説明

水処理用の可視光応答型光触媒及び水処理方法

【課題】高い反応効率を有し、可視光で反応が進行する水処理用の可視光応答型光触媒を提供する。
【解決手段】水処理用の可視光応答型光触媒が、テトラヒドロフランにフラーレンC60を溶解した溶液と水との混合溶液から、前記テトラヒドロフランを除去して得られたフラーレン水分散液が、前記フラーレン水分散液を添加した有機物含有の被処理水に可視光を照射したとき、前記有機物を分解する分解能を有する可視光応答型光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光、特に可視光であっても励起可能な触媒効率を有するフラーレンを用いた水処理用の可視光応答型光触媒および水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素原子がかご状に結合した中空構造をもつフラーレン(C60、C70等)は、新規な機能性化合物として注目をあびている。近年、下記特許文献1には、フラーレンへの可視光の照射によって生成する活性酸素の癌細胞等に対する殺傷能力を利用すべく、疎水性のフラーレンを水に溶解あるいは安定に分散する方法として、水に可溶であって且つフラーレンの溶媒にフラーレンを溶解し、得られた溶液を水と混合する方法が記載されている。また、下記特許文献2、3には、基材に担持されたフラーレン誘導体に可視光を照射することによって、気体中または液体中の無機物や有機物を分解することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−348214号公報
【特許文献2】特開2008−104922号公報
【特許文献3】特開2009−28669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されていた方法によれば、疎水性のフラーレンを水に分散できる。しかし、特許文献1には、得られたフラーレンの水分散液を医療分野に適用することが記載されているのみである。また、特許文献2,3には、基材に担持されたフラーレン誘導体に可視光を照射することによって、基材近傍の気体中または液体中の無機物や有機物を分解するに過ぎず、気体や液体の全体に亘って有機物等の分解を行うには多大な時間が必要である。
【0005】
ところで、染料工場等からの廃水に含まれる染料は、生物分解が困難であり、発癌性をはじめとする毒性を有するものもあるため、廃水処理が不可欠である。アゾ染料をはじめとする染料を含む廃水処理には、従来物理的吸着やオゾン処理などの化学的手法が用いられているが、操作手順の複雑さや大規模実施が困難などの問題があった。そのため、液体の全体に亘って有機物等を迅速に分解できる、反応効率の高い光触媒の開発が望まれている。
【0006】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、高い反応効率を有し、可視光で反応が進行する水処理用の可視光応答型光触媒およびその可視光応答型光触媒を用いた水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、フラーレンを特定の有機溶媒に溶解させた後に水に混合した後、有機溶媒を蒸散させることにより調製したフラーレン水分散液が可視光応答型光触媒として機能し、液体中の有機物を迅速に分解できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
前記目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された水処理用の可視光応答型光触媒は、テトラヒドロフランにフラーレンC60を溶解した溶液と水との混合溶液から、前記テトラヒドロフランを除去して得られたフラーレン水分散液が、前記フラーレン水分散液を添加した有機物含有の被処理水に可視光を照射したとき、前記有機物を分解する分解能を呈する可視光応答型光触媒であることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載された水処理方法は、被処理水中の有機物を分解処理する際に、前記被処理水中に請求項1に記載された可視光応答型光触媒を添加し、前記被処理水に可視光を照射することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載された水処理方法は、請求項2に記載された水処理方法であって、前記被処理水中の溶存酸素を除去後、前記可視光を照射することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載された水処理方法は、請求項2に記載された水処理方法であって、前記被処理水に、請求項1記載の可視光応答型光触媒のドナーとしてのアスコルビン酸を添加することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載された水処理方法は、請求項2に記載された水処理方法であって、前記被処理水に、請求項1記載の可視光応答型光触媒のドナーとしてのアスコルビン酸を添加し、かつ前記被処理水中の溶存酸素を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明で用いる可視光応答型光触媒は、フラーレンC60が水に安定に分散されている可視光応答型光触媒である。しかも、この光触媒は、可視光の光エネルギーを利用して有機物を迅速に分解できるため、太陽光(自然光)を十分に利用できる。
【0014】
本発明はフラーレンを水中に安定に分散させることにより形成することを特徴とする可視光応答型光触媒を用いた。水中に分散したフラーレン粒子の平均粒径は100nmであり、表面積が非常に大きい。
したがって、かかる可視光応答型光触媒を添加した被処理水に可視光を照射することによって、被処理水中の有機物を短時間に分解できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明で用いる可視光応答型光触媒は、テトラヒドロフランにフラーレンC60を溶解した溶液と水との混合溶液から、テトラヒドロフランを除去して得られたフラーレン水分散液である。
【0016】
フラーレンは多数の炭素原子で構成されるクラスターの総称である。フラーレンは炭素原子が共有結合で強く結合しているため物理的に極めて安定しているが、非常に反応性に富んでおり、新規の機能性化合物として注目されている。特に、光活性を有し、光照射により活性酸素を発生させる点に注目されている。かかるフラーレンでも、60個の炭素原子からなりサッカーボール状の構造をとるフラーレンをC60フラーレンと称されている。
【0017】
本発明では、可視光応答型光触媒としてフラーレンC60を選択した。ただしフラーレンC70が混合されていてもよい。
【0018】
フラーレンC60の溶媒としてはテトラヒドロフランを選択した。テトラヒドロフランを溶媒として選択した理由は、フラーレンを溶解し自由に水と混和するからである。テトラヒドロフランに代えて、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドも溶媒として使用可能である。
【0019】
水に可溶なフラーレンの溶媒中へのフラーレンの溶解量は、フラーレン溶解液中に飽和量溶解するのが好ましい。室温、暗所で12時間以上撹拌する。
【0020】
得られたフラーレン溶液には、次いで水がフラーレン溶液:水(体積比)=1:1の割合で混合する。ここで使う水は蒸留水が望ましい。フレーレン溶液と水との混合方法としては、フラーレン溶液に水を注入する方法がよい。
【0021】
フラーレン溶液と水の混合溶液を減圧蒸留し、混合溶液中のテトラヒドロフランを除去する。この際ロータリーエバポレータ−を用いるとよい。フラーレンが均一に分散しているフラーレン溶液中に水を混合し、徐々に減圧蒸留してテトラヒドロフランを除去し水と置き換わることで、フラーレン水分散液ができると推定される。
【0022】
上述した可視光応答型光触媒を添加した被処理水に、可視光を照射して被処理水中の有機物を分解処理する水処理を施す。この際に、被処理水中の有機物量に対して可視光応答型光触媒の添加量を0.1μmol/L〜0.5μmol/Lとする。可視光としては、キセノンランプを用いて波長領域が420nm以上の可視光が好ましい。かかる可視光としては、太陽光を直接照射してもよい。太陽光照射時には、太陽光中に含まれる紫外光がフレーレンの電荷移動を促進するため、可視光のみを照射した場合よりも短時間で反応が進行する。
【0023】
上記の可視光応答型光触媒を用いて窒素を含有する有機物を分解することができる。窒素含有有機物の例としてアゾ染料や抗生物質が挙げられる。アゾ染料の例としてメチルオレンジやコンゴーレッドが分解でき、抗生物質の例としてペニシリンGが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
(可視光応答型光触媒の準備)
密閉できる三角フラスコにテトラヒドロフラン100mLとC60フラーレン15mgを入れ、窒素で5分間バブリングをして溶存酸素を除去した後、暗所で12時間撹拌する。その後、溶け残ったC60フラーレンを減圧濾過し、得られた飽和溶液を等量の水と混合し、ロータリーエバポレーターを用いてテトラヒドロフランを除去することにより、可視光応答型光触媒を準備した。
【0026】
(水処理1)
準備した可視光応答型光触媒を用いて被処理水中の有機物を分解処理する水処理を施した。先ず、被処理水として、透明なPyrex試験管に加えた水10mlにメチルオレンジ
0.10μmolを添加し、橙色に着色された被処理水を準備した。この被処理水に、準備した可視光応答型光触媒をフラーレンC60に換算して0.30μmolを添加すると共に、フラーレンC60のドナーとしてのアスコルビン酸0.1mmolを添加した。次いで、この試験管内の被処理水に、攪拌することなく波長420nm以上の可視光を4時間照射して水処理を施した。その後、水処理後の被処理水中のメチルオレンジ量を、吸光高度計又は液体クロマトグラフィー質量分析機器(LC/MS)により分析したところ、メチルオレンジは70%以上分解されていた。
【0027】
(水処理2)
水処理1において、被処理水に波長420nm以上の可視光を4時間照射したことに代えて、被処理水に太陽光を2時間照射した他は、水処理1と同様にして水処理を施した。水処理後の被処理水中のメチルオレンジは70%以上分解されていた。
【0028】
(水処理3)
水処理1において、可視光を照射する際に、窒素をバブリングして被処理水中の溶存酸素を除去した他は、水処理1と同様に水処理を施した。水処理後に、メチルオレンジの90%以上が分解されていた。被処理水の溶存酸素を除去することによって、有機物の分解効率が向上する。
【0029】
(水処理4)
被処理水として、透明なPyrex試験管に加えた水10ml中にコンゴーレッド0.10μmolを添加し、赤色に着色された被処理水を準備した。この被処理水に、準備した可視光応答型光触媒をフラーレンC60に換算して0.30μmolを添加した。次いで、この試験管内の被処理水に、窒素をバブリングして被処理水中の溶存酸素を除去しつつ、波長420nm以上の可視光を6時間照射した。その後、水処理を施した被処理水中のコンゴーレッド量を、吸光高度計又は液体クロマトグラフィー質量分析機器(LC/MS)により分析したところ、コンゴーレッドは70%以上分解されていた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る水処理用の可視光応答型光触媒及び水処理方法は、染料工場等から排出される染料を含む廃水の処理に好適に用いることができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヒドロフランにフラーレンC60を溶解した溶液と水との混合溶液から、前記テトラヒドロフランを除去して得られたフラーレン水分散液が、前記フラーレン水分散液を添加した有機物含有の被処理水に可視光を照射したとき、前記有機物を分解する分解能を呈する可視光応答型光触媒であることを特徴とする水処理用の可視光応答型光触媒。
【請求項2】
被処理水中の有機物を分解処理する際に、前記被処理水中に請求項1に記載された可視光応答型光触媒を添加し、前記被処理水に可視光を照射することを特徴とする水処理方法。
【請求項3】
前記被処理水中の溶存酸素を除去しつつ、前記可視光を照射することを特徴とする請求項2に記載の水処理方法。
【請求項4】
前記被処理水に、請求項1記載の可視光応答型光触媒のドナーとしてのアスコルビン酸を添加することを特徴とする請求項2記載の水処理方法。
【請求項5】
前記被処理水に、請求項1記載の可視光応答型光触媒のドナーとしてのアスコルビン酸を添加し、かつ前記被処理水中の溶存酸素を除去することを特徴とする請求項2に記載の水処理方法。

【公開番号】特開2011−255351(P2011−255351A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134095(P2010−134095)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYREX
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】