説明

水分子を規則的に配列させるアルミニウムケイ酸塩及びその合成方法

【課題】 水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5%〜60%の範囲において水蒸気吸脱着量が60wt%以上を有し、また水分子を規則的に配列させることにより物質表面上に効率的に水蒸気を吸着させるアルミニウムケイ酸塩からなる吸着剤を提供する。
【解決手段】 NaやKをほとんど含まない有機SiおよびAl溶液を用い、混合におけるSi/Al比を1.1以上とし、両溶液を混合して前駆体を形成し、その後遠心分離後の上澄み液の加熱を行なうことにより、アルミニウムケイ酸塩を合成する。得られたアルミニウムケイ酸塩は、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5%〜60%の範囲において水蒸気吸脱着量が60wt%以上を有し、また水分子を規則的に配列させることにより物質表面上に効率的に水蒸気を吸着させることのできるアルミニウムケイ酸塩であり、デシカント空調用吸着剤として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次世代の産業を支える重要な基盤技術として、実用化が強く期待されているナノテクノロジーの技術分野において、その特異な形状に起因する微細構造および表面構造により、吸着能等に優れた物理化学的な特性を示し、革新的な機能性材料としての応用が期待されている物質に関するものであり、特に、水蒸気を吸着させた際に水分子を規則的に配列させるアルミニウムケイ酸塩に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然に存在するナノサイズのアルミニウムケイ酸塩としては、例えば、アロフェンおよびイモゴライトとして産出するが、このアロフェンおよびイモゴライトは、土壌中に存在し、主に火山灰由来の土壌に産する。また、天然のアロフェンおよびイモゴライトは、土壌における養分や水分の移動及び植物への供給、更に、有害な汚染物質の集積や残留等に対して影響を与えるものである。これらのアルミニウムケイ酸塩は、主な構成元素をケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)及び水素(H)とし、多数のSi−O−Al結合で組み立てられた水和珪酸アルミニウムであって、アロフェンは、外径3.5〜5.0nmのナノカプセル状の形態を有し、イモゴライトは、外径が2.2〜2.8nm、内径が0.5〜1.2nm、長さが10nm〜数μmのナノチューブ状の形態を有している。
【0003】
一方、特徴的な形態を有しない非晶質アルミニウムケイ酸塩の中でも、イモゴライトの前駆体物質についてはプロトイモゴライトと呼ばれている。このプロトイモゴライトは、水溶液中に分散した状態のものを100℃程度で加熱するとイモゴライトとなり、それゆえイモゴライト形成過程途中の加熱前の前駆体物質としてプロトイモゴライトと呼ぶ。プロトイモゴライトは、イモゴライトの構造に由来する性質を有しているため、29Si固体NMRでは、イモゴライトと同じ−78ppmにピークを示し、ケイ素はOH−Si−(OAl)3の配位を有している。そのため水蒸気吸着特性においてもイモゴライトとプロトイモゴライトとは相対湿度20%以下における吸着挙動がほぼ同じであり、プロトイモゴライトは結晶性のイモゴライトのように比較的長いチューブ状の形態にまでは成長していないが、イモゴライトの構造をそれなりに有していると考えられている。それゆえプロトイモゴライトにおいても、低湿度領域においてはイモゴライトと同様な吸着剤の性質を有している。
【0004】
このような、ナノサイズ状のアルミニウムケイ酸塩であるアロフェンおよびイモゴライトさらにはイモゴライトの前駆体であるプロトイモゴライトの特異な形状及び物性は、工業的にも有用であると考えられる。すなわち、アロフェンおよびイモゴライトさらにはその前駆体であるプロトイモゴライトは、その特異な微細構造に基づいて、各種物質を吸着することができる特性を有することから、例えば、有害汚染物質吸着剤、脱臭剤、さらには二酸化炭素やメタンなどのガス貯蔵剤等としての利用可能性については、従来から言及されている。また、優れた水蒸気吸着性能を有することから、ヒートポンプ熱交換材、結露防止剤、自律的調湿材料などの応用としても期待されている。
【0005】
特に、デシカント空調用吸着剤としては、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ水蒸気吸着量が多いことが望ましい。そのような背景から、相対湿度と水蒸気吸着量の関係が直線的に増加し、かつ吸着量の多い無機材料系の吸着剤の開発が行なわれている。
【0006】
このような中で、アロフェンやイモゴライトなどのアルミニウムケイ酸塩の上記特性を有しつつ、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加していく吸着剤の開発が行なわれてきた(特許文献1参照)。
しかしながら、従来の方法では、相対湿度が5〜60%において、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ水蒸気吸着量が60wt%を超える無機材料による吸着剤の開発はなされていなかった。
【特許文献1】特開2006−240956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、デシカント空調用吸着剤の開発を目的として、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加する吸着剤の開発を行なってきた。
その結果、原料として無機ケイ素化合物と無機アルミニウム化合物を用い、Si/Al比が0.6〜1となるようにして合成を行い、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加する吸着剤の開発を行なうことが可能となった(特願2006−351792号)が、その水蒸気吸着量は35wt%程度であった。
また、同様にして、Si/Al比を1〜3の範囲にて合成を行なったところ、相対湿度80%以上の高湿度条件下において相当な水蒸気吸着量を有するものが得られた(特願2006−351447号)ものの、中湿度領域においては、ほとんど水蒸気吸着は行なわれていなかった。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、相対湿度に応じて水蒸気吸着量が直線的に増加し、かつ水分子を規則的に配列させることにより物質表面上に効率的に水蒸気を吸着させる吸着剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を重ねた結果、Si源およびAl源として、従来の無機系の原料に代えて、NaやK等のアルカリ金属を含まない有機系の原料から形成した、Si/Al比が1.1以上のアルミニウムケイ酸塩は、その水蒸気吸着量が、相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5%〜60%の範囲において水蒸気吸着量が60wt%以上の性能を有し、さらに水分子を規則的に配列させることにより物質表面上に効率的に水蒸気を吸着させるという特性を有するものであることを見いだした。また、こうした特性を有するアルミニウムケイ酸は、無機系の原料から合成した場合には、達成できるものではなく、有機系の原料を用いた場合にはじめて達成し得ることも判明した。
【0010】
本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
(1)Si/Al比が1.1以上であって、粉末X線回折測定の際の温度が70℃以上において2θ=22.7°、26.7°、27.9°、32.3°、35.3°、39.8°、42.4°、46.3°、52.1°にピークを有し、常温において水蒸気を吸着させた際に新たに2θ=15.4°、19.3°、20.5°、23.8°、25.5°、29.2°、30.6°、31.4°、37.1°、37.9°、41.6°、43.2°、44.7°、47.2°、47.8°、51.0°、54.0°、56.9°にピークが出現することを特徴とするアルミニウムケイ酸塩。
(2)水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5〜60%における吸着量が60wt%以上であることを特徴とする前記(1)のアルミニウムケイ酸塩。
(3)Si源およびAl源としてナトリウム及びカリウムを含まない有機系の原料を用い、Si/Al比1.1以上となるように混合して前駆体を形成した後、遠心分離を行い、得られた上澄み液を加熱して得られたものであることを特徴とする前記(1)又は(2)のアルミニウムケイ酸塩。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかのアルミニウムケイ酸塩からなる吸着剤。
(5)前記(1)〜(3)のいずれのアルミニウムケイ酸塩からなるデシカント空調用吸着剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5〜60%における吸着量が60wt%以上の性能を有し、水分子を規則的に配列させることにより物質表面上に効率的に水蒸気を吸着させるアルミニウムケイ酸塩からなる吸着剤、ならびにデシカント空調用吸着剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明のアルミニウムケイ酸塩は、Si源およびAl源として、NaやK等のアルカリ金属がほとんど含まれていない有機系の原料、好ましくは、NaやK等の含有量が1ppm以下の原料を用いて合成される。
具体的には、有機ケイ素化合物溶液と有機アルミニウム化合物溶液からなる溶液を、Si/Al比が1.1以上となるように混合し、ケイ素とアルミニウムの重合化後、遠心分離による上澄み溶液を加熱熟成することにより人工的に得ることができる。
【0013】
本発明におけるアルミニウムケイ酸塩は、相対湿度に応じて水蒸気吸着量が直線的に増加し、また相対湿度5〜60%において水蒸気吸着量が60wt%以上の水蒸気を吸着する性能を有するものであって、かつ、粉末X線回折図形から判断すると、水蒸気を吸着させた際に水分子を規則的に配列させるアルミニウムケイ酸塩であり、従来公知のアルミニウムケイ酸塩とは異なるアルミニウムケイ酸塩からなる高吸着性物質である。
すなわち、本発明によれば、有機ケイ素化合物および有機アルミニウム化合物を用い、Si/Al比が1.1以上の範囲で有機ケイ素化合物および有機アルミニウム化合物を混合し、上澄み溶液を加熱することにより、従来では得られなかった、相対湿度に応じて水蒸気吸着量が直線的に増加し、また相対湿度5〜60%において水蒸気吸着量が60wt%以上の水蒸気を吸着する優れた吸湿挙動を有する物質を提供しうるアルミニウムケイ酸塩が得られるものである。
【0014】
本発明において、アルミニウムケイ酸塩の調製には、原料として、有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物が用いられる。具体的には、ケイ素源として使用される原料にはオルトケイ酸エチル、アルミニウム源として使用される原料にはアルミニウムトリ−s−ブトキシドが挙げられる。これらのケイ素源及びアルミニウム源は、上記の化合物に限定されるものではなく、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0015】
これらの原料を水溶液に溶解させ、所定の濃度の溶液を調製する。相対湿度に応じて水蒸気吸着量が直線的に増加するアルミニウムケイ酸塩を得るには、Si/Al比は1.1以上となるように混合することが必要である。溶液中のケイ素化合物の濃度は1〜500mmol/Lで、アルミニウム化合物の溶液の濃度は1〜450mmol/Lである。
これらの比率及び濃度に基づいて、アルミニウム化合物溶液にケイ素化合物溶液を混合し、前駆体を形成した後遠心分離を行い、その後、回収した上澄み液を、必要に応じて超純水により3〜10倍に希釈し、加熱することにより生成された固形分が本発明における非晶質アルミニウムケイ酸塩である。この際の加熱温度は90〜150℃、時間は2〜7日であることが好ましい。
【実施例】
【0016】
次に、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例)
過塩素酸75mmolを含む950mLの水溶液のSi濃度が、180mmol/Lになるようにオルトケイ酸エチルを、また、Al濃度が150mmol/Lになるようにアルミニウムトリ−s−ブトキシドをそれぞれ溶解させ、マグネティックスターラーを用いて室温下で最初の3時間は激しく攪拌し、その後18時間撹拌し続け、前駆体を形成した。この溶液から遠心分離により沈殿を除いた上澄み液を回収し純水で6倍希釈した。希釈溶液を500mLの密閉容器に移し替え、恒温槽にて98℃で4日間加熱を行い、アルミニウムケイ酸塩を含む懸濁液を得た。この懸濁液を60℃にて乾燥したところ1Lあたり0.5gの固形分が回収された。
【0017】
得られた固形分については、粉末X線回折測定を行った。
図1に、得られた生成物の水蒸気吸着時の粉末X線回折図形を示し、図2に、得られた生成物を70℃で脱水させた状態での粉末X線回折図形を示す。図2に示した粉末X線回折測定は、試料ホルダーの温度を70℃に設定した状態で測定を行った。
図1に見られるように、水蒸気を吸着した状態では、2θ=15.4°、19.3°、20.5°、22.7°、23.8°、25.5°、26.7°、27.9°、29.2°、30.6°、31.4°、32.3°、35.3°、37.1°、37.9°、39.8°、41.6°、42.4°、43.2°、44.7°、46.3°、47.2°、47.8°、51.0°、52.1°、54.0°、56.9°にピークを有しているが、図2に示したように70℃以上にて乾燥した状態では、2θ=22.7°、26.7°、27.9°、32.3°、35.3°、39.8°、42.4°、46.3°、52.1°にしかピークが見られず、水蒸気を吸着した際に水分子を規則的に配列しているためX線回折としてのピークが現れる特徴的な現象が観察された。
【0018】
(比較例:プロトイモゴライトの調製)
プロトイモゴライトを以下のようにして得た。
Si濃度が60mmol/Lになるように純水で希釈したオルトケイ酸ナトリウム水溶液200mlを調整した後。また、これとは別に塩化アルミニウムを純水に溶解させ、Al濃度が150mmol/L水溶液200mlを調整した。塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を混合し、マグネティックスターラーで撹拌した。このときのケイ素/アルミニウム比は0.4である。この混合溶液に、1N水酸化ナトリウム水溶液44.8mlを滴下しpHを6とした。この溶液から遠心分離により前駆体を回収し、更に、純水で前駆体を2回遠心分離により洗浄した後、2Lの純水中に分散させた。この前駆体の懸濁液2Lに、1N塩酸を10ml加えpHを4.2とした後、室温下で1時間攪拌した後、この溶液を60℃で6日間濃縮、乾燥させたところ約1gの生成物を得た。
【0019】
得られた生成物について、そのX線回折パターンを解析した。
図3に得られた生成物の粉末X線回折図形を示す。図3からわかるように、得られたアルミニウムケイ酸塩は、特定のピークのない非晶質であることを示すX線回折パターンを示した。
【0020】
(水蒸気吸着評価)
実施例で得られたアルミニウムケイ酸塩、および比較例で得られたプロトイモゴライトについて、日本ベル社製Belsorp18により測定を行った水蒸気吸着等温線から水蒸気吸着評価を行った。図4に、その結果を示す。
図4に示すように、実施例で得られたアルミニウムケイ酸塩は、水蒸気吸着等温線において、相対湿度5〜60%の範囲において60wt%の吸脱着量を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明のアルミニウムケイ酸塩は、水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5%〜60%の範囲において水蒸気吸着量が60wt%以上を有する高性能な吸着性を有し、デシカント空調用吸着剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例の水蒸気吸着時における粉末X線回折図形を示す図。
【図2】実施例の水蒸気脱着時における粉末X線回折図形を示す図。
【図3】比較例の粉末X線回折図形を示す図。
【図4】実施例および比較例について水蒸気吸着等温線の結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si/Al比が1.1以上であって、粉末X線回折測定の際の温度が70℃以上において2θ=22.7°、26.7°、27.9°、32.3°、35.3°、39.8°、42.4°、46.3°、52.1°にピークを有し、常温において水蒸気を吸着させた際に新たに2θ=15.4°、19.3°、20.5°、23.8°、25.5°、29.2°、30.6°、31.4°、37.1°、37.9°、41.6°、43.2°、44.7°、47.2°、47.8°、51.0°、54.0°、56.9°にピークが出現することを特徴とするアルミニウムケイ酸塩。
【請求項2】
水蒸気吸着量が相対湿度に応じて直線的に増加し、かつ相対湿度5〜60%における吸着量が60wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムケイ酸塩。
【請求項3】
Si源およびAl源としてナトリウム及びカリウムを含まない有機系の原料を用い、Si/Al比1.1以上となるように混合して前駆体を形成した後、遠心分離を行い、得られた上澄み液を加熱して得られたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウムケイ酸塩。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウムケイ酸塩からなる吸着剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウムケイ酸塩からなるデシカント空調用吸着剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−280423(P2009−280423A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132040(P2008−132040)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】