説明

水中植物用肥料

【課題】水中の窒素、リン等の濃度低下による水中植物の栄養塩欠乏の回復のために用いる水中植物用肥料が、施肥容器内において固結することを防止することを目的とする。
【解決手段】水との接触により気体を発生する成分を含有することを特徴とする水中植物用肥料である。気体を発生する成分として、発泡剤と水溶性固体酸からなるものを好適に用いることができ、発泡剤の具体例として、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのうち1種以上を、水溶性固体酸の具体例として、有機酸を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の窒素、リン等の濃度低下による水中植物の栄養塩欠乏の回復に有用な水中植物用肥料に関し、とりわけ水との接触により気体を発生する成分を含有することを特徴とする水中植物用肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の普及、工場排水規制の強化などに伴い河川からの栄養塩の供給量が低下し、海藻の養殖に必要な窒素やリンが不十分となり、海苔やワカメなどの海藻でしばしば色落ち現象が発生するようになっている。また、養殖牡蠣では餌となる植物プランクトンの減少により生育が不十分になる現象が起きている。
【0003】
このような海水の栄養塩濃度の低下に備えて、海藻、特に海苔養殖において、粒状肥料を入れた施肥装置を支柱や海苔網近傍のロープに設置することが行われている。肥料成分の肥効として緩効性が求められることより、被覆肥料を用いる例も見られるが、残存する被覆樹脂の殻の処分問題がある。そこで、特許文献1では、尿素を使用しても急激に肥料成分が溶出しないように、孔径と孔の面積を調節した海苔養殖用施肥容器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−273424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の海苔養殖用施肥容器において普通粒状肥料を用いた場合、特に冬期の海水温が低い時期には肥料の溶解速度が遅いため、施肥容器内に浸入した初期の水分が肥料の表面をゆっくりと溶解させると推定される。このような肥料表面の緩慢な溶解が、肥料粒同士の固結さらには塊状化を引き起こすと考えられる。肥料が塊状化した場合、肥料全体の表面積が小さくなるために肥料の溶解速度が遅くなり、その結果、施肥容器からの肥料の溶出速度が想定よりも相当程度遅くなる問題があった。
【0006】
そこで本発明は、水中に設置した施肥容器内で生ずる水中植物用肥料の固結を防止することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、水との接触により気体を発生する成分を肥料に含有させることによって肥料の固結が防止できることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成させたものである。
【0008】
即ち、本発明は、水との接触により気体を発生する成分を含有することを特徴とする水中植物用肥料に関する。
また、本発明は、水との接触により気体を発生する成分が、発泡剤と水溶性固体酸からなる水中植物用肥料に関する。
さらに、本発明は、発泡剤が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのうち1種以上である水中植物用肥料に関する。
また、本発明は、水溶性固体酸が有機酸である水中植物用肥料に関する。
さらにまた、本発明は、水溶性固体酸に対する発泡剤の化学当量比が0.5〜2である水中植物用肥料に関する。
また、本発明は、発泡剤が、肥料100質量部に対し0.2〜2質量部である水中植物用肥料に関する。
また、本発明は、上記いずれかの水中植物用肥料を、孔径0.1〜1mmの多孔性容器に収容した水中植物用施肥装置に関する。
さらに、本発明は、前記水中植物用施肥装置を用いた水中植物への施肥方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水中植物用肥料は、水との接触により気体を発生する成分を含有するので、発泡により肥料の固結は防止され、肥料は円滑に溶解し水中に放出される。特に、粒状肥料において下部の肥料粒に大きな荷重がかかるときあるいは水の揺動が小さいときに本発明の効果は特によく発揮される。例えば、管状の施肥装置を長軸が鉛直方向となるように設置した場合、あるいは、海や湖沼が凪ぎ状態にあるとき優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のについて詳細に説明する。
本発明の水中植物用肥料は、水との接触により気体を発生する成分(以下、「気体発生成分」と云う)を含有することを特徴とするものである。
【0011】
気体発生成分と肥料は、粒状又は粉状のいずれでもよいが、気体発生成分は発泡による固結防止の効果の観点から粉状が特に好ましく、肥料は取り扱い容易性の点から粒状が特に好ましく、その場合の粒子径としては0.5〜5mm程度のものが好適に使用される。
【0012】
本発明の水中植物用肥料は気体発生成分を含有するものであるが、その態様としては、気体発生成分と肥料を混合して使用することが望ましい。混合は均一になるように混合することが望ましいが、水中に設置した状態の水中施肥装置の下部に気体発生成分が多く偏在するような混合状態となっても構わない。また、別の態様として、気体発生成分を肥料と一体化させる場合は、できるだけ水を使わずに造粒する方法が好ましく、例えば、粉状の気体発生成分を粒状肥料に圧密化させて一体化させる方法、あるいは、粉状の気体発生成分と粉状の肥料とを加圧造粒する方法などが挙げられる。このような方法によって両者を一体化させたものに、必要ならばさらに気体発生成分を混合してもよい。
【0013】
肥料の種類としては、水中植物に肥効を示すものであれば特に限定されないが、窒素成分及び/又はリン成分を含有するものが好適である。例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム等が挙げられる。
【0014】
気体発生成分は、発泡剤と水溶性固体酸からなるものであることが好ましい。尚、両者はよく混合されていることが好ましい。発泡剤としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのうち1種以上からなるものが好ましい。アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属炭酸水素塩の具体例として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。水溶性固体酸とは、水に溶けて酸性を示すものを云う。水溶性固体酸としては有機酸と無機酸のいずれでも良く、有機酸としてはクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、アスコルビン酸等が挙げられ、無機酸としてはホウ酸、リン酸二水素カリウム等が挙げられる。これら水溶性固体酸は単独または2種以上を併用してもよい。
【0015】
発泡剤と水溶性固体酸の割合は、水との接触により気体が発生すれば特に制限はないが、水溶性固体酸に対する発泡剤の化学当量比が0.5〜2の範囲が好ましく、1〜1.5の範囲がさらに好ましい。1〜1.5の範囲であれば、気体を発生させるのに発泡剤と水溶性固体酸とを効率的に反応させることができるので最も好都合である。
また、肥料に対する気体発生成分の割合は、両者の混合形態、施肥装置に充填する肥料の量、種類や形状、施肥装置の種類、設置方法、湖沼水、河川水、海水等水質の種類、水温、発泡剤の種類等によって若干異なり適宜設定すれば良いが、肥料100質量部に対し発泡剤が0.2〜2質量部の範囲が好ましい。0.2質量部未満であれば、肥料の固結を十分に防止することが困難となり、一方、2質量部を超えても固結防止の効果は得られるが、コスト増となるため経済的ではない。
【0016】
本発明の水中植物用肥料の最適使用方法は、肥料を細孔を有する容器に収容して使用する方法である。収容する容器としては、孔径0.1〜1mmの多孔性容器が推奨される。前記孔径の範囲は、肥料の溶出速度を制御するための好適な範囲である。例えば、孔径が0.1mm未満となると、初期の海水流入に時間を要するため肥料成分の初期溶出が遅れたり、細孔数を極めて多数作成する手間が生じたりする。一方、孔径が1mmを超えると、単に孔数を調整しても溶出速度を調整することが著しく困難となる。
尚、多孔性容器の細孔の総面積は、肥料の種類、容器の形状、気体発生成分の種類や量的割合等によって異なるが、容器の全表面積に対して0.000001〜0.001であることが好ましい。また、藻類や異物などによって一部の細孔で閉塞が起きても支障の無いように、細孔の孔数は少なくとも5個以上であることが好ましい。
本発明では、水との接触によって気体発生成分から発生した気体が肥料の固結を防止するために有効に作用すると推定されるが、上記多孔性容器では細孔径と細孔面積が小さいため、発生した気体が容器に長時間滞留して容器内の圧力が高くなり固結防止の効果がより得られ易いと考えられる。
【0017】
また、上記多孔性容器の材質としてはポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂等の可撓性材料、ポリ塩化ビニール樹脂、ポリプロピレン樹脂等の剛直性樹脂等が好んで使用されるが、必要に応じて、その保護のため、あるいはさらに肥料の溶出制御を行うために、上記多孔性容器を外装容器内に収容しても良い。外装容器についてはその使用目的に応じて、孔を有するものやネット状のもの等を適宜選択すればよい。
【0018】
上記の水中植物用施肥装置を用いた水中植物への施肥方法については、特に制限されることはなく、対象となる水中植物に効果的に施肥できるように前記施肥装置を海域あるいは淡水域の任意の場所に設置すればよい。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
肥料として、硫酸アンモニウム(住友化学株式会社製 肥料の名称「住友21.0硫酸アンモニア」、粒状)と、硝酸アンモニウム(住友化学株式会社製 肥料の名称「住友34.4防結性粒状硝酸アンモニア」、粒状)を用いた。
発泡剤として炭酸水素ナトリウムと炭酸ナトリウムを、水溶性固体酸としてクエン酸、リンゴ酸、酒石酸を用いた(いずれも和光純薬工業(株)製試薬、粉状)。
【0020】
〔実施例1〕
炭酸水素ナトリウム18.3gとクエン酸15.4gをよく混合したものを調製した後、硫酸アンモニウム1650gと混合して水中植物用肥料を作製した。
〔実施例2〜7〕
実施例1と同様にして、表1に示した原料と配合割合で水中植物用肥料を作製した。
〔比較例1〜3〕
実施例1と同様にして、表1に示した原料と配合割合で水中植物用肥料を作製した。
【0021】
【表1】

【0022】
次に試験例を示す。
表1の水中植物用肥料をそれぞれ無孔のポリエチレン製のチューブタイプの袋(長さ700mm、幅100mm)に入れて開口部を密閉した。ただし、袋の封止部に挟まれた肥料収容部の長さは650mmとした。肥料収容部には0.5mm径の細孔を開けた。細孔の位置は、両端の封止部から各250mmの範囲内に等間隔となるように4箇所ずつとし、その反対面にも同様に細孔を開けた(細孔の数は合計16箇所)。この袋を肥料収容部のほぼ真ん中で2つ折りにして、折った部分は結束バンドで縛った。ただし、水中植物用肥料は、2つ折りでできた左右の部分にほぼ均等に分かれるようにした。
次に、10℃恒温器内において、容器に満たした人工海水中に、2つ折り部分が上になるようにして袋全体を完全に沈めた。沈めた時点からの袋の状態を経時的に観察した。尚、2つ折りにした左右の袋の経時状態はほぼ同じであった。ただし、細孔の孔径が小さいため、袋を人工海水中に沈めてからすぐには人工海水は袋内に流入せず、袋内の空気が抜け出た後(以下、「脱気」と云う)、人工海水が流入した。
【0023】
実施例1と比較例1〜3の結果を表2に示した。尚、実施例2〜5は、実施例1とほぼ同様の結果を示した。また、実施例6と7は、2日目に下部の一部でやや擬似固結気味であった以外はシャーベット状であり、6日目まで同じ状態で経過した。
【0024】
試験開始6日目に、水中植物用肥料を袋からバットに移し替えて固結の程度を確認した。その結果、実施例1〜5は、塊のないシャーベット状であり、肥料粒同士固着はほとんど見られなかった。実施例6と7は、大部分がシャーベット状であったが、数粒単位の肥料粒同士の固着が少し見られた。尚、実施例7の方が固着した数が多かった。
一方、比較例1〜3では、一部がシャーベット状であったが、大きな塊がいくつも発生していた。
【0025】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水との接触により気体を発生する成分を含有することを特徴とする水中植物用肥料。
【請求項2】
水との接触により気体を発生する成分が、発泡剤と水溶性固体酸からなる請求項1記載の水中植物用肥料。
【請求項3】
発泡剤が、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムのうち1種以上である請求項2記載の水中植物用肥料。
【請求項4】
水溶性固体酸が有機酸である請求項2記載の水中植物用肥料。
【請求項5】
水溶性固体酸に対する発泡剤の化学当量比が0.5〜2である請求項2〜4のいずれか1項記載の水中植物用肥料。
【請求項6】
発泡剤が、肥料100質量部に対し0.2〜2質量部である請求項2〜5のいずれか1項記載の水中植物用肥料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の水中植物用肥料を、孔径0.1〜1mmの多孔性容器に収容した水中植物用施肥装置。
【請求項8】
請求項7記載の水中植物用施肥装置を用いた水中植物への施肥方法。

【公開番号】特開2012−96966(P2012−96966A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246966(P2010−246966)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】