説明

水圧転写用マスキング材及びそれを使用した水圧転写用マスキング方法

【課題】 外観不良の発生を抑制することができるとともに、マスキングに係る作業の簡易化を図ることができる水圧転写用マスキング材及びそれを使用した水圧転写用マスキング方法を提供する。
【解決手段】 パネル部2と、壁部3と、孔部5と、を有する所定形状に成形された被転写体1に対し、少なくともパネル部2の外面と壁部3の外面とを装飾面Dとして、装飾面Dに水圧転写によって転写層10を転写する際に使用する水圧転写用マスキング材11であり、パネル部2の内面の少なくとも一部を覆うように形成されたベース部12と、該ベース部12の周縁から壁部3の内面に沿うように差し出されるとともに壁部3の端縁を越えて装飾面外へ突出するように形成された第1堤防部13と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネル、コンソールパネル、センターパネル、センターコンソールパネル、ドアトリム等のような自動車用内装材、あるいは電化製品の各種パネル部品やハンドルやスイッチ等のような電化製品用部品、あるいは小物入れ、収納箱、文具等のような日常で使用する道具、などといった被転写体を木目調、大理石調、カーボンパネル調等の意匠に装飾する水圧転写に用いる水圧転写用マスキング材及びそれを使用した水圧転写用マスキング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、上記被転写体に上記のような意匠を施して高級感等を付与する方法として水圧転写が採用されている。該水圧転写では、水等の処理液に溶解するベースフィルムの表面に、例えば木目調であれば柾目模様、大理石調であれば石目模様、カーボンパネル調であれば織目模様等のような各種模様の転写層を印刷した転写フィルムを用いる。そして処理槽内に満たされた処理液の液面に該転写フィルムを、ベースフィルムが裏側、転写層が表側となるように浮かべ、該ベースフィルムを処理液に溶解させることにより、該転写層のみを処理液の液面に浮遊させておき、上記被転写体をその装飾面から該液面に浸るように該処理液に浸漬することで、該転写層を該装飾面に転写する。
ここで上記水圧転写では、装飾面と転写層との間に空気が入らないように被転写体を斜めに傾けた状態でゆっくりと処理液中に沈めることで、処理液中に沈める際に該被転写体に加わる水圧で該転写層を該装飾面に押し付けて転写している。このように被転写体を処理液中に沈めていく過程で、被転写体の裏側へ流れ込んだ処理液が表側の装飾面へ回り込むと、該被転写体の表面における処理液の流れが乱れて水圧が加わりにくくなり、特に孔部が設けられている被転写体の場合は、該孔部からも処理液が被転写体の裏側へ流れ込み、該裏側から表側の装飾面へ回り込む処理液の勢いが増すことで、該転写層を該装飾面に押し付けることができる程度に十分な水圧が加わらなくなり、さらには装飾面へ回り込んだ該処理液の勢いで該転写層が該装飾面上から流されてしまい、外観不良が頻繁に発生していた。
そこで従来は、被転写体の必要箇所にウレタン発泡体やマスキングテープ等のマスキング材を貼り付けることで、装飾面への処理液の流れを堰き止めていた。また、こうしたマスキング材は、上記転写層の必要でない箇所への転写や、上記転写フィルムの余剰部分による外観不良の発生を防止する機能も有している(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−234299号公報
【特許文献2】特開2006−123461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来のウレタン発泡体やマスキングテープ等といったマスキング材を使用する水圧転写では、処理液の流れを不用意に堰き止めると却って外観不良が頻出してしまうことになるため、マスキング材を貼り付けるための最適な箇所を正確に選択する必要がある。また処理液の流れによって該マスキング材が剥がれないように、該マスキング材を被転写体の複数箇所にしっかりと貼り付ける必要がある。さらにこうしたマスキング材は、貼り付けた痕跡が残ると外観不良になってしまうため、水圧転写後にきれいに剥がす必要がある。加えて、剥がしたマスキング材は粘着力が低下してしまうので再利用できず、水圧転写を行う都度、新しいマスキング材を一から貼り付ける必要がある。このため、マスキング材の貼り付けや剥がしに係る作業が非常に煩雑で長時間を要してしまうものとなっていた。
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、外観不良の発生を抑制することができるとともに、マスキングに係る作業の簡易化を図ることができる水圧転写用マスキング材及びそれを使用した水圧転写用マスキング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の水圧転写用マスキング材の発明は、略板状のパネル部2と、該パネル部2の周縁から立ち上がる壁部3と、該パネル部2に形成された孔部5と、を有する所定形状に成形された被転写体に対し、少なくとも上記パネル部2の外面と上記壁部3の外面とを装飾面Dとして、該装飾面Dに水圧転写によって転写層10を転写する際に使用する水圧転写用マスキング材11であって、上記パネル部2の内面の少なくとも一部を覆うように形成されたベース部12と、該ベース部12の周縁から上記壁部3の内面に沿うように差し出されるとともに上記壁部3の端縁を越えて装飾面外へ突出するように形成された堤防部13と、を有していることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水圧転写用マスキング材の発明において、樹脂シートを真空・圧空成形することによって得られたものであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の水圧転写用マスキング材の発明において、上記ベース部12と上記堤防部13とが一体的につながっているとともに、上記堤防部13が上記壁部3の端縁を越えて、さらに上記被転写体の外側へ横方向に突出するように形成されていることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3の何れか1項に記載の水圧転写用マスキング材の発明において、上記被転写体は、上記パネル部2の内面で上記孔部5の周縁から立ち上がる周壁6を有しているものであり、上記ベース部12上から上記周壁6の外周面に沿うように差し出されるとともに上記周壁6の端縁を越えて装飾面外へ突出するように形成された第2の堤防部16を有していることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の水圧転写用マスキング材の発明において、上記ベース部12と上記第2の堤防部16とが一体的につながっているとともに、上記第2の堤防部16が上記周壁6の端縁を越えて、さらに上記被転写体の上記孔部5の内側へ横方向に突出するように形成されていることを要旨とする。
請求項6に記載の水圧転写用マスキング方法の発明は、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の水圧転写用マスキング材を使用した水圧転写用マスキング方法であって、処理槽B内に満たされた処理液Wの液面に転写フィルムを浮かべて該転写フィルムの転写層10を該液面Sに浮遊させておき、上記水圧転写用マスキング材11が装着された上記被転写体を、その装飾面Dから液面Sに浸るように上記処理液Wに浸漬し、該液面Sに浮遊する上記転写層10を該装飾面Dに押し付けて転写するとともに、上記被転写体の上記処理液Wへの浸漬に際して上記パネル部2の内面へ流れ込んだ処理液Wを、上記ベース部12から上記堤防部13を経由して上記装飾面Dへ回り込ませることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
上記発明によれば、水圧転写用マスキング材11は、ベース部12と、堤防部13と、を有しており、該堤防部13が該ベース部12の周縁から被転写体の装飾面D以外の面である壁部3の内面に沿うように差し出されている。このため、該水圧転写用マスキング材11は、被転写体の装飾面D以外の面であるパネル部2の内面を該ベース部12で覆いつつ、該堤防部13を該壁部3の内面に沿わせるように、装飾面D側を表側として該被転写体の裏側に被せることで、該被転写体に簡単かつ極僅かな時間で装着される。加えて該水圧転写用マスキング材11は、該被転写体の裏側に被せるのみで装着可能であり、接着や貼着等されていないので、該被転写体からの取り外しも簡単かつ極僅かな時間で行われ、再利用も可能である。
さらに上記堤防部13は上記壁部3の端縁を越えて装飾面外へ突出しているため、処理液W中への浸漬時に被転写体の裏側、特にパネル部2の内面に流れ込んだ処理液Wは、上記ベース部12から上記堤防部13を経由して上記装飾面Dへ回り込む。従って、上記堤防部13を経由する分、被転写体の裏側に流れ込んだ処理液W、なかでも孔部5から勢いよく流れ込んだ処理液Wの装飾面Dへの到達を遅らせることが可能であり、該処理液Wが装飾面Dへ到達するまでの時間で転写層10は装飾面Dに十分に押し付けられて転写される。加えて上記堤防部13は、処理液Wの装飾面Dへの到達を遅らせるために設けられたものであり、処理液Wを堰き止めるために設けられたものではなく、処理液Wの流れが乱れることによる外観不良が発生しにくい。なお装飾面Dに転写されなかった転写層10の余剰部分は、上記堤防部13の壁部3からの突出部分に付着するので、該余剰部分による外観不良の発生が抑制される。
【0007】
また上記水圧転写用マスキング材11は、樹脂シートを真空・圧空成形することで簡易かつ大量に形成することができるようになる。
また上記水圧転写用マスキング材11は、上記堤防部13をさらに上記被転写体の外側へ横方向に突出させることで、処理液Wへの浸漬時に被転写体に適度な抵抗が付加されて装飾面Dの特に周縁部分に水圧が好適に加わるので、外観不良の発生を効果的に抑制することが可能となる。
また上記被転写体が上記パネル部2の内面で上記孔部5の周縁から立ち上がる周壁6を有している場合、ベース部12上から上記周壁6の外周面に沿うように差し出された第2の堤防部16を設け、さらに該第2の堤防部16を上記周壁の端縁を越えて装飾面外へ突出させることにより、被転写体に水圧転写用マスキング材11をさらにしっかりと装着することができるとともに、上記第2の堤防部16を経由する分だけ孔部5から流れ込もうとする処理液Wのパネル部2の内面への到達を遅らせることが可能となる。
また上記第2の堤防部16が上記孔部5の内側へ突出しているので、該孔部5の径が絞られ、該孔部5から被転写体の裏側へ流れ込む処理液Wの流量を減らすことができる。
【0008】
〔効果〕
本発明の水圧転写用マスキング材及びそれを使用した水圧転写用マスキング方法によれば、被転写体の裏側から装飾面Dへの処理液Wの到達を遅らせる堤防部13を設けたことにより、転写不良の発生を抑制することができるとともに、被転写体の裏側にはめ込むのみで水圧転写用マスキング材11を装着できるので、マスキングに係る作業の簡易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態の被転写体を示す(a)は装飾面側から見た斜視図、(b)は裏側から見た斜視図。
【図2】実施形態の水圧転写用マスキング材を示す(a)は斜視図、(b)は被転写体に装着した状態の斜視図。
【図3】(a)は被転写体に水圧転写を施す状態を示す概略図、(b)は被転写体に水圧転写を施している状態を示す概略図。
【図4】(a)は実施形態の水圧転写用マスキング方法における処理液の流れを示す概念図、(b)は通常の水圧転写における処理液の流れを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を具体化した一実施形態について説明する。
まず、水圧転写用マスキング材の使用対象となる被転写体について説明する。
図1(a),(b)に示すように、被転写体として自動車用内装材であるセンターコンソールパネル1は、略縦長四角板状のパネル部2と、該パネル部2の周縁である両側縁から立ち上がる三角形板状の壁部3と、を有している。また該パネル部2の上縁には、上方向に立ち上がる立板部4が形成されている。該パネル部2には、2つの孔部5が貫通形成されており、またセンターコンソールパネル1の裏側で該パネル部2の内面において、各孔部5の周縁からは周壁6がそれぞれ立設されている。さらに該パネル部2の内面上には、自動車内の所定個所にセンターコンソールパネル1を取り付けて固定するための4つのピン7が突設されており、該ピン7及び上記周壁6によって該パネル部2の内面は凹凸状に形成されている。
上記センターコンソールパネル1は意匠性を向上させるべく、その表側で上記パネル部2の外面と、上記壁部3の外面と、上記立板部4の外面と、を装飾面Dとして、該装飾面Dに例えば柾目模様、石目模様、織目模様等のような模様をなす転写層10が転写される(図3(b)及び図4(a)参照)。また周壁6の内周面は、上記パネル部2の外面との境界部分を除き、転写層10の転写の可否を問わない領域であるが、本実施形態では該周壁6の内周面も装飾面Dに含むものとする。そして該転写層10の転写は、水圧転写によって行われる。
なお本実施形態では自動車用内装材の一例としてセンターコンソールパネル1を挙げたが、これに限らずインストルメントパネル、コンソールパネル、センターパネル、センタークラスターパネル、グローブボックス、ドアトリム、ドアハンドル等に本発明を適用してもよい。また被転写体は、自動車用内装材に限らず、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器、マッサージチェア、パーソナルコンピューター等の電化製品に使用される各種パネル部品やハンドルやスイッチ等のような電化製品用部品、あるいは灰皿、小物入れ、収納箱、文具等のような日常で使用する道具、などであってもよい。
【0011】
上記水圧転写について説明する。
図3(a)に示すように、水圧転写を施す際には、処理槽Bの内部に処理液である水Wを満たし、液面である水面Sに転写フィルムを浮かべることにより、該転写フィルムの転写層10を水面Sに浮遊させる。
上記転写フィルムは、処理液に対して可溶性の樹脂からなるベースフィルムと、該ベースフィルム上に形成された転写層10と、からなる。
一般に上記ベースフィルムには、例えばPVA(ポリビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、ポリアクリルアミド、アセチルブチルセルロース、ゼラチン、にかわ、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の水溶性または水膨潤性の樹脂が使用される。上記転写層10は、処理液に対して不溶性の樹脂からなるベース上にインクや塗料で上記のような模様を描いてなるものであり、塗布や印刷によって上記ベースフィルムの表面に形成されている。
上記のように水面Sに転写フィルムを、ベースフィルムが裏側に転写層10を表側にして浮かべると、該転写フィルムのベースフィルムが水Wに溶解するので、該水面Sには転写層10のみが浮遊する状態となる。そして該転写層10に、例えばトルエンやキシレン等といった有機溶剤を活性剤として噴霧すると、該転写層10は活性化されて粘着性、接着性を付与される。
上記センターコンソールパネル1は、上記処理槽Bの上方位置に配設された治具Jに対し、その表側の装飾面Dが水面Sに向くようにして固定される。該治具Jは、該処理槽Bに対して上昇及び下降自在に構成されているとともに、水面Sに対して該センターコンソールパネル1の角度を変更できるように回動自在に構成されている。
該センターコンソールパネル1は、該治具Jの回動によって水面Sに対して斜めに傾けた状態とされたうえで、該治具Jがゆっくりと下降することにより、装飾面Dから水面Sに浸るように水Wに浸漬され、その全体が没するまで水中に沈められる。該センターコンソールパネル1が水中に沈められる過程で、水面Sに浮遊する転写層10は、該センターコンソールパネル1に加わる水圧によって装飾面Dに押し付けられ、その粘着性、接着性によって装飾面Dに転写される。また該センターコンソールパネル1は、その全体が水中に沈められ、装飾面Dの全体に転写層10が転写された後、該治具Jが回動しつつ上昇することにより、水中から引き揚げられる。
【0012】
上記水圧転写において上記センターコンソールパネル1が水中に沈められる際、該センターコンソールパネル1の裏側で上記パネル部2の内面上にも水Wが流れ込み、この流れ込んだ水Wは、装飾面Dに回り込む。また該センターコンソールパネル1には上記したように孔部5が設けられているので、該孔部5からパネル部2の内面上に勢いよく流れ込んだ水Wは、その勢いをほぼ維持したまま装飾面Dに回り込むことで、上記壁部3の縁部(図1(a)中で下縁部)に上記転写層10が転写されるのに十分な水圧が加わることを阻害し、転写不良を起こす。そこで、上記水圧転写に際して上記センターコンソールパネル1に水圧転写用マスキング材11を装着することにより、転写不良を防止している。
【0013】
上記水圧転写用マスキング材11について説明する。
図2(a),(b)に示すように、水圧転写用マスキング材11は、ベース部12と、該ベース部12の周縁から延設された第1堤防部13と、を有している。
上記ベース部12は、上記センターコンソールパネル1のパネル部2の内面を覆うことができるように、平面視で略縦長四角板状に形成されている。該ベース部12上には、上記センターコンソールパネル1の各孔部5及び各周壁6と対応する箇所に第2堤防部16がそれぞれ立設されているとともに、上記センターコンソールパネル1の各ピン7と対応する箇所に袋状の収容部17がそれぞれ凸設されている。従って該ベース部12は、第2堤防部16や収容部17が設けられることにより、上記パネル部2の内面形状に対応する凹凸状に形成されている。
上記第1堤防部13は、上記ベース部12の周縁から差し出された立壁部13Aと、該立壁部13Aの端縁部分から延設された突出部13Bと、からなる。上記立壁部13Aは、上記センターコンソールパネル1の壁部3の内面に沿うように差し出され、その端縁部分が該壁部3の端縁に達するように形成されている(図2(b)及び図4(a)参照)。上記突出部13Bは、上記立壁部13Aの端縁部分から延設されることにより、上記壁部3の端縁を越え、装飾面外である上記センターコンソールパネル1の外側へ横方向に突出するように形成されている(図2(b)及び図4(a)参照)。
上記第2堤防部16は、該ベース部12上から差し出された枠壁部16Aと、該枠壁部16Aの端縁部分から延設された枠蓋部16Bと、からなる。上記枠壁部16Aは、上記センターコンソールパネル1の周壁6の外周面に沿うように差し出され、その端縁部分が該周壁6の端縁に達するように形成されている(図2(b)参照)。上記枠蓋部16Bは、上記枠壁部16Aの端縁部分から延設されることにより、上記周壁6の端縁を越え、装飾面外である上記センターコンソールパネル1の孔部5の内側へ横方向に突出するように形成されている(図2(b)参照)。また該枠蓋部16Bは、その中央に開口15を有し、該開口15が上記孔部5と通ずるようになっており、上記孔部5を塞ぐことなくその径を絞るようになっている。
【0014】
上記水圧転写用マスキング材11は、樹脂シートを真空・圧空成形することで形成されており、上記ベース部12と上記第1堤防部13とが一体的につながっており、さらに上記ベース部12と上記第2堤防部16とが一体的につながっている。また水圧転写の際、上記転写層10が転写された上記センターコンソールパネル1の装飾面Dに該転写層10の余剰部分が付着する可能性があり、また水圧転写後は上記センターコンソールパネル1にクリア塗装等の塗装が施される場合があるため、水圧転写用マスキング材11に使用する樹脂シートの材料には、転写層10や塗料の付着力が高いものを用いるのが望ましい。
上記樹脂シートの材料として用いる合成樹脂であって、上記したような転写層10や塗料の付着性を満たすものとしては、エンジニアリングプラスチック又は該エンジニアリングプラスチックと他の合成樹脂とのポリマーアロイが挙げられる。
エンジニアリングプラスチックとしては、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミノビスマレイミド、メチルペンテンコポリマー(TPX)、セルロースアセテート(CA)等の熱可塑タイプ、ポリアリルエーテル等の液晶タイプ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂等の圧縮成形タイプ、アモルファスポリマー、ポリアミノビスマレイミド、ビスマレイミド−トリアジン系熱硬化型芳香族ポリイミド等が挙げられ、これらが一種のみ、あるいは二種以上が混合されて使用される。
ポリマーアロイとしては、PPO−ハイインパクトポリスチレンポリマーアロイ、PPO−ポリアミド−ハイインパクトポリスチレンポリマーアロイ、PPO−ポリアミド−ポリスチレンポリマーアロイ、PPO−ポリアミドポリマーアロイ、PPO−PTFEポリマーアロイ、PE−ハイインパクトポリスチレンポリマーアロイ、PE−ポリアミドポリマーアロイ、ポリアミド−変性ポリオレフィンポリマーアロイ、ポリアミド−アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体(ABS)ポリマーアロイ、ポリアミド−PTFEポリマーアロイ、PBT−アクリルゴムポリマーアロイ、PBT−ABSポリマーアロイ、PBT−ポリエステルエーテルエラストマーポリマーアロイ、PBT−PETポリマーアロイ、PBT−PCポリマーアロイ、PBT−PTFEポリマーアロイ、PET−PTFEポリマーアロイ、PET−PARポリマーアロイ、PC−PTFEポリマーアロイ、PAR−PTFEポリマーアロイ、POM−熱可塑性ポリウレタンポリマーアロイ等が挙げられる。
【0015】
上記水圧転写用マスキング材11を使用した水圧転写用マスキング方法について説明する。
水圧転写に際して上記センターコンソールパネル1を上記水圧転写用マスキング材11でマスキングする場合、該水圧転写用マスキング材11は、該センターコンソールパネル1の裏側に装着される(図2(b)参照)。この装着時において、該水圧転写用マスキング材11の第1堤防部13で立壁部13Aは、該センターコンソールパネル1の壁部3に押し当てられ、また第2堤防部16で枠壁部16Aは、周壁6をその内側に収容しつつ該周壁6に押し当てられるので、該水圧転写用マスキング材11を該センターコンソールパネル1の裏側に被せて嵌め込むのみで装着が完了する。
【0016】
上記センターコンソールパネル1は、上記のようにして水圧転写用マスキング材11が装着された状態のまま、治具Jに固定されて(図3(a)参照)、水圧転写により転写層10を転写される(図3(b)参照)。水圧転写に際して該センターコンソールパネル1を水Wに沈めるとき、その裏側に水Wが流れ込み、また水Wに沈めていく過程で孔部5から裏側に水Wが流れ込む。
上記のように該センターコンソールパネル1の裏側に流れ込んだ水Wは、通常であれば図4(b)に示すようにパネル部2の内面から壁部3に達し、該壁部3を乗り越えて、該センターコンソールパネル1の表側に回り込む。そして該センターコンソールパネル1の表側で、該壁部3の外面、つまり装飾面Dと、転写層10との間に入り込み、該転写層10が装飾面Dから浮き上がることで転写不良が起こり、外観不良を発生させてしまう。
一方、上記水圧転写用マスキング材11が装着された上記センターコンソールパネル1については、図4(a)に示すように、裏側に流れ込んだ水Wがベース部12の表面から第1堤防部13の立壁部13Aに達し、該立壁部13Aを乗り越えた後、さらに第1堤防部13の突出部13Bの表面を通って該センターコンソールパネル1の表側に回り込む。従って水Wは、第1堤防部13、特に装飾面外に突出する突出部13Bの表面を経由した分、該センターコンソールパネル1の表側へ遅れて到達することになり、該水Wが該センターコンソールパネル1の表側へ到達した頃には装飾面Dが転写層10に被覆されて転写が既に完了した状態となっており、転写不良が起こらない。また転写層10の余剰部分については、第1堤防部13の突出部13Bの表面に貼着される。
また本実施形態の水圧転写用マスキング材11においては、第2堤防部16の枠蓋部16Bによって該センターコンソールパネル1に設けられた孔部5の径が絞られている。このため孔部5から該センターコンソールパネル1の裏側へ流れ込む水Wは、該第2堤防部16、特に装飾面外である孔部5の内側に突出する枠蓋部16Bの表面を経由した分、該センターコンソールパネル1の裏側への到達が遅れることになり、該センターコンソールパネル1の裏側から表側へ回り込もうとする水Wの量が減らされている。
【0017】
なお、水圧転写が完了したセンターコンソールパネル1は、水圧転写用マスキング材11が装着された状態のまま、洗浄され、水分を除去するために乾燥された後、装飾面Dからの転写層10の剥離を防止するためにクリア塗料等を用いて塗装が施される。該塗装の後は乾燥され、その乾燥後にセンターコンソールパネル1から水圧転写用マスキング材11が取り外されるが、上記したように水圧転写用マスキング材11はセンターコンソールパネル1に被せて嵌め込むのみで装着されたものであり、接着や貼着などされていないため、簡単かつきれいに取り外すことができる。また取り外した後の水圧転写用マスキング材11は、再利用可能であり、他のセンターコンソールパネル1を水圧転写する際に繰り返して利用される。
【0018】
本発明の水圧転写用マスキング材11は、上記の実施形態に示した構成に限定されるものではなく、例えば下記のように変更してもよい。
上記第1堤防部13において突出部13Bは、必ずしもセンターコンソールパネル1の外側へ横方向に突出させる必要はなく、壁部3の端縁を越えて装飾面外へ突出させるのであれば、例えば立壁部13Aと同じ方向へ延びるように突出させてもよく、あるいはセンターコンソールパネル1の内側へ横方向に突出させてもよい。また上記第2堤防部16において枠蓋部16Bは、必ずしも孔部5の内側へ横方向に突出させる必要はなく、周壁部3の端縁を越えて装飾面外へ突出させるのであれば、例えば枠壁部16Aと同じ方向へ延びるように突出させてもよい。
上記ベース部12は、必ずしもセンターコンソールパネル1の内面形状と対応する凹凸状とする必要はなく、例えば収容部17に代えてピン7が挿通される挿通孔を形成したりしてもよく、また第2堤防部16に代えて周壁6が挿通される挿通孔を形成したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明の水圧転写用マスキング材によれば、被転写体への装着が簡易であり、また転写層の転写不良が起こることを好適に抑制でき、しかも被転写体からの取り外しが簡易で再利用可能であるから、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0020】
1 センターコンソールパネル
2 パネル部
3 壁部
4 立板部
5 孔部
6 周壁
7 ピン
10 転写層
11 水圧転写用マスキング材
12 ベース部
13 第1堤防部
13A 立壁部
13B 突出部
15 開口
16 第2堤防部
16A 枠壁部
16B 枠蓋部
17 収容部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
略板状のパネル部と、該パネル部の周縁から立ち上がる壁部と、該パネル部に形成された孔部と、を有する所定形状に成形された被転写体に対し、少なくとも上記パネル部の外面と上記壁部の外面とを装飾面として、該装飾面に水圧転写によって転写層を転写する際に使用する水圧転写用マスキング材であって、
上記パネル部の内面の少なくとも一部を覆うように形成されたベース部と、
該ベース部の周縁から上記壁部の内面に沿うように差し出されるとともに上記壁部の端縁を越えて装飾面外へ突出するように形成された堤防部と、
を有している
ことを特徴とする水圧転写用マスキング材。
【請求項2】
樹脂シートを真空・圧空成形することによって得られたものである
請求項1に記載の水圧転写用マスキング材。
【請求項3】
上記ベース部と上記堤防部とが一体的につながっているとともに、上記堤防部が上記壁部の端縁を越えて、さらに上記被転写体の外側へ横方向に突出するように形成されている
請求項1又は請求項2に記載の水圧転写用マスキング材。
【請求項4】
上記被転写体は、上記パネル部の内面で上記孔部の周縁から立ち上がる周壁を有しているものであり、
上記ベース部上から上記周壁の外周面に沿うように差し出されるとともに上記周壁の端縁を越えて装飾面外へ突出するように形成された第2の堤防部を有している
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の水圧転写用マスキング材。
【請求項5】
上記ベース部と上記第2の堤防部とが一体的につながっているとともに、上記第2の堤防部が上記周壁の端縁を越えて、さらに上記被転写体の上記孔部の内側へ横方向に突出するように形成されている
請求項4に記載の水圧転写用マスキング材。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の水圧転写用マスキング材を使用した水圧転写用マスキング方法であって、
処理槽内に満たされた処理液の液面に転写フィルムを浮かべて該転写フィルムの転写層を該液面に浮遊させておき、
上記水圧転写用マスキング材が装着された上記被転写体を、その装飾面から液面に浸るように上記処理液に浸漬し、該液面に浮遊する上記転写層を該装飾面に押し付けて転写するとともに、
上記被転写体の上記処理液への浸漬に際して上記パネル部の内面へ流れ込んだ処理液を、上記ベース部から上記堤防部を経由して上記装飾面へ回り込ませる
ことを特徴とする水圧転写用マスキング方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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