説明

気管挿管訓練装置

【課題】 気管挿管処置に対する様々な留意点を考慮して気管挿管手技の評価を行う。
【解決手段】 人体の上半身部分を模擬した外形を有するモデル14と、このモデル14に対して行われた気管挿管手技の評価を行う評価手段15とを備えて気管挿管訓練装置10が構成されている。モデル14は、生体の気道を模擬した模擬気道32,43と、当該模擬気道内に表出する模擬部位36,34、36、37、39,64に気管挿管器具12が接触した際の押圧力を測定可能な圧力センサ46,57,62,66と、模擬気道32,43の所定領域に気管挿管器具12が存在するか否かを検出可能な位置検出センサ69と、生体の食道を模擬した食道部44と、当該食道部44内に気管挿管器具12が存在するか否かを検出可能な位置検出センサ76とを備えている。評価手段15は、前記各センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管挿管訓練装置に係り、更に詳しくは、医師や救急救命士等により行われる気管挿管の手技を客観的に評価することができる気管挿管訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病気や事故等により意識障害や心肺停止が発生し、また、手術の際に全身麻酔を行うと、それら患者の下顎内の筋肉が弛緩して舌の付根(舌根)が沈下する。その結果、当該患者の口内から肺に至る空気の通路(気道)が一部閉塞してしまい、患者の肺内に空気が供給されなくなってしまう。このような気道閉塞状態では、医師や救急救命士が患者の口から気道内に気管挿管チューブを差し込み、当該気管挿管チューブにより、患者の肺内に強制的に空気を送り込む処置が行われる。この処置は、先ず、側面視ほぼL字状の形状をなす喉頭鏡と呼ばれる器具を用い、その先端側のブレードを口内に入れて沈下した舌根部分を起こして気道の閉塞部位を持ち上げ、喉頭鏡で口内の状態を確認しながら、口内から気道内に気管挿管チューブを差し込む。ここで、当該気管挿管チューブは、その最先端側に空気の吹出部が設けられたチューブ本体と、前記吹出部よりもやや後側となるチューブ本体の周囲に設けられたカフとを備えている。当該カフは、その内部に注入される空気量に応じて膨張及び収縮が可能となるバルーン状に設けられており、前記吹出部が気道中の適切な気管内位置に達したときに、外側からカフ内に空気が送り込まれて膨張し、当該カフを気管壁に接触させる。そして、この状態で、体外からの空気がチューブ本体内を通って吹出部から気管内に供給される。このとき、チューブ本体の周りにあるカフにより、当該チューブ本体の外側と気管壁との間に形成された隙間が閉塞される。その結果、カフよりも気管内奥側に位置する吹出部から肺方向に供給された空気が、肺の逆側となる体外方向に逆流することを防止でき、併せて、口内に流出した血液や食道からの胃液等の異物が肺内に入り込むことも防止できる。
【0003】
このような気管挿管処置の際には、一刻を争うことから、気管挿管チューブを瞬時且つ適正に気道に挿入しなければならず、そのためには、日頃からの訓練が不可欠となる。このような訓練には、特許文献1に開示されたマネキン状のモデル等の訓練用ツールが使用される。当該モデルは、気道を模した気道構造物と、食道を模した食道構造物を備えており、救急現場で二次確認用に使用される食道挿管検知器を併用しながら気管挿管訓練を行えるようになっている。つまり、このモデルは、気管挿管時に気管挿管チューブを誤って食道に挿入しないように訓練するためのものであって、このような食道への誤挿入を食道挿管検知器で検出可能な構造となっている。
【特許文献1】特開2005−227372号公報
【0004】
ところで、気管挿管時においては、特許文献1のモデルで訓練対象となる気管挿管チューブの食道内への誤挿入の防止の他にも、種々な留意点があり、これら留意点を考慮した訓練も必要となる。
【0005】
例えば、喉頭鏡を使って舌根を起こす際には、当該喉頭鏡の先端側のブレードを舌の適正部位に当てる必要があり、そこを支点として喉頭鏡を回転させることで、舌が上手く持ち上がる。ところが、初心者は、誤った部位を支点として喉頭鏡を回転してしまい、舌を上手く持ち上げらない場合があることから、喉頭鏡の回転支点となる正しい部位を正確に見つけ出して、当該部位にいち早くブレードを当てる訓練が必要になる。また、喉頭鏡で舌を持ち上げる際に、そのブレードが上顎前歯部分に接触して当該歯が折損する事故が発生する場合もあり、喉頭鏡の回転時に、ブレードで上顎前歯部分を押し付けないように訓練する必要もある。
【0006】
更に、気管挿管チューブの出し入れ時には、当該気管挿管チューブが声帯の中央に形成された隙間を通過することになるが、このとき、気管挿管チューブが声帯に接触することで当該声帯が傷付けられる場合がある。従って、気管挿管チューブを出し入れする際には、声帯との接触に十分注意しながら行わなければならない。
【0007】
また、気管挿管チューブの最先端側となる吹出部は、気管支よりも手前の気管内部分に配置される必要がある。つまり、吹出部が気管支から分岐した一方の気管内に達ってしまうと、片方の肺内しか空気が供給されない片肺状態を招来することになる。従って、気管支の手前となる気管内の適正部分に吹出部を確実に配置する訓練も必要となる。
【0008】
更に、カフ内に空気を注入する際に、当該カフの膨らみが少ないと、前述したような吹出部からの供給空気の逆流等が生じる。一方、カフの膨らみが多過ぎると、気管壁の粘膜が損傷し、細胞壊死が発生する虞がある。従って、カフを適正な圧力で膨らませる訓練も必要になる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献1のモデルにあっては、当該モデルを使って気管挿管訓練を行っても、以上の留意点を考慮した気管挿管訓練全体の客観的な評価を得ることができず、気管挿管チューブが食道に誤挿入されたか否かしか把握できない。しかも、当該食道の誤挿入の把握には、食道挿管検知器を併用しなければならず、当該食道挿管検知器を用いない気管挿管の訓練を行った場合に、その評価をすることができない。
【0010】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、医師や救急救命士等が気管挿管訓練を行った際に、気管挿管処置に対する様々な留意点を考慮した気管挿管手技の客観的な評価を行うことができる気管挿管訓練装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、生体の気道を模擬した模擬気道が形成されたモデルと、前記模擬気道に気管挿管器具を挿入した訓練者の気管挿管手技の評価を行う評価手段とを備え、
前記モデルは、前記模擬気道内に表出する生体の模擬部位と、当該模擬部位に前記気管挿管器具が接触した際の押圧力を測定可能な圧力センサとを備え、
前記評価手段は、前記圧力センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う、という構成を採っている。
【0012】
(2)また、本発明は、生体の気道を模擬した模擬気道が形成されたモデルと、前記模擬気道に気管挿管器具を挿入した訓練者の気管挿管手技の評価を行う評価手段とを備え、
前記モデルは、前記模擬気道の所定領域に前記気管挿管器具が存在するか否かを検出可能な気道内位置検出センサを備え、
前記評価手段は、前記気道内位置検出センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う、という構成を採っている。
【0013】
(3)更に、前記モデルは、生体の食道を模擬した模擬食道と、当該模擬食道内に前記気管挿管器具が存在するか否かを検出可能な食道内位置検出センサとを備え、
前記評価手段は、前記食道内位置検出センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う、という構成も併せて採用することができる。
【0014】
(4)また、前記モデルは、人手で動かすことができる模擬部位と、当該模擬部位の動作量を測定可能な動作量測定センサとを更に備え、
前記評価手段は、前記動作量測定センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行う、という構成にするとよい。
【0015】
(5)更に、前記評価手段は、前記各センサの測定値に基づく値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記気管挿管手技の評価値を算出する、という構成を採ることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、医師や救急救命士等が気管挿管訓練を行った際に、当該訓練に対する気管挿管手技の客観的な評価を行うことができ、しかも、気管挿管処置の際に、取り扱いに気を付けなければならない部位に各センサを適宜配置することで、気管挿管処置に対する留意点を考慮した気管挿管手技の評価を行うことができる。
【0017】
特に、前記(1)の構成によれば、気管挿管チューブや喉頭鏡等の気管挿管器具が接触する可能性のある体内部位に相当する模擬部位に圧力センサを配置することで、当該接触に関する留意点を考慮した気管挿管手技の客観的評価を行うことができる。ここでの留意点としては、例えば、喉頭鏡のブレードが舌根の適正位置に当てられているか、また、当該ブレードが上顎前歯部に接触していないか、更に、気管挿管チューブが声帯に当たっていないか、また、気管挿管チューブのカフにより気管壁に付与される圧力が適切か、等が挙げられる。
【0018】
また、前記(2)の構成によれば、気管挿管処置時に気管挿管器具を侵入させてはいけない気道部分に相当する模擬気道内の領域に気道内位置検出センサを設けることで、気管挿管器具の誤侵入に関する留意点を考慮した気管挿管手技の客観的評価を行うことができる。ここでの留意点としては、例えば、気管挿管チューブの最先端側が気管支部分に達していないか、等が挙げられる。
【0019】
更に、前記(3)の構成により、気管挿管処置時には、食道内に気管挿管器具を侵入させてはいけないが、このような気管挿管器具の食道への誤侵入を考慮した気管挿管手技の客観的評価を行うことができる。
【0020】
また、前記(4)の構成によれば、気管挿管処置時に、医師や救急救命士等が患者の頭部を適切な角度に傾けるとともに、下顎部を適切な角度で開口させること等が要求されるが、頭部や下顎部等の模擬部位の動作量を動作量測定センサで測定することで、このような気管挿管処置の準備作業の客観的評価も行うことができる。
【0021】
更に、前記(5)の構成により、気管挿管手技に関する評価を点数化することができ、気管挿管訓練の結果を分かり易く訓練者に伝えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1には、本実施形態に係る気管挿管訓練装置の概略構成図が示されている。この図において、気管挿管訓練装置10は、医師や救急救命士等の訓練者が気管挿管器具12を使って気管挿管訓練を行うための装置であって、その訓練の結果、気管挿管手技の評価を行えるようになっている。この気管挿管訓練装置10は、人体の上半身部分を模擬した外形を有し、気管挿管器具12を使った気管挿管訓練が行われるモデル14と、このモデル14に対して行われた気管挿管手技の評価を行う評価手段15とを備えて構成されている。
【0024】
ここで、前記気管挿管器具12としては、公知の気管挿管チューブ17及び喉頭鏡18がある。
【0025】
前記気管挿管チューブ17は、空気が通るチューブ本体20と、このチューブ本体20の最先端側に設けられた空気の吹出部21と、当該吹出部21よりもやや後側のチューブ本体20の周囲に設けられたカフ22とを備えている。当該カフ22は、その内部に外側から空気を注入できるようになっており、当該空気の注入量に応じて膨張及び収縮が可能なバルーン状に設けられている。また、本実施形態では、後述する圧力測定が可能となるように、カフ22の表面が遮光性の反射材23で覆われている。
【0026】
前記喉頭鏡18は、その先端側に側面視ほぼL字状のブレード25を備えている。
【0027】
前記モデル14は、人体の表面部分を模擬したカバー27と、このカバー27で周囲が被われ、気管挿管訓練に必要となる人体の部位が模擬された模擬体28とを備えている。
【0028】
前記模擬体28は、人体の口部から気管支までの気道構造と口内からの食道構造とが模擬された構造となっている。具体的に、この模擬体28は、図2に示されるように、人体の頭部に相当する頭部30と、この頭部30の図2中右上側に連なる下顎部31と、これら頭部30及び下顎部31の間に設けられるとともに、図2中上部が開放する空間の口内部32と、頭部30の図2中右側の上顎部33に固定された上顎前歯部34と、下顎部31の図2中左側に設けられ、口内部32に配置される舌部36と、この舌部36の付け根となる口内部32の奥側の舌根部37付近に設けられた喉頭蓋部39と、この喉頭蓋部39の図2中右隣に設けられた声帯部41と、声帯部41を介して口内部32に連なる気管部43と、この気管部43の図2中下側に配置されて口内部32に連なる模擬食道としての食道部44とを備えている。ここで、口内部32及び気管部43の内部空間は、人体の気道を模擬した模擬気道を構成する。また、上顎前歯部34、舌部36、舌根部37、喉頭蓋部39及び気管部43の管壁64は、前記模擬気道内に表出する人体の模擬部位を構成する。
【0029】
前記上顎前歯部34は、口内部32側の表面の複数箇所に、前記評価手段15(図1参照)に繋がる圧力センサ46が取り付けられている。この圧力センサ46は、図3に示されるように、上顎前歯部34に固定されたベース48と、このベース48上に固定された公知のフォトインタラプタ50と、このフォトインタラプタ50の周囲を覆う弾性部材51と、この弾性部材51の外面を覆う反射材52とを備えて構成されている。
【0030】
前記フォトインタラプタ50は、発光ダイオード等の発光素子54と、フォトトランジスタ等の受光素子55とを備えている。
【0031】
前記弾性部材51は、ゲル状部材により形成されているが、これに限定されるものではなく、外部からの押圧力によって変形可能な弾性を備え、且つ、透光性材料により形成された部材であれば何でも良い。
【0032】
前記反射材52は、所定の遮光性を備えており、具体的に、フォトインタラプタ50の発光素子54から照射された光が圧力センサ46の外側に漏れるのを防き、且つ、圧力センサ46の外側から光が弾性部材51に入り込むのを防ぐようになっている。
【0033】
以上により、圧力センサ46は、発光素子54から照射された光が、弾性部材51内を通って反射材52で反射されて受光素子55で検出されるようになっている。ここで、圧力センサ46の表面に外力が加わると、その外力の大きさに応じて弾性部材51が変形し、フォトインタラプタ50から反射材52までの距離が変わる。すると、受光素子55で検出される光量が変わり、受光素子55から出力される電流値が変化することになる。つまり、弾性部材51にかかる圧力が大きい程、フォトインタラプタ50が反射材52に近づき、受光素子55で検出される光量が増えて、当該受光素子55から出力される電流値が増える。このように、圧力センサ46は、外力の付与による弾性部材51の変形に応じて受光素子55の電流値が変化し、当該電流の変化に伴う電圧を測定することで、弾性部材51に加わった圧力を把握可能となる。
【0034】
前記舌部36は、人間の舌に近い弾性を有する素材により、当該舌に近い形状に形成されている。
【0035】
前記舌根部37及び喉頭蓋部39には、図2に示されるように、それらの複数箇所に、上顎前歯部34に設けられた圧力センサ46と実質的に同一となる構造の圧力センサ57が取り付けられている。ここでの圧力センサ57も、図1の評価手段15に繋がっている。
【0036】
前記声帯部41は、図4に示されるように、管部59と、この管部59の図4(A)中左右両側に配置された一対の模擬声帯60,60と、各模擬声帯60,60の図4(B)中上下両面にそれぞれ設けられるとともに、図1の評価手段15に繋がる圧力センサ62とを備えて構成されている。
【0037】
前記管部59は、口内部32及び気管部43の各空間に連なる内部空間を有している。
【0038】
前記模擬声帯60,60は、薄板状に設けられて、管部59の内部空間の中央部分を除く部分を閉塞するように配置されている。
【0039】
前記圧力センサ62は、図3で説明した圧力センサ46と実質的に同一となる構造となっており、当該圧力センサ46と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いるものとし、説明を省略する。ここで、図4(B)中上下に位置する圧力センサ62,62は、何れか一方側の弾性部材51に押圧力が作用した場合、当該一方側の弾性部材51が変形するが、他方側の弾性部材51は薄板状の模擬声帯60で変形が阻止されるようになっている。従って、図4(B)中上下に位置する何れか一方の圧力センサ62に外力が作用すると、当該一方の圧力センサ62のみでその圧力が測定され、他方の圧力センサ62では、一方の圧力センサ62に付与された外力の影響が及ばないようになっている。
【0040】
前記気管部43は、図5に示されるように、管壁64と、声帯部41側となる同図中左側領域に設けられて図1の評価手段15に繋がる複数の圧力センサ66と、図示しない気管支側となる同図中右側領域に設けられて評価手段15に繋がる複数の気道内位置検出センサ69とを備えている。
【0041】
前記圧力センサ66は、図5及び図6に示されるように、周方向ほぼ120度間隔で管壁64の内側に表出した状態で当該管壁64に埋設されており、軸線方向複数箇所に同様の配置で設けられている。これら圧力センサ66は、適正な気管挿管を行うために、気管挿管チューブ17のカフ22が位置しなければならない部位に設けられている。また、ここでの圧力センサ66は、上顎前歯部34に設けられた前述の圧力センサ46に対して、反射材52(図3参照)が設けられていない他は、ほぼ同一の構成となっており、前記圧力センサ46と同一若しくは同等の構成部分については同一符号を用いて説明を省略する。
【0042】
ここでは、訓練時に各圧力センサ66の内側で膨張するカフ22の表面に、前述した反射材23が設けられているため、圧力センサ66のフォトインタラプタ50の発光素子54からの光は、カフ22の表面の反射材23で反射されて、同じフォトインタラプタ50の受光素子55で検出される。従って、上顎前歯部34の圧力センサ46の場合と同様の原理で、カフ22の膨張によって反射材23と受光素子55との離間距離が変わることにより、各圧力センサ66が設けられた管壁64の部位に作用する圧力を測定可能となる。また、圧力センサ66は、管壁64の周方向180度間隔で設けられているため、カフ22から管壁64に付与される圧力が周方向に均一となっているか否かについても把握可能となる。
【0043】
前記気道内位置検出センサ69は、図5及び図7に示されるように、周方向ほぼ180度間隔で相対配置された一対のフォトインタラプタ71,71により構成されており、管壁64の軸線方向複数箇所に配置されている。ここで、気道内位置検出センサ69は、隣りのセンサ69に対して周方向にほぼ90度回転した姿勢で配置されている。前記各フォトインタラプタ71は、管壁64の内側に表出した状態で当該管壁64に埋設されており、前記フォトインタラプタ50と同様に、発光素子54及び受光素子55を備えている。
【0044】
各気道内位置検出センサ69を構成する一対のフォトインタラプタ71,71は、図7中の矢印に示されるように、一方のフォトインタラプタ71の発光素子54から照射された光を他方のフォトインタラプタ71内の受光素子55で検出するようになっており、フォトインタラプタ71,71の間に気管挿管チューブ17が位置すると、各フォトインタラプタ71,71間の光が遮断され、受光素子55による光の検出量が低下することになる。したがって、管壁69内の軸線方向複数箇所に設けられた気道内位置検出センサ69のうち、受光素子55による電圧低下が検出されているものを特定することで、気管挿管チューブ17の最先端側の吹出部21の管壁69内の位置が把握可能となる。これら気道内位置検出センサ69は、適正な気管挿管を行うために、吹出部21が位置すべき部位付近に設けられている。
【0045】
前記食道部44は、図2に示されるように、口内部32に繋がる内部空間を形成する管壁75と、当該管壁75内に設けられて図1の評価手段15に繋がる食道内位置検出センサ76とを備えている。
【0046】
前記食道内位置検出センサ76は、前記気道内位置検出センサ69と同様の構造のセンサであり、食道部44の入口寄りの管壁75の相対位置にフォトインタラプタ77が一対設けられた構成となっている。この食道内位置検出センサ76は、食道部44内に気管挿管チューブ17が誤挿入されたときに、気道内位置検出センサ69と同様の原理で、フォトインタラプタ77,77間の光が気管挿管チューブ17で遮られることにより、気管挿管チューブ17の食道部44内への侵入を検出するようになっている。
【0047】
前記評価手段15は、ソフトウェア及びハードウェアによって構成され、プロセッサ等、複数のプログラムモジュール及び処理回路等により成り立っている。この評価手段15は、前記各圧力センサ46,57,62,66及び各位置検出センサ69,76からの測定値に基づいて、予め記憶された評価関数の各パラメータX〜Xに数値を代入することで、気管挿管手技の評価値Zを算出するようになっている。
【0048】
ここでの評価関数は、次式で表される。
Z=AX+BX+CX+DX+EX+FX+GX+H
なお、A〜Hは、定数である。
【0049】
前記評価関数は、予め、複数の医師や救急救命士等の熟練者と複数の未経験者とそれぞれに対して、前記パラメータX〜Xに代入される各数値を取得し、公知の判別解析を用いて、評価値Zの平均が0となるように、各定数A〜Hが求められるようになっており、評価値Zが大きいほど、気管挿管手技が上手いと判断される。また、各定数A〜Hの一部若しくは全部について、意図的に重み付けを行って任意に設定することも可能である。
【0050】
前記評価手段15は、図1に示されるように、前記各圧力センサ46,57,62,66及び各位置検出センサ69,76による測定結果を得る測定部82と、訓練開始から終了までの所用時間を計時する計時部83と、測定部82及び計時部83のデータから予め定められた関数により前記パラメータX〜Xに代入する値を求めるデータ演算部85と、データ演算部85で求められた各値を前記評価関数のパラメータX〜Xに代入することで、前記評価値Zを算出する評価値算出部86と、求めた評価値Zを表示する表示部87とを備えて構成されている。
【0051】
前記データ演算部85では、評価関数の各パラメータX〜Xに代入される値が、各センサ46,57,62,66,69,76の測定値から所定の関数によって求められる。ここで、パラメータXは、上顎前歯部34(図2参照)の接触に関するパラメータであり、上顎前歯部34の圧力センサ46の測定値を使って求められる。パラメータXは、舌部36の接触に関するパラメータであり、舌根部37及び喉頭蓋部39の圧力センサ57の測定値を使って求められる。パラメータXは、声帯部41の接触に関するパラメータであり、声帯部41の圧力センサ62の測定値を使って求められる。パラメータXは、気管部43の管壁64の接触に関するパラメータであり、気管部43の圧力センサ66の測定値を使って求められる。パラメータXは、気管支侵入に関するパラメータであり、気道内位置検出センサ69の測定値に基づいて求められる。パラメータXは、食道侵入に関するパラメータであり、食道内位置検出センサ76の測定値に基づいて求められる。パラメータXは、処置時間に関するパラメータであり、計時部83で計時された時間がそのまま用いられる。
【0052】
各パラメータX〜Xに代入される値は、例えば、次のようにして求められる。パラメータX〜Xに代入する数値は、当該各パラメータX〜Xの対象となる圧力センサ46,57,62,66の測定値を加減した上で、所定のゲインを乗じて求められる。また、パラメータXに代入する数値は、気道内位置検出センサ69によって、予め設定された適正位置よりも奥側に気管挿管チューブ17が挿入されたのが検出された場合と、そうでない場合とで異なる定数が割り当てられるようになっている。更に、パラメータXに代入する数値は、食道内位置検出センサ76によって、食道部44内に気管挿管チューブ17が誤挿入されたのが検出された場合と、そうでない場合とで異なる定数が割り当てられるようになっている。
【0053】
前記評価値算出部86では、前記評価関数のパラメータX〜Xにデータ演算部85で求めた各値が代入されて、評価値Zが求められる。
【0054】
なお、ここでのパラメータX〜Xとしては、気管挿管手技の上手下手を左右する指標であれば、種類や数を問わずに何でも採用することができ、それに伴って、別途、前述した判別解析を使って評価関数を求め、当該評価関数を適用すれば良い。その他の指標としては、例えば、気管挿管処置時に、医師や救急救命士等が患者の頭部を適切な角度に傾け、また、下顎部を胸部側に引いて適度に開口させること等が要求されるが、それら部位を訓練者の手で動作可能として、当該動作に関するパラメータを設定してもよい。この際、頭部30に対して下顎部31を回転可能とし、当該下顎部31に図示しない動作量測定センサとしてのポテンショメータを取り付け、その検出角度に基づく新たなパラメータを設定することができる。また、頭部30に前記ポテンショメータを取り付け、その検出角度に基づく新たなパラメータを設定することができる。
【0055】
次に、気管挿管訓練装置10を使った気管挿管訓練及び評価の流れについて説明する。
【0056】
計時部83による計時を開始し、気管挿管訓練を開始する。ここで、先ず、訓練者によって、図1に示されている喉頭鏡18のブレード25が口内部32に差し込まれ、訓練者は、舌部36を持ち上げて、喉頭鏡18を使って喉頭蓋部39と声帯部41の存在を確認する。この際、圧力センサ46の測定値により、ブレード25が上顎前歯部34に当たっているか否かが評価されることになり、更に、圧力センサ57の測定値により、ブレード25の先端側が舌根部37の正しい位置に当てられているか否かも評価されることになる。
【0057】
この状態で、訓練者は、気管挿管チューブ17を口内部32から気管部43内に挿入する。この際、圧力センサ62の測定値により、気管挿管チューブ17が声帯部41に干渉しているか否かが評価されることになり、また、食道内位置検出センサ76の測定値により、気管挿管チューブ17が食道部44に誤挿入されていないかが評価されることになる。
【0058】
そして、訓練者は、気管挿管チューブ17を気管部43の更に奥側に挿入し、気管挿管チューブ17の吹出部21が気管支の手前の適正位置にあると自己判断したときに、気管挿管チューブ17の挿入を止める。この際、気道内位置検出センサ69の測定値により、気管挿管チューブ17が気管部43の適正位置で止められているかが評価されることになる。
【0059】
次いで、訓練者は、体外側からカフ22内に空気を注入し、カフ22を膨張させて気管部43の管壁64に接触させ、カフ22によってチューブ本体20の周りの隙間を閉塞する。この際、圧力センサ66の測定値により、カフ22が適正な圧力で管壁64に接触しているか否かが評価されることになる。
【0060】
最後に、訓練者は、気管挿管チューブ17を通じて模擬体28内に空気を送り込み、訓練を終了する。このとき、訓練開始から終了までの時間が計時され、気管挿管にかかった時間が評価されることになる。
【0061】
従って、このような実施形態によれば、気管挿管処置の留意点を考慮した総合的な気管挿管手技の評価が可能になる。
【0062】
なお、前記評価手段15では、前記実施形態で説明したように、評価関数を使った評価値Zを求める他、各センサ46,57,62,66,69,76の各測定値に基づいた他の手技評価をしてもよい。例えば、各センサ46,57,62,66,69,76の測定値に対し、予め設定した閾値を超えているか否かを判別することで、各センサ46,57,62,66,69,76に対応した手技の留意点別に、良し悪しを判定して、予め記憶したデータを基に評価、コメントするようにしてもよい。
【0063】
また、各センサ46,57,62,66,69,76は、前記実施形態で説明した構造のセンサに限定されるものではなく、同様の作用を奏する限りにおいて、他の構造のセンサに代替することもできる。
【0064】
更に、舌部36や喉頭蓋部39や声帯部41を動作させるアクチュエータを設け、これら各部36,39,41をそれぞれ症状に合わせて移動或いは動作可能な構造としてもよい。このようにすることで、よりリアルな状態で気管挿管訓練を行うことができる。
【0065】
また、前記モデル14は、人体を模擬したものであるが、他の動物の気道部位や食道部位を模擬して、本実施形態と同様の構成とすることで、本発明を動物の気管挿管訓練装置に適用することも可能である。
【0066】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本実施形態に係る気管挿管訓練装置の概略構成図。
【図2】模擬体の拡大断面図。
【図3】圧力センサの拡大縦断面図。
【図4】(A)は、声帯部付近の気道の断面図であり、(B)は、(A)のA−A線に沿う断面図である。
【図5】気管部の拡大断面図。
【図6】図5のA−A線に沿う断面図。
【図7】図5のB−B線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0068】
10 気管挿管訓練装置
12 気管挿管器具
14 モデル
15 評価手段
32 口内部(模擬気道)
34 上顎前歯部(模擬部位)
36 舌部(模擬部位)
37 舌根部(模擬部位)
39 喉頭蓋部(模擬部位)
41 声帯部(模擬部位)
43 気管部(模擬気道)
44 食道部(模擬食道)
46 圧力センサ
57 圧力センサ
64 管壁(模擬部位)
66 圧力センサ
69 気道内位置検出センサ
76 食道内位置検出センサ
Z 評価値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の気道を模擬した模擬気道が形成されたモデルと、前記模擬気道に気管挿管器具を挿入した訓練者の気管挿管手技の評価を行う評価手段とを備え、
前記モデルは、前記模擬気道内に表出する生体の模擬部位と、当該模擬部位に前記気管挿管器具が接触した際の押圧力を測定可能な圧力センサとを備え、
前記評価手段は、前記圧力センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行うことを特徴とする気管挿管訓練装置。
【請求項2】
生体の気道を模擬した模擬気道が形成されたモデルと、前記模擬気道に気管挿管器具を挿入した訓練者の気管挿管手技の評価を行う評価手段とを備え、
前記モデルは、前記模擬気道の所定領域に前記気管挿管器具が存在するか否かを検出可能な気道内位置検出センサを備え、
前記評価手段は、前記気道内位置検出センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行うことを特徴とする気管挿管訓練装置。
【請求項3】
前記モデルは、生体の食道を模擬した模擬食道と、当該模擬食道内に前記気管挿管器具が存在するか否かを検出可能な食道内位置検出センサとを備え、
前記評価手段は、前記食道内位置検出センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行うことを特徴とする請求項1又は2記載の気管挿管訓練装置。
【請求項4】
前記モデルは、人手で動かすことができる模擬部位と、当該模擬部位の動作量を測定可能な動作量測定センサとを更に備え、
前記評価手段は、前記動作量測定センサの測定値に応じて気管挿管手技の評価を行うことを特徴とする請求項1、2又は3記載の気管挿管訓練装置。
【請求項5】
前記評価手段は、前記各センサの測定値に基づく値を予め設定された評価関数のパラメータに代入し、前記気管挿管手技の評価値を算出することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の気管挿管訓練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−64824(P2008−64824A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−239817(P2006−239817)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(591179639)株式会社京都科学 (10)
【Fターム(参考)】