説明

水処理不織布フィルター

【課題】優れた金属捕捉機能及び有機物捕捉機能を有し、かつ優れた強度を持つ水処理不織布フィルターを提供する。
【解決手段】グルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されている酸化セルロース繊維を含む不織布からなり、該酸化セルロース繊維が、グルコース単位当たりの該酸化により導入される官能基の数で規定される置換度0.01〜0.5を有し、かつ水に対する吸液倍率が4〜60倍である、水処理不織布フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属及び有機物の捕捉機能を示し、かつ優れた強度を持つ、水処理用として有用な不織布フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、海水、河川水、飲料水等の水媒体から有害物質を分離する方法として不織布を用いた水処理が試みられており、ろ過性能の向上、及びろ過性能を安定化するための工夫等がなされてきた。また、特殊な官能基を導入した繊維からなる不織布も知られており有害物質の分離を目的としたフィルター用途としての利用が開示されている(特許文献1・2参照)。
【0003】
特許文献1によれば、不織布等を利用した高分子基材と、ビニル基を有するモノマーから構成されるグラフト鎖とキレート形成基とを有する金属吸着材を用いた、温泉水に溶存する有用・有害金属を回収及び除去する方法が提供される。また、特許文献2では、セルロース系物質を水溶液に分散させることで、水溶液中の微量非水系物質、特に有機塩素系物質を包接除去する方法が提供される。
【0004】
一方、上記のような有害物質を分離する方法を利用した、比較的簡易な設備で希薄尿素用窒素化合物濃度の被処理水中から尿素用窒素化合物を十分に除去することができる手段を備えた純水製造装置も開示されている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、有害物質を分離する不織布として、一般的な水媒体に含まれる有害金属の除去・分離用途、及び有機物の除去・分離用途には不十分であるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−26588号公報
【特許文献2】特開2004−283794号公報
【特許文献3】特開2008−86854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、優れた金属捕捉機能及び有機物捕捉機能を有し、かつ優れた強度を持つ水処理不織布フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、グルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されているとともに置換度を特定範囲内とした酸化セルロース繊維を含む不織布であって特定範囲の吸液倍率を有する不織布を、水処理不織布フィルターとして得ることができ、また、前記の水処理不織布フィルターは不織布の形状を維持しているため、加工が容易となることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
[1] グルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されている酸化セルロース繊維を含む不織布からなり、
該酸化セルロース繊維が、グルコース単位当たりの該酸化により導入される官能基の数で規定される置換度0.01〜0.5を有し、かつ
水に対する吸液倍率が4〜60倍である、水処理不織布フィルター。
[2] 上記酸化セルロース繊維が、酸化セルロース長繊維である、上記[1]に記載の水処理不織布フィルター。
[3] 上記酸化がされていないセルロース繊維、及び/又は合成繊維を更に含み、上記酸化セルロース繊維の上記置換度が0.01〜0.5であり、かつ上記吸液倍率が4〜60倍である、上記[1]又は[2]に記載の水処理不織布フィルター。
[4] 繊維径が3〜14μmの繊維からなり、厚みが50〜900μmであり、目付が5〜150g/mであり、平均孔径が10μm以上であり、通気抵抗値が30〜300Pa・s/mであり、かつ引張強度が10N/50mm以上である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の水処理不織布フィルター。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、優れた金属捕捉機能及び有機物捕捉機能を有し、かつ優れた強度を持つ水処理不織布フィルターを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0011】
本発明は、グルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されている酸化セルロース繊維を含む不織布からなり、該酸化セルロース繊維が、グルコース単位当たりの該酸化により導入される官能基の数で規定される置換度0.01〜0.5を有し、かつ水に対する吸液倍率が4〜60倍である、水処理不織布フィルター(以下、不織布フィルターということもある)を提供する。
【0012】
本発明においては、酸化セルロース繊維を構成する単位構造であるグルコース単位が有する水酸基のうち、実質的にC6位のアルコール性水酸基のみが酸化されていることにより、酸化及び任意の追加の誘導体化の際の重合度の低下を抑えることができ、その結果強度を維持できるという効果が得られる。
【0013】
酸化セルロース繊維においては、グルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されている。より具体的には、該C6位のアルコール性水酸基が選択的に酸化されることによりカルボキシル基若しくはアルデヒド基が導入されている。カルボキシル基及び/又はアルデヒド基は、追加の誘導体化により更に塩、エステル基、イミノ基及びアミノ基の少なくともいずれかとされていてもよい。酸化されているのが「実質的にC6位のみ」のアルコール性水酸基であることは、13Cの核磁気共鳴測定において、セルロースの1位炭素の積分値に対する、セルロース2位の脂肪族炭素(74〜77ppm)、3位の脂肪族炭素(75〜79ppm)の積分値が酸化前と変化していないこと、又はセルロースの1位炭素の積分値に対する、セルロース6位の脂肪族炭素(62〜64ppm)の積分値が酸化前より小さいことによって確認できる。なお、本発明において用いる酸化セルロース繊維の後述の置換度は0.01〜0.5であり、このような低い置換度を有する酸化セルロースにおいてはグルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されていると考えることができる。
【0014】
酸化セルロース繊維としては、C6位にカルボキシル基及び/又はアルデヒド基を有するセルロース誘導体、並びにこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩等であるセルロース誘導体が挙げられる。
【0015】
酸化セルロース繊維の置換度は0.01〜0.5であり、好ましくは0.04〜0.3であり、更に好ましくは0.05〜0.25である。本発明において、酸化セルロース繊維の置換度は、グルコース単位当たりの上記酸化により導入される官能基の数で規定される。酸化により導入される官能基とは、より具体的には、酸化セルロース繊維におけるグルコース単位のC6位炭素に結合したカルボキシル基若しくはアルデヒド基又はこれらの塩型若しくはエステル型の基である。上記置換度が0.5を超える場合、不織布フィルターが膨潤し、目詰まりが生じたり、溶出したりするため、水処理不織布フィルターとしての性能及び強度が低下する。上記置換度が0.01未満の場合、金属捕捉機能及び有機物捕捉機能が低下し水処理不織布フィルターとしての性能が低下する。上記置換度は、13C核磁気共鳴法にてグルコース単位骨格当たりのカルボニル数の測定等により得られる。
【0016】
不織布フィルターの水に対する吸液倍率は、4〜60倍であり、好ましくは4〜50倍であり、より好ましくは7〜40倍であり、更に好ましくは10〜30倍の範囲である。本発明において、水に対する吸液倍率とは質量倍率を意味する。上記吸液倍率は、例えば以下のようにして測定できる。すなわち、3cm×3cmの不織布フィルターの質量C(g)を測定した後、該不織布フィルターを水中に浸漬し、1時間放置して吸液させ、吸液後の不織布フィルターを網上に10分間置き水切りをし、水切り後の不織布フィルターの質量D(g)を測定し、次式によって算出できる。
吸液倍率=(D−C)/C
【0017】
上記吸液倍率が4倍未満の場合、セルロース誘導体である酸化セルロースの不織布フィルター中の含有量及び/又は置換度が低いために、水処理不織布フィルターとしての金属捕捉機能及び有機物捕捉機能が低下してしまう。一方、上記吸液倍率が60倍を超える場合、不織布フィルターが膨潤し、目詰まりが生じたり、溶出したりし、水処理不織布フィルターとしての性能及び強度が低下する。
【0018】
本発明で用いる酸化セルロース繊維は、セルロース繊維を、例えば後述するような方法で酸化することにより得ることができる。セルロース繊維としては、一般的なセルロース系繊維、例えば、麻、綿等の天然セルロース繊維、キュプラ、ビスコースレーヨン、ポリノジックレーヨン等の再生セルロース繊維、リヨセル(テンセル(登録商標))等の精製セルロース繊維等を使用できる。好ましくは、繊維内の不純物が少ない再生セルロース繊維、精製セルロース繊維であり、更に好ましくは再生セルロース繊維である。また、酸化セルロース繊維の形態としては、短繊維及び長繊維のいずれも用いることが出来るが、好ましくは長繊維、更に好ましくは連続長繊維である。ここで長繊維とは、長さ6cm以上の繊維を意味し、連続長繊維とは、長さが6cm以上であり、かつ切れ目のない繊維を意味する。繊維の形態が長繊維、特に連続長繊維である場合、脱落繊維等の不純物が出難く、水処理不織布フィルターとして機能が高い。また、連続長繊維の場合、不織布としての形態を維持することが容易となる。
【0019】
本発明の不織布フィルターは、典型的には主として酸化セルロース繊維からなり、酸化セルロース繊維100%の不織布であってもよいが、製品に組み込まれた際に本発明の効果を損なわない範囲で、他の材料を含んでもよい。他の材料としては、例えば、酸化がされていないセルロース繊維、及び/又は合成繊維を含むことができる。
【0020】
酸化がされていないセルロース繊維としては、上述の一般的なセルロース系繊維を使用できる。また酸化されていないセルロース繊維は、長繊維及び短繊維のいずれであってもよいが、長繊維であることが好ましい。合成繊維としては、ポリエステル等の合成樹脂からなる繊維が挙げられる。合成繊維は長繊維(特に連続長繊維)でも短繊維でもよい。酸化されていないセルロース繊維及び/又は合成繊維と、酸化セルロース繊維とを組合せて1枚の複合不織布を形成してもよいし、それぞれ別個に形成した不織布を積層してもよいし、これらの形態を組合せてもよい。
【0021】
本発明における不織布フィルター中の酸化セルロース繊維の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは75質量%以上である。前述の酸化されていないセルロース繊維、前述の合成繊維の併用は水処理不織布フィルターの強度を向上させる点で好ましい。不織布フィルター中の酸化されていないセルロース繊維の含有量は、好ましくは0〜49質量%、より好ましくは0〜25質量%である。また、不織布フィルター中の合成繊維の含有量は、好ましくは0〜49質量%、より好ましくは0〜25質量%である。
【0022】
本発明の好ましい態様に係る水処理不織布フィルターは、酸化がされていないセルロース繊維、及び/又は合成繊維を更に含み、酸化セルロース繊維の置換度が0.01〜0.5であり、かつ水に対する吸液倍率が4〜60倍である。
【0023】
本発明の不織布フィルターは、繊維径が3〜14μmの繊維(すなわち、酸化セルロース繊維、並びに、任意に使用される、酸化されていないセルロース繊維及び合成繊維等の他の繊維)からなることが好ましく、上記繊維径は、より好ましくは4〜13μmであり、更に好ましくは4〜12μmである。本発明における繊維径とは、不織布の繊維集合体の表面を、走査型電子顕微鏡(例えば日本電子製JSM−6380)を用いて10000倍の倍率で観察し、任意の50本を選び、1本につき任意の1箇所を選んで測定し、50本の数平均値として得られる値である。上記繊維径が3μm未満の場合、不織布フィルターの強度が低下したり、目詰まりが生じやすくなったりする場合がある。一方、繊維径が14μmを超える場合、不織布フィルターの比表面積が小さくなることから、金属捕捉機能及び有機物捕捉機能が低くなり水処理不織布フィルターとしての性能が低下する場合がある。
【0024】
本発明の不織布フィルターの厚みは、好ましくは50〜900μmであり、より好ましくは70〜800μmであり、更に好ましくは100〜600μmである。本発明における不織布フィルターの厚みとは、JIS−L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した際の不織布フィルターの厚みを言う。上記厚みが900μmを超えると、不織布フィルターの通気性が悪くなり、加工し難くなったりする場合がある。上記厚みが50μmより薄いと、不織布フィルターの強度が低下し、破れが発生しやすい傾向がある。
【0025】
本発明の不織布フィルターの目付は、好ましくは5〜150g/m、より好ましくは10〜140g/m、更に好ましくは20〜130g/mである。本発明における不織布フィルターの目付とは、0.05m以上の面積の不織布を105℃で一定重量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上常置してその重量を測定し、不織布(m)当たりの重量(g)として算出される値である。上記目付が150g/mを超えると、不織布フィルターの通気性が悪くなったり、加工し難くなったりする場合がある。上記目付が5g/m未満の場合、不織布フィルターの強度が低下し、破れが発生しやすい傾向がある。
【0026】
本発明の不織布フィルターの平均孔径は、10μm以上であることが好ましい。また該平均孔径は、30μm以下であることが好ましい。上記平均孔径は、より好ましくは11〜28μm、更に好ましくは11〜20μmである。本発明における不織布フィルターの平均孔径とは、JIS K3832(バブルポイント法)に準拠して測定される平均孔径を言う。上記平均孔径が10μm未満の場合、不織布フィルターの通気性が悪くなり、本発明の水処理不織布フィルターに目詰まりが生じやすくなる傾向がある。
【0027】
本発明の不織布フィルターの通気抵抗値は、30〜300Pa・s/mであることが好ましく、より好ましくは30〜250Pa・s、更に好ましくは35〜200Pa・s/m、特に好ましくは40〜100Pa・s/mである。本発明における不織布フィルターの通気抵抗値とは、通気性試験機(例えばカトーテック製通気性試験機KES−F8)を用いて測定される通気抵抗値を言う。上記通気抵抗値が30Pa・s/m未満の場合、不純物が簡単に不織布フィルターを通過しやすいため、金属捕捉機能及び有機物捕捉機能が低下し、水処理不織布フィルターとしての性能が低下しやすくなる。また、上記通気抵抗値が300Pa・s/mを超える場合、不織布フィルターの通気性が悪くなり、本発明の水処理不織布フィルターに目詰まりが生じやすくなる。
【0028】
本発明の不織布フィルターの引張強度は、10N/50mm以上であることが好ましく、また400N/50mm以下であることが好ましい。本発明における引張強度とは、JIS−L1096に準拠して測定される、繊維の長手方向における引張強度である。該引張強度が10N/50mm未満の場合、水処理不織布フィルターにテンションがかかったときに容易に破れが発生しやすくなる。なお他の態様として、該引張強度は、70N/25mm以上であることが好ましく、また200N/25mm以下であることが好ましい。
【0029】
<水処理不織布フィルターの製造方法>
本発明の水処理不織布フィルターの製造方法は特に限定されないが、例えば以下の製造方法によって製造することができる。以下は、不織布が酸化セルロース繊維からなる場合についての例である。
【0030】
セルロース繊維からなる不織布1gを、酸化触媒として0.001〜0.2mmol/g(単位は不織布1g当たりのmmol)のN−オキシル化合物を用いて酸化し、酸化セルロース繊維からなる不織布とする。N−オキシル化合物としては特に限定されるものではないが、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシルが好ましい。N−オキシル化合物の使用量は、セルロース繊維からなる不織布1gに対する量で、0.001〜0.2mmol/gであることが好ましく、更には0.01〜0.1mmol/gであることがより好ましい。N−オキシル化合物の使用量が0.001mmol/g未満の場合、酸化反応が進行しにくくなり、また、0.2mmol/gを超える場合、不織布の形状を維持することが困難となる傾向がある。
【0031】
前記工程において、セルロース繊維からなる不織布1gを、水中で、0.5〜10mmol/g(単位は不織布1g当たりのmmol)のハロゲン化物存在下、0.1〜5mmol/g(単位は不織布1g当たりのmmol)の反応開始剤を用いて、酸化セルロース繊維からなる不織布とする。ハロゲン化物としては、臭化物又はヨウ化物が好ましく、例えば、臭化アルカリ金属及びヨウ化アルカリ金属を挙げることができる。より好ましくは、臭化ナトリウムである。ハロゲン化物の使用量は、セルロース繊維からなる不織布1gに対する量で、0.5〜10mmol/gであることが好ましい。ハロゲン化物の使用量が0.5mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、10mmol/gを超える場合、不織布の形状を維持することが困難となる傾向がある。反応開始剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸,亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸及びそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物等が挙げられる。好ましくは、次亜塩素酸ナトリウムである。良好な反応速度を得ること、及び反応中に溶解等で酸化セルロース繊維の不織布が崩壊、流出しないことを考えれば、反応開始剤の使用量は、セルロース繊維からなる不織布1gに対して、0.1〜5mmol/gであることが好ましく、更には1〜3mmol/gであることがより好ましい。反応開始剤が0.1mmol/g未満の場合、反応が進行しにくくなり、また、5mmol/gを超える場合、反応が過剰に進行し、不織布の形状を維持することが困難となる傾向がある。
【0032】
本発明において用いる酸化セルロース繊維及び/又は酸化がされていないセルロース繊維は、追加の誘導体化を伴うセルロース誘導体であることができる。追加の誘導体化としては、エステル化、イミノ化、アミノ化等を例示できる。
【0033】
酸化セルロース繊維及び酸化されていないセルロース繊維における、酸化及び/又は追加の誘導体化で導入される官能基に関する置換度は主に反応に用いられる反応剤の当量で制御することができる。また、反応温度や反応時間によっても制御可能である。反応に用いられる反応剤の当量、反応温度、及び反応時間は、それぞれ置換度とほぼ比例の関係にあり、反応剤の当量、反応温度、反応時間が大きくなれば置換度は高くなる。
【0034】
また不織布フィルターの吸液倍率は、酸化及び/又は追加の誘導体化で導入される置換基の種類と置換度により制御される。例えば、置換基がカルボキシル基、置換度が0.10であると、吸液倍率は13.6となる。
【0035】
本発明の水処理不織布フィルターの好適な使用形態としては、上記本発明の水処理不織布フィルターに対して一般的な水媒体を通液することが挙げられる。通液方法は、本発明の水処理不織布フィルターに対して一般的な水媒体を通過させればよく、特に限定されない。例えば、ポンプを使用することにより、水処理不織布フィルターに対して一般的な水媒体を強制的に通過させてもよい。また、水処理不織布フィルターを一般的な水媒体に浸漬し、強制的に攪拌してもよい。
【0036】
ここで、本発明における「一般的な水媒体」としては、海水、河川水、井水等の環境水、工業用水、工業排水、飲料水等が挙げられる。
【0037】
本発明の水処理不織布フィルターにより捕捉される金属は、一般的な水媒体に溶存する金属であれば特に限定はされないが、例えば、マグネシウム、クロム、銅、亜鉛、金、白金、銀、ニッケル、コバルト、アルミニウム、水銀、鉛、カドミウム、鉄、マンガン、ホウ素、リチウム、錫等が挙げられる。本発明の水処理不織布フィルターは、特にクロム、ニッケル、鉛、カドミウム、マンガン、及びリチウムに対して優れた捕捉効果がある。
【0038】
本発明の水処理不織布フィルターにより捕捉される有機物は、一般的な水媒体に溶存する有機物であれば特には限定されないが、例えば、尿素用窒素化合物、水溶性アルコール等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例等により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されるものではない。本発明における測定方法を以下に示す。
【0040】
(1)置換度
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布100mgを9質量%のアルカリ性重水溶液2mLに溶かし、その溶液の13Cを核磁気共鳴 BRUKER NMR AVANCE 400 にて測定した。セルロースの1位炭素の積分値Aに対するカルボニルの炭素の積分値Bから置換度を次式により算出した。
置換度=B/A
【0041】
(2)吸液倍率
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布3cm×3cmの質量C(g)を測定した後、該不織布を純水中に浸漬し、1時間放置して吸液させた。吸液後の不織布を網上に10分間置き水切りをした。水切り後、不織布の質量D(g)を測定し、次式によって吸液倍率を算出した。
吸液倍率=(D−C)/C
【0042】
(3)繊維径(μm)
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布を、走査型電子顕微鏡 日本電子製 JSM−6380 を用いて10000倍の倍率で観察し測定した。
【0043】
(4)厚み(μm)
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布を、JIS−L1096準拠の厚み試験にて荷重を1.96kPaとして測定した。
【0044】
(5)目付(g/m
0.05m以上の面積の酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布を、105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定し、不織布(m)当たりの質量(g)を求めた。
【0045】
(6)平均孔径(μm)
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布を、JIS K3832(バブルポイント法)にて測定した。
【0046】
(7)通気抵抗値(Pa・s/m)
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布を、カトーテック製通気性試験機KES−F8にて測定した。
【0047】
(8)引張強度(N/50mm)
酸化セルロースから構成されたセルロース繊維の不織布の幅を50mmとして、JIS−L1096における引張強度を測定した。
【0048】
(9)金属捕捉機能
表2に示す各元素を純水中にそれぞれ1000ppb含む金属溶液を作製し、0.5gの水処理不織布フィルターを該金属溶液50mLに浸漬し16時間放置した。その後、水処理不織布フィルターを除去し残った溶液につき、島津製ICP発光分析装置(ICPE−9000)にて水溶液の金属捕捉機能を測定した。処理後に残留した各金属の濃度を表2に示す。
【0049】
[実施例1]
TEMPO0.03842g、臭化ナトリウム7.2gを500mLの水に溶解しておいた。平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)24gを500mLの水中に分散させ、前記TEMPO溶液と混合した。次に次亜塩素酸ナトリウム溶液(Cl=5質量%)94mLを添加し酸化反応を開始した。反応温度は室温で、反応中は系内のpHが低下するが、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10付近に調整した。10分後、メタノールを添加して反応を停止させ、水・アルコール洗浄した後、80℃で乾燥させた。得られた酸化再生セルロース連続長繊維の不織布である水処理不織布フィルターの置換度は0.10、吸液倍率は13.6倍であった。
【0050】
[実施例2]
実施例1においてTEMPOを0.3842gに変更した以外は、実施例1と同様にして、水処理不織布フィルターを得た。
【0051】
[実施例3]
実施例1において次亜塩素酸ナトリウム溶液(Cl=5質量%)を150mLに変更した以外は、実施例1と同様にして、水処理不織布フィルターを得た。
【0052】
[実施例4]
実施例1において、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を、溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は、実施例1と同様にして、不織布水処理フィルターを得た。
【0053】
[実施例5]
実施例1において、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を、再生セルロース繊維不織布(レーヨン製不織布)とポリエステル繊維不織布の複合不織布(レーヨン製不織布80%)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は、実施例1と同様にして、不織布水処理フィルターを得た。
【0054】
[比較例1]
平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布を水・アルコール洗浄した後80℃で乾燥させ、水処理不織布フィルターを得た。
【0055】
[比較例2]
溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものを水・アルコール洗浄した後80℃で乾燥させ、水処理不織布フィルターを得た。
【0056】
[比較例3]
再生セルロース繊維不織布(レーヨン製不織布)とポリエステル繊維不織布の複合不織布(レーヨン製不織布の割合80質量%)平均目付30g/mを4枚積層したものを水・アルコール洗浄した後80℃で乾燥させ、水処理不織布フィルターを得た。
【0057】
[比較例4]
水酸化ナトリウム36gを水120mLと2−プロパノール600mLの混合液に溶解させた。平均目付100g/mの再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)24gを上記水酸化ナトリウム溶液に分散させ、室温で撹拌しアルカリセルロース化させた。その後、モノクロロ酢酸ナトリウム35gを添加して、得られたカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩不織布を中和し、水・アルコール洗浄した後、80℃で乾燥させた。得られた再生セルロース連続長繊維の不織布である水処理不織布フィルターの置換度は0.21、吸液倍率は9.5倍であった。
【0058】
[比較例5]
実施例1において、TEMPOを0.3842g、次亜塩素酸ナトリウムを250mL、再生セルロース連続長繊維不織布(キュプラ不織布)を溶剤紡糸セルロース繊維不織布(リヨセル製不織布)平均目付30g/mを4枚積層したものに変更した以外は実施例1と同様にして水処理不織布フィルターを得たが、不織布としての形状を維持していなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1〜5、比較例1〜4で得られた水処理不織布フィルターの金属捕捉機能を下記表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示したとおり、本発明の水処理不織布フィルターは優れた金属捕捉機能を示している。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の水処理不織布フィルターは、優れた金属捕捉機能及び有機物捕捉機能を有し、かつ優れた強度を持っており、水処理用として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース単位中の水酸基が実質的にC6位のみで酸化されている酸化セルロース繊維を含む不織布からなり、
該酸化セルロース繊維が、グルコース単位当たりの該酸化により導入される官能基の数で規定される置換度0.01〜0.5を有し、かつ
水に対する吸液倍率が4〜60倍である、水処理不織布フィルター。
【請求項2】
前記酸化セルロース繊維が、酸化セルロース長繊維である、請求項1に記載の水処理不織布フィルター。
【請求項3】
前記酸化がされていないセルロース繊維、及び/又は合成繊維を更に含み、前記酸化セルロース繊維の前記置換度が0.01〜0.5であり、かつ前記吸液倍率が4〜60倍である、請求項1又は2に記載の水処理不織布フィルター。
【請求項4】
繊維径が3〜14μmの繊維からなり、厚みが50〜900μmであり、目付が5〜150g/mであり、平均孔径が10μm以上であり、通気抵抗値が30〜300Pa・s/mであり、かつ引張強度が10N/50mm以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水処理不織布フィルター。

【公開番号】特開2011−125853(P2011−125853A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256938(P2010−256938)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】