説明

水処理方法及びこの水処理方法に用いる水処理装置

【課題】エネルギーコストをあまりかけず、かつ、装置を大型化することなく、水処理を効率よく行うことができる水処理方法及びこの水処理方法に用いる水処理装置を提供することを目的としている。
【解決手段】放電空間内に被処理水Wを水滴化して供給し、放電空間内で放電によって発生した活性種によって、水滴中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理方法であって、放電空間を通過して処理された水滴を処理水W1として処理水貯槽5aの促進酸化処理部51aに貯めるとともに、促進酸化処理部51aに貯まった処理水W1中に鉄粉91を供給して処理水W1中の残存処理対象物質を促進酸化するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、下水、排水等に含有される有機物、無機物、微生物を分解処理する水処理方法及びこの水処理方法に用いる水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、上水、下水、産業排水、プールなどの分野で、水中の有機物の酸化分解、殺菌、脱臭等の処理のためにオゾンが用いられている(特許文献1参照)。
しかしながら、オゾンは酸化力が弱く、親水化、低分子化はできても無機化することはできない。また、ダイオキシン等の難分解性有機物は分解できない。
【0003】
そこで、処理能力を向上させるために、放電によりオゾンを発生させるとともに、オゾンより酸化力が強いOHラジカルやOラジカル等を発生させ、このオゾン及びラジカルを含む放電空間(放電場)に被処理水を曝すことによって、オゾンだけでなく、ラジカルによっても酸化処理するようにした水処理装置が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、ラジカルは寿命が短く、消滅しやすく、そのため効率が悪く、上記のような先に提案された水処理装置ではラジカルによる酸化作用を十分に発揮させることができない。
【0004】
そこで、本発明の発明者は、接地電極である円筒電極の中心軸に沿って電圧印加電極である線状電極を設け、線状電極に高電圧を印加して両電極間で放電を生じさせるとともに、この放電空間に被処理水を水滴状にして供給し、放電空間内で生じるラジカルやオゾン等の活性種によって被処理水中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理装置を先に提案している(特許文献3参照)。
すなわち、この水処理装置は、放電によってラジカルやオゾンをつぎつぎに発生させるとともに、被処理水を水滴化して、このラジカルやオゾンとの接触表面積を上げることによって処理効率を良くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−267096号公報
【特許文献2】特開2000−279977号公報
【特許文献3】特開2009−241055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記先に提案された水処理装置の場合、従来の方法に比べれば処理効率がよかったが、実用化するにあたってはさらに処理効率をよくすることが求められている。
すなわち、上記水処理装置においては、水滴ができるだけ長時間放電空間に止まっている必要があるが、水滴を長時間放電空間に止まっているようにするには、電極を大きく長くすることが必要になり、装置が大型化するとともに、放電に要する電気エネルギーも多量に必要となり、コストがかかるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みて、エネルギーコストをあまりかけず、かつ、装置を大型化することなく、水処理を効率よく行うことができる水処理方法及びこの水処理方法に用いる水処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明にかかる水処理方法(以下、「本発明の水処理方法」と記す)は、放電空間内に被処理水を水滴化して供給し、放電空間内で放電によって発生した活性種によって、水滴中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理方法であって、放電空間を通過して処理された水滴を処理水として処理水貯槽に貯めるとともに、処理水貯槽に貯まった処理水中に鉄粉を供給して処理水中の残存処理対象物質を促進酸化することを特徴としている。
【0009】
また、本発明にかかる水処理装置(以下、「本発明の水処理装置」と記す)は、放電空間内に被処理水を水滴化して供給し、放電空間内で放電によって発生した活性種によって、水滴中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理装置であって、放電空間を通過して処理された水滴を受けて処理水として貯める処理水貯槽と、この処理水貯槽に鉄粉を供給する鉄粉供給手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
本発明において、活性種とは、Oラジカル、OHラジカルなどのラジカル及びオゾンを意味する。
【0011】
本発明で用いられる鉄粉としては、特に限定されないが、その粒径が500μm以下の還元鉄粉を用いることが好ましく、特に40μm以下の粒子を存在させることがより好ましい。すなわち、還元鉄粉の粒径が大きすぎると、撹拌機などで強く撹拌しないと、還元鉄粉がすぐに沈降してしまい、反応が進みつらくなるおそれがある。一方、撹拌機で強い撹拌を行わせようとした場合、大容量の撹拌機が必要になり、設備コストやエネルギーコストが大きくなるおそれがある。したがって、還元鉄粉の粒径を小さくして沈降せず長時間浮遊させるようにすることが好ましい。
【0012】
還元鉄粉の添加量は、特に限定されないが、処理水中に0.1〜10[g/L]含まれていることが好ましい。
また、本発明で用いられる還元鉄粉は、特に限定されないが、例えば、ミルスケール還元鉄粉法、鉱石還元鉄粉法で製造されたものが挙げられる。
【0013】
また、本発明において、特に限定されないが、処理水中に鉄粉を供給すると同時に酸素を処理水中にバブリングすることが好ましい。
すなわち、酸素のバブリングによって、鉄粉がより長時間浮遊するとともに、OHラジカルの発生を促進し、分解処理をより活性化させることができる。
【0014】
バブリングされる酸素は、ある程度酸素を含んで入れば、純酸素である必要はなく、空気でも構わない。
バブリングされる酸素の気泡径は、特に限定されないが、反応速度を考慮すると、できるだけ細かい気泡にすることが好ましい。
処理水中に供給される酸素の量は、特に限定されないが、0.2〜2 [L/min・L-被処理水]となるようにすることが好ましい。
【0015】
本発明において、放電方式は、高エネルギーの電子や紫外線が発生する放電が発生すれば、特に限定されないが、一方の電極を電圧印加電極とし、他方の電極を接地電極として、電圧印加電極に高圧パルス電圧を印加する方式が挙げられる。
上記電圧印加電極及び接地電極の材質は、特に限定されないが、耐食性を考慮するとチタンやステンレス鋼が好ましい。
【0016】
電極の形状は、特に限定されないが、接地電極の場合、特に限定されないが、円筒電極、円筒メッシュ電極などの円筒状電極、平板電極などが挙げられ、円筒状電極が好適である。
一方、電圧印加電極は、例えば、接地電極が円筒状電極の場合、円筒状電極の中心軸に沿って設けられるワイヤー電極、ネジ状電極、剣山状電極、ワイヤーブラシ状電極などが挙げられ、接地電極が平板電極の場合、この平板電極に平行に設けられる平板電極が挙げられる。
【0017】
また、電圧印加電極及び接地電極は、処理室内に1対だけでなく複数対設けるようにしても構わない。
【0018】
電圧印加電極と接地電極との間に印加される放電電圧は、放電が起きる電圧であれば特に限定されない。
【0019】
本発明において、処理対象物質としては、特に限定されないが、各種有機化合物、細菌や臭気成分などの有機物が挙げられる。
本発明において、水滴化手段としては、特に限定されず、例えば、噴霧ノズルやシャワーノズルが挙げられる。
なお、上記水滴は、特に限定されないが、放電空間内で発生するラジカル及びオゾンとの接触を高めるために、出来るだけ細かい水滴とすることが好ましい。
【0020】
本発明の水処理装置において、処理水貯槽は、特に限定されないが、処理水を貯留するとともに、残存処理対象物質を促進酸化する促進酸化処理部と、促進酸化処理部の上澄み水を貯める上澄み水貯留部とを備えている構成としてもよい。
すなわち、処理水貯槽に鉄粉を供給することによって生じた鉄イオンが凝集剤として働き、処理水中に凝集した凝集物が発生する。したがって、そのまま放流等を行うと凝集物も一緒に放流されてしまうこととなるため、固液分離装置を別途設ける必要がある。しかし、凝集物を促進酸化処理部側に残すようにし、上澄み水貯留部に一旦貯留した上澄み水を放流することで、固液分離装置を別途設ける必要がなくなる。
【0021】
また、本発明の水処理装置は、処理水貯槽の処理水を再び放電空間に供給する循環路を備えている構成としても構わない。
すなわち、循環によって処理水を放電空間での処理及び処理水貯槽での処理を繰り返し行うことができ、装置全体を小型化しても高い処理性能を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の水処理方法は、放電空間内に被処理水を水滴化して供給し、放電空間内で放電によって発生した活性種によって、水滴中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理方法であって、放電空間を通過して処理された水滴を処理水として処理水貯槽に貯めるとともに、処理水貯槽に貯まった処理水中に鉄粉を供給して処理水中の残存処理対象物質を促進酸化するようにした。
【0023】
すなわち、被処理水を水滴化して放電空間内を通過させることによって、放電空間内で発生するオゾン及びラジカルに水滴中の処理対象物質を接触させて、水滴中の処理対象物質を分解処理することができる。
また、放電によって、過酸化水素及び窒素酸化物も形成され、この過酸化水素が処理水貯槽内に受けられた処理水中に溶け込む。また、窒素酸化物が処理水中に溶け込んで硝酸となり、処理水が酸性になっていく。
【0024】
そして、処理水貯槽では、鉄粉の表面に形成される第1鉄イオンが、放電によって発生した過酸化水素に触媒的に反応し、酸化力の強いOHラジカルを発生させて、処理水中に残存する処理対象物質が分解される。したがって、被処理水中の有機物が、素早く、かつ、効率よく分解される。
【0025】
以上のように、本発明の水処理方法によれば、有機化合物の分解を放電空間で発生するオゾンやラジカルによる分解だけでなく、電気エネルギーをかけることのなく、鉄粉を加えるだけで、いわゆるフェントン反応を利用して残存処理対象物質を促進酸化分解処理するようにしたので、エネルギーコストをあまりかけず、かつ、装置を大型化することなく、水処理を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明にかかる水処理装置の第1の実施の形態を説明する模式図である。
【図2】図1の水処理装置の高電圧パルス発生装置の回路図である。
【図3】本発明にかかる水処理装置の第2の実施の形態を説明する模式図である。
【図4】実施例1、比較例1で調べた処理時間の経過に伴う被処理水のインディゴカルミン濃度変化を対比してあらわすグラフである。
【図5】実験例1で調べた処理時間の経過に伴う過酸化水素の濃度変化をあらわすグラフである。
【図6】実験例1で調べた処理時間の経過に伴う硝酸イオンの濃度変化をあらわすグラフである
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明にかかる水処理装置の第1の実施の形態をあらわしている。
【0028】
図1に示すように、この水処理装置1aは、処理室2と、円筒状電極3と、線状電極4と、処理水貯槽5と、ポンプ6と、水滴化手段としてのシャワーノズル7と、循環路となる被処理水供給ホース71と、混合気体供給手段8aと、鉄粉供給装置9aと、高圧電源である高電圧パルス発生装置10と、を備えている。
処理室2は、例えば、アクリル樹脂等の絶縁材料で形成され、あるいは、ステンレス鋼の筒状体の内面が絶縁材料で被覆された形成されて、円筒状をしている。
【0029】
処理室2は、上蓋23を備え、この上蓋23にシャワーノズル設置孔23aが設けられている。
処理室2の下端部には、排気管25が設けられている。排気管25の途中または出口にはオゾン除去フィルター等のオゾン除去装置を設けることが好ましい。
【0030】
円筒状電極3は、例えば、ステンレス鋼製の2.5メッシュ、線径1.1mmの金網を円筒状に加工することによって得られ、外径が処理室本体21の内径より少し小さくなっている。
線状電極4は、例えば、直径1mmのチタン鋼線で形成され、円筒状電極3の中心軸に沿うように設けられている。
【0031】
処理水貯槽5aは、槽本体51と、蓋52とを備えている。
槽本体51の内部は、蓋52との間にオーバーフロー用の隙間54が形成される高さの仕切り壁53を介して促進酸化処理部51aと、上澄み水貯留部51bとに区切られている。
【0032】
蓋52は、槽本体51の上部開口を処理室2の下端開口を臨む部分及び後述する鉄粉供給装置9aの供給口以外すべての部分を塞ぐとともに、処理室2を下方から支持するように設けられている。
槽本体51の上澄み水貯留部51bは、ポンプ6に接続されている。
ポンプ6は、上澄み水貯留部51b内の分離水W2(または被処理水W)を、被処理水供給ホース71を介してシャワーノズル7に送るようになっている。
【0033】
シャワーノズル7は、被処理水供給ホース71を介して送られてきた分離水W2(または被処理水)を粒径が1500μm以下の水滴からなるミスト状態にして円筒状電極3の上部開口に向かって噴射するようになっている。
また、シャワーノズル7の噴角は、噴射される被処理水ミストMの最大広がり部で放電空間の最外縁である円筒状電極3の内壁面に沿うような角度に調整されている。
【0034】
混合気体供給手段8aは、酸素ボンベ81と、酸素供給管82と、窒素ボンベ83と、窒素供給管84と、ミキサー(マツモト機械製、GM-A2)85と、混合気体供給管86とを備えている。
【0035】
ミキサー85は、酸素ボンベ81から酸素供給管82を介して送られてきた酸素と、窒素ボンベ83から窒素供給管84を介して送られてきた窒素とを、酸素が所定の混合比率に混合するようになっている。
混合気体供給管86は、ミキサー85で混合されて得られた混合気体を処理室2の上端部から処理室2内に供給するようになっている。
なお、混合気体中の酸素濃度は、25〜90容量%に設定されている。
【0036】
鉄粉供給装置9aは、蓋52に設けられた供給口から鉄粉91を促進酸化処理部51aに定量供給できるようになっている。
【0037】
高電圧パルス発生装置10は、図2に示すように、高圧直流電源101、コンデンサ102、抵抗103、トリガトロンギャップスイッチ104、パルストランス105およびトリガ回路106を備えている。
【0038】
そして、高電圧パルス発生装置10は、以下のように動作する。
すなわち、高圧直流電源101からの電流が抵抗103を介してコンデンサ102に供給され、コンデンサ102が充電される。目標電圧までコンデンサ102が充電された後、トリガ回路106からの高電圧のトリガパルスによりトリガトロンギャップスイッチ104がオン状態になる。このとき、コンデンサ102に充電された電荷がパルストランス105の1次側に流れ込み、相互インダクタンスにより2次側にパルス状の誘起電圧が発生する。
【0039】
このようにしてパルストランス105の2次側に生じた高電圧パルスは、線状電極4と円筒状電極3との間に印加される。
すなわち、端子107が、線状電極4に導通状態にされ、端子108が円筒状電極4と導通状態にされる。
【0040】
端子107、108間に出力されるパルスの繰り返し数は、トリガ回路106におけるトリガパルスの出力頻度を変えることによって制御される。また出力パルスの電圧は、高圧直流電源101の出力電圧を切り替えることによって制御される。
【0041】
この水処理装置1aは、以下のようにして、被処理水中の有機化合物を分解処理する。
すなわち、処理水貯槽5aの促進酸化処理部51aと、上澄み水貯留部51bとに仕切り壁53の上端までに有機物等を含む被処理水Wを仕込むとともに、所定量(被処理水中の有機化合物の種類や量に応じて経験的に求められた量)の鉄粉を、鉄粉供給装置9aから鉄粉91を促進酸化処理部51a内に供給する。
【0042】
そして、高電圧パルス発生装置10によって、円筒状電極3と線状電極4との間に、高電圧をパルス状に印加し、円筒状電極3内に上下方向に円柱状となった放電空間を形成するとともに、ポンプ6を駆動させて、上澄み水貯留部51b内の被処理水W(上澄み水W2)を、被処理水供給ホース71を介してシャワーノズル7に送り、円筒状電極3の上方から円筒状電極3の中心軸方向に向かって水滴化して噴射する。
【0043】
この水処理装置1aは、上記のようになっており、まず、水滴化された被処理水が円筒状電極3内部に形成された放電空間で発生するオゾンやラジカルに接触して被処理水中の有機化合物が分解され、処理水W1となって、処理室2の下端から促進酸化処理部51aに受けられ、促進酸化処理部51a内に貯められた水に混ざりこむ。
また、放電空間で発生する放電によって、過酸化水素及び窒素酸化物が発生し、この過酸化水素が処理水W1に溶け込むとともに、窒素酸化物が硝酸となって処理水W1に溶け込んで、促進酸化処理部51a内に入り込む。
【0044】
一方、促進酸化処理部51a内には、鉄粉91が供給されているので、処理水W1中に含まれる硝酸によって鉄粉91の表面が溶解して第1鉄イオンが発生し、この第1鉄イオンが処理水中に含まれる上記過酸化水素に触媒として作用し、促進酸化処理部51a内でOHラジカルが発生する。
そして、促進酸化処理部51a内の水に含まれている有機化合物がこのOHラジカルによって分解処理される。
【0045】
また、促進酸化処理部51a内では、鉄イオンの凝集作用によって促進酸化処理部51a内の水に含まれている微細な浮遊成分が凝集するが、上澄み水のみが仕切り壁53の上端を乗り越えて上澄み水貯留部51bに入る。
そして、上澄み水貯留部51bに入った上澄み水は、上澄み水貯留部51bに貯留された水と混ざり合い、再びポンプ6、被処理水供給ホース71を介してシャワーノズル7に被処理水として送られ、水滴化されて放電空間に供給される。
【0046】
最後に、所定時間経過し、十分に分解処理が行われたら、上澄み水貯留部51bの水は、そのまま放流され、促進酸化処理部51aでは、底に貯まった凝集沈澱物及び鉄粉の残渣がろ過分離されたのち、ろ液が放流される。
【0047】
以上のように、この水処理装置1aは、放電空間内で発生するオゾンやラジカルで分解できなかった有機化合物を促進酸化処理部51aに鉄粉91を供給して残存処理対象物質を促進酸化させて分解するようにしたので、処理室2が小さいものであっても、処理効率が向上する。しかも、放電空間を大きく、かつ長くする必要がないので、放電に要する電気エネルギーも少なくすることができる。
【0048】
また、この水処理装置1aは、上記のように、処理室2内には、混合気体供給手段8aによって、酸素が25〜90容量%、窒素が残部である混合気体が充満するように供給されるので、OHラジカル、Oラジカルが多量に効率よく発生し、より処理を速く行うことができる。
【0049】
図3は、本発明にかかる水処理装置の第2の実施の形態をあらわしている。
図3に示すように、この水処理装置1bは、以下に説明する構成以外は、上記水処理装置1aと同様になっている。
【0050】
すなわち、この水処理装置1bは、槽本体51が、仕切り壁55を介して完全に仕切られた被処理水貯槽51cを促進酸化処理部51aに隣接して備えている。
そして、被処理水貯槽51cの被処理水Wがホース71を介してシャワー7に送られるようになっている。
【0051】
促進酸化処理部51aの底には、散気管92が設けられ、ブロアー9bから送られる空気がこの散気管92から細かい気泡になってバブリングされるようになっている。
上澄み水貯槽51bが、排出管56を備え、上澄み水貯槽51b内の上澄み水W2を排出管56から放流できるようになっている。
【0052】
この水処理装置1bは、上記のように、処理水W1が循環することなく、そのまま上澄み水W2として排水される。
そして、促進酸化処理部51aの底に散気管92が設けられ、ブロアー9bから送られる空気がこの散気管92から細かい気泡になってバブリングされるようになっているので、鉄粉91がより均一に分散状態で浮遊することになる。すなわち、鉄粉91が触媒として効率よく働くとともに、空気中の酸素が酸化剤として働き、より促進酸化を効率よく行うことができる。
【0053】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されない。例えば、上記の実施の形態では、高電圧パルス発生装置を備えていたが、高電圧パルス発生装置は市販のものを別途容易するようにしても構わない。
また、上記の実施の形態では、水処理装置が、混合気体供給手段または、混合気体供給手段及び酸化剤供給手段の両方を備えていたが、混合気体供給手段及び酸化剤供給手段はなくても構わない。
【0054】
上記の実施の形態では、被処理水を上方から水滴化して噴射するようにしていたが、円筒状電極がメッシュとなっている場合は、円筒状電極の側面方向から網目を介して円筒状電極内に水滴化された被処理水を供給するようにしても構わない。
【0055】
以下に、本発明の具体的な実施例を比較例と対比させて説明する。
【0056】
(実施例1)
処理室2内に、6対の円筒状電極3及び線状電極4を、1対の円筒状電極3及び線状 電極4を中心にして、他の5対の円筒状電極3及び線状電極4を放射状に等間隔で並べ た以外は、図1に示す水処理装置1aを用い、以下の実験条件で被処理水W中の処理対 象物質としてのインディゴカルミンの分解処理を行い、紫外可視分光光度計(日立ハイ テクノロジーズ社製商品名U−1900)を用いて610nmでの吸光度によって、被 処理水Wの処理時間の経過に伴うインディゴカルミンの濃度変化を調べた。
〔実験条件〕
被処理水W中のインディゴカルミン初期濃度:約20ppm
被処理水W量:7リットル
被処理水Wの噴射速度(循環速度):14L/分
充電電圧:20kV
放電回数:100回/秒
円筒状電極3の性状:2.5メッシュ、線径1.1mm、開孔率79.5%、溶接金網
円筒状電極3の外径:39.5mm
円筒状電極3の長さ(中心軸方向の長さ):200mm×6本
被処理水ミストの粒径:750〜970μm
シャワーノズル7の噴角:30°
鉄粉:7g/L
シャワーノズル7から円筒状電極までの距離:被処理水ミストMの最外縁が最外部に位置する円筒状電極外縁の上端になるように調整した。
混合気体の酸素窒素比: 酸素:窒素=10:90
混合気体供給条件:混合気体を処理室2内に10L/分(常温・常圧)で供給した。
【0057】
(比較例1)
鉄粉を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてインディゴカルミンの濃度変化を調べた。
【0058】
上記実施例1及び比較例1で調べたインディゴカルミンの濃度変化の結果を図4に対比してあらわす。
図4に示すように、本発明の水処理方法を用いれば、すなわち、処理水貯槽に鉄粉を加えることにより分解処理速度が速くなることがよくわかる。
【0059】
(実験例1)
槽本体51内にイオン交換水のみを満たし、鉄粉を促進酸化処理部51aに供給しなかった以外は、上記実施例1と同様の処理条件で、水処理装置を稼動し、促進酸化処理部51a内の水中に溶け込んでいる過酸化水素濃度及び硝酸濃度の経時的変化を調べ、過酸化水素濃度の経時変化を図5に示し、硝酸濃度の経時的変化を図6に示した。
【0060】
図5及び図6から放電により過酸化水素及び硝酸が経時的に生成していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の水処理装置は、特に限定されないが、例えば、有機物を含む排水の浄化、汚染水の殺菌などに用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1a,1b 水処理装置
2 処理室
3 円筒状電極
4 線状電極
5a,5b 処理水貯槽
51 槽本体
51a 促進酸化処理部
51b 上澄み水貯留部
51c 被処理水貯槽
6 ポンプ
7 シャワーノズル(水滴化手段)
71 被処理水供給ホース(循環路)
8a 混合気体供給手段
81 酸素ボンベ
82 酸素供給配管
83 窒素ボンベ
84 窒素供給配管
85 ミキサー
86 混合気体供給配管
9a 鉄粉供給装置
91 鉄粉
9b ブロアー
92 散気管
10 高電圧パルス発生装置(高圧電源)
W 被処理水
W1 処理水
W2 上澄み水
M 被処理水ミスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間内に被処理水を水滴化して供給し、放電空間内で放電によって発生した活性種によって、水滴中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理方法であって、
放電空間を通過して処理された水滴を処理水として処理水貯槽に貯めるとともに、処理水貯槽に貯まった処理水中に鉄粉を供給して処理水中の残存処理対象物質を促進酸化することを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
鉄粉が、粒径500μm以下の還元鉄粉である請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
酸素を処理水中にバブリングする請求項1または請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
放電空間内に被処理水を水滴化して供給し、放電空間内で放電によって発生した活性種によって、水滴中の処理対象物質を分解処理するようにした水処理装置であって、
放電空間を通過して処理された水滴を受けて処理水として貯める処理水貯槽と、この処理水貯槽に鉄粉を供給する鉄粉供給手段とを備えていることを特徴とする請求項1の水処理方法に用いる水処理装置。
【請求項5】
処理水貯槽に酸素をバブリングする酸素供給手段を備えている請求項4に記載の水処理装置。
【請求項6】
少なくとも一対の円筒状電極及び線状電極と、円筒状電極と線状電極との間に高電圧を印加して放電空間を形成する高圧電源とを備えている請求項4または請求項5に記載の水処理装置。
【請求項7】
処理水貯槽が、処理水を貯留するとともに、残存処理対象物質を促進酸化する促進酸化処理部と、促進酸化処理部の上澄み水を貯める上澄み水貯留部とを備えている請求項4〜請求項6のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項8】
処理水貯槽の処理水を再び放電空間に供給する循環路を備えている請求項4〜請求項7のいずれかに記載の水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−251275(P2011−251275A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128754(P2010−128754)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】