説明

気相中での芳香族ジイソシアネートの製造方法

【課題】芳香族ジイソシアネートを、気相中において相当する第一級芳香族ジアミンをホスゲンと反応させることによって製造する。
【解決手段】ホスゲンと第一級芳香族ジアミンを0.05〜15秒の平均滞留時間内に反応させる。用いる芳香族ジアミンは、第一級アミノ基1モルあたり全部で0.05モル%未満の、ケト基を含有しない脂肪族アミンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスゲンと第一級芳香族ジアミンを0.05〜15秒の平均滞留時間内に反応させ、用いる第一級芳香族ジアミンが第一級アミノ基1モルあたり0.05モル%未満の脂肪族アミン基を含有し、存在する任意の脂肪族アミン中にケト基が存在しない、気相中において対応する第一級芳香族ジアミンをホスゲンと反応させることによる第一級芳香族ジイソシアネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアミンをホスゲンと気相中で反応させることによってジイソシアネートを製造するための種々の方法、特に脂肪族ジアミンの気相中でのホスゲン化は、既に、先行技術において詳細に記載されている。
【0003】
欧州特許第0289840号には、一般式HN−R−NHの相当するジアミンの気相中でのホスゲン化による、一般式OCN−R−NCO(式中、Rは15個までの炭素原子を有する(シクロ)脂肪族炭化水素基を表す)で示されるジイソシアネートの製造方法が開示されている。該開示方法においては、必要に応じて不活性ガスによってまたは不活性溶媒の蒸気によって希釈された蒸気相中におけるジアミンとホスゲンを、温度200℃〜600℃に別々に加熱し、および反応器/反応帯域中において乱流を維持する間、200℃〜600℃に加熱されたいかなる可動部をも有さない円筒形状反応器/反応帯域中において連続的に反応させる。該反応器/反応帯域を出たガス状混合物は、ジアミンに相当する塩化カルバミルの分解温度を超える温度で維持された不活性溶媒を通過する。不活性溶媒中に溶解したジイソシアネートは蒸留的後処理が施される。
【0004】
欧州特許第0289840号に記載の方法は、その適用の範囲に対してもならびに装置に対してもさらなる刊行物においてたびたび変更が加えられている。欧州特許第0749958号には、200℃〜600℃での管状反応器中での気相中における3個の第一級アミノ基を有する(シクロ)脂肪族トリアミンの反応が開示されている。欧州特許第1078918号には、2個の第一級アミノ基を互いに対して1,2−または1,3−位に有する(シクロ)脂肪族ジアミンの気相ホスゲン化への欧州特許第0289840号の基本原理の適用が開示されている。欧州特許第1275639号および同第1275640号には、反応器/反応帯域に供給される反応物質の改良された混合のための特別な反応器構造が開示されている。
【0005】
芳香族ジアミンとホスゲンを気相中で反応させて、相当するジイソシアネートを形成することも該文献に記載されている。
【0006】
欧州特許第0593334号には、管状反応器を用いる、気相中での芳香族ジイソシアネートの製造方法が開示されている。欧州特許第0593334号においては、撹拌を伴わない遊離体の混合が壁の絞り部によって達成されている。該反応は250℃〜500℃の範囲の温度において実施されている。しかしながら、該方法は、環状壁の絞り部のみによる遊離体流の混合が混合装置の使用に比べて悪い結果をもたらすので問題を有する。不十分な混合は通常、望ましくない多量の固体の生成を引き起こす。
【0007】
欧州特許出願公開第0699657号には、第一の均質化用帯域と、本質的にはピストン流である第二の下流帯域を含んでなる、混合反応器中における気相中での芳香族ジイソシアネートの製造方法が開示されている。それでもなお、該方法においては、混合用および反応用の設備を閉塞させ、および収率を低下させる固体の生成に起因して問題が生じる。
【0008】
芳香族ジアミンの工業規模の気相中でのホスゲン化を可能とするために、特に芳香族ジアミンとホスゲンの気相中での反応において、固体の生成を最小化する多くの試みがなされてきた。
【0009】
欧州特許第0570799号には、適切なジアミンとホスゲンの反応を、ジアミンの沸点より高い温度で、平均滞留時間0.5〜5秒以内に管状反応器中において実施する芳香族ジイソシアネートの製造方法が開示されている。欧州特許第0570799号の教示に従えば、反応帯域における流れの均質化は、望ましくない固体の生成を最小化するために、および反応器/反応帯域中での成分の逆混合を防止するために必要である。欧州特許第0570799号に記載されている方法においては、平均滞留時間からの平均偏差は6%未満である。該滞留時間の持続は、反応が4000を越えるレイノルズ数または100を越えるボーデンシュタイン数のいずれかを特徴とする管状流れ中において実施される場合に達成される。
【0010】
流れ条件を平均化するための手段はまた、欧州特許第1362847号の主題である。欧州特許第1362847号には、環状反応器中における反応条件が改良されている気相中での芳香族ジイソシアネートの製造方法が開示されている。該方法においては、流れに関した手段、例えば遊離体流の平均化および中央化などは、時間に対する温度変動および温度分布における非対称性を回避するために用いられる。欧州特許第1362847号が反応器中での固化および閉塞の原因であり、従って反応器の実用寿命を低下させると教示しているのは、温度変更および温度分布における非対称性である。
【0011】
欧州特許出願公開第1449826号には、芳香族ジアミンとホスゲンの気相中での反応において、ジイソシアネートを形成するホスゲンとジアミンとの反応がその後の相当するウレアオリゴマーを形成するジアミンとジイソシアネートとの反応と競合することが教示されている。環状反応器中での渦効果に起因する逆流を同時に防止するホスゲンとジアミン遊離体の改良された混合は、ジイソシアネート生成の選択性を増加させることおよびウレアの生成を減少させることに教示されている。このように、欧州特許出願公開第1449826号の教示に従えば、管状反応器中での縮合生成物の量は減少され得る。反応器壁上への縮合生成物の堆積物は、自由環状断面を減少させ、反応器中の圧力を漸次的に増加させ、該方法の寿命を最終的に決定する。同様に、欧州特許出願公開第1526129号、独国特許出願公開第10359627号および国際公開第2007/028751号には、遊離体の混合を改良するための装置型解決が開示されている。角運動量を発生させる流体技術的手段は、欧州特許出願公開第1526129号に教示されている。一価アミンを供給する同心円状に配置された環状ノズルは独国特許出願公開第10359627号に開示され、供給される多価アミンの使用は国際公開第2007/028751号に開示されている。環状反応器の軸に平行に配置された多価アミンノズルは欧州特許出願公開第1449826号に教示されている。
【0012】
国際公開第2003/045900号は、気相ホスゲン化による工業規模のイソシアネートの製造における温度の調節および制御の問題に包括的に取り組んでいる。国際公開第2003/045900号に開示されているように、円筒形状反応帯域を用いる既知の気相ホスゲン化のための方法においては、技術的実現のための2つの可能性を利用し得る。第一の選択肢は単一の環状部分において該反応を実施することであり、その直径はプラントの生産能力と適合させる必要がある。国際公開第2003/045900号によれば、該構想は、正確な反応流の温度制御が該流れの芯において管の壁の加熱/冷却によってはもはや実現できないので非常に大規模な生産プラントにとって不利である。局所的な温度不均一は、温度が高すぎる場合には生成物の分解を引き起こし、その一方で、温度が低すぎる場合には所望のイソシアネートを形成する遊離体の不適当な変換を引き起こすことがある。第二の選択肢は、反応混合物を個々の部分流に分け、次いでより小さい個々の管を並行して通過させることであり、その温度はそのより小さい直径に起因してより良好に制御され得るが、国際公開第2003/045900号によって不利であると見なされている。国際公開第2003/045900号によれば、該方法変形の欠点は、体積流量がそれぞれの個々の管によって調節されなければ比較的閉塞しやすいことである。国際公開第2003/045900号の教示によれば、概説された欠点は、非円筒形状の反応流路、好ましくは、反応物質の温度制御を可能とする高さを好ましく有し、および該高さの少なくとも2倍の幅を有するプレート反応器中での気相中でのアミンの連続的ホスゲン化によって、有利に、例えば生産プラントの長いまたは操業中での時間に対して、回避し得る。国際公開第2003/045900号が更に開示しているように、反応流路の高さは一般に制限されず、該反応は例えば40cmの高さを有する反応流路中で実施し得る。しかしながら、該反応器壁とのより良好な熱交換がなされるべきである。従って、国際公開第2003/045900号には、該反応を低い高さの反応流路において実施すべきであることが教示されている。
【0013】
国際公開第2007/028715号には、アミンが、特定の要件が充足される場合に気相ホスゲン化において相当するイソシアネートに変換され得ることが教示されている。いかなる顕著な分解をも伴わずに気相に変換され得るアミンが特に適当である。国際公開第2007/028715号の教示に従えば、適当なアミンは、反応の継続する間、反応条件下に2モル以下、より好ましくは1モル以下、もっとも好ましくは0.5モル以下の量まで分解するものである。
【0014】
欧州特許出願公開第1754698号には、アンモニアを形成する気相ホスゲン化において用いるアミンの部分分解が、反応中に考慮されるだけでなく、アミンの気化の際にも考慮されなければならないことが教示されている。気化中のアミンの部分分解によって形成したアンモニアは、収率を低下させるだけでなく、引き続くホスゲン化において、接続配管および装置における下流に塩化アンモニウムの堆積物を形成する。その結果、該プラントは比較的頻繁に清掃されなければならず、相当する生産損失が生じる。
【0015】
芳香族アミンとホスゲンの気相中での反応を最適化し、およびそれによる芳香族ジアミンとホスゲンの気相中での反応において観測され得る固体の生成を最小化する試みにも拘わらず、芳香族ジアミンの気相ホスゲン化を改良して、芳香族ジアミンの工業規模の気相中でのホスゲン化を可能とする必要が依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許第0289840号明細書
【特許文献2】欧州特許第0749958号明細書
【特許文献3】欧州特許第1078918号明細書
【特許文献4】欧州特許第1275639号明細書
【特許文献5】欧州特許第1275640号明細書
【特許文献6】欧州特許第0593334号明細書
【特許文献7】欧州特許第0699657号明細書
【特許文献8】欧州特許第0570799号明細書
【特許文献9】欧州特許第1362847号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第1449826号明細書
【特許文献11】欧州特許出願公開第1526129号明細書
【特許文献12】独国特許出願公開第10359627号明細書
【特許文献13】国際公開第2007/028751号パンフレット
【特許文献14】国際公開第2003/045900号パンフレット
【特許文献15】国際公開第2007/028715号パンフレット
【特許文献16】欧州特許出願公開第1754698号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、特に高い時空収率および妨害固体の低い発生および関連した固化、堆積および閉塞に関して、技術的に有利な変換を確実とする気相中でのホスゲン化によって、相当する芳香族ジアミンから芳香族ジイソシアネートを製造するための簡単で経済的な方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、該目的は、(1)0.05〜15秒の流体力学的平均滞留時間内にホスゲンと第一級芳香族ジアミンを反応させること、および(2)第一級アミノ基1モルあたり全部で0.05モル%未満の脂肪族アミンを含有する第一級芳香族ジアミンを用いること、および(3)存在し得る任意の脂肪族アミン中にケト基を確実に存在させないことによって達成された。気相ホスゲン化での固体堆積物の生成に大きな役割を果たすと考えられているものは、ケト基を含有しない脂肪族アミンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、相当する第一級芳香族ジアミンとホスゲンを気相中で反応させることによる第一級芳香族ジイソシアネートの製造方法であって、
a)ホスゲンと第一級芳香族ジアミンを0.05〜15秒の平均滞留時間内に反応させ、および
b)用いる第一級芳香族ジアミンは、第一級アミノ基1モルあたり全部で0.05モル%未満、好ましくは0.04モル%未満、もっとも好ましくは0.001モル%未満〜0.035モル%の脂肪族アミンを含有し、および存在する任意の脂肪族アミン中にケト基が存在しない、
製造方法を提供する。
【0020】
ケト基を含有しない脂肪族アミンとして、それがケト基を含有しない限り、必要に応じて置換されるかまたは単不飽和もしくは多不飽和であってよい、直鎖および分枝状の脂肪族アミンならびに脂環式アミンが挙げられる。典型的な置換基は、例えばニトロ置換基、ニトロソ置換基または塩素置換基である。
【0021】
ケト基を含有しない脂肪族アミンとして、それがケト基を含有しない限り、必要に応じて置換されるかまたは単不飽和もしくは多不飽和であり得る、多核のまたは架橋した脂環式アミンが挙げられる。多核のまたは架橋した脂環式アミンは、直接結合していてよく、または1以上のヘテロ原子によって、特に1以上の窒素原子によって架橋していてよい。
【0022】
用語「第一級アミノ基のモル」とは、第一級芳香族アミン由来およびケト基を含有しない脂肪族アミン由来のアミノ基の合計を意味する。
【0023】
本発明に必要な所望の気相ホスゲン化において反応させるべき芳香族ジアミン中におけるケト基を含有しない低含有量の脂肪族アミンは、脂肪族および芳香族の第一級アミノ基の同時のホスゲン化が先行技術において教示されているだけになおさら意外である。(例えば独国特許出願第2249459号、独国特許出願第19828510号を参照されたい)。該文献は、気相ホスゲン化において用いるアミンの安定性について、脱アミノ化下でのその分解に関連して論じているが、芳香族および(シクロ)脂肪族の第一級アミノ基をいずれも同時に使用することによって形成したイソシアネートの必要な相対的安定性についての情報は特定の気化および反応の条件からは誘導され得ない。特に、先行技術からは、ケト基を含有しない脂肪族アミンが問題であることを示すいかなる指摘も得られない。
【0024】
本発明の方法は、原則として、反応条件下に安定性であると先行技術において知られている全ての芳香族ジアミン(例えば、ナフタレンジアミン(NDA)、特に1,5−NDAおよび1,8−NDA;ジフェニルメタン系列のジアミン、特に2,2′−MDA、2,4′−MDAおよび4,4’−MDA;ならびにトルエンジアミン(TDA)、特に2,4−TDAおよび2,6−TDA)の気相ホスゲン化に適当であり、気相中においてホスゲンと共に異性体混合物としてのトルエンジアミンを用いて、相当するトルエンジイソシアネートを形成することは好適である。本発明の方法においては、特に好ましくは2,4−/2,6−トルエンジアミン混合物、最も好ましくは80/20および65/35の異性体比での2,4−/2,6−トルエンジアミン混合物を用いることは特に好適である。
【0025】
トルエンジアミンとホスゲンの気相中での反応における本発明による方法の好適な使用は、工業規模のトルエンジアミンの製造がジニトロトルエンの接触水素化によって特に実施される場合に限り特に重要である。用いる異性体ジニトロトルエンの混合物は、混合酸法による硝酸でのトルエンの硝化によって主に得られる(Ullmann’s Enzyklopedie der technischen Chemie、第4版、第7巻、第391頁以下、1979年、Verlag Chemie ワインハイム/ニューヨーク)。水素化においては、所望のニトロ基の減少とは別に、核水素化ならびに脂肪族もしくは脂環式のまたは多核のもしくは架橋した第一級アミン基を含有する副生成物を形成するさらなる第二の反応も生じる。
【0026】
本発明による方法は、好ましくは以下の工程a)〜d)の1以上を含み、最も好ましくは工程a)〜d)の全てを含む:
a)必要に応じて不活性ガスによってまたは不活性溶媒の蒸気によって希釈された蒸気状態の芳香族ジアミンとホスゲンを、別々に200℃〜600℃の温度に加熱し、連続的に混合して反応混合物を得る工程、
b)工程a)において形成した反応混合物を、逆混合を避けながら反応器/反応帯域へ連続的に通過させ、そこで平均滞留時間0.05〜15秒内に反応させ、それによってガス混合物を形成する工程、
c)反応器/反応帯域を出た該ガス混合物を冷却して、形成した芳香族ジイソシアネートを、反応させた芳香族ジアミンに相当する塩化カルバミルの分解温度より高く維持される温度にて凝縮する工程、および
d)凝縮されていない芳香族ジイソシアネートを、洗浄液で洗浄することによってガス混合物から分離する工程。
【0027】
工程b)において、反応混合物の流れ方向において一定または増大する流れ断面積を有する回転対称形状を好ましく有する反応器/反応帯域を好ましく用いる。反応混合物の流れ方向において実質的に一定または増大する流れ断面積を有する管状反応器を反応器/反応帯域として好ましく用いる。さらなる好適な実施態様において、該反応器/反応帯域、好ましくは管状反応器は、流れ方向において一定および増大する横断面面積部を有する。
【0028】
回転対称形状および流れ方向における流れ断面積のカスケード様のおよび/または連続的な変化を有する、本発明の方法において用いるための反応/反応帯域の構造は、反応器/反応帯域の軸に沿った流速を調節できる利点を有する。流れ方向における一定の流れ断面積は、ホスゲン化の間に容量が増大するため、流れの加速をもたらす。反応器の長さに対する反応混合物の流速は、流れ方向における流れ断面積の適当に選択された拡大によって一定に保持され得る。
【0029】
好ましくは、工程b)における反応器/反応帯域は、工程a)に従って調製され、加熱された成分で、ジェットミキサー原理に従って充填される。ジェットミキサー原理(Chemie−Ing.−Techn、44(1972年)、第1055頁、図10)においては、二つの遊離体流のAおよびBを回転対称反応空間に供給し、遊離体流Aを中央ノズルによって供給し、遊離体流Bを中央ノズルと反応器壁との間の環状スペースによって供給する。遊離体流Aの流速は遊離体流Bの流速に比べて早い。結果として、回転対称反応空間において反応物質の混合が生じ、次いでその反応が生じる。該成分の混合は、流体技術的手段、例えば欧州特許第1362847号および欧州特許出願公開第1526129号に記載されているものなどによって改良され得る。基本原理の変更、例えば一価アミンを供給する同心円状に配置された環状ノズル(独国特許出願公開第10359627号)または管状反応器の軸に平行に配置された複数のアミンノズル(欧州特許出願公開第1449826号)を用いてもよい。一価または多価アミンを反応空間に供給する同心円状に配置された環状ノズルによって該成分を供給することも、国際出願第2007/028751号の教示に従って同様に可能である。特に、混合を改良するためにこれらによって教示された上記の適用および手段ならびに該目的に必要な特性値は本発明に引用される。
【0030】
該芳香族出発アミンは通常、本発明による方法の実施前に気化される。該アミン出発物質は、200℃〜600℃、好ましくは225℃〜500℃、最も好ましくは250℃〜450℃の温度に加熱され、次いで(必要に応じて不活性ガス、例えばN、He、Arなどで、または不活性溶媒、例えば、必要に応じてハロゲン置換基を有する芳香族炭化水素など、例えばクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼンの蒸気によって希釈され)反応器/反応帯域に供給される。
【0031】
芳香族出発アミンの気化は、任意の既知の蒸発装置中において実施してよい。好ましくは、少量の作業容量が高い循環速度で流下膜式蒸発器を通過して供給される蒸発系を用いる。これに関して、該蒸発工程は、出発アミンの熱応力を最小化するために、必要に応じて不活性ガスおよび/または不活性溶剤の蒸気を供給することによって好ましく補助される。しかしながら、欧州特許出願公開第1754689号に開示されているようなマイクロ熱交換器の使用も可能である。蒸気状態の芳香族ジアミンは、依然として、気化されていない芳香族ジアミンの液滴(エアロゾル)の量を含有してもよい。しかしながら、好ましくは、蒸気状態での芳香族ジアミンは気化されていない芳香族ジアミンの液滴を実質的に含有せず、すなわち芳香族ジアミンの全質量を基準として、多くとも0.5質量%の芳香族ジアミン、より好ましくは多くとも0.05質量%の芳香族ジアミンは気化されていない液滴の形態で存在し、残りの芳香族ジアミンは蒸気状態で存在する。もっとも好ましくは、蒸気状態の芳香族ジアミンは気化されていない芳香族ジアミンの液滴を含有しない。気化後、場合により不活性ガスによってまたは不活性溶媒蒸気によって希釈された、蒸気状態での芳香族ジアミンは、後加熱器を用いることによって好ましく所望の作業温度にする。
【0032】
出発アミンの気化と過熱は、蒸気アミン流に気化されていない液滴が入るのを避けるために、数段階において好ましく実施される。液滴分離器が気化系と過熱系との間に組み込まれ、および/または気化装置が液滴分離器としても働く、多段階の気化工程が特に好ましい。適当な液滴分離器は、例えば「Droplet Separation」、A.Burkholz著、VCH Verlagsgesellschaft、ワインハイム−ニューヨーク−バーゼル−ケンブリッジ、1989年に記載されている。低い圧力損失を生じさせる液滴分離器は特に好適である。最も好ましくは、気化された芳香族ジアミンは、液滴分離器としても作用する後加熱器によって所望の作用温度に加熱される。好ましくは、該後加熱器は、該分離器が連続的に空になることを確実とするために液体排出系を有する。反応器の実用寿命は、実質的に液滴を含まない蒸気出発アミン流を、それが反応器に入る前に生成させることによって顕著に増加する。
【0033】
本発明の方法においては、アミノ基に対して過剰のホスゲンを用いることが有利である。1.1:1〜20:1、好ましくは1.2:1〜5:1のホスゲンとアミノ基とのモル比を通常用いる。また、ホスゲンは200℃〜600℃の温度に好ましく加熱され、必要に応じて不活性ガス(例えばN、He、Ar)によってまたは不活性溶剤(例えば、ハロゲン置換されていないまたはハロゲン置換されている芳香族炭化水素、例えばクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼンなど)の蒸気によって希釈され、反応器/反応帯域に供給される。反応器/反応帯域に供給されるホスゲンは塩素または一酸化炭素によって希釈されてもよい。
【0034】
本発明の方法の好適な実施態様において、別々に過熱された反応物質を少なくとも1つの反応帯域に導入し、混合し、および適当な反応時間を考慮して断熱反応条件下に反応させる。次いで、イソシアネートを、ガス流を冷却することによって凝縮する。該冷却は、相当する塩化カルバミル(例えば、TDAの場合にはトルエンジアミン酸塩化物)の分解温度より高い温度に下がるまで実施される。
【0035】
芳香族アミノ基とホスゲンを反応させてイソシアネートを形成するための必要な滞留時間は、0.05秒および15秒の間、好ましくは0.1秒および10秒の間である。適当な滞留時間は、用いる芳香族ジアミンの型、出発反応温度、反応器/反応帯域における断熱温度上昇、用いる芳香族ジアミンおよびアミノ基とホスゲンとのモル比、反応器/反応帯域における圧力、および不活性ガスによる反応物質の任意の希釈に依存する。
【0036】
特定の系(出発反応温度、断熱温度上昇、反応物質のモル比、希釈ガス、用いる芳香族ジアミン、反応器/反応帯域における圧力)について、完全な反応のための最低の滞留時間を、20%未満、好ましくは10%未満上回る場合には、その結果、二次反応生成物、例えば形成した芳香族ジイソシアネート由来のイソシアヌレートおよびカルボジイミドなどを大幅に回避し得る。
【0037】
本発明の方法の実際的実施においては、平均滞留時間(接触時間)からの逸脱は、反応物質を混合するために必要な時間に起因して生じ得る。反応物が未だ均質に混合されていない場合には、反応物同士の接触または完全な接触が未だ生じていない、依然として未混合のまたは部分混合されたガス容量が反応器中に存在する。従って、反応物質の混合は、0.01〜0.3秒の時間内に、少なくとも10−1の分離度まで好ましく行われるべきである。該分離度は混合の不完全さの尺度である(例えばChem.−Ing.−Techn.44、(1972年)、第1051頁以下;Appl.Sci.Res.(The Hague)A3(1953年)、第279頁を参照されたい)。
【0038】
短い混合時間を実施するための方法は原則的に既知である。好適な混合装置の例は、上記のような、移動型もしくは静的な混合装置またはノズルを有する混合設備または混合帯域である。欧州特許出願公開第1362847号、同第1526129号または同第1555258号に記載されているような静的ミキサーは好適である。
【0039】
反応物質の混合後、該反応混合物を反応器/反応帯域に流過させる。これに関して、混合帯域とそこに接続する反応帯域はいずれも、(a)イソシアヌレートまたはカルボジイミドのような二次反応を引き起こす熱応力をもたらし得る加熱表面、または(b)堆積物を引き起こす凝縮をもたらし得る冷却表面を含まない。該成分を断熱的に好ましく反応させる。次いで反応器中における断熱温度上昇を、もっぱら温度、組成および遊離体流の相対的に計量された量、ならびに反応器中における滞留時間によってのみ決定する。
【0040】
反応器/反応帯域を通過する流れは、好ましくは、約90%までの栓流の形態で行われるべきであり、従って流れの容量の全ての部分は、ほぼ同じ流れ時間を有し、その結果、反応物質間での滞留時間分布のさらなる拡大は最小限となる。理想的な栓流(平均滞留時間=0からの平均偏差を有する)の実現の程度は、流体技術においてボーデンシュタイン数Boによって説明されている(Fitzer、Techn.Chemie、Springer 1989年、第288〜295頁)。本発明の方法においては、ボーデンシュタイン数は、好ましくは少なくとも10、より好ましくは100を超え、もっとも好ましくは250を超えるべきである。
【0041】
反応器/反応帯域でのホスゲン化反応の完了後、工程c)において反応器/反応帯域を連続的に出るガス混合物は、少なくとも芳香族ジイソシアネート、ホスゲンおよび塩化水素を好ましく含有し、好ましくは、形成した芳香族ジイソシアネートからほとんど開放される。このことは(例えば他の気相ホスゲン化について既に推奨されているように、不活性溶媒中における選択的凝縮によって(欧州特許出願公開第0749958号))一段階において行われる。
【0042】
しかしながら、該凝縮は、1以上の適当な液流(急冷液)を反応器/反応帯域を出るガス混合物中に噴霧することによって好ましく実施される。このように、ガス混合物の急速な冷却は、欧州特許出願公開第1403248号に記載されるように、冷えた表面を用いることなく実施され得る。しかしながら、選択される冷却の型とは無関係に、冷却帯域の温度は、(1)それが芳香族ジイソシアネートに相当する塩化カルバミルの分解温度を超え、および(2)芳香族ジイソシアネートと、場合によりアミン蒸気流および/またはホスゲン流において希釈剤として共用する溶媒とが溶媒中に凝縮または溶解するように好ましく選択され、その一方で、過剰のホスゲン、塩化水素および場合により希釈剤として共用する不活性ガスは凝縮段階または急冷段階を通過する。反応器/反応帯域を出るガス状混合物からの芳香族ジイソシアネートの選択的分離のために、80℃〜200℃、好ましくは80℃〜180℃の温度で維持された溶媒、例えばクロロベンゼンおよび/またはジクロロベンゼン、または芳香族ジイソシアネート、または芳香族ジイソシアネートとクロロベンゼンおよび/またはジクロロベンゼンとの混合物などは、特に適当である。
【0043】
本発明の方法に必要なガス状反応混合物の流れの生成は、大部分は、混合帯域から反応帯域を通じて出発するほとんど逆混合しない栓流として、一方で混合帯域への遊離体ラインと、他方で凝縮段階および急冷段階からの出口との間の圧力損失によって有利に保証される。一般に、絶対圧力は、混合帯域へのラインにおいては200〜3000ミリバールであって、凝縮段階および急冷段階の後方においては150〜2500ミリバールである。しかしながら、これに関する本質的な特徴は、単に、上記の方向付けされた流れを保証するための圧力差の保持だけである。
【0044】
工程d)において、凝縮段階または急冷段階を出るガス混合物を、適当な洗浄液、好ましくは不活性溶媒を用いて下流のガス洗浄において残留イソシアネートから開放する。適当な溶媒の例には、ハロゲン置換基を有するまたはハロゲン置換基を有さない芳香族炭化水素、例えばクロロベンゼンまたはo−ジクロロベンゼンなどが含まれる。次いで、本発明の特に好適な実施態様においては、必要に応じて遊離体を希釈するために、および急冷段階において用いる該溶媒は、当業者に既知の任意の方法で過剰のホスゲンから開放される。このことは、冷却トラップ、不活性溶媒(例えばクロロベンゼンまたはジクロロベンゼン)中における吸収、または活性炭上での吸着および加水分解によって達成され得る。好適には、該吸収は、過剰に用いるホスゲンが再使用のために再生されるように、得られるホスゲン溶液を好ましくは直接または適切な後処理後にホスゲン脱離装置に供給しながら不活性溶媒中において実施される。ホスゲン回収段階を通過した塩化水素ガスは、ホスゲン合成に必要な塩素を回収するために当業者に既知の任意の方法において再生され得る。ガス洗浄に使用した後に工程d)において生じる洗浄液は、管状反応器を出るガス混合物を冷却するための急冷液として工程c)において好ましく用いられる。
【0045】
次いで、芳香族ジイソシアネートの精製は、凝縮段階および急冷段階から得られた溶液および混合物の蒸留的後処理によって好ましく実施される。
【0046】
上記のように本発明を説明したが、以下の実施例はその例示として与えられる。該実施例中に与えられる全ての部および百分率は、特記のない限り、重量部または重量百分率である。
【実施例】
【0047】
実施例1
ガス状の2,4−および2,6−トルエンジアミンとホスゲンから製造された混合物をノズル中において混合することによって、そのそれぞれを別々に300℃より高く加熱し、10秒未満の(および0.05秒を越える)滞留時間で回転対称管状反応器中において断熱的に反応させた。該ガス混合物を凝縮段階を通過させて、それによって約165℃のガス温度に冷却した。形成した凝縮物を蒸留シーケンスに供給し、純粋TDIを得た。非凝縮ガス混合物をその後の洗浄においてオルト−ジクロロベンゼン(「ODB」)で洗浄し、副生成物の塩化水素を過剰のホスゲンから吸収的に分離した。該洗浄液を凝縮段階において用いた。
【0048】
TDAラインにおける圧力と洗浄段階の入り口との間の圧力差は、該ラインからの方向付けされたガス流を達成するために、21ミリバールであった。
【0049】
用いるジアミン混合物を、第一級アミノ基1モルあたり全部で0.01モル%の、ケト基を含有しない脂肪族アミンを含有する2,4−および2,6−トルエンジアミンから構成した。
【0050】
300時間の作業時間後、圧力差は、28ミリバールであったため、工業測定装置の測定精度の限度内では変化しなかった。検査は固体の堆積が無いことを示した。
【0051】
実施例2
ガス状の2,4−および2,6−トルエンジアミンとホスゲンから製造された混合物をノズル中で混合することによって、そのそれぞれを別々に300℃より高く加熱し、10秒未満の(および0.05秒を越える)滞留時間で回転対称管状反応器中において断熱的に反応させた。次いで該ガス混合物を凝縮段階を通過させて、それによって約165℃のガス温度に冷却した。形成した凝縮物を蒸留シーケンスに供給し、純粋TDIを得た。非凝縮ガス混合物をその後の洗浄においてODBで洗浄し、副生成物の塩化水素を過剰のホスゲンから吸収的に分離した。該洗浄液を凝縮段階において用いた。
【0052】
TDAラインにおける圧力と凝縮段階の出口との間の圧力差は、該ラインからの方向付けされたガス流を達成するために、実験の開始時点で50ミリバールであった。
【0053】
用いる2,4−および2,6−トルエンジアミンから構成された混合物は、第一級アミノ基1モルあたり全部で0.07モル%の、ケト基を含有しない脂肪族アミンを含有した。
【0054】
30時間の作業時間後、ガス状TDAラインにおける圧力は著しく上昇し、TDAラインと凝縮段階の出口との間の圧力差は3177ミリバールであった。従って該反応を中断した。検査は非常に多量の固体の堆積を示した。
【0055】
例示の目的として本発明を上記に詳細に説明したが、そのような詳細は単なる例示目的であり、請求の範囲により限定され得ること除き、本発明の精神および範囲を逸脱せずに当業者によって変更され得ると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一級芳香族ジアミンとホスゲンを気相中で反応させることを含んでなる第一級芳香族ジイソシアネートの製造方法であって、
a)ホスゲンと第一級芳香族ジアミンを0.05〜15秒の平均滞留時間内に反応させ、および
b)第一級芳香族ジアミンは、第一級アミノ基1モルあたり全部で0.05モル%未満の、ケト基を含有しない脂肪族アミンを含有する、
前記方法。
【請求項2】
トルエンジアミンは第一級芳香族ジアミンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一級芳香族ジアミンを反応前に気化させ、および必要に応じて不活性ガスによってまたは不活性溶媒の蒸気によって希釈して、200℃〜600℃の温度に加熱し、および気化した芳香族ジアミンが気化していない芳香族ジアミンの液滴を実質的に含有しない、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(i)別々に200℃〜600℃の温度に加熱された、必要に応じて不活性ガスによってまたは不活性溶媒の蒸気によって希釈された蒸気状態の芳香族ジアミンとホスゲンを、連続的に混合して反応混合物を得る工程、
(ii)(i)において形成した反応混合物を、逆混合を避けながら反応帯域へ連続的に通過させ、ホスゲンと芳香族ジアミンを平均滞留時間0.05〜15秒内で反応させて、ガス混合物を得る工程、
(iii)反応帯域からのガス混合物を、相当する塩化カルバミルの分解温度より高い温度に冷却して芳香族ジイソシアネートを凝縮する工程、および
(iv)洗浄液で洗浄することによってガス混合物から凝縮されていない芳香族ジイソシアネートを分離する工程
をさらに含んでなる、請求項1また3に記載の方法。
【請求項5】
(ii)を断熱的に実施する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(i)において製造された反応混合物を、(ii)における反応混合物の流れ方向において一定または増大する流れ断面積を有する回転対称形状を有する反応帯域へ通過させる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
(i)において製造された反応混合物を、(ii)における反応混合物の流れ方向において一定または増大する流れ断面積を有する回転対称形状を有する反応帯域へ通過させる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
反応帯域を出るガス混合物は、芳香族ジイソシアネート、ホスゲンおよび塩化水素を含んでなり、および(iii)において該ガス混合物中に少なくとも1つの液体流を噴霧することによって該混合物を冷却する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
(iv)からの洗浄液の少なくとも一部を(iii)において冷却するために用いる、請求項8に記載の方法。

【公開番号】特開2009−126865(P2009−126865A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−297812(P2008−297812)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】