説明

水中作業用吊り具

【課題】波浪による作業船の上下動の如何に関わることなく、潜水士による水中での重量物の吊上げ、移設等の作業をより安全かつより円滑に行う。
【解決手段】荷重を担持するチェーン24の二点間を短絡するようにして、ゴムバンド26の両端がチェーン24に固定されていることにより、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aは、チェーン24の担持する荷重に応じゴムバンド26が伸縮して、実質的長さが変化する。このため、作業船の船上から水中作業用吊り具22を水中に吊り下げて、水底の捨石10に巻き付けた状態で、作業船が波によって上下に揺れても、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aの実質的長さがゴムバンド26の伸縮に応じて変化することにより、作業船の上下動を吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船上から水底の重量物を吊上げて所定の場所に移設させる作業に適した吊り具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水中への建造物の設置や水底の造成等の作業を円滑確実に行うために、潜水士が多く携わっている。例えば、図3に示されるように、海底均し工の一種である被覆工においても、潜水士は重要な役割を担っている。被覆工は、水底の必要な場所に捨石10を積み上げ、捨石10の洗掘あるいは流失を防止するために、被覆石(或はコンクリート製ブロック)12で捨石10を保護するものである。この際、予めその設置範囲近傍に捨石10を投石し、作業船14のウィンチ16から水中に吊り下げたワイヤーやチェーン等の索体18を、捨石10に巻き付けて水中に吊上げ、潜水士20が確認しながら全体に均す作業(荒均し作業)を行う。その後、作業船14のウィンチ16からワイヤーやチェーン等の索体18で被覆石12を吊り下げ、再び潜水士20による細かい位置決め作業を行いながら、所定の設置場所へと被覆石12を積み上げ、捨石10の全体を被覆する(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】昭和58年3月25日、海洋土木大辞典編集委員会編集、「海洋土木大辞典(初版)」、p423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の捨石10の荒均し作業において、作業船14が波によって上下に揺れると、作業船14の揺れが索体18を介して捨石10に伝わり、作業船14のウィンチ16で捨石10を吊上げる際に、捨石10に不用意な昇降動作を来たし、かつ、索体18に緩みが生じることもある。又、水中で捨石10に索体18を巻き付ける作業は、潜水士20が手作業で行う必要があることから、波浪による作業船の上下動により、索体18を巻き付ける際に潜水士20の手先が捨石10に挟まれる等の事故が生じるおそれがある。
【0005】
このため、作業船14の揺れが索体18を介して捨石10に伝わることを防ぐために、潜水士20は、意図的に索体18に緩みを与える必要があった。又、かかる緩みを与えることによる索体18のズレを防ぐために、吊上げ時には捨石10の地切りまで潜水士20が索体18を保持する必要があった。しかしながら、意図的に与えた索体18の緩み以上に作業船14が揺れると、結局は捨石10が不意に持ち上げられることになることから、潜水士20は、常に事故を想定し、これを回避するよう作業を進める必要があった。又、吊り作業中に捨石10が着底してしまうと、索体18が緩み、捨石10が索体18から脱落して作業の進行を遅らせる原因ともなっていた。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、波浪による作業船の上下動の如何に関わることなく、潜水士による水中での重量物の吊上げ、移設等の作業をより安全かつより円滑に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る水中作業用吊り具は、水底の重量物を船上から吊上げ移設させる作業を行うための索状の吊り具であって、水中において重量物の吊上げを可能としつつ、船の揺れを打ち消すための、ダンパー機能を具備するものである。
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)水底の重量物を船上から吊上げ移設させる作業を行うための吊り具であって、荷重を担持する高強度索体と、前記高強度索体の二点間を短絡するようにして両端が前記高強度索体に固定された弾性索体とを含む水中作業用吊り具(請求項1)。
本項に記載の水中作業用吊り具は、荷重を担持する高強度索体の二点間を短絡するようにして、弾性索体の両端が高強度索体に固定されることにより、高強度索体の弾性索体によって短絡された部分は、高強度索体の担持する荷重に応じ弾性索体が伸縮して、実質的長さが変化する。このため、船上から本水中作業用吊り具を水中に吊り下げて、水底の捨石に巻き付けた状態で、船が波によって上下に揺れても、船の上下動を、高強度索体の弾性索体によって短絡された部分の実質的長さが弾性索体の伸縮に応じて変化することにより、吸収するものである。
【0008】
(2)上記(1)項において、前記高強度索体の、前記弾性索体によって短絡される部分の長さは、作業時に予測される水面の波高に応じて設定されている水中作業用吊り具(請求項2)。
本項に記載の水中作業用吊り具は、高強度索体の、弾性索体によって短絡される部分の長さが、作業時に予測される水面の波高に応じて設定されることで、船上から本水中作業用吊り具を水中に吊り下げて、水底の捨石に巻き付けた状態で、船が波によって上下に揺れても、高強度索体の弾性索体によって短絡された部分の実質的長さが弾性索体の伸縮に応じて変化することにより、船の上下動を確実に吸収して、船の揺れが高強度索体を介して捨石に伝わることを防ぐものである。
【0009】
(3)上記(1)、(2)項において、前記高強度索体の、前記弾性索体によって短絡される部分の長さは、前記弾性索体の引張破断長未満である水中作業用吊り具(請求項3)。
本項に記載の水中作業用吊り具は、高強度索体の、弾性索体によって短絡される部分の長さが弾性索体の引張破断長未満であることから、高強度索体の弾性索体によって短絡された部分の実質的長さが伸長する際に、弾性索体が破断する前段階で高強度索体によって荷重を全て担持し、弾性索体の破断を回避するものである。従って、弾性索体に必要な柔軟性を与えることができる。
【0010】
(4)上記(1)から(3)項において、前記高強度索体にはチェーン又はワイヤーが用いられ、前記弾性索体にはゴムバンドが用いられる水中作業用吊り具(請求項4)。
本項に記載の水中作業用吊り具は、高強度索体にはチェーン又はワイヤーが用いられ、弾性索体にはゴムバンドが用いられることで、特殊な構成部品を調達することなく、上記(1)から(3)項記載の機能を発揮するものとなる。
なお、弾性索体には、潜水士が水中で作業を行うに適した伸縮性や、入手の容易性の観点から、天然ゴム(アメゴム)からなるゴムバンドを用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明はこのように構成したので、波浪による作業船の上下動の如何に関わることなく、潜水士による水中での重量物の吊上げ、移設等の作業をより安全かつより円滑に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態に係る水中作業用吊り具を示す模式図である。
【図2】図1に示された水中作業用吊り具を用いた、重量物の吊上げ作業の様子を示す説明図である。
【図3】従来の、潜水士による被覆工の作業の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、従来技術と同一部分若しくは相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る水中作業用吊り具22は、図1に示されるように、荷重を担持する高強度索体としてのチェーン24と、チェーン24の二点間を短絡するようにして両端がチェーン24に固定された弾性索体としてのゴムバンド26を含んでいる。チェーン24は、従来から水底の捨石10の荒均し作業を行う際に用いられているものを、そのまま用いることが出来る。又、ゴムバンド26は、いわゆるアメゴムを、捨石10の重さに応じて折り返して束ねた状態で、チェーン24に固定する。アメゴムは天然ゴム素材を用いたものであり、様々なゴム幅のものを容易に入手することが可能である。そして、チェーン24の適切な二箇所にシャックルを装着して、このシャックルにゴムバンド26の両端を縛り付けることで、簡単かつ確実に水中作業用吊り具22を構成することができる。なお、高強度索体としては、チェーン24のみならず、ワイヤー18を用いることも可能である。
【0014】
なお、チェーン24のゴムバンド26によって短絡される部分の長さは、作業時に予測される水面の波高に応じて設定されることが望ましい。又、チェーン24のゴムバンド26によって短絡される部分24aの長さLsは、ゴムバンド26の引張破断長未満となっていることが望ましい。
本発明者らの試行によれば、ゴム厚1mm、ゴム幅16mm〜60mmのアメゴムのうち、特にゴム幅40mmのものの弾性が、本作業に最も適していた。
より具体的には、200kg/個の捨石10の荒均し作業において、ゴム幅40mmのアメゴムを4重に折り曲げて束ね(弾性係数:23kgf/m程度)、かつ、無負荷時のゴムバンド26の長さLf(図2(a)参照)と、チェーン24のゴムバンド26によって短絡される部分24の長さLs(図2(c)参照)とが、1:2(例えば、Lf=500mm、Ls=1000mm)となるように構成することで、ゴムバンド26が適切な弾性を発揮し、作業が円滑に行われるものとなった。
【0015】
図2には、本発明の実施の形態に係る水中作業用吊り具22を用いた、捨石10の吊上げ作業の様子を模式的に示している。図2(a)は水底の荒均し作業を行う捨石10に水中作業用吊り具22のチェーン24を巻き付け、かつ、水中作業用吊り具22に捨石10の荷重が加わっていない無負荷の状態を示している。
このとき、ゴムバンド26と、ゴムバンド26下方のチェーン24に緩みが生じないように、チェーン24を捨石10に巻き付けることが望ましい。なお、ゴムバンド26には、捨石10とゴムバンド26の下端部との間のチェーン24の重量しか加わっていないことから、ゴムバンド26の長さLfは無負荷時の長さと同一ないし略同一である。
【0016】
図2(a)の状態から、作業船14のウィンチ16(図3参照)によりワイヤー18を巻き上げると、図2(b)に示されるようにゴムバンド26が延び、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aの実質的長さが、ゴムバンド26の伸張に応じて延びる。この状態は、作業船14(図1、図3参照)が波によって上下に揺れた場合も同様となる。
【0017】
そして、作業船14のウィンチ16によるワイヤー18の巻き上げが進行すると、ゴムバンド26は、図2(c)に示されるように、チェーン24のゴムバンド26によって短絡される部分24の長さLsまで伸び、チェーン24に捨石10の荷重の全てが掛かることで、捨石10が水中に吊上げられる。なお、図1(a)の状態において、作業船14(図1、図3参照)の上下の揺れ幅が、チェーン24のゴムバンド26によって短絡される部分24の長さLsを超えるような場合も、同様となる。
【0018】
さて、上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、荷重を担持するチェーン24の二点間を短絡するようにして、ゴムバンド26の両端がチェーン24に固定されていることにより、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aは、図2(a)から(c)に示されるように、チェーン24の担持する荷重に応じゴムバンド26が伸縮して、実質的長さが変化する。このため、作業船14の船上から水中作業用吊り具22を水中に吊り下げて、水底の捨石10に巻き付けた状態で、作業船14が波によって上下に揺れても、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aの実質的長さがゴムバンド26の伸縮に応じて変化することにより、作業船14の上下動を吸収することができる。
【0019】
従って、水中作業用吊り具22が無付加の状態(図2(a)参照)では、潜水士20(図3参照)は、水中作業用吊り具22に意図的に緩みを持たせなくとも、常に作業用吊り具22の張りにゆとりを与えた安全な状態で、作業を行うことができる。又、不意に作業船が上下に大きく揺れるような場合でも、ゴムバンド26が伸びきってチェーン24に捨石10の荷重が加わる状態になるまで時間的余裕が与えられることから、潜水士20には危険回避が容易となる。
又、ゴムバンド26の張力により、ゴムバンド26と、ゴムバンド26下方のチェーン24とに緩みが生じないことから、捨石10とチェーン24とのズレが生じ難くなり、潜水士20は、地切り前に捨石10に対する安全距離を確保することができる。
【0020】
又、潜水士20はゴムバンド26の状態、すなわちゴムバンド26が緩んでいるか否かによって、捨石10に対するチェーン24の巻き付け作業が確実になされているかを、目視判断することが出来る。
更には、吊り作業中に捨石10が着底しても、ゴムバンド26の張力が作用して、ゴムバンド26とゴムバンド26下方のチェーン24に緩みが生じないことから、捨石10がチェーン24から脱落することを回避することができる。
【0021】
なお、本発明の実施の形態では、チェーン24の、ゴムバンド26によって短絡される部分24aの長さLs(図2(c)参照)が、作業時に予測される水面の波高に応じて設定されることで、作業船14が波によって上下に揺れても、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aの実質的長さがゴムバンド26の伸縮に応じて変化することにより、作業船14の上下動を確実に吸収して、作業船14の揺れがチェーン24を介して捨石10に伝わることを、可能な限り防ぐことができる。
【0022】
又、チェーン24の、ゴムバンド26によって短絡される部分24aの長さLsをゴムバンド26の引張破断長未満とすることで、チェーン24のゴムバンド26によって短絡された部分24aの実質的長さが伸長する際に、ゴムバンド26が破断する前段階でチェーン24によって荷重を全て担持し、ゴムバンド26の破断を回避することができる。従って、ゴムバンド26に必要な柔軟性を与えることができる。
しかも、本発明の実施の形態に係る水中作業用吊り具22は、チェーン22又はワイヤー18とゴムバンド26とにより構成されることから、特殊な構成部品を調達することなく上記作用効果を得ることが可能となる。又、必要に応じてゴムバンド26を油圧ショックアブソーバー等に交換することで、水中作業用吊り具22の耐久性を向上させることも可能である。
【符号の説明】
【0023】
10:捨石、12:被覆石、14:作業船、16:ウィンチ、18:ワイヤー、20:潜水士、22:水中作業用吊り具、24:チェーン、24a:ゴムバンドによって短絡される部分、26:ゴムバンド、Lf:無負荷時のゴムバンドの長さ、Ls:チェーンのゴムバンドによって短絡される部分の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底の重量物を船上から吊上げ移設させる作業を行うための吊り具であって、荷重を担持する高強度索体と、前記高強度索体の二点間を短絡するようにして両端が前記高強度索体に固定された弾性索体とを含むことを特徴とする水中作業用吊り具。
【請求項2】
前記高強度索体の、前記弾性索体によって短絡される部分の長さは、作業時に予測される水面の波高に応じて設定されていることを特徴とする請求項1記載の水中作業用吊り具。
【請求項3】
前記高強度索体の、前記弾性索体によって短絡される部分の長さは、前記弾性索体の引張破断長未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の水中作業用吊り具。
【請求項4】
前記高強度索体にはチェーン又はワイヤーが用いられ、前記弾性索体にはゴムバンドが用いられることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の水中作業用吊り具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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