説明

水処理装置、水処理方法、及びメンテナンス方法

【課題】 多量の水を処理することができ、耐久性が高い水処理装置、水処理方法、及びメンテナンス方法を提供すること。
【解決手段】 貯水槽9に入れられた未処理水はポンプ7cの駆動力により散水ホース5に送られ、複数の孔5aから流路部3aの上端3b付近に滴下される。流路部3aの表面は光触媒により超親水性となっているので、水は流路部3aの幅一杯に拡がり、薄い水膜を形成しつつ、徐々に下方に向けて流れ、やがて貯水槽7aへ入る。このとき、流路部3aに、太陽光又は図示しない紫外線ランプにより紫外線を照射しておく。すると、流路部3aの表面に塗布された光触媒は、水膜を通して照射された紫外線を受けて光触媒反応を起こし、水中の有機物質を酸化分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒反応を利用して水に含まれる有機物質等を処理する水処理装置、水処理方法、及び水処理装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活廃水や産業活動による廃水は、ほとんどの場合、有機物質によって汚染されている。現代の社会では下水道の整備等により、これらの汚染物質が環境へ拡散されるのを防ぐ措置をとり、バクテリア(活性汚泥)を利用した下水処理を行っている。しかしながら、バクテリアを利用した下水処理では、ダイオキシンなどの難分解性物質を処理することができないし、有機物を100%処理できるわけではないため、ごく微量で生態系に重篤な影響を及ぼす内分泌かく乱物質の問題を考慮すると、より高度な水の浄化技術が求められる。
【0003】
一方、公園の貯水池や養魚場などにおいては、雑菌の繁殖や臭気を抑える必要があり、塩素などの薬剤による殺菌処理が行われているが、このような薬剤処理も生態系に悪影響を及ぼす可能性があり、これに代替する環境負荷の少ない水処理技術が望まれる。
【0004】
さらに、廃水だけでなく飲料水などの浄水についても、有害物質や雑菌の除去に対するニーズはますます高まっており、安全で確実な水の浄化技術が必要とされる。
そこで、酸化チタン等の光触媒を用いた水の浄化技術が検討されている。酸化チタン光触媒は、太陽光などの紫外線光源さえあれば、常温常圧の温和な条件で、ほとんどの有機化合物を酸化分解することが可能であるため、美観の保護を目的とした建築資材、煤煙やNOXの除去を目的とした道路資材、あるいは空気清浄機などの家庭用電化製品に利用が進んでいるが、水処理に関しても利用することができる。
【0005】
光触媒による水処理技術の応用例は多岐にわたる。汚水処理では、し尿などの生活廃水の最終処理、染色や塗装に使われた工業排水の処理、トリクロロエチレンなどの難分解性化合物の易分解化、界面活性剤によって油脂が懸濁したエマルジョンの油水分離、残留農薬を含む農業廃水の無害化などが挙げられる。特に、比較的低濃度の汚染物質に対して優れた処理能力を示すことから、高次の水処理過程に好適な方法といえる。また、公園などに設置された浅い貯水池や河川などでは、水底の砂利などに光触媒を担持しておくだけで藻類の繁殖や悪臭が抑えられるし、クーリングタワーの水を浄化することで水カビによる放熱効率の低下やレジオネラ菌の発生を抑えられることが分かっている。
【0006】
このように、光触媒を利用した水処理技術は、生物的分解処理を補完するような場面や菌や藻類の繁殖を嫌うような場面において有用な技術である。同時に、薬剤の散布などを必要としないため環境負荷は極めて小さく、太陽光を利用できる場合にはエネルギーも不要であるなど、非常に魅力の多い技術といえる。
【0007】
しかしながら、光触媒を利用した水処理技術では、有機物質の分解反応速度が遅いという問題があった。それは次の理由による。光触媒反応は光触媒の表面で起こるため、物質が表面に接触したときにのみ反応が進行する。気相であれば物質の移動が早いため、表面に接触する確率が高くなり、十分な速度で反応は進行するが、液相では物質の移動速度が非常に遅いため、有機物質が光触媒の表面に到達するまでに長時間を要し、結果として反応速度が低く抑えられてしまう。
【0008】
この点については、光触媒として、粉末状の酸化チタン等を用いれば(非特許文献1参照)、光触媒の表面積が大きくなるので、有機物質と光触媒との接触効率を上げ、反応速度をある程度向上させることはできる。ただし、粉末状の光触媒をそのまま水中に分散させてしまうと、粉末と処理水とを分離・回収することが困難となってしまうので、粉末状の光触媒を担持した繊維や多孔体に水を通水する方法(特許文献1参照)や、磁性材料と光触媒を複合化させて電磁石によって分散凝集を制御する技術(特許文献2参照)などが考案されている。
【0009】
あるいは、光触媒を担持した布を水中で往復運動させる装置を用いて乱流を起こすことにより、ある程度有機物質と光触媒との接触効率を上げる方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
また、光触媒を利用した水処理技術では、処理しようとする水が、反応に必要な光の光触媒への到達を妨害し、反応速度が低下してしまうという問題がある。特に、水が濁っていたり、紫外線を吸収する物質を含有している場合には、光触媒反応は全く期待できなくなってしまう。
【0011】
この点については、比重が水とほぼ等しい基材に光触媒を担持させ、フワフワと浮遊させる方法(特許文献4参照)や、光触媒を担持したフィルターを半分だけ水に沈め、水面の波によって水との接触と受光を両立する方法(特許文献5参照)が提案されている。
【非特許文献1】藤嶋昭、他2名、“光クリーン革命”、シーエムシー、1997年1月、93−104頁
【特許文献1】特開平05−096180号公報
【特許文献2】特開平09−075746号公報
【特許文献3】特開2001−327961号公報
【特許文献4】特開平09−038668号公報
【特許文献5】特開2004−082095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、水を流通させる際の圧力損失が大きくなってしまうので、水の流量が少なくなってしまい、結果として、単位時間あたりの処理量が少なくなってしまうという問題がある。また、光触媒と水とが接触する流路を長くとって光触媒の表面積を増そうとすると、一層圧力損失が大きくなってしまい、加えて光源の配置にも工夫が必要となる。
【0013】
また、特許文献3記載の方法では、往復運動させる部分があるため、装置の耐久性に問題がある。また、特許文献2〜5の方法は、いずれもバッチ式であるため、水の処理量が少なくなってしまうという問題がある。
【0014】
本発明は以上の点に鑑みなされたものであり、多量の水を処理することができ、耐久性が高い水処理装置、水処理方法、及びメンテナンス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)請求項1記載の発明は、
水を所定の水流方向に流す流路部と、前記流路に水を供給する水供給部と、を備える水処理装置であって、前記流路部の表面に光触媒が担持されていることを特徴とする水処理装置を要旨とする。
【0016】
本発明の水処理装置では、水供給部から流路部に供給された水は、流路部上を薄い水膜となって流れる。そのため、流路部上を流れる水中の有機物質は、水中を長い距離にわたって拡散する必要がなく、容易に光触媒表面に到達し、光触媒反応により分解されるので、結果として反応効率が高くなり、多量の水を処理することができる。
【0017】
また、本発明の水処理装置では、例えば、流路部の全面にわたって光触媒を担持させ、光触媒反応を流路部の面全体にわたって生じさせることができる。その結果として、反応効率が高くなり、多量の水を処理することができる。
【0018】
また、本発明の水処理装置では、流路部の表面には薄い水膜があるだけであるので、外部から照射された紫外線は容易に水膜を透過し、流路部に担持された光触媒に到達する。そのことにより、反応効率が高く、多量の水を処理することができる。
【0019】
また、本発明の水処理装置は、バッチ式でなく、水を流しながら連続的に処理を行うことができるため、装置の構成を簡素化することができ、しかも水の処理能力が高い。
また、本発明の水処理装置は、特許文献3記載の装置のように光触媒を担持した布を水中で往復運動させるようなことは必要ないので、装置の耐久性が高い。
【0020】
・前記光触媒の材質としては、酸化チタンが最も適しているが、この他にも、例えば、チタン酸ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ等が挙げられる。光触媒は、例えば、光触媒を含む溶液をスプレー法、ディップコート法、刷毛、ローラ等を用いて流路部の表面に塗布することにより、担持させることができる。光触媒から成る層の厚みは、0.1〜10μmの範囲が好適である。
(2)請求項2記載の発明は、
前記流路部は平面部を有し、前記平面部上を水が流れるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の水処理装置を要旨とする。
【0021】
本発明では、水が平面部上を流れるので、水の状態は薄い水膜となる。そのため、水と流路部上の光触媒とが接触する面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
(3)請求項3記載の発明は、
前記平面部は、水平方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項2記載の水処理装置を要旨とする。
【0022】
本発明では、平面部を水平方向に対して傾斜させることにより、水を平面部の高所から低所に流すことができる。
・傾斜の角度は、水平面に対して5〜45°Cが好適である。5°以上とすることにより、水流を確実に生じさせることができる。また、45°以下とすることにより、水の流れが速くなりすぎることがなく、流路部上で光触媒反応を行う時間を確保することができる。
(4)請求項4記載の発明は、
前記流路部を通過した水を、前記水供給部に送る循環部を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水処理装置を要旨とする。
【0023】
本発明は循環部を備えているので、流路部を流れた水を、繰り返し流路部に流すことができる。このことにより、水中の有機物質の量が多かったり、有機物質が分解されにくいものであっても、水中の有機物質を十分に低減することができる。
(5)請求項5記載の発明は、
前記流路部に前記光触媒が光触媒反応を起こす波長の光を照射する光源部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水処理装置を要旨とする。
【0024】
本発明は光源部を備えているので、自然光が得られない場合でも、光源部が照射する光により光触媒反応を生じさせ、水中の有機物を分解することができる。
(6)請求項6記載の発明は、
前記流路部の表面に、凸部及び/又は凹部を配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水処理装置を要旨とする。
【0025】
本発明では、流路部を流れる水は、流路部の表面に配置された凸部、凹部、または凸部と凹部の両方により、流れの向きを様々に変えながら流れる。その結果として、流路部の表面のうち、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0026】
また、水が流路部の表面に配置された凸部、凹部、または凸部と凹部の両方を伝わりながら流れるので、水の流れが遅くなり、水が流路部上にある時間が長くなる。そのため、水中の有機物質を分解する時間を十分に確保することができ、反応効率が向上する。
(7)請求項7記載の発明は、
前記凸部は、前記流路部の表面に沿って配置された網状部材であることを特徴とする請求項6に記載の水処理装置を要旨とする。
【0027】
本発明では、図5に示すように、網状部材11が流路部3aに貼り付けられていることにより、網状部材11を構成する糸11aと流路部3aとの接点付近には、微細な隙間13が形成される。流路部3aを流れる水は、この隙間13を通して、毛細管現象によって流路部3aの表面全体に素早く広がり、流路部3aに薄い水膜を形成する。従って、本発明の水処理装置では、網状部材11を有することにより、流路部3aの全体にわたって、一層均一に薄い水膜を形成することができる。
【0028】
そのことにより、流路部3aの表面のうち、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0029】
また、本実施例2では、水が網状部材11を伝わりながら流れるので、水の流れが遅くなり、水が流路部3a上にある時間が長くなる。そのため、水中の有機物質を分解する時間を十分に確保することができ、反応効率が向上する。
(8)請求項8記載の発明は、
前記網状部材における開口部の大きさが0.5〜5cm(更に好ましくは、0.5〜2cm)の範囲にあることを特徴とする請求項7記載の水処理装置を要旨とする。
【0030】
本発明では、網状部材における開口部の大きさが0.5cm以上であることにより、網状部材により流路部の表面に保水される水の水膜が厚くなり過ぎることがない。そのため、水膜が、光触媒への紫外線の到達を妨害してしまうようなことがない。
【0031】
また、本発明では、網状部材における開口部の大きさが5cm以下(更に好ましくは2cm以下)であることにより、流路部全体に隙間無く水膜を形成することができる。つまり、開口部が大きすぎて、開口部の中心付近に水が到達しなくなってしまうようなことがない。
(9)請求項9記載の発明は、
前記網状部材を構成する糸状部材の太さが0.1〜1mmの範囲にあることを特徴とする請求項7又は8記載の水処理装置を要旨とする。
【0032】
本発明では、網状部材を構成する糸状部材の太さが1mm以下であることにより、網状部材により流路部に保水される水の水膜が厚くなり過ぎることがない。そのため、水膜が、光触媒への紫外線の到達を妨害してしまうようなことがない。
【0033】
また、本発明では、網状部材を構成する糸状部材の太さが0.1mm以上であることにより、水の流れに対してゆるやかな抵抗となり、少量の水をゆっくりと流すことによって流路部上での水膜形成を促すという効果を奏する。
(10)請求項10記載の発明は、
前記凹部は、前記流路部の表面に形成された溝であることを特徴とする請求項6記載の水処理装置を要旨とする。
【0034】
本発明では、流路部を流れる水は、流路部の表面に形成された溝により、流れの向きを様々に変えながら流れる。その結果として、流路部の表面のうち、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0035】
また、水が流路部の表面に形成された溝を乗り越えながら流れるので、水の流れが遅くなり、水が流路部上にある時間が長くなる。そのため、水中の有機物質を分解する時間を十分に確保することができ、反応効率が向上する。
(11)請求項11記載の発明は、
前記流路部の表面に、前記水流方向に対し交差する方向に沿って設けられた段差を配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水処理装置を要旨とする。
【0036】
本発明の水処理装置において、流路部に水を流すと、水は段差の手前で一旦せき止められ、又は段差を迂回するように、流れの向きを変えて横方向(水流方向と交差する方向)に広がってゆく。横方向に流れた水は、段差が途切れた位置や、段差が小さくなった位置から、再び水流方向に流れる。また、段差でせき止められた水の量が多くなると、やがて、段差の様々なところから水があふれ出し、段差を乗り越えて更に水流方向に流れる。
【0037】
段差のこのような作用により、段差より上流では水の流れが一本であったとしても、段差よりも下流では、横方向に広がった複数の流れとなる。そのことにより、流路部の表面に均一な水膜が形成され易くなり、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0038】
・前記段差は、下り段差であっても、登り段差であっても良い。
(12)請求項12記載の発明は、
前記段差は、前記流路部を流れる水から見て、下りの段差であることを特徴とする請求項11記載の水処理装置を要旨とする。
【0039】
本発明では、流路部を水流方向に沿って進む水から見たときの、下りの段差を設け、水が下り段差の高部から低部へ移るときの剪断抵抗、及び表面張力による抵抗を利用して、水の流れを分岐し、流路部に均一な水膜を形成する。そのことにより、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
(13)請求項13記載の発明は、
前記段差は、前記流路部を流れる水から見て、登りの段差であることを特徴とする請求項12記載の水処理装置を要旨とする。
【0040】
本発明では、流路部を水流方向に沿って進む水から見たときの、登りの段差を設け、水が登り段差の低部から高部へ移るときの物理的な壁を利用して、水の流れを分岐し、流路部に均一な水膜を形成する。そのことにより、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
(14)請求項14記載の発明は、
前記段差は、前記水流方向に対して傾斜する方向に水を導くように形成されていることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の水処理装置を要旨とする。
【0041】
本発明では、段差が、水流方向に対して傾斜する方向に水を導くように形成されているので、段差よりも上流において、或る位置を流れていた水は、そのまま水流方向に流れるだけではなく、段差によって傾斜した方向に導かれ、そこから下流に流れる。このことにより、水は様々な位置を流れるようになるので、流路部の表面に均一な水膜が形成され易くなる。その結果として、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0042】
尚、段差が水を導く方向と水流方向とのなす角度は、鋭角が好ましい。
(15)請求項15記載の発明は、
前記段差は、前記水流方向に対して傾斜する甲方向に水を導く第1の部分と、前記水流方向に対して傾斜する乙方向に水を導く第2の部分とを有し、前記甲方向と前記乙方向とは、前記水流方向に直交する方向に関して、反対向きであることを特徴とする請求項14記載の水処理装置を要旨とする。
【0043】
本発明において、水流は、段差のうちの第1の部分により、甲方向に導かれ、第2の部分により乙方向に導かれる。ここで、甲方向と乙方向とは、水流方向に直交する成分に関して、反対向きであるので、水の流れは、水流方向に直交する方向に関して、互いに反対方向の流れが両方とも生じることになる。このため、流路部のうちの片側のみに水の流れが偏ってしまうようなことがない。
【0044】
尚、前記甲方向および乙方向は、水流方向と鋭角をなす方向であることが好ましい。
(16)請求項16記載の発明は、
前記段差の高さは、前記水流方向に直交する方向に関して変化することを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の水処理装置を要旨とする。
【0045】
本発明では、例えば、段差のうち、優先的に水を流したい部分の高さを小さく設定しておけば、その部分に水の流れを生じさせることができる。その結果、水の流れを段差における様々な場所で生じさせ、流路部の表面に均一な水膜を形成することができる。その結果として、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
(17)請求項17記載の発明は、
請求項1〜16のいずれかに記載の水処理装置を用いる水処理方法であって、前記水供給部から前記流路部に水を供給し、前記流路部に前記光触媒が光触媒反応を起こす波長の光を照射することを特徴とする水処理方法を要旨とする。
【0046】
本発明の水処理方法は、請求項1〜16について述べたような作用効果を奏することができる。
(18)請求項18記載の発明は、
前記供給部から前記流路部に浄水を流すことを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の水処理装置のメンテナンス方法を要旨とする。
【0047】
本発明では、流路部に浄水を流すことで、光触媒に付着していた汚れを洗い流し、水処理装置の機能を回復することができる。こうすることにより、水処理装置の分解・洗浄等のメンテナンスを大幅に省くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下に本発明の実施の形態の例(実施例)を説明する。
【実施例1】
【0049】
a)まず、本実施例1の水処理装置の構成を図1を用いて説明する。
水処理装置1は、本体部3、散水ホース(水供給部)5、循環部7、及び貯水槽9から構成される。
【0050】
本体部3は、台形状の部材であって、その傾斜した上面である流路部3aは長方形の平面である。この流路部3aの長手方向(図1における矢印の方向)は水平方向に対して5〜45°の角度で傾斜しており、短手方向は水平である。
【0051】
流路部3aの表面全体には、光触媒としての酸化チタンがスプレー法、ディップコート法、刷毛塗り、ローラ塗りなどの方法で0.1〜10μmの厚みで塗布されている。尚、この本体部3は、例えば建物の屋根を利用して構成することができる。つまり工場やビニールハウス等の屋根は傾斜した平面を有しているので、この屋根を本体部3とし、屋根における傾斜した平面を流路部3aとすることができる。
【0052】
散水ホース5は、流路部3aの短手方向に沿った端部のうち、高い位置にある上端3bに平行に設けられた略筒状の部材である。散水ホース5の下側には一定の間隔をおきながら、上端3bの全幅にわたって複数の孔5aが形成されている。
【0053】
循環部7は、流路部3a上を流れた水を回収して散水ホース5に送るための部材であり、貯水槽7a、配管部7b、ポンプ7c、及び切り替えバルブ7dから構成される。貯水槽7aは、上面に開口部7eを備えた箱状部材であり、開口部7eのうちの長手方向の1辺が、流路部3aにおいて上端3bと向かい合う端部である下端3cに接するように配置されている。配管部7bは、貯水槽7aと散水ホース5とを繋ぐ配管であり、その途中には、貯水槽7a内の水を散水ホース5の方向へ駆動するポンプ7cと、貯水槽7aから送られた水を、散水ホース5の方向に送るか、排水するかを切り替える切り替えバルブ7dが設けられている。
【0054】
貯水槽9は、未処理水を蓄えるための容器であり、ポンプ7cに配管で繋がれている。
b)次に、水処理装置1を用いた水処理方法を説明する。
まず、処理しようとする水(有機物質を含む未処理水)を貯水槽9に入れる。未処理水は、ポンプ7cに送られ、ポンプ7cの駆動力により散水ホース5に送られる。すると未処理水は、散水ホース5に設けられた複数の孔5aから流路部3aの上端3b付近に滴下される。このとき、散水ホース5の孔5aは、流路部3aの全幅にわたって複数形成されているので、未処理水も、流路部3aの全幅にわたって均等に滴下される。
【0055】
流路部3aの表面は光触媒により超親水性となっているので、滴下された水は流路部3aの幅一杯にわたって薄い水膜を形成しつつ、徐々に下方(つまり流路部3aの下端3cの方向)に向けて流れ、やがて貯水槽7aへ入る。このとき、流路部3aに、太陽光、又は図示しない紫外線ランプにより紫外線を照射しておく。すると、流路部3aの表面に塗布された光触媒は、薄い水膜を通して、照射された紫外線を受けて光触媒反応を起こし、水中の有機物質を酸化分解する。本実施例1では、流路部3aの全面に光触媒が担持されており、しかも水が流路部3aの全面に水膜を形成するので、上記の酸化分解反応は、流路部3aの全面において生じる。
【0056】
貯水槽7aに至った水の中の有機物を一層減少させたい場合は、切り替えバルブ7dを循環側にしておき、貯水槽7a中の水を散水ホース5へ送り、再度流路部3a上を流すことで、同様の酸化分解を再度行うことができる。
【0057】
また、貯水槽7aに至った水の有機物が充分減少している場合は、切り替えバルブ7dを排水側にしておき、排水することができる。
水処理装置1を長時間使用するうち、流路部3a上の光触媒の表面が有機物質等により汚れてきたときは、貯水槽9に洗浄水(水道水、純水、電解水等)を入れ、その洗浄水を散水ホース5から流路部3aに流すことにより、光触媒に付着していた汚れを洗い流し、水処理装置1の機能を回復することができる。こうすることにより、水処理装置1の分解・洗浄等のメンテナンスを大幅に省くことができる。
【0058】
本実施例1の水処理装置1は、工場の屋根に設けて工業廃水を処理したり、ビニールハウスの屋根に設けて、水耕栽培に利用され、残留農薬や肥料等を含む排水を処理する用途に利用できる。また、河川や貯水池、下水処理場の一部に設けて、汚水を処理する用途に用いることができる。更に、雨水を処理することによって、水中のバクテリアや汚染物質を分解し、上水として利用する浄水装置として使用することができ、淡水が得難い地域や、船舶等で水の有効利用に役立たせることができる。
【0059】
c)次に、本実施例1の水処理装置1が奏する効果を説明する。
(i)本実施例1の水処理装置では、光触媒反応が起こるとき、水は流路部3a上にて薄い水膜となっている。そのため、水中の有機物質は、水中を長い距離にわたって拡散する必要がなく、容易に光触媒表面に到達するので、結果として反応効率が高くなり、多量の水を処理することができる。
【0060】
(ii)本実施例1の水処理装置では、光触媒反応が流路部3aの面全体にわたって生じるので、反応効率が高くなり、多量の水を処理することができる。
(iii)本実施例1の水処理装置では、流路部3aの表面には薄い水膜があるだけであるので、外部から照射された紫外線は容易に水膜を透過し、光触媒に到達する。そのことにより、反応効率が高く、多量の水を処理することができる。
【0061】
(iv)本実施例1の水処理装置は、バッチ式でなく、水を流しながら連続的に処理を行うため、装置の構成を簡素化することができ、しかも水の処理能力が高い。
(v)本実施例1の水処理装置は、特許文献3記載の装置のように光触媒を担持した布を水中で往復運動させるようなことは必要ないので、装置の耐久性が高い。
【0062】
d)次に、本実施例1の水処理装置1の効果を確かめるために行った実験について説明する。
まず、実験に用いた構成を説明する。水処理装置1による処理の対象となる未処理水として、濃度が50μMであるメチレンブルー(MB)溶液を用意した。水処理装置1としては前記a)にて説明したものを用いた。ただし、流路部3aはアクリル板から成り、その長手方向(水流方向)の長さは30cm、短手方向(水流方向と直交する方向)の長さは20cm、流路部3aの水平方向に対する傾斜角度は15°とした。流路部3a上に担持した光触媒はビストレイター(商品名、日本曹達社製)をコーティングすることにより形成した。また、水処理装置1の配管部7bのうち、ポンプ7cと散水ホース5との間に、紫外可視分光光度計のフローセル(図示略)を入れ、MB濃度をリアルタイムで測定できるようにした。従って、MB溶液の経路は、貯水槽7a→切り替えポンプ7d→フローセル→散水ホース5→流路部3aとなる。また、流路部3aへ紫外線を照射する紫外線光源としては、10Wのブラックランプ5本を用い、流路部3a上での強度が2mWになるように、ブラックランプと流路部3aとの距離を調整した。
【0063】
次に、水処理装置1に施した前処理を説明する。水処理装置1において上記のMB溶液200mlを6回入れ替えつつ、2日間循環させた。この前処理は、光触媒にMBを飽和するまで吸着させておくことで、MB濃度の減少を評価する際に、MBの吸着による影響を除き、光触媒反応による減少分のみを測定するためである。
【0064】
次に、流路部3aに紫外線を照射した状態で、新たなMB溶液200mlを水処理装置1に供給し、繰り返し循環させた。そして、MB濃度を継続的に測定した。その結果を図2及び図3に示す。図2はMB溶液のスペクトル変化を示す図であり、図3はMB溶液の濃度変化を示す図である。この図2、図3に示すように、初期において50μMであったMB濃度は、照射開始から2時間半で半減し、8時間後には初期濃度の1/20まで減少した。ただし、照射開始から8時間後においては、蒸発により水の量は当初の3割まで減少していたので、実際のMB濃度は初期濃度の1/60程度まで減少していたことになる。この結果から、本実施例1の水処理装置1は非常に効率よく水中の有機物質を分解できることが確認できた。
【0065】
また、MB水溶液と同様に、オレンジII水溶液の光触媒分解試験を実施した。実験に用いた装置構成は次の通りである。流路部3aは長手方向(水流方向)の長さが100cm、短手方向(水流と直交する方向)の長さが20cm、流路部3aの水平方向に対する角度は5°とした。紫外線光源は、40Wのブラックランプ2灯を用い、流路部3aでの照射強度がおよそ2mW/cm2になるように高さを調整した。その他の装置の構成はMB水溶液の場合と同様である。
【0066】
MB水溶液の場合と同様の試験を行ったところ、図13、図14に示すように、初期濃度200μMであったオレンジII溶液の濃度は、照射開始から2時間で半減し、12時間後には0.9μMまで減少した。
【実施例2】
【0067】
本実施例2の水処理装置1の構成は基本的には前記実施例1と同様である。但し、本実施例2では、図4に示すように、流路部3aの上にネット(網状部材)11を設けている。
【0068】
このネット11は、0.3mm厚のポリエチレン製ネットであり、白色である。このネット3の網目の粗さは12メッシュであり、ネット3の開口部(網目の大きさ)は1.8mmである。また、ネット3を構成する糸3aの太さは0.3mmである。
【0069】
本実施例2の水処理装置1では、図5に示すように、ネット11を構成する、断面が円形の糸11aが流路部3aに貼り付けられたことにより、糸11aと流路部3aとの接点付近には、微細な隙間13が形成される。散水ホース5から流路部3aに供給された水は、この隙間13を通して、毛細管現象によって流路部3aの表面全体に素早く広がり、流路部3aに薄い水膜を形成する。従って、本実施例2の水処理装置1では、ネット11を有することにより、流路部3aの全体にわたって、一層均一に薄い水膜を形成することができる。そのことにより、流路部3aの表面のうち、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0070】
また、本実施例2では、水がネット11を伝わりながら流れるので、水の流れが遅くなり、水が流路部3a上にある時間が長くなる。そのため、水中の有機物質を分解する時間を十分に確保することができ、反応効率が向上する。
【実施例3】
【0071】
a)本実施例3の水処理装置1の構成は基本的には前記実施例1と同様である。但し、本実施例3では、図6に示すように、流路部3aの表面に、うろこ条テクスチャが形成されている。このうろこ条テクスチャは、同一形状を有する菱形のうろこ部を格子状に連ねたものである。
【0072】
ここでは、隣接する4枚のうろこ部15、17、19、21を例に挙げて、うろこ条テクスチャの構造を説明する。尚、この4枚のうろこ部15、17、19、21以外のうろこ部も、それらの形状、向き、周りのうろこ部との位置関係は同様である。
【0073】
うろこ部15は、15A、15B、15C、15Dを頂点とする菱形の部分である。このうろこ部15の向きは、15B、15Dを結ぶ方向が流路部3aの幅方向と平行であり、15A、15Cを結ぶ方向が流路部3aの長手方向(水流方向)と平行となる向きである。
【0074】
うろこ部15のうち、15A、15B、15Cを頂点とする3角形の領域15−1は平面であり、また、15A、15C、15Dを頂点とする3角形の領域15−2も平面である。領域15−1は、15A、15Cを結ぶ辺から頂点Bに向かうにつれて下るように傾斜しており、領域15−2は、15Aと15Cを結ぶ辺から頂点15Dに向かうにつれて下るように傾斜している。従って、15B、15Dを通る断面での断面図は、図7に示すように山型となる。また、うろこ部17、19、21の形状及び向きも、うろこ部15と同様である。
【0075】
うろこ部15の15B、15Cを結ぶ辺(以下、辺15B−15Cとする)と、うろこ部17の17A、17Dを結ぶ辺(以下、辺17A−17Dとする)とは隣接している。ただし、辺15B−15Cは辺17Aー17Dよりも一段高くなっている。その段差は、15Cと17Dにおいて最大であり、15Bと17Aの方向に進むにつれて徐々に小さくなり、15Bと17Aにおいて0となっている。
【0076】
同様に、うろこ部15の15C、15Dを結ぶ辺(以下、辺15C−15Dとする)と、うろこ部21の21A、21Bを結ぶ辺(以下、辺21A−21Bとする)とは隣接している。ただし、辺15C−15Dは辺21Aー21Bよりも一段高くなっている。その段差は、15Cと21Bにおいて最大であり、15Dと21Aの方向に進むにつれて徐々に小さくなり、15Dと21Aにおいて0となっている。
【0077】
また、うろこ部17の17C、17Dを結ぶ辺(以下、辺17Cー17Dとする)と、うろこ部19の19B、19Aを結ぶ辺(以下、辺19B−19Aとする)とは隣接している。ただし、辺17C−17Dは辺19B−19Aよりも一段高くなっている。その段差は、17Cと19Bにおいて最大であり、17Dと19Aの方向に進むにつれて徐々に小さくなり、17Dと19Aにおいて0となっている。
【0078】
また、うろこ部19の19D、19Aを結ぶ辺(以下、辺19D−19Aとする)と、うろこ部21の21C、21Bを結ぶ辺(以下、辺21C−21Bとする)とは隣接している。ただし、辺21C−21Bは辺19D−19Aよりも一段高くなっている。その段差は、19Dと21Cにおいて最大であり、19Aと21Bの方向に進むにつれて徐々に小さくなり、19Aと21Bにおいて0となっている。
【0079】
上記のようなうろこ状テクスチャは、以下のようにして形成することができる。
まず、図8(a)に示すように、本体部3の上面を、わずかに傾けたストレートルータビット101を用い、一定間隔で切削することにより、一定間隔の段差を形成する。このとき、ストレートルータビット101の長手方向(つまり、形成する段差に沿う方向)は、図8(a)に示すように、図7における辺15B−15Cに平行な方向である。従って、この工程により、辺15B−15Cに沿った方向の段差が形成される。形成された段差の上端には、例えば、うろこ部15でいえば15Cが位置する。また、段差の下端には、うろこ部15でいえば15A、15Dが位置する。
【0080】
次に、ストレートルータビット101の方向を、図9(b)に示すように、辺15C−15Dに平行な方向に変え、図9(a)に示すように、一定間隔で切削し、一定間隔の段差を形成する。このとき形成される段差は、辺15C−15Dに沿って伸びるものである。また、段差の上端には、例えば、うろこ部15でいえば15Cが位置し、段差の下端には、うろこ部15でいえば15A、15Bが位置する。
【0081】
上記のように、2方向に沿って、ストレートルータビット101で切削を行うことにより、2方向の段差が組み合わせられた形状、すなわち、うろこ状テクスチャが完成する。
b)次に、本実施例3の水処理装置1が奏する作用効果を説明する。
【0082】
(i) 散水ホース5から滴下された水は、流路部3aの表面に形成されたうろこ条テクスチャの上を、下方に向けて流れる。
このとき、図10(a)に示すように、うろこ部15の表面を上から下に流れる水は、辺15Bー15C及び辺15C−15Dにおいて一旦せき止められる。これは、図10(b)に示すように、辺15B−15Cから辺17D−17Aへかけての部分は、流路部3aの表面において上から下に向かう方向(流路部3aを流れる水の水流方向)に対し交差する方向に沿って設けられた段差となっており、しかも、下方に向けて流れる水から見て落ち込み段差になっており、また、同様に、辺15Cー15Dから辺21A−21Bへかけての部分も落ち込み段差になっているため、辺15Bー15Cおよび辺15C−15Dに至った水は、剪断抵抗、及び表面張力による抵抗により、落ち込み段差を越えにくくなるためである。
【0083】
辺15B−15C及び辺15C−15Dよりも上側でせき止められた水は、辺15B−15C及び辺15C−15Dの幅一杯に広がってゆき、段差が小さくなっている15Bの近傍および15Dの近傍から下方に流れる。また、せき止められた水の量が多くなってゆくと、やがて、辺15B−15C及び辺15C−15Dの様々なところから、段差を乗り越えて水があふれ出し、更に下方に流れる。このことにより、うろこ部15の上方において、水の流れが一本であったとしても、うろこ部15より下方では、横方向に広がった複数の流れが生じる。そのことにより、流路部3aの表面に均一な水膜が形成され易くなり、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0084】
(ii)図11に示すように、うろこ部15における辺15B−15Cの段差は右下がりに傾斜しているとともに、辺15C−15Dの段差は左下がりに傾斜している。従って、辺15B−15Cの段差と辺15C−15Dの段差とは、上方(水の流れにおける上流側)に開口部を向けたV字型に配置されている。本実施例3では、この段差の配置により、以下の効果を奏することができる。
【0085】
うろこ部15のうちの左方(15B付近)を下に向けて流れる水は、辺15B−15Cの段差がなければ、図11における点線の矢印のように、うろこ部17に流れるはずであるが、図11に示すように、辺15B−15Cにおける段差は、水の流れようとする方向、すなわち上から下へ向かう方向に対して傾斜する方向に沿って伸びており、更に具体的には、15Cの方が低くなるように傾斜している。そのため、15B付近を流れる水は、辺15B−15Cの段差の手前でせき止められつつ、辺15B−15Cの方向(上下方向に対して傾斜する方向)に沿って、15Cの方に導かれる。そのようにして導かれ、15Cの付近で溜まり始めた水は、やがて辺15B−15C及び辺15C−15Dの幅一杯に拡がり、辺15B−15C及び辺15C−15Dの様々なところから水があふれ出す。その結果として、水はうろこ部17だけではなく、うろこ部19、うろこ部21等にも流れる。また、同様に、うろこ部15のうちの右方(15D付近)を流れる水も、そのまま直下のうろこ部21のみに流れるのではなく、うろこ部17、うろこ部19にも流れる。
【0086】
このように、あるうろこ部を流れる水が、その直下のうろこ部のみに流れるのではなく、斜め下にあるうろこ部にも広がって流れるので、流路部3aの表面に均一な水膜が形成され易くなり、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0087】
また、図11に示すように、うろこ部15の辺15B−15Cの段差(第1の部分)は、右下がりとなっているので、この段差の手前でせき止められた水は斜め右下方向(甲方向)に流れる。また、うろこ部の辺15C−15Dの段差(第2の部分)は、左下がりとなっているので、この段差の手前でせき止められた水は斜め左下方向(乙方向)に流れる。
【0088】
このため、水の流れは、横方向(水流方向に直交する方向)に関して、右に流れるものと、左に流れるものとが両方生じる。この結果として、流路部3aにおける右側のみに水の流れが偏ったり、逆に、左側のみに水の流れが偏ってしまうようなことがない。
【0089】
(iii)図6に示すように、うろこ部15の辺15B−15Cの段差では、15Cの付近では段差が大きく、15Bに近づくにつれて段差が小さくなっている。そのため、水の流れに対する抵抗(水の流れを妨げる(せきとめる)作用の大きさ)は、15Cの付近では大きく、15Bに近づくにつれて小さくなっている。そのため、辺15B−15Cの段差の上に溜まる水の量は、上下方向において低い位置にある15C付近が多くなるが、段差を越える水流は、15C付近のみでなく、15B付近でも生じる。また、同様に、辺15C−15Dの段差においても、この段差を越える水流は、水が多く溜まる15C付近だけではなく、15D付近でも生じる。
【0090】
このため、水の流れが、15C付近だけではなく、辺15B−15C及び辺15C−15Dにおける様々な場所で生じ、流路部3aの表面に均一な水膜が形成され易くなり、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【0091】
尚、本実施例3では、うろこ状テクスチャの向きを、水流方向に関して、図6とは反対にしてもよい。つまり、流路部3aの水流方向に関して、うろこ部15の15Aが下流側となり、15Cが上流側となる向きとしてもよい。
【0092】
このとき、うろこ部15の辺15A−15B及び辺15A−15Dの部分は、流路部3aに沿って上から下に流れる水から見て、登り段差となる。登り段差であっても、上述した下り段差の場合と同様に、水の流れに対する抵抗となり、水膜の均一化をもたらすので、同様の作用効果を奏する。
【実施例4】
【0093】
本実施例4の水処理装置1の構成は基本的には前記実施例1と同様である。但し、本実施例4では、図12に示すように、流路部3aの表面に、V字型の突出部23が、同じ向きに並ぶように多数形成されている。
【0094】
本実施例4の水処理装置1において、突出部23は、流路部3aの表面を上から下に流れる水から見て、登り段差となる。この登り段差も、前記実施例3において各うろこ部が備える下り段差と同様に、水の流れに対する抵抗となり、水の流れの方向を変えたり、水の流れを分岐する。また、突出部23は、右下がりの辺23aと左下がりの辺23bとから成る。これも、前記実施例3におけるうろこ部15の辺15B−15Cが右下がりとなっており、辺15C−15Dが左下がりとなっていることと同じである。従って、突出部23は、前記実施例3における、うろこ部15の辺15B−15C及び辺15C−15Dと実質的に同様の構成である。
【0095】
従って、本実施例4の水処理装置1は、前記実施例3と同様の作用効果を奏する。つまり、突出部23は、流路部3aにおける水膜の均一化をもたらし、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)を増大させるので、水処理装置1の反応効率が一層向上し、水の処理能力が高くなる。
【0096】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、前記実施例1〜4の水処理装置1において、流路部3aは水平面であっても良い。この場合、例えば、散水ホース5側に設けた鉛直方向の回転軸を中心に本体部3を回転させることにより、散水ホース5から滴下された水を遠心力で貯水槽7aの方向に駆動することができる。
【0097】
また、前記実施例1〜4の水処理装置1において、流路部3aは鉛直面であっても良い。この場合、例えば、建物の外壁等を利用して流路部3aを形成することができる。
また、前記実施例1〜4において、流路部3aに溝を形成してもよい。この溝により、流路部3aの表面に均一な水膜が形成され易くなり、水膜が形成される面積(すなわち水中の有機物を酸化分解する反応が生じる部分の面積)が増大するので、一層反応効率が向上し、水の処理能力が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】水処理装置1の構成を表す斜視図である。
【図2】MB溶液のスペクトル変化を示すグラフである。
【図3】MB溶液の濃度変化を示すグラフである。
【図4】水処理装置1の構成を表す斜視図である。
【図5】流路部3a及びネット11の構成を表す断面図である。
【図6】本体部3の構成を表す斜視図である。
【図7】流路部3aのうろこ部15における15B、15Cを通る断面での断面図である。
【図8】流路部3aにおけるうろこ状テクスチャの製造方法を表す説明図であり、(a)は断面図、(b)は上面図である。
【図9】流路部3aにおけるうろこ状テクスチャの製造方法を表す説明図であり、(a)は断面図、(b)は上面図である。
【図10】外装部材1の作用効果を表す説明図であり、(a)は正面図、(b)は(a)におけるX−Y断面での断面図である。
【図11】水処理装置1の作用効果を表す説明図である。
【図12】本体部3の構成を表す斜視図である。
【図13】オレンジII溶液のスペクトル変化を示すグラフである。
【図14】オレンジII溶液の濃度変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0099】
1・・・水処理装置
3・・・本体部
3a・・・流路部
5・・・散水ホース
5a・・・孔
7・・・循環部
7a・・・貯水槽
7b・・・配管部
7c・・・ポンプ
7d・・・切り替えバルブ
9・・・貯水槽
15、17、19、21・・・うろこ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を所定の水流方向に流す流路部と、
前記流路に水を供給する水供給部と、を備える水処理装置であって、
前記流路部の表面に光触媒が担持されていることを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記流路部は平面部を有し、前記平面部上を水が流れるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の水処理装置。
【請求項3】
前記平面部は、水平方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項2記載の水処理装置。
【請求項4】
前記流路部を通過した水を、前記水供給部に送る循環部を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項5】
前記流路部に前記光触媒が光触媒反応を起こす波長の光を照射する光源部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項6】
前記流路部の表面に、凸部及び/又は凹部を配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項7】
前記凸部は、前記流路部の表面に沿って配置された網状部材であることを特徴とする請求項6に記載の水処理装置。
【請求項8】
前記網状部材における開口部の大きさが0.5〜5cmの範囲にあることを特徴とする請求項7記載の水処理装置。
【請求項9】
前記網状部材を構成する糸状部材の太さが0.1〜1mmの範囲にあることを特徴とする請求項7又は8記載の水処理装置。
【請求項10】
前記凹部は、前記流路部の表面に形成された溝であることを特徴とする請求項6記載の水処理装置。
【請求項11】
前記流路部の表面に、前記水流方向に対し交差する方向に沿って設けられた段差を配置したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項12】
前記段差は、前記流路部を流れる水から見て、下りの段差であることを特徴とする請求項11記載の水処理装置。
【請求項13】
前記段差は、前記流路部を流れる水から見て、登りの段差であることを特徴とする請求項12記載の水処理装置。
【請求項14】
前記段差は、前記水流方向に対して傾斜する方向に水を導くように形成されていることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項15】
前記段差は、前記水流方向に対して傾斜する甲方向に水を導く第1の部分と、前記水流方向に対して傾斜する乙方向に水を導く第2の部分とを有し、前記甲方向と前記乙方向とは、前記水流方向に直交する方向に関して、反対向きであることを特徴とする請求項14記載の水処理装置。
【請求項16】
前記段差の高さは、前記水流方向に直交する方向に関して変化することを特徴とする請求項11〜15のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の水処理装置を用いる水処理方法であって、
前記水供給部から前記流路部に水を供給し、前記流路部に前記光触媒が光触媒反応を起こす波長の光を照射することを特徴とする水処理方法。
【請求項18】
前記供給部から前記流路部に浄水を流すことを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の水処理装置のメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2006−159164(P2006−159164A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358898(P2004−358898)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】