説明

水処理剤及び水処理方法

【課題】過酷な水質条件においてもスケール付着の抑制能を発揮できる水処理剤及び水処理方法を提供すること。
【解決手段】水処理剤は、アニオン性ポリマーと、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、を含有する。アニオン性ポリマーは、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、共重合体における2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合は10モル%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系等の水系の水処理技術に関し、特に水系へのスケール付着を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水系等の水系に設置される熱交換器の高温伝熱面には、炭酸カルシウムやシリカマグネシウムといったスケールが付着し、これによって伝熱及び通水の効率低下が生じやすい。
【0003】
例えば、従来汎用されている熱交換器としてプレート式熱交換器が挙げられる。プレート式熱交換器は、内部に形成されている冷却対象水の流路が複雑であるため、冷却対象水の流れが極度に遅い箇所が生じやすい。かかる箇所では、伝熱面が高温化される結果、スケールが析出し付着しやすく、流路が狭いために流路の閉塞が顕在化しやすい。効率低下は冷凍機の高効率運転の妨げになるため、その回避策が求められている。
【0004】
現在の熱交換器ではスケールによる障害を抑制する技術が不可欠であり、かかる技術の一環として、種々のスケール抑制剤が開発されている。例えば、非特許文献1には、ポリリン酸、ホスホン酸、及び高分子電解質を含有するスケール抑制剤が、炭酸カルシウムのスケールを抑制するのに有効であることが示されている。また、特許文献1には、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸及びアニオンポリマーを含有するスケール抑制剤が、シリカ/ケイ酸塩の析出を抑制するのに有効であることが示されている。
【特許文献1】特開平5−104093号公報
【非特許文献1】小倉和美著 「腐食防食協会第10回技術セミナー資料」、p23、1996年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のスケール抑制剤では、水質条件によってはスケール付着の抑制作用が不充分になる場合があった。このため、スケール付着を確実に抑制するためには、スケールの原因になる水質因子(例えば、pH、カルシウム硬度、マグネシウム硬度、酸消費量、イオン状シリカ濃度)を所定値以下に制限する必要がある。すると、冷却対象水の濃縮度を低く抑えざるを得ず、水資源の有効活用の点で好ましくなく、また、上記の水質因子の許容範囲が狭いため、運転条件の自由度が狭い。
【0006】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、広範な水質条件において、特に過酷な水質条件においてもスケール付着の抑制能を発揮できる水処理剤及び水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、所定の共重合体であるアニオン性ポリマーをスライム抑制剤及びホスホン酸化合物と併用することで、スケール付着が著しく抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) アニオン性ポリマーと、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、を含有し、
前記アニオン性ポリマーは、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、
前記共重合体における2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合は10モル%以上である水処理剤。
【0009】
(2) 前記ホスホン酸化合物は、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸及び/又はその塩である(1)記載の水処理剤。
【0010】
(3) 前記スライム抑制剤は、塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物、及びアゾール系化合物を含有する(1)又は(2)記載の水処理剤。
【0011】
(4) 13以上のpHを有し、且つ、前記水処理剤の全質量に対して、(a)有効塩素含有量1〜8質量%の次亜塩素酸ナトリウム、(b)1.5〜9質量%のスルファミン酸、(c)2.5〜20質量%の水酸化ナトリウム、(d)0.05〜3質量のアゾール系化合物、(e)固形分濃度2〜10質量%のアニオン性ポリマー、及び(f)固形分濃度0.5〜4質量%のホスホン酸化合物を含有する(3)記載の水処理剤。
【0012】
(5) 水系の水処理方法であって、前記水系に、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、この共重合体における2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合が10モル%以上であるアニオン性ポリマーと、を添加する水処理方法。
【0013】
(6) 前記水系は開放循環式冷却水系である(5)記載の水処理方法。
【0014】
(7) 前記水系はプレート式熱交換器を有する(5)又は(6)記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の共重合体であるアニオン性ポリマーをスライム抑制剤及びホスホン酸化合物と併用したので、水系でのスライム構成要素の存否にかかわらず、水系へのスケール付着を充分に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を説明するが、これに本発明が限定されるものではない。
【0017】
[水処理剤]
本発明に係る水処理剤は、アニオン性ポリマー、ホスホン酸化合物、及びスライム抑制剤を含有する。各成分の詳細を以下に説明する。
【0018】
(アニオン性ポリマー)
アニオン性ポリマーは、一般にスケール抑制作用を奏することが知られており、従来、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸の塩が使用されている。このうち本発明で使用されるアニオン性ポリマーは、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体である。なお、アニオン性ポリマーは、更に他のモノマー単位を有していてもよい。
【0019】
そして、共重合体における2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合は、10モル%以上であり、25モル%以上であることが好ましい。これにより、モノマー単位の種類又は含有比率が異なるポリマーに比べ、スケール抑制能を大幅に向上できる。
【0020】
塩は、特に限定されず、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等であってよいが、スケールをより抑制できる点ではアルカリ金属塩が好ましく、具体的にはナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0021】
かかる共重合体は、特に限定されないが、その重量平均分子量が500〜50000であることが好ましく、より好ましくは1000〜30000、最も好ましくは1500〜20000である。
【0022】
以上のアニオン性ポリマーは、水処理剤の全質量に対して、固形分濃度2〜10質量%で含有されることが好ましい。
【0023】
(ホスホン酸化合物)
ホスホン酸化合物は、主にスケール抑制作用を有する。具体的には、特に限定されないが、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミン−N,N,N’,N’−テトラメチレンホスホン酸、及び/又はこれらの塩が挙げられる。このうち、後述のスライム抑制剤に含まれる酸化剤と併存した際の安定性に優れる点で、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸及び/又はその塩が好ましい。
【0024】
ホスホン酸の塩は、特に限定されず、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等であってよいが、スケールをより抑制できる点ではアルカリ金属塩が好ましく、具体的にはナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。ホスホン酸の塩は、酸の特性成分である水素が完全に置換された正塩であってもよく、酸成分の水素の一部が残っている酸性塩であってもよい。なお、上記ホスホン酸化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ホスホン酸化合物は、水処理剤の全質量に対して、固形分濃度0.5〜4質量%で含有されることが好ましい。
【0026】
(スライム抑制剤)
スライム抑制剤は、水系に添加されてスライムを抑制する機能を有するあらゆる成分を指す。例えば、文献(沼倉孝男:日本材料学会腐食部門委員会資料、No.199,Vol.36,Part4,p.1(1997))には、特に冷却水系に添加されるスライム抑制剤の成分として、次亜塩素酸ナトリウムに代表される無機系酸化物、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンに代表される非酸化性有機化合物が開示されている。
【0027】
無機系酸化物は、金属腐食を誘発し得る点で、含有濃度の増加に制限が課せられる。また、非酸化性有機化合物は、その種類によって、スライムの構成要素である細菌、カビ、藻類に対する有効なスペクトルが異なるため、スライムを充分に抑制するには多種の化合物を併用する必要がある。また、非酸化性有機化合物は、酸化性抗菌成分に比べてはるかに高価であるため、水処理コストの増大を招来し得る。
【0028】
そこで、スライム抑制剤は、塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物、及びアゾール系化合物を含有することが好ましい。かかるスライム抑制剤は、比較的安価に製造できるとともに、少量でも充分なスライム抑制作用を奏する。
【0029】
塩素系酸化物は、例えば、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
このうち、スケール発生を予防できる点で、次亜塩素酸アルカリ金属塩が好ましく、次亜塩素酸ナトリウムがより好ましい。次亜塩素酸ナトリウムの含有量は、水処理剤の全質量に対して、有効塩素含有量1〜8質量%であることが好ましく、より好ましくは有効塩素含有量3〜6質量%である。
【0031】
スルファミン酸化合物は、例えば、スルファミン酸、N−メチルスルファミン酸、N,N−ジメチルスルファミン酸及びN−フェニルスルファミン酸、及び/又はこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩)であってよい。これらのスルファミン酸化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、スルファミン酸が好ましく、スルファミン酸の含有量は水処理剤の全質量に対して1.5〜9質量%であることが好ましく、4.5〜8質量%であることがより好ましい。
【0032】
次亜塩素酸イオン及びスルファミン酸は、次式のように反応して、N−モノクロロスルファミン酸イオン又はN,N−ジクロロスルファミン酸イオンを形成し、塩素系酸化剤の有効成分が安定化する点で好ましい。
ClO+HNSOH→HClNSO+H
2ClO+HNSOH+H+→ClNSO+2H
【0033】
本発明で使用されるアゾール系化合物は、ヘテロ原子を2個以上含む五員環を有する芳香族化合物である。具体的には、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、トリアゾール、テトラゾール等の単環式アゾール系化合物、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、ベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、メルカプトメチルベンゾイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、インダゾール、プリン、イミダゾチアゾール、ピラゾロオキサゾール等の縮合多環式アゾール系化合物、及び/又はこれらの塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、及びアンモニウム塩)であってよい。これらのアゾール系化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。アゾール系化合物の含有量は水処理剤の全質量に対して0.05〜3質量であることが好ましく、0.1〜2質量%であることがより好ましい。
【0034】
以上の水処理剤は、長期間に亘って安定であるとともに、スケール付着抑制能に優れる。かかる経時的安定性及びスケール付着抑制能を損なわない限りにおいて、水処理剤は、目的に応じて、他の防腐剤、スケール防止剤、剥離剤、消泡剤等の任意成分を含有していてもよい。
【0035】
[水処理方法]
本発明に係る水処理方法は、以上の水処理剤を水系に添加する工程を有する。これにより、水系へのスケール付着を充分に抑制できる。
【0036】
水処理剤を構成する各成分の添加は、一部又は全部を混合した後に行ってもよいし、各々独立に行ってもよい。ここで、独立に添加するとは、独立のタイミング及び/又は独立の箇所に添加することを指す。なお、添加の手法は、特に限定されず、定期的に一定量を添加してもよいし、ポンプを用い連続的に添加してもよい。また、水処理剤の添加箇所は、水系の任意の箇所であってよく、通常は、スケールを抑制すべき箇所又はその上流である。
【0037】
水処理剤を添加する水系は、特に限定されず、冷却水系、蓄熱水系、紙パルプ工程水系、集じん水系、スクラバー水系であってよい。このうち、冷却水系であることが好ましく、開放循環式冷却水系であることがより好ましい。開放循環式冷却水系に本発明の水処理剤を添加することで、スケール付着を抑制しつつ高濃縮度での運転を行うことができ、水資源の有効活用及び運転効率による省エネルギ化を期待できる。
【0038】
また、水処理剤は、プレート式熱交換器を有する水系に添加することも好ましい。これにより、複雑且つ狭小な流路を有するためにスケール付着による障害が生じやすいプレート式熱交換器を用いつつ、高濃縮度での運転を行うことができ、水資源の有効活用及び運転効率による省エネルギ化を期待できる。
【実施例】
【0039】
<試験例1>
図1は、試験例1で用いた冷却水系評価試験装置10のブロック図である。評価試験装置10において、試験水は試験水タンク11からポンプ12により評価部15に送給され、再び試験水タンク11に戻る。試験水の流量はバルブ13により調整される。試験水タンク11には、試験水補給タンク17よりポンプ18を介して試験水が供給される。試験水の供給量は、所定の滞留時間となるよう調整される。試験水の温度は温度調整器16により所定の温度に調整される。なお、符号14は流量計である。
【0040】
図2は図1における評価部15の拡大図((a)側面図、(b)上面図)である。評価部15はカラム151、評価チューブ153、ヒータ155、熱電対157より構成される。具体的に、試験水はカラム151内部の評価チューブ153の外側を流れる。評価チューブ153の内側には、ヒータ155が評価チューブ153の内壁に密着するように挿入されており、ヒータ155による加熱を行うことで、評価チューブ153の外表面が熱交換器等の伝熱面を模擬したものになる。評価チューブ153の管肉部分には熱電対157を挿入できるような細孔があり、管肉部分の温度(管肉温度)が一定になるようヒータ155の出力が制御される。
【0041】
このような冷却水系評価試験装置10を用いて、水処理剤によるスケール抑制効果の評価を行った。具体的には、表1に示す模擬冷却対象水A、Bを試験水として用い、この試験水に、実際の冷却水系から採取されたスライム成分を、試験水の濁度が10になる量で且つ1日1回ずつの頻度により、試験水タンク11へと添加した。また、運転条件は以下の通りであった。
[運転条件]
保有水量:100L
評価部15における試験水の流速:0.4m/s
滞留時間:24時間
試験水温度:30℃
管肉温度:80℃
評価時間:2日間
【0042】
【表1】

【0043】
この運転の間、表2に示す濃度になるよう各水処理剤が添加された試験水を流通させた。つまり、試験水タンク11及び試験水補給タンク17の各々に収容される試験水は、表2に示す濃度の各成分を含有していた。このような運転の終了後に評価チューブ153の外観を観察し、スケールの付着状況を確認するとともに、評価チューブ153を乾燥させ、付着物を削ぎ落とし、その質量を測定した。この結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

※アニオン性ポリマー欄における( )内の数値は、共重合体における各単量体の構成比率(モル比)で示したものである。
AA/AMPS:アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸共重合体
AA/AMPS/t−BTAM:アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/t−ブチルアクリルアミド共重合体
MA/IB:マレイン酸/イソブチレン共重合体
AA/HAPS:アクリル酸/2−ヒドロキシ−3−アリロキシプロパンスルホン酸酸共重合体
ホスホン酸:2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸
有効塩素:次亜塩素酸ナトリウムをスルファミン酸で安定化させたスライム抑制剤(有効塩素含有量として4.8質量%の次亜塩素酸ナトリウム、8質量%のスルファミン酸、9.12質量%の水酸化ナトリウム、1質量%の1,2,3−ベンゾトリアゾール、77.08質量%の水からなる)を、各残留塩素濃度になるように添加した。なお、有効塩素濃度は、JIS K0101に準拠した残留塩素測定法によって測定した塩素濃度である。
【0045】
表2に示されるように、比較例1〜5、7〜8ではスケールの付着量が格段に高く、スケール付着の抑制が不充分であるのに対し、実施例1〜7では、スライム成分の添加の有無にかかわらず、スケールの付着量が5mg未満と極めて僅かであった。
【0046】
なお、比較例6ではスケールの付着量が僅少であったが、実際の水系においてスライム成分が存在しないという事態は想定されにくく、比較例7で多量のスケールが付着していたことを考慮すれば、比較例6で用いた水処理剤は実用性に関して大きな問題を有している。
【0047】
<試験例2>
図3は、試験例2で用いたベンチスケール冷却水系評価試験装置20のブロック図である。評価試験装置20では、ポンプ25を有する循環配管により、冷却塔29の収容槽23(保有量100L)に収容された循環冷却水が熱交換器28に送給され、冷却水(冷却対象)が冷却塔29に戻される。一方、水処理剤タンク21に水処理剤が収容され、水処理剤の収容槽23への供給量はポンプ22によって調節される。また、収容槽23には補給水が補給されるとともに、ポンプ24によって所定量の水がブロー水として廃棄される。熱交換器28は、外径19mm、長さ1300mm、厚さ2.3mmの炭素鋼製テストチューブ「STB340」2本が設けられた蒸気加熱シェル側通水熱交換器であった(熱交換部のチューブ長さ:1000mm)。
【0048】
評価試験装置20の運転条件は以下の通りであった。
[運転条件]
熱交換器28での流速:0.3m/s
熱交換器28入口水温:30℃
熱交換器28出口水温:50℃(蒸気加熱)
滞留時間:24時間
試験水温度:30℃
運転期間:30日間
【0049】
また、試験水の水質は、pH9.0、カルシウム硬度150〜200mgCaCO3/L、シリカ150〜200mgSiO2/Lであった。また、水処理剤としては、アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/t−ブチルアクリルアミド共重合体(分子量約10000)を14質量%、リン酸ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)を21質量%、1,2,3−ベンゾトリアゾールを1質量%、48%水酸化カリウム溶液を3質量%、スルファミン酸を1.4質量%、及び水を59.6質量%含有する基本液と、下記の成分を併用した。なお、安定化塩素は、スルファミン酸12質量%、12%次亜塩素酸ナトリウム溶液60質量%、1,2,3−ベンゾトリアゾール1.5質量%、48%水酸化ナトリウム溶液19.3質量%、及び水7.5質量%を用いて生成した。
試験区1:水処理剤(50mg/L)単独
試験区2:水処理剤(50mg/L)+次亜塩素酸ナトリウム(0.5mg/L)
試験区3:水処理剤(50mg/L)+次亜塩素酸ナトリウム(1.0mg/L)
試験区4:水処理剤(50mg/L)+安定化塩素(5mg/L)
【0050】
運転終了後、熱交換器28からテストチューブを採取し、熱交換器28入口付近(低温部)と、出口付近(高温部)とにおけるスケール付着量を、試験例1と同様の手順で測定した。この結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示されるように、試験例2〜4では、試験例1に比べ、高温部及び低温部のいずれにおいても、スケール付着量がはるかに低かった。これにより、所定のアニオン性ポリマー及びホスホン酸化合物とともにスライム抑制剤を併用することで、スケール付着を大幅に抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例に係る水処理剤の性能を評価するために使用した評価試験装置のブロック図である。
【図2】図1の評価試験装置における評価部の拡大図((a)側面図、(b)上面図)である。
【図3】本発明の実施例に係る水処理剤の性能を評価するために使用した別の評価試験装置のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性ポリマーと、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、を含有し、
前記アニオン性ポリマーは、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、
前記共重合体における2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合は10モル%以上である水処理剤。
【請求項2】
前記ホスホン酸化合物は、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸及び/又はその塩である請求項1記載の水処理剤。
【請求項3】
前記スライム抑制剤は、塩素系酸化剤、スルファミン酸化合物、及びアゾール系化合物を含有する請求項1又は2記載の水処理剤。
【請求項4】
13以上のpHを有し、且つ、前記水処理剤の全質量に対して、(a)有効塩素含有量1〜8質量%の次亜塩素酸ナトリウム、(b)1.5〜9質量%のスルファミン酸、(c)2.5〜20質量%の水酸化ナトリウム、(d)0.05〜3質量のアゾール系化合物、(e)固形分濃度2〜10質量%のアニオン性ポリマー、及び(f)固形分濃度0.5〜4質量%のホスホン酸化合物を含有する請求項3記載の水処理剤。
【請求項5】
水系の水処理方法であって、前記水系に、ホスホン酸化合物と、スライム抑制剤と、モノマー単位として、(メタ)アクリル酸及び/又はその塩と、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩と、を有する共重合体であり、この共重合体における2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及び/又はその塩からなるモノマー単位の含有割合が10モル%以上であるアニオン性ポリマーと、を添加する水処理方法。
【請求項6】
前記水系は開放循環式冷却水系である請求項5記載の水処理方法。
【請求項7】
前記水系はプレート式熱交換器を有する請求項5又は6記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−58079(P2010−58079A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228108(P2008−228108)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】