説明

水圧転写方法及び水圧転写加飾成型品

【課題】少ない活性剤組成物で十分な印刷層の活性化状態が得られ、被転写体に、柄流れ、柄割れ及びピンホールが極めて少ない高い意匠性及び意匠再現性を付与する水圧転写方法、水圧転写加飾成型品を提供すること。
【解決手段】基材フィルムと印刷層とからなる水圧転写フィルムを用い、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、水圧転写用フィルムを水面に浮遊させる前又は後に、印刷層に活性剤組成物を塗布し、印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる活性化工程と、水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し水圧によって被転写面に密着させる工程を有し、活性剤組成物が、溶解性試験によるインキ溶解性が20%以上であり、かつアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)溶解性試験によるABS溶解性が0.001〜0.05gである化合物を含有する水圧転写方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として凹凸による立体面や曲面を有する成型体の表面に転写層を形成するのに好適な水圧転写方法及び該水圧転写方法により得られる水圧転写加飾成型品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車内装品、家電製品又はOA機器等には表面に木目調や金属調(金属光沢)などの装飾が施された成型品が利用されている。これらの成型品は複雑な三次元形状を有するものが多く、従来、その複雑な形状からなる成型品に意匠性の高い装飾を簡便に施す方法が検討されている。
こうした装飾方法として、水圧を利用した水圧転写法が知られている。この水圧転写法は、水溶性あるいは水膨潤性の基材フィルムに、所望の装飾層を印刷した転写フィルムを用意し、該転写フィルムの装飾層に、有機溶剤からなる活性剤組成物を塗布して、該装飾層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化(活性化)させる。その前又は後に、前記転写フィルムを転写用の印刷層面を上面にして、水面上に浮遊させ、次いで、該転写フィルム上に被転写体となる物品を押圧して、水圧によって転写フィルムを被転写体の装飾処理をすべき被転写面に密着させた後、基材フィルムを除去して装飾層を転写する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、活性剤組成物としては、これまで種々のものが提案されており、例えば、沈降性炭酸バリウム等の体質顔料を含む水圧転写方式に利用される活性剤組成物(特許文献2参照)、短油性アルキッド樹脂及びセルロースアセトブチレートからなる樹脂分、ブチルセロソルブ及びブチルカルビトールアセテートからなる溶剤分、フタル酸ジブチルからなる可塑剤分、及び超微粒子シリカからなる水圧転写用活性剤組成物(特許文献3参照)が提案されている。
特許文献2及び3に開示される活性剤組成物で用いられる体質顔料や超微粒子シリカはインクずれを防止し、被転写体の押入れに伴う転写フィルムの変形に追従できる伸展性を与えうる。しかしながら、スプレーコート法により活性剤組成物を塗布する場合には、体質顔料や微粒子シリカが活性剤組成物を噴射するためのノズルを閉塞し、活性剤組成物の塗布が良好に行われない、上記活性剤組成物は樹脂成分が多すぎるために、粘度が高く、エアー圧を上げてもきれいなミスト状になりにくく、安定した噴霧が行えない場合があった。
【0004】
一方、レベリング性、浸透性、硬化性樹脂層溶解膨潤性、及び装飾層溶解膨潤性を有する特定の活性化剤と該活性化剤を用いた水圧転写体の製造方法(特許文献4参照)が開示されている。この活性化剤はスプレーコート法により塗布する場合には、色ムラや柄の乱れ等がない良好な水圧転写体の製造を可能とするが、ロールコート法等のその他の方法で塗布した場合には装飾層が膨潤されず(活性化されず)、柄流れ、柄割れ、及びピンホール等が生じて水圧転写体の意匠を損なうといった問題が生じた。
【0005】
近年、水圧転写方式において、活性剤組成物の塗布方法としてはスプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法等、様々な方法が採用されているが、このように活性剤組成物が様々な塗布方法に対応しきれていないという問題、活性剤組成物は水圧転写フィルムの種類、印刷層に用いられるインキの種類に応じて、その度に適切な成分を選択して調製する必要があり、従来の活性剤組成物では、活性剤組成物に求められる機能を必ずしも十分に発揮することができないという問題があった。さらに、装飾層等の十分な活性化のために、活性剤組成物を多量に使用する必要があるため、被転写体の意匠性(透明感)や、意匠再現性の点で十分ではないといった場合もあった。
このように、多種多様な状況に対応すべく、水圧転写方法について、さらなる改良が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開昭54−33115号公報
【特許文献2】特開昭63−197685号公報
【特許文献3】特開平8−238898号公報
【特許文献4】特開2005−132014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下で、少ない活性剤組成物で十分な印刷層の活性化状態が得られ、密着性が良好であり、被転写体の外観に、柄流れ、柄割れ及びピンホールが極めて少ない高い意匠性及び意匠再現性を付与しうる水圧転写方法、及び該方法により得られる水圧転写加飾成型品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の性状を有する化合物を含有する活性剤組成物を用いることで、上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)基材フィルムと印刷層とからなる水圧転写フィルムを用い、該水圧転写フィルムを、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、該水圧転写用フィルムを水面に浮遊させる前又は後に、印刷層に活性剤組成物を塗布し、該印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる活性化工程(工程(A))と、工程(A)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該水圧転写フィルムを被転写面に密着させる工程(工程(B))とを有し、該活性剤組成物が、下記のインキ溶解性試験によるインキ溶解性が20%以上であり、かつ下記のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)溶解性試験によるABS溶解性が0.001〜0.05gである化合物を含有する水圧転写方法、
インキ溶解性試験;
インキ溶解性試験は、25℃において、水圧転写フィルムの印刷層側に、活性剤組成物をミヤバーコート法にて塗布し、15、30、及び60秒後に100gの荷重でガーゼで拭取る試験であり、印刷層を構成するインキがとれた面積の比率の15、30、及び60秒の3点の平均値をインキ溶解性とする。
ABS樹脂溶解性試験;
ABS溶解性試験は、25℃において、ABS樹脂板(1cm×1cm)を活性剤組成物100gに浸漬し、1時間後に該ABS樹脂板を取り出して、ガーゼで拭取り乾燥させる試験であり、試験前後のABS樹脂板の質量差をABS溶解性とする。
(2)活性剤組成物中の化合物の含有量が、1〜30質量%である上記(1)に記載の水圧転写方法、
(3)化合物が、エステル類、アセチレングリコール誘導体、及びケトン類から選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)に記載の水圧転写方法、
(4)エステル類が、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジメチル、メトキシブチルアセテート、及びブチルカルビトールアセテートから選ばれる少なくとも1種である上記(3)に記載の水圧転写方法、
(5)アセチレングリコール誘導体が、メトキシブチルアセテート及び/又はブチルカルビトールアセテートである上記(3)又は(4)に記載の水圧転写方法、
(6)ケトン類が、ジイソブチルケトン及び/又はメチルイソブチルケトンである上記(3)〜(5)のいずれかに記載の水圧転写方法、
(7)活性剤組成物が、さらに1価アルコールを含む上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水圧転写方法、
(8)1価アルコールが、イソプロピルアルコール及び/又はイソブチルアルコールである上記(7)に記載の水圧転写方法、
(9)印刷層をなすインキが、繊維素誘導体を含有する上記(1)〜(8)のいずれかに記載の水圧転写方法、
(10)繊維素誘導体が、ニトロセルロース及び/又はエチルセルロースである上記(9)に記載の水圧転写方法、
(11)被転写体がアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種からなる構造体である上記(1)〜(10)のいずれかに記載の水圧転写方法、及び
(12)上記(1)〜(11)のいずれかの水圧転写方法により得られる水圧転写加飾成型品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、少ない活性剤組成物で十分な印刷層の活性化状態が得られ、被転写体の外観に、柄流れ、柄割れ及びピンホールが極めて少ない高い意匠性及び意匠再現性を付与しうる水圧転写方法、及び該方法により得られる水圧転写加飾成型品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[水圧転写方法]
本発明の水圧転写方法は、基材フィルムと印刷層とからなる水圧転写フィルムを用い、該水圧転写フィルムを、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、該水圧転写用フィルムを水面に浮遊させる前又は後に、印刷層に活性剤組成物を塗布し、該印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化(以下、これを単に活性化ということがある。)させる活性化工程(工程(A))と、工程(A)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該水圧転写フィルムを被転写面に密着させる工程(工程(B))とを有し、該活性剤組成物が、下記のインキ溶解性試験によるインキ溶解性が20%以上であり、かつ下記のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)溶解性試験によるABS溶解性が0.001〜0.05gである化合物を含有することを特徴とする。ここで、インキ溶解性試験は、25℃において、水圧転写フィルムの印刷層側に、活性剤組成物をミヤバーコート法にて塗布し、15、30、及び60秒後に100gの荷重でガーゼで拭取る試験であり、印刷層を構成するインキがとれた面積の比率の15、30、及び60秒の3点の平均値をインキ溶解性とするものである。また、ABS樹脂溶解性試験は、25℃において、ABS樹脂板(1cm×1cm)を活性剤組成物100gに浸漬し、1時間後に該ABS樹脂板を取り出して、ガーゼで拭取り乾燥させる試験であり、試験前後のABS樹脂板の質量差をABS溶解性とするものである。
以下、本発明の水圧転写方法により水圧転写加飾成型品を製造する方法について説明する。
【0011】
本発明の水圧転写加飾成型品は、工程(A)水圧転写用フィルムの印刷層に活性剤組成物を塗布し、該印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる活性化工程と、工程(B)前記活性化工程を経た水圧転写用フィルムに被転写体を押圧し、水圧によって該印刷物を被転写体の被転写面に密着させる工程とを有し、好ましくは、工程(C)被転写体の被転写面に密着した印刷物の基材フィルムを完全に除去して印刷層のみを転写する脱膜工程、及び工程(D)転写された印刷層上に、必要に応じ保護膜を形成する工程、を有する水圧転写方法により製造することができる。
【0012】
[水圧転写方法:工程(A)]
工程(A)は、水圧転写フィルムの印刷層に活性剤組成物を塗布し、印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化(活性化)させる工程であり、該活性剤組成物の塗布は、水圧転写用フィルムを水面に浮遊させる前又は後に行うものである。
まず、基材フィルムと印刷層とからなる水圧転写フィルムの基材フィルム側が水面側に向くように水面上に浮遊させる。水圧転写フィルムを水面に浮遊させるには、枚葉の印刷物を1枚ずつ浮遊させてもよく、また水を一方向に流し、その水面上に連続帯状の水圧転写フィルムを、連続的に供給して浮遊させてもよい。
【0013】
活性剤組成物は、水圧転写用フィルムにおける転写用の印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる機能を有するものであり、そのためにはある程度の時間を要する。一方、被転写体の被転写面に転写用の印刷層を転写させる工程が水中で完了するまで蒸発してしまうことがないようにすることが肝要である。従って、多種多様な使用状況において最適な条件で被転写体に印刷層を転写するためには、活性剤組成物中の溶剤の種類及び含有量の制御することが重要である。
活性剤組成物を、水圧転写フィルムの印刷層に施すには、グラビアオフセットコート、グラビアコート、ロールコート、バーコート、スプレーコートなどの方法を用いることができるが、上記の観点からは、スプレーコート法が好ましい。
また、活性剤組成物の塗布量は、通常1〜50g/m2であり、好ましくは3〜30g/m2であり、さらに好ましくは10〜20g/m2である。
【0014】
[水圧転写方法:工程(B)]
工程(B)は、前記活性化工程を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該水圧転写フィルムを被転写体の被転写面に密着させる工程である。
図2は、当該工程(B)を概念的に示す説明図である。すなわち、当該工程(B)においては、水面W上に浮遊させた水圧転写フィルム10’の上から、被転写体7を、その被転写面8が下方となるようにして下降させて、被転写体7を水中に押し込むことで、その被転写面8の形状に沿って該水圧転写フィルム10’を伸ばし変形させて、水圧によって被転写面8に水圧転写フィルム10’を密着させる。なお、水圧転写フィルム10’を水面Wに浮かべてその基材フィルム1’が水と接した際、該基材フィルム1’が水膨潤性の場合には膨潤し、水溶性の場合は溶解する。従って、基材フィルム1’が水膨潤性の場合は、該基材フィルム1’は、印刷層6’と一体となって被転写面8に密着する。一方、基材フィルム1’が水溶性の場合には、完全に水に溶解し印刷層6’のみが水面上に浮遊する場合と基材フィルム1’の一部が溶解し一部が残存する場合とがある。前者の印刷層6’のみが水面上に浮遊する場合は、被転写体7には印刷層6’のみが密着した状態となる。
【0015】
水圧転写フィルム10’を浮かべ水圧を印加するための水は、該水圧転写フィルム10’の基材フィルム1’の種類(例えば水溶性あるいは水膨潤性の差)等に応じ、適宣水温を調整するのが良い。例えば、基材フィルム1’が澱粉系フィルムの場合は水温25〜50℃がよい。また、基材フィルム1’の除去を促進する添加剤を添加してもよく、例えば澱粉系フィルムの場合はアミラーゼ等を添加することが好ましい。
【0016】
本発明で用いる被転写体としては、例えば、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、繊維系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂、あるいはこれらを混合した樹脂のほか、鉄、アルミニウム、銅等の金属、陶磁器、ガラス、琺瑯等のセラミックス、木材等の材料からなる構造体を使用することができる。なかでも、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。被転写面の形状は、平面形状である二次元形状であってもよいし、凹凸形状や曲面形状などの三次元形状であってもよい。これらの中で、通常、樹脂製構造体が多用される。この樹脂製構造体は、成型時において離型剤が付着すると共に、ゴミや脂分なども付着することがあり、水圧転写フィルムの印刷層を密着性よく転写させるために、予め脱脂液により被転写面を清浄化しておくことが好ましい。
【0017】
脱脂液としては、アルカリ脱脂剤等の界面活性剤不含の物が用いられる。例えば界面活性剤不含のカリウム・リン酸塩系の弱アルカリ性液体を用いることができる。このようなカリウム・リン酸塩系の液は、界面活性剤を含まないので被転写体の表面から水をはじくことができる。このように被転写体の表面において水とのなじみを抑えることにより、被転写体と水圧転写フィルムの印刷層との間に水が侵入することを防止することができ、被転写体の被転写面に該印刷層を直接的かつ確実に付着させることができる。
また、前記被転写体の被転写面には、水圧転写フィルムの印刷層表面との間の密着性を良好にするために、プライマー層を予め形成しておくこともできる。
【0018】
[工程(C)]
工程(C)は、被転写体の被転写面に密着した水圧転写フィルムの基材フィルムを完全に除去して印刷層のみを転写する工程である。
当該工程(C)においては、基材フィルムも印刷層と共に被転写体に押圧され被転写体に密着した場合に、その基材フィルムを溶解あるいは洗浄で除去し、印刷層のみを被転写体上に残す工程である、従って、被転写体を水中に押込み、水圧を印加する際に、水面上に印刷層のみが浮遊している場合には、この工程(C)は不要である。つまり、工程(C)は、水圧転写フィルムの基材フィルムの少なくとも一部が溶解せずに被転写体上に残存している場合に、被転写体の被転写面に転写された印刷層が十分に密着後、その基材フィルムを除去する工程である。
【0019】
基材フィルムの除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行うことができる。この工程(C)により、被転写面に付着している基材フィルムは完全に除去される。なお、シャワー洗浄の条件は、基材フィルムの種類等で異なるが、通常は水温15〜60℃程度、洗浄時間10秒〜5分程度が好ましい。そして、工程(C)の後、あるいは工程(C)が省略される場合は、前記工程(B)の後で、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させれば、被転写体の被転写面に転写された印刷層によって、所望の意匠が付与された成型品が得られる。
【0020】
[工程(D)]
工程(D)は、転写された印刷層上に、必要に応じ保護膜を形成する工程である。
当該工程(D)においては、前記工程(C)にて被転写体の被転写面に転写された印刷層に対し、表面強度向上、表面保護、表面艶調整などのために必要に応じ塗装を施し、透明保護膜を形成する。この透明保護膜としては、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など、具体的にはウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂などが用いられる。塗装方法としては、スプレー塗装、静電塗装、刷毛塗り、浸漬塗装、など公知の方法を用いることができる。
本発明の水圧転写方法により得られる水圧転写加飾成型品は、特に高い意匠性が要求される自動車内装材、建材、家具類、電気製品のハウジングなどとして好適に用いられる。
【0021】
[水圧転写フィルム]
本発明で用いる水圧転写フィルムは、基材フィルムと、転写用の印刷層とを有する。
図1は、水圧転写用フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。水圧転写用フィルム10は、基材フィルム1の一方の面に、グラビア印刷により、第1の絵柄層2、第2の絵柄層3、第3の絵柄層4及び第4の絵柄層5が、順に設けられ、印刷層6が形成されている。
【0022】
[水圧転写フィルム:基材フィルム]
基材フィルムとしては、水溶性もしくは水膨潤性を有するものが好ましく、従来水圧転写用フィルムとして一般に使用されているフィルムの中から、適宜選択して用いることができる。
フィルムを構成する樹脂としては、例えばポリビニルアルコール樹脂、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。なお、基材フィルムには、マンナン、キサンタンガム、グアーガム等のゴム成分が添加されていてもよい。
【0023】
これらのうち、特に生産安定性と水に対する溶解性及び経済性の点から、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムが好ましい。なお、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、PVA以外に、澱粉やゴム等の添加剤を含有していてもよい。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、及び澱粉やゴム等の添加剤の配合量等を変えることにより、基材フィルムに対して転写用の印刷層を形成する際に必要な機械的強度、取り扱い中の耐湿性、水面に浮かべてからの吸水による柔軟化の速度、水中での延展又は拡散に要する時間、転写工程での変形のし易さ等を適宜調節することができる。
【0024】
ポリビニルアルコール樹脂フィルムからなる基材フィルムとして好適なものは、特開昭54−92406号公報に説明されているようなものであり、例えば、PVA樹脂80質量%、高分子水溶性樹脂15質量%、澱粉5質量%の混合組成からなり、平衡水分3%程度のものが好適である。
また、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは水溶性ではあるが、水に溶解する前段階では水に膨潤して軟化しつつもフィルムとして存続することが好ましい。フィルムとして存続している状態にあるときに水圧転写を行なうことにより、水圧転写時の転写用の印刷層の過度の流動、変形を防止することができるからである。
【0025】
基材フィルムの厚さとしては、10〜100μmが好ましい。10μm以上であると、膜の均一性が良好で、かつ生産安定性が高い。一方、100μm以下であると、水に対する溶解性が適度であり、かつ印刷適性に優れる。以上の観点から、基材フィルムの厚さは、20〜60μmの範囲がより好ましい。
【0026】
なお、上記の基材フィルムは、例えば紙、不織布、布等の水浸透性を有する基材と積層して使用することもできるが、このような水浸透性を有する基材と水溶性もしくは水膨潤性を有する基材フィルムとを積層したときには、水圧転写用シートを水面に浮かべる前に前記水浸透性を有する基材を水溶性もしくは水膨潤性を有する基材フィルムから分離させるか、又は水面に浮かべた後の水の作用によって水溶性もしくは水膨潤性を有する基材フィルムから前記水浸透性を有する基材が分離するように構成しておくことが好ましい。
【0027】
[水圧転写フィルム:印刷層]
本発明で用いる水圧転写フィルムは、転写用の印刷層を有し、該印刷層を形成するためのインキとしては、従来公知のものを適宜選択して用いることができ、例えばチタン白、アンチモン白、鉛白、鉄黒、黄鉛、チタンイエロー、朱、カドミウムレッド、群青、コバルトブルー、パール顔料、アルミペースト等のシルバー顔料などの無機顔料;カーボブラック(墨インキ)、ベンジジンイエロー、イソインドリノンイエロー、ポリアゾレッド、キナクリドンレッド、インダスレンブルー、フタロシアニンブルー等の有機顔料を用いることができる。
【0028】
また、インキに含有されるビヒクルとしては特に制限はなく、例えば、アマニ油、大豆油、合成乾性油等の各種の油脂類;ロジン、硬化ロジン、ロジンエステル、重合ロジン等の天然樹脂;フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、石油樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、アミノアルキッド樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂;ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロース等の繊維素誘導体;塩化ゴム、環化ゴム等のゴム誘導体;その他カゼイン、デキストリン、ゼイン等を挙げることができる。これらのうち、ニトロセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂、エチルセルロース等の繊維素誘導体であることが好ましく、なかでもニトロセルロース及び/又はエチルセルロースであることが好ましい。
【0029】
また、該インキには、紫外線吸収剤や光安定剤を添加することが好ましく、被転写体の被転写面に転写される印刷層の耐候性を高めることができる。
紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル等の有機系化合物や、粒径0.2μm以下の微粒子状の酸化亜鉛、酸化セリウム等の無機質系化合物が挙げられ、また、光安定剤としては、例えばビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、ピペリジン系ラジカル捕捉剤等のラジカル捕捉剤などを挙げることができる。
なお、これら紫外線吸収剤や光安定剤の含有量は、それぞれ0.5〜10質量%程度である。
【0030】
インキに含有される溶剤としては、特に制限はなく、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等、あるいはこれらの混合液であるガソリン、石油、ベンジン、ミネラルスピリット、石油ナフサ等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;トリクロルエチレン、パークロルエチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等の一価のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチレングリコール・モノ・メチルエーテル、エチレングリコール・モノ・エチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・メチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・エチルエーテル、ジエチレングリコール・モノ・ブチルエーテル、ジエチレングリコール・ジ・ブチルエーテル、プロピレングリコール・モノ・ブチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、エチレングリコール・モノ・メチルエーテル・アセテート、エチレングリコール・モノ・エチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・メチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・エチルエーテル・アセテート、ジエチレングリコール・モノ・ブチルエーテル・アセテート等の酢酸エステル類;酪酸エステル等のエステル類;セロソルブ;ニトロ炭化水素類;ニトリル類;アミン類;その他アセタール類;酸類;フラン類等が挙げられる。これらのうち、環境等を考慮すると、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素は用いないことが好ましく、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、セロソルブ、シクロヘキサノン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコール・モノ・ブチルエーテル、及びプロピレングリコールなどを用いることが、活性剤組成物との溶解性等の観点から好ましい。なお、これらの溶剤は1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
転写用の印刷層を形成する方法としては特に限定されないが、グラビア印刷によって形成されることが多い。
グラビア印刷方法においては、基材の一方の面に、グラビア印刷により、重ね刷りが行われ、絵柄層2層以上を有する印刷層が形成される。この重ね刷りにおいては、例えばカラー写真などを印刷する場合、通常3〜7回重ね刷りするのが一般的である。4色刷りでは、例えばC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)及びK(黒)が一般に用いられる。
【0032】
各絵柄層の厚さに特に制限はないが、通常0.1〜10μm程度、好ましくは0.5〜5μmである。
また、各絵柄層を形成するインキの塗布量は、各絵柄層の厚みが上記の範囲内にあれば特に制限はなく、0.5〜1.5g/m2であることが好ましく、0.7〜1.4g/m2であることがより好ましい。
【0033】
[活性剤組成物]
活性剤組成物は、水圧転写フィルム上の印刷層に塗布することで、適度に印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる(活性化させる)ものであり、被転写体に印刷物が転写されるまでその状態を維持することができるものである。
本発明で用いる活性剤組成物は、インキ溶解性試験によるインキ溶解性が20%以上であり、ABS樹脂溶解性試験によるABS溶解性が0.001〜0.05gである化合物を含有するものである。これにより、水圧転写フィルムを被転写体の被転写面に密着させる際に良好な密着性を得ることができ、柄流れ、柄割れ、及びピンホールが極めて少ない意匠性の高い水圧転写加飾成型品を得ることができる。このような観点から、インキ溶解性は70%以上が好ましく、ABS樹脂溶解性は0.001〜0.005gであることが好ましい。
また、活性剤組成物中の該化合物の含有量は、1〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。上記範囲内にあれば、柄流れ、柄割れ、及び表面凹凸性が生じることなく、水圧転写加飾成型品の意匠を著しく低下させることがない。
【0034】
化合物としては、インキ溶解性試験によるインキ溶解性が20%以上であり、ABS樹脂溶解性試験によるABS溶解性が0.001〜0.05gであれば、特に制限なく用いることができる。このような化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、シュウ酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソオクチルなどのエステル類;メトキシブチルアセテート、エトキシブチルアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテートなどのアセチレングリコール誘導体;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;などが挙げられる。化合物は、上記のようなエステル類、アセチレングリコール誘導体、及びケトン類を単独で、又は複数を混合して用いることができる。
【0035】
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、シュウ酸ジブチル、及びフタル酸ジメチルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
アセチレングリコール誘導体としては、メトキシブチルアセテート及び/又はブチルカルビトールアセテートであることが好ましい。
また、ケトン類としては、ジイソブチルケトン及び/又はメチルイソブチルケトンであることが好ましい。
【0036】
本発明で用いる活性剤組成物は、さらに1価アルコールを含有することが好ましく、その含有量は、60〜90質量%が好ましく、60〜85質量%がより好ましい。
アルコール類としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、2−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ブチルアルコールなどが挙げられ、これらを単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちイソプロピルアルコール及び/又はイソブチルアルコールであることが好ましい。
【0037】
本発明で用いる活性剤組成物には、脂肪族炭化水素、エーテル類を含有することができる。
脂肪族炭化水素としては、ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、オクタン、イソオクタンなどが挙げられる。
エーテル類としては、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソアミルセロソルブなどが挙げられ、なかでもブチルセロソルブが好ましい。
【0038】
また、本発明で用いる活性剤組成物には、例えば下記の樹脂を化合物に対して1〜20質量%程度添加することができる。この樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル重合体;ポリスチレンやポリスチレン誘導体等のスチレン系重合体;ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル重合体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸又はフマル酸等の不飽和カルボン酸類のエステル誘導体の重合体;同ニトリル誘導体又は同酸アミド誘導体の重合体;上記の不飽和カルボン酸類の酸アミド誘導体のN−メチロール誘導体及び同N−アルキルメチロールエーテル誘導体、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、2−ヒドロキシエチル−(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル−(メタ)アクリレート、エチレングリコール−モノ(メタ)アクリレート等の単量体の、単独又は共重合体等からなる熱可塑性樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエステル系樹脂;フェノール系樹脂;メラミン系樹脂;尿素樹脂;エポキシ系樹脂;フタル酸ジアリル系樹脂;ケイ素樹脂;ポリウレタン系樹脂等の熱硬化性樹脂又はそれらの変性樹脂もしくは初期縮合物、あるいは、天然樹脂、ロジン及びその誘導体、ニトロセルロース等のセルロース誘導体、天然又は合成ゴム、石油樹脂、セルロースアセテートブチレート(CAB)、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、アルキッド樹脂等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた活性剤組成物、転写用印刷物及び水圧転写成型品について以下に示す性能評価を行った。
(1)活性剤組成物のレベリング性
水圧転写フィルムの印刷層側の表面に活性剤組成物を0.1ml滴下し(高さ1cmより)、15秒後、及び30秒後の該活性剤組成物の直径を計測し、その差について以下の基準で評価した。その差が大きいほど、レベリング性が良好であることを示し、より少ない活性剤組成物により印刷層のインキが十分に活性化されること、より均一な膜とすることにより、印刷層のインキが意匠性を保持した状態で良好な活性化が得られることを示す。
○ :差が3.0mm以上である
△ :差が1.5mm以上3.0mm未満である(実用上問題ない)
× :差が1.5mm未満である
【0040】
(2)活性剤組成物の揮発性
25℃において、水圧転写フィルム(10cm×10cm)の印刷層側を上にして、ディスポカップ内に静置した。該水圧転写フィルム上に活性剤組成物を0.3ml滴下し(高さ1cmより)、滴下する前後の質量を測定した。その差が大きいほど、転写後の柄流れ、柄割れ等が生じにくいことを示す。
○ :滴下後60秒後の差が0.003g以上である
△ :滴下後60秒後の差が0.001以上0.003g未満である(実用上問題ない)
× :滴下後60秒後の差が0.001g未満である
【0041】
(3)ABS樹脂溶解性試験
25℃において、ABS樹脂板(1cm×1cm)を質量測定した後、活性剤組成物100g中に浸漬し、1時間後ABS樹脂板を取り出しガーゼで拭取り乾燥させた後、質量を測定し、その差について以下の基準で評価した。その差が大きいほど、一定時間におけるABS樹脂板の活性剤組成物への溶解量が多いので、被転写体と水圧転写フィルムの印刷層との密着性が向上することを示すが、溶解性が高すぎると、柄流れ、柄割れ等が生じ、意匠性が低下する。
○ :質量差が0.001〜0.005g(ABS樹脂板が白化する)
△ :質量差が0.005〜0.05g(ABS樹脂板の一部が溶解するが、該樹脂板の表面の平滑性は損なわれていないので、実用上問題ない)
× :質量差0.05g超(ABS樹脂板が溶解し、該樹脂板の表面の平滑性が損なわれる)
【0042】
(4)インキ溶解性試験
…検討の結果、従来の○△×の三段階の評価とし、△を実用上問題ないとする評価基準に変更いたします。審査段階に入った場合の補正等による対応を考慮したものです。
25℃において、水圧転写フィルムの印刷層側に、活性剤組成物をミヤバーコート法にて塗布し、15、30、及び60秒後に100gの荷重でガーゼで拭取り、印刷層を構成するインキがとれた面積の比率の15、30、及び60秒の3点の平均値を測定し、その差について以下の基準で評価した。その差が大きいほど、一定時間における印刷層を構成するインキの活性剤組成物への溶解量が多いので、被転写体と水圧転写フィルムの印刷層との密着性が向上することを示す。
○ :インキがとれた面積が全体の70%以上
△ :インキがとれた面積が全体の20〜70%未満(転写は可能であり、実用上問題ない)
× :インキがとれた面積が全体の20%未満(転写不良)
【0043】
(5)水圧転写フィルム活性後の状態
水圧転写フィルムの印刷層に、各実施例及び比較例で調製した活性剤組成物を塗布し、絵柄の状態を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;均一に絵柄が伸長し、柄のゆがみ及び柄ぼけがない。
△ ;一部にクラック又は亀裂が発生し、部分的な伸長となる。
× ;全体的に絵柄が割れて意匠性が損なわれる。
【0044】
(6)転写状態
活性化された絵柄を被転写体に転写した後の絵柄の転写状態を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;均一に絵柄が転写されており、柄の曲がりがない。
△ ;一部柄の曲がりが生じている。
× ;基材の一部にはじき等による絵柄が転写されていない部分がある。
【0045】
(7)初期密着性
被転写体に絵柄が転写された初期状態において、シャワーにより水圧をかけた際の絵柄の状態を目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;水圧に対して絵柄のくずれがなく、転写された状態を維持している。
△ ;若干柄がくずれる部分が存在する。
× ;絵柄がくずれ意匠性が損なわれる。
【0046】
(8)ピンホール
転写時、水洗時にエアーがみ、溶剤揮発によるピンホールが認められ、絵柄が転写されず基材が見える状態であるか否かについて目視で評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;ピンホールなし。
△ ;ピンホールが若干見られたが実用上は問題ない程度である。
× ;絵柄全体にピンホールが発生した。
【0047】
(9)柄割れ
被転写体に絵柄を転写した後、活性剤組成物による印刷層の溶解の度合いの違いにより、柄に亀裂や細かく割れたような状態(柄割れ)について評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;柄割れがない。
△ ;一部に柄の割れがある。
× ;全体的に細かい柄の割れ、亀裂があり意匠再現性がない。
【0048】
(10)柄流れ
被転写体に絵柄を転写した後、活性剤組成物による印刷層の溶解の度合いの違いにより、柄が基材からずれたり曲がった状態(柄流れ)について評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;柄流れがない。
△ ;一部に柄のゆがみがある。
× ;全体的に柄流れが生じ、意匠再現性がない。
【0049】
(11)付きまわり性
被転写体の曲面部分において、曲面に沿って絵柄が転写されているかを目視にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;柄の切れ目がなく、曲面に沿って転写されている。
△ ;柄の伸びが若干不均一であるが、実用上は問題ない程度である。
× ;柄割れがあり、意匠性を損なうものである。
【0050】
(12)ユズ肌、表面凹凸性
被転写体に転写し、乾燥した後の表面の平滑性を目視及び触感により評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;鏡面となり、滑らかな面となっている。
△ ;一部マット状になり若干の凹凸が存在するが、実用上は問題ない程度である。
× ;全面に凹凸がありざらつく。
【0051】
(13)外観
被転写体に転写し、乾燥し、透明保護層を設けた後の被転写体に対して、意匠性を柄と伸びを考慮して目視にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
○ ;意匠性が良好である。
△ ;意匠性に一部不具合がある。
× ;全体的に意匠性が損なわれている。
【0052】
実施例1〜8、比較例1〜4
(1)水圧転写フィルムの作製
水溶性フィルムとして、PVAフィルム[東セロ(株)製、「トスロン」、厚さ30μm]を用い、その片面に電動式グラビア印刷機にて、グラビアインキ(大日本インキ化学工業(株)、「GTカラー」)を用いて、塗布量0.75g/m2で重ね刷りにより図1に示すように第1絵柄層〜第4絵柄層からなる厚さ2μmの印刷層(木目模様)を設けることにより水圧転写フィルムを作製した。
なお、インキの塗布量は、インキの塗布前後の質量を測定し、その差とした。
【0053】
(2)活性剤組成物の調製
第1表に示す成分、及び含有量となるように各成分を混合して活性剤組成物を調製した。
【0054】
(3)水圧転写加飾成型品の作製
上記(1)で得た水圧転写フィルムを図2のように、水温30℃の水面W上にこの転写用印刷物10’をその基材フィルム1’側が水面側を向く様にして浮遊させた。2分経過後に(2)で調製した活性剤組成物をスプレーコート法により塗布量15.2g/m2で塗工した。15秒経過後、基材フィルム1’が膨潤状態となった後に、ABS樹脂製成型体の被転写体7を、水圧転写フィルム10’の上方から押入れて、被転写体7の被転写面8に水圧転写フィルム10’を延展させ密着させた。この後、該水圧転写フィルムが表面に延展し密着した被転写体を水中から引出した。次に、脱基材フィルムの工程(上記工程(C))として、該被転写体に40℃の温水シャワーを1分間噴射した後、さらに清水シャワーを噴射して、被転写体上に付着している該水圧転写フィルムの基材フィルムを除去した。次いで、被転写体を乾燥して、印刷層が被転写体に転写された転写物品を得た。
次いで、転写物品の印刷層の表面に、透明保護層として厚さ10μmのアクリル系樹脂層を形成して、水圧転写加飾成型品を作製した。
なお、活性剤組成物の塗布量は、別に200×400mmの紙を用意して、各例と同じ条件で活性剤組成物を塗布した際の、塗布前の紙の質量と、塗布後10秒以内の質量とを測定し、その質量の差とする。
上記方法にて評価した結果を第2表に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の水圧転写方法は、少ない活性剤組成物で十分な印刷層の活性化状態が得られ、被転写体の外観に、柄流れ、柄割れ及びピンホールが極めて少ない高い意匠性及び意匠再現性を付与した水圧転写加飾成型品を提供することができる。本発明の水圧転写加飾成型品は、自動車内装材、建材、家具類、電気製品のハウジング等として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】水圧転写フィルムの構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の水圧転写法で成型品を製造する際の一工程を概念的に示す説 明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 基材フィルム
1’ 基材フィルム
2 第1の絵柄層
3 第2の絵柄層
4 第3の絵柄層
5 第4の絵柄層
6 印刷層
6’ 活性剤含有印刷層
7 被転写体
8 被転写面
10 印刷物
10’転写用印刷物(水圧転写フィルム)
W 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと印刷層とからなる水圧転写フィルムを用い、該水圧転写フィルムを、基材フィルム側が水面側に向くように水面に浮遊させて印刷層を被転写体に転写する水圧転写方法であって、該水圧転写用フィルムを水面に浮遊させる前又は後に、印刷層に活性剤組成物を塗布し、該印刷層の少なくとも一部を溶解又は膨潤して軟化させる活性化工程(工程(A))と、工程(A)を経た水圧転写フィルム上に被転写体を押圧し、水圧によって該水圧転写フィルムを被転写面に密着させる工程(工程(B))とを有し、該活性剤組成物が、下記のインキ溶解性試験によるインキ溶解性が20%以上であり、かつ下記のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)溶解性試験によるABS溶解性が0.001〜0.05gである化合物を含有する水圧転写方法。
インキ溶解性試験;
インキ溶解性試験は、25℃において、水圧転写フィルムの印刷層側に、活性剤組成物をミヤバーコート法にて塗布し、15、30、及び60秒後に100gの荷重でガーゼで拭取る試験であり、印刷層を構成するインキがとれた面積の比率の15、30、及び60秒の3点の平均値をインキ溶解性とする。
ABS樹脂溶解性試験;
ABS溶解性試験は、25℃において、ABS樹脂板(1cm×1cm)を活性剤組成物100gに浸漬し、1時間後に該ABS樹脂板を取り出して、ガーゼで拭取り乾燥させる試験であり、試験前後のABS樹脂板の質量差をABS溶解性とする。
【請求項2】
活性剤組成物中の化合物の含有量が、1〜30質量%である請求項1に記載の水圧転写方法。
【請求項3】
化合物が、エステル類、アセチレングリコール誘導体、及びケトン類から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の水圧転写方法。
【請求項4】
エステル類が、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、シュウ酸ジブチル、及びフタル酸ジメチルから選ばれる少なくとも1種である請求項3に記載の水圧転写方法。
【請求項5】
アセチレングリコール誘導体が、メトキシブチルアセテート及び/又はブチルカルビトールアセテートである請求項3又は4に記載の水圧転写方法。
【請求項6】
ケトン類が、ジイソブチルケトン及び/又はメチルイソブチルケトンである請求項3〜5のいずれかに記載の水圧転写方法。
【請求項7】
活性剤組成物が、さらに1価アルコールを含む請求項1〜6のいずれかに記載の水圧転写方法。
【請求項8】
1価アルコールが、イソプロピルアルコール及び/又はイソブチルアルコールである請求項7に記載の水圧転写方法。
【請求項9】
印刷層をなすインキが、繊維素誘導体を含有する請求項1〜8のいずれかに記載の水圧転写方法。
【請求項10】
繊維素誘導体が、ニトロセルロース及び/又はエチルセルロースである請求項9に記載の水圧転写方法。
【請求項11】
被転写体がアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、及びポリプロピレンから選ばれる少なくとも1種からなる構造体である請求項1〜10のいずれかに記載の水圧転写方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかの水圧転写方法により得られる水圧転写加飾成型品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−247009(P2008−247009A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95113(P2007−95113)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】