説明

気温分布測定方法および気温分布測定システム

【課題】 より局地的な電力需要予測に供すべく、地域毎の詳細な気温分布測定を簡易にかつ低コストで行えるようにする。
【解決手段】 架空配電線に併設された光ファイバケーブル2中の未使用の光ファイバ3に温度分布測定装置4を取り付け、該温度分布測定装置4からパルス状の光を光ファイバ3の端部に照射し、当該光ファイバ3に入射したパルス状の光が伝搬するに際して発生し当該光ファイバ3を逆方向に伝搬するラマン散乱光を温度分布測定装置4によって受信し、該受信した光の光強度の時間変化に基づいて光ファイバ3の温度分布を測定し、この温度分布の測定結果に基づいて光ファイバケーブル2の周辺の気温分布を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気温分布測定方法および気温分布測定システムに関する。さらに詳述すると、本発明は、現状よりもさらに局地的な地域における詳細な気温分布情報を得るための新たな気温分布測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
気温の変動により事業収入および事業価値等が変動する事業体においては、気温の詳細なデータを分析し、気温の変動により生ずる事業価値の変動や損失を低減することが望まれている。例えば冷暖房用の電力消費量が気温の影響を受けて大きく変動することからすれば、電力会社はこのような事業体の代表的な一例といえる。実際、電力会社は、大量の電力を貯蔵して任意の時間に任意の量を低損失で取り出すことが困難であるために、その瞬間瞬間に発生する電力需要に応じて発電量を制御している。そこで、発電設備への投資効果および稼働率を向上させるために電力需要を正確に予測することが不可欠となっている。
【0003】
また、最近では電力自由化によって小規模な電力会社が各地域に数多く設立されるようになるといわれており、その地域毎の詳細な気温分布データが求められるものと考えられる。特に電力自由化市場における先物取引・現物取引では、より局地的な電力需要予測が必要となっており、このためにも詳細な気温分布測定が重要である。加えて、気象予報等に関しても民間企業がその地域毎にデータを提供できるようになっており、今後はますます地域毎の詳細な気温分布測定が重要になると考えられる。
【0004】
ここで、気温を簡易に測定できる機器としては、従来、温度によるアルコールや水銀の膨張・収縮を利用した気温計が存在する。しかし、測定データを電子化するために人間が読み取ったり複雑な装置が別途必要だったりと、実際には使い勝手は悪い。一方で白金の抵抗値が温度によって変化することを利用した気温計は精度が高く、また測定結果が電気的であるためデータの電子化が容易で、一般に広く使われているのが現状である。
【0005】
また、あらゆる物体からはその温度に対応した赤外線が放射されており、これを赤外線センサで捉えてその物体の表面温度を測定する放射温度計がある。放射温度計では測定したい物体に非接触で温度を測定できるため、人工衛星に搭載し、宇宙から地球を観測する技術であるリモートセンシングにより得られたマルチスペクトル画像から地域の気温分布を示すサーモグラフィックを求め、地域毎の気温を得る方法等が存在する(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2005−31927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このように地域毎の詳細な気温分布測定がますます重要になってくる状況の下では、上記のような従来の気温測定方法では詳細で精度の高い情報が得がたいという問題がある。すなわち、気温計で気温を測定する方法では測定位置における気温しか得られないため、ある程度の広がりを持つ面的な気温分布を得るには多くの位置で測定しなければならず、測定データの伝達手段も複雑にならざるを得ない。この点、気象庁の測候所は数km から数10km 間隔で設置されているために、都市部の詳細な気温分布などのデータを得るには適していない。また、人工衛星などを使った方法においては製造・打ち上げコストが大きく、容易に行えるものではない。
【0008】
そこで、本発明は、より局地的な電力需要予測に供すべく、地域毎の詳細な気温分布測定を簡易にかつ低コストで行うことができるようにした気温分布測定方法および気温分布測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明者は種々の検討を行った。気温分布測定を簡易かつ低コストで行うことが主眼であるから、既存の設備を何らかの形で有効的に利用することができないか考えてみた。この点、対象となる都市部等においては、地域毎に配電線や上下水道といったいわば生活インフラが既存設備として設置されている。本発明者はこれら既存設備のうち、気温分布測定に利用しうるものとして、架空配電線に併設されている光ファイバケーブルに着目した。光ファイバは主に情報通信サービス用として利用されている次世代の情報通信インフラであり、都市部や近郊地域などをカバーするように設置され、あるいは整備されつつある。このようなインフラを利用することができれば簡易にかつ低コストで詳細な気温分布測定が行えると考えた。
【0010】
より具体的には以下のとおりである。すなわち、現在、インターネットサービスなどのために都市部等では配電柱を利用して光ファイバケーブルが架設ないしは敷設されている。この光ファイバケーブル内には将来の需要を見越して多条の光ファイバが収納されており、ダークファイバと呼ばれる未使用であるもの、あるいは不使用であるもの(以下、単に未使用と表現する)も多い。当然、未使用の間における光ファイバ(ダークファイバ)は他の用途に活用されていないはずだから、これらを利用することは設備の有効活用に繋がると考えられた。また、光ファイバを利用して測定を行うにあたっては、光の性質、具体的には、光がファイバ中を伝搬する際にラマン散乱光が発生するという性質を利用することによって温度分布情報が得られると考えられた。
【0011】
本発明はかかる考えに基づくもので、請求項1に記載の気温分布測定方法は、架空配電線に併設された光ファイバケーブル中の未使用の光ファイバに温度分布測定装置を取り付け、該温度分布測定装置からパルス状の光を光ファイバの端部に照射し、当該光ファイバに入射したパルス状の光が伝搬するに際して発生し当該光ファイバを逆方向に伝搬するラマン散乱光を温度分布測定装置によって受信し、該受信した光の光強度の時間変化に基づいて光ファイバの温度分布を測定し、この温度分布の測定結果に基づいて光ファイバケーブルの周辺の気温分布を測定するというものである。
【0012】
本発明のように光ファイバを利用した測定法においては、以下のような温度測定を実施することが可能となる。すなわち、ラマン散乱光の時間的な強度変化に基づけば、当該光ファイバの温度分布を測定することが可能である。したがって、ラマン散乱光を利用した光ファイバの温度分布測定手法を用いて光ファイバの長さ方向の温度分布を得、これを気温分布に換算すれば、広範囲にわたった地域の気温分布を容易に得ることが可能となる。しかも、ラマン散乱光を利用した光ファイバの温度分布測定は通常数10秒から数分で行えるため、この間に大きな気温変動はないと考えれば、温度分布測定結果は測定時の気温分布を反映していると考えることができる。なお、実際問題として、光ファイバ自体の温度とその周辺における実際の気温との間に差が生じることも考えられるが、これについては別途参照用の気温計を用意するなどし、参照結果と比較することによって対処することが可能である。
【0013】
この場合、請求項2のように、波長合分波器により光ファイバが途中で2以上のルートに分岐している場合においては、温度分布測定装置として波長可変のものを用い、特定の波長でパルス状の光を照射し、2以上のルートのうちの特定のルートに対して当該パルス状の光を送り込み、この特定ルートを構成する光ファイバの温度分布を測定することが好ましい。特定の波長で照射されたパルス状の光は、波長合分波器において当該波長に対応したルートへと送り込まれる。この特定ルートをパルス状の光が伝搬する際、当該光ファイバを逆方向に伝搬するラマン散乱光が発生する。このラマン散乱光を温度分布測定装置で受信することによって特定ルートを構成する光ファイバの温度分布を測定することができる。
【0014】
また、請求項3のように、温度分布測定装置の直後に光スイッチを配置し、それぞれ異なる地域に向けて設置されている複数の光ファイバの中から任意の光ファイバを選択し、当該光ファイバにパルス状の光が伝搬するように光スイッチを切り替え、当該光ファイバの温度分布を測定することも好ましい。例えば、複数の光ファイバが集約された通信サービスの集線局や制御局がある場合に、各光ファイバ毎に温度分布測定装置を用意するのではなく、1台の測定装置の直後に光スイッチを配置することとすれば、少ない測定装置でより広範囲の気温分布測定を行うことが可能となる。
【0015】
また、請求項4のように、温度分布測定装置の直後に配置された光スイッチによって複数の光ファイバがそれぞれ異なる地域に向けて設置され、さらに波長合分波器によってこれら複数の光ファイバが途中で2以上のルートに分岐している場合において、複数の光ファイバの中から任意の光ファイバを選択し、当該光ファイバにパルス状の光が伝搬するように光スイッチを切り替えるとともに、温度分布測定装置として波長可変のものを用い、特定の波長でパルス状の光を照射し、選択された当該光ファイバの途中で分岐する2以上のルートのうちの特定のルートに対して当該パルス状の光を送り込み、選択された光ファイバおよび特定ルートを構成する光ファイバの温度分布を測定することも好ましい。
【0016】
例えば通信サービスの集線局や制御局に複数の光ファイバが集約されているような場合に、光スイッチを切り替えることによって複数の光ファイバから任意の1本の光ファイバを選択し、尚かつ、測定装置から光ファイバに入射されるパルス状の光の波長を制御することで、光スイッチによって選択された光ファイバの途中で分岐している複数ルートの中から特定のルートを選択し、気温分布測定を行うことが可能となる。
【0017】
さらには、請求項1から4までの気温分布測定方法においては、請求項5のように、光ファイバの温度とその周辺における気温との温度差に関するデータを蓄積したデータベース中の当該データを参照し、温度分布測定装置による測定結果を補正して光ファイバケーブルの周辺の気温分布を得ることが好ましい。例えば、上述したような参照用の気温計などから参照用のデータを算出することもできるが、このような参照データを蓄積したデータベースを利用することとすれば、光ファイバの温度とケーブル周辺の実際の温度とのずれをより正確かつ簡便に補正することが可能となる。
【0018】
請求項6に記載の発明である気温分布測定システムは、架空配電線に併設された光ファイバのうちの未使用分の光ファイバと、該光ファイバの端部にパルス状の光を照射して入射させるとともに、当該光ファイバに入射したパルス状の光が伝搬するに際して発生し当該光ファイバを逆方向に伝搬するラマン散乱光を受光し、該受信した光の光強度の時間変化に基づいて光ファイバの温度分布を測定する温度分布測定装置とから構成され、光ファイバの温度分布の測定結果に基づいて光ファイバケーブルの周辺の気温分布を測定することを特徴とするものである。
【0019】
本測定システムによれば、以下のような温度測定を実施することが可能となる。すなわち、ラマン散乱光を利用した光ファイバの温度分布測定手法を用いて光ファイバの長さ方向の温度分布を得、これを気温分布に換算し、広範囲にわたった地域の気温分布を得ることができる。しかも、ラマン散乱光を利用した光ファイバの温度分布測定は通常数10秒から数分で行えるため、この間に大きな気温変動はないと考えれば、測定時の気温分布を反映した温度分布測定結果が得られる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の気温分布測定方法によれば、本来は情報通信用に設置された光ファイバケーブル中の光ファイバの未使用分を利用することにより、当該光ファイバケーブル周辺における気温分布を測定するいわば光ファイバセンシングを実施することができる。また、このような測定を測定対象地域に張り巡らされた多くの光ファイバ網に対して行うことで地域全体における詳細な気温分布測定を行うことが可能となる。したがって、この気温分布測定方法によれば、地域毎の詳細な気温分布測定を簡易にかつ低コストで行うことが可能となり、気温分布測定結果を局地的な電力需要予測に供することができるようになる。
【0021】
また、請求項2記載の気温分布測定方法によると、温度分布測定装置によってパルス状の光の波長を制御することにより、特定の波長でパルス状の光を照射することができる。したがって、光ファイバがその途中で波長合分波器によって分岐している場合に、パルス状の光の波長を制御することにより、複数の光ファイバルートから選択された特定のルートに対して当該パルス状の光を送り込み、特定ルートにおける光ファイバの温度分布およびその周辺の気温分布を測定することができる。
【0022】
請求項3記載の気温分布測定方法によると、光スイッチを切り替えることにより、選択した任意の光ファイバにパルス状の光を入射させ、伝搬させることができる。これによれば、複数の光ファイバが設置されている場合に、少数の温度分布測定装置で広範囲の気温分布測定を効率的に行うことが可能となる。
【0023】
請求項4記載の気温分布測定方法によると、請求項2の発明のようにパルス状の光の波長を制御して特定の波長でパルス状の光を照射することができ、さらに、請求項3の発明のように任意の光ファイバに対してパルス状の光を入射させて伝搬させることができる。したがって、集線局や制御局に複数の光ファイバが集約され、さらにこれら光ファイバが途中で分岐しているような場合にも、特定のルートを選択して当該ルートを構成する光ファイバにパルス状の光を送り込むことができる。このため、少数の温度分布測定装置でより広範囲の気温分布測定を効率的に行うことが可能となる。
【0024】
また、データベース中のデータを参照して気温分布を得る請求項5の気温分布測定方法によると、光ファイバの温度とケーブル周辺の実際の温度(気温)とのずれをより正確かつ簡便に補正することが可能となる。これによれば、地域毎のより正確な気温分布測定を行ってその結果を局地的な電力需要予測に供することができるようになる。
【0025】
請求項6の気温分布測定システムによれば、本来は情報通信用に設置された光ファイバケーブル中の光ファイバの未使用分を利用することにより、当該光ファイバケーブル周辺における気温分布を測定するいわば光ファイバセンシングを実施することができる。また、このような測定を測定対象地域に張り巡らされた多くの光ファイバ網に対して行うことで地域全体における詳細な気温分布測定を行うことが可能となる。したがって、この気温分布測定システムによれば、地域毎の詳細な気温分布測定を簡易にかつ低コストで行うことが可能となり、気温分布測定結果を局地的な電力需要予測に供することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1〜図8に本発明の実施形態を示す。本発明にかかる気温分布測定システム1は、架空配電線(図示省略)に併設された光ファイバ3のうちの未使用分の光ファイバ3と、光ファイバ3の温度分布を測定する温度分布測定装置4とから構成され、光ファイバ3の温度分布の測定結果に基づいて光ファイバケーブル2の周辺の気温分布を測定するシステムである。
【0028】
ここで、本実施形態において対象とする光ファイバケーブル2は、配電柱7に沿って架設された架空配電線に併設され、情報通信サービス用に利用されているものである。この光ファイバケーブル2は多条の光ファイバ3によって構成されているが、これらのうち、未使用の光ファイバ3が本実施形態での利用対象となる。光ファイバケーブル2は架空配電線と同じように配電柱7によって支持されている(図1参照)。
【0029】
温度分布測定装置4は、上述の光ファイバ3の端部にパルス状の光(以下、パルス光ともいう)を照射して入射させるとともに、当該光ファイバ3に入射したパルス光が伝搬するに際して発生し当該光ファイバ3を逆方向に伝搬するラマン散乱光を受光し、該受信した光の光強度の時間変化に基づいて光ファイバ3の温度分布を測定するという装置である。図面中には表していないが、例えば、この温度分布測定装置4は、光ファイバ3に入射させるためのパルス光を発生させるパルス光発生器と、光ファイバ3を逆方向に伝搬して戻ってくるラマン散乱光の時間的な強度変化を測定する光強度測定器とで構成されている。図1等に示すように、本実施形態の温度分布測定装置4は集線局8内に設置されている。温度分布測定に利用される未使用の光ファイバ3はその端部が温度分布測定装置4に接続されている(図1等参照)。
【0030】
この温度分布測定装置4はラマン散乱光を利用して温度分布測定を行うものであり(図2参照)、装置自体からはパルス状の光が照射され、光ファイバ3へと入射される。パルス状の光は光ファイバ3中を減衰しながら伝搬していくが、その速さc [m/s] はパルス光の周波数ν [Hz] と波長λ [m]、および光ファイバ3の屈折率n を用いてc = νλ/n で表される。したがって時間t = 0 で光ファイバ3に入射されたパルス光は、t = t' [s] の瞬間に入射端から距離l = ct' [m] の位置に到達している。
【0031】
ここで、光ファイバ3の端部から強いパルス状の光が入射すると、いくつかの散乱現象によって後方散乱光と呼ばれる入射端に向かって戻ってくる光が発生する。図3に示すように、特に入射パルスと等しい波長で戻ってくる散乱光をレイリー散乱光、10GHz ほど異なる周波数(1.55μm 帯では波長に換算して80pm 程度)で戻ってくる散乱光をブリルアン散乱光、さらに離れた波長で戻ってくる光をラマン散乱光という。ラマン散乱光には入射パルスよりも短い波長で戻ってくる反ストークス光と、長い波長で戻ってくるストークス光があり、これら2成分の強度比が光ファイバ3の温度の関数になる(この点に関しては例えば特開平8−159882号公報等参照)。
【0032】
上記の温度分布測定装置4からのパルス光が光ファイバ3に入射すると、当該パルス光は徐々に減衰しながら光ファイバ3中を伝搬する。また、伝搬するに従ってその瞬間瞬間でパルス光の位置する光ファイバ周辺の温度に対応したラマン散乱光が発生し、入射端へ戻ってくる。そこで、入射端でラマン散乱光の上記2成分(反ストークス光とストークス光)の強度を測定すると、図4に示すように、はじめのうちは強くそこから徐々に弱くなる波形が観測される。2成分の強度比から光ファイバ3の温度が求められるが、時間と位置の関係については、パルス光がt = t' [s] にある瞬間に発生するラマン散乱光はt = 2t' [s] で入射端に戻ってくるため、位置をz [m] としてz = ct'/2 で求められる。このようにして、光ファイバ3の温度分布測定装置4からの距離と温度が関係づけられる。なお、本実施形態に示したような温度分布測定方法による場合の温度の測定精度は±1℃程度である。また、距離分解能と測定可能距離については、緒条件にもよるが、それぞれ最高で1m と30km ほどであり、商業地や住宅地等の人口密集地における気温分布測定には十分な性能を持っている。
【0033】
次に、途中で分岐した光ファイバ3における気温分布を測定する場合について説明する(図5、図6参照)。光ファイバケーブル網の中で光ファイバ3が分岐する場合、分岐点において波長合分波器5が用いられている場合がある(図5参照)。この場合の波長合分波器5は、例えば配電柱7に設置される等している(図6参照)。そして、このように波長合分波器5によって光ファイバ3が2以上のルートに分岐している場合、光ファイバ3を伝搬する光の波長に応じて波長合分波器5の分岐口が異なってくる。このような場合、本実施形態では、温度分布測定装置4として波長可変のものを用い、特定の波長でパルス状の光を照射することとしている。具体的に説明すると、例えば図5に示すように波長合分波器5に左側から入射された光は、その波長(ここではλ1とλ2)の違いによって出力される先(分岐口)が異なってくる。また、これとは逆に波長合分波器5の右側からλ1 およびλ2 の光が異なる分岐口から入射すると、共に波長合分波器5の左側の同一光ファイバ3へ出射される。したがって、特定のルート(例えば図6中の上側のルート)について温度分布測定を行うのであれば、当該ルートに対応した波長(この場合であればλ1)のパルス光を照射するようにすればよい。このように、温度分布測定装置4にて発生するパルス光の波長を適宜変更することによって異なるルートの気温分布測定が実施できることになる。これによれば、1台の温度分布測定装置4でより広範囲の気温分布測定が行えるようになる。
【0034】
続いて、光スイッチ6を用いて異なる光ファイバ3に対する気温分布測定を行う場合について説明する(図7参照)。集線局8に複数の光ファイバ3が集約されている場合があるが、このような場合、各光ファイバ3毎に温度分布測定装置4を用意するのではなく、1台の測定装置4が発するパルス光を適宜振り分けるようにすれば便宜である。そこで本実施形態においては、図7に示すように温度分布測定装置4の直後(より具体的には、当該温度分布測定装置4と光ファイバ3の端部との間)に光スイッチ6を配置し、温度分布測定装置4で発生するパルス光の出射先を光ファイバ3間で切り替えることができるようにしている。こうした場合、それぞれ異なる地域に向けて設置されている複数の光ファイバ3の中から任意の光ファイバ3を選択し、当該光ファイバ3にパルス状の光が伝搬するように光スイッチ6を切り替えれば、1台の温度分布測定装置4によって複数の光ファイバ3にパルス光を送り込むことが可能となる。
【0035】
さらに、光ファイバケーブル網の形態に応じて上記した2つの測定技術を組み合わせることとしてもよい。以下では、波長合分波器5と光スイッチ6とを併用して気温分布測定を行う場合について説明する(図8参照)。すなわち、集線局8に複数の光ファイバ3が集約され、尚かつこれら光ファイバ3の全部または一部が途中で分岐しているような場合、本実施形態では波長合分波器5と光スイッチ6の両方を併用することとしている。こうした場合、温度分布測定装置4で発生するパルス光の出射先を光スイッチ6を使って光ファイバ3間で切り替えることができる。また、パルス光の波長を制御することで、途中で分岐している光ファイバ3の複数のルートのうちの特定のルートに対してパルス光を送り込むことができる。これによれば、1台の温度分布測定装置4でさらに広範囲の気温分布測定を行うことが可能となる。
【0036】
以上説明した本実施形態の気温分布測定システム1によれば、光ファイバ3に入射したパルス状の光の伝搬に際して生じるラマン散乱光の時間的な強度変化から当該光ファイバ3の温度分布を測定することができる。そして、このようにして得られた既設の光ファイバ3に沿った温度分布の測定結果を実際の気温に換算することにより、長距離の気温分布測定結果を簡易に得ることができる。しかも、網の目状に架設された光ファイバケーブル網を利用することにより、平面状に広がるいわば面的な気温分布情報が得られるという利点もある。また、本実施形態で説明した気温分布測定を各地に向けて架設された多くの光ファイバ3に対して行うこととすれば広範囲の気温分布データを得ることもできる。
【0037】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、既存設備を利用するという観点から、架空配電線に併設されている光ファイバケーブル2を利用して温度分布測定を行う場合について説明したがこれに限られるというわけではなく、もちろん、架空配電線とは別に単独で架設された光ファイバケーブル2を利用することも可能である。要は、地域毎に設置された光ファイバケーブル網を利用することとすれば、当該地域における局地的で詳細な気温分布情報を簡易にかつ低コストで得ることが可能になるという点が特徴的である。
【0038】
また、本実施形態では架空配電線に併設された光ファイバケーブル2中の未使用(ないしは不使用)の光ファイバ3を対象として温度分布測定を行う場合について説明したがこれも好ましい形態の一例に過ぎない。例えば、複数の波長が混在する信号から特定波長の信号(対象信号)のみを抽出することができれば、情報通信サービスに現に使用されている光ファイバ3であっても、これにパルス状の光を照射した後の混在信号からラマン散乱光を抽出して温度分布を測定することが可能になると考えられる。このような手段としては、例えば、本実施形態にて説明した温度分布測定装置4または光スイッチ6の直後に別途波長合分波器5を設置して通信用装置と多重し、温度分布測定用には通信用波長と別波長を用いることによって、情報通信サービスに現に使用されている光ファイバ3を温度分布測定に併用すること等が挙げられる。
【0039】
さらに付け加えると、本実施形態においては光ファイバケーブル2中の未使用の光ファイバ3を対象とした場合について説明したが、断り書きしたように、本明細書でいう「未使用」は不使用を含むものとして便宜的に使用した表現に過ぎず、一度でも使用された光ファイバ3は対象から除かれるといったような意味ではない。要は、本発明は多条の光ファイバ3のうち実際に使われていないものを利用するという点に一つの特徴を有しており、この観点からすれば利用対象となる光ファイバ3は未使用のみならず不使用のものであっても全く問題がない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明にかかる気温分布測定システムの構成の概略を示す図である。
【図2】ラマン散乱光を利用して温度分布測定を行う際の原理を説明するための図で、装置から照射されたパルス光と伝搬して減衰したパルス光とを表したものである。
【図3】強いパルス状の光が光ファイバに入射した際、散乱現象によって発生する複数の後方散乱光について示す図である。
【図4】温度分布測定装置において観測されるラマン散乱光の時間的な強度変化を示すグラフである。
【図5】途中で分岐した光ファイバにおける気温分布を測定する場合の測定手法の概念を示す図である。
【図6】途中で分岐した光ファイバにおける気温分布を測定する場合の気温分布測定システムの概略構成を示す図である。
【図7】光スイッチを用いて異なる光ファイバに対する気温分布測定を行う場合の測定手法の概略を示す図である。
【図8】光スイッチを用いて異なる光ファイバに対する気温分布測定を行う場合の気温分布測定システムの概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 気温分布測定システム
2 光ファイバケーブル
3 光ファイバ
4 温度分布測定装置
5 波長合分波器
6 光スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空配電線に併設された光ファイバケーブル中の未使用の光ファイバに温度分布測定装置を取り付け、該温度分布測定装置からパルス状の光を前記光ファイバの端部に照射し、当該光ファイバに入射した前記パルス状の光が伝搬するに際して発生し当該光ファイバを逆方向に伝搬するラマン散乱光を前記温度分布測定装置によって受信し、該受信した光の光強度の時間変化に基づいて前記光ファイバの温度分布を測定し、この温度分布の測定結果に基づいて前記光ファイバケーブルの周辺の気温分布を測定することを特徴とする気温分布測定方法。
【請求項2】
波長合分波器により前記光ファイバが途中で2以上のルートに分岐している場合において、前記温度分布測定装置として波長可変のものを用い、特定の波長で前記パルス状の光を照射し、前記2以上のルートのうちの特定のルートに対して当該パルス状の光を送り込み、この特定ルートを構成する光ファイバの温度分布を測定することを特徴とする請求項1に記載の気温分布測定方法。
【請求項3】
前記温度分布測定装置の直後に光スイッチを配置し、それぞれ異なる地域に向けて設置されている複数の前記光ファイバの中から任意の光ファイバを選択し、当該光ファイバに前記パルス状の光が伝搬するように前記光スイッチを切り替え、当該光ファイバの温度分布を測定することを特徴とする請求項1に記載の気温分布測定方法。
【請求項4】
前記温度分布測定装置の直後に配置された光スイッチによって複数の前記光ファイバがそれぞれ異なる地域に向けて設置され、さらに波長合分波器によってこれら複数の光ファイバが途中で2以上のルートに分岐している場合において、複数の前記光ファイバの中から任意の光ファイバを選択し、当該光ファイバに前記パルス状の光が伝搬するように前記光スイッチを切り替えるとともに、前記温度分布測定装置として波長可変のものを用い、特定の波長で前記パルス状の光を照射し、選択された当該光ファイバの途中で分岐する前記2以上のルートのうちの特定のルートに対して当該パルス状の光を送り込み、前記選択された光ファイバおよび前記特定ルートを構成する光ファイバの温度分布を測定することを特徴とする請求項1に記載の気温分布測定方法。
【請求項5】
前記光ファイバの温度とその周辺における気温との温度差に関するデータを蓄積したデータベース中の当該データを参照し、前記温度分布測定装置による測定結果を補正して前記光ファイバケーブルの周辺の気温分布を得ることを特徴とする請求項1から4のいずれかひとつに記載の気温分布測定方法。
【請求項6】
架空配電線に併設された光ファイバのうちの未使用分の光ファイバと、該光ファイバの端部にパルス状の光を照射して入射させるとともに、当該光ファイバに入射した前記パルス状の光が伝搬するに際して発生し当該光ファイバを逆方向に伝搬するラマン散乱光を受光し、該受信した光の光強度の時間変化に基づいて前記光ファイバの温度分布を測定する温度分布測定装置とから構成され、前記光ファイバの温度分布の測定結果に基づいて前記光ファイバケーブルの周辺の気温分布を測定することを特徴とする気温分布測定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−292566(P2006−292566A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114419(P2005−114419)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】