説明

水域構造物、水域構造物の構築方法

【課題】鋼管矢板井筒を基礎とし、低打上げ高、低越波量、低反射等の特性を有し、高品質を実現するドライ施工を可能にする水域構造物等を提供する。
【解決手段】鋼管矢板(前)3、鋼管矢板(後)5、鋼管矢板(隔壁)51を地盤27に打ち込み、継手処理を行い、井筒内に下床版9(頂版コンクリート)を打設して支保工53を設置し、井筒内部の水を排水してドライアップを行う。続いて、消波構造(スリット柱体11、防波壁13、上床版15等)を構築し、支保工53の撤去及び鋼管矢板(前)3を水中切断を行って根固めを行う。以上の過程を経て、水域構造物1が構築される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、護岸、防波堤等の水域構造物及び水域構造物の構築方法等に関する。より詳細には、水域に建設される桟橋や橋梁、水域と陸域との境界に築造される護岸、岸壁、橋脚、橋台等の水域構造物及び水域構造物の構築方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海域に建設される護岸では、程度の差はあるが、護岸に進行した波(入射波)が反射し、水塊が高く打ち上げられる。護岸の前面に桟橋や橋梁が存在する場合、打ち上げられた水塊によって桁や床版に相当の力が作用する。この水塊による作用力により、桁の曲折や床版の移動等が生じ、桟橋や橋梁の機能に影響が及ぶ場合がある。また、上記の桟橋や橋梁がない場合、打ち上がった波は護岸を越波し、護岸の背後域に浸水が起こる。
従来、こうした被災や越波を防止するために、桟橋の桁の設置高さを十分高くしたり、護岸を傾斜型として砕波を促し、護岸における水塊の打上げを小さくする等の対策がとられる。
【0003】
また、護岸あるいは防波堤として、直立消波堤等が用いられる。直立消波堤は、コンパクトな構造を有し、耐波安定性と消波性能を併せ持つ。直立消波堤としては、直立消波ケーソンと呼ばれる重力式のコンクリート構造物が用いられることが多い。
【0004】
また、地盤に打設した鋼管により透過壁が形成される水域構造物が提案されている(例えば、[特許文献1]参照。)。
この水域構造物では、地盤から所定の高さまでは継手により鋼管同士を連結して不透過壁面が形成され、さらに上方においては、鋼管間にスリットが形成されて透過壁面が形成される。
【0005】
【特許文献1】特開2004−190403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水域構造物を築造する地点の地盤条件、桟橋や橋梁の線形、要求性能等によっては、従来の技術では解決できないという問題点がある。
また、従来の直立消波ケーソンは、重力式の構造物であるため、比較的水深の大きい軟弱地盤上に構築する場合、耐波安定性を保つため必要となる堤体の重量に海底地盤が耐えられるように地盤改良が必要となるという問題点がある。
【0007】
また、[特許文献1]に示す技術では、地盤から所定の高さまでは継手により鋼管同士を連結して不透過壁面が形成されるが、上方においては、施工期間中常時、鋼管間に間隙が形成されるので締切りが行われず、堤体等の上部工等を水中施工する必要があり、労力的負担、費用的負担が増大すると共に、品質を維持できない場合があるという問題点がある。
【0008】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、鋼管矢板井筒を基礎とし、低打上げ高、低越波量、低反射等の特性を有し、高品質を実現するドライ施工を可能にする水域構造物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために第1の発明は、鋼管矢板を基礎とする水域構造物であって、前記鋼管矢板内側に設けられる下床版と、前記下床版に所定の間隔で立設する複数のスリット柱体から構成され、水が透過可能な透過壁と、前記透過壁に相対し、前記下床版あるいは前記鋼管矢板に立設する防波壁と、前記透過壁及び前記防波壁の上部に設けられる上床版と、前記下床版及び前記透過壁及び前記防波壁及び前記上床版により形成される遊水部と、を具備することを特徴とする水域構造物である。
【0010】
第1の発明の水域構造物は、鋼管矢板井筒を基礎とし、下床版、透過壁、防波壁、上床版、これらにより形成される遊水部等を備える。
下床版は、鋼管矢板井筒の内側に打設される。透過壁は、水域構造物の前面側(外海側、沖合側)に設けられる。防波壁は、水域構造物の後面側(陸側、堤内側)に設けられる。上床版は、透過壁及び防波壁の上部に設けられる。
尚、透過壁(スリット柱体)は、鋼管矢板(前)付近の下床版に設けられ、すなわち、上床版の外海側の先端から少し後方に設けられる。
【0011】
透過壁は、複数のスリット柱体により構成される。スリット柱体は、円柱や角柱等の柱状部材である。スリット柱体としては、鋼管、あるいは、鋼管と鉄筋コンクリート柱との複合管等を用いることができる。
スリット柱体の上端及び下端は、それぞれ、上床版及び下床版に固定される。スリット柱体は、所定の間隔で設けられる。透過壁の各スリット柱体間に水が透過可能なスリットが形成される。
【0012】
第1の発明の水域構造物では、透過壁及び防波壁等により波浪のエネルギーを減衰させることにより、打ち上げ、越波、反射波を抑制することができる。
【0013】
また、上床版には、波返し及び張り出し部を設けることが望ましい。張り出し部及び波返しは、上床版に加えて波返し工としての役割を果たし、波の打ち込み及び打ち上げを抑制する。
また、防波壁、下床版には、少なくとも1つの突起を設けることが望ましい。この場合、突起により消波効果が向上するので、常時波浪に対する反射率を低減させることができる。
【0014】
また、上床版には、上方から遊水部まで貫通する貫通口を設けることが望ましい。この貫通口を通して人や清掃機械等を遊水部へ搬入したり、外部から遊水部内の清掃機械等を操作することができるので、水域構造物の維持管理に係る負担を軽減することができる。
【0015】
また、鋼管矢板を構成する鋼管の一部については切断及び撤去せず、消波スリットとして利用してもよい。
また、防波壁は、鋼管矢板と一体として構成するようにしてもよいし、鋼管矢板の前面に設置するようにしてもよい。防波壁を鋼管矢板と一体化した複合構造壁とすることにより、防波壁の厚さを最小限に抑えることができる。
また、下床版、透過壁、防波壁、上床版によりラーメン構造を形成することが望ましい。ラーメン構造とすることにより、上載荷重、波力、土圧、地震力に対して安定に構造系を維持することができる。
【0016】
第2の発明は、鋼管矢板を基礎とする水域構造物の構築方法であって、前記鋼管矢板内側から排水を行う工程(a)と、前記鋼管矢板内側に下床版を設ける工程(b)と、前記下床版に、水が透過可能な透過壁を構成する複数のスリット柱体を所定の間隔で立設する工程(c)と、上床版及び前記透過壁に相対する防波壁を設け、前記下床版及び前記透過壁及び前記上床版及び前記防波壁により遊水部を形成する工程(d)と、前記鋼管矢板の少なくとも一部を水中切断して撤去する工程(e)と、を具備することを特徴とする水域構造物の構築方法である。
ここで、(b)〜(d)の工程は気中施工(ドライ施工)で行うことができ、製品の品質が確保される。
【0017】
第2の発明は、第1の発明の水域構造物の構築方法に関する発明である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋼管矢板井筒を基礎とし、低打上げ高、低越波量、低反射等の特性を有し、高品質を実現するドライ施工を可能にする水域構造物等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る水域構造物等の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、略同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0020】
(1.水域構造物1の構成)
最初に、図1及び図2を参照しながら、本発明の実施の形態に係る水域構造物1の構成について説明する。
図1は、水域構造物1の垂直断面図である。
図2は、水域構造物1の正面図である。
以下、水域構造物1を護岸として構築し、鋼管矢板(後)5及び消波壁13の後側に地盤28(陸地)が存在するものとして説明する。
尚、水域構造物1を消波堤として構築し、鋼管矢板(後)5及び消波壁13の後側に水域(堤内側の水域)が存在してもよい。
【0021】
水域構造物1は、鋼管矢板(前)3、鋼管矢板(後)5、底版コンクリート7、下床版9(頂版コンクリート)、スリット柱体11(透過壁34)、防波壁13、上床版15、遊水部17等により構成される。
【0022】
水域構造物1は、鋼管矢板を基礎とする消波堤、護岸等の水域構造物である。
鋼管矢板(前)3は、外海29に対して鋼管矢板(後)5の前方に設けられる鋼管矢板であり、地盤27(海底)に打設される。
鋼管矢板(後)5は、外海29に対して鋼管矢板(前)3の後方に設けられる鋼管矢板であり、地盤27に打設される。
鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(前)5は、複数の鋼管4が鋼管矢板継手6により連結されて構成される。
【0023】
底版コンクリート7は、鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5の内側で地盤27に打設されるコンクリート床版である。
下床版9は、底版コンクリート7の上に構築される頂版コンクリートである。下床版9は、鉄筋コンクリート構造あるいは鉄筋鉄骨コンクリート構造である。
【0024】
底版コンクリート7は、剛結部材25により鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5等に剛結される。下床版9は、剛結部材25により鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5及びスリット柱体11等に剛結される。剛結部材25は、例えば、鉄筋や鋼材である。
【0025】
透過壁34は、水が透過可能な透過壁である。透過壁34は、複数のスリット柱体11により構成される。
スリット柱体11は、透過壁34を構成する円柱や角柱等の柱状部材である。スリット柱体11の上端及び下端は、それぞれ、上床版15及び下床版9に固定される。スリット柱体11は、下床版9の上に所定の間隔で立設する。各スリット柱体11の間には、スリット33が形成される。水位31がスリット33の高さにある場合、水は、遊水部17に対して流入流出可能である。
尚、透過壁34(スリット柱体11)は、上床版15の外海29側の先端から少し後方に設け、上床版15に張り出し部19を設けることが望ましい。
また、スリット柱体11の中央部分は、海水等に直接接するので、鋼製、プレキャストRC/PC製等として構造耐力を確保し、防食被覆等を施すことにより防食性を確保して海水等に対する耐久性を向上させることが望ましい。
【0026】
防波壁13は、水が透過不能な壁状部材である。防波壁13は、透過壁34の後方に設けられ、透過壁34と相対して立設する。防波壁13は、下床版9や地盤27から突出する鋼管矢板(後)5付近に設けられる。尚、防波壁13は、鋼管矢板(後)5の鋼管4と一体として構成するようにしてもよいし、鋼管4の前面に設置するようにしてもよい。
【0027】
上床版15は、スリット柱体11及び防波壁13の上に構築される床版である。
上床版15には、外海29側に張り出し部19が設けられる。張り出し部19の先端は、鋼管矢板(前)3付近まで延ばすことが望ましい。また、上床版15には、防波壁13付近の下面側に波返し21が設けられる。張り出し部19及び波返し21は、上床版に加えて波返し工としての役割を果たし、波の打ち込み及び打ち上げを抑制する。また、張り出し部19は、スリット柱体11によって打ち上げられる波を遮る働きをし、水域構造物1全体の越波防止機能を向上させる役割をする。
また、上床版15には、上面側から下面側の遊水部17へ貫通するマンホール23が設けられる。詳しくは後述するが、マンホール23は、水域構造物1の維持管理等に利用される。
【0028】
遊水部17は、消波を行うための水室である。遊水部17は、下床版9、スリット柱体11、防波壁13、上床版15、側壁(図示しない)等により形成される。
スリット柱体11及び防波壁13は、上床版15を支持する。下床版9、スリット柱体11、防波壁13、上床版15によりラーメン構造が構築される。
【0029】
(2.水域構造物1における消波)
次に、図3及び図4を参照しながら、水域構造物1における消波について説明する。
図3は、水域構造物1の透過壁34付近における波浪36の動きを示す図である。
図4は、水域構造物1の遊水部17における波浪36の動きを示す図である。
【0030】
外海29から水域構造物1に進行する波浪36は、最初に透過壁34のスリット柱体11に作用する。波浪36の一部は、スリット柱体11の前面で上方に跳ね上がるが、上床版15の張り出し部19により打ち上げが抑制される(矢印37、矢印39)。波浪36は、スリット33を透過する際にエネルギーを消費して減衰し、防波壁13に進行する(矢印41)。
【0031】
防波壁13に進行する波浪36は、防波壁13の前面で上方に跳ね上がるが、波返し21及び上床版15により打ち上げが抑制される(矢印43)。そして、遊水部17において、波浪36のエネルギーは、回転運動に変換される(矢印45、矢印47)。
【0032】
以上の過程を経て、水域構造物1は、スリット柱体11及び防波壁13により波浪36のエネルギーを減衰し、上床版15や張り出し部19及び波返し21により打ち上げや打ち込みを抑止する。従って、水域構造物1は、波の打ち上げ等を防止すると共に波浪36のエネルギーを消費させて効率的に消波を行うことができる。
【0033】
(3.水域構造物1の構築方法)
次に、図5〜図8を参照しながら、水域構造物1の構築方法について説明する。
【0034】
図5は、鋼管矢板井筒49を示す上面図である。
水域構造物1は、鋼管矢板井筒49を基礎として構築される。鋼管矢板井筒49の施工手順は、橋梁基礎等の建設に用いる鋼管矢板井筒の施工法に基づいて行われる。鋼管矢板井筒49の内側をドライアップして、気中施工により上部工を構築することにより、品質の高い水域構造物1を構築することができる。また、鉄筋のプレファブ化により工期短縮が可能である。
【0035】
鋼管矢板井筒49は、鋼管矢板(前)3、鋼管矢板(後)5、鋼管矢板(隔壁)51等が梯子状に配置されて構成される。鋼管矢板井筒49は、鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5のみならず、これらと直行する方向にも鋼管矢板(隔壁)51を打設して構築される。
【0036】
鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5は、護岸の形状に適するように設けられる鋼管矢板であり、鋼管矢板(隔壁)51は、鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5とを繋ぐ隔壁(側壁)である。
鋼管矢板(前)3、鋼管矢板(後)、鋼管矢板(隔壁)49は、それぞれ、複数の鋼管4が鋼管矢板継手6により連結されて構成される。鋼管矢板継手6には、モルタルがグラウトされる。
【0037】
図6は、底版コンクリート7の打設〜ドライアップまでの作業工程を示す図である。
鋼管矢板井筒49(鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5等)の内側の地盤27に水中コンクリートを打設して、底版コンクリート7を構築する。底版コンクリート7は、鉄筋や鋼材等の剛結部材25を用いて鋼管矢板井筒49に剛結される。
鋼管矢板井筒49の上部にH鋼等の支保工53を設置する。鋼管矢板井筒49の内側の水を排出して井筒内部をドライアップする。
尚、支保工53に関しては、仮締切施工時において、鋼管矢板井筒49が水圧や波力に耐えることができるのに必要な段数を用いることが望ましい。また、仮締切施工時において、底版コンクリート7も支保工の役割を果たす。
【0038】
図7は、下床版9及びスリット柱体11の構築を示す図である。
底版コンクリート7の上に頂版コンクリートを打設して、下床版9を構築する。下床版9は、鉄筋コンクリート構造あるいは鉄筋鉄骨コンクリート構造である。下床版9は、鉄筋や鋼材等の剛結部材25を用いて鋼管矢板井筒49(鋼管矢板(前)3及び鋼管矢板(後)5に剛結される。
下床版9の上にスリット柱体11を構築する。スリット柱体11は、剛結部材25を用いて下床版9に剛結される。尚、スリット柱体11は、所定の間隔で複数設けられる。
【0039】
図8は、上部工の構築及び鋼管矢板の水中切断を示す図である。
仮締切した鋼管矢板井筒49の内側に、水域構造物1の消波構造(スリット柱体11、防波壁13等)を構築する。尚、消波構造は、コンクリートや鋼材等を用いて構築される。
下床版9より上部に位置する鋼管矢板(前)3の一部あるいは全部を水中切断し、切断部分55を撤去する。尚、下床版9より上部の鋼管矢板(前)3の一部を残し、消波スリット(第2の透過壁)として利用してもよい。
消波構造(スリット柱体11、防波壁13等)の上部に、上床版15を設置する。上床版15には、張り出し部19、波返し21、マンホール23等が設けられる。
【0040】
尚、水域構造物1の上部工(底版コンクリート7、下床版9、柱体11、防波壁13、上床版15等)に関しては、鉄筋コンクリート構造、プレストレストコンクリート構造、鋼コンクリート複合構造、鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC造)等を適用することが望ましい。
鉄筋コンクリート構造、プレストレストコンクリート構造、鋼コンクリート複合構造、鉄骨鉄筋コンクリート構造(SRC造)を用いて上部工を構築することにより、外力に対して堅牢な構造とすることができる。また、エポキシ鉄筋、高耐久埋設型枠等を用いることにより、高い耐久性を有する構造とすることが可能である。
【0041】
以上の過程を経て、鋼管矢板(前)3、鋼管矢板(後)5、鋼管矢板(隔壁)51を地盤27に打ち込み、継手処理を行い、井筒内に下床版9(頂版コンクリート)を打設して支保工53を設置し、井筒内部の水を排水してドライアップを行う。続いて、消波構造(スリット柱体11、防波壁13、上床版15等)を構築し、支保工53の撤去及び鋼管矢板(前)3の水中切断を行って根固めを行う。
このように、鋼管矢板井筒の施工法に基づいて施工作業を行い、気中施工により上部工を構築することにより、労力的負担、費用的負担を軽減すると共に、水域構造物の品質を向上させることができる。
【0042】
(4.水域構造物1の維持管理)
次に、図9を参照しながら、水域構造物1の維持管理について説明する。
図9は、遊水部17における不要物63(貝殻、ゴミ等)の除去作業を示す図である。
【0043】
上床版15には、遊水部17への通路となるマンホール23が設けられる。マンホール23の出入口には、開閉蓋を設けることが望ましい。水域構造物1の供用時は、マンホール23の出入口は閉鎖される。比較的波浪静穏な時には、マンホール23の出入口を開放し、メインテナンスのために遊水部17の中に人及び清掃機械等の搬入を行うことができる。
【0044】
遊水部17のメインテナンス作業を機械的に行う場合、掻寄装置61(スクリード等)を取り付けた浮体59をマンホール23から遊水部17に搬入する。浮体59にはワイヤ57が取り付けられる。ワイヤ57は、マンホール23を通っって上床版15の上部の駆動源(図示しない。)に取り付けられる。さらに、回収用のバケット67をマンホール23から遊水部17に搬入する。バケット67にはワイヤ66が取り付けられる。ワイヤ66は、マンホール23を通って上床版15の上部の回収装置65に取り付けられる。
遊水部17の外部から、ワイヤ57及び浮体59を介して掻寄装置61を動作させて不要物63を1箇所に掻き寄せ、回収装置65を操作してワイヤ66を介してバケット67を動作させ、掻き寄せた不要物63を回収する。
【0045】
このように、遊水部17の下床版9に堆積する不要物63を除去する場合、マンホール23から清掃人(ダイバー等)や清掃機械等を搬入して、人力あるいは機械的に清掃を行うことができる。マンホール23は、人の通路あるいはマシンハッチとして利用することができる。
【0046】
(5.他の実施の形態に係る水域構造物1a)
次に、図10を参照しながら、他の実施の形態に係る水域構造物1aについて説明する。
図10は、水域構造物1aの垂直断面図である。
水域構造物1は、スリット柱体11を用いて水が透過可能な透過壁34を形成するので、防波壁13の構造として種々の形態を採ることができる。
【0047】
水域構造物1aでは、下床版9や防波壁13の下部に、複数の突起69が設けられる。突起69により、遊水部17に進入した波浪のエネルギー減衰効果を向上させることができる。
【0048】
このように、他の実施の形態に係る水域構造物1aでは、突起69により波浪のエネルギー減衰効果が向上するので、常時波浪に対する反射率を低減させることができる。
【0049】
(6.効果等)
以上説明したように、本発明の水域構造物では、透過壁及び防波壁等により波浪のエネルギーを減衰し、上床版の張り出し部及び波返しにより打ち上げや打ち込みを抑止することができる。
また、水域構造物の上床版にマンホールを設けて、人や清掃機械等を遊水部へ搬入したり、外部から遊水部内の清掃機械等を操作することができるので、水域構造物の維持管理に係る負担を軽減することができる。
【0050】
また、遊水部において防波壁や下床版に突起等を設けて、消波性能を向上させることができる。
また、防波壁を鋼管矢板(後)と一体化した複合構造壁とすることにより、防波壁の厚さを最小限に抑えることができる。
また、上部工に作用する断面力を下部構造に直接伝えることが可能となるため、底版を薄くすることができ、上部工の軽量化を図ることができる。
また、鋼管矢板の水中切断以外に水中作業がないので、労力的負担、費用的負担を軽減すると共に、水域構造物の品質を向上させることができる。
【0051】
また、地盤の条件、埋立地に求められる機能上の理由から、鋼管矢板井筒を埋立護岸の基礎とする場合、鋼管矢板井筒工法の手順に準拠して築造することができる。
また、水域構造物は、透過壁、防波壁、遊水部、上床版の張り出し部及び波返し等の消波構造を有するので、護岸での打上げ高を護岸天端程度に抑制し、護岸からの波の反射率は、0.5以下程度に抑制することができる。
また、水域構造物は、ラーメン構造となるので、上載荷重、波力、土圧、地震力に対して安定に構造系を維持することができ、桟橋、橋脚の橋台を兼ねる場合、大きな反力を支えることができる。
また、築造する護岸上部工は、鋼管矢板井筒により囲まれ、ドライアップ可能な範囲に限定されるので、鋼管矢板井筒工法の施工手順により、短工期の施工が可能である。プレファブ化により工期を短縮することも可能である。
また、水中施工に比べ高品質の構造物を容易に築造可能である。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら、本発明にかかる水域構造物等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】水域構造物1の垂直断面図
【図2】水域構造物1の正面図
【図3】水域構造物1の透過壁34付近における波浪36の動きを示す図
【図4】水域構造物1の遊水部17における波浪36の動きを示す図
【図5】鋼管矢板井筒49を示す上面図
【図6】底版コンクリート7の打設〜ドライアップまでの作業工程を示す図
【図7】下床版9及びスリット柱体11の構築を示す図
【図8】上部工の構築及び鋼管矢板の水中切断を示す図
【図9】遊水部17における不要物63の除去作業を示す図
【図10】水域構造物1aの垂直断面図
【符号の説明】
【0054】
1、1a………水域構造物
3………鋼管矢板(前)
4………鋼管
5………鋼管矢板(後)
6………鋼管矢板継手
7………底版コンクリート
9………下床版(頂版コンクリート)
11………スリット柱体
13………防波壁
15………上床版
17………遊水部
19………張り出し部
21………波返し工
23………マンホール
25………剛結部材
27、28………地盤
29………外海
31………水位
33………スリット
34………透過壁
36………波浪
49………鋼管矢板井筒
51………鋼管矢板(隔壁)
53………支保工
55………切断部分
57、66………ワイヤ
59………浮体
61………掻寄装置
63………不要物
65………回収装置
67………バケット
69………突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板を基礎とする水域構造物であって、
前記鋼管矢板内側に設けられる下床版と、
前記下床版に所定の間隔で立設する複数のスリット柱体から構成され、水が透過可能な透過壁と、
前記透過壁に相対し、前記下床版あるいは前記鋼管矢板に立設する防波壁と、
前記透過壁及び前記防波壁の上部に設けられる上床版と、
前記下床版及び前記透過壁及び前記防波壁及び前記上床版により形成される遊水部と、
を具備することを特徴とする水域構造物。
【請求項2】
前記上床版には、波返しあるいは張り出し部の少なくともいずれかが設けられることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物。
【請求項3】
前記防波壁または前記下床版の少なくともいずれかには、少なくとも1つの突起が設けられることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物。
【請求項4】
前記上床版は、上方から前記遊水部まで貫通する貫通口を備えることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物。
【請求項5】
前記鋼管矢板を構成する鋼管により構成され、水が透過可能な第2の透過壁をさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の水域構造物。
【請求項6】
前記防波壁は、水底から突出する前記鋼管矢板と一体化されて形成されることを特徴とする請求項1に記載の水域構造物。
【請求項7】
前記下床版及び前記前記透過壁及び前記防波壁及び前記上床版によりラーメン構造を形成することを特徴とする請求項1に記載の水域構造物。
【請求項8】
鋼管矢板を基礎とする水域構造物の構築方法であって、
前記鋼管矢板内側から排水を行う工程(a)と、
前記鋼管矢板内側に下床版を設ける工程(b)と、
前記下床版に、水が透過可能な透過壁を構成する複数のスリット柱体を所定の間隔で立設する工程(c)と、
上床版及び前記透過壁に相対する防波壁を設け、前記下床版及び前記透過壁及び前記上床版及び前記防波壁により遊水部を形成する工程(d)と、
前記鋼管矢板の少なくとも一部を水中切断して撤去する工程(e)と、
を具備することを特徴とする水域構造物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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