説明

水垢堆積防止性樹脂製管材

【課題】視認性や円滑度が定量的で明確になり、接続状態が確認しやすく衛生的な配管部材を提供する。
【解決手段】透過率が300nm以上400nm未満の波長領域で40%以上、400nm以上500nm未満の波長領域で35%以上、および500nm以上600nm未満の波長領域で30%以上である樹脂製配管部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製管材に関し、詳しくは、例えば戸建住宅や集合住宅等の建築構造物内に配管される給水管や給湯管などに使用される水垢堆積防止性樹脂製管材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、戸建住宅や集合住宅内において、給水管や給湯管の配管を行う場合、近年では金属の溶出や腐食の問題がなく衛生的に優れ、軽量であるということから、その材質が従来の金属管から樹脂製管に変わりつつある。
一方、昨今の健康に対する機運の高まりから、水道水の水質に対しても衛生性を求める傾向が強くなってきた。
給水管や給油管には、水道水由来のケイ酸分によるケイ酸スケール、および、カルシウム、マグネシウムなどの金属分が大気中の炭酸ガスと作用して形成される水垢が堆積することがあり、これが水道水の水質を悪化させる要因の一つとなっていた。
【0003】
しかしながら、従来は、樹脂製管材の衛生性に対しては、抽象的な表記が多く、具体的な指標による管理等は行われていなかった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−054125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解決し、給水・給湯配管用に好適な水垢の堆積抑制効果が高く衛生的な樹脂製管材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)300nm以上400nm未満の波長領域における透過率が40%以上、400nm以上500nm未満の波長領域における透過率が35%以上、および500nm以上600nm未満の波長領域における透過率が30%以上であることを特徴とする水垢堆積防止性樹脂製管材、
(2)流路面の表面粗さが、最大高さ(Ry)で3.0μm以下であることを特徴とする(1)項記載の水垢堆積防止性樹脂製管材、
(3)給水管または給湯管であることを特徴とする(1)または(2)項記載の水垢堆積防止性樹脂製管材、および
(4)架橋ポリエチレン管であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水垢堆積防止性樹脂製管材
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水垢堆積防止性樹脂製管材は、水垢の堆積抑制効果が高く衛生的な樹脂製管材とすることができる。
また、本発明の樹脂製管材は透明性が高く、美観に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の水垢堆積防止性樹脂製管材は、以下1)〜3)の光透過率を満たす管材である。
1)300nm以上400nm未満(以下、「300〜400nm」と示す)の波長領域における透過率が40%以上で、
2)さらに、400nm以上500nm未満(以下、「400〜500nm」と示す)の波長領域における透過率が35%以上であり、
3)500nm以上600nm未満(以下、「500〜600nm」と示す)の波長領域における透過率が30%以上の水垢堆積防止性樹脂製管材である。
【0008】
本発明において、上記の透過率は、測定対象の管材を縦割りにして、島津製作所(株)製、分光器-MPC−3100の受光部の前面に該管材の一面のみの透過率が測定できるように切断した管材をセットし、20℃で測定したものである。
【0009】
透過率が上記の範囲となることで、樹脂製管材は適度の光沢を有するものとなる。通常のプラスチックでは、JIS K 7105(プラスチックの光学的特性試験方法)で規定される60度鏡面光沢度80未満の表面は、凹部に水垢が入り込み除去性が悪くなることが知られている。
管材においては、構造上、円弧部を有するため、上記の光沢度の測定は行うことができなかったが、本発明のように透過率を規定することで、円滑度に優れ、そのため水垢堆積防止性に優れた樹脂製管材を得ることができる。
【0010】
本発明の樹脂製管材の円滑度は、表面粗さの最大高さ(Ry)が3μm以下であることが好ましい。Ryが3μmを超えると水垢の堆積が著しく促進される。Ryは2.5μm以下が好ましい。このようなRyを有する管材は、流路面の円滑度が高いことから、管内部に、水中に含まれるケイ酸塩やカルシウム、マグネシウムなどのミネラル成分が堆積して発生する水垢の堆積抑制効果の高く、衛生的な樹脂製管材である。
ステンレス鋼サニタリー管では、JIS G 3447に溶接線上の表面荒さはRy=16μmを超えてはならないと規定されているが、上記の3μm以下という値は、JIS G 3447の規定値よりもはるかに小さい値である。
【0011】
上記のような樹脂製管材を形成する樹脂の種類は特に限定されるものではないが、押出成型ができて、耐薬品性や衛生性に優れる樹脂材料が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリブテンなどが挙げられ、透明性の点で、高密度ポリエチレン樹脂がさらに好ましい。本発明の樹脂製管材の好ましい態様は、架橋ポリエチレン管である。
【0012】
本発明の樹脂製管材の内径、肉厚等の寸法は特に限定されるものでなく、例えば、JISの規格内で任意のパイプとすることができる。
【0013】
上記の透過率を有し、好ましくはさらに上記のRyを有する架橋ポリエチレン管は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0014】
シングルサイト触媒を用いて重合してなる、密度0.938〜0.950g/cm、メルトフローレート1.0〜7.0g/10分、重量平均分子量(Mw)における分子量LogM=4.5までの領域において、分子量とコモノマー分岐の数に正の相関を有するポリエチレンをベース樹脂に用いて管状に成形し、シラン架橋法で架橋する。
具体的には、一つの方法として、反応が可能な押出機等を用い、ベース樹脂にシラン化合物、ラジカル発生剤、シラノール縮合触媒、また、必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を配合し、押出機内で加熱しながら、溶融、混練、反応といった工程を経て、管状に押出し、管状に成形、冷却することで、シラン変性ポリエチレン組成物から成る成形管とし、その成形管に水の存在下で適当な熱を加えることでシラノール縮合反応を促進させる架橋処理を施すことで、上記の架橋ポリエチレン管を得ることができる。
【0015】
また、別の方法として、第一工程にて、反応が可能な押出機等を用い、ベース樹脂にシラン化合物とラジカル発生剤、また、必要に応じて酸化防止剤などの添加剤を配合し、ここではシラノール縮合触媒は配合せず、押出機等の反応機内で加熱しながら溶融、混練、反応といった工程を経て、ストランド状に押出し、これを冷却、カッティングすることで、ペレット状のシラン変性ポリエチレン組成物とし、第二工程にて、このシラン変性ポリエチレン組成物と、例えば別途工程で予め作製したポリエチレンをベース樹脂としたシラノール縮合触媒と必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を配合したマスターバッチと、を配合し、押出機内で加熱しながら溶融、混練の工程を経て、管状に押出し、管状に成形、冷却することで、シラン変性ポリエチレン組成物から成る成形管とし、その成形管に水の存在下で適当な熱を加えることでシラノール縮合反応を促進させる架橋処理を施すことで、上記の架橋ポリエチレン管を得ることができる。
【0016】
上記のように、シングルサイト触媒を用いて重合してなるポリエチレン樹脂を用いて製造した管材は、分子原子レベルで、結晶が均一な分子により構成されているので、異なる波長レンジにおいても透過率に優れ、さらに表面も滑らかなものとすることができる。
【0017】
本発明の管材は、従来の金属製管材に比べ、軽量化でき、溶出や腐蝕の問題もなく、衛生的で、美観にも優れ、給水管または給湯管用として好適なものである。また、内表面の表面粗さが小さいものでは、スケールが付着しにくく、さらに衛生的である。
【実施例】
【0018】
実施例1
[シラン変性ポリエチレン組成物]
シングルサイト触媒を用いて重合した密度0.941g/cm、MFR2.1g/10分、分子量分布とコモマー分岐の数に正の相関を有するポリエチレン100質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2.2質量部、ジクミルパーオキサイド0.11質量部(ビニルトリメトキシシラン100質量部に対して5.0質量部)を配合してタンブラーにて混合した混合物を反応ゾーン温度210℃、ストランドダイ温度(T)223℃に設定した、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にてストランド形状に押出し、冷却、カッティングを経て、シラン変性ポリエチレン組成物のペレット状コンパウンドを得た。
【0019】
[触媒マスターバッチ]
上記と同様のポリエチレン100質量部に対して、ジブチルスズジラウレートを1質量部(最終的にベース樹脂100質量部に対して0.05質量部となる量)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを5質量部配合して、ストランドダイ温度(T)200℃に設定した、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にてストランド形状に押出し、冷却、カッティングを経て、ペレット状の酸化防止剤およびシラノール縮合触媒マスターバッチを作製した。
【0020】
[架橋ポリエチレン管の作製]
得られたシラン変性ポリエチレン組成物と触媒マスターバッチとを95質量部:5質量部の割合でタンブラーにて混合し、パイプダイ温度(T)223℃に設定した、スクリュー径50mm、L/D=30の単軸押出機にて管状に押出し、真空成形、冷却を経て、内径10mm、肉厚1.5mmの成形管を得た。得られた成形管を95℃の温水に24時間浸漬し、光沢のある架橋ポリエチレン管を作製した。
【0021】
実施例2
実施例1におけるシングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレンを密度の高いシングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレン(密度0.947g/cm、MFR5.01g/10分以下、)に変更した以外は実施例1と同様にして光沢のある架橋ポリエチレン管を作製した。
【0022】
比較例1
実施例1におけるシングルサイト触媒を用いて重合したポリエチレンを密度の異なるマルチサイト触媒を用いて重合したポリエチレンに変更した以外は実施例1と同様にして架橋ポリエチレン管を作製した。
【0023】
試験例1
透過率の測定
実施例1の架橋ポリエチレン管を用いて、透過率を測定した。具体的には、それぞれの架橋ポリエチレン管を縦割りして、島津製作所(株)製、分光器−MPC−3100にセットし、300〜800nmの透過スペクトルを測定した。結果を図1に示す。図1で縦軸は透過率(%)、横軸は光の波長(nm)を示している。図1から、所定の波長領域での透過率(%)に材料依存性があることが判る。透過率が、300〜400nmの波長領域で40%以上、400〜500nmの波長領域で35%以上、500〜600nmの波長領域で30%以上である実施例1および実施例2の架橋ポリエチレン管は、比較例1の架橋ポリエチレン管に比べ優れた視認性が得られた。
【0024】
試験例2
透過率の測定
実施例1〜2、比較例1の架橋ポリエチレン管に対して、円周上の4箇所の表面粗さの最大高さ(Ry)を測定(ミツトヨ(株)製形表面粗さ測定機 サーフテスト SJ−201)した。なお、実施例1については製造ロットのことなる8個について測定を行い、それぞれ実施例1−1〜1−8とした。平均±3σを図2に示す。また、同様にして、参考例1、比較例1についてもRyを測定した。それぞれの平均±3σの値を図2に示す。図2から、実施例1および2の架橋ポリエチレン管はRyの平均が3μm以下であり、比較例1の架橋ポリエチレン管に比べ、円滑度に優れていた。このように、本発明で規定する透過率を有する架橋ポリエチレン管は、表面が円滑で、水垢の堆積を抑制する効果が高く、衛生性に優れた架橋ポリエチレン管であった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例の架橋ポリエチレン管の透過スペクトルを示すグラフである。
【図2】実施例の架橋ポリエチレン管の表面粗さ(Ry)の測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
300nm以上400nm未満の波長領域における透過率が40%以上、400nm以上500nm未満の波長領域における透過率が35%以上、および500nm以上600nm未満の波長領域における透過率が30%以上であることを特徴とする水垢堆積防止性樹脂製管材。
【請求項2】
流路面の表面粗さが、最大高さ(Ry)で3.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載の水垢堆積防止性樹脂製管材。
【請求項3】
給水管または給湯管であることを特徴とする請求項1または2記載の水垢堆積防止性樹脂製管材。
【請求項4】
架橋ポリエチレン管であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水垢堆積防止性樹脂製管材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate