水中集魚灯
【課題】指向性を備える光源を利用して円筒状の筐体の周囲に複数の光の濃部と光の淡部を形成して魚類の蝟集・滞留性を向上した水中集魚灯を提供することである。
【解決手段】指向性を備えた複数の光源部3を配置して面状に形成される複数の発光部2と、前記発光部2を収容する光透過性を備えた筐体6とを有する水中集魚灯1であって、前記面状に形成される複数の発光部2は前記筐体6内で周方向に配置され、前記面状に形成される複数の発光部2のうち、少なくとも2個の発光部2は同一平面上に配置されず、少なくとも2個の発光部2から放射される光は他の発光部2から放射される光と干渉することなく、前記筐体6の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するものである。
【解決手段】指向性を備えた複数の光源部3を配置して面状に形成される複数の発光部2と、前記発光部2を収容する光透過性を備えた筐体6とを有する水中集魚灯1であって、前記面状に形成される複数の発光部2は前記筐体6内で周方向に配置され、前記面状に形成される複数の発光部2のうち、少なくとも2個の発光部2は同一平面上に配置されず、少なくとも2個の発光部2から放射される光は他の発光部2から放射される光と干渉することなく、前記筐体6の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に沈めて魚類を集める水中集魚灯に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光を用いる集魚に関する調査において、魚類は光に集まる傾向はあるものの、魚類によっては高照度の領域だけでなく、むしろ照度の低い領域の存在がより蝟集性と滞留性を高めることが判明しつつあり、集魚灯の集魚効果を総合的に高めるためには低照度の領域の作出が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「水中集魚灯を使用した集魚方法」という名称で、水中集魚灯の周囲に明確に分離された明領域と暗領域を任意の方向に形成し、釣果の高い領域を容易に形成できる水中集魚灯を使用した集魚方法に関する発明が開示されている。
この特許文献1に開示された発明は、ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を、上方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える水中集魚灯と、ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を下方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える水中集魚灯とを、少なくともひとつずつ船舶に吊設して水中に投下して、これらの水中集魚灯のランプの深度調整を交互に行うものである。
ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を、上方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える第1の水中集魚灯では、点灯時には下方向に暗領域を形成し、一方、ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を下方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える第2の水中集魚灯では、点灯時には上方向に暗領域を形成することができる。例えば、いか釣りの場合、これらの水中集魚灯を船舶の側部から海中に吊り下げて、第1の水中集魚灯と第2の水中集魚灯の両方を点灯させるか、又は第1の水中集魚灯のみを点灯させて、船舶から離れた領域のいかの群れを船舶の周囲に引き寄せる。そして、いかが船舶の周囲に集まった時点で、第1の水中集魚灯を消灯し、第2の水中集魚灯が未点灯であれば、点灯する。そうすると、船舶の周囲に集まったいかは、第2の水中集魚灯が形成する上方向の暗領域で、比較的浅い領域に集まってくるので、そこで釣り針によっていかを釣り上げることが可能となり、結果、釣果の高い漁法となる。
【0004】
また、特許文献2には、「水中集魚灯」という名称で、各魚種に適した水深の遊泳層域に低刺激の照射光による好適照度域をドーナツ状に形成して集魚する水中集魚灯に関する発明が開示されている。
この特許文献2に開示された発明は、透明な材質で形成され縦断面が仰向けのコ字形の光源室と、この光源室の上端部周側面に上側より挿嵌被蓋され非透光性材質で形成されたカバーキャップと、このカバーキャップの内面と光源室の底面の内面との上下に対面する位置に各々貼着された反射板及び底側反射板と、カバーキャップの中央位置に設置される発光球と、光源室及びカバーキャップに各々穿設される水の出入穴とを有するものである。
そして、この水中集魚灯を水中に降下させると、水の出入穴から光源室内に水が入り、特別な錘を設置しなくても水没していくので、所望の魚種に応じて最適の遊泳層域に降下させて静止させ、発光球を点灯すると、発光球からの光は光源室に入った水を通過して反射板及び底側反射板との間で対面反射して刺激の無い乱反射の光となって光源室の側面から魚の好む自然光に近い好適照度でドーナツ状に拡散する。このドーナツ状に拡がった最好適照度帯域の上下には、魚が集中する影の部分が広範囲に拡がり、魚類はこの部分で多く遊泳することができるので、効果的な集魚が可能となる。
【0005】
そして、発光ダイオードを用いたものとして、特許文献3には、「集魚灯」という名称で、必要な光量が得られ、小型で軽量な集魚灯に関する発明が開示されている。
この特許文献3に開示された発明は、基板に実装した発光ダイオードとこの基板を発光ダイオードに対向して配置される集光レンズを備える集光レンズ付ケースで覆う発光ダイオードモジュールと、複数個の発光ダイオードモジュールを実装した主基板と、この主基板を収納し、発光ダイオードモジュールに対向する面に光透過性カバーを備える防水ケースを有する光源ユニットと、この光源ユニットに電力を供給する電源ユニットとを備えるものである。
この発光ダイオードモジュールは、発光ダイオードと集光レンズを組合せているので、従来の発光ダイオードの光度に比べて光度を飛躍的に向上させることが可能である。そして、発光ダイオードの設置数が低減できるので低重量化が可能であり、船舶に吊設する場合に船舶の重心位置を上げ難く、船舶の復元力を保持し、安全性に優れている。また、冷却フィンを備えることにより、発光ダイオードモジュールにおいて発生する熱を効果的に逃がすことも可能になっている。
【特許文献1】特許第3573548号公報
【特許文献2】特許第3403944号公報
【特許文献3】特開2007−236214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の技術では、複数の水中集魚灯を設置し、これらの点灯及び消灯を操作することによって、明部と暗部を作出することが可能であるが、点灯及び消灯の操作は熟練を必要とし煩雑であるという課題があった。また、操作後の魚類の蝟集・滞留時間の長期化も劣るという課題もあった。
【0007】
また、特許文献2に記載された従来の技術では、刺激の無い照度の光の照射を可能にしているが、明部と暗部の形成に関しては、従来の水中集魚灯の構造と大差なく、魚類の蝟集・滞留時間の長期化が期待できないという課題があった。
【0008】
そして、特許文献3に記載された従来の技術では、発光ダイオードを用いて軽量で十分な光量の集魚灯を構成しているが、発光ダイオードの特性を利用した明確な明部と暗部の形成に関する発想は開示されていない。
【0009】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、指向性を備える光源を利用して円筒状の筐体の周囲に複数の光の濃部と淡部を形成して魚類をはじめとする多様な大型捕食性動物の蝟集・滞留性を向上させ得る水中集魚灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である水中集魚灯は、指向性を備えた複数の光源部を配置して面状に形成される複数の発光部と、前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とを有する水中集魚灯であって、前記面状に形成される複数の発光部は前記筐体内で周方向に配置され、前記面状に形成される複数の発光部のうち、少なくとも2個の発光部は同一平面上に配置されず、少なくとも2個の発光部から放射される光は互いに干渉することなく、前記筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するものである。
上記構成の水中集魚灯では、光透過性を備えた筐体の内部に収容される複数の面状の発光部において発光するように作用する。面状の複数の発光部のうち、少なくとも2個は同一平面上に配置されずに、少なくとも2個の発光部から放射される光は他の発光部から放射される光と干渉することなく、筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するように作用する。ここで、本願における複数対とは、2対以上の対を指すものである。また、発光部の少なくとも2個が同一平面上に配置されないことが必要なのは、複数の発光部が、筐体の周方向において同一平面上に縦方向あるいは横方向に配置されてしまうと発光部同士で放射される光は干渉しないものの、結局複数対の光の濃淡部を作出できないためである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1に記載の水中集魚灯において、前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の配置密度が高いものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1に記載の発明の作用に加えて、筐体の水深方向における略中央部において、筐体の水深方向における略端部よりも光度を高くするという作用を有する。
【0012】
請求項3に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1又は請求項2に記載の水中集魚灯において、前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の指向性として小さな発光角度を備えるものである。
このように構成される水中集魚灯では、略中央部の発光角度を略端部の発光角度よりも小さくして光束の密度を大きくすることで、請求項2に記載の発明の作用と同様に、筐体の水深方向における略中央部において、筐体の水深方向における略端部よりも光度を高くするという作用を有する。
【0013】
また、請求項4に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水中集魚灯において、光源部は、発光ダイオードであるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1乃至請求項3に記載の発明の作用に加えて、光源部は発光ダイオードとして発光するという作用を有する。
【0014】
そして、請求項5に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水中集魚灯において、前記光源部に接続され前記光源部の発光に必要な電力を供給する電力供給部を備え、前記電力供給部は、前記筐体に収容されるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、電力供給部を備え、その電力供給部が筐体に収容されて筐体と一体化するように作用する。
【0015】
そして、請求項6に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水中集魚灯において、筐体の内部に収容され、その端部を筐体の外部に延設し、発光部で発生する熱を筐体の外部に放散可能な放熱部を備えるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、筐体の内部に収容される放熱部は、発光部で発生する熱を筐体の外部に延設される端部を伝って筐体の外部に放散するように作用する。
【0016】
さらに、請求項7に記載の発明である水中集魚灯は、請求項6に記載の水中集魚灯において、放熱部の端部は、環状又は環の一部を切欠いて形成される係止部を備えるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項6に記載の発明の作用に加えて、放熱部の端部が備える係止部は、ロープや錘などに係止されるように作用する。
【0017】
最後に、請求項8に記載の発明である水中集魚灯は、請求項5に記載の水中集魚灯において、前記電力供給部は前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とは別個の第2の筐体に収容され、
前記筐体及び前記第2の筐体の内部に収容され,その端部を前記筐体及び第2の筐体の外部に延設し,前記発光部及び前記電力供給部で発生する熱を前記筐体及び第2の筐体の外部に放散可能な放熱部を一体又は分割して備えるものである。
上記構成の水中集魚灯では、第2の筐体は電力供給部を収容するように作用し、放熱部は、一体にあるいは分割されて筐体及び第2の筐体の両方の内部に収容され、筐体及び第2の筐体の外部にそれぞれ延設される端部を伝って、発光部及び電力供給部で発生する熱をそれぞれ筐体及び第2の筐体の外部に放散するように作用する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に記載の水中集魚灯では、筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するので、光の濃部領域によってプランクトンや底生動物などの餌料生物とそれに群がる小型魚類を引き寄せて、複数の光の濃部領域に隣接する複数の光の淡部領域においては、引き寄せられた小型魚類を捕食する大型の魚類等を潜ませつつ、光の濃部領域で小型魚類を索餌、捕食させることで、光の濃部と淡部の両方の空間を跨るように大型魚類等を長時間周回遊泳させることができる。したがって、小型魚類はもとより大型の魚類等の蝟集・滞留時間の長期化が図れるとともに、漁業従事者はこれらを捕獲することが容易となり、漁獲量あるいは釣果の向上が期待できる。さらには、作出できた光の濃淡領域においてそれぞれ適切な漁具漁法を用いることによって、漁業従事者は目的とする魚種を選択的に漁獲することができる。
【0019】
また、本発明の請求項2に記載の水中集魚灯は、複数の発光部は、筐体の水深方向においても光度の分布を持ち、筐体の略中央部には光の濃部を形成し、略端部には光の淡部を形成することができ、水深方向においても魚類の蝟集・滞留性を向上することができる。略中央部に光の濃部領域を形成してプランクトンや底生動物などの餌料生物とそれに群がる小型魚類を引き寄せておき、その上部側すなわち浅めの領域、あるいはその下部側すなわち深めの領域に大型魚類が潜伏可能な領域を形成して、水深の浅深方向において周回遊泳を可能とするものである。従って、水中集魚灯の周方向及び水深方向の両方に光の濃部領域と淡部領域を形成することができ、水中集魚灯の周囲に3次元的に長期に亘って蝟集・滞留可能な漁場を形成することができるのである。
【0020】
また、本発明の請求項3に記載の水中集魚灯も請求項2に記載の水中集魚灯と同様に、複数の発光部は、筐体の水深方向においても光度の分布を持ち、筐体の略中央部には光の濃部を形成し、略端部には光の淡部を形成することができ、筐体の水深方向においても魚類の蝟集・滞留性を向上させることができる。その他の効果も請求項2において述べたとおりである。
【0021】
また、本発明の請求項4に記載の水中集魚灯では、光源部に発光ダイオードを用いているので長寿命かつ省電力の光源を提供することが可能である。また、例えば、青色を採用することによれば、加えて環境色としての青色を嗜好する魚類の蝟集・滞留性の効果をより高めることができる。
【0022】
本発明の請求項5に記載の水中集魚灯では、電力供給部は、筐体に収容されて筐体と一体化し、装置全体がコンパクトになり、省スペース化を図ることができる。
【0023】
また、本発明の請求項6に記載の水中集魚灯では、放熱部を備えているので、発光部で発生する熱を筐体の外部に延設される端部を伝って筐体の外部に放散し、発光部及び光源部の熱による損傷を防止することができる。
【0024】
そして、本発明の請求項7に記載の水中集魚灯では、放熱部の端部が係止部を備えているので、この係止部をロープや錘などに係止すると、水中集魚灯を水中で簡単に固定したり、設置位置(水深)の調整を図ることができる。
【0025】
最後に、本発明の請求項8に記載の水中集魚灯は、発光部を収容する光透過性を備えた筐体と、電力供給部を収容する第2の筐体とに分割されるので、発光部を収容する光透過性を備えた筐体は小型化が可能となり、また、電力供給部を収容する第2の筐体は水中以外の船舶等に設置することが可能となる。また、両方の筐体に一体に跨って、あるいは分割されて放熱部を備えているので、発光部及び電力供給部で発生する熱を筐体及び第2の筐体の外部に放散して、発光部及び電力供給部の熱による損傷をより効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明に係る水中集魚灯の最良の実施の形態を図1乃至図12を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明の本実施の形態に係る水中集魚灯の概念図であり、(b)は図1(a)中にA−A線で示された部分の矢視断面図である。
図1(a)において、水中集魚灯1は、長方形状の基板4に光源部としての複数の発光ダイオード3が配設されて面状に形成される複数の発光部2と、複数の発光ダイオード3に接続されて発光ダイオード3の発光に必要な電力を供給するバッテリ5と、発光部2を収容し、光透過性を備える円筒状の第1の筐体6と、バッテリ5を収容する円筒状の第2の筐体7を有している。
また、水中集魚灯1は、第1の筐体6及び第2の筐体7のいずれもが浸水を防止するためのシール材等を備えた水密構造を備えている。また、特に水深の深い場所にて使用する場合も考慮する場合には、水密構造に加えて第1の筐体6及び第2の筐体7のいずれもが、水圧がかかった場合でも水密機能を保持し得る耐圧構造とすることが望ましい。耐圧の程度については、漁獲対象の魚類等によって適宜設定するとよい。第1の筐体6の一端部には底蓋8が嵌合され、第1の筐体6の他端部には連結部材9を介して第2の筐体7が連結されており、水中に浸漬しても第1の筐体6及び第2の筐体7の内部には水が浸入しないようになっている。
そして、底蓋8と第2の筐体7には環状に形成された第1の係止具10及び第2の係止具11がそれぞれ設置されており、これらの係止具には、海中に設置する際のロープや錘を係止することができる。なお、第1の係止具10及び第2の係止具11の形状はロープ等を係止可能な形状であれば特に限定されるものでなく、円形、三角形、四角形及び多角形状の環やこれらの環の一部を切欠いた形状など様々な形状が考えられる。もちろん、係止具はフックやシャックルのようなものが設置されている場合も含む概念である。なお、本願において、「環状」あるいは「環」とは、必ずしも「円形状」あるいは「円形」のみを意味しているのではなく、多角形などの角を有するものでもよく、端部を備えることなく連続してつながっている状態を示すものである。
【0027】
そして、第1の筐体6と第2の筐体7は一体に構成してもよく、複数の発光部2とバッテリ5を1個の筐体に収納するようにしてもよい。また、第1の筐体6と第2の筐体7は内部が通じているような連結構造にしないで、別個に構成するようにしてもよい。この場合、別個に構成される第1の筐体6と第2の筐体を接続する電源ケーブル等により装置全体の取り扱いは煩雑になるが、バッテリ5を収納する第2の筐体7は船舶等に設置して発光部2を収納する第1の筐体6をケーブルで接続しながら分離させて、これのみを海中に投じるようにすると、第2の筐体7は完全な水密構造あるいは耐圧構造にする必要はなく、第2の筐体7において構造上の簡略化や軽量化さらには信頼性の向上やコストメリットを得る可能性がある。さらに、筐体7の形状は、円筒状に限定するものではなく、中空の角柱状や角錐状、中空の球状や多面体状であってもよい。
また、光源部には指向性を有するものであれば特に発光ダイオード3に限定されるものではないが、発光ダイオード3は、発光効率が高く単位光量を得るための電力量が少ないので、電力コストが低く経済的であることはもちろんのこと、発生熱量を低く抑えることができるので水密構造に対する耐久性が高い。さらには、発光ダイオード3は点状光源であるため、自由に配置が可能であり、指向性を備える光源を配置する観点からは望ましい光源であると言える。発光ダイオード3としては、特にその発光色は限定しないが、例えば、波長が短い青色のものを用いると、多くの魚類は環境色としての青色の光を好む習性があることが知られているため、蝟集・滞留効果が高くなるという利点がある。また、青色の他には、スペクトルとして青色を含む白色を採用することで、水中においては散乱作用による青色光によって魚類の蝟集・滞留効果を促すことが可能である。なお、本実施の形態においては光源部として発光ダイオード3を用いたが、特に発光ダイオードに限定するものではなく、放熱を考慮しながら通常の水銀灯やハロゲン灯等の電球光源を用いてもよいことは言うまでもない。また、発光ダイオード3等の光源部の発光色も限定する意図はなく適宜選択・変更してもよい。さらに、発光色は基板4毎に変えたり基板4内、すなわち発光ダイオード3等の光源部毎に変えたりすることで発光部2からの光を混色させてもよい。
なお、発光部2において、発光ダイオード3は基板4の長手方向の略中央部では配置密度が高く、一方、略端部では配置密度が低くなっているが、このような発光ダイオード3の配置方法についての説明は後に詳細に行う。
【0028】
ここで、図1(b)において、第1の筐体6の水平断面をみると、発光部2は、断面形状が略正三角形状になるように配置される3個の基板4によって3個形成され、第1の筐体6の周方向に対して三方向に発光するように構成されている。
そして、水中集魚灯1の電源を投入すると、バッテリ5からの電力の供給を受けて複数の発光ダイオード3が発光し、これらの光は第1の筐体6を透過して、第1の筐体6の周囲には3個の発光部2によって3個の光の濃部が形成される。
また、発光部2を構成する複数の発光ダイオード3は指向性を備えており、発光部2の個数をnとした場合に、360/n[°]よりも小さな指向角度を有している。本実施の形態では、面状の発光部2は3個であるので、発光ダイオード3は120°よりも小さい指向角度を有するものを選定している。したがって、発光部2では、発光ダイオード3が120°よりも小さい角度の範囲内で発光するので、第1の筐体6の周囲には3個の光の濃部に隣接して3個の光の淡部を形成することができる。すなわち、3対の光の濃部と淡部が形成されている。このように発光部2の個数をnとしたときに、発光部2を構成する光源部たる発光ダイオード3が360/n[°]よりも小さな指向角度を有している場合には、発光部2が構成する面がその水平断面で正多角形を形成しているケースでは、任意の発光部2から放出される光が干渉することがないので望ましい。もちろん、正n角形の水平断面を備えた発光部2においても同様である。このように正多角形を形成する場合には、一定の間隔で光の濃淡部が形成されるので、魚類の蝟集・滞留性をより高めることが可能である。
また、この指向角度は、発光ダイオード3の反射体などで形成されるようにしてもよいし、反射体を用いることなく発光ダイオード3の構造自体で指向角度が形成されるようにしてもよい。
【0029】
次に、図2は、本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を上面からみた場合の概念図である。本実施の形態では、前述の120°よりも小さい指向角度として60°を選定している。
図2において、水中集魚灯1を点灯して海中に沈めて上面からみると、水中集魚灯1の周方向に3つの略60°方向に形成される光の濃部12に隣接して、同様に水中集魚灯1の周方向に3つの略60°方向に光の淡部13が形成されている。海中においては、光の濃部12と光の淡部13には、それぞれ種類の異なる底生動物などの餌料生物が群がってくる。そして、マアジなどの魚類が、光の濃部12に誘引されて水中集魚灯1の周囲に集まり、水中集魚灯1に群がる餌料生物を積極的に探して摂餌する。上述したような間隔で配置された光の濃淡領域では、マアジなどの摂餌は光源の全周にわたって行われるとともに、光の淡部13では同時に休息の場としても利用されている。このように、光の淡部を作出し配置することにより魚類を水中集魚灯1の周方向の全周にわたって長時間滞留させることが可能である。また、後述するように、マアジの中でも大型のものやアオリイカなどの大型の魚食性の捕食者は、光の照射域よりもむしろ周辺の光の陰影域において捕食する傾向が認められ、蝟集したマアジを捕獲し易い場所に位置取りしているとも考えられた。このようなことから、水中集魚灯1の周囲に魚類等の滞留時間を長くするためには、水中集魚灯1の周方向に光の濃淡部を形成させつつ、連続的にその光の濃淡部を移動可能にすることが重要であると考えられる。
【0030】
光源の全周にわたって蝟集・滞留性を高めるためには、360°の周方向中に少なくとも2対の光の濃部と淡部が存在しなければならない。一対の光の濃部と淡部でそれぞれの指向角度を180°とすると、濃と淡を結ぶと直線的となってしまい、少なくとも2対の光の濃部と淡部が存在する場合にこれらを濃・淡・濃・淡と結ぶ場合の周回軌道は形成されないのである。すなわち、少なくとも2個の光の濃部が必要であり、発光部は複数である必要がある。また、少なくとも2個の光の濃部を形成するためには、複数対の発光部2のうち少なくとも2個は同一平面上に存在しないように配置する必要がある。さらに、少なくとも2個の発光部2から放出される光が干渉することがないことが望ましい。特に、図2に示されるように一定の間隔でその光の濃淡部が形成される場合には、光の濃部と淡部を結ぶ軌道が正多角形に近い形となり円形に近くなるため、周回軌道の形成という観点からは望ましい。
このように本実施の形態においては、複数の発光部2を備えて規則的に複数対の光の濃部と淡部を配列しているので、従来の水中集魚灯に比べて魚類に好適な索餌空間を提供し、魚類の蝟集・滞留性を向上することを可能としている。従って漁業従事者は、より多くの漁獲高を上げることが可能であると同時に、光の濃淡領域を設けることで、小型魚類と大型魚類等のうち、目的とする魚種を選択的に漁獲することも可能である。
【0031】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の光源部について図3及び図4を用いて説明する。
図3(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光源部を説明するための概念図であり、(b)は、同じく水中集魚灯の発光の様子を側面からみた概念図であり、(c)は、同じく水中集魚灯の発光の様子を正面からみた概念図である。
図3(a)において、水中集魚灯1では2種類の発光ダイオード3a,3bを用いており、第1の筐体6の長手方向、すなわち水深方向における発光部2の略中央部には指向角度が20°の発光ダイオード3aが基板4に設置され、一方、第1の筐体6の略端部、すなわち発光部2の略端部には指向角度が70°の発光ダイオード3bが基板4に設置されている。一部のみを図示しているが、指向角度20°の発光ダイオード3aでは、各々の発光ダイオード3aが指向角度20°となる光を発光し、同じく指向角度が70°の発光ダイオード3bでは、各々の発光ダイオード3bが指向角度70°となる光を発光する。また、略中央部の発光ダイオード3aは略端部の発光ダイオード3bに比べて配置密度が高くなっている。
そして、図3(b)及び(c)において、水中集魚灯1の発光の様子を全体的にみると、発光部2の略中央部では、密に配置される指向角度が20°の発光ダイオード3aがそれぞれ指向角度20°の光を発光し、狭い範囲に光を集中させて強い光の発光領域14を形成している。一方、発光部2の略端部では、疎に配置される指向角度が70°の発光ダイオード3bがそれぞれ指向角度70°の光を発光し、広い範囲に光を拡散し、また、設置数も少ないのでやや弱い光の発光領域15を形成している。このように発光部2の略中央部の発光ダイオード3aの配置密度を略端部の発光ダイオード3bよりも高くしながら、指向角度を狭くすることで、水中集魚灯1の第1の筐体6の長手方向においても光の濃淡領域を形成させて、水中集魚灯1の長手方向、すなわち水深方向においても周回軌道を形成させることができるようにしている。すなわち、略中央部に光の濃部領域を形成してプランクトンや底生動物などの餌料生物とそれに群がる小型魚類を引き寄せておき、その上部側すなわち浅めの領域、あるいはその下部側すなわち深めの領域に大型魚類が潜伏可能な領域を形成して、水深の浅深方向においても蝟集・滞留性を高めるものである。
【0032】
このように水中集魚灯1の周方向のみならず、水深方向においても周回軌道を形成可能にすることで、水中集魚灯の周方向及び長手方向(水深方向)の両方に光の濃部領域と淡部領域を形成することができ、水中集魚灯の周囲に3次元的に蝟集・滞留可能な漁場を形成することができ、これによって効率的な漁獲を可能とし、漁獲量の増大を図ることができるのである。
なお、本実施の形態においては、発光部2の略中央部では発光ダイオード3aが指向角度20°の光を発光し、略端部では発光ダイオード3bがそれぞれ指向角度70°の光を発光するように構成されているが、特にこれらの指向角度に限定するものではなく、略中央部に設置される発光ダイオードの指向角度が略端部に設置される発光ダイオードよりも小さく形成されればよい。
【0033】
また、図4は、本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を側面からみた場合の概念図である。
前述の通り、本実施の形態では、発光部の長手方向の略中央部には指向角度が小さい発光ダイオードを密に配置し、上下両側の略端部には指向角度の大きい発光ダイオードを疎に配置しているので、図4に示すように、水中集魚灯1の長手方向には、略中央部に明るい発光領域14を形成し、略端部にはやや暗い発光領域15を形成し、水中集魚灯1の長手方向においても光の強さの分布を構成することができる。したがって、水中集魚灯1の周方向の複数対の光の濃部と淡部の形成による魚類の蝟集・滞留性の向上の効果が長手方向、すなわち水深方向においても期待できる。
なお、本実施の形態では、発光部の略中央部と略端部に指向角度の異なる発光ダイオードを設置数を変えて配置して発光部の長手方向の光の強さの分布を強調しているが、同じ指向角度の発光ダイオードを用いて単に設置数を変えることによっても発光部の長手方向に光の強さの分布を形成することができる。
【0034】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の放熱方法について図5を参照しながら説明する。
図5は、本実施の形態に係る水中集魚灯の内部構造を示す概念図である。
図5において、水中集魚灯1の内部には、第1の筐体6側に第1の放熱部材16が設置され、第2の筐体7側には第2の放熱部材17が設置されている。第1の放熱部材16は、棒状であり、基板4の裏側で第1の筐体6の略中心を通るように配置され、一端部は、第1の筐体6を貫通して底蓋8の内部で第1の係止具10の差込部材10aと接触している。一方、第1の放熱部材16の他端部は、第1の筐体6及び連結部材9を貫通して第2の筐体7まで延設されている。そして、第2の放熱部材17は、第1の放熱部材16と同様に棒状であり、第2の筐体7の略中心を通り、その一端部は第1の放熱部材16の他端部と接触しないように配置され、また、他端部は第2の係止具11と接触するように配置されている。
第1の放熱部材16は、基板4とは非接触であり、基板4に設置される発光ダイオードの発光に伴って発生する熱は空気を介して第1の放熱部材12に伝わり、第1の放熱部材16では伝わった熱を一端部側の第1の係止具10を介して外部に放散する。また、第1の放熱部材16の他端部側では、空気を介して第2の放熱部材17に伝熱し、第2の放熱部材17の他端部側の第2の係止具11によって外部に放散される。そして、第2の放熱部材17では、第2の筐体7に収容されるバッテリによって発生する熱が同様に空気を介して第2の放熱部材17に伝わり、第2の係止具11を経由して外部に放散される。したがって、本実施の形態では、発光ダイオードやバッテリの作動に伴って発生する熱を外部に迅速に放散することができるので、熱による装置の損傷を防止することができる。
なお、本実施の形態では、第1の放熱部材16と第2の放熱部材17を別個に構成しているが、これらを一体に構成してもよく、また、第1の係止具10及び第2の係止具11とも一体に構成することもできる。また、本実施の形態では、第1の放熱部材16と第2の放熱部材17を別個に構成して、それぞれは接触することなく配置されているが、これらを接触あるいは接続されるように構成してもよい。
さらに、図1を参照しながら説明したとおり、第1の筐体6と第2の筐体7は内部が通じているような連結構造にしないで、別個に構成するようにしてもよいが、その際には、それぞれ第1の放熱部材16と第2の放熱部材17を別個に構成することで、それぞれ基板4からの発熱及びバッテリからの発熱を放熱することができる。また、本実施の形態では第1の放熱部材及び第2の放熱部材ともに棒状に形成しているが、棒に垂直にフィンを設けた形状として熱伝達効率を向上させるようにしてもよい。
【0035】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の発光部の各照射方向における光量子量について図6乃至図10を用いて説明する。この光量子量の測定は、光源部として青色の発光ダイオード3を用いた発光部2を、その水平断面形状が略三角形をなすひとつの頂点を0°としたときの60°、180°及び300°方向の3方向に搭載した水中集魚灯1を使用し、暗黒空気中にて測定したものである。なお、光量子量の測定に関する周方向の角度について、発光部2の水平断面形状が略三角形をなすひとつの頂点を0°とする基準から定めることは図6から図10まで共通である。
図6(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の60°及び180°及び300°方向における光量子量を示す概念図である。図6(a)乃至図10(a)において、図2に示される構成要素と同一のものについては同一の符号を付し、その説明は省略する。
図6(a)において、水中集魚灯1の周方向において図示する60°及び180°及び300°方向の光量子量を測定すると、発光部2の設置面と同一方向であるため、図6(b)に示すように、発光部2の近傍では大きい光量子量が測定され、発光部2からの距離が大きくなるにつれて徐々に光量子量が小さくなっている。
【0036】
また、図7(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の45°及び75°及び165°及び195°及び285°及び315°方向における光量子量を示す概念図である。
図7(a)における水中集魚灯1の周方向の45°及び75°及び165°及び195°及び285°及び315°方向の光量子量は、図7(b)に示すように、発光部2の近傍ではやや大きい光量子量が測定されるものの、発光部2からの距離が2mの位置で小さくなっている。
【0037】
そして、図8(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の30°及び90°及び150°及び210°及び270°及び330°方向における光量子量を示す概念図である。
また、図9(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の15°及び105°及び135°及び225°及び255°及び345°方向における光量子量を示す概念図である。
また、図10(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の0°及び120°及び240°方向における光量子量を示す概念図である。
図8(a)、図9(a)及び図10(a)に示すいずれの測定方向においても、図8(b)、図9(b)及び図10(b)に示すように、光量子量は、発光部2の近傍においてもさらに小さくなり、測定可能な光量子量の範囲が小さくなっていることがわかる。
図6乃至図10に示すように、本実施の形態では、水中集魚灯1の周方向において60°及び180°及び300°方向の光量子量が最も強くまた広範囲に測定され、それ以外の方向においては光量子量の測定量は小さくなっている。したがって、水中集魚灯1では、選択した発光ダイオードの指向性が十分に発揮されて、水中集魚灯1の周方向には明確な光の濃部と淡部を形成することが可能である。
【0038】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の試作物について図11及び図12を参照しながら説明する。
図11は、本実施の形態に係る水中集魚灯を点灯した試作物写真であり、図12は、本実施の形態に係る水中集魚灯を海中で点灯した試作物写真である。
図11では、同形状の水中集魚灯が2個点灯した状態で台上に載置されている。これらの水中集魚灯では図中の手前側がバッテリを収容する第2の筐体であり、第2の筐体の端部には第2の係止具が設置されている。また、図中の奥側には3個の発光部を収容する第1の筐体があり、3個の発光部に設置される複数の発光ダイオードが発光して第1の筐体の周部を明るく照らしている様子が伺える。但し、光の濃部と淡部は明確に形成されていない。
一方、図12において、水中集魚灯は第2の係止具にロープが係止されて海中に沈められている。水中集魚灯を海中において発光させると、水中集魚灯の周部には三方向に延びる3つの光の濃部が明確に形成され、さらにこれらの光の濃部の周辺には光の淡部が形成されていることがわかる。
【実施例】
【0039】
以下に、本実施の形態に係る水中集魚灯の集魚効果について実施例を挙げて説明する。
島根県隠岐の島町において、8月下旬に、3m×3m×0.6mの基盤に長さが3.5mで直径が約0.3mの柱体を立ち上げた構造の柱状礁の柱体の頂端部で水深が約12mになる位置に、水中集魚灯を設置した。
また、山口県周防大島町において、10月中旬に、水深が約5mになる位置で人工海浜の砂止めの目的で設置された投石場の海底に水中集魚灯を設置した。
いずれの場所においても,潜水観察と海底に固定したビデオカメラの映像によって蝟集した生物の観察と確認を行った。また、携帯用プランクトンネットにより、光の照射域と非照射域でプランクトンの採集を行うとともに、蝟集した魚類を採集した。
【0040】
図13(a)は、本実施例に係る水中集魚灯を柱状礁に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を柱状礁に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
図13(a)及び(b)において、島根県隠岐の島町では、水中集魚灯は明瞭な複数対の光の濃部と淡部を形成しており、光の濃部には小型のマアジの蝟集が顕著であり、光の淡部及び光の濃部の減衰領域では中大型のマアジなどが観察され、いずれも活発に索餌していた。また、アオリイカがマアジ等を狙って上方の光の淡部に分布していた。
また、図14(a)は、本実施例に係る水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
図14(a)及び(b)において、山口県周防大島町では、海水の透明度が低いために、光の濃部と淡部の境界が鮮明でないが、光の濃部と淡部の規則的な配列は形成できている。小型のマアジの蝟集が顕著であったがその他にアオリイカとタチウオを観察することもできた。
【0041】
いずれの海域においても、水中集魚灯は、指向性の高い三方向への発光によって形成される光の濃部によって、周辺の光の淡部を適度な間隔で分断し、光の濃部の間に挟みこまれるように光の淡部が配置された規則的な明暗斑を形成することができた。そして、主にマアジに対して顕著な蝟集効果が認められ、水中誘魚灯を点灯後30分程度でマアジが蝟集し始めて大群を形成し、消灯までの約4時間はその大群の蝟集・滞留が認められた。また、蝟集したマアジは、点灯中は常時観察されて常に活発に餌を食べる行動が観察された。
そして、プランクトンネットで採集した試料の分析結果とマアジの胃内容物分析の結果から、マアジは水中へ泳ぎだしてきた多毛類などの大型の底生動物を選択的に食べていると考えられた。したがって、マアジなどの魚類には、光に誘引されて水中集魚灯に集まり、水中集魚灯に群がるプランクトンや底生動物などの餌料生物を積極的に探して摂餌する習性があることを確認した。
また、水中集魚灯の発光領域には小型のマアジが多く集まっていた。その一方で、光が弱い場所には比較的大型のマアジが多く出現し、大型の魚類においても光の陰影の効果が重要であることが示唆された。また、両地点ともアオリイカや周防大島ではタチウオなどの大型の魚食性の捕食者は、光の照射域よりもむしろ周辺の光の陰影部に分布する傾向が認められ、蝟集したマアジを捕獲しやすい場所に位置取りしていると考えられた。
【0042】
従来の1面に光源が配列されて一方向に照射する水中集魚灯と本実施例に係る水中集魚灯における3面に光源が配列されて三方向に照射する水中集魚灯とを比較した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、従来の水中集魚灯では光の淡部にマアジが全く出現しなかったのに対し、本実施例に係る水中集魚灯では光の濃部と淡部のいずれにも大中小型のマアジが500個体以上蝟集し、大型の魚類の蝟集・滞留性の向上には、効果的な明暗斑の形成が重要であることが示唆された。
このように本実施例に係る水中集魚灯では、指向性の強い複数の光の濃部と適度な間隔をもつ光の淡部の海中空間での配列がマアジなどの魚類に好適な索餌空間を提供するとともに魚類を長時間蝟集・滞留させることに効果的であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項8に記載された発明は、魚類の蝟集・滞留性を飛躍的に向上させた水中集魚灯を提供可能であり、以下のような産業分野において利用可能である。
1)漁業分野
定置網,刺網などでの魚類の集魚灯、既存魚礁への併設、保護育成漁場の開発、選択性漁具との併用による資源保護型漁業、養殖,漁業などでの餌料用小型動物(沖アミなど)の採集用灯具
2)観光・レジャー分野
漁業者や漁協が主体となる体験漁業、地域振興を目的とする海上・海中の景観照明としてのイベント、ダム湖などの景観照明等、ナイトダイビング用の安心照明、釣用の個人集魚灯
3)教育分野
夜の海での光に集まる生物(集魚灯調査)
4)水生生物飼育分野
水族館などでの水槽内の演出および育成用の水中照明,試験研究機関などでの水生生物の生理・生態・発生・飼育・培養などの実験用照明など
5)環境分野
クラゲ類(発電所などの吸水口)や魚類に対する忌避用照明、河川・ダムなどでの魚道(暗部)への誘導用照明、貧酸素水域およびその海底における植物プランクトンの培養用照明など
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は本発明の本実施の形態に係る水中集魚灯の概念図であり、(b)は図1(a)中にA−A線で示された部分の矢視断面図である。
【図2】本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を上面からみた場合の概念図である。
【図3】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光源部を説明するための概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の発光の様子を側面からみた概念図であり、(c)は同じく水中集魚灯の発光の様子を正面からみた概念図である。
【図4】本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を側面からみた場合の概念図である。
【図5】本実施の形態に係る水中集魚灯の内部構造を示す概念図である。
【図6】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の60°及び180°及び300°方向における光量子量を示す概念図である。
【図7】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の45°及び75°及び165°及び195°及び285°及び315°方向における光量子量を示す概念図である。
【図8】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の30°及び90°及び150°及び210°及び270°及び330°方向における光量子量を示す概念図である。
【図9】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の15°及び105°及び135°及び225°及び255°及び345°方向における光量子量を示す概念図である。
【図10】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の0°及び120°及び240°方向における光量子量を示す概念図である。
【図11】本実施の形態に係る水中集魚灯を点灯した試作物写真である。
【図12】本実施の形態に係る水中集魚灯を海中で点灯した試作物写真である。
【図13】(a)は本実施例に係る水中集魚灯を柱状礁に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を柱状礁に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
【図14】(a)は本実施例に係る水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
【符号の説明】
【0047】
1…水中集魚灯 2…発光部 3,3a,3b…発光ダイオード 4…基板 5…バッテリ 6…第1の筐体 7…第2の筐体 8…底蓋 9…連結部材 10…第1の係止具 10a…差込部材 11…第2の係止具 12…光の濃部 13…光の淡部 14…発光領域 15…発光領域 16…第1の放熱部材 17…第2の放熱部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に沈めて魚類を集める水中集魚灯に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光を用いる集魚に関する調査において、魚類は光に集まる傾向はあるものの、魚類によっては高照度の領域だけでなく、むしろ照度の低い領域の存在がより蝟集性と滞留性を高めることが判明しつつあり、集魚灯の集魚効果を総合的に高めるためには低照度の領域の作出が注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「水中集魚灯を使用した集魚方法」という名称で、水中集魚灯の周囲に明確に分離された明領域と暗領域を任意の方向に形成し、釣果の高い領域を容易に形成できる水中集魚灯を使用した集魚方法に関する発明が開示されている。
この特許文献1に開示された発明は、ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を、上方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える水中集魚灯と、ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を下方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える水中集魚灯とを、少なくともひとつずつ船舶に吊設して水中に投下して、これらの水中集魚灯のランプの深度調整を交互に行うものである。
ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を、上方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える第1の水中集魚灯では、点灯時には下方向に暗領域を形成し、一方、ランプからの発光の最大拡がり角度(θ)を下方側を中心として300度以内に制限する遮光具を備える第2の水中集魚灯では、点灯時には上方向に暗領域を形成することができる。例えば、いか釣りの場合、これらの水中集魚灯を船舶の側部から海中に吊り下げて、第1の水中集魚灯と第2の水中集魚灯の両方を点灯させるか、又は第1の水中集魚灯のみを点灯させて、船舶から離れた領域のいかの群れを船舶の周囲に引き寄せる。そして、いかが船舶の周囲に集まった時点で、第1の水中集魚灯を消灯し、第2の水中集魚灯が未点灯であれば、点灯する。そうすると、船舶の周囲に集まったいかは、第2の水中集魚灯が形成する上方向の暗領域で、比較的浅い領域に集まってくるので、そこで釣り針によっていかを釣り上げることが可能となり、結果、釣果の高い漁法となる。
【0004】
また、特許文献2には、「水中集魚灯」という名称で、各魚種に適した水深の遊泳層域に低刺激の照射光による好適照度域をドーナツ状に形成して集魚する水中集魚灯に関する発明が開示されている。
この特許文献2に開示された発明は、透明な材質で形成され縦断面が仰向けのコ字形の光源室と、この光源室の上端部周側面に上側より挿嵌被蓋され非透光性材質で形成されたカバーキャップと、このカバーキャップの内面と光源室の底面の内面との上下に対面する位置に各々貼着された反射板及び底側反射板と、カバーキャップの中央位置に設置される発光球と、光源室及びカバーキャップに各々穿設される水の出入穴とを有するものである。
そして、この水中集魚灯を水中に降下させると、水の出入穴から光源室内に水が入り、特別な錘を設置しなくても水没していくので、所望の魚種に応じて最適の遊泳層域に降下させて静止させ、発光球を点灯すると、発光球からの光は光源室に入った水を通過して反射板及び底側反射板との間で対面反射して刺激の無い乱反射の光となって光源室の側面から魚の好む自然光に近い好適照度でドーナツ状に拡散する。このドーナツ状に拡がった最好適照度帯域の上下には、魚が集中する影の部分が広範囲に拡がり、魚類はこの部分で多く遊泳することができるので、効果的な集魚が可能となる。
【0005】
そして、発光ダイオードを用いたものとして、特許文献3には、「集魚灯」という名称で、必要な光量が得られ、小型で軽量な集魚灯に関する発明が開示されている。
この特許文献3に開示された発明は、基板に実装した発光ダイオードとこの基板を発光ダイオードに対向して配置される集光レンズを備える集光レンズ付ケースで覆う発光ダイオードモジュールと、複数個の発光ダイオードモジュールを実装した主基板と、この主基板を収納し、発光ダイオードモジュールに対向する面に光透過性カバーを備える防水ケースを有する光源ユニットと、この光源ユニットに電力を供給する電源ユニットとを備えるものである。
この発光ダイオードモジュールは、発光ダイオードと集光レンズを組合せているので、従来の発光ダイオードの光度に比べて光度を飛躍的に向上させることが可能である。そして、発光ダイオードの設置数が低減できるので低重量化が可能であり、船舶に吊設する場合に船舶の重心位置を上げ難く、船舶の復元力を保持し、安全性に優れている。また、冷却フィンを備えることにより、発光ダイオードモジュールにおいて発生する熱を効果的に逃がすことも可能になっている。
【特許文献1】特許第3573548号公報
【特許文献2】特許第3403944号公報
【特許文献3】特開2007−236214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の技術では、複数の水中集魚灯を設置し、これらの点灯及び消灯を操作することによって、明部と暗部を作出することが可能であるが、点灯及び消灯の操作は熟練を必要とし煩雑であるという課題があった。また、操作後の魚類の蝟集・滞留時間の長期化も劣るという課題もあった。
【0007】
また、特許文献2に記載された従来の技術では、刺激の無い照度の光の照射を可能にしているが、明部と暗部の形成に関しては、従来の水中集魚灯の構造と大差なく、魚類の蝟集・滞留時間の長期化が期待できないという課題があった。
【0008】
そして、特許文献3に記載された従来の技術では、発光ダイオードを用いて軽量で十分な光量の集魚灯を構成しているが、発光ダイオードの特性を利用した明確な明部と暗部の形成に関する発想は開示されていない。
【0009】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、指向性を備える光源を利用して円筒状の筐体の周囲に複数の光の濃部と淡部を形成して魚類をはじめとする多様な大型捕食性動物の蝟集・滞留性を向上させ得る水中集魚灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である水中集魚灯は、指向性を備えた複数の光源部を配置して面状に形成される複数の発光部と、前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とを有する水中集魚灯であって、前記面状に形成される複数の発光部は前記筐体内で周方向に配置され、前記面状に形成される複数の発光部のうち、少なくとも2個の発光部は同一平面上に配置されず、少なくとも2個の発光部から放射される光は互いに干渉することなく、前記筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するものである。
上記構成の水中集魚灯では、光透過性を備えた筐体の内部に収容される複数の面状の発光部において発光するように作用する。面状の複数の発光部のうち、少なくとも2個は同一平面上に配置されずに、少なくとも2個の発光部から放射される光は他の発光部から放射される光と干渉することなく、筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するように作用する。ここで、本願における複数対とは、2対以上の対を指すものである。また、発光部の少なくとも2個が同一平面上に配置されないことが必要なのは、複数の発光部が、筐体の周方向において同一平面上に縦方向あるいは横方向に配置されてしまうと発光部同士で放射される光は干渉しないものの、結局複数対の光の濃淡部を作出できないためである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1に記載の水中集魚灯において、前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の配置密度が高いものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1に記載の発明の作用に加えて、筐体の水深方向における略中央部において、筐体の水深方向における略端部よりも光度を高くするという作用を有する。
【0012】
請求項3に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1又は請求項2に記載の水中集魚灯において、前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の指向性として小さな発光角度を備えるものである。
このように構成される水中集魚灯では、略中央部の発光角度を略端部の発光角度よりも小さくして光束の密度を大きくすることで、請求項2に記載の発明の作用と同様に、筐体の水深方向における略中央部において、筐体の水深方向における略端部よりも光度を高くするという作用を有する。
【0013】
また、請求項4に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水中集魚灯において、光源部は、発光ダイオードであるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1乃至請求項3に記載の発明の作用に加えて、光源部は発光ダイオードとして発光するという作用を有する。
【0014】
そして、請求項5に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水中集魚灯において、前記光源部に接続され前記光源部の発光に必要な電力を供給する電力供給部を備え、前記電力供給部は、前記筐体に収容されるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、電力供給部を備え、その電力供給部が筐体に収容されて筐体と一体化するように作用する。
【0015】
そして、請求項6に記載の発明である水中集魚灯は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水中集魚灯において、筐体の内部に収容され、その端部を筐体の外部に延設し、発光部で発生する熱を筐体の外部に放散可能な放熱部を備えるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の発明の作用に加えて、筐体の内部に収容される放熱部は、発光部で発生する熱を筐体の外部に延設される端部を伝って筐体の外部に放散するように作用する。
【0016】
さらに、請求項7に記載の発明である水中集魚灯は、請求項6に記載の水中集魚灯において、放熱部の端部は、環状又は環の一部を切欠いて形成される係止部を備えるものである。
上記構成の水中集魚灯では、請求項6に記載の発明の作用に加えて、放熱部の端部が備える係止部は、ロープや錘などに係止されるように作用する。
【0017】
最後に、請求項8に記載の発明である水中集魚灯は、請求項5に記載の水中集魚灯において、前記電力供給部は前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とは別個の第2の筐体に収容され、
前記筐体及び前記第2の筐体の内部に収容され,その端部を前記筐体及び第2の筐体の外部に延設し,前記発光部及び前記電力供給部で発生する熱を前記筐体及び第2の筐体の外部に放散可能な放熱部を一体又は分割して備えるものである。
上記構成の水中集魚灯では、第2の筐体は電力供給部を収容するように作用し、放熱部は、一体にあるいは分割されて筐体及び第2の筐体の両方の内部に収容され、筐体及び第2の筐体の外部にそれぞれ延設される端部を伝って、発光部及び電力供給部で発生する熱をそれぞれ筐体及び第2の筐体の外部に放散するように作用する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1に記載の水中集魚灯では、筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成するので、光の濃部領域によってプランクトンや底生動物などの餌料生物とそれに群がる小型魚類を引き寄せて、複数の光の濃部領域に隣接する複数の光の淡部領域においては、引き寄せられた小型魚類を捕食する大型の魚類等を潜ませつつ、光の濃部領域で小型魚類を索餌、捕食させることで、光の濃部と淡部の両方の空間を跨るように大型魚類等を長時間周回遊泳させることができる。したがって、小型魚類はもとより大型の魚類等の蝟集・滞留時間の長期化が図れるとともに、漁業従事者はこれらを捕獲することが容易となり、漁獲量あるいは釣果の向上が期待できる。さらには、作出できた光の濃淡領域においてそれぞれ適切な漁具漁法を用いることによって、漁業従事者は目的とする魚種を選択的に漁獲することができる。
【0019】
また、本発明の請求項2に記載の水中集魚灯は、複数の発光部は、筐体の水深方向においても光度の分布を持ち、筐体の略中央部には光の濃部を形成し、略端部には光の淡部を形成することができ、水深方向においても魚類の蝟集・滞留性を向上することができる。略中央部に光の濃部領域を形成してプランクトンや底生動物などの餌料生物とそれに群がる小型魚類を引き寄せておき、その上部側すなわち浅めの領域、あるいはその下部側すなわち深めの領域に大型魚類が潜伏可能な領域を形成して、水深の浅深方向において周回遊泳を可能とするものである。従って、水中集魚灯の周方向及び水深方向の両方に光の濃部領域と淡部領域を形成することができ、水中集魚灯の周囲に3次元的に長期に亘って蝟集・滞留可能な漁場を形成することができるのである。
【0020】
また、本発明の請求項3に記載の水中集魚灯も請求項2に記載の水中集魚灯と同様に、複数の発光部は、筐体の水深方向においても光度の分布を持ち、筐体の略中央部には光の濃部を形成し、略端部には光の淡部を形成することができ、筐体の水深方向においても魚類の蝟集・滞留性を向上させることができる。その他の効果も請求項2において述べたとおりである。
【0021】
また、本発明の請求項4に記載の水中集魚灯では、光源部に発光ダイオードを用いているので長寿命かつ省電力の光源を提供することが可能である。また、例えば、青色を採用することによれば、加えて環境色としての青色を嗜好する魚類の蝟集・滞留性の効果をより高めることができる。
【0022】
本発明の請求項5に記載の水中集魚灯では、電力供給部は、筐体に収容されて筐体と一体化し、装置全体がコンパクトになり、省スペース化を図ることができる。
【0023】
また、本発明の請求項6に記載の水中集魚灯では、放熱部を備えているので、発光部で発生する熱を筐体の外部に延設される端部を伝って筐体の外部に放散し、発光部及び光源部の熱による損傷を防止することができる。
【0024】
そして、本発明の請求項7に記載の水中集魚灯では、放熱部の端部が係止部を備えているので、この係止部をロープや錘などに係止すると、水中集魚灯を水中で簡単に固定したり、設置位置(水深)の調整を図ることができる。
【0025】
最後に、本発明の請求項8に記載の水中集魚灯は、発光部を収容する光透過性を備えた筐体と、電力供給部を収容する第2の筐体とに分割されるので、発光部を収容する光透過性を備えた筐体は小型化が可能となり、また、電力供給部を収容する第2の筐体は水中以外の船舶等に設置することが可能となる。また、両方の筐体に一体に跨って、あるいは分割されて放熱部を備えているので、発光部及び電力供給部で発生する熱を筐体及び第2の筐体の外部に放散して、発光部及び電力供給部の熱による損傷をより効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明に係る水中集魚灯の最良の実施の形態を図1乃至図12を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明の本実施の形態に係る水中集魚灯の概念図であり、(b)は図1(a)中にA−A線で示された部分の矢視断面図である。
図1(a)において、水中集魚灯1は、長方形状の基板4に光源部としての複数の発光ダイオード3が配設されて面状に形成される複数の発光部2と、複数の発光ダイオード3に接続されて発光ダイオード3の発光に必要な電力を供給するバッテリ5と、発光部2を収容し、光透過性を備える円筒状の第1の筐体6と、バッテリ5を収容する円筒状の第2の筐体7を有している。
また、水中集魚灯1は、第1の筐体6及び第2の筐体7のいずれもが浸水を防止するためのシール材等を備えた水密構造を備えている。また、特に水深の深い場所にて使用する場合も考慮する場合には、水密構造に加えて第1の筐体6及び第2の筐体7のいずれもが、水圧がかかった場合でも水密機能を保持し得る耐圧構造とすることが望ましい。耐圧の程度については、漁獲対象の魚類等によって適宜設定するとよい。第1の筐体6の一端部には底蓋8が嵌合され、第1の筐体6の他端部には連結部材9を介して第2の筐体7が連結されており、水中に浸漬しても第1の筐体6及び第2の筐体7の内部には水が浸入しないようになっている。
そして、底蓋8と第2の筐体7には環状に形成された第1の係止具10及び第2の係止具11がそれぞれ設置されており、これらの係止具には、海中に設置する際のロープや錘を係止することができる。なお、第1の係止具10及び第2の係止具11の形状はロープ等を係止可能な形状であれば特に限定されるものでなく、円形、三角形、四角形及び多角形状の環やこれらの環の一部を切欠いた形状など様々な形状が考えられる。もちろん、係止具はフックやシャックルのようなものが設置されている場合も含む概念である。なお、本願において、「環状」あるいは「環」とは、必ずしも「円形状」あるいは「円形」のみを意味しているのではなく、多角形などの角を有するものでもよく、端部を備えることなく連続してつながっている状態を示すものである。
【0027】
そして、第1の筐体6と第2の筐体7は一体に構成してもよく、複数の発光部2とバッテリ5を1個の筐体に収納するようにしてもよい。また、第1の筐体6と第2の筐体7は内部が通じているような連結構造にしないで、別個に構成するようにしてもよい。この場合、別個に構成される第1の筐体6と第2の筐体を接続する電源ケーブル等により装置全体の取り扱いは煩雑になるが、バッテリ5を収納する第2の筐体7は船舶等に設置して発光部2を収納する第1の筐体6をケーブルで接続しながら分離させて、これのみを海中に投じるようにすると、第2の筐体7は完全な水密構造あるいは耐圧構造にする必要はなく、第2の筐体7において構造上の簡略化や軽量化さらには信頼性の向上やコストメリットを得る可能性がある。さらに、筐体7の形状は、円筒状に限定するものではなく、中空の角柱状や角錐状、中空の球状や多面体状であってもよい。
また、光源部には指向性を有するものであれば特に発光ダイオード3に限定されるものではないが、発光ダイオード3は、発光効率が高く単位光量を得るための電力量が少ないので、電力コストが低く経済的であることはもちろんのこと、発生熱量を低く抑えることができるので水密構造に対する耐久性が高い。さらには、発光ダイオード3は点状光源であるため、自由に配置が可能であり、指向性を備える光源を配置する観点からは望ましい光源であると言える。発光ダイオード3としては、特にその発光色は限定しないが、例えば、波長が短い青色のものを用いると、多くの魚類は環境色としての青色の光を好む習性があることが知られているため、蝟集・滞留効果が高くなるという利点がある。また、青色の他には、スペクトルとして青色を含む白色を採用することで、水中においては散乱作用による青色光によって魚類の蝟集・滞留効果を促すことが可能である。なお、本実施の形態においては光源部として発光ダイオード3を用いたが、特に発光ダイオードに限定するものではなく、放熱を考慮しながら通常の水銀灯やハロゲン灯等の電球光源を用いてもよいことは言うまでもない。また、発光ダイオード3等の光源部の発光色も限定する意図はなく適宜選択・変更してもよい。さらに、発光色は基板4毎に変えたり基板4内、すなわち発光ダイオード3等の光源部毎に変えたりすることで発光部2からの光を混色させてもよい。
なお、発光部2において、発光ダイオード3は基板4の長手方向の略中央部では配置密度が高く、一方、略端部では配置密度が低くなっているが、このような発光ダイオード3の配置方法についての説明は後に詳細に行う。
【0028】
ここで、図1(b)において、第1の筐体6の水平断面をみると、発光部2は、断面形状が略正三角形状になるように配置される3個の基板4によって3個形成され、第1の筐体6の周方向に対して三方向に発光するように構成されている。
そして、水中集魚灯1の電源を投入すると、バッテリ5からの電力の供給を受けて複数の発光ダイオード3が発光し、これらの光は第1の筐体6を透過して、第1の筐体6の周囲には3個の発光部2によって3個の光の濃部が形成される。
また、発光部2を構成する複数の発光ダイオード3は指向性を備えており、発光部2の個数をnとした場合に、360/n[°]よりも小さな指向角度を有している。本実施の形態では、面状の発光部2は3個であるので、発光ダイオード3は120°よりも小さい指向角度を有するものを選定している。したがって、発光部2では、発光ダイオード3が120°よりも小さい角度の範囲内で発光するので、第1の筐体6の周囲には3個の光の濃部に隣接して3個の光の淡部を形成することができる。すなわち、3対の光の濃部と淡部が形成されている。このように発光部2の個数をnとしたときに、発光部2を構成する光源部たる発光ダイオード3が360/n[°]よりも小さな指向角度を有している場合には、発光部2が構成する面がその水平断面で正多角形を形成しているケースでは、任意の発光部2から放出される光が干渉することがないので望ましい。もちろん、正n角形の水平断面を備えた発光部2においても同様である。このように正多角形を形成する場合には、一定の間隔で光の濃淡部が形成されるので、魚類の蝟集・滞留性をより高めることが可能である。
また、この指向角度は、発光ダイオード3の反射体などで形成されるようにしてもよいし、反射体を用いることなく発光ダイオード3の構造自体で指向角度が形成されるようにしてもよい。
【0029】
次に、図2は、本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を上面からみた場合の概念図である。本実施の形態では、前述の120°よりも小さい指向角度として60°を選定している。
図2において、水中集魚灯1を点灯して海中に沈めて上面からみると、水中集魚灯1の周方向に3つの略60°方向に形成される光の濃部12に隣接して、同様に水中集魚灯1の周方向に3つの略60°方向に光の淡部13が形成されている。海中においては、光の濃部12と光の淡部13には、それぞれ種類の異なる底生動物などの餌料生物が群がってくる。そして、マアジなどの魚類が、光の濃部12に誘引されて水中集魚灯1の周囲に集まり、水中集魚灯1に群がる餌料生物を積極的に探して摂餌する。上述したような間隔で配置された光の濃淡領域では、マアジなどの摂餌は光源の全周にわたって行われるとともに、光の淡部13では同時に休息の場としても利用されている。このように、光の淡部を作出し配置することにより魚類を水中集魚灯1の周方向の全周にわたって長時間滞留させることが可能である。また、後述するように、マアジの中でも大型のものやアオリイカなどの大型の魚食性の捕食者は、光の照射域よりもむしろ周辺の光の陰影域において捕食する傾向が認められ、蝟集したマアジを捕獲し易い場所に位置取りしているとも考えられた。このようなことから、水中集魚灯1の周囲に魚類等の滞留時間を長くするためには、水中集魚灯1の周方向に光の濃淡部を形成させつつ、連続的にその光の濃淡部を移動可能にすることが重要であると考えられる。
【0030】
光源の全周にわたって蝟集・滞留性を高めるためには、360°の周方向中に少なくとも2対の光の濃部と淡部が存在しなければならない。一対の光の濃部と淡部でそれぞれの指向角度を180°とすると、濃と淡を結ぶと直線的となってしまい、少なくとも2対の光の濃部と淡部が存在する場合にこれらを濃・淡・濃・淡と結ぶ場合の周回軌道は形成されないのである。すなわち、少なくとも2個の光の濃部が必要であり、発光部は複数である必要がある。また、少なくとも2個の光の濃部を形成するためには、複数対の発光部2のうち少なくとも2個は同一平面上に存在しないように配置する必要がある。さらに、少なくとも2個の発光部2から放出される光が干渉することがないことが望ましい。特に、図2に示されるように一定の間隔でその光の濃淡部が形成される場合には、光の濃部と淡部を結ぶ軌道が正多角形に近い形となり円形に近くなるため、周回軌道の形成という観点からは望ましい。
このように本実施の形態においては、複数の発光部2を備えて規則的に複数対の光の濃部と淡部を配列しているので、従来の水中集魚灯に比べて魚類に好適な索餌空間を提供し、魚類の蝟集・滞留性を向上することを可能としている。従って漁業従事者は、より多くの漁獲高を上げることが可能であると同時に、光の濃淡領域を設けることで、小型魚類と大型魚類等のうち、目的とする魚種を選択的に漁獲することも可能である。
【0031】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の光源部について図3及び図4を用いて説明する。
図3(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光源部を説明するための概念図であり、(b)は、同じく水中集魚灯の発光の様子を側面からみた概念図であり、(c)は、同じく水中集魚灯の発光の様子を正面からみた概念図である。
図3(a)において、水中集魚灯1では2種類の発光ダイオード3a,3bを用いており、第1の筐体6の長手方向、すなわち水深方向における発光部2の略中央部には指向角度が20°の発光ダイオード3aが基板4に設置され、一方、第1の筐体6の略端部、すなわち発光部2の略端部には指向角度が70°の発光ダイオード3bが基板4に設置されている。一部のみを図示しているが、指向角度20°の発光ダイオード3aでは、各々の発光ダイオード3aが指向角度20°となる光を発光し、同じく指向角度が70°の発光ダイオード3bでは、各々の発光ダイオード3bが指向角度70°となる光を発光する。また、略中央部の発光ダイオード3aは略端部の発光ダイオード3bに比べて配置密度が高くなっている。
そして、図3(b)及び(c)において、水中集魚灯1の発光の様子を全体的にみると、発光部2の略中央部では、密に配置される指向角度が20°の発光ダイオード3aがそれぞれ指向角度20°の光を発光し、狭い範囲に光を集中させて強い光の発光領域14を形成している。一方、発光部2の略端部では、疎に配置される指向角度が70°の発光ダイオード3bがそれぞれ指向角度70°の光を発光し、広い範囲に光を拡散し、また、設置数も少ないのでやや弱い光の発光領域15を形成している。このように発光部2の略中央部の発光ダイオード3aの配置密度を略端部の発光ダイオード3bよりも高くしながら、指向角度を狭くすることで、水中集魚灯1の第1の筐体6の長手方向においても光の濃淡領域を形成させて、水中集魚灯1の長手方向、すなわち水深方向においても周回軌道を形成させることができるようにしている。すなわち、略中央部に光の濃部領域を形成してプランクトンや底生動物などの餌料生物とそれに群がる小型魚類を引き寄せておき、その上部側すなわち浅めの領域、あるいはその下部側すなわち深めの領域に大型魚類が潜伏可能な領域を形成して、水深の浅深方向においても蝟集・滞留性を高めるものである。
【0032】
このように水中集魚灯1の周方向のみならず、水深方向においても周回軌道を形成可能にすることで、水中集魚灯の周方向及び長手方向(水深方向)の両方に光の濃部領域と淡部領域を形成することができ、水中集魚灯の周囲に3次元的に蝟集・滞留可能な漁場を形成することができ、これによって効率的な漁獲を可能とし、漁獲量の増大を図ることができるのである。
なお、本実施の形態においては、発光部2の略中央部では発光ダイオード3aが指向角度20°の光を発光し、略端部では発光ダイオード3bがそれぞれ指向角度70°の光を発光するように構成されているが、特にこれらの指向角度に限定するものではなく、略中央部に設置される発光ダイオードの指向角度が略端部に設置される発光ダイオードよりも小さく形成されればよい。
【0033】
また、図4は、本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を側面からみた場合の概念図である。
前述の通り、本実施の形態では、発光部の長手方向の略中央部には指向角度が小さい発光ダイオードを密に配置し、上下両側の略端部には指向角度の大きい発光ダイオードを疎に配置しているので、図4に示すように、水中集魚灯1の長手方向には、略中央部に明るい発光領域14を形成し、略端部にはやや暗い発光領域15を形成し、水中集魚灯1の長手方向においても光の強さの分布を構成することができる。したがって、水中集魚灯1の周方向の複数対の光の濃部と淡部の形成による魚類の蝟集・滞留性の向上の効果が長手方向、すなわち水深方向においても期待できる。
なお、本実施の形態では、発光部の略中央部と略端部に指向角度の異なる発光ダイオードを設置数を変えて配置して発光部の長手方向の光の強さの分布を強調しているが、同じ指向角度の発光ダイオードを用いて単に設置数を変えることによっても発光部の長手方向に光の強さの分布を形成することができる。
【0034】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の放熱方法について図5を参照しながら説明する。
図5は、本実施の形態に係る水中集魚灯の内部構造を示す概念図である。
図5において、水中集魚灯1の内部には、第1の筐体6側に第1の放熱部材16が設置され、第2の筐体7側には第2の放熱部材17が設置されている。第1の放熱部材16は、棒状であり、基板4の裏側で第1の筐体6の略中心を通るように配置され、一端部は、第1の筐体6を貫通して底蓋8の内部で第1の係止具10の差込部材10aと接触している。一方、第1の放熱部材16の他端部は、第1の筐体6及び連結部材9を貫通して第2の筐体7まで延設されている。そして、第2の放熱部材17は、第1の放熱部材16と同様に棒状であり、第2の筐体7の略中心を通り、その一端部は第1の放熱部材16の他端部と接触しないように配置され、また、他端部は第2の係止具11と接触するように配置されている。
第1の放熱部材16は、基板4とは非接触であり、基板4に設置される発光ダイオードの発光に伴って発生する熱は空気を介して第1の放熱部材12に伝わり、第1の放熱部材16では伝わった熱を一端部側の第1の係止具10を介して外部に放散する。また、第1の放熱部材16の他端部側では、空気を介して第2の放熱部材17に伝熱し、第2の放熱部材17の他端部側の第2の係止具11によって外部に放散される。そして、第2の放熱部材17では、第2の筐体7に収容されるバッテリによって発生する熱が同様に空気を介して第2の放熱部材17に伝わり、第2の係止具11を経由して外部に放散される。したがって、本実施の形態では、発光ダイオードやバッテリの作動に伴って発生する熱を外部に迅速に放散することができるので、熱による装置の損傷を防止することができる。
なお、本実施の形態では、第1の放熱部材16と第2の放熱部材17を別個に構成しているが、これらを一体に構成してもよく、また、第1の係止具10及び第2の係止具11とも一体に構成することもできる。また、本実施の形態では、第1の放熱部材16と第2の放熱部材17を別個に構成して、それぞれは接触することなく配置されているが、これらを接触あるいは接続されるように構成してもよい。
さらに、図1を参照しながら説明したとおり、第1の筐体6と第2の筐体7は内部が通じているような連結構造にしないで、別個に構成するようにしてもよいが、その際には、それぞれ第1の放熱部材16と第2の放熱部材17を別個に構成することで、それぞれ基板4からの発熱及びバッテリからの発熱を放熱することができる。また、本実施の形態では第1の放熱部材及び第2の放熱部材ともに棒状に形成しているが、棒に垂直にフィンを設けた形状として熱伝達効率を向上させるようにしてもよい。
【0035】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の発光部の各照射方向における光量子量について図6乃至図10を用いて説明する。この光量子量の測定は、光源部として青色の発光ダイオード3を用いた発光部2を、その水平断面形状が略三角形をなすひとつの頂点を0°としたときの60°、180°及び300°方向の3方向に搭載した水中集魚灯1を使用し、暗黒空気中にて測定したものである。なお、光量子量の測定に関する周方向の角度について、発光部2の水平断面形状が略三角形をなすひとつの頂点を0°とする基準から定めることは図6から図10まで共通である。
図6(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の60°及び180°及び300°方向における光量子量を示す概念図である。図6(a)乃至図10(a)において、図2に示される構成要素と同一のものについては同一の符号を付し、その説明は省略する。
図6(a)において、水中集魚灯1の周方向において図示する60°及び180°及び300°方向の光量子量を測定すると、発光部2の設置面と同一方向であるため、図6(b)に示すように、発光部2の近傍では大きい光量子量が測定され、発光部2からの距離が大きくなるにつれて徐々に光量子量が小さくなっている。
【0036】
また、図7(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の45°及び75°及び165°及び195°及び285°及び315°方向における光量子量を示す概念図である。
図7(a)における水中集魚灯1の周方向の45°及び75°及び165°及び195°及び285°及び315°方向の光量子量は、図7(b)に示すように、発光部2の近傍ではやや大きい光量子量が測定されるものの、発光部2からの距離が2mの位置で小さくなっている。
【0037】
そして、図8(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の30°及び90°及び150°及び210°及び270°及び330°方向における光量子量を示す概念図である。
また、図9(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の15°及び105°及び135°及び225°及び255°及び345°方向における光量子量を示す概念図である。
また、図10(a)は、本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の0°及び120°及び240°方向における光量子量を示す概念図である。
図8(a)、図9(a)及び図10(a)に示すいずれの測定方向においても、図8(b)、図9(b)及び図10(b)に示すように、光量子量は、発光部2の近傍においてもさらに小さくなり、測定可能な光量子量の範囲が小さくなっていることがわかる。
図6乃至図10に示すように、本実施の形態では、水中集魚灯1の周方向において60°及び180°及び300°方向の光量子量が最も強くまた広範囲に測定され、それ以外の方向においては光量子量の測定量は小さくなっている。したがって、水中集魚灯1では、選択した発光ダイオードの指向性が十分に発揮されて、水中集魚灯1の周方向には明確な光の濃部と淡部を形成することが可能である。
【0038】
次に、本実施の形態に係る水中集魚灯の試作物について図11及び図12を参照しながら説明する。
図11は、本実施の形態に係る水中集魚灯を点灯した試作物写真であり、図12は、本実施の形態に係る水中集魚灯を海中で点灯した試作物写真である。
図11では、同形状の水中集魚灯が2個点灯した状態で台上に載置されている。これらの水中集魚灯では図中の手前側がバッテリを収容する第2の筐体であり、第2の筐体の端部には第2の係止具が設置されている。また、図中の奥側には3個の発光部を収容する第1の筐体があり、3個の発光部に設置される複数の発光ダイオードが発光して第1の筐体の周部を明るく照らしている様子が伺える。但し、光の濃部と淡部は明確に形成されていない。
一方、図12において、水中集魚灯は第2の係止具にロープが係止されて海中に沈められている。水中集魚灯を海中において発光させると、水中集魚灯の周部には三方向に延びる3つの光の濃部が明確に形成され、さらにこれらの光の濃部の周辺には光の淡部が形成されていることがわかる。
【実施例】
【0039】
以下に、本実施の形態に係る水中集魚灯の集魚効果について実施例を挙げて説明する。
島根県隠岐の島町において、8月下旬に、3m×3m×0.6mの基盤に長さが3.5mで直径が約0.3mの柱体を立ち上げた構造の柱状礁の柱体の頂端部で水深が約12mになる位置に、水中集魚灯を設置した。
また、山口県周防大島町において、10月中旬に、水深が約5mになる位置で人工海浜の砂止めの目的で設置された投石場の海底に水中集魚灯を設置した。
いずれの場所においても,潜水観察と海底に固定したビデオカメラの映像によって蝟集した生物の観察と確認を行った。また、携帯用プランクトンネットにより、光の照射域と非照射域でプランクトンの採集を行うとともに、蝟集した魚類を採集した。
【0040】
図13(a)は、本実施例に係る水中集魚灯を柱状礁に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を柱状礁に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
図13(a)及び(b)において、島根県隠岐の島町では、水中集魚灯は明瞭な複数対の光の濃部と淡部を形成しており、光の濃部には小型のマアジの蝟集が顕著であり、光の淡部及び光の濃部の減衰領域では中大型のマアジなどが観察され、いずれも活発に索餌していた。また、アオリイカがマアジ等を狙って上方の光の淡部に分布していた。
また、図14(a)は、本実施例に係る水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
図14(a)及び(b)において、山口県周防大島町では、海水の透明度が低いために、光の濃部と淡部の境界が鮮明でないが、光の濃部と淡部の規則的な配列は形成できている。小型のマアジの蝟集が顕著であったがその他にアオリイカとタチウオを観察することもできた。
【0041】
いずれの海域においても、水中集魚灯は、指向性の高い三方向への発光によって形成される光の濃部によって、周辺の光の淡部を適度な間隔で分断し、光の濃部の間に挟みこまれるように光の淡部が配置された規則的な明暗斑を形成することができた。そして、主にマアジに対して顕著な蝟集効果が認められ、水中誘魚灯を点灯後30分程度でマアジが蝟集し始めて大群を形成し、消灯までの約4時間はその大群の蝟集・滞留が認められた。また、蝟集したマアジは、点灯中は常時観察されて常に活発に餌を食べる行動が観察された。
そして、プランクトンネットで採集した試料の分析結果とマアジの胃内容物分析の結果から、マアジは水中へ泳ぎだしてきた多毛類などの大型の底生動物を選択的に食べていると考えられた。したがって、マアジなどの魚類には、光に誘引されて水中集魚灯に集まり、水中集魚灯に群がるプランクトンや底生動物などの餌料生物を積極的に探して摂餌する習性があることを確認した。
また、水中集魚灯の発光領域には小型のマアジが多く集まっていた。その一方で、光が弱い場所には比較的大型のマアジが多く出現し、大型の魚類においても光の陰影の効果が重要であることが示唆された。また、両地点ともアオリイカや周防大島ではタチウオなどの大型の魚食性の捕食者は、光の照射域よりもむしろ周辺の光の陰影部に分布する傾向が認められ、蝟集したマアジを捕獲しやすい場所に位置取りしていると考えられた。
【0042】
従来の1面に光源が配列されて一方向に照射する水中集魚灯と本実施例に係る水中集魚灯における3面に光源が配列されて三方向に照射する水中集魚灯とを比較した結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、従来の水中集魚灯では光の淡部にマアジが全く出現しなかったのに対し、本実施例に係る水中集魚灯では光の濃部と淡部のいずれにも大中小型のマアジが500個体以上蝟集し、大型の魚類の蝟集・滞留性の向上には、効果的な明暗斑の形成が重要であることが示唆された。
このように本実施例に係る水中集魚灯では、指向性の強い複数の光の濃部と適度な間隔をもつ光の淡部の海中空間での配列がマアジなどの魚類に好適な索餌空間を提供するとともに魚類を長時間蝟集・滞留させることに効果的であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項8に記載された発明は、魚類の蝟集・滞留性を飛躍的に向上させた水中集魚灯を提供可能であり、以下のような産業分野において利用可能である。
1)漁業分野
定置網,刺網などでの魚類の集魚灯、既存魚礁への併設、保護育成漁場の開発、選択性漁具との併用による資源保護型漁業、養殖,漁業などでの餌料用小型動物(沖アミなど)の採集用灯具
2)観光・レジャー分野
漁業者や漁協が主体となる体験漁業、地域振興を目的とする海上・海中の景観照明としてのイベント、ダム湖などの景観照明等、ナイトダイビング用の安心照明、釣用の個人集魚灯
3)教育分野
夜の海での光に集まる生物(集魚灯調査)
4)水生生物飼育分野
水族館などでの水槽内の演出および育成用の水中照明,試験研究機関などでの水生生物の生理・生態・発生・飼育・培養などの実験用照明など
5)環境分野
クラゲ類(発電所などの吸水口)や魚類に対する忌避用照明、河川・ダムなどでの魚道(暗部)への誘導用照明、貧酸素水域およびその海底における植物プランクトンの培養用照明など
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】(a)は本発明の本実施の形態に係る水中集魚灯の概念図であり、(b)は図1(a)中にA−A線で示された部分の矢視断面図である。
【図2】本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を上面からみた場合の概念図である。
【図3】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光源部を説明するための概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の発光の様子を側面からみた概念図であり、(c)は同じく水中集魚灯の発光の様子を正面からみた概念図である。
【図4】本実施の形態に係る水中集魚灯の発光領域を側面からみた場合の概念図である。
【図5】本実施の形態に係る水中集魚灯の内部構造を示す概念図である。
【図6】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の60°及び180°及び300°方向における光量子量を示す概念図である。
【図7】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の45°及び75°及び165°及び195°及び285°及び315°方向における光量子量を示す概念図である。
【図8】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の30°及び90°及び150°及び210°及び270°及び330°方向における光量子量を示す概念図である。
【図9】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の15°及び105°及び135°及び225°及び255°及び345°方向における光量子量を示す概念図である。
【図10】(a)は本実施の形態に係る水中集魚灯の光量子量の測定方向を示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯の0°及び120°及び240°方向における光量子量を示す概念図である。
【図11】本実施の形態に係る水中集魚灯を点灯した試作物写真である。
【図12】本実施の形態に係る水中集魚灯を海中で点灯した試作物写真である。
【図13】(a)は本実施例に係る水中集魚灯を柱状礁に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を柱状礁に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
【図14】(a)は本実施例に係る水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の側面からの集魚のイメージを示す概念図であり、(b)は同じく水中集魚灯を潜堤(投石場)に設置した際の上面からの集魚のイメージを示す概念図である。
【符号の説明】
【0047】
1…水中集魚灯 2…発光部 3,3a,3b…発光ダイオード 4…基板 5…バッテリ 6…第1の筐体 7…第2の筐体 8…底蓋 9…連結部材 10…第1の係止具 10a…差込部材 11…第2の係止具 12…光の濃部 13…光の淡部 14…発光領域 15…発光領域 16…第1の放熱部材 17…第2の放熱部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向性を備えた複数の光源部を配置して面状に形成される複数の発光部と、前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とを有する水中集魚灯であって、前記面状に形成される複数の発光部は前記筐体内で周方向に配置され、前記面状に形成される複数の発光部のうち、少なくとも2個の発光部は同一平面上に配置されず、少なくとも2個の発光部から放射される光は他の発光部から放射される光と干渉することなく、前記筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成することを特徴とする水中集魚灯。
【請求項2】
前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の配置密度が高いことを特徴とする請求項1に記載の水中集魚灯。
【請求項3】
前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の指向性として小さな発光角度を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水中集魚灯。
【請求項4】
前記光源部は、発光ダイオードであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水中集魚灯。
【請求項5】
前記光源部に接続され前記光源部の発光に必要な電力を供給する電力供給部を備え、前記電力供給部は、前記筐体に収容されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水中集魚灯。
【請求項6】
前記筐体の内部に収容され、その端部を前記筐体の外部に延設し、前記発光部で発生する熱を前記筐体の外部に放散可能な放熱部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水中集魚灯。
【請求項7】
前記放熱部の端部は、環状又は環の一部を切欠いて形成される係止部を備えることを特徴とする請求項6に記載の水中集魚灯。
【請求項8】
前記電力供給部は前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とは別個の第2の筐体に収容され、
前記筐体及び前記第2の筐体の内部に収容され,その端部を前記筐体及び第2の筐体の外部に延設し,前記発光部及び前記電力供給部で発生する熱を前記筐体及び第2の筐体の外部に放散可能な放熱部を一体又は分割して備えることを特徴とする請求項5に記載の水中集魚灯。
【請求項1】
指向性を備えた複数の光源部を配置して面状に形成される複数の発光部と、前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とを有する水中集魚灯であって、前記面状に形成される複数の発光部は前記筐体内で周方向に配置され、前記面状に形成される複数の発光部のうち、少なくとも2個の発光部は同一平面上に配置されず、少なくとも2個の発光部から放射される光は他の発光部から放射される光と干渉することなく、前記筐体の周囲に複数対の光の濃部と淡部を形成することを特徴とする水中集魚灯。
【請求項2】
前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の配置密度が高いことを特徴とする請求項1に記載の水中集魚灯。
【請求項3】
前記複数の発光部は、前記筐体の水深方向における略中央部において、前記筐体の水深方向における略端部よりも、前記光源部の指向性として小さな発光角度を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の水中集魚灯。
【請求項4】
前記光源部は、発光ダイオードであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の水中集魚灯。
【請求項5】
前記光源部に接続され前記光源部の発光に必要な電力を供給する電力供給部を備え、前記電力供給部は、前記筐体に収容されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の水中集魚灯。
【請求項6】
前記筐体の内部に収容され、その端部を前記筐体の外部に延設し、前記発光部で発生する熱を前記筐体の外部に放散可能な放熱部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の水中集魚灯。
【請求項7】
前記放熱部の端部は、環状又は環の一部を切欠いて形成される係止部を備えることを特徴とする請求項6に記載の水中集魚灯。
【請求項8】
前記電力供給部は前記発光部を収容する光透過性を備えた筐体とは別個の第2の筐体に収容され、
前記筐体及び前記第2の筐体の内部に収容され,その端部を前記筐体及び第2の筐体の外部に延設し,前記発光部及び前記電力供給部で発生する熱を前記筐体及び第2の筐体の外部に放散可能な放熱部を一体又は分割して備えることを特徴とする請求項5に記載の水中集魚灯。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−125003(P2009−125003A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−303805(P2007−303805)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【出願人】(503114002)独立行政法人水産大学校 (10)
【出願人】(502453643)水口電装株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【出願人】(503114002)独立行政法人水産大学校 (10)
【出願人】(502453643)水口電装株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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