説明

水に溶解したアクロレインおよび1つ以上のアンモニウム塩からアセトアルデヒドを選択的に調製する方法

本発明は、アセトアルデヒドの選択的な調製のための方法であって、水に溶解したアクロレインおよび1つ以上のアンモニウム塩を、高圧下、300〜400℃の温度で連続的に反応させることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、アクロレインからアセトアルデヒドを選択的且つ連続的に調製する方法に関する。
【0002】
かなりの割合のアセトアルデヒドは、酢酸エステルの調製のために使用される。例えば、エチルアセテートは、触媒としてアルミニウムアルコラートを用いた転位反応において調製される(クライセン−ティシチェンコ反応)。また、相当な割合は、アルキル樹脂および可塑剤および乳化剤の製造における中間体であるペンタエリスリトールの製造のために、ホルムアルデヒドと共に使用される。さらに、アセトアルデヒドは、アセチレンから開始してアセトアルドールを介するブタジエンおよびその水和物である1,3−ブタンジオールの調製における中間体である。脱水してクロトンアルデヒドとなり得るアセトアルドールの形成は、アセトアルデヒドのアルドール付加により行われる。ピリジンおよびその誘導体を与える、アセトアルデヒドと窒素化合物との反応は、ますます重要になっている。それ故、5−エチル−2−メチルピリジンは、アセトアルデヒドおよびアンモニアから液相反応において調製される。ホルムアルデヒドまたはアクロレインの添加は、ピリジンおよびアルキルピリジンの形成をもたらす。アセトアルデヒドは、さらに、過酢酸の製造、グリオキサールまたはグリオキサル酸を得るための硝酸を用いた酸化、ならびにシアン化水素酸を用いてアクリロニトリルの前駆体であるラクトニトリルを得る付加反応および無水酢酸を用いてビニルアセテートプロセスにおける中間体であるエチリデンジアセテートを得る付加反応においても使用される[Eck2007]。
【0003】
先行技術によると、アクロレインは、とりわけ、バイオディーゼル製造において相対的に多い量で「廃棄物」として生じるグリセロールを、酸[Wat2007]または塩[Ott2006]を添加した近臨界および超臨界水中で脱水することにより製造することができる。得られるアクロレインとアンモニウム塩との反応において、高い収量でアセトアルデヒドが得られる。
【0004】
アセトアルデヒドは、500℃および34.5Mpaの超臨界水中、90秒の滞留時間でのグリセロールの脱水において、26%の収率で得られることが既知である[Ant1985]。グリセロールの3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドへの脱水およびこの中間体の均等開裂によりアセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドを得る遊離ラジカルメカニズムは、定められた条件に対して想定される。アセトールの均等開裂を介した別のメカニズムは、除外されてよい。アセトアルデヒドに関する選択性は、360℃の臨界点近傍水条件および前記と同一の条件の下でより低い。酸性触媒としての硫酸水素ナトリウムの添加は、単にアクロレインの収量の増大をもたらし、これは、おそらく3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドの酸触媒脱水の結果として得られるものである。
【0005】
さらに、0.005M硫酸の添加により、300〜350℃、34.5MPaの臨界点近傍水中でのグリセロールの脱水に伴う副産物として、アセトアルデヒドが形成されることも既知である [Ant1987]。325℃、滞留時間39秒での0.5Mグリセロール溶液の反応により生じるアセトアルデヒドのモル収率は、わずか5%である。アクロレインから開始して3−ヒドロキシプロピオンアルデヒドを介するレトロ−アルドール反応は、反応メカニズムとして想定され、ホルムアルデヒドが付加的に形成され、決められた条件下で水素、一酸化炭素および二酸化炭素に分解する。この仮定は、当モル量のアセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドを使用した交差アルドール反応によりアクロレインを得ることで確認された。非触媒またはアルカリ性の条件下における希釈アセトアルデヒド溶液の反応は、主に、クロトンアルデヒドの形成をもたらす。さらに、アセトアルデヒドは、エチレングリコールから、酸触媒脱水による主生成物として得られる。385℃、34.5MPa、29秒の滞留時間での0.5Mエチレングリコール溶液の脱水は、モル収率40%のアセトアルデヒドをもたらす。不利な点は、特に近臨界水中での硫酸の腐食特性である。
【0006】
超臨界水条件下(385℃、34MPa、滞留時間20〜45秒)でのポリオールの脱水に対するさらなる研究も既知である[Ram1987]。0.5Mエチレングリコール溶液の酸触媒反応は、45秒の滞留時間で最大41%のアルデヒド収率をもたらす。水素、一酸化炭素、二酸化炭素およびエチレンは、少量の副産物として同定され得る。臨界点近傍の範囲におけるグリセロールの脱水において、アセトアルデヒドは、350℃、25秒の滞留時間において、触媒量の硫酸を添加することにより、最大12%の収率で得られる。アクロレインを得るためのアセトアルデヒドとホルムアルデヒドの逆反応または交差アルドール反応は、ホルムアルデヒドに基づいて22%収率のアクロレインをもたらす。アセトアルデヒドのアルドール反応により形成されるクロトンアルデヒドは、さらなる液体生成物として検出される。アルドール反応は、酸の添加により減速し得る。
【0007】
250〜475℃の温度範囲、25、35または45MPaの近臨界および超臨界の水中で添加せず、32〜165秒の滞留時間、異なる出発濃度のグリセロールを用いた場合のグリセロールの反応生成物についても、同様に既知である[Buh2002]。より低い温度およびより高い圧力およびより長い滞留時間は、相対的に高い選択性をもたらし、アセトアルデヒドに基づいて、グリセロールの最大変換率は31%と相対的に低くなる。2つの競合反応経路が、グリセロールの反応に対して述べられている。イオン反応ステップは、より高い圧力および/またはより低い温度で行われる一方、遊離ラジカル反応は、より低い圧力および/またはより高い温度で行われる。アセトアルデヒドは、両方の経路により形成され、全ての条件下で主生成物である。アセトアルデヒドの形成について記載されている反応メカニズムは、今日までに想定されてきた反応経路とは異なる。グリセロールの反応の競合反応モデルおよび動力学的パラメータは、最適化後に、得られた測定データに適合し得る。
【0008】
さらに、アセトアルデヒドが、近臨界および超臨界水中でのエチレングリコールの均一触媒脱水により形成されることも既知である[Ott2005]。それ故、アセトアルデヒドは、触媒量の硫酸亜鉛を希釈エチレングリコール溶液に添加することにより、10%の収率で得られる。20mMの硫酸を触媒として用いることにより、収率は、400℃、34MPa、15秒の滞留時間において、約80%に増大し得る。さらに、硫酸亜鉛は、グリセロールの脱水に由来するアクロレインのその後の反応を触媒する。1%(gg−1)アクロレイン水溶液に対して、変換率は、360℃、34MPa、120秒の滞留時間において62%である。液体反応生成物は、見られない。この場合も、決められた条件下での硫酸の腐食性が不都合な点である。
【0009】
さらに、アセトアルデヒドが、バッチまたは流管反応器において、臨界点近傍および超臨界の条件下、硫酸を添加するか、または添加せず、非常に希釈したグリセロール水溶液の脱水において得られることも既知である[Wat2007]。アルデヒドの最大収率は、400℃、34.5MPa、20秒の滞留時間、5mM硫酸添加の場合、0.05Mグリセロール溶液の連続的な脱水に対して約23%である。触媒がない場合の収率は、有意に低い。触媒としての硫酸の使用と組み合わせてグリセロールを低い出発濃度で使用することが、不利な点である。
【0010】
解決すべき技術的問題は、生成したアクロレインを反応させ、第2段階において連続的に高い収率で、硫酸を使用して、短い滞留時間でアセトアルデヒドを得ることにあり、グリセロールからのアセトアルデヒドの合計収率を増大させることにある。この問題は、水に溶解した1つ以上のアクロレインおよびアンモニウム塩を、高圧下、300〜400℃の温度で連続的に反応させることを特徴とする、本発明の方法により解決することができる。
【0011】
本発明による方法は、好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6のpH範囲で行う。
本発明において、反応は酸性反応媒質中で行うことが特に好ましく、その結果として、金属ヒドロキシドの形成および/またはアクロレインの重合反応を防ぐことができる。
【0012】
無機アンモニウム塩、特に硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウムおよびリン酸二水素アンモニウムが特に好ましい。
【0013】
アンモニウム塩の使用は、アクロレインのレトロ−アルドール反応をもたらし、アセトアルデヒドが得られるpH範囲で行うことが好ましい。アセトアルデヒドに加え、3−メチルピリジンおよび気体生成物が形成される。定性的に検出され得るホルムアルデヒドも、副産物として形成される。3−メチルピリジンからのアセトアルデヒドの分離は、非常に小さな努力で効果を得ることができる。
【0014】
本発明による方法は、使用する出発化合物に基づいて、40〜62%の最大アセトアルデヒド収率を達成することができる。
本発明による方法は、アクロレイン合成ステップのアクロレイン含有反応混合物を用いて、および予め精製したアクロレインを用いて、共に直接的に行われ得る。
【0015】
本発明によると、媒質の密度に依存して、5〜240秒の滞留時間が好ましく設定される。
本発明によると、反応は、好ましくは400℃以下、40MPaで行われる。
【0016】
本発明による方法は、標準的な高圧ユニット中で行うことができる。Inconel625を含む流管反応器を有するユニットおよび4〜50mlの容器容積が好ましい。出発混合物は、反応器まで35ml/分以下で、2つの予熱された別々のトレーン(train)を介して輸送される。
【0017】
本発明を、以下の非限定的な実施例により、より詳細に説明する。
【0018】
実施例1
0.75% (g g-1) のアクロレインおよび1.77% (g g-1) のアンモニウムスルフェートまたは3.15% (g g-1) の硫酸水素ナトリウムまたは3.07% (g g-1) のリン酸二水素ナトリウムを含む水溶液(アクロレインとアンモニウムイオンのモル比は1:2に対応)を、2つのトレーンの高圧ユニット中、30 MPaで反応させる。最初に、予熱段階において液体混合物を170℃に加熱し、その後、Inconel625を含み、49.5mlの容積を有する管状反応器の反応器入口において、360℃の反応温度が確認され、近臨界水条件が優勢となるように、2倍量の熱水と混合する。反応媒質の容積流速および密度に依存して、60〜240秒の滞留時間が確認される。その後、熱交換器中で反応溶液を室温まで冷却し、大気圧まで減圧する。相分離器において、液体成分を気体成分から2℃で分離する。液相を回収し、検出可能な成分の画分をガスクロマトグラフィーにより測定する。アセトアルデヒドおよびアクロレインの定量的測定のために、内標準として1−ブタノールを添加する。上記条件下で測定されるアセトアルデヒドの収率を、図1に示す。硫酸水素ナトリウムを用いた場合、全ての測定した滞留時間において、最大アセトアルデヒド収率は62%である。
【0019】
実施例2
反応は、1:1のモル比でアクロレインおよびアンモニウムスルフェートを用いて行う。最初に、0.75%(g g-1)のアクロレインを含む水溶液を、予熱段階で50℃に加熱し、その後、2倍量の0.89% (g g-1) のアンモニウムスルフェートを含む予熱した水溶液と混合し、反応温度を、流管反応器(Inconel625; 4.4 ml反応容積)の反応器入口で確認する。反応媒質の容積流速および密度に依存して、5〜35秒の滞留時間が確認される。結果を図2に示す。350℃の温度、30秒の滞留時間において、最大アルデヒド収率は52%である。
【0020】
参考文献
[Ant1985] M. J. Antal Jr., W. S. L. Mok, J. C. Roy, A. C. Raissi, D. G. M. Anderson:
Pyrolytic sources of hydrocarbons from Biomass, Journal of Analytical and Applied Pyrolysis, 1985, 8, 291-303.
[Ant1987] M. J. Antal Jr., A. Britain, C. DeAlmeida, W. S. L. Mok, S. Ramayya: Catalyzed and uncatalyzed conversion of cellulose biopolymer model compounds to chemical feedstocks in supercritical solvents, Energy from Biomass and Wastes, 1987, 10, 865-877.
[Buh2002] W. Buhler, E. Dinjus, H. J. Ederer, A. Kruse, C. Mas: Ionic reactions and pyrolysis of glycerol as competing reaction pathways in near- and supercritical water, Journal of Supercritical Fluids, 2002, 22, 37-53.
[Eck2007] M. Eckert, G. Fleischmann, R. Jira, H. M. Bolt, K. Golka: Acetaldehyde, Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, 7. Aufl., Wiley Interscience, Online Release, 2009.
[Ott2005] L. Ott: Stoffliche Nutzung von Biomasse mit Hilfe von nah- und uberkritischem Wasser - homogenkatalysierte Dehydratisierung von Polyolen zu Aldehyden -[Material use of biomass with the aid of near-critical and supercritical water - homogeneously catalysed dehydration of polyols to give aldehydes], Thesis, TU Darmstadt, 2005.
[Ott2006] L. Ott, M. Bicker, H. Vogel: Catalytic dehydration of glycerol in sub- and supercritical water: a new chemical process for acrolein production, Green Chemistry, 2006, 8, 214-220.
[Ram1987] S. Ramayya, A. Brittain, C. DeAlmeida, W. S. L. Mok, M. J. Antal Jr.: Acid-catalyzed dehydration of alcohols in supercritical water, Fuel, 1987, 66(10), 1364-71.
[Wat2007] M. Watanabe, T. Iida , Y. Aizawa, T. M. Aida, H. Inomata: Acrolein synthesis from glycerol in hot-compressed water, Bioresource Technology, 2007, 98, 1285-1290.
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】360℃、30MPaの近臨界水中、異なる滞留時間においての、アクロレインとアンモニウム塩との連続的反応におけるアセトアルデヒドの収率。
【図2】30MPaの近臨界水中、異なる温度および滞留時間においての、0.25%(g g−1)のアクロレインと0.59%(g g−1)の硫酸アンモニウムとの連続的反応におけるアセトアルデヒドの収率。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルデヒドの選択的な調製のための方法であって、水に溶解したアクロレインおよび1つ以上のアンモニウム塩を、高圧下、300〜400℃の温度で連続的に反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、酢酸アンモニウムおよび/またはリン酸二水素アンモニウムが使用されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1〜2の少なくとも1項に記載の方法であって、前記アクロレインおよび前記アンモニウム塩は、1:0.125〜1:2のモル比で使用されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3の少なくとも1項に記載の方法であって、前記反応を20〜40MPaの圧力で行うことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4の少なくとも1項に記載の方法であって、接触または滞留の時間は、5〜240秒、好ましくは30〜160秒であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5の少なくとも1項に記載の方法であって、前記水溶液のpHは4〜8の範囲である方法。
【請求項7】
請求項1〜6の少なくとも1項に記載の方法であって、前記アセトアルデヒドの収率は、使用される出発化合物に基づいて40〜62%である方法。
【請求項8】
請求項1〜7の少なくとも1項に記載の方法であって、副産物としてホルムアルデヒドが形成される方法。
【請求項9】
請求項1〜8の少なくとも1項に記載の方法であって、前記アクロレインはグリセロールから得られる方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−500287(P2013−500287A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522008(P2012−522008)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004463
【国際公開番号】WO2011/012253
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(391003864)ロンザ リミテッド (36)
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
【Fターム(参考)】