説明

水処理方法

【課題】浸漬槽内から排出される洗浄水の懸濁物質濃度を高めることにより、全体的な排水量を減らし、低コスト、高回収率運転を実現しつつ、装置全体の安定運転を長期間継続させる水処理方法を提供する。
【解決手段】膜モジュール1を介して浸漬槽内2の被処理水を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、前記膜モジュールに膜ろ過水を逆流させる逆洗および/または前記膜モジュールの下部に設置された散気装置15から空気を供給して膜表面を洗浄する空洗からなる洗浄工程、該浸漬槽内から被処理水を排出する排水工程A、該排水工程A後に前記浸漬槽内に被処理水を前記膜モジュールの全体が浸漬するまで供給する供給工程、再度前記浸漬槽内から被処理水を排出する排水工程Bの5工程から構成される水処理方法であって、前記ろ過工程と前記洗浄工程とが2回以上行われた後に前記排水工程A、前記供給工程および前記排水工程Bが行われることを特徴とする水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸漬型膜モジュールを用いた水処理方法に関するものである。さらに詳しくは、上水道における浄水処理分野、工業用水や食品、医療プロセス用水といった産業用水製造分野、下水や工業廃水といった下廃水処理分野などに使用される浸漬型膜モジュールを用いた、低コスト、高回収率な水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜分離法は、省エネルギー、省スペース、省力化および製品の品質向上等の特徴を有するため、様々な分野での使用が拡大している。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜は、河川水や地下水、下水処理水から、工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへの適用があげられる。
【0003】
また、膜分離法で使用される膜モジュールには、大きく分けて、加圧型膜モジュールと浸漬型膜モジュールとが存在する。加圧型膜モジュールは、多数本の膜を容器内に収納し、容器の両方の端部あるいは片方の端部を種々の接着剤にて接着した形状となっており、ポンプにて膜モジュール内に導入された原水が加圧状態となり、膜面によってろ過を行うタイプの膜モジュールである。一方、浸漬型膜モジュールは、膜が大気中に露出した形状となっており、その膜モジュール大気開放された処理槽内に浸漬させ、ろ過水側を吸引等してろ過を行うタイプの膜モジュールである。
【0004】
加圧型膜モジュールは、浸漬型膜モジュールに比べろ過圧力をより大きく設定できることから、膜面積あたりの処理量が増加し、そのため処理に必要な膜モジュール本数を減らせる、設置面積を小さくできる等の長所を持つ。一方、浸漬型膜モジュールは、耐圧性の筒状ケースが無く処理原水中に膜を浸漬させて使用されることから、膜間に詰まる濁質の排出性に優れ、高濁質の原水でも膜ろ過が行えるという長所がある。また、ろ過方法が単純であり、付帯配管も少ないことから、設備費を低減できる長所もある。
【0005】
浸漬型膜モジュールは前述したとおり、大気開放された処理槽内の原水中に膜モジュールを浸漬させ、ろ過水側を吸引等してろ過を行う。吸引ろ過の場合、浸漬型膜モジュールのろ過水出口から、膜モジュールのろ過水側を吸引する吸引手段(吸引ポンプなど)までの間のろ過水配管内は、ろ過工程中に、吸引されることにより負圧状態、ないしはそれに近い状態となるといった特徴も有している。
【0006】
これらの膜モジュールを用いて原水を膜ろ過すると、原水中に含まれる濁質や有機物等の除去対象物が膜面に蓄積し、膜の閉塞現象が起こるため、膜のろ過抵抗が上昇し、やがてろ過を行うことができなくなる。そこで、膜ろ過性能を維持するため、定期的に膜ろ過を停止し、物理洗浄を行うのが一般的である。通常、前述のろ過工程と物理洗浄工程とは、自動的に繰り返しで実施される。
【0007】
物理洗浄には、膜モジュール下部に空気を吹き込んで膜を水中で振動させることにより、膜面に付着した懸濁物質を震い落とす空気洗浄(空洗)や、膜モジュールのろ過方向とは逆方向、つまりろ過水側から供給水側に膜ろ過水などの水(洗浄水)を圧力で押し込み、膜などに付着した懸濁物質を排除する逆圧水洗浄(逆洗)などがある。
【0008】
通常の膜モジュールの運転では、これらの各工程が1回ずつ行われた後に膜から剥離した懸濁物質を系外に排出する排水が行われる。しかしながら、浸漬型膜モジュールにおいては、単位膜モジュール当たりの排水量が加圧型膜モジュールよりも多くなってしまい、その影響により使用した原水量当たりに得られたろ過水量の比である回収率が低下してしまう問題があった。
【0009】
このような問題を解決すべく、例えば特許文献1においては、洗浄排水を高濁度汚水貯留槽に貯めておき、ろ過工程が終了し、逆洗工程が始まる前に高濁度汚水貯留槽の汚水を膜モジュールでろ過することにより回収率を増加させる技術が開示されている。しかしながら、本手法は洗浄排水を高濁度汚水貯留槽とするため、実設備では建設用地がさらに必要となり建設費の増大につながる問題がある。また、たとえ短時間でも高濁度の汚水を膜ろ過することにより、長期間の運転を実施すると、従来の処理法よりも膜内部に蓄積する汚染物質の蓄積速度は速くなる問題がある。
【0010】
また、特許文献2においては、浸漬槽内の原水を予め定めた一定時間毎に、予め定めた一定量ずつ、浸漬槽外に排出することにより、運転中における排水量を減らし、高回収率運転を行う技術が開示されている。たしかに本発明での運転方法は高回収率運転が可能であるが、その一方で浸漬槽内の濁度を高める可能性があり、高濁度水中での運転を継続することにより、膜面および膜内部に懸濁物質が蓄積してしまい、長期間の安定運転が実現できなくなる問題がある。
【0011】
一方、特許文献3においては、洗浄工程に移る前に浸漬槽に原水を供給せずにろ過を行い、浸漬槽内の水位を下げることで、その後に行う洗浄工程で出る排水と合わせた総排水量を減らすことが可能になると記載されている。確かに本発明の技術を採用した場合には、排水量を大幅に減らすことができ、高回収率運転が可能になる。しかしながら、浸漬槽内の水位を下げる際に膜が大気中に露出した状態でろ過を継続するため、膜表面が乾燥する可能性もある。また、ろ過工程および洗浄工程を2回以上繰り返した後に排水を行っている。この手法でも確かに排水量を減らすことが可能になるために回収率を高くすることができるが、その分、排水が高濁度になり、排水後に膜表面や浸漬槽の壁面に懸濁物質が残存することになり、それが次の運転サイクルで膜を汚れやすくする要因になる可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−301469号公報
【特許文献2】特開2004−174302号公報
【特許文献3】特開2006−281162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、浸漬槽内から懸濁物質とともに排出される洗浄水の懸濁物質濃度を高めることにより、全体的な排水量を減らし、低コスト、高回収率運転を実現しつつ、装置全体の安定運転を長期間継続させることが可能な水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明は次の構成をとる。
(1)膜モジュールを介して浸漬槽内に貯留された被処理水を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、前記膜モジュールに膜ろ過水側から被処理水側へ膜ろ過水を逆流させる逆洗および/または前記膜モジュールの下部に設置された散気装置から空気を供給して前記膜モジュールの膜表面を洗浄する空洗からなる洗浄工程、該浸漬槽内から被処理水を排出する排水工程A、該排水工程A後に前記浸漬槽内に被処理水を前記膜モジュールの全体が浸漬するまで供給する供給工程、再度前記浸漬槽内から被処理水を排出する排水工程Bの5工程から構成される水処理方法であって、前記ろ過工程と前記洗浄工程とが2回以上行われた後に前記排水工程A、前記供給工程および前記排水工程Bが行われることを特徴とする水処理方法。
(2)前記排水工程Bの直前に空洗工程を実施することを特徴とする(1)に記載の水処理方法。
(3)該膜モジュールが多数本の中空糸膜から構成された中空糸膜モジュールであることを特徴とする(1)あるいは(2)のいずれかに記載の水処理方法。
(4)該中空糸膜モジュールの下部が、それぞれ複数本の中空糸膜から構成された複数個の小束に分割されていることを特徴とする(3)に記載の水処理方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、浸漬槽内から懸濁物質とともに排出される洗浄水の懸濁物質濃度を高め、全体的な排水量を減らすことが可能となり、低コスト、高回収率運転を実現しつつ、装置全体の安定運転を長期間継続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における浸漬型膜モジュールの運転装置の一実施態様を示す概略図である。
【図2】実施例2における運転結果を示す、運転時間と運転差圧との関係図である。
【図3】比較例1における運転結果を示す、運転時間と運転差圧との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の望ましい実施の形態を、図面を用いて説明する。ただし、本発明の範囲がこれらに限られるものではない。
【0018】
図1は、本発明における浸漬型膜モジュールの運転装置の一実施態様を示す概略図である。浸漬型膜モジュール1にて処理する原水は原水配管3から連続的にあるいは断続的に浸漬槽2内に供給される。なお、浸漬槽2内への原水供給の調整は原水弁4の開閉によって行われる。流入した原水は、浸漬槽2内で液相2aと沈降した懸濁物質からなる沈降汚泥相2bとに相分離される。浸漬槽2内には浸漬型膜モジュール1が浸漬設置されており、ろ過水配管5の下流側に配設されたろ過ポンプ6によって、浸漬型膜モジュール1内の分離膜、ろ過水配管5、及びろ過弁7を介して、液相2a内の原水が膜ろ過され、ろ過水槽8にろ過水8aが貯留される(ろ過工程)。このろ過工程において浸漬槽2内は静置状態におかれるために、液相2a中から懸濁物質が沈降して液相2a中の懸濁物質濃度が低減し、浸漬型膜モジュール1の分離膜への懸濁物質負荷が低減する。
【0019】
ろ過工程を所定時間単独で行った後、ろ過ポンプ6を停止し、ろ過弁7を閉じ、ろ過工程を停止する。引き続き、逆洗弁11を開き、逆洗ポンプ10によって逆洗水配管9を介して浸漬型膜モジュール1へろ過水8aを逆洗水として送り込み、中空糸膜の逆流洗浄を行う(逆洗)。なお、この時逆洗水に次亜塩素酸ナトリウムのような薬品を少量添加して分離膜に詰まった懸濁物質を除去することもできる。また同時に、空洗弁14を開き、空洗エア配管13と、浸漬型膜モジュール1の下部に設置した散気装置15とを介して、ブロワ12から供給される空気を液相2a内に送出させ、気泡を浸漬型膜モジュール1内に散気して中空糸膜を空気洗浄する(空洗)。この逆流洗浄と空気洗浄とは同時に行うと効率よく洗浄ができる。なお、逆洗と空洗とを合わせて洗浄工程とする。逆洗と空洗とによって、浸漬型膜モジュール1内の分離膜が揺動され、分離膜の表面、あるいは中空糸膜を使用した浸漬型膜モジュールの際には中空糸膜間の流路に蓄積した懸濁物質を剥離、除去される。このとき、分離膜の表面や分離膜間の流路に蓄積した懸濁物質が液相2a中に舞い戻り、さらに、液相2a中を沈降途中あるいはいったん沈降した懸濁物質が舞い上がるので、液相2a中の懸濁物質濃度が上昇する。
【0020】
このように分離膜の洗浄で舞い上がった懸濁物質や沈降汚泥相2bに沈降した汚泥は浸漬槽2の底部に設けた排水弁17を開き、排水配管16を介して浸漬槽2外へと全量排出する(排水工程A)。
【0021】
しかしながら、前述したろ過工程、洗浄工程、および排水工程Aを1サイクルとしてろ過運転を実施すると、浸漬型膜モジュールにおいては、単位膜モジュール当たりの排水量が多くなってしまい、その影響により、使用した原水量当たりに得られたろ過水量の比である回収率が低下してしまう問題が生じる。そのため、本発明においては、高回収率運転を行うために、ろ過工程、洗浄工程のサイクルを2回以上実施した後に排水工程Aを実施する。これにより、ろ過工程、洗浄工程のサイクルを1回実施した後に排水工程Aを実施した時よりも使用した原水量当たりに得られるろ過水量は多くなり、したがって回収率も向上する。
【0022】
前記のような運転手法をとった場合、ろ過工程、洗浄工程を2回以上実施するため、確かに回収率の増大は実現できるが、その一方で排水工程A時に排水される水の濁度が非常に高くなっており、また水中には大量の懸濁物質の浮遊も考えられる。したがって、このような水を排水しても浸漬槽2や浸漬型膜モジュール1には残存した懸濁物質が付着していることになり、このまま原水を供給して運転を再開すると、残存した懸濁物質が再び原水中に浮遊し、ろ過工程中に分離膜に付着して膜間差圧の上昇につながってしまう。そこで、本発明では、排水工程A後に浸漬槽2に浸漬型膜モジュール1の全体が浸漬するまで原水を供給し(供給工程)、残存した懸濁物質を原水中に浮遊させ、その状態で再度、全量排水をする(排水工程B)ことを特徴とする。また、前記方法においては、排水工程A、供給工程を行った後に、空洗工程を実施し、浸漬槽2や浸漬型膜モジュール1に付着した懸濁物質をふるい落とした後、排水工程Bを行う方法を好ましく採用することができる。それらの方法を以下に具体的に説明する。
【0023】
排水工程Aの後、排水弁17を閉じ、次に原水弁4を開け原水配管3から原水を浸漬槽2に浸漬型膜モジュール1の全体が浸漬するまで供給する(供給工程)。なお、浸漬型膜モジュール1の全体が浸漬するまで原水を供給することにより、排出工程Aで浸漬型膜モジュール1や浸漬槽2に残存した懸濁物質、特に浸漬型膜モジュール1に付着した懸濁物質を供給した原水中に浮遊させることができ、その後のろ過運転における残存懸濁物質の影響を最小限にすることが可能になる。
【0024】
その後、原水弁4を閉じ、次に排水弁17を開け、排水配管16を介して浸漬槽2外へと排出する(排水工程B)。この時、浸漬槽2や浸漬型膜モジュール1に付着した懸濁物質は、排水時の水流により浸漬槽2外に排出される。この際、原水供給後、排水弁17を開ける前に、空洗弁14を開き、空洗エア配管13と、浸漬型膜モジュール1の下部に設置した散気装置15とを介して、ブロワ12から供給される空気を浸漬槽2内に送出させ、気泡を浸漬型膜モジュール1内に散気して中空糸膜を空気洗浄すると、浸漬槽2や浸漬型膜モジュール1に付着した懸濁物質をさらに効率よく除去できるため、好ましい。
【0025】
ここで、本発明にて使用される浸漬型膜モジュールについて説明する。本発明にて使用される浸漬型膜モジュールに適用できる分離膜は、精密ろ過膜又は限外ろ過膜であり、その形状は特に限定されず、平膜、中空糸膜、管状型膜、その他いかなる形状のものも適宜用いることができる。しかしながら、逆洗の際に膜破損が起こりにくく、かつ単位体積あたりの膜面積が高いこと、さらには空洗時に膜自体が適宜に揺れて膜表面に付着した懸濁物質をふるい落とすことが可能であることから中空糸膜を用いることが特に好ましい。
【0026】
精密ろ過膜や限外ろ過膜に使用される膜の素材は、特に限定しないが、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルフォン、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロースやセラミック等の無機素材からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいると好ましい。さらに膜強度、耐薬品性の点から、ポリフッ化ビニリデンを主成分とする樹脂膜であることがより好ましい。
【0027】
膜表面の細孔径についても特に限定されないが、0.001μm〜1μmの範囲内で適宜選択することができる。
【0028】
浸漬型中空糸膜モジュールは、数百本から数万本の中空糸膜を束ねた中空糸膜束の端部を接着してなる構造の浸漬型膜モジュールであり、大きくは次の2タイプに分けられる。1つは、一方の端部において各中空糸膜の端面を開口した状態で中空糸膜同士を接着し、他方の端部において各中空糸膜の端面を閉塞した状態で中空糸膜同士を接着したタイプである(図示しない)。もう1つは、両端共に各中空糸膜の端面を開口した状態で中空糸膜同士を接着したタイプである(図示しない)。本発明においてはいずれのタイプのモジュールであってもよいが、本発明においては、浸漬型膜モジュール1は、一方の端部において各中空糸膜端面を開口した状態で中空糸膜同士を接着固定し、もう一方の端部において各中空糸膜端面を閉塞した状態で接着したタイプを用いることが好ましい。さらに、本発明における浸漬型膜モジュールは、モジュール下端側において、全中空糸膜を一体的に接着するのではなく、中空糸膜を複数の中空糸膜から構成された複数個の小束に分割し、それらを互いに分離しつつ、小束ごとに接着している。このように構成することで、ろ過処理時には中空糸膜が上下左右に適度に揺れ、膜表面への懸濁物質の付着を抑制できるとともに、洗浄時には膜表面から剥離した懸濁物質の除去性能を向上することができるため、本発明において好ましく採用することができる。
【0029】
浸漬型膜モジュールにおいて、小束の数や1つの小束を構成する中空糸膜の本数は、中空糸膜を収納する容器の直径や長さ、さらには中空糸膜の外径などに応じて、意図する効果が得られるように構成することが可能である。例えば、中空糸膜を収納する容器の直径が50〜400mm、長さが500〜3000mm程度、中空糸膜の外径が0.5〜2mm程度であれば、小束の数は3〜1000個程度が好ましく、さらに好ましくは3〜50個である。これは、小束の数が少ないと懸濁物質の排出性が悪くなり、逆に多くなるほど懸濁物質の排出性は良くなるが、浸漬型膜モジュールの製造方法が煩雑になるからである。また、一つの小束を構成する中空糸膜の本数は50〜2000本が好ましい。これは1つの小束を構成する中空糸膜の本数が少なくなると小束の数が増えて、前述のように浸漬型膜モジュールの製造方法が煩雑になり、逆に1つの小束を構成する中空糸膜の本数が多くなりすぎると、中空糸膜間に懸濁物質が堆積してしまうからである。
【0030】
中空糸膜束の両側端部を接着剤で接着固定する際の接着剤については、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂が一般的に用いられる。
【0031】
また、中空糸膜束の両端にそれぞれ形成された接着固定部同士は、その間に存在する多数本の中空糸膜部分を介して繋がっており、その多数本の中空糸膜部分では中空糸膜が並列に引き揃えられた状態にあり、この部分で膜ろ過機能が発揮される。この多数本の中空糸膜束は、特に補強部材を介在させない構造であってもよいし、また、補強手段を介在させた構造であってもよい。その補強手段を介在させた構造としては、例えば円筒形のステー(金属棒等)を1〜30本程度、中空糸膜束の外周や内部に配置し、接着固定部同士がステーによっても連結している構造が挙げられる。またネット等の多孔板状素材を中空糸膜束の外周を覆うように設置しても構わない。
【0032】
また、浸漬型膜モジュールは、縦置き、つまり膜面が上下方向(中空糸膜モジュールの場合は中空糸膜の長手方向が略上下方向)になるよう配置して膜ろ過運転を行ってもよいし、横置き、つまり膜面が水平方向(中空糸膜モジュールの場合は中空糸膜の長手方向が略水平方向)になるよう配置して膜ろ過運転を行っても構わない。しかしながら、空洗に必要なエア量を少なくできるという点で、膜モジュールを縦置きし、ろ過水取出し口が上となるように設置することが好ましい。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例1〜2および比較例1においては、図1に示す運転装置を用いて試験を実施した。なお、浸漬槽2内に浸漬設置したいずれの浸漬型膜モジュールも、下記構造のもの(有効膜長1.3m、有効膜面積30m)を用いた。
【0034】
浸漬型膜モジュール:
・外径1.0mm、公称孔径0.01mmのポリフッ化ビニリデン製中空糸膜
・中空糸膜8400本を、上端部ではまとめてモジュール構成部材に接着固定し、下端部では7つの小束に分割し(1つの小束には1200本の中空糸膜が含まれる)、それらを互いに分離しつつ、小束ごとに接着
・各中空糸膜は上接着端側が開口、下接着端側が封止状態
・上側の接着部の上に、透過水出口のあるモジュールキャップを配置
<実施例1> 前記の浸漬型膜モジュールを用いて、平均濁度が2度の湖沼水を用いてろ過運転を行った。その運転方法は、ろ過工程、洗浄工程のサイクルを5回繰り返した後に排水工程Aを実施し、その後供給工程、排水工程Bを実施した。この一連の工程を1サイクルとして連続して膜ろ過運転を継続した。また、その時の運転条件は膜ろ過流束1.0m/dで実施した。その結果、180時間の継続運転で25℃補正運転差圧は30kPa程度であり、差圧上昇速度も0.2kPa/d程度であった。
<実施例2> 前記の浸漬型膜モジュールを用いて、平均濁度が2度の湖沼水を用いてろ過運転を行った。その運転方法は、ろ過工程、洗浄工程のサイクルを5回繰り返した後に排水工程Aを実施し、その後供給工程、空洗工程、排水工程Bの順で実施した。この一連の工程を1サイクルとして連続して膜ろ過運転を継続した。また、その時の運転条件は膜ろ過流束1.0m/dで実施した。その結果を図2に示す。180時間の継続運転で25℃補正運転差圧は30kPa程度であり、差圧上昇速度も0.05kPa/d程度であった。
<比較例1> 前記の浸漬型膜モジュールを用いて、平均濁度が2度の湖沼水を用いてろ過運転を行った。その運転方法は、ろ過工程、洗浄工程のサイクルを5回繰り返した後に排水工程Aを実施した。この一連の工程を1サイクルとして連続して膜ろ過運転を継続した。その結果を図3に示す。150時間の継続運転で25℃補正運転差圧は、運転初期には30kPa程度であったが、徐々に上昇を始め、差圧上昇速度5kPa/d程度で上昇していき、150時間に達した際に運転差圧の限界を迎え、自動的に運転装置が停止した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、浸漬型膜モジュールを用いた水処理方法に関するものである。さらに詳しくは、上水道における浄水処理分野、工業用水や食品、医療プロセス用水といった産業用水製造分野、下水や工業廃水といった下廃水処理分野などに使用される浸漬型膜モジュールを用いた、低コスト、高回収率な水処理方法に関するものであるが、これら用途に限られるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1:浸漬型膜モジュール
2:浸漬槽
2a:液相
2b:沈降汚泥相
3:原水配管
4:原水弁
5:ろ過水配管
6:ろ過ポンプ
7:ろ過弁
8:ろ過水槽
8a:ろ過水
9:逆洗水配管
10:逆洗ポンプ
11:逆洗弁
12:ブロア
13:空洗エア配管
14:空洗弁
15:散気装置
16:排水配管
17:排水弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜モジュールを介して浸漬槽内に貯留された被処理水を吸引して膜ろ過水を得るろ過工程、前記膜モジュールに膜ろ過水側から被処理水側へ膜ろ過水を逆流させる逆洗および/または前記膜モジュールの下部に設置された散気装置から空気を供給して前記膜モジュールの膜表面を洗浄する空洗からなる洗浄工程、該浸漬槽内から被処理水を排出する排水工程A、該排水工程A後に前記浸漬槽内に被処理水を前記膜モジュールの全体が浸漬するまで供給する供給工程、再度前記浸漬槽内から被処理水を排出する排水工程Bの5工程から構成される水処理方法であって、前記ろ過工程と前記洗浄工程とが2回以上行われた後に前記排水工程A、前記供給工程および前記排水工程Bが行われることを特徴とする水処理方法。
【請求項2】
前記排水工程Bの直前に空洗工程を実施することを特徴とする請求項1に記載の水処理方法。
【請求項3】
該膜モジュールが多数本の中空糸膜から構成された中空糸膜モジュールであることを特徴とする請求項1あるいは請求項2のいずれかに記載の水処理方法。
【請求項4】
該中空糸膜モジュールの下部が、それぞれ複数本の中空糸膜から構成された複数個の小束に分割されていることを特徴とする請求項3に記載の水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−188250(P2010−188250A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33589(P2009−33589)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】