説明

水中放電装置

【課題】定量的に安定した放電を起こすことができる水中放電装置の提供。
【解決手段】処理槽3と、処理槽3内の途中まで入り込み、下端開口9が処理槽3内と連通した絶縁性の中空体7と、高電圧ケーブル15の先端に放電側電極17が設けられた放電部を備える。中空体7内に高電圧ケーブル15が挿入され、その先端の放電側電極17が中空体7内で下端に配されている。この装置では、中空体7内が絶縁性のガスで満たされた雰囲気中で放電が起こる。好ましくは、放電側電極17に対向して対極電極5を設けてより安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中で放電させる水中放電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、非特許文献1に示すように、水中で放電させると、殺菌や水質浄化が図れることが知られており、実用的な一手法としてパルス高電圧を印加して水中で放電を起こすことが提案されている。
而して、パルス高電圧を印加しても、殺菌対象物の種類や水質によっては、水の導電率が上がり、放電が起こり難くなるため、非特許文献2では、実用化に向けて、放電電極間を空気でバブリングして気泡を作り出して放電を起こり易くした水中放電装置が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】太田幸治、谷村泰宏著「水中放電プラズマを利用した除菌技術」電気学会論文誌Vol.131 No.2 2011 社団法人電気学会 p.80-83
【非特許文献2】須貝太一、鈴木文刀、南谷靖史、東山禎夫著「水中パルスパワー放電を用いた有機色素脱色のバブリングによる高効率化」電気学会論文誌Vol.32 No.1 2008 社団法人電気学会 p.19-24
【非特許文献3】高木浩一、猪原哲著「パルスパワー技術の農業・食品分野への応用」電気学会論文誌Vol.129 No.7 2009 社団法人電気学会 p.439-445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近では、非特許文献3に示すように、きのこの菌床にパルス高電圧の電気的刺激を与えると、きのこの発生を促進する効果があることまで判明しており、その他の農産物でも同様な効果が予測される。
そのため、上記したような水中放電装置を菌床や種子の前処理にも積極的に活用する方向で期待されているが、きのこでは50kV程度の高電圧パルスが適すると報告されているように、その種類により放電エネルギーの適した範囲があることが想定される。
しかしながら、作り出された気泡の大きさや形状はまちまちであり、その結果として放電エネルギーもまちまちとなっている。
【0005】
本発明は、上記従来の問題点に着目して為されたものであり、定量的に安定した放電を起こすことができる水中放電装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、液体の入った処理槽と、前記処理槽内の途中まで入り込み、下端開口が処理槽内と連通した絶縁性の中空体と、高電圧ケーブルの先端に放電側電極が設けられた放電部を備え、前記中空体内を前記液体の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度のガスで満たし、前記放電側電極を前記中空体内のガス中または前記処理槽の液中に配し、前記液体をアースするか前記中空体内にアース電極を配して、前記中空体内のガス中で放電させることを特徴とする水中放電装置である。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載した水中放電装置において、中空体内の電極から中空体の下端開口までの距離は調整可能となっていることを特徴とする水中放電装置である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した水中放電装置において、中空体内の電極と対向して処理槽内に対極電極が配されていることを特徴とする水中放電装置である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した水中放電装置において、中空体は内部が視認可能に透明になっていることを特徴とする水中放電装置である。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した水中放電装置において、中空体内が酸素ガスで満たされていることを特徴とする水中放電装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水中放電装置によれば、定量的に安定した放電を起こすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る水中放電装置の処理槽側の一部断面側面図である。
【図2】図1の水中放電装置の全体の構成図である。
【図3】図2の放電部の高電圧発生ユニット側の構成図である。
【図4】図3の高電圧発生ユニットの電気的構成図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る水中放電装置の処理槽側の一部断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施の形態に係る水中放電装置1を、図面にしたがって説明する。
この水中放電装置1はきのこの菌床Kに電気的刺激を与えるために利用されている。
符号3は処理槽を示し、この処理槽3は上面が開口している。処理槽3は導電性の素材で形成され、且つアースされている。また、処理槽3の底部の中心には円錐状の対極電極5が設置されている。
この処理槽3には、上記した目的に対応して、被処理対象である菌床Kが入れられ、更に水Wで満たされる。
【0014】
符号7は同径円筒状の中空体を示す。この中空体7の軸方向一端側は全面開口しているが、他端側には挿入口が形成されており、その挿入口を閉塞すれば他端側は密閉されるようになっている。また、中空体7は絶縁性の透明基材で形成されており、内部が外側から視認可能になっている。
中空体7は、適宜な固定手段(図示省略)により、全面開口側が下端開口9をなして真直ぐに立ち上がった状態に設置されており、その下部は処理槽3内の途中まで入り込んでいる。但し、下端開口9は処理槽3の底面には到達しておらず、中空体7内と処理槽3とは下端開口9を介して連通状態となっている。
【0015】
また、下端開口9には上記した対極電極5が下側から対向しており、中空体7の中心軸上に対極電極5の頂点がある。対極電極5の頂部は下端開口9から中空体7内に僅かながら入り込んでいる。
【0016】
符号11はガス供給チューブを示し、このガス供給チューブ11は中空体7の側面に連結されている。ガス供給チューブ11の先方にはガス供給手段としてのポンプ(図示省略)が接続されており、ポンプの駆動により空気(A)がガス供給チューブ11を通って中空体7内に供給されるようになっている。
【0017】
中空体7の挿入口を通って放電部13の高電圧ケーブル15が貫入している。この高電圧ケーブル15は導電線を絶縁性樹脂で覆ったもので構成されており、その導電線の先端には球状の放電側電極17が露出した状態で連結されている。
高電圧ケーブル15は中空体7内を軸方向中心に沿って下ろされており、放電側電極17が下端に配されている。この放電側電極17は中空体7の下端開口9より上方に位置しており、この水中放電装置1では、放電側電極17の下端から下端開口9までの距離(D1)が放電ギャップとして機能するようになっている。
【0018】
中空体7内では、高電圧ケーブル15及び放電側電極17の周囲に隙間があいている。この隙間には、上記したガス供給チューブ11を通って空気(A)が常に供給され、この隙間は供給された空気(A)で満たされるようになっており、過剰分は気泡となって放出される。
【0019】
中空体7の挿入口側にはケーブルグランド19が設けられており、高電圧ケーブル15はこのケーブルグランド19に締結されて中空体7内に挿入した状態で固定されている。ケーブルグランド19を緩めることで、高電圧ケーブル15はさらに下ろしたり引き上げたりでき、結果として下端にある放電側電極17と中空体7の下端開口9との距離(D1)は調整可能となっている。
また、中空体7の挿入口側は処理槽3の上端より高く上がっており、ケーブルグランド19から出ている高電圧ケーブル15は処理槽3の水位より十分な高さにあり、十分な絶縁距離(D2)が確保されている。
【0020】
上記した高電圧ケーブル15の先には、図2に示すように、放電部13を構成する高電圧発生回路ユニット21と高電圧コントローラ51とが接続されており、共に設置型ハウジング内に格納されている。図3に示すように、高電圧発生回路ユニット21は低電圧ケーブル23を介して高電圧コントローラ51と接続されている。
【0021】
図4に示すのは、高電圧発生回路ユニット21の電気的構成であり、高電圧発生回路25側では、入力側には複数の端子27(27a〜27g)を有するメタルコネクタ29が備えられている。その右側には昇圧変圧器31が配置されており、昇圧変圧器31の右側にはコッククロフトウォルトン回路33が配置されている。コッククロフトウォルトン回路33は複数のコンデンサ35と複数のダイオード37とから成っている。コッククロフトウォルトン回路33の右側には出力用抵抗39が配置されており、出力用抵抗39の右側には出力端41が配置されている。昇圧変圧器31、コッククロフトウォルトン回路33の下側にはブリーダ抵抗43、45、保護抵抗47が配置されている。符号49は温度センサを示し、この温度センサ49は昇圧変圧器31の近傍に配置されている。
この高電圧発生回路25に調整用のコンデンサ50が並列配置されている。
【0022】
昇圧変圧器31の一次側コイルは端子27a、27b、27cを介して高電圧コントローラ51に接続されている。昇圧変圧器31の二次側コイルはコッククロフトウォルトン回路33に接続されている。コッククロフトウォルトン回路33の高電圧側には出力用抵抗39の一端が接続されており、この出力用抵抗39の他端は出力端41に接続されている。
また、コッククロフトウォルトン回路33の高電圧側にはブリーダ抵抗43の一端が接続されており、ブリーダ抵抗43の他端にはブリーダ抵抗45の一端が接続されている。ブリーダ抵抗45の他端は端子27fを介して高電圧コントローラ51に接続されており、高電圧コントローラ51内で接地されている。
【0023】
ブリーダ抵抗43とブリーダ抵抗45との接続点は端子27eを介して高電圧コントローラ51に接続されている。
昇圧変圧器31の二次側コイルの一端は端子27dを介して高電圧コントローラ51に接続されている。保護抵抗47の一端は端子27dに接続され、他端は端子27fに接続されている。
また、温度センサ49の一端は端子27gを介して高電圧コントローラ51に接続されており、他端はメタルコネクタ29を介して高電圧コントローラ51内で接地されている。
【0024】
高電圧コントローラ51には、CPU53の他に、高電圧パルスの印加方法、即ち、電圧、時間等を規定したプログラムが記憶されたメモリ55と、直流電源の電源ラインに介挿されるトランジスタ57が備えられている。
高電圧コントローラ51は、制御手段としての機能を担っており、上記構成要素のプログラムに従った制御・監視により、入力電圧・電流値、出力電圧・電流値、温度異常を監視しながら、所望の高電圧の安定した発生を可能としている。プログラムは固定でなく、オンボード上での書き換えが可能となっている。
【0025】
水中放電装置1は、上記した構成を備えており、高電圧発生回路ユニット21で高電圧パルスを発生させると、中空体7の空気(A)中で放電側電極17から放電される。放電側電極17には対極電極5が対向しているので、放電エネルギーは定量的により安定したものとなっている。
また、中空体7内での放電は目視できるので、アクシデントで水の逆流が起こった場合には直ちに知ることができる。
さらに、コッククロフトウォルトン回路を利用して、所望の高電圧パルスを発生できており、コンパクトで取り扱い易く、実用性の高い水中放電装置1を実現している。
【0026】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る水中放電装置101について、図5に従って説明する。
水中放電装置101は第1の実施の形態に係る水中放電装置1と同じ構成部分を有しており、その部分は同じ符号を付すことで説明を省略する。
この水中放電装置101では、放電部13の高電圧ケーブル15が処理槽3内に差し込まれており、水と接液されている。
中空体103は第1の実施の形態の中空体7と基本的に同じ構成になっているが、長さが短くなって、処理槽3内への入り込み深さがその分だけ浅くなっている。そのため、対極電極5は中空体103内には入り込んでいない。
【0027】
中空体103内には放電部13の高電圧ケーブル15の代わりに、アースライン105が中空体103の挿入口を通って貫入している。このアースライン105は導電線を絶縁性樹脂で覆ったもので構成されており、その導電線の先端には球状のアース電極107が露出した状態で連結されている。
アースライン105は中空体103内を軸方向中心に沿って下ろされており、アース電極107が下端に配されている。このアース電極107は中空体103の下端開口9より上方に位置しており、この水中放電装置101では、アース電極107の下端から下端開口9までの距離(D1)が放電ギャップとして機能するようになっている。
処理槽3は絶縁台109に載せられており、この絶縁台109がアースされている。
【0028】
水中放電装置1では、液体をアース、ガス周辺電極を高電圧としているが、この水中放電装置101のように、逆に液体を高電圧、ガス周辺電極をアースとすることも可能である。
【0029】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、上記の実施の形態では、高電圧発生回路としてコッククロフトウォルトン回路が利用されている。小型で、比較的容易に、しかも安価に入手できるようになっているからである。しかしながら、これに限らず、静電発電機、ウィムスハースト発電機、ヴァンデグラーフ発電機、圧電トランス高電圧発生装置などを利用してもよい。
また、中空体内を満たすガスは、一般的に言われている絶縁ガスである必要はなく、処理槽を満たす液多の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度を示すものであればよい。その一例として、空気に代えて、酸素を中空体に供給してもよい。酸素にするとオゾンの発生が多くなり殺菌効果が増すことから、用途によっては好ましい場合がある。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の水中放電装置は、殺菌や水質浄化だけでなく、農産物に対して電気的刺激を与えるような定量的制御な必要なものにも適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1…水中放電装置(第1の実施の形態)
3…処理槽 5…対極電極
7…中空体 9…下端開口
11…ガス供給チューブ 13…放電部
15…高電圧ケーブル 17…放電側電極
19…ケーブルグランド
K…菌床 W…水 A…空気
D1…放電ギャップ距離 D2…絶縁距離
101…水中放電装置(第2の実施の形態)
103…中空体 105…アースライン
107…アース電極 109…絶縁台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の入った処理槽と、前記処理槽内の途中まで入り込み、下端開口が処理槽内と連通した絶縁性の中空体と、高電圧ケーブルの先端に放電側電極が設けられた放電部を備え、前記中空体内を前記液体の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度のガスで満たし、前記放電側電極を前記中空体内のガス中または前記処理槽の液中に配し、前記液体をアースするか前記中空体内にアース電極を配して、前記中空体内のガス中で放電させることを特徴とする水中放電装置。
【請求項2】
請求項1に記載した水中放電装置において、
中空体内の電極から中空体の下端開口までの距離は調整可能となっていることを特徴とする水中放電装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した水中放電装置において、
中空体内の電極と対向して処理槽内に対極電極が配されていることを特徴とする水中放電装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した水中放電装置において、
中空体は内部が視認可能に透明になっていることを特徴とする水中放電装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した水中放電装置において、
中空体内が酸素ガスで満たされていることを特徴とする水中放電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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