るには、気泡セメント組成物中の密度が0.8〜1.3g/cmとなるように空気量を調整することが好ましく、0.9〜1.2g/cmとなるように空気量を調整することがより好ましい。0.8g/cm未満だと所要の強度が得られないおそれがあり、1.3g/cmを越えると練上がり直後の流動性が小さくなり、自重が大きくなるおそれがある。
【0024】
本発明のセメント組成物には、粘性の調整のため、ベントナイト、骨材を併用することも可能である。
【0025】
本発明で使用するベントナイトは、粘土鉱物の1種であり、モンモリロナイトを主成分とする。ベントナイトとしては、カルシウムベントナイト、マグネシウムベントナイト、ナトリウムベントナイト、カリウムベントナイト及びリチウムベントナイト等が挙げられる。これらの中では、効果が大きい点で、カリウムベントナイトが好ましい。
【0026】
ベントナイトの膨潤度は、20ml/2g以上が好ましく、25ml/2g以上がより好ましい。
【0027】
ベントナイトの含水率は、1〜12%が好ましく、2〜10%がより好ましい。
【0028】
ベントナイトの強熱減量は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。
【0029】
ベントナイトの粒度は、45μm湿式残渣において、10%以下が好ましく、3〜8%がより好ましい。
【0030】
ベントナイトの使用量は、水100部に対して、0.2〜2.0部が好ましく、0.3〜1.5部がより好ましい。0.2部未満だと粘性が低く分離のおそれがあり、20部を超えると強度低下や施工性の低下のおそれがある。
【0031】
本発明で使用する骨剤としては、細骨材や粗骨材が挙げられる。細骨材としては、川砂、山砂、石灰砂及び珪砂等が挙げられる。粗骨材としては、砕石、川砂利、山砂利及び石灰砂利等が挙げられる。これらの中では、効果が大きい点で、細骨材が好ましい。
【0032】
セメント/(粗骨材と細骨材を合計した骨材)の比は、0〜400%が好ましく、100〜300%がより好ましい。400%を超えると分離を生じ自重が大きくなるおそれがある。
【0033】
水のセメントに対する比率は、水セメント比で40〜120%が好ましく、70〜100%がより好ましい。この比率にすることにより、自己充填性で軽量・高強度の硬化体が得られる。
【0034】
本発明は3.0N/mm以上の高強度が得られるので、トンネルの空洞充填の用途以外にも使用できる。例えば、地中構造物の現場施工において、掘削に泥水を用い、その泥水中にセメント硬化体を作製する際、本発明は有効に利用できる。泥水の密度に近い密度の本発明を泥水中に流し込むことにより、泥水と置換したセメント硬化体が簡単に製造される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の具体的態様を実施例及び比較例により説明する。
【0036】
表1のセメントペースト配合に従い、セメントペーストを調製した。次に、起泡剤と水を混合して製造した気泡を混合して気泡セメントペーストとした。気泡は、起泡剤を50倍に希釈した水溶液を、攪拌機を用いて攪拌することにより製造した。
表1に示す気泡セメントペーストの空気量になるように、気泡を混合した。
気泡セメントペーストの密度、練り上がり時及び1.5時間後の流動性、水中不分離性、材令7日及び28日の圧縮強度、気泡セメントペーストの空気量を測定し、結果を表2に示した。
【0037】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、密度3.14g/cm(電気化学工業株式会社)
デュータンガム:ケルコクリートDG(C.P.ケルコ社)、含水率7%、80メッシュ通過率100%、粘度3225mPa・s(25℃、0.25%水溶液、水溶液密度1.05g/cm
減水剤:ポリカルボン酸系減水剤(グレースケミカルズ株式会社)、溶液、固形分濃度20%(密度1.05g/cm
ベントナイト:米国産市販品、カリウムベントナイト、膨潤度26.5ml/2g、含水
率8.7%、粒度湿式残渣45μm5.5%、強熱減量7.5%、密度2.5g/cm
細骨材:新潟県姫川産(密度2.61g/cm
メチルセルロース:SFCA2000(信越化学株式会社)
起泡剤:アニオン系発泡剤デンカSR−F(電気化学工業株式会社)、アルキルエーテルサルフェート塩、高級アルコール、エチレングリコールものイソブチルエーテル複合系ウエランガム:KIA96、C.P.ケルコ社
キサンタンガム:ケルザン、C.P.ケルコ社
【0038】
<試験方法>
気泡セメントペーストの密度:容量400ミリリットルの円筒形鋼製容器(直径76mm、高さ88mm)を用いて気泡セメントペーストの質量を測定し、容器の容積で除して算出した。
流動性:平板上でJHS313に規定するシリンダー(直径80mm、高さ80mm)に気泡セメントペーストを入れ、シリンダーを抜き取った後の気泡セメントペーストの広がりの直径値を測定した。
水中不分離性:コンクリ−ト用水中不分離性混和剤品質規格(JSCE−D)付属書2、により縣濁物質量を測定した。
圧縮強度:4×4×16cm型枠を用い、封緘養生にてJIS R 5201セメントの物理試験方法に準じて測定した。
気泡セメントペーストの空気量:日本道路公団規格 JHS A313 エアモルタル及びエアミルクの試験方法により測定した。
デュータンガムの粘度:25℃の室温で、0.25%水溶液を作製した。B型粘度計を使用し、3rpmの条件で測定した。
デュータンガムの含水率:デュータンガムを105℃で2.5時間乾燥し、以下の式により含水率を算出した。
含水率(%)=(乾燥前のデュータンガムの質量―乾燥後のデュータンガムの質量)/(乾燥前のデュータンガムの質量)×100(%)
ベントナイトの膨潤度:ACC法に準じて測定した。
ベントナイトの含水率;ベントナイトを105℃で5時間乾燥し、以下の式により含水率を算出した。
含水率(%)=(乾燥前のベントナイトの質量―乾燥後のベントナイトの質量)/(乾燥前のベントナイトの質量)×100(%)
80メッシュ通過率:80メッシュのタイラー標準スクリーンを使用した。80メッシュのタイラー標準スクリーンを通過したデュータンガムの割合を測定した。
45μm湿式残渣:ベントナイト工業会の試験方法に準じて測定した。ベントナイト10gを、水350gに分散させた後、45μmの篩を通過させ洗浄した。篩上に残る残渣を110℃で8時間乾燥した。45μmの篩に残ったベントナイトの割合を測定した。
強熱減量:105℃で2.5時間乾燥したベントナイトを、電気炉中で800℃、2時間加熱し、〔(加熱前の質量)−(加熱後の質量)/(加熱前の質量)〕×100(%)の式から算出した。
気泡セメントペーストの状態:気泡セメントペーストが完全な場合を100点とし、測定不能な状態を0点とし、振り分けて評価した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
本発明の実施例1〜6は、流動性が高く水中不分離性も良好であり、圧縮強度も4.5N/mm以上が得られている。それに対し、増粘剤、減水剤を使用していない比較例1では材料分離し安定した気泡セメントペーストが得られなかった。又、増粘剤としてメチルセルロースを用いた比較例2では流動性の低下が激しく、圧縮強度の発現も悪くなった。比較例3では、ポリカルボン酸系減水剤を使用しなかったため流動性が悪く自己充填性が得られなかった。比較例4と比較例5では、水中で気泡セメントペーストが分離した。
【0042】
本発明の気泡セメント組成物の密度は、0.8〜1.3g/cmが好ましく、1.1〜1.3g/cmがより好ましい。0.8g/cm以上にすることにより、強度が大きくなり、1.3g/cm以下にすることにより、自重が小さく構造物に与える荷重を小さくすることが可能になる。本発明の気泡セメント組成物の硬化後の28日圧縮強度は、地盤等の外圧に耐える力が大きい点で、3.0N/mm以上が好ましく、4.5N/mm以上がより好ましい。
【0043】
密度が小さいことと、強度が大きいことは、相反することであった。本発明は、相反することを両立したものである。本発明の気泡セメント組成物は、密度が小さくても、強度が大きいという効果を有するものである。
【0044】
本発明は、水中不分離性で軽量・高強度の特性を有する。本発明は、高流動で自己充填性のフレッシュ性状を示し、例えば、密度0.8〜1.3g/cmで、硬化後の28日圧縮強度では3.0N/mm以上の高強度が得られるものである。
【0045】
本発明は、自己充填水中不分離性用の気泡セメント組成物として使用した場合、産業上の利用性が大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤及び水を含有してなる気泡セメント組成物。
【請求項2】
ベントナイトを含有してなる請求項1記載の気泡セメント組成物。
【請求項3】
骨材を含有してなる請求項1又は2記載の気泡セメント組成物。
【請求項4】
水セメント比が40〜120%である請求項1〜3のうちの1項記載の気泡セメント組成物。
【請求項5】
密度が0.8〜1.3g/cmである請求項1〜4のうちの1項記載の気泡セメント組成物。
【請求項6】
強度が3.0N/mm以上である請求項1〜5のうちの1項記載の気泡セメント組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のうちの1項記載の気泡セメント組成物からなる自己充填水中不分離性気泡セメント組成物。
【請求項8】
セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤、水及び気泡を混合してなる気泡セメント組成物の製造方法。
【請求項9】
水と起泡剤を混合して製造した気泡と、セメント、デュータンガム、ポリカルボン酸系減水剤及び水を混合してなるセメント組成物とを混合してなる気泡セメント組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−42551(P2011−42551A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193717(P2009−193717)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】