説明

水圧転写フィルム、その製造方法並びにこれを用いた加飾成形品の製造方法

【課題】水圧転写後に表面保護層の形成が不要であり、深い凹凸模様を形成可能であり、転写性や意匠性が良好で、かつ被転写体に優れた光輝性を付与する水圧転写フィルム、その製造方法並びにこれを用いた加飾成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルム及びその製造方法、並びに該フィルムを用いた加飾成形品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸による立体面や曲面を有する成型体の表面に転写層を形成するのに好適な水圧転写フィルム、その製造方法並びにこれを用いた加飾成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装品、家電製品又はOA機器等には表面に木目調や金属調(金属光沢)などの装飾が施された成型品が利用されている。これらの成型品は複雑な三次元形状を有するものが多く、従来、その複雑な形状からなる成型品に意匠性の高い装飾を簡便に施す方法が検討されている。
こうした装飾方法として、水圧を利用した水圧転写法が知られている。この水圧転写法は、水溶性あるいは水膨潤性の水溶性フィルムに、所望の装飾層を印刷した転写フィルムを用意し、該転写フィルムの装飾層に、有機溶剤からなる活性剤組成物を塗布して、該装飾層を膨潤、粘着化させる(これを活性化という)。その前又は後に、前記転写フィルムを転写用の装飾層(印刷層)面を上面にして、水面上に浮遊させ、次いで、該転写フィルム上に被転写体となる物品を押圧して、水圧によって転写フィルムを被転写体の装飾処理をすべき被転写面に密着させた後、水溶性フィルムを除去して装飾層を転写する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
かかる、水圧転写法は、クリア塗装感等の「深み」や、立体面への適応性及び高品質な柄表現が出来る等の点で、優れた曲面加飾法であるが、これに更に「照り」等の光輝性も加えて、より優れた高級感を付与しようとすると問題があった。即ち、各種光輝性を表現できる様なエンボス凹凸模様を転写層に組み込むには相応の層厚を要するために、転写層という薄い層を転写移行させる水圧転写法は、光輝性も加えるためには不向きな方法と考えられていた。
これに対して、特許文献2においては、パール感を呈する印刷模様層を形成するため、被転写体である合成樹脂成形体に予めガラス繊維を添加し、その合成樹脂成形体の表面に水圧転写法により印刷模様層を転写することが提案されている。しかし、この方法では、合成樹脂成形体の材質が制限され、合成樹脂成形体作製が煩雑であった。
【0004】
上記の問題を解決するため、特許文献3は水圧転写シートにおける改良を試み、水溶性フィルム上の硝化綿・アルキッド系の透明樹脂層と、該透明樹脂層上の蒸着金属層とからなり、該蒸着金属層と前記透明樹脂層との間で該透明樹脂層にエンボスが施されている水圧転写シートが提案されている。
このような水圧転写シートを用いて被転写体の表面に加飾を施した場合、さらに表面保護層等を設けて、被転写面を保護する必要があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開平4−107182号公報
【特許文献3】特開2001−328398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、水圧転写後に表面保護層の形成が不要であり、深い凹凸模様を形成可能であり、転写性や意匠性が良好で、かつ被転写体に優れた光輝性を付与する水圧転写フィルム、その製造方法並びにこれを用いた加飾成形品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水溶性フィルムと金属薄膜層との間に半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層を設けることで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
1.水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルム、
2.水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルムの製造方法であって、
該水溶性フィルムの上に未硬化の電離放射線硬化性樹脂組成物層を積層する工程(A)と、
該電離放射線硬化性樹脂組成物層に電離放射線を照射し、半硬化状態とする工程(B)と、
該電離放射線硬化性樹脂組成物層表面に該金属薄膜層を形成する工程(C)と、
該工程(B)の後かつ該工程(C)の前において、又は該工程(C)の後において、エンボス加工を施し凹凸模様を形成する工程(D)とを有する水圧転写フィルムの製造方法、
3.前記工程(B)において使用される紫外線照射装置の出力が50〜300W/cmであり、かつ、その照射速度が1〜50m/minである上記2に記載の水圧転写フィルムの製造方法、及び
4.下記の工程(a)〜(e)を有する加飾成形品の製造方法、
工程(a):水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルムを該水溶性フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させる工程
工程(b):水圧転写フィルムの該金属薄膜層上に活性剤組成物を塗布する工程
工程(c):該工程(a)及び(b)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該金属薄膜層及び該電離放射線硬化性樹脂組成物層を被転写体の被転写面に密着させる工程
工程(d):該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程
工程(e):金属薄膜層上の電離放射線硬化性樹脂組成物層を、電離放射線を照射して硬化する工程、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水圧転写フィルムを用いると、水圧転写後に表面保護層の形成が不要であり、深い凹凸模様を形成可能であり、転写性や意匠性が良好で、かつ被転写体に優れた光輝性を付与する水圧転写フィルム、その製造方法並びにこれを用いた加飾成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。
本発明の水圧転写フィルム1は、水溶性フィルム2と、水溶性フィルム2上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層3と、電離放射線硬化性樹脂組成物層3上の金属薄膜層4とを有し、電離放射線硬化性樹脂組成物層3と金属薄膜層4との間に凹凸模様5が形成されている。
【0011】
[水溶性フィルム]
本発明における水溶性フィルムとしては、水溶性又は水膨潤性を有するものであれば良く、従来水圧転写フィルムにおいて一般に使用されている水溶性フィルムの中から、適宜選択して用いることができる。
水溶性フィルムを構成する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等の各種水溶性ポリマーが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。なお、水溶性フィルムには、マンナン、キサンタンガム、グアーガム等のゴム成分が添加されていてもよい。
【0012】
上記の水溶性フィルムのうち、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムが好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、PVA以外に、澱粉やゴム等の添加剤を含有していてもよい。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴム等の添加剤の配合量等を変えることにより、水溶性フィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さ等を適宜調節することができる。
【0013】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる水溶性フィルムとして好適なものは、特開昭54−92406号公報に説明されているようなものであり、例えば、PVA樹脂80質量%、高分子水溶性樹脂15質量%、澱粉5質量%の混合組成からなり、平衡水分3%程度のものが好適である。
また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時の転写用の金属薄膜層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
【0014】
水溶性フィルム2の厚さとしては、10〜100μmが好ましい。10μm以上であると、膜の均一性が良好で、かつ生産安定性が高い。一方、100μm以下であると、水に対する溶解性が適度であり、かつ印刷適性に優れる。以上の観点から、水溶性フィルムの厚さは、20〜60μmの範囲がより好ましい。
【0015】
なお、上記の水溶性フィルムは、例えば紙、不織布、布等の水浸透性を有する基材と積層して使用することもできるが、このような水浸透性を有する基材と水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムとを積層したときには、水圧転写フィルムを水面に浮かべる前に前記水浸透性を有する基材を水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムから分離させるか、又は水面に浮かべた後の水の作用によって水溶性又は水膨潤性を有する水溶性フィルムから前記水浸透性を有する基材が分離するように構成しておくことが好ましい。
【0016】
[電離放射線硬化性樹脂組成物層]
電離放射線硬化性樹脂とは、電磁波または荷電粒子線の中で分子を重合させ得るエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、硬化する樹脂をいう。具体的には、従来電離放射線硬化性の樹脂として慣用されている重合性モノマー及び重合性オリゴマー(ないしはプレポリマー)の中から適宜選択して用いることができる。
本発明における半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層は、水圧転写時に適度な速度で、かつ適度な範囲に膨潤し、後述する金属薄膜層に不均一な割れ(クラック)を生じさせることなく、均一で微細な割れ(クラック)を生じさせるために設けられる層であり、このような作用を有するものであれば従来公知のものが使用できる。
上記電離放射線硬化性樹脂組成物層は、少なくとも部分的に半硬化状態であることで上述のように金属薄膜層に均一で微細な割れを生じさせることができるが、本発明における半硬化状態とは、以下に示す乾燥状態の評価基準(JIS K 5600−1−1参照)に照らして指触乾燥状態又は半硬化乾燥状態と判断される状態と定義され、硬化乾燥状態とは明確に区別される。電離放射線硬化性樹脂組成物層が硬化乾燥状態にある場合、金属薄膜層に不均一な割れが生じ、本発明の効果を奏しない。
指触乾燥:塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れない状態。
半硬化乾燥:塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態。
硬化乾燥:塗面の中央を親指と人差指とで強く挟んで、塗面に指紋によるへこみが付かず、塗膜の動きが感じられず、また、塗面の中央を指先で急速に繰り返しこすって、塗面にすり跡が付かない状態。
【0017】
重合性モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレート単量体が好適であり、なかでも多官能性(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。
多官能性(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートモノマーであればよく、特に制限はない。具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどのトリ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの4官能以上の(メタ)アクリレート;上記した多官能性(メタ)アクリレートモノマーのエチレンオキシド変性品、カプロラクトン変性品、プロピオン酸変性品などが好ましく挙げられる。これらのなかでも、均一一様な低屈折率層が得られ、かつ良好な防汚性が得られる観点から、トリ(メタ)アクリレートが好ましい。これらの多官能性(メタ)アクリレートモノマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
本発明においては、上記した多官能性(メタ)アクリレートモノマーとともに、その粘度を低下させるなどの目的で、単官能性(メタ)アクリレートモノマーを、本発明の目的を損なわない範囲で適宜併用することができる。
【0019】
次に、重合性オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系のオリゴマーなどが挙げられる。
さらに、重合性オリゴマーとしては、他にポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテルなどの分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどがある。
【0020】
重合性オリゴマーは、数平均分子量(GPC法で測定したポリスチレン換算の数平均分子量)が20,000以下のものが好ましい。このような重合性オリゴマーを使用することで、その粘度を低下させて塗布適性を向上させることができる。
【0021】
上記した重合性モノマー及び重合性オリゴマーは、電離放射線硬化性樹脂組成物層3の架橋密度を高める効果が大きいので、硬化後の表面硬度の向上を図ることが可能であり、また、流動性(チキソ性)が高いことから塗布適性が高いものである。これらの重合性モノマー及び重合性オリゴマーは、必要に応じて主鎖や側鎖に(メタ)アクリロイル基を有する数平均分子量が20,000以上の反応性ポリマー、あるいは主鎖や側鎖にパーフルオロポリエーテルなどのフッ素成分を含む(メタ)アクリレート基を有する反応性ポリマーなどとともに好ましく使用することができる。このような数平均分子量が大きい反応性ポリマーを用いることで、複雑な形状に追従しうるなどの成膜性が向上し、バインダー樹脂の硬化時に反射防止フィルムのカールや反りなどの発生を抑制することが可能となる。
このような反応性ポリマーは、例えばメタクリル酸メチルとグリシジルメタクリレートとをあらかじめ重合し共重合体を得て、次いで該共重合体のグリシジル基とメタクリル酸やアクリル酸のカルボキシル基とを縮合させることで得ることができる。また、反応性ポリマーは市販品として容易に入手可能であり、市販品としては例えば「マクロモノマー(商品名)」:東亞合成株式会社製などが挙げられる。
【0022】
本発明においては、電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂を好ましく用いることができる。光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られることから電子線硬化性樹脂がより好ましいが、紫外線硬化性樹脂も後述する光重合開始剤との併用により何らの支障なく用いられる。
【0023】
電離放射線硬化性樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光重合開始剤を、紫外線硬化性樹脂100質量部に対して、0.5〜10質量部程度添加することが好ましく、1〜5質量部の添加がより好ましい。光重合開始剤としては、従来慣用されているものから適宜選択することができ、特に限定されず、例えば、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する重合性モノマーや重合性オリゴマーに対しては、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、ケタール系、アントラキノン系、ジスルフィド系、チオキサントン系、チウラム系、フルオロアミン系などの光重合開始剤が挙げられる。これらは、いずれか一方を単独で、又は、両方を組み合わせて用いることができる。これらの光重合開始剤は市販品として入手可能であり、例えば、「イルガキュア184(商品名)」、「イルガキュア907(商品名)」「イルガキュア127(商品名)」(いずれもチバスペシャリティーケミカルズ(株)製)などが挙げられる。
【0024】
電離放射線硬化性樹脂としては、ラジカル重合性二重結合を分子中に含むプレポリマー(オリゴマーを含む)及び/又はモノマーを主成分とする透明性樹脂を用いることにより、水圧転写時に電離放射線硬化性樹脂組成物層3が適度な速度で膨潤するので、金属薄膜層4が不均一に割れ(クラック)が生じにくく、均一な微細な割れ(クラック)を生じることとなる。これにより、金属薄膜層4が均一で微細な割れ(クラック)を良好に維持できるので、被転写体である加飾成形品は優れた光輝性を奏することができる。
【0025】
電離放射線硬化性樹脂組成物層3の厚さとしては、0.5〜20μmが好ましい。この範囲であれば、金属薄膜層4に微細な割れ(クラック)がさらに均一に生じ、活性剤塗布工程(a)のさらに好適な時間を確保して、より好適に被転写体に転写することができる。これらの観点から、1〜6μmがより好ましい。
【0026】
[金属薄膜層]
本発明に係る金属薄膜層4の材料としては、金属材料の蒸着により形成する蒸着金属薄膜や、金属粉末を含有するペースト組成物をコーティングして得られる薄膜などにより形成することが好ましい。より高い金属調の意匠性を得るためには、蒸着金属薄膜を採用することが好ましい。
金属薄膜層4を形成する金属としては、例えば、アルミニウム、クロム、ニッケル、コバルト、銅、金、銀、スズ、亜鉛、黄銅、ステンレス等の金属、合金、金属酸化物等を使用することができる。金属酸化物としては酸化アルミニウム、二酸化ケイ素等が挙げられる。これらのうち、アルミニウムが割れ(クラック)を均一に生じさせる観点から好ましい。金属薄膜層4の厚さは通常100〜800Åであることが好ましく、200〜600Åであることがさらに好ましい。金属薄膜層4の厚さが上記範囲内であると、割れ(クラック)幅として1〜120μmという微細な割れ(クラック)を均一に生じさせることができる。
【0027】
[絵柄印刷層]
本発明においては、所望により、絵柄印刷層(図示しない)を電離放射線硬化性樹脂組成物層3と金属薄膜層4との間に設けることができる。絵柄印刷層のバインダー樹脂は電離放射線硬化性樹脂組成物層3と同じ樹脂を用いることが好ましい。着色剤は、従来から通常使用されているものが用いられる。
【0028】
[凹凸模様]
本発明に係る凹凸模様5としては、光輝性意匠表現に応じたものとすれば良く、特に限定されるものではない。例えば、万線状溝、木目導管溝、木目年輪模様、砂目模様、石目模様、金属結晶面模様、布目模様、梨地模様、皮絞模様、マット面模様、ヘアライン模様、スピン調模様、文字、記号、幾何学図形等が挙げられる。凹凸模様の深さは3〜50μmとすることが、割れ(クラック)を均一に生じさせることができ、高い光輝性を有する、良好な意匠性の成形品が得られる観点から好ましい。また、同様の観点から、より好ましくは10〜40μmであり、さらに好ましくは20〜40μmである。ここで、本発明において凹凸模様5の深さは、凹凸模様の凹部の深さのことである。ここで、凹部の深さは、転写調整層と金属薄膜層との界面を略直線とみたときの、該直線からの深さの最大値とする。
【0029】
凹凸模様5の周期幅(ピッチ)は、10〜100μmが好ましく、より好ましくは20〜40μmである。凹凸模様5の周期幅(ピッチ)が上記範囲内であることにより、クラック(割れ)幅として1〜120μmという微細なクラック(割れ)を均一に生じさせることができる。ここで、本発明において凹凸模様5の周期幅(ピッチ)は、隣接する凸部間の離間距離のことである。
また、凹凸模様5の幅は、10〜100μmが好ましく、より好ましくは20〜40μmである。凹凸模様5の幅が上記範囲内であることにより、クラック(割れ)幅として1〜120μmという微細なクラック(割れ)を均一に生じさせることができる。ここで、本発明において凹凸模様5の幅は、凸部自体の幅のことである。
また、凹凸模様5は、エンボス加工により好適に設けることができる。
【0030】
[水圧転写フィルムの製造方法]
本発明の水圧転写フィルム1の製造方法は、水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルムの製造方法であって、該水溶性フィルムの上に未硬化の電離放射線硬化性樹脂組成物層を積層する工程(A)と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層に電離放射線を照射し、半硬化状態とする工程(B)と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層表面に該金属薄膜層を形成する工程(C)と、該工程(B)の後かつ該工程(C)の前において、又は該工程(C)の後において、エンボス加工を施し凹凸模様を形成する工程(D)とを有する。
工程(A)において、未硬化の電離放射線硬化性樹脂組成物層は、公知の塗布方法又は印刷方法、水溶性フィルムとの共押出法、あるいは樹脂フィルムを水溶性フィルム2にラミネートすることにより水溶性フィルム2の上に積層される。
公知の塗布方法としては、グラビアコート、リバースコート等が挙げられ、公知の印刷方法としては、グラビア印刷等が挙げられる。
工程(B)において、光照射には、主に、紫外線や電子線等が使用される。紫外線硬化の場合には、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプ等の光源から発する紫外線等を使用し、この紫外線照射装置の出力は、50〜300W/cmが好ましく、100〜200W/cmがより好ましい。照射速度は1〜50r/minが好ましく、1〜10r/minがより好ましい。半硬化状態にする際のエネルギー線源の照射量は、電子線照射装置を用いる場合、加速電圧50〜1,000KeV、好ましくは100〜300KeVで照射し、吸収線量としては、通常、1〜300kGy程度である。吸収線量が1kGy未満では、塗膜の硬化が不十分となり、又、照射量が300kGyを超えると被転写面への追従性が不十分となる。また、紫外線照射装置を用いる場合、その照射量は、紫外線波長365nmでの積算露光量として50〜1,000mJ/cm2の範囲が好ましい。紫外線照射量が50mJ/cm2未満では、塗膜の硬化が不十分となり、また、照射量が1,000mJ/cm2を超えると被転写面への追従性が不十分となる。
光照射に加えて、加熱する場合は、通常40℃〜120℃の温度にて処理する。また、室温(25℃)で24時間以上放置することにより反応を行っても良い。
工程(C)において、金属薄膜層4は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の公知の金属蒸着方法、あるいは上記の金属薄膜層4を形成する金属種の金属粉末とバインダー樹脂とを含む金属ペーストを塗布し、乾燥させることにより形成することができる。本発明においては、金属蒸着方法により形成することが好ましい。
凹凸模様を形成する工程(D)において施されるエンボス加工は、通常80〜125℃の温度で、20〜100ton/m2、好ましくは20〜60ton/m2の圧力を加えてエンボス加工装置により行なわれ、所望する凹凸模様5を形成する。
工程(D)は、工程(B)の後かつ工程(C)の前において、又は工程(C)の後において行なわれる。加工のし易さの観点から、エンボス加工は工程(B)の後かつ工程(C)の前において電離放射線硬化性樹脂組成物層3の表面に施されることが好ましい。
なお、所望により絵柄印刷層を設ける場合は、エンボス加工は絵柄印刷層を設けた後に施される。
【0031】
[加飾成形品の製造方法]
本発明の加飾成形品の製造方法は、下記の工程(a)〜(e)を有することを特徴とする。
工程(a):水溶性フィルム2と、該水溶性フィルム2上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層3と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層3上の金属薄膜層4とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層3と該金属薄膜層4との間に凹凸模様5が形成されている水圧転写フィルム1を該水溶性フィルム2側が水面側に向くように水面に浮遊させる工程
工程(b):水圧転写フィルムの該金属薄膜層上に活性剤組成物を塗布する工程
工程(c):該工程(a)及び(b)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該金属薄膜層及び該電離放射線硬化性樹脂組成物層を被転写体の被転写面に密着させる工程
工程(d):該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程
工程(e):金属薄膜層上の電離放射線硬化性樹脂組成物層を、電離放射線を照射して硬化する工程
【0032】
<工程(a)>
工程(a)は、工程(b)の前又は後に行うことができる。水圧転写フィルム1は、水溶性フィルム2側が水面側に向くように水面上に浮遊させる。水圧転写フィルム1を水面に浮遊させるには、枚葉の印刷物を1枚ずつ浮遊させてもよく、また水を一方向に流し、その水面上に連続帯状の水圧転写フィルムを、連続的に供給して浮遊させてもよい。
【0033】
<工程(b)>
工程(b)は、工程(a)の前又は後に行うことができ、金属薄膜層4に活性剤組成物を塗布する工程である。この工程で、金属薄膜層4に活性剤を塗布することにより、該金属薄膜層4の表面が荒れ、被転写体と密着しやすくなる。
【0034】
(活性剤組成物)
活性剤組成物は、水圧転写フィルム1における転写用の金属薄膜層4を荒らすことができ、かつ後述する被転写体の表面を溶解させる機能を有する組成物であれば特に制限はなく、また、被転写体の被転写面に金属薄膜層4を転写させるまで蒸発しないような性状を有することが好ましい。このような活性剤組成物としては、例えばエステル類、アセチレングリコール類、エーテル類、及び樹脂を含む組成物が好ましく挙げられる。
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどが好ましく挙げられる。
アセチレングリコール類としては、メトキシブチルアセテート、エトキシブチルアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどが好ましく挙げられる。
エーテル類としては、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが好ましく挙げられる。
また、樹脂としては、アクリレート系単量体の単独又は共重合体などの熱可塑性樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、フタル酸アルキッド樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂などが好ましく挙げられ、なかでも熱硬化性樹脂が好ましい。
本発明で用いられる活性剤組成物の好ましい各組成の含有量は、エステル類は5〜40質量%、アセチレングリコール類は40〜80質量%、エーテル類は5〜30質量%、及び樹脂は1〜20質量%程度である。
【0035】
活性剤組成物の塗布は、スプレーコート法などにより行えばよく、その塗布量は通常1〜50g/m2であり、好ましくは3〜30g/m2であり、さらに好ましくは10〜20g/m2である。
【0036】
<工程(c)>
工程(c)は、工程(a)及び工程(b)を経た水圧転写フィルム1上に被転写体を押圧し、水圧によって該金属薄膜層4及び電離放射線硬化性樹脂組成物層3を被転写体の被転写面に密着させる工程である。
水圧転写フィルム1を浮かべ水圧を印加するための水は、該水圧転写フィルム1の水溶性フィルム2の種類などに応じ、適宣水温を調整するのがよく、好ましくは25〜50℃程度、より好ましくは25〜35℃である。
また、本発明の水圧転写フィルム1と被転写体との転写時間は、20〜120秒程度が好ましく、より好ましくは30〜60秒程度である。クラック幅を広くするには、塗布量を多めにすればよく、水温は高めにすればよく、また転写時間は長めとすればよい。ここで、転写時間とは、本発明の転写フィルム1を水に浮遊させてから、被転写体への転写が完了するまでの時間のことである。
【0037】
(被転写体)
本発明で用いられる被転写体としては、例えば、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、繊維系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂のほか、鉄、アルミニウム、銅などの金属、陶磁器、ガラス、琺瑯などのセラミックス、木材などの材料からなる構造体を使用することができる。
また、被転写面の形状は、平面形状である二次元形状であってもよいし、凹凸形状や曲面形状などの三次元形状であってもよい。これらの中で、通常、樹脂製構造体が多用される。この樹脂製構造体は、成型時において離型剤が付着するとともに、ゴミや脂分なども付着することがあり、水圧転写フィルムの印刷層を密着性よく転写させるために、予め脱脂液により被転写面を清浄化しておくことが好ましい。
【0038】
工程(c)において、金属薄膜層4上に塗布した活性剤組成物は被転写体と接し、該被転写体の表面を溶解させることで、本発明の転写フィルム1と被転写体との密着性は良好なものとなる。
【0039】
<脱膜工程(d)>
脱膜工程(d)は、工程(e)の前又は後に行うことができ、被転写体の被転写面上より水溶性フィルム2を除去する工程である。
被転写体の被転写面上に付着している水溶性フィルム2の除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行うことができる。なお、シャワー洗浄の条件は、水溶性フィルム2を形成する材料などにより異なるが、通常は水温15〜60℃程度、洗浄時間10秒〜5分程度が好ましい。そして、工程(d)の後、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させれば、被転写体の被転写面に転写された金属薄膜層4によって、所望の意匠が付与された樹脂成形品が得られる。
【0040】
<工程(e)>
工程(e)は、転写された金属薄膜層4上の電離放射線硬化性樹脂組成物層3を、電離放射線を照射して硬化する工程である。本工程において、電離放射線硬化性樹脂組成物層3は、上述の乾燥状態の評価基準に照らして硬化乾燥状態にまで硬化される。
工程(e)においては、電子線照射装置を用いる場合、加速電圧50〜1000KeV、好ましくは100〜300KeVで照射し、吸収線量としては、通常、1〜300kGy程度である。吸収線量が1kGy未満では、塗膜の硬化が不十分となり、又、照射量が300kGyを超えると硬化した塗膜及び基材が黄変したり、損傷したりする。また、紫外線照射装置を用いる場合、その照射量は50〜1000mJ/cm2の範囲が好ましい。紫外線照射量が50mJ/cm2未満では、塗膜の硬化が不十分となり、また、照射量が1000mJ/cm2を超えると硬化した塗膜が黄変したりする。
【0041】
このようにして得られた加飾成形品としては、金属薄膜層にクラック(割れ)幅として1〜120μmという微細なクラック(割れ)を有するものであると、優れた光輝性を有するため好ましい。
転写の際にクラック(割れ)幅として1〜120μmという微細なクラック(割れ)を均一に生じさせるには、凹凸模様5の深さが3〜50μmであることが最も重要であるが、この微細クラック(割れ)幅の調整は、凹凸模様5の深さをはじめとし、例えば、凹凸模様5の周期幅(ピッチ)や幅の選定、電離放射線硬化性樹脂組成物層3を形成する樹脂の選定及びその厚さ、金属薄膜層4の厚さの選定などにより行うことができる。例えば、凹凸模様5の深さをより深めとすると、クラック幅は広くなる傾向にあり、またクラック幅を広めにしたい場合は、凹凸模様5の周期幅(ピッチ)や幅は広めにすればよく、金属薄膜層4の厚さをより厚くすればよく、また電離放射線硬化性樹脂組成物層3の厚さを厚くすればよい。
【0042】
また、クラック幅は、水圧転写方法の諸条件、例えば活性剤組成物の塗布量、水圧転写フィルム1を浮遊させる水の温度、該フィルム1と被転写体との転写時間などによっても調整することができる。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた水圧転写フィルムを使用した加飾成形品について以下に示す性能評価を行った。
(1)エンボス深さ
水圧転写フィルムの蒸着金属層表面のエンボス深さを、以下の基準で評価した。
(評価基準)
深い: エンボス深さ50μm超
通常: エンボス深さ10〜50μm
浅い: エンボス深さ10μm未満
【0044】
(2)乾燥状態
(評価基準)
指触乾燥:塗面の中央に指先で軽く触れて、指先が汚れない状態。
半硬化乾燥:塗面の中央を指先で静かに軽くこすって塗面にすり跡が付かない状態。
硬化乾燥:塗面の中央を親指と人差指とで強く挟んで、塗面に指紋によるへこみが付かず、塗膜の動きが感じられず、また、塗面の中央を指先で急速に繰り返しこすって、塗面にすり跡が付かない状態。
【0045】
(3)転写性
加飾成形品の表面状態を目視により観察し下記の基準で評価した。
(評価基準)
○: 均一に凹凸模様が転写されており、模様の歪みがない。
△: 転写された凹凸模様の一部に模様歪みがあった。
×: 転写された凹凸模様の大部分に模様歪みがあった。又は金属薄膜層が延びず、転写できなかった。
【0046】
(4)意匠性
加飾成形品の表面状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○: 良好であった。
△: 若干悪かった。
×: 悪かった。
【0047】
(5)耐摩擦性
テーパー摩耗試験(条件;摩耗輪:CS−10、荷重:500g、50往復)を実施し、表面状態を以下の基準で評価した。
(評価基準)
○:素地、下塗りの露出がほとんどなかった。
×:素地、下塗りの露出が著しく確認された。
【0048】
実施例1
(水圧転写フィルムの製造)
水溶性フィルムとして、PVAフィルム(厚さ30μm)を用い、その片面に下記組成の紫外線硬化性樹脂組成物を塗布量3g/m2で、グラビアコートし、厚さ2μmの未硬化の紫外線硬化性樹脂組成物層を設けた。次に、紫外線照射装置(160W/cmの2燈の高圧水銀燈)を用いて5m/minで紫外線を照射し、紫外線硬化性樹脂組成物層の表面の乾燥状態を上記の評価基準で評価した。結果を第1表に示す。
次に、エンボス加工装置を用いて、圧力50ton/m2、温度110℃で紫外線硬化性樹脂組成物層の表面側からエンボス加工して凹凸模様を形成した。次いで、真空蒸着方法にて、紫外線硬化性樹脂組成物層の凹凸模様の上にアルミニウム金属を厚さ350Åの金属薄膜層を形成した。得られた水圧転写フィルムのエンボス深さを上記の方法で評価した。結果を第1表に示す。
(紫外線硬化性樹脂組成物)
ラジカル重合性二重結合を分子中に含むプレポリマー(オリゴマーを含む)及び/又はモノマーを主成分とする透明性樹脂。
【0049】
(加飾成形品の製造)
上述のようにして得た水圧転写フィルムの金属薄膜層表面に、下記組成の活性剤組成物を3g/m2塗布し、スムージングロールで該活性剤組成物を均一にし、水溶性フィルム側が水面側を向くように水面に浮遊させた後、水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって金属薄膜層及び紫外線硬化性樹脂組成物層を被転写体の被転写面に密着させる工程を経て、該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程を行った。次いで、被転写面上の半硬化状態の紫外線硬化性樹脂組成物層を、紫外線照射装置(160W/cmの2燈の高圧水銀燈)を用いて5m/minで紫外線を照射して完全に硬化し、加飾成形品を得た。得られた加飾成形品は、最表面の表面保護層として、上記乾燥状態の評価基準に照らして硬化乾燥状態の紫外線硬化性樹脂組成物層を有するものとなった。得られた加飾成形品の転写性、意匠性及び耐摩擦性を上記の方法で評価した。結果を第1表に示す。
(活性剤組成物の組成)
フタル酸系アルキッド樹脂 6質量部
マイクロシリカ(顔料) 2質量部
フタル酸ジブチル 17質量部
溶剤(ブチルカルビトールアセテート) 60質量部
溶剤(ブチルセロソルブ) 15質量部
【0050】
比較例1
紫外線硬化性樹脂組成物層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして水圧転写フィルム及び加飾成形品を得た。得られた水圧転写フィルムのエンボス深さ、並びに加飾成形品の転写性、意匠性及び耐摩擦性を上記の方法で評価した。結果を第1表に示す。
【0051】
比較例2
紫外線硬化性樹脂組成物層に代えて、熱可塑性樹脂層を設け、紫外線の照射を行わなかった以外は、実施例1と同様にして水圧転写フィルム及び加飾成形品を得た。このようにして得られた加飾成形品は、最表面に熱可塑性樹脂層を有するのみで、表面保護層を有しないものとなった。
熱可塑性樹脂層の表面の乾燥状態、得られた水圧転写フィルムのエンボス深さ、並びに加飾成形品の転写性、意匠性及び耐摩擦性を上記の方法で評価した。結果を第1表に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上述のように、実施例1で得られた水圧転写フィルムはエンボス深さが良好であり、また、これを用いて得られた加飾成形体は、転写性や意匠性に優れたものであったが、さらに該加飾成形体はその最表層が硬化状態の紫外線硬化性樹脂組成物層であるため、表面保護層等を形成する工程が不要となり、生産性に優れたものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の水圧転写フィルムは、高い光輝性を有し、意匠性に優れた加飾成形品を提供することができる。得られた加飾成形品は、自動車内装材、建材、家具類、電気製品のハウジング等として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 水圧転写フィルム
2 水溶性フィルム
3 電離放射線硬化性樹脂組成物層
4 金属薄膜層
5 凹凸模様

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルム。
【請求項2】
水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルムの製造方法であって、
該水溶性フィルムの上に未硬化の電離放射線硬化性樹脂組成物層を積層する工程(A)と、
該電離放射線硬化性樹脂組成物層に電離放射線を照射し、半硬化状態とする工程(B)と、
該電離放射線硬化性樹脂組成物層表面に該金属薄膜層を形成する工程(C)と、
該工程(B)の後かつ該工程(C)の前において、又は該工程(C)の後において、エンボス加工を施し凹凸模様を形成する工程(D)とを有する水圧転写フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)において使用される紫外線照射装置の出力が50〜300W/cmであり、かつ、その照射速度が1〜50m/minである請求項2に記載の水圧転写フィルムの製造方法。
【請求項4】
下記の工程(a)〜(e)を有する加飾成形品の製造方法。
工程(a):水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上の半硬化状態の電離放射線硬化性樹脂組成物層と、該電離放射線硬化性樹脂組成物層上の金属薄膜層とを有し、該電離放射線硬化性樹脂組成物層と該金属薄膜層との間に凹凸模様が形成されている水圧転写フィルムを該水溶性フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させる工程
工程(b):水圧転写フィルムの該金属薄膜層上に活性剤組成物を塗布する工程
工程(c):該工程(a)及び(b)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該金属薄膜層及び該電離放射線硬化性樹脂組成物層を被転写体の被転写面に密着させる工程
工程(d):該被転写体の被転写面上より水溶性フィルムを除去する脱膜工程
工程(e):金属薄膜層上の電離放射線硬化性樹脂組成物層を、電離放射線を照射して硬化する工程

【図1】
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【公開番号】特開2013−71322(P2013−71322A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212257(P2011−212257)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】