説明

気泡掘削用起泡剤

【課題】起泡性を有し、かつ排水処理時の再発泡の抑制に優れた気泡掘削用起泡剤を提供する。
【解決手段】脂肪酸石鹸を主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡掘削用起泡剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル工事を行う際に、掘削機を使用して掘削する場合、または削岩機を使用してロックボルト孔やアンカーボルト孔を穿孔する場合には、掘削作業や穿孔作業を円滑に行うとともに、粉塵の発生を抑制するために、大量の水が使用されていた。
【0003】
しかし、この水の使用量は、毎分30〜60/リットルと非常に量が多いため、時として地山を痛め、地山に水が浸透して、緩み域が拡大するとともに、地山に亀裂が生じ、これが切羽面に及ぶことにより、小崩落を引き起こす懸念もある。また、大量の泥水を処理しなければならないという問題もあった。
【0004】
そこで、下記特許文献1においては、硬い膜を持つ気泡が連結したフォーム状の硬膜泡を掘削面に送り込み、この硬膜泡に掘削屑を付着させて排出しつつ、回転するビットによって掘削面を掘削する硬膜泡式掘削工法において、前記硬膜泡を発生するための発泡剤溶液として、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤とを主成分とした発泡剤溶液を使用し、ミセル生成された発泡剤を発泡させ界面活性ミセルにて覆われた微粒な気泡を形成し、前記微粒気泡を送気流体中に分散させてエアロゾル状とし、これに所定の圧力をかけて掘削面まで送り込み、前記ビットから前記微粒気泡を掘削面に噴射し微粒気泡を膨脹させて前記硬膜泡を形成する気泡掘削工法が提案されている。
【0005】
この従来の掘削工法は、起泡剤を含む液体を発泡させて生じる気泡を、土圧シールドの推進方面に吹き付け、掘削土と気泡を攪拌混合させながら掘削するものであり、使用する水の量を抑え、地山に水の浸透や亀裂などの発生を防ぐとともに、切羽の掘削抵抗と摩擦抵抗および掘削土運搬処理の作業性を向上させるものである。
【0006】
また、下記特許文献2においては、圧縮空気供給源から削岩機へ送給中の圧縮空気に気泡発生装置から送出する気泡を混入し、その気泡混入圧縮空気を削岩機のビットから噴出させ、気泡によりくり粉をスラリー状にして排出しながら削孔する穿孔方法が提案されている。
【0007】
この穿孔方法は、大量の水を使用することなく、くり粉を気泡によってスラリー化し、このスラリーを後続の気泡混入圧縮空気のフラッシング作用によって孔外に排出して、粉塵の発生を抑えることができるとともに、切羽の掘削抵抗と摩擦抵抗を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−120165号公報
【特許文献2】特公平6−60553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、この従来例である気泡掘削工法および穿孔方法においては、従来工法における大量の水に起因する問題点を解決することができるものの、この気泡に用いられる起泡剤の主成分が、主にアルファオレフィンスルホン酸塩やアルキルエーテル硫酸エステル塩などの起泡性に優れたアニオン界面活性剤が使用されているため、界面活性剤を使用した気泡により行った削孔によって排出された泥水の処理には、消泡剤を用いて消泡処理する必要があるとともに、万一消泡が不十分な場合には、排水処理時に再発泡して環境汚染の一因になってしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、起泡性を有し、かつ排水処理時の再発泡の抑制に優れた気泡掘削用起泡剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、脂肪酸石鹸を主成分とすることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記脂肪酸石鹸は、脂肪酸カリウム石鹸であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜2に記載の本発明によれば、脂肪酸石鹸、特に脂肪酸カリウム石鹸を主成分とするため、起泡性に優れ、地山に水の浸透や亀裂などの発生が抑制されるとともに、切羽の掘削抵抗と摩擦抵抗および掘削土運搬処理の作業性を向上させることができる。
【0014】
また、削孔によって排出された泥水の処理において、消泡剤を用いて消泡処理する必要がないため、掘削作業に掛かるコストを抑えるとともに、排水処理時の再発泡を抑制して、環境に配慮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本願発明の気泡掘削用起泡剤の主成分である脂肪酸石鹸(RCOOM)としては、天然系でも合成系のどちらの原料でも良く、脂肪酸塩や有機塩基石鹸、金属石鹸、脂肪酸誘導体などを使用することができる。
その中で、特に脂肪酸カリウム石鹸(RCOOK)が、掘削用の起泡剤として優れている。また、脂肪酸ナトリウム石鹸(RCOONa)を用いても優れた効果を得ることができる。
【0016】
なお、脂肪酸石鹸(RCOOM)としての脂肪酸は、炭素数6〜28のカプリン酸、ラウリン酸、ヤシ由脂肪酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、牛脂脂肪酸、ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、ヒマワリ油脂肪酸などである。また、脂肪酸石鹸の塩としては、カリウム、ナトリウムなどである。
【0017】
また、有機塩基石鹸としては、エタノールアミン石鹸やシクロヘキシルアミン石鹸などである。
【0018】
そして、金属石鹸としては、亜鉛石鹸、アルミニウム石鹸、カルシウム石鹸、マグネシウム石鹸、バリウム石鹸などである。
【0019】
さらに、脂肪酸誘導体としては、脂肪酸エステルとしてブチルステアレートや中鎖脂肪酸グリセライド、飽和脂肪酸トリグリセリドなどであり、脂肪酸クロライドとしてラウリン酸クロライドやステアリン酸クロライド、アミン類としてドデシルアミンやアルキルアミンなどである。
【0020】
また、本発明の起泡剤には必要に応じて、アニオン界面活性剤、水溶性無機金属塩、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、水溶性有機溶媒、水溶性高分子、カチオン界面活性剤、減水剤、分散剤などを併用しても良い。特にアニオン界面活性剤は起泡力を向上させる効果がある。しかし、使用する際には、再発泡する場合があるために、配合量には注意する必要がある。また、水溶性有機溶媒は製品安定性に効果があるとともに、気泡をなめらかにする効果がある。
【0021】
そして、アニオン界面活性剤としては、アルファオレフィンスルホン酸塩やアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、スルホコハク酸塩、エーテルカルボン酸塩、メチルタウリン酸塩などで、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。
なお、アニオン界面活性剤の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0022】
そして、水溶性有機溶媒としては、起泡性を阻害しないもの、例えばセロソルブ系溶剤(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、カルビトール類(エチルカルビトール、ブチルカルビトールなど)、エチレンオキシドの付加モル数が3〜10のポリオキシエチレン低級アルキルエーテル、ジオール類(エチレングリコール、ジエチレングリコールなど)などで、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち好ましくは、セロソルブ系溶剤およびジオール類であり、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソルブ及び、エチレングリコール、ジエチレングリコールである。
なお、水溶性有機溶媒の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜100重量部、好ましくは5〜70重量部である。
【0023】
さらに、水溶性無機金属塩としては、例えば、ナトリウム塩(硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムなど)、カリウム塩(硫酸カリウム、塩化カリウムなど)、マグネシウム塩(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなど)、カルシウム塩(硫酸カルシウム、塩化カルシウムなど)などで、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち、好ましいものは硫酸マグネシウムや硫酸ナトリウムである。
なお、水溶性無機金属塩の添加量は、脂肪酸石鹸起泡成分100重量部に対して通常0〜50重量部、好ましくは0.01〜10重量部である。
【0024】
また、ノニオン界面活性剤としては、アルキルエーテル型、アルキルフェノール型、アルキルエステル型、ソルビタンエステル型、ソルビタンエステルエーテル型などで、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち好ましくは、アルキルエーテル型である。
なお、ノニオン界面活性剤の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜100重量部、好ましくは1〜30重量部である。
【0025】
そして、水溶性高分子としては、例えば、セルロース系誘導体(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルエーテルなどで、これらの1種または2種以上の混合物が使用できる。これらのうち好ましくは、セルロース系誘導体である。
なお、水溶性高分子の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜30重量部、好ましくは0.01〜20重量部である。
【0026】
さらに、カチオン界面活性剤としては、起泡性を阻害しないもの、例えば、モノアルキルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、EO付加アンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。これらのうち好ましくは、モノアルキルアンモニウムクロライドである。
なお、カチオン界面活性剤の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜100重量部、好ましくは1〜30重量部である。
【0027】
また、両性界面活性剤としては、起泡性を阻害しないもので、例えば、アラニン型、イミダゾリニウムベタイン型、アミノプロピルベタイン型、アミノジプロピオン型などが挙げられる。これらのうち好ましくは、イミダゾリニウムベタイン型である。
なお、両性系界面活性剤の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜100重量部、好ましくは1〜30重量部である。
【0028】
そして、減水剤としては、起泡性を阻害しないもので、例えば、ポリカルボン酸系、リグニン系、スルファミン系、ナフタレンスルホン酸系、アルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。これらのうち好ましくは、ポリカルボン酸系である。
なお、減水剤の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。
【0029】
さらに、分散剤としては、起泡性を阻害しないもので、例えば、ナフタレンスルホン酸系、アルキルナフタレンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、ポリスチレンスルホン酸系、アルキルアミン型、アルキルフェノール型などが挙げられる。これらのうち好ましくは、ポリカルボン酸系である。
なお、分散剤の添加量は、脂肪酸石鹸100重量部に対して通常0〜100重量部、好ましくは1〜50重量部である。
【0030】
また、本発明の起泡剤を希釈する水は、水道水、地下水、雨水、海水などを使用することができる。
【0031】
そして、本発明の起泡剤を気泡掘削に使用するに際には、起泡剤をあらかじめ水溶液の形で泡立たせておき、この気泡を掘削面に送り掘削土と混合して使用する方法、または発泡装置を用いて発泡させた気泡を、連続的に掘削面に送り掘削土と混合して使用する方法などを採用することができる。
【0032】
また、起泡剤をあらかじめ水溶液の形で泡立たせる方法、および発泡装置を用いて気泡を作製する方法のいずれにおいても、気泡を掘削面に送り掘削土と混合して使用する場合には、起泡剤の起泡効果を阻害させない範囲により必要に応じて、従来から慣用されている各種混和剤を併用することも可能である。これらの混和剤としては、公知の水溶性高分子(メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなど)、増粘剤(キサンタンガム、グアーガム、アルギン酸ナトリウムなど)、粘土鉱物(ベントナイトなど)、高吸水性樹脂などを挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を挙げることにより、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
表1に示す起泡剤を用いて発泡試験と再発泡試験を行い、[実施例1]、[実施例2]、[比較例1]とした。
【0035】
[実施例1]では、脂肪酸カリウム石鹸(商品名「HGR−30K」、ミヨシ油脂(株)製)を使用し、[実施例2]では、脂肪酸カリウム石鹸95重量%とアルファオレフィンスルホン酸ナトリウム(商品名「リポランLB−440」、ライオン(株)製)5重量%を混合したものを使用し、[比較例1]では、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムを主成分とした商品名「OK−1」(第一化成産業(株)製)を使用した。
なお、OK−1は、気泡シールド工法で地山掘削用に使用されている起泡剤である。
【0036】
【表1】

【0037】
[発泡試験]
各起泡剤をそれぞれ濃度が0.3容量%および0.6容量%となるように水で調整した希釈水溶液を、下記の発泡条件で発泡させて最高発泡倍率を測定した。
発泡条件 希釈液吐出量:10L/分
空気圧力 : 0.4MPa
水温・気温 :20±2℃
【0038】
上記発泡は、豆碍子入り発泡装置を用いて行い、空気流量をバルブで調整して、気泡を1リットル容器に採りその重量(g)を測定し、次式により発泡倍率を算出した。結果を表2に示す。
発泡倍率(倍)=1000/気泡の質量(g)
なお、発泡倍率が大きいほど、起泡剤の気泡力が優れているといえる。
【0039】
【表2】

【0040】
表2から掘削用の起泡剤は、地山の硬度や水分などで発泡倍率を調整して使用するので、本発明の起泡剤の濃度を調整することで、発泡倍率は調整可能なことが確認できた。
【0041】
[再発泡試験]
地山を掘削機で掘削後、セメント水を吹き付ける。この掘削した泥土水とセメント水、洗浄水の混合したもののpH調整や水の分離処理を行う。この泥土水等の水路には段差があるので、界面活性能力を有した起泡剤が残存した場合は気泡が発生する。また、pH調整では炭酸ガスをバブリングさせるので、水路の段差と同様に界面活性能力を有した起泡剤が残存した場合は気泡が発生する。
【0042】
このような場合を想定し、再発泡試験を行った。
100mLのシリンダーに、[実施例1][実施例2][比較例1]の起泡剤、0.6容量%希釈水溶液で発泡させた後の水溶液20mLと水40mL、セメント(普通ポルトランドセメント:太平洋セメント(株)製)0.5gを加え、シリンダーの上部を密閉し10回上下に振り、静置2秒後、10秒後の気泡量を測定し、結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
[比較例1]の起泡剤と比較するまでもなく、本発明の起泡剤は再発泡がないことが確認された。
【0045】
上記実施例によって本発明の起泡剤は、地山掘削用として起泡力があり、排水処理工程における再発泡性がないことが優れている。
したがって、本発明の起泡剤を使用することにより、地山の掘削を良好に行うことができるとともに、排水処理を簡便に行うことができる。
【0046】
なお、上記実施の形態において、本発明の気泡掘削用起泡剤を掘削または穿孔に使用する場合のみ説明したが、これに限定されるものでなく、例えば、シールド工法に使用しても対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
地山などの掘削または穿孔する際に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸石鹸を主成分とすることを特徴とする気泡掘削用起泡剤。
【請求項2】
上記脂肪酸石鹸は、脂肪酸カリウム石鹸であることを特徴とする請求項1に記載の気泡掘削用起泡剤。