説明

水封ボーリングシステム

【課題】孔壁の目詰まりを防止する循環式の水封ボーリングシステムを提供する。
【解決手段】ボーリング孔2内に給排水することにより孔2内で水封水を循環させる循環式の水封ボーリングシステム10であって、孔口2aを閉塞するパッカー12と、パッカー12を貫通して設けられた外管14と、外管14内を通って孔底2b近傍まで挿入配置され、その外周面16aに孔壁面2cとの間の隙間22を確保し、水封水の流向を制御するためのスペーサー20が突設された内管16とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水圧により液化石油ガス等を岩盤内に封じ込める水封式地下岩盤貯槽方式に用いる水封ボーリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地下水圧により液化石油ガス等を岩盤内に封じ込める水封式岩盤備蓄施設において、地下タンクの上側に複数本配置される水封ボーリングが知られている(例えば、特許文献1参照)。この水封ボーリングから、地下タンクに延びる亀裂等に密封水(以下、水封水ということがある。)を送り込むことによって、地下タンクの周りに十分な地下水圧が確保されるようにしている。
【0003】
図3は、特許文献1の水封装置の概略の側断面図である。図3に示すように、特許文献1の水封装置は、水封ボーリング孔2の開口側を閉塞するパッカー4と、パッカー4を長さ方向に貫通して固定された金属製の循環用パイプ6とからなる。循環用パイプ6は、外側パイプ6aと、この外側パイプ6a内に同心的に配置された内側パイプ6bとから構成され、内側パイプ6bの内部を給水路とし、外側パイプ6aと内側パイプ6bの間を環状の排水路としてある。この構成において、図示しない密封水源の水は、給水路から水封ボーリング孔2内に入り、排水路を出て密封水源に戻る経路を循環している。
【0004】
一方、先端に高圧回転ノズルを設けたホースを深井戸管内に吊り下げ、この高圧回転ノズルの噴射によって、深井戸管内のスクリーンに目詰まりしている泥等を除去する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
他方、地盤改良工法に用いられる井戸揚水管を外側から覆うストレーナ管の内周面に、螺旋状の補強用リブを突設したものが知られている(例えば、特許文献3参照)。特許文献3の補強用リブは、土圧や水圧による管壁の変形を抑え、ストレーナ管壁の内周面と揚水管の外周面との間に隙間を確実に確保するためのものであり、この隙間における水の流れを制御するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−23616号公報
【特許文献2】特開2001−193106号公報
【特許文献3】特開2008−274610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の水封ボーリングは、孔底に向かって下側に若干傾斜するように、例えば延長70m程度のボーリング掘削により形成されるものである。上記の従来の図3の水封装置において、内側パイプ6b(以下、注水管という。)が孔底まで延びている場合には、これを孔2の内部で空間的に支持するものが無いので、注水管6bを孔内中心に位置させることは困難である。ボーリング孔2と注水管6bの軸心がずれていると孔内で偏流が生じ、水封水が孔内を万遍なく循環することは難しい。
【0008】
また、注水管6bの先端位置をボーリング孔口元付近のパッカー4に近い位置とすれば、注水管6bはパッカー4により保持される。しかしながら、水封水の流れは、注水管6bから孔底に向かう方向の流れと、注水管6bから出てすぐに排水路に向かう直線的な流れとが卓越して、孔内全体に大きな循環流れが生じないおそれがある。
【0009】
孔内での水封水の循環が十分でない場合には、孔壁において目詰まりが生じ、所定の水圧を周囲の岩盤に作用させることができず、水封ボーリングシステムの機能が損なわれてしまう。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、孔壁の目詰まりを防止する循環式の水封ボーリングシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る水封ボーリングシステムは、ボーリング孔内に給排水することにより前記孔内で水封水を循環させる循環式の水封ボーリングシステムであって、前記孔口を閉塞するパッカーと、前記パッカーを貫通して設けられた外管と、前記外管内を通って前記孔底近傍まで挿入配置され、その外周面に前記孔壁面との間の隙間を確保し、水封水の流向を制御するためのスペーサーが突設された内管とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る水封ボーリングシステムは、上述した請求項1において、前記スペーサーは、前記内管の外周面に沿う螺旋状に配置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係る水封ボーリングシステムは、上述した請求項1において、前記スペーサーは、前記内管の軸心から前記孔壁に向けて延びる放射状に配置されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係る水封ボーリングシステムは、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、前記外管と前記内管との間の環状の通路と、前記内管の内部の通路のいずれか一方の通路を給水路とし、他方を排水路とする給排水路の切り替えを可能としたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項5に係る水封ボーリングシステムは、上述した請求項4において、定期的に給排水路の切り替えを行い、前記孔壁を定期的に洗浄する制御を行う洗浄制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボーリング孔内に給排水することにより前記孔内で水封水を循環させる循環式の水封ボーリングシステムであって、前記孔口を閉塞するパッカーと、前記パッカーを貫通して設けられた外管と、前記外管内を通って前記孔底近傍まで挿入配置され、その外周面に前記孔壁面との間の隙間を確保し、水封水の流向を制御するためのスペーサーが突設された内管とを備える。
【0017】
スペーサーを介して内管を水封ボーリング孔断面中央に保持することで、内管外周面と孔壁面との間に水封水を流すための隙間が孔全長にわたって確保される。給排水によってこの隙間に水封水を流して孔壁沿いの流れを強制発生させることにより、孔壁面に付着した目詰まり物質を洗い流し、孔壁の目詰まりを防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明に係る水封ボーリングシステムの一例を示す側断面図である。
【図2】図2は、スペーサーが放射状である場合の水封ボーリング孔の断面図である。
【図3】図3は、従来の水封装置の一例を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る水封ボーリングシステムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、本発明に係る水封ボーリングシステム10は、岩盤内に設けた円形断面の水封ボーリング孔2内で水封水を循環させる循環式のシステムであり、孔口2aを閉塞するパッカー12と、パッカー12を貫通して設けられた外管14と、外管14内を通って孔底2b近傍まで挿入配置された内管16とを備える。外管14と内管16との間の環状の通路18aを、孔2の内部へ給水する給水路とし、内管16内の通路18bを孔2の外部へ排水する排水路としてある。
【0021】
内管16は、孔2内部で拡径しており、外管14はパッカー12近傍で開口して内管16のこの拡径区間を内挿することなく、隙間22と連通した状態となっている。
【0022】
この内管16は、例えば塩化ビニル等の材質で構成され、その外周には、薄い羽状に突出したスペーサー20が外周面16aに沿って螺旋状に配置してある。このスペーサー20は、内管16が孔2の内部で撓まないように、内管16を水封ボーリング孔2の断面中央に保持させるためのものである。スペーサー20を設けることによって、内管16の外周面16aと孔壁面2cとの間の隙間22を流れる水封水の水流を孔2の全長にわたって確保し、水封水が孔壁面2cをなぞるように流れを制御することが可能となる。
【0023】
ここで、スペーサー20は、外周面16aに螺旋状に配置する代わりに、図2に示すように、断面視で内管16の軸心Cから孔壁面2cに向けて延びる放射状に配置してもよいし、さらに、こうした放射状と上記の螺旋状とを組み合わせてもよく、例えば、複数枚の薄い羽根が内管外周に螺旋状に配置されるような構成であってもよい。いずれにせよ、内管16を水封ボーリング孔2の断面中央に保持させて、孔壁面2cに沿う水封水の流向を制御することが可能な配置形状であればいかなる形状であってもよい。
【0024】
上記構成の動作および作用について説明する。
図1に示すように、環状の通路18aから孔内に給水された水封水は、螺旋状のスペーサー20によって確保された隙間22を、内管16の外周をスペーサー20に導かれるように螺旋状に回りながら図中矢印の向きに孔底2bに向けて流れる。そして、孔底2bに到達した水封水は、孔底2b近傍の内管16の開口端16bに入って内管16内の通路18bを破線の矢印の向きにボーリング孔口2a側に流れ、孔2の外部へ排水される。これにより、孔2の全長にわたって水封水の循環流が形成される。このとき、隙間22における孔壁面2cに沿う螺旋状の水流によって、孔壁に付着した目詰まり物質が洗い流されることとなる。
【0025】
このように、内管外周面16aと孔壁面2cとの間にスペーサー20を設けることで、内管16を孔内に同心位置に保持するとともに、孔壁面2c沿いの流れを強制的に発生させ、この流れによって孔壁を洗浄して、孔壁の目詰まり物質を除去する。これにより、孔壁の目詰まりを防止することができる。
【0026】
また、スペーサー20を介して孔内に保持される内管16を孔底2b近傍まで挿入することにより、孔内全体で水封水の滞流を防止することが可能となる。さらに、孔底2bに最も近い位置のスペーサー20の螺旋部分が、環状の通路18aから供給される水の逆流を防ぐ役割を果たすので、孔内におけるよりスムーズな給排水が可能となる。
【0027】
上記の実施の形態において、外管14と内管16との間の環状の通路18aを給水路とし、内管16内の通路18bを排水路とした場合について説明したが、逆に、環状の通路18aを排水路とし、内管16内の通路18bを給水路とすることもできる。また、外管14と内管16との間の環状の通路18aと、内管16内の通路18bのいずれか一方の通路を給水路とし、他方を排水路とするように給排水路の切り替えが可能な構成としてもよい。そして、定期的に給排水路を切り替えて通路18aの水を逆流させることにより、洗浄力をより高めてもよい。これにより、目詰まり防止効果をさらに向上させることができる。
【0028】
この場合、内管16と外管14は、給水、排水の切り替え可能な設備と連結させることができる。こうした設備としては、例えば、流路切替バルブや、正転および逆転動作が可能な送水ポンプなどを組み合わせた構成を用いることができる。
【0029】
また、本発明の水封ボーリングシステム10は、定期的に給排水路の切り替えを行い、孔壁を定期的に洗浄する制御を行う洗浄制御手段を有する構成としてもよい。この場合、タイマー動作によって洗浄制御手段を所望の時間帯に自動的に作動させて孔壁沿いの水流を反転させ、孔壁の目詰まり物質を洗浄してもよい。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、ボーリング孔内に給排水することにより前記孔内で水封水を循環させる循環式の水封ボーリングシステムであって、前記孔口を閉塞するパッカーと、前記パッカーを貫通して設けられた外管と、前記外管内を通って前記孔底近傍まで挿入配置され、その外周面に前記孔壁面との間の隙間を確保し、水封水の流向を制御するためのスペーサーが突設された内管とを備える。
【0031】
スペーサーを介して内管を水封ボーリング孔断面中央に保持することで、内管外周面と孔壁面との間に水封水を流すための隙間が孔全長にわたって確保される。給排水によってこの隙間に水封水を流して孔壁沿いの流れを強制発生させることにより、孔壁面に付着した目詰まり物質を洗い流し、孔壁の目詰まりを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る水封ボーリングシステムは、地下水圧により液化石油ガス等を岩盤内に封じ込める水封式地下岩盤貯槽方式のような水封式岩盤備蓄基地の水封ボーリングに有用であり、特に、水封ボーリング孔内の目詰まりを防止するのに適している。
【符号の説明】
【0033】
2 水封ボーリング孔
2a 孔口
2b 孔底
2c 孔壁面
10 水封ボーリングシステム
12 パッカー
14 外管
16 内管
16a 内管の外周面
16b 内管の開口端
18a 環状の通路
18b 内管内の通路
20 スペーサー
22 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリング孔内に給排水することにより前記孔内で水封水を循環させる循環式の水封ボーリングシステムであって、
前記孔口を閉塞するパッカーと、
前記パッカーを貫通して設けられた外管と、
前記外管内を通って前記孔底近傍まで挿入配置され、その外周面に前記孔壁面との間の隙間を確保し、水封水の流向を制御するためのスペーサーが突設された内管とを備えることを特徴とする水封ボーリングシステム。
【請求項2】
前記スペーサーは、前記内管の外周面に沿う螺旋状に配置されることを特徴とする請求項1に記載の水封ボーリングシステム。
【請求項3】
前記スペーサーは、前記内管の軸心から前記孔壁に向けて延びる放射状に配置されることを特徴とする請求項1に記載の水封ボーリングシステム。
【請求項4】
前記外管と前記内管との間の環状の通路と、前記内管の内部の通路のいずれか一方の通路を給水路とし、他方を排水路とする給排水路の切り替えを可能としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の水封ボーリングシステム。
【請求項5】
定期的に給排水路の切り替えを行い、前記孔壁を定期的に洗浄する制御を行う洗浄制御手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の水封ボーリングシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38360(P2011−38360A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188694(P2009−188694)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】