説明

水域構造物の補強工法

【課題】大型クレーンを用いた水域構造物の上部構造物の撤去および再設置という工程を必要とせず、少ない労力で効率的に下部構造物を補強することができる施工方法を提案する。
【解決手段】水面上に突出した杭2群を具えた下部構造物と、前記杭2群の上部に取り付けた上部構造物3とよりなる桟橋1(水域構造物)を補強するに際し、前記下部構造物の補強に供するストラット部材4を前記水面に浮かべ、該ストラット部材4を前記杭2群の間まで曳航する工程と、前記杭2群の上下方向所定部位に前記ストラット部材4の両端5,5を各々結合する工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老朽化した桟橋、ドルフィン、橋脚などの水域構造物を補修乃至補強する施工方法につき、特に、ストラット部材を用いて水域構造物の基礎杭同士を連結することにより水域構造物の下部構造物を補剛する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物として知られる桟橋、ドルフィン、橋脚などの水域構造物は、水底地盤に打ち込まれ水面より上に突出した複数の杭を脚柱とする下部構造物と、水面より上に敷設した床板等からなる上部構造物より構成される。
上記の下部構造物は一般に、海底あるいは湖底といった地盤に複数本の杭群を鉛直方向に打ち込んで構築される。また、上記の上部構造物は一般に、これら杭群の上端部に梁を複数本架設し、これら梁群の間に床板を張り渡して構築される。
ところで、水域構造物の耐震性能を向上させたり、老朽化した水域構造物を補強したりすることを目的として従来より、非特許文献1に記載の施工方法が知られている。
非特許文献1に記載の格点式ストラット工法は、水域構造物の下部構造物になる既設杭同士に夫々鞘管を取り付ける。鞘管は桟橋の既設杭の外周を包囲する。これら鞘管は水平方向に延在するストラット部材の両端と剛に結合する。あるいは、これら鞘管は鉛直と斜め方向に延在するブレース部材とピン結合する。あるいは、これら鞘管は鉛直と斜め方向に延在するストラット部材と剛に結合する。あるいは、これら鞘管は上述したストラット部材およびブレース部材の組み合わせと結合する。以上より水域構造物の脚柱である既設杭同士を連結して、水域構造物の下部構造物を補剛するものである。
【非特許文献1】(財)沿岸開発技術研究センター編 「格点式ストラット工法技術マニュアル」 平成12年9月発行 p.9−82
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来のような格点式ストラット工法にあっては、なおも以下に説明するような問題を生ずる。つまり、鞘管付きのストラット部材は水平方向に長いため、既設の下部構造物にストラット部材を取り付けるためには、既設の上部構造物を一旦撤去し、下部構造物の上方からストラット部材を下部構造物の上下方向所定部位に設置する必要がある。
このため、上部構造物が健全であったり僅かな工数で補修可能であったりして、上部構造物を使用できる場合には、たとえ上部構造物を一旦撤去することが可能であるとしても、上部構造物の撤去および再設置に多くの労力と時間を要することとなり、コストアップの大きな要因となる。
【0004】
本発明は、このような水域構造物の上部構造物の撤去および再設置という工程を必要とせず、少ない労力で効率的に下部構造物を補強することができる施工方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため本発明による水域構造物の補強工法は、請求項1に記載のごとく、
水面上に突出した杭群を具えた下部構造物と、前記杭群の上部に取り付けた上部構造物とよりなる水域構造物を補強するに際し、
前記下部構造物の補強に供するストラット部材を前記水面に浮かべ、該ストラット部材を前記杭群の間まで曳航する工程と、
前記杭群の上下方向所定部位に前記ストラット部材の両端を各々結合する工程とを含むことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
かかる本発明の水域構造物の補強工法によれば、下部構造物の横外方からストラット部材を搬入して当該下部構造物に取り付けることが可能となるため、既設の上部構造物をそのまま活かして桟橋を補強することができ、上部構造物を一旦撤去および再設置する必要がない。したがって、労力および工期の点で優れ、コスト上大いに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は本発明になる第1実施例の補強工法の施工手順を示すフローチャートである。図2〜図6はこのフローチャートの則り施工する第1実施例の補強工法を施工中の桟橋を示す図である。図7〜図9は第1実施例の補強工法を施工後の桟橋を示す図である。
図2に示すように、補強工法の対象である既設の桟橋1は、脚柱2からなる下部構造物と、床板および梁等からなる上部構造物3とから構成される。桟橋1の下部構造物である脚柱2は、複数本の鋼管杭からなり、鋼管杭2の下端を地盤に打ち込んである。水面から突出した鋼管杭2の上端は、上部構造物3を支持する。
【0008】
第1実施例の補強工法はまず、桟橋から離れた位置で、複数の鋼管杭2からなる下部構造物の補強に供するストラット部材4を水面に浮かべる。ストラット部材4は鋼管からなり、水没しないよう発泡スチロール等でできたフロータを取り付ける。あるいは、ストラット部材4の両端を水密に密封しておき、ストラット部材4自身にフロータの機能をもたせてもよい。あるいは、これらの組み合わせにより、ストラット部材4を水面に浮かべる。
【0009】
ストラット部材4は入れ子状であって、両端間が伸縮可能である。
図3は両端間を短くしたストラット部材4にフロータ6を取り付けて水面に浮かべた状態を示す図であり、(a)は水面方向から見た側面図である。また(b)は上方から見た平面図である。図3に示すようにストラット部材4は、両端が夫々半割形状の鞘管部5と結合している。鞘管部5は、図3(b)に示すように中空円筒を半割にした半円状であり、杭2の周囲を包囲するのに適した形状である。半割にされた端面には、フランジ5fを立接し、該フランジ5fには接合ボルト5bを挿通しておく。また、これらフランジ5fを補強するためのリブ板5rを設ける。そして図3(a)に示すように、鞘管部5が上下方向に延在する姿勢でストラット部材4を略水平に浮かべる。
そしてストラット部材4を水面に浮かべた状態で、図2に示すように鋼管杭2の間まで曳航する。
【0010】
ストラット部材4は、中空の外管7と、該外管7の中に長手方向相対移動可能に設けられた内管8とを具え、外管7の一端から内管8を引出し乃至引込むことにより伸縮可能である。外管7の他端には半割形状の鞘管部5を結合する。また内管8の両端のうち、外管7の中にある一端と反対側の他端にも半割形状の鞘管部5を結合する。図2および図3に示すように、ストラット部材4を曳航する工程では、両端間を短くしておく。杭2,2間にストラット部材4を曳航してセットする作業を容易にするためである。
【0011】
図3に示すようにストラット部材4の端部にはストラット部材4を挟んで一対のフロータ6,6を取り付ける。フロータ6は大きな浮力が得られる発泡スチロール製またはFRP製等が考えられる。
【0012】
図2に示すように短くしたストラット部材4を、杭2,2間に曳航すると、このストラット部材4の両端を伸ばして、図4に示すようにストラット部材4の両端を杭2に合わせる。そして、複数のストラット部材4を一列に隣接配置し、隣接するストラット部材4の端部である鞘管部5同士を一体に連結する。これにより、半割形状の鞘管部5,5は杭2を包囲するよう相互に接合される。具体的には、鞘管部5のフランジ5f同士を突き合わせ、接合ボルト5bを締結する。以上より、ストラット部材4を杭2,2間にセットする。
【0013】
図5は、両端間を伸ばしたストラット部材4を水面に浮かべた状態を示す図であり、(a)は水面方向から見た側面図である。また(b)は上方から見た平面図である。
【0014】
図4に示すようにストラット部材4をセットすると、図6の正面図に示すようにストラット部材4を水面より下方にスライドさせてブラケット9上に載置する。これによりストラット部材4を上下方向所定部位に位置決めする。なお、ストラット部材4を杭2の間にセットした状態では、ストラット部材4の両端が杭2から離れることはないが、両端間で伸縮可能であるため、杭2が鉛直方向に延在しておらず傾斜していても、ストラット部材4を上下方向にスライドさせることが可能である。
【0015】
図6に示すようにストラット部材4を位置決めすると、図7の正面図に示すようにストラット部材4の両端を杭2に各々結合する。これら両端の結合には後述する膨張モルタルを用いる。これにより桟橋1の補強が完了する。図8は、図7に示す補強後の桟橋1を上方から見た平面図であって下部構造物を透視した状態を示す。
【0016】
図9は、上記図7および図8に示す一列に結合された3個のストラット部材4、4R、4Lを取り出して表す平面図である。
図9中、鞘管部5が杭2を包囲する4箇所には、膨張モルタルを注入する。これにより、杭2の上下方向所定部位にストラット部材4の両端を各々結合する。
【0017】
また外管7および内管8が接合する接合部10の3箇所には、膨張モルタルを注入する。これにより、1本のストラット部材4が2本の杭2,2を剛に連結する。さらに、3連のストラット部材4L,4R、4は剛に結合されて、複数の杭2を連結する一本の補剛材21として機能し、桟橋1を一層補強することができる。図9に示すように、第1実施例によれば、複数個のストラット部材4L,4R,4の端部5,5同士を相互に連結して1本にすることが理解されよう。
【0018】
図10は、上記の図9に示す接合部10を拡大して示す縦断面図である。また図11は接合部10の横断面図である。
ストラット部材4の外管7の中には内管8を長手方向相対移動可能に設けてあり、外管7の内径は内管8の外径よりもひとまわり大きいため、両者7,8間には隙間11が介在する。隙間11には、これら外管7および内管8の間隔を一定に保持するスペーサ12を設ける。好ましくは図11に示すように周方向等間隔90度にスペーサ12を設けるとよく、長手方向にも図10に示すように最低2箇所スペーサ12を設けるとよい。これにより、径方向の隙間幅を一定に保持することができる。
【0019】
接合部10にある外管7の一端には、外管7の全内周に亘って隙間11をシールするための漏洩防止ゴム部材13を設ける。また接合部10にある内管8の一端にも、内管8の全外周に亘って隙間11をシールするための漏洩防止ゴム部材14を設ける。これら漏洩防止ゴム部材13、14と、管7,8によって隙間11は密封され、隙間11に膨張モルタルを注入する際には膨張モルタルの漏洩を防止して効率よく注入作業を行うことができる。
【0020】
外管7のうち接合部10の下側には膨張モルタルを注入するための注入孔15を設ける。また外管7のうち接合部10の上側には上記注入のための空気抜き孔16を設ける。ストラット部材4の両端に設けた鞘管部5,5を鋼管杭2、2に各々位置決めし、注入孔15から隙間11に膨張モルタルを注入する。膨張モルタルは凝固して、これにより外管7と内管8を結合する。
【0021】
また一列に隣接配置するストラット部材4,4を相互に連結することにつき図9に沿って補足説明すると、連結は一方のストラット部材4Lの鞘管部5Lと、他方のストラット部材4Rの鞘管部5Rとを突き合わせて接合ボルト5bで締結することにより行う。そして、これら鞘管部5L,5Rで鋼管杭2を包囲する。最後に、鋼管杭2と鞘管部5L,5Rとの隙間19に膨張モルタルを注入する。膨張モルタルは凝固して、これにより鋼管杭2と鞘管部5L,5Rとを結合する。
【0022】
また前述した図9に示す補剛材21の端部につき補足説明すると、一方のストラット部材4Lの鞘管部5Eと、半割鞘管5Sとを突き合わせて接合ボルト5bで締結し、これら鞘管部5Eおよび半割鞘管5Sで鋼管杭2を包囲する。そして、鋼管杭2と鞘管5E,5Sとの隙間19に膨張モルタルを注入する。膨張モルタルは凝固して、これにより鋼管杭2と鞘管5E,5Sとを結合する。
【0023】
図1は、上述した両端間で伸縮可能なストラット部材4を用いた桟橋の補強方法の施工手順を示すフローチャートである。このフローチャートに沿って、上述した補強方法につき説明すると、
まずステップS1において、既設杭2の外周に付着した貝および海草を除去する。
次のステップS2において、前述した図3に示すストラット部材4を杭2,2の間まで曳航する(図2)。
次のステップS3において、連結対象となる鋼管杭2,2間にストラット部材4をセットする(図2)。
【0024】
次のステップS4において、ストラット部材4を前述した図5に示すように伸ばし、ストラット部材4の両端を連結対象となる鋼管杭2,2の間隔に合わせる(図4)。
次のステップS5において、1のストラット部材4の鞘管部5と、隣接するストラット部材4の鞘管部5とをボルトで接合する。これによりストラット部材4の両端を、図4の正面図に示すように、鋼管杭2に夫々セットする。このセット状態では、鞘管部5の内周径が鋼管杭2の外周径よりも十分大きく、両者2,5間には十分な隙間19がある。したがって、セットされた鞘管部5は鋼管杭2上を長手(上下)方向にスライド可能である。
【0025】
説明を図1に戻すと、次のステップS6において、上部構造物3の梁下に図示しないアンカーを取り付ける。
次のステップS7において、上記のアンカーから図示しないチェーンブロック等を介してセットされたストラット部材4を吊り上げる。
次のステップS8において、既設杭2の水中の上下方向所定部位に、位置決めのためのブラケット9を取り付ける。
【0026】
次のステップS9において、フロータ6をストラット部材4から取り外す。
次のステップS10において、上記のチェーンブロック等を調節することにより、セットされた鞘管部5を杭2上でスライドさせて、ストラット部材4をブラケット9に載置し、上下方向所定部位に位置決めする(図6)。
【0027】
次のステップS11において、ストラット部材4の鞘管部5および接合部10に膨張モルタルを注入してこれらを相対移動不能に結合する。具体的には上述した図10および図11に示すように、鞘管部5における鋼管杭2との隙間、および接合部10における外管7と内管8との隙間11に膨張モルタルを充填し、膨張モルタルが凝固するまでこれら鞘管部5および接合部10を養生する。ステップS11を抜けると、本フローチャートを終了する。これにより補強工法が完了する(図7〜図9)。
【0028】
次に、鞘管部5の変形例に係る第2実施例を説明する。図12は第2実施例のストラット部材4を曳航して杭2,2間にセットする様子を示す平面図である。図13は第2実施例のストラット部材4を杭2に取り付けた状態を示す平面図である。第2実施例のストラット部材4の両端には杭2の杭体周囲を包囲するのに適した半割形状の鞘管部5を設けている点で、上述した図1〜図11に示す第1実施例と共通する。しかしながら、この鞘管部5の内周面5Sの中心軸線nをストラット部材4の長手方向軸Oに対し斜め方向に向けてストラット部材4の両端に結合した点で異なる。
【0029】
図13に示すように、内周面5Sの中心軸線nの向きが長手方向軸O対し斜めになることから、杭2,2間にセットするのが容易になり、施工性が向上する。さらに、図3(b)および図5(b)に示す鞘管部5の内周面の中心軸線がストラット部材4の長手方向軸と一致する実施例と比較して、ストラット部材4の両端を縮める距離を少なくすることができる。
【0030】
次に、本発明の第3実施例を説明する。
図1〜図13に示す第1実施例および第2実施例では、1本のストラット部材4の両端に夫々鞘管部5を具えた部材を、補強工法で用いるストラット部材の基本単位とするが、3本以上の杭2を1本のストラット部材で相互に連結することが可能となるよう、ストラット部材の中程にも少なくとも1個の鞘管部5を設け、ストラット部材中程の鞘管部5,5同士間で伸縮可能とし、ストラット部材中程の鞘管部5とストラット部材端部の鞘管部5との間で伸縮可能とする。ストラット部材の両端および中程で杭2と結合するストラット部材を以下、連続ストラット部材31と呼ぶ。
【0031】
連続ストラット部材31は図14に示すように、複数のストラット部材4が一列に並んだ構成である。桟橋1の下部構造物が2箇所以上の杭2間隔を有する場合には、施工対象となる桟橋の杭2間隔に合わせて連続ストラット部材31を工場製作する。
【0032】
具体的には図14に示すように、例えば3連のストラット部材4,4,4を、鞘管部5を介して一列になるよう相互に結合して一本の連続ストラット部材31を構成する。鞘管部5は半割管状である。連続ストラット部材31の中程に設けた鞘管部5の略半周円弧の一方端を一方のトラット部材4と結合し、他方端を他方のトラット部材4と結合する。また連続ストラット部材31の端部に設けた鞘管部5の略半周円弧の一方端を一方のトラット部材4と結合する。
図14に示すように鞘管部5の軸線が平行になるよう、かつストラット部材4の長手方向に対し垂直になるよう配置するのは、施工対象となる桟橋1の鋼管杭2がすべて鉛直に伸びているためである。図には示さなかったが、杭2が水平面に対し傾斜している場合には、鞘管部5の軸線もストラット部材4の長手方向に対し同様に傾斜させて設ければよく、鞘管部5の配置方向は、このように鋼管杭2の向きに依ること勿論である。
【0033】
第3実施例の施工手順も、基本的には図1のフローチャートと同じである。まず図14に示すように、鞘管部5の長手方向が水平になるよう連続ストラット部材31を水面に浮かべて曳航する(図1のステップS2)。
なお、浮かべたときの鞘管部5の軸線方向を、施工条件に適合するよう任意に選択することができ、前述した図3に示す鉛直向きにしてもよい。
【0034】
鞘管部5の軸線方向が水平になるよう浮かべる第3実施例では、図15に示すように、連続ストラット部材31を杭2の近傍まで曳航すると、チェーンブロック等を用いて、連続ストラット部材31を起立させて鞘管部5の軸線方向を鉛直にし、連続ストラット部材31の両端および中程に設けた鞘管部5を杭2に各々セットする。具体的には、鞘管部5とほぼ同じ大きさ・形状の半割鞘管(図9に示す半割鞘管5Sに相当)を杭2近傍まで曳航する。そして、杭2を包囲するよう、鞘管部5に半割鞘管をボルト接合する。
【0035】
図16は、連続ストラット部材31を鋼管杭2にセットした状態を示す(図1のステップS3)。ストラット部材4のセット位置が、杭2の上下方向において適切な部位でなければ、チェーンブロック等で連続ストラット部材31上下方向位置を修正する。そして位置決めが完了すれば、鞘管部5の内周と杭2の外周との隙間に膨張モルタルを注入して、連続ストラット部材31を杭2に結合する。
以上より、杭2の上下方向所定部位に連続ストラット部材31を結合する(図1のステップS11)。
【0036】
上述した図1〜図3に示す実施例では、連続ストラット部材31の構成要素であるストラット部材4自身が両端間で長手方向に伸縮するものであるが、
杭2同士の間隔や杭2の傾きなど、桟橋1の状態によっては、ストラット部材4を両端間で伸縮しない構成にしておき、連続ストラット部材31を杭2の近傍まで曳航し、施工現場でストラット4を伸ばすことなく杭2にセットすることが施工有利な場合もある。
【0037】
ところでこれまでに説明してきた実施例では、水面上に突出した杭2群を具えた下部構造物と、杭2群の上部に取り付けた上部構造物3とよりなる桟橋1を補強するに際し、下部構造物の補強に供するストラット部材4を水面に浮かべ、ストラット部材4を杭2群の間まで曳航する工程(図1のステップS2)と、杭2群の上下方向所定部位にストラット部材4の両端を各々結合する工程(図1のステップS11)とを行うことから、
桟橋1の下部構造物の横外方からストラット部材4を搬入して当該下部構造物に取り付けることが可能となる。したがって、既設の上部構造物3をそのまま活かして桟橋1を補強することができ、上部構造物3を一旦撤去および再設置する必要がなければ、上部構造物3を移設する大型クレーンも必要ない。このため、労力および工期の点で優れ、コスト上大いに有利である。
【0038】
また、図3および図5に示すように、ストラット部材4は両端間で伸縮可能であることから、杭2の間にストラット部材4を容易にセットすることができる。またストラット部材4の長さを柔軟に変更することができ、既設の鋼管杭2にストラット部材4の両端を精度よく合わせることができる。
【0039】
また、ストラット部材4を外管7および内管8からなる入れ子状にして伸縮可能とし、
ストラット部材4の両端5を杭2に結合する際、入れ子状の外管7および内管8間に膨張モルタルといった凝固材を注入することから、
ストラット部材4の曲げ剛性を向上させて、桟橋1を効果的に補強することができる。
なお凝固材は、膨張モルタルの他、通常のモルタルや樹脂であってもよい。
【0040】
具体的には図10および図11に示すように、ストラット部材4は、中空の外管7と、外管7の中に長手方向相対移動可能に設けられた内管8とを具え、外管7の一端から内管8を引出し乃至引込むことにより伸縮可能である。外管7と内管8との隙間11には、これら外管7および内管8間の直角方向の間隔を一定に保持するスペーサ12を設ける。ストラット部材4の両端5を杭2群に連結した後、隙間11に膨張モルタルなどの凝固材を注入して外管7および内管8を相対移動不能に結合する。
好ましくは、全周に亘って隙間11をシールするための漏洩防止ゴム部材13,14を接合部10の長手方向両側に設ける。これにより、隙間11に膨張モルタルを注入する際には膨張モルタルの漏洩を防止して効率よく注入作業を行うことができる。
【0041】
また本実施例では、ストラット部材4の両端に、杭2群の杭体周囲を包囲するのに適した半割形状の鞘管部5を設けたことから、ストラット部材4を杭2にセットした後、上下方向(杭2の長手方向)にストラット部材4をスライドすることが可能となり、ストラット部材4の位置決めが容易になる。
【0042】
特に、図12および図13に示すように、半割形状の鞘管部5の内周面5Sをストラット部材4の長手方向軸線Oに対し斜め方向に向けた実施例では、内周面5Sの中心軸線nが長手方向軸線Oに対し斜めになることから、
杭2,2間にストラット部材4をセットするのが容易になり、施工性が向上する。さらに、図3(b)および図5(b)に示す鞘管部5の内周面の中心軸線がストラット部材4の長手方向軸と一致する実施例と比較して、曳航する工程で予めストラット部材4の両端を縮めておく距離を少なくすることができる。
【0043】
あるいは、図14〜図16に示すストラット部材は、該ストラット部材の両端が杭2群と各々結合し、該ストラット部材の中程が少なくとも1本の杭2群と結合する連続ストラット部材31であり、結合する工程で、連続ストラット部材31の両端5および中程5を杭2群と各々結合する。これによっても、一本の連続ストラット部材31で、多数の杭2,2,2,2を連結することができる。
【0044】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨に逸脱しない範囲において種々変更が加えられうるものである。例えば連続ストラット部材31は、上述した直線形状の他、図には示さなかったが中程で折り返した形状であってもよい。例えば、2本の杭2,2を連結する、中程で折り返した形状の連続ストラット部材として、連続ストラット部材31の一端が一方の杭2と結合し、連続ストラット部材31の中程が他方の杭2と結合し、連続ストラット部材31の他端が再び一方の杭2と結合するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施例になる水域構造物の補強工法の施工手順を示すフローチャートである。
【図2】同実施例になる補強工法を施工中の桟橋を示す正面図である。
【図3】同実施例になる伸縮可能なストラット部材を、両端間を短くして水面に浮かべた状態を示す図であり、(a)は水面方向から見た側面図である。また(b)は上方から見た平面図である。
【図4】同実施例になる補強工法を施工中の桟橋を示す正面図である。
【図5】同実施例になる伸縮可能なストラット部材を、両端間を伸ばして水面に浮かべた状態を示す図であり、(a)は水面方向から見た側面図である。また(b)は上方から見た平面図である。
【図6】同実施例になる補強工法を施工中の桟橋を示す正面図である。
【図7】同実施例になる補強工法の施工後の桟橋を示す正面図である。
【図8】同実施例になる補強工法の施工後の桟橋を示す平面図である。
【図9】同実施例になる一列に連結された3個のストラット部材を取り出して示す平面図である。
【図10】同実施例になるストラット部材の接合部を拡大して示す縦断面図である。
【図11】同ストラット部材の接合部を拡大して示す横断面図である。
【図12】本発明の第2実施例になる補強工法を施工中の様子を示す平面図である。
【図13】同実施例になる補強工法の施工後を示す平面図である。
【図14】本発明の第3実施例になる補強工法を施工中の桟橋を示す正面図である。
【図15】同実施例になる補強工法を施工中の桟橋を示す正面図である。
【図16】同実施例になる補強工法を施工中の桟橋を示す正面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 桟橋
2 杭
3 上部構造物
4 ストラット部材
5 鞘管部
6 フロータ
7 外管
8 内管
9 ブラケット
10 接合部
11 接合部の隙間
12 スペーサ(金具)
13,14 漏洩防止ゴム部材
15 注入孔
16 空気抜き孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面上に突出した杭群を具えた下部構造物と、前記杭群の上部に取り付けた上部構造物とよりなる水域構造物を補強するに際し、
前記下部構造物の補強に供するストラット部材を前記水面に浮かべ、該ストラット部材を前記杭群の間まで曳航する工程と、
前記杭群の上下方向所定部位に前記ストラット部材の両端を各々結合する工程とを含むことを特徴とする水域構造物の補強工法。
【請求項2】
請求項1に記載の水域構造物の補強工法において、前記ストラット部材は両端間で伸縮可能であることを特徴とする水域構造物の補強工法。
【請求項3】
請求項2に記載の水域構造物の補強工法において、
前記ストラット部材を入れ子状にして前記伸縮可能となし、
前記結合する工程で、前記ストラット部材の両端を前記杭群に対して位置決めした後、前記入れ子状の伸縮要素同士間に凝固材を注入することを特徴とする水域構造物の補強工法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水域構造物の補強工法において、
前記ストラット部材の両端に、前記杭群の杭体周囲を包囲するのに適した半割形状の鞘管部を設けたことを特徴とする水域構造物の補強工法。
【請求項5】
請求項4に記載の水域構造物の補強工法において、
前記鞘管部の内周面を前記ストラット部材の長手方向に対し斜め方向に向けたことを特徴とする水域構造物の補強工法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水域構造物の補強工法において、
前記ストラット部材は、該ストラット部材の両端が前記杭群と各々結合し、該ストラット部材の中程が少なくとも1本の前記杭群と結合する連続ストラット部材であり、
前記結合する工程で、前記連続ストラット部材の両端および中程を前記杭群と各々結合することを特徴とする水域構造物の補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−223384(P2008−223384A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65310(P2007−65310)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000172961)あおみ建設株式会社 (21)
【Fターム(参考)】