説明

水中の窒素除去方法

【課題】河川水等に含まれる環境基準値(10mg/L)以下の比較的低濃度な硝酸態窒素の生物学的除去を、季節変動により生じる温度変化を捉えて、比較的容易に且つ安価に、効率良くできる技術を提供する。
【解決手段】被処理水に対して脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類として例えば石鹸を添加し、脱窒菌による生物学的窒素除去方法により被処理水中の窒素化合物を除去する方法である。被処理水の温度と石鹸の添加量と窒素化合物の濃度との相関データを予め用意しておく。被処理水の温度と窒素化合物の濃度とを測定してそれらの実測値を上記相関データ上で指定したときの石鹸の適正添加量を求める。石鹸の実添加量が上記適正添加量となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度になるまで窒素化合物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖性水域の人為的富栄養化現象等の対策として有効な窒素化合物の除去方法に関し、例えば湖沼等の水域に流入する河川水や地下水などを被処理水としてその被処理水に含まれる窒素化合物を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道処理施設の整備と共に河川の清浄化は進んでいるものの、河川水や地下浸透水などが流入する閉鎖性水域(湖沼や港湾)では富栄養化現象による汚染が相変わらず進行しており、社会的問題となっている。これらの原因の一つとして下水道処理施設から放流される処理水を挙げることができる。雨水や生活雑排水を対象とする下水道処理施設では窒素化合物濃度が15〜20mg/Lと比較的高い濃度となっていることも珍しくなく、高度処理は行うものの、その処理水の窒素化合物基準値は環境基準値と同一の10mg/Lであり、当該下水道処理施設から放流された処理水が河川を通じて閉鎖性水域に流入し、前述のような富栄養化現象の原因となっている。
【0003】
また、地下水における窒素化合物濃度の基準値も環境基準値と同じ10mg/Lであるため、同じように富栄養化現象の一因となっていることも否めない。特に、地下水の温度は年間を通じて12〜15℃未満と安定しているものの、低温であるために生物学的窒素除去方法による窒素除去は難しく、高コストな膜分離技術などによる除去がなされているのが現状であり、経済的負担が大きく、なおも改善の余地を残している。
【0004】
他方、上記のような閉鎖性水域での富栄養化現象に着目した窒素あるいは窒素酸化物の除去方法が特許文献1,2にて提案されている。
【0005】
特許文献1では、膜分離を行った後の濃縮排水中に含まれる硝酸等の窒素酸化物を除去するにあたり、メタノールを水素供与体(栄養塩類)として注入するとともに、その注入量をpHと酸化還元電位の値により制御して脱窒を図るとされている。
【0006】
また特許文献2では、測定した廃水の諸数値を用いて数値モデルに基づくシミュレーションを行って、排水の流入量と放流される処理水の窒素濃度との因果関係を求め、求めた因果関係に基づいて、放流される処理水の水質基準が放流水質基準を満たすように、硝化槽に排水を供給するポンプの回転数を制御することとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−70986号公報
【特許文献2】特開2006−142166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2に開示された技術は、いずれも窒素または窒素酸化物を除去する技術ではあっても、除去後に放流される処理水の窒素濃度の目標値を河川等の環境基準値と同じ10mg/L以下としているため、その処理水が閉鎖性水域に流入した場合の富栄養化現象の抑制対策としては不十分である。
【0009】
また、いずれの先行技術においても、微生物(脱窒菌)の活性化に依存する処理技術であるにも拘らず、微生物がその環境になじむ時間(馴養時間または馴致時間)が考慮されておらず、なおも改善の余地を残している。すなわち、生物学的窒素除去方法による技術では、その微生物の反応(代謝)は微生物の活性に依存し、即座に反応できないことがある。よって、特許文献1,2に記載のように、水質の変化に即応して水素供与体(栄養塩類)の添加量や脱窒速度を変化(制御)させたとしても、微生物がその環境になじむ時間(馴養時間または馴致時間)がなく、その効果や馴養時間を補うために例えば水素供与体を過剰添加してしまうおそれがある。この水素供与体の過剰添加は処理水のBOD値を高めることとなり、かえって水質を悪化させることとなって好ましくない。
【0010】
その上、特許文献1,2に開示された技術では、温度測定の結果をタイムリーに制御系にフィードバックしてはいても、季節変動による大きな水温変化は考慮されておらず、先に述べた微生物(脱窒菌)の馴養時間を考慮したときには、なおも改善の余地を残している。例えば、冬から夏に向かって徐々に水温(平均水温)が上昇する時期には、昇温に伴い微生物(脱窒菌)が活性化するにもかかわらず、タイムリーな制御をするがために、一時的な水温低下であってもその水温変化に応じて水素供与体(栄養塩類)を増加して添加することとなり、余剰な栄養塩類がそのまま排出されてBOD値を高め、水質を悪化させる結果となっていた。また、夏から冬に向かって徐々に水温(平均水温)が低下する時期には、微生物の働きが鈍く(活性低下)なるにもかかわらず、前述と同様に、一時的な水温上昇であっても栄養塩類の添加量を減らす制御をすることにより、窒素の除去効果が充分に得られない等の問題があった。
【0011】
要するに、閉鎖性水域での富栄養化対策を生物学的窒素除去方法により行うには、被処理水の温度条件等と微生物である脱窒菌の代謝(反応)の関係を把握することが重要であり、年間の水温変動幅を考慮して、季節変動による大きな水温変化に対応していくことが望まれる。ちなみに、日本列島平野部における河川、湖沼での水温は、4℃〜25℃程度の水温変化がみられる。この水温変化も一律に変化するものではないので、栄養塩類の添加量や代謝時間(滞留時間)の制御(増減)も、季節変動により生じる水温変化を捉えて対応することが求められる。
【0012】
本発明はこれらの課題を鑑み、閉鎖性水域に流入する河川水や地下水に含まれる環境基準値(10mg/L)以下の比較的低濃度な窒素化合物(硝酸態窒素)の除去を生物学的窒素除去方法により行うもので、季節変動により生じる水温変化を捉えて、比較的容易且つ安価に、低濃度の窒素化合物を効率良く除去できる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで、本発明の理解にあたって主要な用語を下記のように定めておく。
【0014】
(1)環境基準値
生活環境の保全の上で、維持されることが望ましいと国が定めた基準値であり、河川水の窒素化合物(硝酸態窒素)では10mg/L以下とされている。
【0015】
(2)生物学的窒素除去方法
科学的処理法と異なり、微生物の活動により、硝酸態窒素から代謝活動(微生物の反応)で硝酸呼吸にて、脱窒(窒素除去)を行う方法。一般的に使用されている窒素除去方法と同義語である。
【0016】
(3)代謝
脱窒菌が硝酸呼吸を行い、窒素除去を行う作用を指す。代謝が活発になったことを活性化という。
【0017】
(4)代謝時間
微生物の代謝に必要な時間であって、生物学的除去に要する時間をいう。窒素の除去施設にあっては、被処理水の滞留時間ともいう。脱窒菌が窒素を除去するにあたり必要な時間は、一般的には少なくとも3時間程度は必要とされている。
【0018】
(5)馴養
微生物が環境条件に馴れ、その環境下で活動を開始することを指す。馴致ともいう。
【0019】
(6)栄養塩類
微生物(脱窒菌)の活動(代謝)を促進するのに必要な栄養分を指し、有機性汚泥、炭化水素系有機物、動植物油、石鹸、動植物の腐敗物などが該当する。一般的に、水素供与体もしくは炭素源と呼ばれている。
【0020】
(7)脱窒菌
硝酸呼吸を行うことで硝酸態窒素から脱窒を行う菌をいう。
【0021】
(8)測定値
被処理水の温度ならびに窒素濃度を測定した値である。被処理水の温度は、処理区域への流入水の温度を同一時間帯にて測定した温度であって、その日の実測値と前7日〜21日間の実測値とを平均した水温を言う。
【0022】
(9)昇温期
一般的に冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する時期をいう。前述の測定値が明らかに上昇を示す時期をいう。より具体的には、前述の測定値にて1〜2℃の水温上昇がみられる時期をいう。
【0023】
(10)降温期
一般的に夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する時期をいう。前述の測定値が明らかに下降を示す時期をいう。より具体的には、前述の測定値にて1〜2℃の水温下降がみられる時期をいう。
【0024】
(11)安定期
前述の水温の測定値が20℃以上となる時期をいう。脱窒菌(微生物)が活性化し処理能力が安定した時期を安定期という。
【0025】
本発明は、請求項1に記載のように、被処理水を処理区域に滞留させるとともに被処理水に対して脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類を添加し、脱窒菌による生物学的窒素除去方法により被処理水中の窒素化合物を除去する方法であって、被処理水の温度と栄養塩類の添加量と窒素化合物の除去率との相関を予め把握しておき、少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの栄養塩類の適正添加量を求め、栄養塩類の実添加量が上記適正添加量となるように調整した上で、窒素化合物の濃度が目標濃度となるまで窒素化合物を除去することを特徴とするものである。
【0026】
ここでは、上記脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類として石鹸を用いるものとする。ただし、石鹸以外にも、脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類として、例えばステアリン酸やオレイン酸等に代表される脂肪酸やその金属塩、エタノールやメタノール等に代表される水素供与体、あるいは水質浄化施設などで発生する余剰汚泥または有機性汚泥を用いることも可能である。
【0027】
請求項2に記載の発明は、上記被処理水の温度と栄養塩類の添加量と窒素化合物の除去率との相関に代えて、特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類の添加量との相関を予め把握しておき、少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの栄養塩類の適正添加量を求め、栄養塩類の実添加量が上記適正添加量となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度となるまで窒素化合物を除去することを特徴とするものである。
【0028】
請求項3に記載の発明は、特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類の添加量との相関を予め把握しておき、少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの処理区域での被処理水の適正滞留時間を求め、処理区域での被処理水の滞留時間が上記適正滞留時間となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度になるまで窒素化合物を除去することを特徴とするものである。
【0029】
また、請求項4に記載の発明は、被処理水の温度と栄養塩類の添加量と窒素化合物の除去率との相関、ならびに特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類の添加量との相関を予め把握しておき、少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの栄養塩類の適正添加量と処理区域での被処理水の適正滞留時間を求め、栄養塩類の実添加量を上記適正添加量とするとともに処理区域での被処理水の滞留時間が上記適正滞留時間となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度になるまで窒素化合物を除去することを特徴とするものである。ここに言う滞留時間とは、先に定義したように脱窒菌の代謝時間にほかならない。
【0030】
請求項1,2に記載の発明においては、請求項5に記載のように、一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には、栄養塩類の実添加量を減少させる場合にのみ、その添加量の調整を行うことが望ましい。
【0031】
さらに、請求項6に記載のように、被処理水の温度の降温期には、栄養塩類の実添加量を増加させて適正添加量とする場合にのみ、その添加量の調整を行うことが望ましい。
【0032】
他方、請求項3に記載の発明においては、請求項7に記載のように、一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には、被処理水の滞留時間を減少させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うことが望ましい。さらに、請求項8に記載のように、被処理水の温度の降温期には、被処理水の滞留時間を増加させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うことが望ましい。
【0033】
また、請求項4に記載の発明においては、請求項9に記載のように、一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方またはそのいずれか一方を減少させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方またはそのいずれか一方を減少させるように調整を行うことが望ましい。さらに、請求項10に記載のように、被処理水の温度の降温期には、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方またはそのいずれか一方を増加させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方またはそのいずれか一方を増加させるように調整を行うことが望ましい。
【0034】
ここで、請求項1〜10に記載のいずれの発明においても、請求項11に記載のように、窒素化合物の濃度に関するパラメータとして、処理前の被処理水中の窒素化合物の濃度と処理後の被処理水中の窒素化合物の濃度との割合である窒素化合物の除去率を用いることが簡便である。
【0035】
また、請求項12に記載のように、上記相関における被処理水の温度範囲の最低温度は5℃であることが望ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、閉鎖性水域に流入する河川水や地下水に含まれる環境基準値(10mg/L)以下の比較的低濃度な窒素化合物(硝酸態窒素)であっても効率良く除去することができる。特に、一年を通して被処理水の温度が5℃〜26℃の範囲で大きく変動したとしても窒素化合物の除去効果は20%から50%を超える除去率となり、優れた除去効果を通年的に維持することができる。
【0037】
また、従来では、15℃以下、特に10℃を下回るような水温での生物学的窒素除去は適さないとされていたが、本発明によれば栄養塩類の添加量や滞留時間を積極的に調整することにより、5℃程度でも十分な生物学的窒素除去が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明を実施するための実験に供した窒素除去施設の平面説明図。
【図2】図1に示した窒素除去施設の断面説明図。
【図3】実験期間中の河川流量、水温および硝酸態窒素濃度のそれぞれのグラフ。
【図4】石鹸5g/m3添加時の水温と硝酸態窒素除去率との関係を示すグラフ。
【図5】石鹸10g/m3添加時の水温と硝酸態窒素除去率との関係を示すグラフ。
【図6】石鹸15g/m3添加時の水温と硝酸態窒素除去率との関係を示すグラフ。
【図7】石鹸20g/m3添加時の水温と硝酸態窒素除去率との関係を示すグラフ。
【図8】図4を近似線形化したグラフ。
【図9】図5を近似線形化したグラフ。
【図10】図6を近似線形化したグラフ。
【図11】図7を近似線形化したグラフ。
【図12】図8のグラフにおいて水温、滞留時間および石鹸添加量を指定した時の硝酸態窒素除去率の読み取り例を示す説明図。
【図13】図9のグラフにおいて水温、滞留時間および石鹸添加量を指定した時の硝酸態窒素除去率の読み取り例を示す説明図。
【図14】図10のグラフにおいて水温、滞留時間および石鹸添加量を指定した時の硝酸態窒素除去率の読み取り例を示す説明図。
【図15】図11のグラフにおいて水温、滞留時間および石鹸添加量を指定した時の硝酸態窒素除去率の読み取り例を示す説明図。
【図16】滞留時間5時間の場合における石鹸添加量と水温および硝酸態窒素除去率との相関を示すグラフ。
【図17】滞留時間7.5時間の場合における石鹸添加量と水温および硝酸態窒素除去率との相関を示すグラフ。
【図18】滞留時間10時間の場合における石鹸添加量と水温および硝酸態窒素除去率との相関を示すグラフ。
【図19】図16のグラフにおいて硝酸態窒素除去率および水温を指定した時の石鹸添加量の読み取り例を示す説明図。
【図20】図17のグラフにおいて硝酸態窒素除去率および水温を指定した時の石鹸添加量の読み取り例を示す説明図。
【図21】図18のグラフにおいて硝酸態窒素除去率および水温を指定した時の石鹸添加量の読み取り例を示す説明図。
【図22】図18のグラフでの硝酸態窒素除去率および石鹸添加量の読み取り例を示す説明図。
【図23】硝酸態窒素除去率50%時の水温と滞留時間および石鹸添加量の相関を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明を実施するためのより具体的な形態を<確認実験>、<実験結果>、<実験結果の応用>、<実施例>の順に項を分けて説明する。
【0040】
<確認実験>
ここでの実験は、閉鎖性水域へ流入するA河川での河川水に含まれる硝酸態窒素(窒素化合物)の除去にあたり、脱窒菌の代謝に必要な栄養塩類(炭素源)として石鹸(例えば、固形の純石鹸から抽出した抽出液)を用いてこれを被処理水に添加し、河川水の温度変動と添加する石鹸の増減による硝酸態窒素の除去効果を確認するために行ったものである。試験の実施期間は、冬から夏、そして夏から冬、さら冬から夏にかけての18ヶ月間にわたり実施し、季節変動による被処理水の温度変化と硝酸態窒素の除去効果を確認するものである。
【0041】
実験に供した窒素除去施設の平面説明図を図1に、同施設の断面説明図を図2にそれぞれ示す。
【0042】
図1,2に示す窒素除去施設は、鋼製またはコンクリート壁等にて不透水性または遮水性のある矩形の処理槽1を処理区域として構築したもので、その処理槽1に取り込まれた被処理水(原水)を所定時間だけ滞留させるべく、上面のみが開口するように地中に埋められている。処理槽1のうち底壁に近い部分には格子状または網状の中底2が設けられていて、その中底2よりも上方空間が後述する濾材の収容空間となっているとともに、中底2よりも下方空間が汚泥貯留空間3となっている。中底2よりも上方の濾材収容空間には例えば礫状の濾材4が収容されていて、中底2はそれらの濾材4を支えつつも被処理水と濾材4内に溜まった剥離生物膜や汚泥の下方への通過を許容する構造となっている。なお、濾材4は最大粒径が50〜150mm程度の礫状のものとし、空隙率は40%としてある。
【0043】
また、処理槽1の内部には中底2から所定距離浮上した仕切板5と処理槽1の底部に底壁に着底した仕切板6とが交互に配置されている。仕切板5の下方では被処理水が下部浸透方式で通流する一方、仕切板6の上方では被処理水が上部越流方式で通流し、全体としては、処理槽1での被処理水の滞留時間を可及的に長く確保するために、被処理水が下部浸透と上部越流を繰り返すいわゆる強制浸透流方式の処理槽1となっている。
【0044】
さらに、濾材4の上部には陸生植物または水生植物等の植物を植栽7として植え込んであり、いわゆる人工湿地型(ウエットランド型)の処理槽1となっている。これにより、植物の栄養吸収効果による処理と濾材4の汚泥捕集による濾過および生物学的窒素除去の複合効果が期待できる。さらに、濾材4の中には複数のパイプ11を埋設してある。これらのパイプ11は汚泥貯留空間に堆積した汚泥量の確認およびその汚泥の抜き取りの際に使用される。
【0045】
処理槽1の流入側には河川8から被処理水となる河川水が取水ポンプ9にて汲み上げられた上で計量槽10を経由して取り込まれ、被処理水が先に述べたような下部浸透と上部越流を繰り返すいわゆる強制浸透流方式にて処理槽1内にて所定時間滞留することになる。同時に、処理槽1の流入側において、脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類(炭素源)として例えば固形の純石鹸から抽出した石鹸液を所定量だけ添加(供給)する。この処理槽1内での滞留中において後述するような脱窒菌による生物学的窒素除去処理がなされて、処理後の被処理水は元の河川8のうち取水ポイントよりも下流側に放流されることになる。なお、処理槽1での被処理水の滞留時間は、計量槽10から処理槽1への被処理水の流入量を調整することで調整可能である。また、ここに言う滞留時間とは脱窒菌の代謝時間にほかならない。
【0046】
このような窒素除去施設での実験条件は下記のとおりである。
【0047】
(1)被処理水の滞留時間を5hr、7.5hr、10hrの3段階にて変化させた。
【0048】
(2)被処理水に対する栄養塩類である石鹸の添加量を5g/m3、10g/m3、15g/m3、20g/m3の四段階にて変化させた。
【0049】
(3)処理前の被処理水を月1回〜3回、同一時間帯にて処理槽流入部にて採水し、水温と硝酸態窒素濃度を測定した。
【0050】
(4)処理後の被処理水を放流部にて採水し、硝酸態窒素濃度を測定した。
【0051】
<実験結果>
実験期間18ヶ月間における被処理水の測定結果、すなわちA河川の河川流量、水温および硝酸態窒素濃度の変化を図3に示す。
【0052】
図3から明らかなように、被処理水の月平均温度は最低6.3℃、最高25.2℃であり、冬の寒冷期と夏の高温期とでは約20℃の変動がみられる。その一方、硝酸態窒素濃度は最低5.82mg/L、最高7.06mg/Lであり、季節間での変動は比較的小さいものであった。
【0053】
栄養塩類である石鹸の添加量を上記のように変化させて測定した処理後の被処理水の硝酸態窒素濃度と処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度との比率を式(1)により硝酸態窒素の除去率(%)として求め、この硝酸態窒素除去率(%)と処理槽1における被処理水の滞留時間(代謝時間)との相関を図表化したものを図4〜7に示す。
【0054】
硝酸態窒素の除去率(%)=
100−(処理後の被処理水の硝酸態窒素濃度/処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度)×100‥‥(1)
より具体的には、図4は、石鹸の添加量を被処理水1m3当たり5gとして、滞留時間を5hr、7.5hr、10hrと変化させたときの硝酸態窒素の除去率の変化を示している。図5は、石鹸の添加量を被処理水1m3当たり10gとして、滞留時間を5hr、7.5hr、10hrと変化させたときの硝酸態窒素の除去率の変化を示している。図6は、石鹸の添加量を被処理水1m3当たり15gとして、滞留時間を5hr、7.5hr、10hrと変化させたときの硝酸態窒素の除去率の変化を示している。図7は、石鹸の添加量を被処理水1m3当たり20gとして、滞留時間を5hr、7.5hr、10hrと変化させたときの硝酸態窒素の除去率の変化を示している。
【0055】
さらに、これらの図4〜7をわかりやすくするために線形近似化したものを図8〜11に示す。
【0056】
上記実験から得られた特徴は次のとおりである。
【0057】
(a)硝酸態窒素の除去率は、栄養塩類である石鹸の添加量や被処理水の滞留時間にかかわらず水温の上昇に比例する。
【0058】
(b)硝酸態窒素の除去率は、栄養塩類である石鹸の添加量に比例する。
【0059】
(c)硝酸態窒素の除去率は、滞留時間に比例する。
【0060】
(d)従来の生物学的窒素除去方法では、被処理水の温度が15℃を下回ると硝酸態窒素の除去が困難とされてきたが、本実験では水温が5℃であっても硝酸態窒素の除去が可能であることが確認できた。
【0061】
このことより、5℃までの低水温域であっても硝酸態窒素の除去は十分に可能であり、特に秋から翌年の春までの低水温期であっても滞留時間の調整と栄養塩類の添加量の調整次第で微生物(脱窒菌)による生物学的窒素除去法により、硝酸態窒素の除去が可能であることが判明した。
【0062】
<実験結果の応用>
これまでの測定結果と得られた特徴を活かし、閉鎖性水域へ流入する河川での年間を通じての運用と十分な硝酸態窒素の除去効果が得られるように工夫する。
【0063】
本実験でも明らかなように、微生物である脱窒菌が活性化(代謝がよくなる)する春から夏に向かう温度上昇期(昇温期)と、その活性が鈍くなる秋から冬に向かう温度低下期(降温期)とでは、明らかに硝酸態窒素の除去効果に違いが出ている。このことより、流入原水(被処理水)に対して、いずれの季節であっても全くの同一条件(同一滞留時間と同一栄養塩類添加量)にては同様の除去効果(除去率)を求めることは困難であることがわかる。その一方、閉鎖性水域の富栄養化問題は、比較的高温期(夏場)にアオコの発生や異臭として現れている。
【0064】
これらの点を考慮すると、閉鎖性水域に流入する硝酸態窒素は年間を通して除去することが合理的であり、経済性においても望ましい。つまり、夏場の高温期には硝酸態窒素(総量)をより多く除去する計画とし、冬場の低温期には河川も渇水期(処理対象水が少なくなる時期)となることも考慮し、被処理水の滞留時間を長く確保すること等で硝酸態窒素の除去ができるようにすることが望ましい。
【0065】
このような硝酸態窒素の年間を通じての除去が容易にできるようにするために、管理テーブルとして相関グラフを作成する。なお、相関グラフによる実施例は、その一例を示すものであって、そのデータを基に近似式を求め、望ましい栄養塩類の添加量や被処理水の滞留時間を算出する方式であっても良い。
【0066】
この相関グラフは、所定の硝酸態窒素の除去率を得るにあたり、水温変化に応じた必要な栄養塩類の添加量や滞留時間を求めることができるように各々の滞留時間ごとにまとめたものとする。
【0067】
相関グラフの作成手順は下記のとおりとする。
【0068】
(1)相関グラフの作成にあたっては、図8〜11より同一滞留時間における被処理水の温度と硝酸態窒素の除去率を読み取り、栄養塩類である石鹸の添加量と硝酸態窒素の除去率との相関グラフを作成するものとする。
【0069】
その読み取り例を表1に示す。例えば水温が15℃で滞留時間が5hrの場合、各石鹸添加量における除去率は図12〜15のグラフから表1のようになる(図12〜15の矢印参照)。
【0070】
【表1】

【0071】
(2)上記のような読み取りを繰り返して、被処理水の滞留時間5hr、7.5hr、10hrにおける被処理水の温度と栄養塩類の添加量と硝酸態窒素の除去率との相関グラフを作成する。なお、被処理水の温度が5℃未満は測定点数がないことと、硝酸態窒素の除去率20%未満については除去効果としての評価が小さいことを考慮して、グラフ化はしないこととする。
【0072】
被処理水の滞留時間が5hrの場合の相関グラフを図16に、被処理水の滞留時間が7.5hrの場合の相関グラフを図17にそれぞれ示す。さらに、被処理水の滞留時間が10hrの場合の相関グラフを図18に示す。
【0073】
また、これらの相関グラフとは別に、特定の除去率における栄養塩類の添加量と滞留時間と被処理水の温度との相関グラフとして図23に示したものを作成するものとし、当該相関グラフの作成にあたっては、それぞれの滞留時間における被処理水の温度と栄養塩類の添加量と硝酸態窒素の除去率との相関グラフ(図16〜18)における除去率50%時における被処理水の温度に対する栄養塩類の必要量を求め、これをグラフ化(相関化)することにより作成するものとする。
【0074】
なお、その読み取り例を、滞留時間5時間においては図19に、滞留時間7.5時間においては図20に、滞留時間10時間においては図21にそれぞれ示す。
【0075】
ここでの除去率50%は、グラフ化の一例を示すものであってこの除去率に限るものではない。実施状況に応じて、除去率30%〜80%の範囲において5%間隔にてグラフ化(相関化)しておくことが望ましい。
【0076】
閉鎖性水域に流入する河川水や地下水に含まれる硝酸態窒素(窒素化合物)の除去(汚濁水の除去)のための計画にあたり、図16〜18および図23の相関グラフを用いることで、栄養塩類の添加量や滞留時間を調整して季節ごとに変動する被処理水の温度ならびに河川水量に対応する合理的な除去計画(除去施設の規模等)が可能となる。
【0077】
以後の実施例にて、本実験から得られた成果をもとに、除去計画と除去のための条件の調整方法について述べる。
【0078】
<実施例>
閉鎖性水域に流入する下記河川条件において、硝酸態窒素の除去を行うにあたり、その除去施設の規模計画から運転調整について検討してみる。ただし、図3において実験対象月の1月から12月までの12ヶ月のみのデータを引用するものとする。
【0079】
1.除去対象河川の状況
(1)除去対象河川の河川流量は0.16m3/秒〜0.35m3/秒である。
【0080】
(2)年間の硝酸態窒素濃度の範囲は5.82mg/L〜7.06mg/Lである(加重平均硝酸態窒素濃度6.58mg/L)。
【0081】
(3)河川水の月平均温度範囲は6.3〜25.2℃である(測定最低温度は5℃である)。
【0082】
これらの対象河川の流量と水温および硝酸態窒素濃度の月別平均値をまとめたものを表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
2.除去条件と除去施設の規模
前記閉鎖性水域の富栄養化対策としては、年間通じて流入する窒素分(年間流入窒素量)をできるだけ少なくすることが望ましい。ここでは、河川の生態系や除去施設の経済性(除去施設へ取り込む被処理水の最大水量が大きいほど施設の建設費が大きくなる)を考慮し、年間流入窒素総量の25%除去を目標とする除去施設の計画とその除去の実施例について以下に述べる。
【0085】
(1)1日当たりの可能取水量は、除去施設へ取り込む被処理水の最大水量を示す数値であって、除去施設に取水した後の流量(取水位置より下流の水量)が河川の生態系が持続できる最小流量とする。最小流量を3000m3/日としたときの可能取水量は次の式(2)のとおりである。
【0086】
可能取水量=河川流量−3000‥‥(2)
(2)硝酸態窒素の除去率の目標値は、季節によって変動する被処理水の温度に適用できる除去率を30%〜80%の範囲と定め月別に計画する(本実施例では、30〜50%とした)。
【0087】
(3)除去目標を達成するには、年間の最大水量かつ被処理水の温度が高温となる除去条件に恵まれた時期(7月)に全流入窒素量の25%以上を除去することが不可欠となる。以下に、7月度における除去計画を述べる。
【0088】
(4)7月の河川流量は年間で最大であるが、この時期の水温は総じて高温(7月の平均水温は24.1℃)でもあり微生物の代謝も良く滞留時間を5hrとして施設規模(除去施設への取水可能量)を計画する。
【0089】
(5)滞留時間5hrにおいて被処理水の温度が20℃以上となる場合には、除去率の目標値を50%としても栄養塩類(石鹸)の添加量は8.8g/m3以下にて除去可能である(図16より)。
【0090】
(6)除去率50%にて除去目標である全流入窒素量の25%以上を除去するには、全河川流量の概ね50%を除去施設に取水(流入)させることが求められる。目標除去率としては次の式(3)のとおりである。
【0091】
目標除去率=被処理水の除去率×除去施設への取水率
=50%×50%=25%‥‥(3)
(7)除去施設の規模は、7月度の平均日当たり河川流量の50%を取水できる規模(最大取水量)とする(表3参照)。最大取水量は次の式(4)のとおりである。
【0092】
最大取水量=30240×(50/100)≒15000m3/日‥‥(4)
(8)つまり、日当たり取水量を15000m3除去施設へ取水させて、石鹸(栄養塩類)を6.7〜8.8g/m3添加し、滞留時間5hrにて除去施設を運転(稼働)させることにより、被処理水の窒素除去率は50%以上となる(図16参照)。
【0093】
(9)滞留時間(代謝時間)は、一般に微生物の代謝に必要とされている最小3hrから、施設規模の経済性を考慮に入れ、一般のウエットランド(湿地浄化施設)の滞留時間を参考にして最大10hrとする(滞留時間を長くすることは、施設の処理水量の増加に結び付き、結果として大規模な施設となるので経済的でない。)。
【0094】
3.除去施設の運転計画
先の記述では、7月度のみにおける除去施設の運転例を記述したが、以下では年間通じて除去目標を満たすための計画について述べる。前述の取水条件や硝酸態窒素の除去率の目標値を満たすために、除去施設内における滞留時間(代謝時間)や栄養塩類である石鹸の添加量等の年間運転計画を立案する。
【0095】
(1)表2より各月における日当り河川流量(水量)を求める。
【0096】
(2)上記(1)の河川流量より可能取水量を決定する。
【0097】
(3)表2に示す河川流量より可能取水量を求め、計画取水量を決定する(可能取水量≧計画取水量)。
【0098】
これらの一日当たりの河川流量、可能取水量および計画取水量をまとめたものを表3に示す。
【0099】
【表3】

【0100】
(4)被処理水の温度より暫定的に計画滞留時間と硝酸態窒素の除去率、および上記硝酸態窒素除去率を得るに必要な石鹸添加量を求める。被処理水における硝酸態窒素の除去率の目標値は50%であるが、1月は低温期であり微生物の代謝も悪く除去効果を得るために除去率は30%とする。これらをまとめたものを表4に示す。
【0101】
石鹸添加量は、図16〜18に示すそれぞれの滞留時間における水温と石鹸添加量と硝酸態窒素の除去率の相関グラフを引用して求める。滞留時間が5hrの場合の引用具体例を図19に、滞留時間が7.5hrの場合の引用具体例を図20に、滞留時間が10hrの場合の引用具体例を図21にそれぞれ示す。
【0102】
【表4】

【0103】
4.前3項計画の検証
除去施設の運転計画にて定めた滞留時間、硝酸態窒素の除去率にて、閉鎖性水域に流入する全硝酸態窒素量の25%以上を除去する暫定計画が満足されているか否かの検証をする。
【0104】
(1)閉鎖性水域への年間流入量(河川流量・硝酸態窒素量)を表5に示す。なお、表5における月ごとの河川流量は、表3の一日あたりの河川流量を一ヶ月当たりに換算した値である。同様に表5の硝酸態窒素濃度の値は表2のものを転記したものである。さらに、表5の硝酸態窒素量は同表の河川流量と硝酸態窒素濃度とから求めたものである。
【0105】
【表5】

【0106】
(2)表5における年間流量と硝酸態窒素量より加重平均硝酸態窒素濃度を次の式(5)から求める。
【0107】
加重平均硝酸態窒素濃度=年間硝酸態窒素量/年間流量
=(51.6×106)/7838208=6.58mg/L‥‥(5)
(3)年間硝酸態窒素量に対する硝酸態窒素の除去必要量を次の式(6)から算出する。
【0108】
硝酸態窒素の除去必要量=年間硝酸態窒素量×(25/100)
=51.6×(25/100)=12.9t/年‥‥(6)
つまり、硝酸態窒素の除去率25%以上とは、1年間にて12.9t以上の硝酸態窒素を除去することにほかならない。
【0109】
(4)表3の計画取水量と上記加重平均硝酸態窒素濃度より月々の被処理水の硝酸態窒素量を求め、表4における計画除去率が得られたとした時の硝酸態窒素除去量(見込み量)を求める。これを表6に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
(5)上記(3)で得られた硝酸態窒素の除去必要量と(4)での硝酸態窒素除去量とを比較するに、除去率25%以上とは、「硝酸態窒素の除去必要量≦見込みの硝酸態窒素除去量」となることである。
【0112】
よって、12.9t/年≦14.2t/年となる。表3で定めた計画取水量を除去施設に取り込み、表4で定めた計画滞留時間にてそれぞれの水温に応じた石鹸添加量とすることで、計画の硝酸態窒素の除去率25%が達成できることになる。
【0113】
5.除去施設の運転制御の実施例
硝酸態窒素の除去が必要な対象河川(図1に示す)において河川上流側にて被処理水を取水し、硝酸態窒素を除去した後に同河川の下流側に所定の硝酸態窒素濃度まで除去された被処理水を放流する場合の例にて述べる。
【0114】
ここでの除去施設は前3項で計画した除去施設とし、また河川流量、被処理水の温度、硝酸態窒素濃度については表2のデータが得られるとして、1月から除去施設の運転を開始したものとする。
【0115】
(1)1月の被処理水の温度は6℃前後(平均水温6.3℃)と比較的低く推移しているので、微生物の代謝(活性)は低いことが予測される。よって、対象河川より7500m3/日(1月の計画取水量)の河川水を取水し(表3参照)、滞留時間10hrにて目標除去率を30%(1月の計画除去率)と定め、栄養塩類である石鹸の添加量(適正添加量)を、図22の相関グラフより除去率30%で水温6℃に相当する添加量=18.5g/m3として求める(表4参照)。
【0116】
ここで、除去率30%以上とする場合の硝酸態窒素化合物の濃度とは、次の式(7)から明らかなように、処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度を7.06mg/Lを処理後(処理水)の濃度4.94mg/L以下とすることである。
【0117】
(7.06×(1−0.3))=4.94mg/L‥‥(7)
(2)上記(1)で求めた添加量の石鹸を投与しながら除去施設の運転を開始する。
【0118】
(3)被処理水の温度と処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度、および処理後の被処理水の硝酸態窒素濃度をそれぞれ測定し、除去効果を確認しつつ、除去施設の運転を継続させる。なお、図3から明らかなように、処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度の変化は比較的少ないことは既に把握できているので、処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度の測定はあくまで確認のために行うもので、必ずしも毎回測定を必要とするものではない。
【0119】
(4)1ヶ月に2〜3回程度、被処理水の温度を測定する。その結果、1月中旬以後、徐々にではあるが水温の上昇が見られることより昇温期となり、石鹸の添加量を減じるように調整する。なお、この時に用いる水温の測定値は、その日の実測値と前7日〜21日間(最大でも21日間程度とする)の実測値とを平均した水温をもって調整にあたる水温とする。
【0120】
(5)上記(4)の調整にあたり、図22より測定値水温が7℃のときにおける必要添加量=13.5g/m3を求める。一方、3月の除去計画は滞留時間7.5hrにて硝酸態窒素の除去率50%を目標値としている。また、例年の平均水温は16℃前後であるが、水温の変動を考慮して被処理水の温度が15℃における必要な石鹸の添加量(適正添加量)を図17より11.5g/m3として求める(図20の読み取り例)。
【0121】
(6)1月から2月に向って被処理水の温度は上昇してゆくが、生物学的除去方法では微生物である脱窒菌がその環境になじむ時間(馴養時間または馴致時間)が必要となる。脱窒菌の馴養時間を考慮すれば、2月の滞留時間は1月と同様に10時間を持続させた上で徐々に石鹸の添加量を減じることが望ましい。
【0122】
(7)よって、1月から2月下旬までは被処理水の温度測定と除去効果を確認しながら、石鹸の添加量を徐々に減じるように調整する。具体的には、図22の矢印のように添加量18.5g/m3から11.5g/m3に向けて徐々に減じるように調整する。
【0123】
(8)2月中旬以後、水温の上昇を確認するとともに長期天気予報等も考慮した上で、被処理水の平均温度(測定値水温)が15〜16℃程度に安定してきた時期を見計らって、除去施設の滞留時間を10hrから7.5hrへと適正な滞留時間へと調整する。ここでも滞留時間の変更に伴い、脱窒菌の馴養時間を取ることが望ましく、水温上昇を確認(測定)したとしても石鹸添加量は11.5g/m3にて1週間程度は継続運転することが望ましい。
【0124】
ちなみに、2月後半の滞留時間10hr、水温15℃、石鹸添加量11.5g/m3の運転状況では、硝酸態窒素の除去率は58%となって、50%を超えるものとなる(図22参照)。
【0125】
(9)ここまでの記述では、図20,22を用いて石鹸の添加量を減じる方法述べてきたが、ここでは以下のように、特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類(石鹸)の添加量との図23の相関データ(図23では除去率50%時における相関データを示している)を予め用意しておき、少なくとも被処理水の温度、もしくは被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関データ上で指定したときの栄養塩類の適正添加量を求め、栄養塩類に実施添加量が上記適正添加量となるように調整した上で、窒素化合物の濃度が目標濃度となるまで窒素化合物を除去する実施例について述べる。
【0126】
(10)図23は、先にも述べたように、硝酸態窒素の除去率を50%としたときにおける被処理水の温度と滞留時間との関係を石鹸の添加量別に示す相関図である。よって、除去率50%での実施月である3月における水温変化に即応した石鹸の添加量を減ずる例を述べる。なお、3月での平均水温は約15℃であり、計画滞留時間は7.5hrとなっている。
【0127】
(11)被処理水の水温15℃、滞留時間7.5hrにおいて必要な添加量(石鹸)は、11.5g/m3であることが確認できる(図23より)。3月から4月にかけて水温は更なる上昇することは、既往のデータより分かっている。この相関図では、水温が15℃から16℃へと1℃上昇することにより石鹸の添加量は、11.5g/m3から僅かであるが10g/m3弱へと減じられる。
【0128】
(12)前述に代えて、少なくとも被処理水の温度、もしくは被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関データ(図23)上で指定したときの適正滞留時間を求め、実施滞留時間が上記適正滞留時間となるように調整した上で、窒素化合物の濃度が目標濃度となるまで窒素化合物を除去する実施例について述べる。
【0129】
(13)図23は、硝酸態窒素の除去率を50%としたときにおける被処理水の温度と滞留時間との関係を石鹸の添加量別に示す相関図(相関化したもの)である。よって、除去率50%での実施月である3月(昇温期)における水温変化に対応した滞留時間を減少させる例を述べる。なお、既往のデータによる3月での平均水温は約15℃であり、滞留時間は7.5hrと計画されている。
【0130】
(14)被処理水の水温15℃、滞留時間7.5hrにおける必要な添加量(石鹸)は、11.5g/m3であることが図23より確認できる。3月から4月にかけて水温は更なる上昇することは、既往のデータより分かっている。この相関図では、水温が15℃から16℃へと1℃上昇することにより石鹸の添加量は11.5g/m3の条件であれば滞留時間は7.5hrから6.5hrへ減じられる。
【0131】
(15)既往データによれば、3月から4月は水温が15〜17℃前後であるが、5月中旬からさらに上昇を続け、20℃を超える状態となる。そこで表4の計画に沿って、図23に示す相関データをもとに栄養塩類の適正添加量と処理区域での被処理水の適正滞留時間を求める例について述べる。
【0132】
(16)被処理水の温度が15℃の時には、栄養塩類の適正添加量は11.5g/m3、適正な滞留時間は7.5hrと調整することで被処理水中の硝酸態窒素を50%以上除去しているが、更に季節が夏に向かうに従い被処理水の温度は上昇を続けて、20℃を超えることとなる。この時、被処理水中の窒素化合物の除去率を、50%に調整するには、適正な栄養塩類の添加量は、7g/m3弱であり、適正な滞留時間は概ね6時間となる(図23より)。
【0133】
(17)したがって、被処理水の温度上昇を確認しつつ、栄養塩類の添加量は11.5g/m3から7g/m3へと減少させつつ、被処理水の滞留時間も7.5時間から6時間へと徐々に減少させることにより、前記除去率は維持しつつ、栄養塩類の適正添加量と処理区域での被処理水の適正滞留時間とを調整することができる。
【0134】
(18)この場合、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方またはそのいずれか一方を減少させる場合のみ、その添加量と滞留時間の双方またはそのいずれか一方を減少させるように調整を行うことが望ましい。
【0135】
(19)前述のように、図23の相関グラフによって、除去率の計画値を50%とするならば、被処理水の温度を測定しつつ容易に石鹸の添加量を適正な添加量に調整することや被処理水の滞留時間の調整が可能となる。
【0136】
(20)なお、図23は硝酸態窒素の除去率を50%とするときの一例を示すものであって、このような相関グラフを30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80%と適宜の間隔にて用意しておけば、望ましい栄養塩類の添加量や被処理水の滞留時間の調整が容易に可能となる。
【0137】
(21)また、図16〜18および図23も実験にて得たデータを基に相関グラフ化したものであるが、そのデータを基に近似式を求めて、望ましい栄養塩類の添加量や被処理水の滞留時間を求めた相関化であっても良い。
【0138】
(22)ここで、河川流量は季節変動以外にその年によっても変動する。既存のデータとして平均流量は存在するが、それは計画等に用いる数値の目安である。実際の除去施設の運転においては、除去施設の規模は決まっているので(最大取水量と滞留時間にて決定)、滞留時間によって取水量が決まることになる。取水量と滞留時間の関係を示せば下記のとおりである。
【0139】
(ア):取水量 15000m3/日 滞留時間 5hr
(イ):取水量 10000m3/日 滞留時間 7.5hr
(ウ):取水量 7500m3/日 滞留時間 10hr
つまり、(ア)での滞留時間5hrを滞留時間7.5hrとしたときには、取水量の上限は、15000m3/日から10000m3/日へと減じられる。除去施設への取水量は、次の式(8)から求める。
【0140】
15000×(5/7.5)=10000m3/日‥‥(8)
(23)このように滞留時間を決定した段階にて除去施設への上限取水量が決まる。しかし、取水量の決定にあたっては、降雨量が例年に比べて少ない年であっても、河川の生態系に影響を及ぼさない河川流量を最小流量として調整することが求められる。必然的に、河川流量の少ない年、季節においては、除去施設への取水量を減じることとなり、取水量を減じることは除去施設内の滞留時間を増加させることであって、除去効果としては良化されることとなる。
【0141】
(24)一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、水温の昇温期には、栄養塩類の実添加量を減少させる場合にのみ、その添加量の調整を行うことが望ましい。その調整方法は、前述と同様に、図16〜18または図23を引用して栄養塩類の添加量を減少させる場合にのみ、添加量を減じるように調整する。
【0142】
(25)なお、上記(24)での、水温の昇温期には栄養塩類の実添加量を減少させる場合にのみ、その添加量の調整を行うこととは、被処理水の温度変化は昇温期であっても必ずしも上昇するばかりではなく、気温の低下や降雨等により被処理水の温度が一時的に下がるときもある。しかし、このような時であっても、栄養塩類の添加量を増加させるような調整は行わず、水温が下がる前の添加量を実添加量として継続的に投与する。そして、後日、水温の上昇が明らかに確認したうえで栄養塩類の添加量を減少させることをいう。
【0143】
(26)また、上記(24)とは逆に、水温の降温期には、栄養塩類の実添加量を増加させて適性添加量とする場合にのみ、その添加量の調整を行うことが望ましい。その調整方法は、図16〜18または図23を引用して栄養塩類の添加量を増加させる場合にのみ、添加量を増加するように調整する。
【0144】
(27)上記(26)での、水温の降温期には、栄養塩類の実添加量を増加させて適性添加量とする場合にのみ、その添加量の調整を行うこと、とは、上記(25)と逆に、被処理水の温度変化は降温期であっても必ずしも降温するばかりではなく、気温の上昇により被処理水の温度が一時的に上昇するときもある。しかし、このような時であっても、栄養塩類の添加量を減少させるような調整は行わず、水温が上がる前の添加量を実添加量として継続的に投与する。そして、後日、水温の低下を明らかに確認したうえで栄養塩類の添加量を増加させることをいう。
【0145】
(28)一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には被処理水の滞留時間を減少させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うことが望ましい。その調整方法は、図23または(20)にて述べている適宜の間隔にて用意した相関グラフを引用して被処理水の滞留時間を減少させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間を減少させるように調整する。
【0146】
(29)上記(28)での、その温度の昇温期には被処理水の滞留時間を減少させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うこと、とは、上記(25)と同様に被処理水の温度が一時的に下がったとしても、被処理水の滞留時間を増加させるような調整は行わず、水温が下がる前の滞留時間を適正な滞留時間として継続させる。そして、後日、水温の上昇が明らかに確認したうえで適正な滞留時間へと減少させるように調整することをいう。
【0147】
(30)前記(28),(29)の被処理水の温度上昇は、冬から春、春から夏に向って徐々にではあるが上昇(昇温期)する。その上昇につれて、適正滞留時間を5時間、場合によっては3時間程度まで水温の測定と除去効果の確認を繰り返しながら行う。
【0148】
(31)被処理水の温度の降温期には、被処理水の滞留時間を増加させて適性滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うことが望ましい。その調整方法は、図23または(20)にて述べている適宜の間隔にて用意した相関グラフを引用して被処理水の滞留時間を増加させて適性滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間を増加させるように調整する。
【0149】
(32)上記(31)での、被処理水の温度の降温期には、被処理水の滞留時間を増加させて適性滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うこと、とは、上記(29)と逆に、被処理水の温度が一時的に上昇したとしても、被処理水の滞留時間を減少させるような調整は行わず、水温が上昇する前の滞留時間を適正な滞留時間として継続させる。そして、後日、明らかに水温の低下を確認したうえで適正な滞留時間へと増加させるように調整することをいう。
【0150】
(33)一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を減少させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を減少させるように調整を行うことが望ましい。その調整方法は、図16〜18または図23および(20)にて述べている適宜の間隔にて用意した相関グラフを引用して栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を減少させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を減少させるように調整する。
【0151】
(34)上記(33)での、その温度の昇温期には栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を減少させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を減少させるように調整を行うこと、とは、上記(25)と同様、被処理水の温度が一時的に下がったとしても、栄養塩類の実添加量や被処理水の滞留時間を増加させるような調整は行わず、水温が下がる前の添加量や滞留時間を適正な添加量や滞留時間として継続させる。そして、後日、水温の上昇が明らかに確認したうえで適正な栄養塩類の添加量や滞留時間となるように減少させる調整をいう。
【0152】
(35)上記(34)での適正な栄養塩類の添加量や滞留時間へと調整する手段として、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間を同時に減少させることもあれば、栄養塩類の添加量と滞留時間のうちのいずれか一方のみを減少させて調整することもある。
【0153】
(36)被処理水の温度の降温期には、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を増加させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を増加させるように調整を行うことが望ましい。その調整方法は、図16〜18または図23および(20)にて述べている適宜の間隔にて用意した相関グラフを引用して栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を増加させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を増加するように調整する。
【0154】
(37)上記(36)での、被処理水の温度の降温期には、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を増加させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方を増加させるように調整を行うこと、とは、上記(34)と逆に、被処理水の温度が一時的に上昇したとしても、栄養塩類の実添加量や被処理水の滞留時間を減少させるような調整は行わず、水温が下がる前の添加量や滞留時間を適正な添加量や滞留時間として継続(持続)させる。そして、後日、水温の低下を明らかに確認したうえで適正な栄養塩類の添加量や滞留時間となるように増加させる調整をいう。
【0155】
(38)上記(37)における、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方もしくはそのいずれか一方とは、上記(35)での説明同様に、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間を同時に調整することもあれば、栄養塩類の添加量と滞留時間のうちのいずれか一方を調整することをいう。
【0156】
(39)上記繰り返しによって、一年のうちで月次平均水温が最高の水温(25℃程度)となる7〜8月頃には、除去施設に取り込む被処理水は15000m3/日まで増加させて、硝酸態窒素除去率を50%とするために、滞留時間は5hr、石鹸添加量は6.6g/m3まで減じることとなる(図19参照)。
【0157】
(40)これらの調整は、被処理水の温度と処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度(必ずしも必須ではない)および処理後の被処理水の硝酸態窒素濃度(除去効果の確認)を定期的に測定しつつ、長期天気予報も考慮しながら脱窒菌の馴養時間が確保できるように徐々にまたは段階的に行うものとする。
【0158】
(41)被処理水の温度のピークは8〜9月にかけて現れるが、以後は夏から秋、秋から冬に向って徐々に水温の低下傾向を示す。水温(測定値)が低下する時期(降温期)には、脱窒菌の代謝(働き)も徐々にではあるが鈍くなってくるので、水温の上昇時期(昇温期)とは逆に石鹸の添加量や滞留時間あるいは石鹸の添加量と滞留時間の双方を増加させながら硝酸態窒素除去率の目標を維持できるように調整する。
【0159】
(42)表4での月別除去計画では、栄養塩類の添加量は6.6g/m3〜18.5g/m3の範囲にて調整する計画をしている。また、滞留時間は5hr〜10hrの範囲にて調整するように計画している。この調整には、被処理水の温度と処理前の被処理水の硝酸態窒素濃度(必ずしも必須ではない)および処理後の処理水の硝酸態窒素濃度(除去効果の確認)を測定しつつ、長期天気予報も考慮しながら脱窒菌の馴養時間が確保できるように徐々にまたは段階的に調整することが望ましい。なお、この時に、図23および図23の変形として、硝酸態窒素の除去率を30%としたときにおける被処理水の温度と滞留時間と添加量との相関グラフが用意されていると、これらの調整が容易に可能となる。
【0160】
(43)冬から夏に向かっての被処理水の温度上昇期(昇温期)と夏から冬に向かっての温度下降期(降温期)に滞留時間を変更することになるが、滞留時間10hrと7.5hrとの相互間での変更条件水温は15℃前後(14〜16℃)とすることが望ましい。また、滞留時間7.5hrと5hrとの相互間での変更条件水温は20℃前後(19〜21℃)とすることが望ましい。さらに、滞留時間5hrと3hrとの相互間での変更条件温度は23℃前後(22〜24℃)とするが、必ずしも3hrに拘る必要もなく、基準の5hrのままでも良い。
【0161】
(44)しかし、脱窒菌の馴養時間を考えると、水温の測定値が所定の温度条件になっても菌の馴養を考慮して、一週間程度持続した後に再度測定値を確認した上で条件変更を行うことが好ましい。
【0162】
(45)既往のデータによれば、5月末〜9月頃までは、水温が20℃を超えた中(20℃〜25.2℃)で、水温の上下を繰り返し脱窒菌が安定して活性化している安定期なので、滞留時間は5時間に固定して、栄養塩類の添加量を調整して除去率を確保する方が望ましい。滞留時間3hr、5hr、7.5hr、10hrにおける時期的な望ましい適応範囲を表7に示す。なお、表7は実験における使用濾材(空隙率40%の礫状濾材)を用いた場合のものである。
【0163】
【表7】

【0164】
(46)年間を通じて被処理水の温度が5〜26℃と大きく変動したとしても、硝酸態窒素の除去率は30%から50%超える(確認実験にて採水時の最高除去率は99%が得られている)除去効果を通年的に得ることができる。
【0165】
(47)従来の技術では、被処理水の水温が15℃以下、特に10℃を下回る水温では被処理水の生物学的除去には適さないとされてきたが、滞留時間を大きくし、脱窒菌の栄養塩類である石鹸の投与量を適切に調整することにより、水温が5℃までの被処理水の生物学的除去すなわち硝酸態窒素の除去が可能となる。
【0166】
(48)被処理水の硝酸態窒素濃度が低い場合には、窒素化合物の除去は困難とされてきたが、本技術では加重平均窒素濃度が6.58mg/L(10mg/L以下)と低濃度の硝酸態窒素の除去が可能となった。
【0167】
(49)これまでの説明は先の実験結果から得られた成果の応用によるものである。実験結果とは、礫状の濾材による空隙率40%時に得られた結果であって、その濾材をひも状濾材等に変更することにより微生物の接触面積が大きく変化することとなり、その効果はより顕著となる。つまり、除去効果と空隙率(微生物の接触面積)とはほぼ比例することは知られていることであり、二次的効果として滞留時間の短縮が可能となることで除去施設規模を1/3〜1/5程度に小さくすることが可能となる。
【0168】
ここに言うひも状濾材とは、例えば特許第3667089号公報に記載されているように、微生物である脱窒菌の付着のための担持能力に優れた三次元立体形状の繊維編成体のことである。ひも状濾材は、例えば短繊維または撚り繊維を幾重にもループ状に編み込んで糸状体またはひも状体の繊維集合体として三次元立体形状としたもので、空隙率が飛躍的に大きい点に特徴があり、図1,2の処理槽1の内部で被処理水に浸漬しても所定の三次元立体形状を自己保持して、処理槽1の内部において脱窒菌の担持体(担体)として機能するものである。
【0169】
このひも状濾材を用いた場合の滞留時間3hr、5hr、7.5hrにおける時期的な望ましい適応範囲を表8に示す。
【0170】
【表8】

【0171】
(50)ちなみに、礫状の濾材による空隙率40%時における微生物の接触面積に対して、ひも状濾材を用いた場合の接触面積は概ね50〜100倍となる。この接触面積の大きさが微生物の個体数と比例することは知られていることであり、その微生物の個体数と除去効果は比例する。
【0172】
(51)先の実験での栄養塩類には石鹸を用いたが、栄養塩類としては石鹸に限られるものではなく、例えばステアリン酸やオレイン酸等に代表される脂肪酸やその金属塩、メタノールやエタノール等に代表される水素供与体、または除去施設にて発生する余剰汚泥(有機性汚泥)などを栄養塩類として用いることも可能である。
【0173】
(52)本実施例では、硝酸態窒素の除去について述べたが、本発明は窒素化合物全般に応用できる。
【0174】
(53)また、被処理水は閉鎖性水域に流入する河川水や地下水に限るものではなく、工場等での窒素化合物が含まれる廃水液の浄化や、それらが地下へ浸透して地下汚染の原因となっている地下水への応用も可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0175】
1…処理槽(処理区域)
4…濾材
5…仕切板
6…仕切板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を処理区域に滞留させるとともに被処理水に対して脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類を添加し、脱窒菌による生物学的窒素除去方法により被処理水中の窒素化合物を除去する方法であって、
被処理水の温度と栄養塩類の添加量と窒素化合物の除去率との相関を予め把握しておき、
少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの栄養塩類の適正添加量を求め、
栄養塩類の実添加量が上記適正添加量となるように調整した上で、窒素化合物の濃度が目標濃度となるまで窒素化合物を除去することを特徴とする水中の窒素除去方法。
【請求項2】
被処理水を処理区域に滞留させるとともに被処理水に対して脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類を添加し、脱窒菌による生物学的窒素除去方法により被処理水中の窒素化合物を除去する方法であって、
特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類の添加量との相関を予め把握しておき、
少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水の窒素化合物濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの栄養塩類の適正添加量を求め、
栄養塩類の実添加量が上記適正添加量となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度となるまで窒素化合物を除去することを特徴とする水中の窒素除去方法。
【請求項3】
被処理水を処理区域に滞留させるとともに被処理水に対して脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類を添加し、脱窒菌による生物学的窒素除去方法により被処理水中の窒素化合物を除去する方法であって、
特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類の添加量との相関を予め把握しておき、
少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの処理区域での被処理水の適正滞留時間を求め、
処理区域での被処理水の滞留時間が上記適正滞留時間となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度になるまで窒素化合物を除去することを特徴とする水中の窒素除去方法。
【請求項4】
被処理水を処理区域に滞留させるとともに被処理水に対して脱窒菌の代謝に必要とする栄養塩類を添加し、脱窒菌による生物学的窒素除去方法により被処理水中の窒素化合物を除去する方法であって、
被処理水の温度と栄養塩類の添加量と窒素化合物の除去率との相関、ならびに特定の除去率における被処理水の温度と処理区域での被処理水の滞留時間と栄養塩類の添加量との相関を予め把握しておき、
少なくとも被処理水の温度、または被処理水の温度と被処理水中の窒素化合物の濃度とを測定し、その測定値を上記相関に当てはめたときの栄養塩類の適正添加量と処理区域での被処理水の適正滞留時間を求め、
栄養塩類の実添加量を上記適正添加量とするとともに処理区域での被処理水の滞留時間が上記適正滞留時間となるように調整した上で、被処理水中の窒素化合物の濃度が目標濃度になるまで窒素化合物を除去することを特徴とする水中の窒素除去方法。
【請求項5】
一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には、栄養塩類の実添加量を減少させて適正添加量とする場合にのみ、その添加量の調整を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の水中の窒素除去方法。
【請求項6】
一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の降温期には、栄養塩類の実添加量を増加させて適正添加量とする場合にのみ、その添加量の調整を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の水中の窒素除去方法。
【請求項7】
一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には、被処理水の滞留時間を減少させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うことを特徴とする請求項3に記載の水中の窒素の除去方法。
【請求項8】
一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の降温期には、被処理水の滞留時間を増加させて適正滞留時間とする場合にのみ、その滞留時間の調整を行うことを特徴とする請求項3に記載の水中の窒素除去方法。
【請求項9】
一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の昇温期には、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方またはそのいずれか一方を減少させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方またはそのいずれか一方を減少させるように調整を行うことを特徴とする請求項4に記載の水中の窒素除去方法。
【請求項10】
一年を冬から夏に向かって被処理水の温度が上昇する昇温期と夏から冬に向かって被処理水の温度が下降する降温期とに分けて、その温度の降温期には、栄養塩類の実添加量と被処理水の滞留時間の双方またはそのいずれか一方を増加させる場合にのみ、その添加量と滞留時間の双方またはそのいずれか一方を増加させるように調整を行うことを特徴とする請求項4に記載の水中の窒素除去方法。
【請求項11】
窒素化合物の濃度に関するパラメータとして、処理前の被処理水中の窒素化合物の濃度と処理後の被処理水中の窒素化合物の濃度との割合である窒素化合物の除去率を用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一つに記載の水中の窒素除去方法。
【請求項12】
上記相関における被処理水の温度範囲の最低温度は5℃であることを特徴とする請求項11に記載の水中の窒素除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−179558(P2012−179558A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44662(P2011−44662)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【特許番号】特許第4768886号(P4768886)
【特許公報発行日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000140694)株式会社加藤建設 (50)
【Fターム(参考)】