説明

気泡入り酸性水中油型乳化食品

【課題】微小な気泡を多量かつ安定的に含有し、食酢由来の酸味が抑制された酸性水中油型乳化食品を得る。
【解決手段】気泡入り酸性水中油型乳化食品が、脱気後の粘度が30Pa・s以上であり、製造後少なくとも7日間経過時に、直径50μm以下の気泡を80×10-123 当たり15〜150個含有する。この気泡入り酸性水中油型乳化食品は、気泡入り粗乳化物を、背圧をかけた乳化機で精乳化することにより製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡入り酸性水中油型乳化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズ、半固体状乳化ドレッシング等のpHを4.6以下に調整した酸性水中油型乳化食品が知られている。酸性水中油型乳化食品では、食酢、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、レモン、かぼす等の柑橘果汁等の酸材を配合してpHを調整している。これらの酸材の中でも食酢は、安価で抗菌性に優れていることから、酸性水中油型乳化食品に汎用されている。しかしながら、食酢は、他の酸材に比べて酸味が強く感じられるため、食酢由来の酸味を抑制する方法が求められている。
【0003】
食酢由来の酸味を抑制する方法としては、例えば、5’−ウリジン酸ナトリウム及び/又は5’−シチジル酸ナトリウムを添加する方法(特許文献1)やγ−アミノ酪酸(GABA)を添加する方法(特許文献2)が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの方法は特殊な成分を含有させる方法であるため、得られる酸性水中油型乳化食品は高価なものとなり汎用性に欠けるという問題がある。また、食酢由来の酸味の抑制効果も満足できる程のものとは言い難い。
【0005】
一方、酸性水中油型乳化食品の食感を軽くするなどの目的で、該乳化食品中に気泡を含有させることが知られている(特許文献3,4,5)。この気泡を含有させた酸性水中油型乳化食品の製造方法としては、(i)予めミキサー内の雰囲気を窒素ガスにし、その雰囲気下で粗乳化を行うことにより窒素ガスで含泡させた粗乳化物を製造し、次いでその含泡させた粗乳化物を精乳化する方法、(ii)粗乳化物を製造後、CRミキサー(VOTATOR DIVISION CHEMETRON CO.)で圧力をかけて窒素ガスで粗乳化物に含泡させ、次いでその粗乳化物を精乳化する方法、(iii)粗乳化物をコロイドミル等の仕上げ乳化機で精乳化した後、(ii)と同様の方法で精乳化物に窒素ガスで含泡させる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−348748号公報
【特許文献2】特開2006−61089号公報
【特許文献3】特開平11−32722号公報
【特許文献4】特開2000−210048号公報
【特許文献5】特開2005−333949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の方法で含泡させた酸性水中油型乳化食品は、気泡数が少ないためか、食品由来の酸味が十分に抑制されたものとはなっていない。
【0008】
これに対しては、上述の(i)の方法で粗乳化物製造時の窒素ガスの圧力を高めること、(ii)の方法で粗乳化物を製造後、粗乳化物にかける窒素ガスの圧力を高めること、(iii)の方法で精乳化物を製造後、精乳化物にかける窒素ガスの圧力を高めることが考えられる。しかし、これらのいずれによっても油相が分離し易い乳化安定性の低いものや、酸味の抑制が不十分なものしか得られなかった。
【0009】
そこで、本発明は、食酢由来の酸味が十分に抑制され、かつ乳化安定性の優れた気泡入り酸性水中油型乳化食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、含泡させた粗乳化物を特定の方法で精乳化することにより、直径50μm以下の微小な気泡を多量かつ安定的に含有し、食酢由来の酸味が抑制された酸性水中油型乳化食品を得られることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、脱気後の粘度(20℃)が30Pa・s以上である気泡入り酸性水中油型乳化食品であって、製造後少なくとも7日間経過時に、直径50μm以下の気泡を80×10-123当たり15〜150個含有することを特徴とする気泡入り酸性水中油型乳化食品を提供する。
【0012】
また、本発明は、この気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造方法として、気泡入り粗乳化物を、背圧をかけたコロイドミルにより精乳化することを特徴とする気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品は微小な気泡を多量に含有するので酸材の酸味が抑制されたものとなる。したがって、酸材として食酢が使用された場合でも、食酢由来の酸味が抑制されたまろやかな風味を呈する。また、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品は、気泡の粒径が専ら50μm以下であるため、気泡の含有量が長期にわたって安定し、乳化安定性にも優れている。
【0014】
そして、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造方法によれば、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品を、工業的な製造ラインで連続的に生産性高く製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明において、特にことわりの無い限り「%」は「質量%」を意味する。また、気泡用ガスの注入量は標準状態での注入量、圧力はゲージ圧を意味する。
【0016】
本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品は、製造後少なくとも7日間経過時に、直径50μm以下の気泡を80×10-123当たり15〜150個含有する。
【0017】
ここで、酸性水中油型乳化食品とは、水相が食酢等によりpH4.6以下に調整されており、水相中に食用油脂が油滴として略均一に分散し、水中油型の乳化状態が維持された乳化食品をいう。酸性水中油型乳化食品には、水相中に略均一に分散した油滴の中に更に水相が分散したものも包含する。酸性水中油型乳化食品の具体例としては、マヨネーズ、マヨネーズ類あるいは半固体状乳化ドレッシング等をあげることができる。
【0018】
また、気泡入り酸性水中油型乳化食品が、製造後少なくとも7日間経過時に、直径50μm以下の気泡を80×10-123 当たり15〜150個含有するとは、気泡入り酸性水中油型乳化食品が、直径50μm以下の気泡を、酸味の抑制に十分な量で長期間にわたって安定して含有することを意味する。
【0019】
即ち、石井淑男編「泡のエンジニアリング」(2005)テクノシステム発行(第6章マイクロバブルの応用P423−484)には、発生時の直径が10μm〜数十μmの気泡が「マイクロバブル」と定義され、マイクロバブルは、界面張力等の影響を受けるため気泡の内圧が高く、ヘンリーの法則に従い水中で収縮及び溶解すること、また、気泡が水中で界面張力等により収縮するか、逆に気泡の上昇に伴う気泡の周囲と内部の圧力差の発生によって膨張するかの境界の気泡直径は、真水の静水中においては数十〜約80μmであると報告されている。
【0020】
これに対し、本発明者は、気泡入り酸性水中油型乳化食品の気泡の挙動について調べたところ、概ね気泡の直径が約50μm以下のものは、収縮あるいは溶解する傾向があり、50μm超のものは膨張する傾向があること、さらに気泡の収縮、溶解、膨張という挙動は、気泡の発生後約7日程度でほぼ安定し、それ以降は一定の含泡状態が維持されることがわかった。そこで、気泡入り酸性水中油型乳化食品の含泡状態は、その製造後7日以降に、直径50μm以下の気泡の含有量で評価することとし、気泡の含有量と酸味の抑制効果との関係について検討した。
【0021】
本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品における気泡の含有量は上述の検討に基づいて定められたものであり、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品は、製造後少なくとも7日間経過時に、その体積の80×10-123あたり、標準状態で直径50μm以下の気泡を15個以上、好ましくは25個以上、より好ましくは30個以上含有する。これにより、食酢由来の酸味を十分に抑制することが可能となる。一方、気泡の含有量を過度に多くしてもそれに見合う効果を得られず、また、工業規模での生産が著しく困難となる。そこで、直径50μm以下の気泡は、気泡入り酸性水中油型乳化食品の80×10-123あたり150個以下とする。なお、ここで製造後少なくとも7日間経過時とは、製造後7日から、通常の気泡入り酸性水中油型乳化食品の賞味期限までの間をいう。
【0022】
本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品は、上述のように直径50μm以下の気泡を含有するが、この場合、直径50μmを超える気泡を含有していてもよい。直径50μmを超える気泡であっても、酸性水中油型乳化食品の製造後7日以上経っていれば、その直径は、酸性水中油型乳化食品の粘度、気泡の発生時の直径等にもよるが、概ね100μm以下となり、含有量も安定している。そこで、酸材の酸味の抑制の点から、酸性水中油型乳化食品の製造後少なくとも7日間経過時における気泡の総数を、酸性水中油型乳化食品の80×10-123あたり、好ましくは30〜300個、より好ましくは40〜300個、さらに好ましくは50〜300個とする。
【0023】
ここで、気泡の直径及び含有量は、次のようにして測定される数値である。即ち、気泡入り酸性水中油型乳化食品を少量(約0.05g)採取し、薬包紙(平均厚さ20μm)を1cmの正方形にくりぬいたものを載せたスライドグラスの中心にのせ、上からカバーグラスでゆっくりと均等に押さえ、カバーグラスを薬包紙に密着させたものを観察試料とする。この観察試料の拡大画像をデジタルマイクロスコープ(倍率100倍)で撮影し、観察する。なお、観察試料は、試料とする気泡入り酸性水中油型乳化食品からランダムに複数ヶ所で採取し、採取箇所ごとに作成する。
【0024】
撮影した画像をデジタルマイクロスコープに内蔵されている計測機能を用いて直径を測定し、撮影各画像について、気泡入り酸性水中油型乳化食品の80×10-123あたり(即ち、観察試料の2000μm×2000μm×20μm(厚さ))に存在する気泡の総数及び気泡の直径が50μm以下の気泡数を数え、複数の観察試料の平均値を求める。この場合、直径が30μm以上の気泡は、押しつぶされて円柱状に変形していると考えられるから、以下の補正式を用いて、みかけの円柱の直径(半径r)からそれに対応する球の直径(X)を換算し、それを気泡の直径とする。
【0025】
(4/3)π(X/2)3 (球の体積)=πr2h(円柱の体積)
X=2×(r2 ×h×3/4)1/3
(式中、X:気泡の直径
r:気泡のみかけの円柱の半径
h:試料の厚さ(薬包紙の厚さ:20μm))
【0026】
気泡を構成する気体の種類には特に制限はなく、一般に食品に用いられているガス、例えば、窒素、炭酸ガス、空気等を使用することができる。なかでも、不活性ガスであること、油脂の酸化に影響しないこと、及び酸味の抑制に効果的であることから窒素が好ましい。
【0027】
窒素は、食品工業で使用されているものであれば、必ずしも純品である必要はなく、好ましくは純度80V/V%以上、より好ましくは純度90V/V%以上、さらに好ましくは純度95V/V%以上のものを用いる。
【0028】
また、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品は、その脱気後の粘度(20℃)が30Pa・s以上、好ましくは50Pa・s以上、より好ましくは100Pa・s以上である。この粘度が30Pa・sより低いと、酸性水中油型乳化食品中に安定的に気泡を保持させることが困難となる。そのため、得られる気泡入り酸性水中油型乳化食品は、上述した気泡に関する規定を満たすことが難しくなり、酸材の酸味を十分に抑制することが難しくなる。反対に、過度に高粘度であると、微小な気泡を多量に含泡させることが困難となり、酸材の酸味を十分に抑制することが難しくなる。そのため、脱気後の粘度は500Pa・s以下が好ましい。
【0029】
ここで、粘度は次のように測定される数値である。気泡入り酸性水中油型乳化食品を密封した雰囲気下に置き、当該雰囲気を吸引して真空状態あるいはそれに近い状態とし、十分に脱気する。得られた脱気物の粘度を、BH型粘度計を用い、回転数:2rpm、ローター:No.6、品温:20℃の測定条件で測定し、1分後の示度から換算する。
【0030】
一方、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品において、水相成分は、酸材によりpH4.6以下に調整したものである。酸材としては、食酢、乳酸、クエン酸、柑橘果汁等を使用することができ、特にコストと抗菌性の点から食酢あるいは食酢と他の酸材とを組み合わせて使用することが好ましい。酸材の配合量は、通常の酸性水中油型乳化食品と同様にすればよく、具体的には、水相の全質量に対し、酢酸酸度5%の食酢換算で、好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜45%である。
【0031】
なお、食酢の酸度は以下の方法により算出される。
【0032】
まず、用いる食酢10gを正確に採り、イオン交換水で10倍に希釈し、その希釈液(100g)に、指示薬として3.1%フェノールフタレイン溶液を2滴加え、力価既知の0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液で中和滴定して、次式により、用いる食酢の酢酸酸度を求める。
【0033】
食酢の酢酸酸度(%)={(60.05×0.1×F×V)×100}/{試料採取量(10g)×1000}
(式中、60.05:酢酸の分子量
0.1:水酸化ナトリウム溶液のモル濃度(mol/L)
F:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の力価
V:0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液の滴定量(mL))
【0034】
また、油相成分は、品温15℃で液状の油脂から構成することが好ましい。かかる食用油脂としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、魚油等の動植物油及びこれらの精製油、並びにMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリドなどのように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる油脂などが挙げられ、本発明においては、これらの食用油脂の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
なお、従来、気泡を含有させた酸性水中油型乳化食品の油相成分には、一般に、常温(15〜25℃)で固体ないし半固体状の硬化油が配合されている。これは、かかる油相成分を使用することにより気泡の動きを抑え、気泡の含有量を安定化させるためである。これに対し、本発明においても、食用油脂として常温で固体ないし半固体状の硬化油を使用してもよいが、このような硬化油を使用せず、油相が全体として常温で液状であっても、前述の気泡に関する条件を満たすことにより、気泡の含有量が安定した気泡入り酸性水中油型乳化食品を得ることができる。また、常温で液状の食用油脂を使用することにより、微小な気泡を容易に、しかも多量に含泡させることができる。
【0036】
食用油脂の配合量は、通常の酸性水中油型乳化食品と同様にすればよく、具体的には、製品に対し好ましくは10〜90%、より好ましくは10〜85%である。
【0037】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、酸性水中油型乳化食品に通常用いられている各種原料を適宜選択し配合させることができる。例えば、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、米澱粉、これらの澱粉をα化、架橋などの処理を施した化工澱粉、並びに湿熱処理澱粉などの澱粉類、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、アラビアガム、サイリュームシードガムなどのガム質、澱粉分解物、デキストリン、デキストリンアルコール、オリゴ糖、オリゴ糖アルコールなどの糖類、クエン酸、乳酸、レモン果汁などの酸味材、グルタミン酸ナトリウム、食塩、砂糖などの各種調味料、卵黄、ホスホリパーゼA処理卵黄、全卵、液卵白、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉などの乳化材、動植物のエキス類、からし粉、胡椒などの香辛料、並びに各種蛋白質やこれらの分解物などが挙げられる。
【0038】
次に、本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造方法について説明する。
【0039】
一般に、酸性水中油型乳化食品は、卵黄などの乳化材と調味料などを混合して水相を調製し、得られた水相を撹拌しながら、油相である食用油脂を注加して粗乳化物を製造し、さらにせん断力の強い精乳化機を用いて粗乳化物を精乳化することにより製造される。また、従来、気泡入り酸性水中油型乳化食品は、前述のように、含泡させた粗乳化物を精乳化する方法や、一旦精乳化物を得た後、それに含泡させる方法があるが、これらの方法では、直径50μm以下の気泡を、食酢由来の酸味を抑制出来るほど充分な量で含有させることはできない。
【0040】
これに対し、本発明の製造方法では、含泡させた粗乳化物を単に精乳化するのではなく、背圧をかけた状態でコロイドミルを用いて精乳化することを特徴とし、これにより直径50μm以下の気泡を充分な量で含有した精乳化物を製造する。
【0041】
なお、粗乳化とは主に乳化材の乳化力を利用し、ミキサー等の撹拌機や混合機で乳化させることをいい、精乳化とはせん断力に優れた乳化機(例えば、コロイドミル、高圧ホモジナイザー等)を利用し、粗乳化物を微小な乳化物にすることをいう。
【0042】
本発明の製造方法を、連続的に気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造する工業的製造ラインで実施する場合、次のように行うことができる。
【0043】
まず、ミキサーで水相原料と油相原料を混合して粗乳化物を製造し、それをポンプでラインに送り、ラインを送流中の粗乳化物に気泡用ガスをノズルで注入し、気泡用ガスの注入により含泡した粗乳化物をコロイドミルに送り、精乳化する。その場合、コロイドミルの流出口又は流出路には絞り弁を設け、コロイドミルに背圧をかけた状態とする。これにより、粗乳化物に気泡用ガスが注入された状態で、従前のコロイドミルの押込圧力以上の加圧下で精乳化することが可能となる。
【0044】
ここで、気泡用ガスを注入する前の未含泡の粗乳化物のライン流量は、好ましくは10〜80L/min、より好ましくは15〜80L/min、さらに好ましくは20〜75L/minである。ライン流量が過度に小さいと生産性が劣り、反対に過度に大きいと気泡用ガスの注入量を多くしたり、背圧用の絞り弁を絞ったりしても、食酢の酸味を充分に抑制できるほどに気泡を十分に含有した精乳化物を得ることが困難となる。
【0045】
ノズルからの粗乳化物への気泡用ガスの注入量は、上述のライン流量に対し、標準状態で、好ましくは5〜100L/min、より好ましくは10〜80L/min、さらに好ましくは15〜75L/minである。気泡用ガスの注入量が過度に少ないと、食酢の酸味を充分に抑制できるほどに気泡を十分に含有した精乳化物を得ることが困難となる。反対に、気泡用ガスの注入量を過度に多くすることは工業的規模では難しく好ましくない。
【0046】
なお、気泡用ガスを注入するときのガス圧は、流路内の圧力よりも高くすることが必要であり、好ましくは、流路内の圧力よりも0.1〜1.0MPa、より好ましくは0.2〜0.8MPa高い圧力で気泡用ガスを注入する。
【0047】
また、ノズルによる気泡用ガスの注入位置は、直径50μm以下の気泡をより多く含有させる点から、粗乳化物をコロイドミルに供給する直前とすることが好ましく、具体的には、コロイドミルへの給液口から好ましくは5m以内、より好ましくは3m以内、さらに好ましくは1m以内の位置とし、特にコロイドミルの給液口側の蓋に気泡用ガスを注入するノズルを設け、コロイドミルの給液口付近に気泡用ガスを注入することが好ましい。
【0048】
コロイドミルとしては、マヨネーズ等の酸性水中油型乳化食品で一般的に使用されているものを使用することができる。なお、水中油型乳化物の精乳化機としては、高圧ホモジナイザーも知られているが、含泡させた乳化物を高圧ホモジナイザーで処理するとキャビテーションが生じ、本来の機能である乳化物を微小化する効果を阻害し、果ては設備の破損を引き起こすおそれがあるので好ましくない。これに対し、コロイドミルによればキャビテーションのおそれがなく、また、絞り弁の使用により、含泡させた粗乳化物を背圧をかけた状態で連続的に精乳化を施すことができる。
【0049】
より具体的には、上述のライン流量及び気泡用ガスの注入量の場合、コロイドミルの押込圧力を、絞り弁による背圧の調整により、好ましくは0.6〜2.0MPa、より好ましくは0.7〜1.8MPa、さらに好ましくは0.8〜1.8MPaとする。この圧力が低過ぎると食酢の酸味を充分に抑制できるほどに気泡を十分に含有した精乳化物を得ることが困難となる。反対に、高過ぎると、高圧に耐え得る精乳化機が必要となり、設備上大掛かりとなり汎用性に欠け、好ましくない。
【0050】
この製造ラインによれば、含泡させた粗乳化物に対し、背圧をかけた状態で精乳化を行うので、粒径50μm以下の気泡を多量に含有した本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品を連続的に高い生産性で製造することが可能となる。
【0051】
本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造方法は、種々の態様をとることができる。例えば、ミキサーで粗乳化物を製造した後、粗乳化物に含泡させる際に、送流中の粗乳化物に気泡用ガスを注入するのに代えて、粗乳化物をミキサー等で撹拌しながら気泡用ガスを注入するバブリングを行っても良い。
【0052】
本発明の気泡入り酸性水中油型乳化食品によれば、直径50μm以下の気泡を多量に含有していることにより食酢をはじめとする酸材由来の酸味が抑制されるので、従来の、マヨネーズ、半固体状乳化ドレッシング等の使用方法に加え、デザート、ケーキまたはパン等のトッピングまたはフィリング、あるいは卵スプレット等のスプレット類、ディップソース等にも好ましく使用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。
【0054】
実施例1
上述の工業的製造ラインで気泡入り酸性水中油型乳化食品を次のように製造した。
【0055】
まず、ミキサーで、表1の配合組成中、全水相原料を撹拌して均一な水相30kgを調製し、次に、得られた水相を撹拌しながら植物油70kgを徐々に注加して酸性水中油型乳化物である粗乳化物を製造した。得られた粗乳化物をポンプにより流量25L/minでコロイドミルに送流しながら、コロイドミルの給液口より1m上流の位置の配管に、窒素(純度99V/V%以上)を注入量20L/min、圧力1.0MPaで注入した。また、コロイドミルの下流に設けた絞り弁の調整により、コロイドミルへの押込圧力を0.8MPaとした。コロイドミルでは、回転数3560rpmで連続的に精乳化を施し、気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0056】
得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、pHが4.0であり、真空ポンプで脱気させた時の粘度が約220Pa・sであった。
【0057】
また、得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、保管後にその5ヶ所をサンプリングし、デジタルマイクロスコ−プ(キーエンス社製、VHX-600)により気泡を観察した。その結果、5ヶ所の平均で、80×10-123あたりの気泡総数は63個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は35個であった。
【0058】
また、7日間保管後の気泡入り酸性水中油型乳化食品を喫食し、酸味評価を次の4段階の基準で行ったところ、A評価であった。
【0059】
A:食酢由来の酸味が明らかに抑えられている
B:食酢由来の酸味が抑えられている
C:食酢由来の酸味がやや抑えられている
D:食酢由来の酸味が抑えられていない
【0060】
【表1】

(*1)リゾ化率:リゾホスファチジルコリンとホスファチジルコリンの合計量に対するリゾホスファチジルコリンの割合をイアトロスキャン法(TLC−FID法)で分析した値
【0061】
比較例1
絞り弁を外し、コロイドミルに背圧をかけることなく精乳化を行い、また窒素の注入圧を0.6MPaとした以外は、実施例1と同様にして、流量25L/minで気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造を試みた。
【0062】
しかしながら、得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、明らかに油相分離が生じており、乳化安定性を有する気泡入り酸性水中油型乳化食品は得られなかった。
【0063】
これにより、気泡用ガスを多量に注入しても、コロイドミルによる精乳化を背圧をかけることなく行うと乳化安定性を有する気泡入り酸性水中油型乳化食品は得られないことがわかる。
【0064】
実施例2
実施例1と同様の製造ラインを用いて気泡入り酸性水中油型乳化食品を次のように製造した。
【0065】
まず、ミキサーで、表2の配合組成中、全水相原料を撹拌して均一な水相70kgを調製し、次に、得られた水相を撹拌しながら植物油30kgを徐々に注加して酸性水中油型乳化物である粗乳化物を製造した。
【0066】
得られた粗乳化物をポンプにより流量30L/minでコロイドミルに送流しながら、コロイドミルの給液口より1m上流の位置の配管に、窒素(純度99V/V%以上)を注入量30L/min、圧力1.8MPaで注入した。また、絞り弁の調整によりコロイドミルへの押込圧力を1.5MPaに加圧した。
【0067】
コロイドミルでは、回転数3560rpmで連続的に精乳化を施し、気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0068】
得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、pH4.1であり、真空ポンプで脱気させた時の粘度が約180Pa・sであった。
【0069】
また、得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、実施例1と同様に気泡を観察し、酸味評価をしたところ、80×10-123あたりの平均の気泡総数は116個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は64個であり、酸味評価はA評価であった。
【0070】
【表2】

(*1)表1と同様
【0071】
実施例3
粗乳化物の流量を60L/minとし、窒素(純度99V/V%以上)の注入量を20L/min、注入圧を1.0MPaとし、コロイドミルへの押込圧力を0.8MPaに加圧した以外は、実施例2と同様にして気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0072】
本実施例で得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、pH及び脱気後の粘度が、実施例2で得られたものと同程度であった。
【0073】
また、本実施例で得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、実施例1と同様に気泡を観察したところ、80×10-123あたりの平均の気泡総数は55個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は33個であった。さらに、実施例1と同様に行った酸味評価はA評価であった。
【0074】
実施例4
粗乳化物の流量を60L/minとし、窒素(純度99V/V%以上)の注入量を20L/min、注入圧を0.9MPaとし、コロイドミルへの押込圧力を0.7MPaに加圧した以外は、実施例2と同様にして気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0075】
本実施例で得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、pH及び脱気後の粘度が、実施例2で得られたものと同程度であった。
【0076】
また、本実施例で得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、実施例1と同様に気泡を観察したところ、80×10-123あたりの平均の気泡総数は43個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は26個であった。さらに実施例1と同様に行った酸味評価はB評価であった。
【0077】
実施例5
粗乳化物の流量を70L/minとし、窒素(純度99V/V%以上)の注入量を15L/min、注入圧を0.7MPaとし、コロイドミルへの押込圧力を0.6MPaに加圧した以外は、実施例2と同様にして気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0078】
本実施例で得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、pH及び脱気後の粘度が、実施例2で得られたものと同程度であった。
【0079】
また、本実施例で得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、実施例1と同様に気泡を観察したところ、80×10-123あたりの平均の気泡総数は31個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は15個であった。さらに実施例1と同様に行った酸味評価はC評価であった。
【0080】
比較例2
比較例1では、多量の気泡用ガスを注入した気泡入り粗乳化物を、そのままコロイドミルにより精乳化したところ乳化安定性を有する気泡入り酸性水中油型乳化食品が得られなかったことから、気泡用ガスの注入量を少なくして気泡入り酸性水中油型乳化食品を製した。この場合、配合組成は実施例2と同様とした。
【0081】
即ち、窒素の注入量を7L/min、注入圧を0.6MPaとし、絞り弁を外してコロイドミルでの精乳化を背圧をかけることなく行う以外は実施例2と同様にして流量30L/minで気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造を試みた。
【0082】
なお、この方法は、従来の気泡入り酸性水中油型乳化食品の製造方法に相当する。
【0083】
得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、油相分離することなく安定であり、pH及び脱気後の粘度は、実施例2で得られたものと同程度であった。
【0084】
また、得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、実施例1と同様に気泡を観察したところ、80×10-123あたりの平均の気泡総数は11個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は5個であった。実施例1と同様に行った酸味評価はD評価であった。
【0085】
比較例3
粗乳化物に窒素ガスを注入せず、絞り弁を外してコロイドミルにより精乳化を常圧で行う以外は、実施例2と同様にして流量30L/minで酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0086】
得られた酸性水中油型乳化食品は、pHが4.1であり、粘度は実施例2の脱気後の粘度と同程度であった。また、この酸性水中油型乳化食品に対して、実施例1と同様に行った酸味評価はD評価であった。
【0087】
比較例4
実施例2の配合組成(表2)において、冷水膨潤性澱粉の配合量を1%に変更した以外は、実施例2と同様にして気泡入り酸性水中油型乳化食品を製造した。
【0088】
得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品は、pHは実施例2と同程度であったが、脱気後の粘度が約25Pa・sと低いものであった。
【0089】
また、得られた気泡入り酸性水中油型乳化食品を室温(20℃)で7日間保管し、実施例1と同様に気泡を観察したところ、80×10-123 あたりの平均の気泡総数は19個であり、そのうち直径50μm以下の気泡は8個であった。実施例1と同様に行った酸味評価はD評価であった。
【0090】
以上の結果を表3にまとめた。
【0091】
【表3】

(*2)気泡数:80×10-123 あたりの平均個数
【0092】
表3より、80×10-123 あたりの直径50μm以下の気泡が15個以上である実施例の気泡入り酸性水中油型乳化食品は食酢由来の酸味の抑制効果を有し、特に、25個以上であると酸味抑制効果がより大きくなり、30個以上であるとさらに大きな酸味抑制効果を得られることがわかる。また、直径50μm以下の気泡数と気泡総数の大小が対応し、気泡総数30個以上で酸味の抑制効果が現れ、40個以上で酸味抑制効果がより大きくなり、50個以上でさらに大きな酸味抑制効果を得られることがわかる。
【0093】
また、表3から、窒素で含泡させた粗乳化物に対し、精乳化を窒素ガスの存在する加圧下で行った場合に、酸味抑制効果を得られる気泡数を酸性水中油型乳化食品に含有させられることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、気泡を含有し、酸味が抑制された斬新な風味の酸性水中油型乳化食品を提供するものであり、食品素材として広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡入り粗乳化物を、絞り弁で背圧をかけた乳化機で精乳化することにより得られる気泡入り酸性水中油型乳化食品であって、脱気後の粘度(20℃)が30Pa・s以上であり、製造後少なくとも7日間経過時に、直径50μm以下の気泡を80×10-123当たり15〜150個含有することを特徴とする気泡入り酸性水中油型乳化食品。
【請求項2】
油相を構成する食用油脂が15℃で液状である請求項1記載の気泡入り酸性水中油型乳化食品。
【請求項3】
精乳化における押込圧力が0.6〜2.0MPa(ゲージ圧)である請求項1又は2記載の気泡入り酸性水中油型乳化食品。

【公開番号】特開2012−61011(P2012−61011A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290453(P2011−290453)
【出願日】平成23年12月29日(2011.12.29)
【分割の表示】特願2007−303625(P2007−303625)の分割
【原出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】