水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置
【課題】低コストで作製でき、消費電力も小さく、M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正することができる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置を提供する。
【解決手段】水平偏向コイル87と、リニアリティコイル88と、S字補正コンデンサ89とを有し、水平偏向コイル87、リニアリティコイル88およびS字補正コンデンサ89が直列に接続されている水平偏向回路であって、S字補正コンデンサ89と並列に接続されたリニアリティ補正部1と、リニアリティ補正部1を制御する制御部2とを備えている。
【解決手段】水平偏向コイル87と、リニアリティコイル88と、S字補正コンデンサ89とを有し、水平偏向コイル87、リニアリティコイル88およびS字補正コンデンサ89が直列に接続されている水平偏向回路であって、S字補正コンデンサ89と並列に接続されたリニアリティ補正部1と、リニアリティ補正部1を制御する制御部2とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを水平方向に偏向させる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陰極線管装置は、水平偏向コイルを有する水平偏向回路を備えている。水平偏向コイルに電流が流れることで発生する磁界により、電子ビームは水平方向に偏向され、電子ビームによる走査が行われる。
【0003】
現在主流である陰極線管装置は、フラットなパネルを有しているため、管面の内壁曲率は無限に近い。そのため、走査の際に電子ビームを水平方向に等角速度で偏向すると、画面の左右端である水平端部に近い個所ほどリニアリティ(直線性)が伸びてしまい、S字歪みが生じる。S字歪みとは、画面に表示された画像の歪みであって、水平方向における端部のリニアリティが伸び、中央部のリニアリティが縮む歪みである。S字歪みを補正するため、例えばS字補正コンデンサと呼ばれるコンデンサが水平偏向コイルに直列に接続される。S字補正コンデンサが接続されることで、水平偏向コイルに流れる電流(水平偏向電流)が制御される。すなわち、水平偏向コイルに流れる水平偏向電流の単位時間あたりの変化量が制御される。
【0004】
ここで、水平端部で生じるS字歪みによる伸び量は、電子ビームの偏向角をθとするとtanθに比例するが、S字補正コンデンサによる補正量はsinθに比例する。そのため、S字歪みによる伸び量と補正量とには差が生じ、その差が歪みとして残ってしまう。このように、S字歪みを補正することで、一般的にM字歪みと呼ばれる歪みが生じる。
【0005】
M字歪みとは、画面に表示された画像の歪みであって、画面の水平方向における中央部および端部の中間(以下、中間部という)において、リニアリティが伸びる歪みである。しかし、陰極線管装置の管面の内壁曲率が、水平方向の中央部および水平端部であまり変化しないのであれば、生じるM字歪みは小さく、問題にならない。ところが、近年主流になってきた陰極線管装置のパネルは、画面の中央部および中間部においては、内面(管内の面)および外面(管外の面)共にフラットであるが、水平端部においては内面が曲率を有していて、さらに外面がフラットな構成である。つまり、パネルにおいて左右端だけが厚みが大きい構成である。このようなパネルは、コストダウンが可能であり強度も強いという効果を奏するが、M字歪みが顕著に生じるという問題がある。
【0006】
また、陰極線管装置の管面の内面曲率と水平偏向コイルから発生される磁界の偏向中心との差が大きい場合は、コンバージェンス、歪み、消費電力を優先するとインナーピン(内部糸巻き)歪みが顕著に発生する。なお、インナーピン歪みとは、画面に表示された画像の歪みであって、画面の垂直方向における端部(上下端)では水平方向において端部のリニアリティが縮み、垂直方向における中央部では水平方向において端部のリニアリティが伸びる歪みである。
【0007】
図11は、M字歪みおよびインナーピン歪みを説明するための陰極線管装置の画像表示を示す図である。図11(a)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じていない正常な画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図であり、図11(b)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じている画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図である。
【0008】
図11(a)において、画面100に円101a、101bおよび101cが表示されている。円101aは画面100の中央部に表示され、円101cは画面100の水平端部に表示され、円101bは画面100の中央部および水平端部の中間部(以下、単に中間部という)に表示されている。また、画面100には、画面を均等に分割する複数の縦線111が表示されている。なお、図11(a)および図11(b)には画面の垂直方向の中心位置を通る横線も示されている。
【0009】
ここで、図11(a)のように表示された円101a、101bおよび101cおよび縦線111は、M字歪みおよびインナーピン歪みにより、図11(b)に示すように表示される。つまり、画面100の中央部では円102aが表示されている。また、画面100の水平端部では水平方向に縮んだ円102cが表示されている。また、中間部では水平方向に伸びた円102bが表示されている。なお、円102aは若干水平方向に縮んではいるが、略真円であり、歪みは問題にならない。また、縦線112は、画面100の中央部および水平端部では直線であるが、中間部に近づくにつれ、中央部に向かって凸である曲線となる。これらのような歪みは、リニアリティ歪みであるM字歪みおよびインナーピン歪みによるものである。
【0010】
M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正するために、従来から種々の方法が提案されている。例えば、水平偏向電流の単位時間あたりの変化を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、M字歪みを補正するためには、画面中央部および水平端部を電子ビームが走査している際の水平偏向電流の単位時間あたりの変化を大きくし、中間部を電子ビームが走査している際の水平偏向電流の単位時間あたりの変化を小さくすればよい。また、インナーピン歪みを補正する場合も同様に、画面の垂直方向ごとに歪みを打ち消すように水平偏向電流の単位時間あたりの変化を制御すればよい。特許文献1には、このように水平偏向電流を制御し、M字歪みおよびインナーピン歪みを補正する補正回路が開示されている。
【0011】
この従来の補正回路について、図12を参照して説明する。図12は従来におけるリニアリティ歪みを補正する補正回路の構成を示すブロック図である。従来の補正回路200は、陰極線管装置(図示せず)に搭載されていて、水平偏向コイル205は偏向ヨーク(図示せず)の一部である。従来の補正回路200は、水平偏向コイル205と、水平偏向回路203と、トランス204と、S字歪み、M字歪み、インナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正するための補正波形を生成する波形生成部201と、補正波形を補正電圧として出力する出力部202とを備えている。なお、従来の補正回路では水平偏向コイル205が、水平偏向回路203の外部に形成されているが、水平偏向回路203の内部に形成されていてもよい。
【0012】
トランス204の2次巻線側は水平偏向コイル205および水平偏向回路203に接続されていて、1次巻線側には波形生成部201および出力部202が設けられている。波形生成部201が生成する補正波形は、陰極線管装置に入力される垂直同期信号および水平同期信号と同期して陰極線管装置のS字歪み、M字歪み、インナーピン歪み等の歪み特性に応じて、これら歪みを打ち消すような波形である。波形生成部201からの補正波形が、出力部202、トランス204を介して、水平偏向コイル205に入力されると、水平偏向電流の歪みが適切に補正される。
【特許文献1】特開2001−119600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記従来の補正回路は、水平偏向回路に加えて、波形生成部や出力部等を設置せねばならない。これらを作製するにはアンプやトランスやIC等の高価な素子が必要となる。そのため、従来の補正回路は、大型化する上に、回路が複雑で高価なものである。さらに消費電力も大きくなるため、使用コストが高くなる。したがって、上記従来の補正回路は実用的ではないという課題があった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、低コストで作製でき、消費電力も小さく、M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正することができる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の水平偏向回路は、水平偏向コイルと、リニアリティコイルと、S字補正コンデンサとを有し、前記水平偏向コイル、前記リニアリティコイルおよび前記S字補正コンデンサが直列に接続されている水平偏向回路であって、前記S字補正コンデンサと並列に接続されたリニアリティ補正部と、前記リニアリティ補正部を制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の陰極線管装置は、上記本発明の水平偏向回路を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コストで作製でき、消費電力も小さく、M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正することができる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の水平偏向回路は、直列接続されている水平偏向コイル、リニアリティコイルおよびS字補正コンデンサを備え、さらにS字補正コンデンサと並列に接続されたリニアリティ補正部と、リニアリティ補正部を制御する制御部とを備えている。このような構成であるため、本発明の水平偏向回路は、水平偏向コイルに流れる偏向電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。また、リニアリティ補正部および制御部は回路構成が容易であり、かつ設置スペースが少なくてすむので、作製が容易であり、水平偏向回路が大型化することがない。また、アンプやトランスやIC等高価な素子を用いる必要がないために、低コストで作製でき、消費電力も小さい。
【0019】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記リニアリティ補正部は、補正コイルと補正コンデンサとを備えている。それにより、リニアリティ補正部を低価格で作製することができる。
【0020】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、前記補正コンデンサと直列に接続されている。それにより、補正コンデンサに流れる電流量を変調することができる。したがって、水平偏向コイルに流れる電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。
【0021】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、前記補正コンデンサと並列に接続されている。それにより、補正コンデンサの蓄積電荷量(電圧)を制御することができる。したがって、水平偏向コイルに流れる電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。
【0022】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記補正コイルは可変コイルである。それにより、リニアリティ補正を微調整することができる。
【0023】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、電源変調信号により制御されている。このように、水平方向の振幅や、ピンクッション歪みを補正するための電源変調信号を、リニアリティ補正部の制御部の制御信号として用いているため、新たに制御信号作成用の回路を設置する必要がない。したがって、低コスト、低消費電力でインナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。なお、電源変調信号とは、画面の垂直方向の各個所における水平方向の画像の大きさを制御する信号であり、ピンクッション歪みを補正するための信号も含んでいる。
【0024】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、前記電源変調信号を反転させるインバータ素子を備えている。それにより、制御部は電源変調信号を用いて、リニアリティ補正部を制御することができる。
【0025】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記S字補正コンデンサの特性および前記リニアリティ補正部の特性は、前記水平偏向コイルに流れる水平偏向電流の周波数に応じて制御されている。それにより、本発明の水平偏向回路は、水平偏向電流の周波数の変化に応じて、最適の補正を行うことができる。例えば、複数の偏向周波数モードを持つTVセットに用いた場合でも、偏向周波数モードに応じて、最適のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。
【0026】
また、本発明の陰極線管装置は、上記本発明の水平偏向回路を備えている。それにより、本発明の陰極線管装置は、高画質化が可能である上、低コストで作製でき、消費電力も小さい。
【0027】
以下、本発明の実施形態の具体的な例について、図面を用いて説明する。
【0028】
まず、一般的な水平偏向回路について図9を用いて説明する。図9は、一般的な水平偏向回路の構成を示す回路図である。水平偏向回路は、陰極線管装置に搭載されている。水平偏向回路の水平偏向コイルに電流(以下、水平偏向電流という)が流れることで発生する磁界により、電子ビームは画面の左右方向(水平方向)に偏向される。このように、電子ビームによる走査が行われることで、陰極線管装置の画面に画像が表示される。
【0029】
図9に示されているように、従来の水平偏向回路は直流電源(+B)84と、電源出力トランジスタ90とチョークコイル83と、水平出力トランジスタ82と、共振コンデンサ85と、ダンパーダイオード86と、水平偏向コイル87と、リニアリティコイル88と、S字補正コンデンサ89とを備えている共振回路である。電源出力トランジスタ90のドレインに直流電源84が接続され、ソースにチョークコイル83の一端が接続されている。また、電源出力トランジスタ90のゲートには電源変調信号が入力されている。チョークコイル83の他端は水平出力トランジスタ82のコレクタに接続されている。水平出力トランジスタ82のエミッタは接地されていて、ベースからは水平周期のドライブ信号(水平駆動信号)が入力されている。水平出力トランジスタ82のコレクタは共振コンデンサ85、ダンパーダイオード86および水平偏向コイル87のそれぞれの一端とも接続されている。
【0030】
共振コンデンサ85およびダンパーダイオード86の他端は接地されている。なお、ダンパーダイオード86は接地側から水平出力トランジスタ82のコレクタ側へと向かう方向が順方向となるように接続されている。
【0031】
水平偏向コイル87、リニアリティコイル88およびS字補正コンデンサ89は直列に接続されていて、S字補正コンデンサ89は接地されている。なお、チョークコイル83の代わりにフライバックトランスを用いてもよい。
【0032】
直流電源84からの電圧は、電源出力トランジスタ90を介して、チョークコイル83に入力される。電源出力トランジスタ90のゲートには、電源変調信号が入力されていることから、直流電源84からの電圧に電源変調信号が付加される。電源変調信号は、画面の垂直方向の各個所における水平方向の画像の大きさを制御する信号である。特に、表示された画像において、画面の垂直方向の端部における水平方向の中央部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向の中央部における水平方向の端部のリニアリティが伸びる、ピンクッション歪みを補正するための信号も電源変調信号に含まれている。
【0033】
チョークコイル83に入力された電圧は、チョークコイル83により所望の電圧に変圧される。変圧された電圧は、水平出力トランジスタ82のコレクタ、共振コンデンサ85、ダンパーダイオード86および水平偏向コイル87に入力される。共振コンデンサ85を備えていることで、この水平偏向回路は共振回路である。ダンパーダイオード86は振動現象を抑制する。リニアリティコイル88は、中心のコアが永久磁石等であり、磁気バイアスされていて、非線形の特性を有している。
【0034】
直流電源84から電圧が印加されている状態で、水平出力トランジスタ82のベースに入力されるドライブ信号により水平出力トランジスタ82がスイッチングされることで、水平偏向コイル87には鋸波電流が流れる。それにより、水平偏向コイル87には磁界が発生する。この磁界により、陰極線管装置の管内の電子ビームは左右に偏向され、電子ビームによる走査が行われる。
【0035】
次に、図10を加えて水平偏向回路におけるコレクタ電圧および水平偏向電流について説明する。図10は、時間経過における、水平出力トランジスタのコレクタ電圧および水平偏向電流を示したグラフである。図10(a)は時間経過における水平出力トランジスタのコレクタ電圧を示したグラフであり、図10(b)は時間経過における水平偏向電流を示したグラフである。図10(a)において、縦軸はコレクタ電圧であり、横軸は時間である。また、図10(b)において、縦軸は水平偏向電流であり、横軸は時間である。
【0036】
電子ビームにより、画面左端から画面右端まで走査するのにかかる期間を走査期間とする。走査期間前半では、水平偏向コイル87の偏向磁界により、画面左端から画面中央まで走査する。また、走査期間後半では、画面中央から画面右端まで走査する。走査期間前半および走査期間後半のそれぞれの時間は走査期間の半分である。
【0037】
また、画面左端から画面右端まで走査が完了すると、電子ビームは右端から左端へ瞬時に戻り、再び左端から右端へと走査する。これを繰り返すことで、画面に画像が表示される。電子ビームが右端から左端まで瞬時に戻る期間を帰線期間という。図10(a)および(b)に示されているように、走査期間におけるコレクタ電圧は一定であるが、帰線期間におけるコレクタ電圧はパルス電圧である。コレクタ電圧がパルス電圧であることから、水平偏向電流の時間あたりの変化量は急勾配となる。それにより、電子ビームは瞬時に画面左端に戻ることができる。
【0038】
一般的な放送であるNTSC(National Television System Committee)の走査期間は水平偏向周期の約83%で、帰線期間は水平偏向周期の約17%である。なお、水平偏向周期とは、電子ビームが左端から右端まで走査し、再び左端に戻る期間である。
【0039】
走査期間前半では、水平偏向コイル87によるインダクタンスのエネルギー放出によりダンパーダイオード86を通してS字補正コンデンサ89が充電されながら、水平偏向コイル87には水平偏向電流が流れる。走査期間後半では、S字補正コンデンサ89の電荷放出により、水平偏向コイル87にエネルギーが蓄積されながら、水平偏向コイル87には走査期間前半と逆方向の水平偏向電流が流れる。走査期間前半と、走査期間後半との組み合わせにより画面左端から画面右端まで電子ビームにより走査する。帰線期間において、電子ビームは画面右端から再び画面左端に戻される。したがって、走査期間と帰線期間とでは、同じ電流量が必要である。帰線期間は走査期間の約5分の1であるため、帰線期間においては走査期間より急勾配の電流を水平偏向コイル87に流す必要がある。そこで、帰線期間のコレクタ電圧には大きなパルス電圧が用いられている。このパルス電圧は、水平出力トランジスタ82がスイッチングオフされることにより、水平偏向コイル87と共振コンデンサ85とが共振することで発生する。
【0040】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路について図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の構成を示す回路図である。なお、実施の形態1に係る水平偏向回路は、図9に示された従来の水平偏向回路に、リニアリティ補正部1および制御部2が追加された構成である。そこで、図1において、図9と同一の機能を有する部材については同一の符号を付し、説明を省略する。実施の形態1に係る水平偏向回路は、M字歪み補正(以下、単にM字補正という)、インナーピン歪み補正(以下、単にインナーピン補正という)を行うことができる。つまり、リニアリティ歪み補正(以下、単にリニアリティ補正という)を行うことができる。
【0041】
図1に示されているように、リニアリティ補正部1がS字補正コンデンサ89と並列に接続されている。リニアリティ補正部1は制御部2と接続され、制御部2により制御されている。また、制御部2は電源出力トランジスタ90のゲートと接続されているため、制御部2にも電源変調信号が入力される。
【0042】
リニアリティ補正部1は補正コイル4と補正コンデンサ5とを備え、これらは直列接続されている。また、制御部2は出力トランジスタ6とインバータ7とを備えている。制御部2は、リニアリティ補正部1と直列に接続されている。具体的には、制御部2の出力トランジスタ6のドレインが、補正コンデンサ5の端子のうち補正コイル4と接続されていない端子と接続されている。出力トランジスタ6のソースは接地されていて、ゲートはインバータ7と接続されている。インバータ7は電源出力トランジスタ90のゲートと接続されている。
【0043】
実施の形態1の水平偏向回路において、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流は、リニアリティ補正部1が接続されたことにより、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが発生しないよう補正された水平偏向電流に変調される。具体的には、水平偏向コイル87に流れる水平偏向電流は、従来の水平偏向回路(図9参照)に比べて、画面の水平方向中央部および画面の水平方向端部を電子ビームが走査している際には単位時間あたりの変化が大きく、水平方向中央部および水平方向端部との間の部分(以下、水平方向中間部という)を走査している際には単位時間あたりの変化が小さい。これにより、実施の形態1の水平偏向回路を備えた陰極線管装置は、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが生じず、良好な画像を表示できる。
【0044】
ここで、制御部2には電源変調信号が入力されている。電源変調信号は、水平偏向回路の振幅調整をするために電源変調を行う信号であり、具体的には、画面の垂直方向の各箇所に応じて、画像の水平方向の長さを調整する信号であり、ピンクッション補正信号も含んでいる。また、上述のように、電源変調信号は、電源出力トランジスタ90にも入力されている。
【0045】
リニアリティ補正部1を備えた実施の形態1の水平偏向回路において、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流について具体的に説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路における、電流と電子ビームの走査位置との関係を示すグラフである。図2(a)はリニアリティ補正部が接続されていない場合に水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。図2(b)はM字共振電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。図2(c)はM字補正が行われた水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。図2(d)はインナーピン補正が行われた水平偏向コイルに流れる電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。なお、図2(a)、(b)、(c)、(d)において、横軸は画面における走査位置であり、縦軸は電流である。また、図2(b)および図2(c)は、出力トランジスタ6がオン状態であり、リニアリティ補正部1が有効に動作されている場合である。
【0046】
まず、リニアリティ補正部1および制御部2が接続されていない水平偏向回路、すなわち図9に示された従来の水平偏向回路では、水平偏向コイル87には図2(a)に示されているような波形の水平偏向電流が流れる。なお、リニアリティ補正部1が有効に動作されていない場合、例えば制御部2がオフ状態である場合も、同様の波形の水平偏向電流が流れる。
【0047】
次に、リニアリティ補正部1内を流れているM字共振電流について説明する。M字共振電流は、図2(b)に示されているような波形の電流である。図2(b)に示されたM字共振電流の周波数をfとすると、補正コイル4のインダクタンスをLとし、補正コンデンサ5のキャパシタンスをCとした場合、周波数fは次式により表される。
【0048】
f=1/2π(C×L)1/2
この周波数fを水平偏向電流の周波数の2〜2.5倍とすることで、リニアリティ補正部1から流れ出るM字共振電流が、S字補正コンデンサ89を流れる電流と水平偏向コイル87を流れる電流に分流される。それにより、水平偏向コイル87を流れる電流にM字共振電流の一部が合成されて、図2(c)に示される波形の電流となる。なお、周波数fは、水平偏向電流の周波数の2.3〜2.4倍とするとさらに好ましい。それにより、より最適なM字補正を行うことができる。
【0049】
図2(c)に示されているように、図2(a)に示された水平偏向電流に比べて、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流は、水平方向中央部および水平方向端部では傾きが大きい。すなわち、単位時間あたりの水平偏向電流の変化量が大きい。これは、電子ビームの走査速度が速いことを示している。これにより、水平方向中央部および水平方向端部でのリニアリティは伸びる。また、水平方向中間部では、図2(c)に示されているように、水平偏向電流の傾きが、図2(a)に示された水平偏向電流の傾きに比べて小さくなる。すなわち、単位時間あたりの水平偏向電流の変化量が小さく、電子ビームの走査速度は小さいためリニアリティは縮む。このように、水平方向中央部および水平方向端部でのリニアリティは伸び、かつ水平方向中間部でのリニアリティは縮むことから、M字歪みを補正することができる。
【0050】
なお、使用する水平偏向回路により、M字共振電流の周波数fを最適な値をとるように適宜調整すればよい。
【0051】
次に、まず、図2(a)に示されている、リニアリティ補正部1および制御部2が接続されていない場合、すなわち図9に示される従来の水平偏向回路において、水平偏向電流iを示す式は、下記式となる。
【0052】
i=Vsmax×(Cs/Lh)1/2×Sin(t/(Cs×Lh)1/2)
なお、VsmaxはS字補正コンデンサ89の電圧のピーク値であり、CsはS字補正コンデンサ89のキャパシタンスであり、Lhは水平偏向コイル87のインダクタンスである。このように、S字補正コンデンサ89が設置されていることから、水平偏向電流はSin波形となり、S字歪みの補正がなされている。
【0053】
ここで、S字補正コンデンサ89とリニアリティ補正部1が並列に接続されているため、補正コンデンサ5とS字補正コンデンサ89とは並列に接続されている。したがって、制御部2により、リニアリティ補正部1を制御することで、リニアリティ補正部1内の補正コンデンサ5に流れる電流量を制御することができる。補正コンデンサ5に流れる電流量を制御することで、S字補正コンデンサ89に流れる電流を変調させることができる。つまり、S字補正コンデンサ89によるS字歪みの補正の強弱を制御することができる。
【0054】
つまり、S字歪みの補正を弱くすることで、画像の水平方向における端部のリニアリティの縮みを低減できる。また、S字歪みの補正を強くすることで、画像の水平方向における端部のリニアリティの伸びを低減できる。
【0055】
インナーピン歪みとは、画面の垂直方向における端部(以下、上下端部)では水平方向において端部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向における中央部(以下、垂直中央部)では水平方向において端部のリニアリティが伸びてしまう歪みである。したがって、画面の上下端においてはS字歪みの補正を弱くし、画面の垂直中央部においてはS字歪みの補正を強くすればよい。具体的には、上下端部を走査する場合の水平偏向電流を図2(d)に示される実線のような波形に補正し、垂直中央部を走査する場合の水平偏向電流を図2(d)に示される破線のような波形に補正すればよい。
【0056】
S字歪みの補正の強弱を調整するためには、出力トランジスタ6を制御すればよい。電源変調信号は画像の垂直方向における水平方向の長さを制御しているため、この信号を用いることで、インナーピン歪みを補正することができる。なお、電源変調信号はピンクッション歪みを補正するための信号を含んでいる。ピンクッション歪みとは、画像の歪みであって、画面の垂直方向の端部における水平方向の中央部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向の中央部における水平方向の端部のリニアリティが伸びる歪みである。したがって、ピンクッション歪みを補正する信号は、画面の垂直方向における各箇所の水平方向の長さを制御する信号であり、この信号を用いることで、画面の垂直方向における水平方向の長さを制御することができる。したがって、この信号を用いることで、インナーピン歪みを補正することができる。
【0057】
なお、出力トランジスタ6を制御する信号は、ピンクッション歪みを補正する信号を含む電源変調信号が反転された信号である。そのため、制御部2はインバータ7を備え、電源変調信号は反転されてから出力トランジスタに6に入力される。
【0058】
上述のように、実施の形態1の水平偏向回路は、M字補正およびインナーピン補正を行うことができる。このように、実施の形態1の水平偏向回路は、水平偏向回路の振幅調整を行うための電源変調信号を用いて、リニアリティ歪みであるM字歪みおよびインナーピン歪みを補正することができる。したがって、実施の形態1の水平偏向回路において、新たに、補正用の制御信号を作成する必要がない。そのため、アンプやトランスやIC等の高価な素子を必要としない。したがって、実施の形態1の水平偏向回路は、大型化することなく、簡単な構成であり、安価に作製できる。また、消費電力も小さい。また、実施の形態1の水平偏向回路を搭載した陰極線管装置は、高画質化が可能であり、低コストで作製でき、消費電力も小さい。
【0059】
ここで、実際に29型のCRTを搭載したTVセットにおいて、実施の形態1の水平偏向回路を使用した場合の測定結果を示す。図1に示された水平偏向回路において、補正コイル4のインダクタンスを500μHとし、補正コンデンサ5のキャパシタンスを39nFとし、出力トランジスタ6は品番2SK1006を用い、インバータ7は品番MN74HC04を用いた。この測定結果を図3および図4に示す。
【0060】
図3は、リニアリティ歪み率と画面(上端)の水平方向位置との関係を示すグラフであり、図4は、リニアリティ歪み率と画面(中央部)の水平方向位置との関係を示すグラフである。図3の横方向の長さは、画面の水平方向の長さと対応している。図3および図4の横軸に付された数字は、画面の水平方向を16個所に分割して、分割された各領域に左端から順に番号を付した場合の、その番号の位置に対応している。具体的には、図3および図4の横軸の「1」は画面の左端の領域を、「16」は画面の右端の領域を、「8」と「9」との間が画面の中央を示している。なお、歪み率について以下に説明する。まず、画面の水平方向の長さを16等分する信号を陰極線管装置に入力して、実際に表示された16箇所に分割された各領域の水平方向の長さを平均し、その平均値を基準の長さとする。歪みが生じた場合は、水平方向に16個所に分割された画面の各領域に表示されるべき画像が、水平方向に伸びたり縮んだりする。そのため、各領域に表示されるべき画像の水平方向の長さが上記基準の長さから変化する。歪みにより変化した長さと上記基準の長さとの差を、上記基準の長さを基準として百分率で示したものが歪み率である。なお、画像が伸びた場合の歪み率は正であり、画像が縮んだ場合の歪み率は負である。
【0061】
図3は画面の垂直方向の上端位置における水平方向位置と歪み率との関係を示し、図4は画面の垂直方向の中央部位置における水平方向位置と歪み率との関係を示している。なお、比較のため、図9に示された従来の水平偏向回路における測定結果も合わせて図3および図4に示されている。図3および図4において、実線は実施の形態1の水平偏向回路における測定結果であり、破線は従来の水平偏向回路における測定結果である。
【0062】
図3に示されるように、従来の水平偏向回路においては、画面の上端位置で最大8%の歪み率であったが、実施の形態1の水平偏向回路では、最大2%の歪み率であった。また、図4に示されるように、従来の水平偏向回路においては、画面の中央部位置で最大12%の歪み率であったが、実施の形態1の水平偏向回路では、最大3%の歪み率であった。
【0063】
図3および図4からわかるように、実施の形態1の水平偏向回路は、M字歪みおよびインナーピン歪みを十分に補正することができる。したがって、この水平偏向回路を備えた陰極線管装置は高画質化が可能である。また、実施の形態1の水平偏向回路は、S字補正コンデンサ89にリニアリティ補正部1を並列に接続し、リニアリティ補正部に、制御部2を接続するだけなので、水平偏向回路を大型化することなく、作製も容易である。また、リニアリティ補正部1を制御する制御部2は、従来から用いられている電源変調信号により、リニアリティ補正部1を制御する。したがって、実施の形態1の水平偏向回路は、アンプやトランスやIC等の高価な素子を用いる必要がないために、低コストで作製でき、消費電力も小さい。また、同様に、実施の形態1の水平偏向回路を備えた陰極線管装置も、低コストで作製でき、高画質であって、消費電力も小さい。
【0064】
次に、実施の形態1の水平偏向回路の他の回路構成を示す。図5は、本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図である。図5に示された水平偏向回路は、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットに搭載され、水平偏向電流の周波数である偏向周波数に応じてS字補正コンデンサの特性を切り換えることができる。また、リニアリティ補正部1aも偏向周波数に応じて回路構成(特性)が切り換えられる。なお、リニアリティ補正部1aの切り換えには、S字補正コンデンサの切り換え信号を用いている。
【0065】
図5に示された水平偏向回路は、リニアリティ補正部の回路構成が異なる点と、切り換え部であるトランジスタ12、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14を備えている点で、図1に示された水平偏向回路と相違するが、他は同様である。そこで、図5に示された部材のうち、図1に示された部材と同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
ここで、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14は、S字補正コンデンサの切り換え部である。複数の偏向周波数モードを持つTVセットは、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの特性の切り換えを通常行っている。S字切り換えトランジスタ14のベースはトランジスタ12のゲートと接続されている。S字切り換えトランジスタ14のエミッタは接地されていて、コレクタは補助S字補正コンデンサ13の一端と接続されている。また、補助S字補正コンデンサ13はS字補正コンデンサ89に並列に接続されている。S字切り換えトランジスタ14のベースに、偏向周波数に対応してS字補正コンデンサを切り換えるための、S字補正コンデンサ切り換え信号が入力される。それにより、補助S字補正コンデンサ13が有効あるいは無効に切り換わる。補助S字補正コンデンサ13が無効である場合は、S字補正コンデンサ89のみが水平偏向コイル87と直列に接続している。また、補助S字補正コンデンサ13が有効である場合は、S字補正コンデンサ89と補助S字補正コンデンサ13の並列回路が水平偏向コイル87と直列に接続している。このように、偏向周波数により、水平偏向コイル87に直列に接続されているS字補正コンデンサの特性が制御されている。このようにして、偏向周波数モードの切り換えに対応して、S字歪みの最適の補正を行っている。
【0067】
図5に示されたように、リニアリティ補正部1aは、補正コイル4、補正コンデンサ5以外に、補正コンデンサ5に並列となるように接続された補助コンデンサ11を備えている。補助コンデンサ11とトランジスタ12のドレインが接続されている。また、トランジスタ12のソースは接地され、ゲートは、S字切り換えトランジスタ14のベースと接続されていて、トランジスタ12のゲートにはS字補正コンデンサ切り換え信号が入力されている。トランジスタ12は、ゲートから入力されるS字補正コンデンサ切り換え信号によりオン・オフに切り換わり、リニアリティ補正部1aは2種類の回路のいずれかに選択的に切り換わる。具体的には、補正コイル4と補正コンデンサ5との直列回路および補正コンデンサ5と補助コンデンサ11との並列回路と補正コイル4との直列回路の2種類の回路である。S字補正コンデンサ89が、補助S字補正コンデンサ13と並列接続されるか否かで、リニアリティ歪みを補正するための最適なリニアリティ制御部1aの回路構成が異なり、その特性が異なる。
【0068】
このように、図5に示された水平偏向回路では、水平偏向コイル87に直列接続されるのが、S字補正コンデンサ89と補助S字補正コンデンサ13との並列回路か、あるいは、S字補正コンデンサ89のみかに応じて、リニアリティ制御部1aの回路構成が切り換わる。そのため、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットであって、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの切り換えを行っている場合でも、最適なM字補正およびインナーピン補正等のリニアリティ補正を行うことができる。また、補助S字補正コンデンサ13とトランジスタ12との切り換えは、共にS字補正コンデンサ切り換え信号を用いているため、効率的に水平偏向回路を動作させることができる。
【0069】
なお、リニアリティ補正部1aを、2つだけではなく、複数の回路に切り換えることができるようにすることで、複数の偏向周波数モード(プログレッシブ、1080i、480i等)を持つTVセットにおいても最適な補正を行うことができる。なお、切り換え部として、電界効果型トランジスタであるトランジスタ12を用いた水平偏向回路を図示したが、切り換え部は他の構成でもよい。例えばフォトカプラやリレー等を用いて切り換え部を作製すればよい。
【0070】
なお、実施の形態1の水平偏向回路において、補正コイル4を可変コイルとしてもよい。それにより、補正コイル4のインダクタンスは、任意に設定することができる。補正コイル4のインダクタンスを調整することで、水平偏向電流の周波数にかかわらず、最適なリニアリティ補正がなされる。また、補正コイル4のインダクタンスを任意に微調整することができるため、歪み率の微調整も可能である。
【0071】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路について図を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の構成を示す回路図である。なお、図6に示された実施の形態2に係る水平偏向回路は、リニアリティ補正部において制御部からの信号が入力される箇所が異なるが、それ以外は図1に示された実施の形態1の水平偏向回路と同様の構成である。そこで、図6において、図1と同一の機能を有する部材については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0072】
図6に示されているように、リニアリティ補正部1bがS字補正コンデンサ89と並列に接続されている。リニアリティ補正部1bは、電源変調信号が入力される制御部2と接続され、制御部2により制御されている。
【0073】
リニアリティ補正部1bは補正コイル4と補正コンデンサ5とを備え、これらは直列接続されている。また、制御部2は出力トランジスタ6とインバータ7とを備えている。制御部2は、リニアリティ補正部1bの補正コンデンサ5と並列に接続されている。具体的には、制御部2の出力トランジスタ6のドレインが、補正コンデンサ5と補正コイル4との連結箇所に接続されている。出力トランジスタ6のソースは接地されていて、ゲートはインバータ7と接続されている。インバータ7は電源出力トランジスタ90のゲートと接続されている。
【0074】
実施の形態2の水平偏向回路において、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流は、リニアリティ補正部1bが接続されたことにより、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが発生しないよう補正された水平偏向電流に変調される。具体的には、水平偏向コイル87に流れる水平偏向電流は、従来の水平偏向回路(図9参照)に比べて、画面の水平方向中央部および画面の水平方向端部を電子ビームが走査している際には単位時間あたりの変化が大きく、水平方向中間部を走査している際には単位時間あたりの変化が小さい。これにより、実施の形態2の水平偏向回路を備えた陰極線管装置は、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが生じず、良好な画像を表示できる。
【0075】
なお、リニアリティ補正部1b内を流れているM字共振電流の周波数を、水平偏向電流の周波数の2〜2.5倍とすることで、最適にM字補正を行うことができる。また、M字共振電流の周波数を、水平偏向電流の周波数の2.3〜2.4倍とするとさらに好ましい。それにより、より最適なM字補正を行うことができる。
【0076】
また、実施の形態2の水平偏向回路と同様に、出力トランジスタ6に電源変調信号の反転信号が入力されることにより、補正コンデンサ5の蓄積電荷量(電圧)が調整される。それにより、S字補正コンデンサ89に流れる電流を変調させることができる。つまり、S字補正コンデンサ89によるS字歪みの補正の強弱を制御することができる。したがって、実施の形態1の水平偏向回路と同様に、インナーピン歪みを補正することができる。
【0077】
上述のように、実施の形態2の水平偏向回路は、M字補正およびインナーピン補正を行うことができる。このように、実施の形態2の水平偏向回路は、水平偏向回路の振幅調整を行うための電源変調信号を用いて、リニアリティ歪みであるM字歪みおよびインナーピン歪みを補正することができる。したがって、実施の形態2の水平偏向回路において、新たに、補正用の制御信号を作成する必要がない。そのため、アンプやトランスやIC等の高価な素子を必要としない。したがって、実施の形態2の水平偏向回路は、大型化することなく、簡単な構成であり、安価に作製できる。また、消費電力も小さい。また、実施の形態2の水平偏向回路を備えた陰極線管装置も、低コストで作製でき、高画質であって、消費電力も小さい。
【0078】
次に、実施の形態2の水平偏向回路の他の回路構成を示す。図7は、本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図である。図7に示された水平偏向回路は、図5に示された水平偏向回路と同様に、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットのものである。したがって、水平偏向電流の周波数である偏向周波数に応じてS字補正コンデンサの特性を切り換えることができる。また、リニアリティ補正部1cも偏向周波数に応じて回路構成(特性)が切り換えられる。なお、リニアリティ補正部1cの切り換えには、S字補正コンデンサの切り換え信号を用いている。
【0079】
図7に示された水平偏向回路は、リニアリティ補正部の回路構成が異なる点と、切り換え部であるトランジスタ12、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14を備えている点で、図6に示された水平偏向回路と相違するが、他は同様である。なお、図7に示された部材のうち、図5および図6に示された部材と同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0080】
図7に示された水平偏向回路は、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14を有し、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットに搭載される。このように、複数の偏向周波数モードを有するTVセットは、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの特性の切り換えを通常行っている。
【0081】
図7に示されたように、リニアリティ補正部1cは、補正コイル4、補正コンデンサ5以外に、さらに補正コンデンサ5に並列となるように接続された補助コンデンサ11とを備えている。また、トランジスタ12のソースは接地され、ドレインは補助コンデンサ11と接続されている。トランジスタ12のゲートは、S字切り換えトランジスタ14のベースと接続されていて、トランジスタ12のベースにはS字補正コンデンサ切り換え信号が入力されている。トランジスタ12は、ゲートから入力されるS字補正コンデンサ切り換え信号によりオン・オフに切り換わり、リニアリティ補正部1cは2種類の回路のいずれかに選択的に切り換わる。具体的には、補正コイル4と補正コンデンサ5との直列回路および補正コンデンサ5と補助コンデンサ11との並列回路と補正コイル4との直列回路の2種類の回路である。S字補正コンデンサ89が、補助S字補正コンデンサ13と並列接続されるか否かで、リニアリティ歪みを補正するための最適なリニアリティ制御部1cの回路構成が異なり、その特性が異なる。
【0082】
このように、図7に示された水平偏向回路では、水平偏向コイル87に直列接続されるのが、S字補正コンデンサ89と補助S字補正コンデンサ13との並列回路か、あるいは、S字補正コンデンサ89のみかに応じて、リニアリティ制御部1cの回路構成が切り換わる。そのため、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットであって、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの切り換えを行っている場合でも、最適なM字補正およびインナーピン補正等のリニアリティ補正を行うことができる。また、補助S字補正コンデンサ13とトランジスタ12との切り換えは、共にS字補正コンデンサ切り換え信号を用いているため、効率的に水平偏向回路を動作させることができる。
【0083】
なお、リニアリティ補正部1aを、2つだけではなく、複数の回路に切り換えることができるようにすることで、複数の偏向周波数モード(プログレッシブ、1080i、480i等)を持つTVセットにおいても最適な補正を行うことができる。なお、切り換え部として、電界効果型トランジスタであるトランジスタ12を用いた水平偏向回路を図示したが、切り換え部は他の構成でもよい。例えばフォトカプラやリレー等を用いて切り換え部を作製すればよい。
【0084】
なお、補正コイル4を可変コイルとしてもよい。それにより、補正コイル4のインダクタンスは、任意に設定することができる。補正コイル4のインダクタンスを調整することで、水平偏向電流の周波数にかかわらず、最適なリニアリティ補正がなされる。また、補正コイル4のインダクタンスを任意に微調整することができるため、歪み率の微調整も可能である。
【0085】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る水平偏向回路について図を用いて説明する。図8は、本発明の実施の形態3に係る水平偏向回路の構成を示す回路図である。なお、図8に示された実施の形態3に係る水平偏向回路は、いわゆるダイオードモジュレーション型の水平偏向回路である。この水平偏向回路は、直流電源(+B)22からの電圧を昇圧して陰極線管高圧部21に供給している。陰極線管高圧部21への電圧は、定電圧でなければならないため、実施の形態1および2の水平偏向回路のように、直流電源(+B)22からの電圧に電源変調信号を付加することができない。そこで、実施の形態3の水平偏向回路は、ダイオードモジュレーション信号により、画面の垂直方向の各個所における水平方向の画像の大きさが制御される。なお、表示された画像において、画面の垂直方向の端部における水平方向の中央部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向の中央部における水平方向の端部のリニアリティが伸びる、ピンクッション歪みを補正するための信号も電源変調信号に含まれている。
【0086】
なお、図8において、低電圧電源(+LB)24、リニアリティ補正部1dおよび制御部2d以外の回路は、従来から用いられているダイオードモジュレーション型の水平偏向回路であるため、説明は省略する。
【0087】
トランス23は、直流電源22から供給される電圧の一部を昇圧して、陰極線管高圧部21に供給し、残りは水平偏向回路に供給している。低電圧電源24は、直流電源22よりも低い、例えば12V程度の電圧を供給する。この電圧はフォトカプラ32に供給され、フォトカプラ32を動作させる。
【0088】
実施の形態3の水平偏向回路において、水平偏向コイル27、リニアリティコイル28およびS字補正コンデンサ29は直列に接続されている。リニアリティ補正部1dはS字補正コンデンサ29と並列に接続されている。リニアリティ補正部1dは制御部2dと接続され、制御部2dにより制御されている。
【0089】
リニアリティ補正部1dは補正コイル4dと補正コンデンサ5dとを備え、これらは直列接続されている。また、制御部2dは出力トランジスタ31と、フォトカプラ32と、トランジスタ33と、回路設計上必要である抵抗34とを備えている。制御部2dのトランジスタ33のエミッタは接地されていて、コレクタはフォトカプラ32と接続され、ベースからダイオードモジュレーション信号が入力されている。
【0090】
ダイオードモジュレーション信号は、上述のように、水平振幅を制御する信号であり、ピンクッション歪みを補正する。トランジスタ33のベースにダイオードモジュレーション信号が入力されていることから、フォトカプラ32もダイオードモジュレーション信号で制御されている。また、フォトカプラ32と出力トランジスタ31とは接続されていて、出力トランジスタ31のドレインは補正コンデンサ5dと接続されている。したがって、出力トランジスタ31はダイオードモジュレーション信号に制御され、リニアリティ補正部2dを制御している。
【0091】
実施の形態3の水平偏向回路は上述の構成であるので、実施の形態1の水平偏向回路と同様に、S字補正コンデンサ5dの電流を、画面の垂直方向の位置に応じて変調することができる。それにより、水平偏向コイル27に流れる電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪みの補正を行うことができる。したがって、この水平偏向回路を備えた陰極線管装置は高画質化が可能である。
【0092】
また、実施の形態3の水平偏向回路は、従来のダイオードモジュレーション型水平偏向回路に安価な電子部品を追加することで作製でき、構成も容易であることから、水平偏向回路を大型化することなく、作製も容易である。また、新たに制御信号生成回路等を作製する必要がないため、アンプやトランスやIC等の高価な素子を用いる必要がないために、低コストで作製でき、消費電力も小さい。また、実施の形態3の水平偏向回路を備えた陰極線管装置も、低コストで作製でき、高画質であって、消費電力も小さい。
【0093】
なお、補正コイル4dを可変コイルとしてもよい。それにより、補正コイル4dのインダクタンスは、任意に設定することができる。補正コイル4dのインダクタンスを調整することで、水平偏向電流の周波数にかかわらず、最適なリニアリティ補正がなされる。また、補正コイル4dのインダクタンスを任意に微調整することができるため、歪み率の微調整も可能である。
【0094】
なお、実施の形態1〜実施の形態3で具体的に示した、回路構成や部品の特性は、あくまでも一例であり、本発明はこれらの具体例のみに限定されるものではない。例えば、リニアリティ補正部および制御部は、実施の形態1実施の形態3に示した以外の構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の水平偏向回路は、M字補正およびインナーピン補正等のリニアリティ補正が必要である陰極線管装置に搭載することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の構成を示す回路図
【図2】本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路における、電流と電子ビームの走査位置との関係を示すグラフであって、図2(a)はリニアリティ補正部が接続されていない場合に水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図であり、図2(b)はM字共振電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図であり、図2(c)はM字補正が行われた水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図であり、図2(d)はインナーピン補正が行われた水平偏向コイルに流れる電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図
【図3】リニアリティ歪み率と画面(上端)の水平方向位置との関係を示すグラフ
【図4】リニアリティ歪み率と画面(中央部)の水平方向位置との関係を示すグラフ
【図5】本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図
【図6】本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の構成を示す回路図
【図7】本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図
【図8】本発明の実施の形態3に係る水平偏向回路の構成を示す回路図
【図9】一般的な水平偏向回路の構成を示す回路図
【図10】時間経過における、水平出力トランジスタのコレクタ電圧および水平偏向電流を示したグラフであって、図10(a)は時間経過における水平出力トランジスタのコレクタ電圧を示したグラフであり、図10(b)は時間経過における水平偏向電流を示したグラフ
【図11】M字歪みおよびインナーピン歪みを説明するための陰極線管装置の画像表示を示す図であって、図11(a)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じていない正常な画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図であり、図11(b)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じている画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図
【図12】従来におけるリニアリティ歪みを補正する補正回路の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0097】
1、1a、1b、1c、1d リニアリティ補正部
2、2d 制御部
4、4d 補正コイル
5、5d 補正コンデンサ
6、31 出力トランジスタ
7 インバータ
11 補助コンデンサ
12、33 トランジスタ
13 補助S字補正コンデンサ
14 S字切り換えトランジスタ
21 陰極線管高圧部
22、84 直流電源(+B)
23 トランス
24 低電圧電源(+LB)
27、87 水平偏向コイル
28、88 リニアリティコイル
29、89 S字補正コンデンサ
32 フォトカプラ
34 抵抗
82 水平出力トランジスタ82
83 チョークコイル
85 共振コンデンサ
86 ダンパーダイオード
90 電源出力トランジスタ
100 画面
101a、101b、101c、102a、102b、102c 円
111、112 縦線
200 補正回路
201 波形生成部
202 出力部
203 水平偏向回路
204 トランス
205 水平偏向コイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビームを水平方向に偏向させる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陰極線管装置は、水平偏向コイルを有する水平偏向回路を備えている。水平偏向コイルに電流が流れることで発生する磁界により、電子ビームは水平方向に偏向され、電子ビームによる走査が行われる。
【0003】
現在主流である陰極線管装置は、フラットなパネルを有しているため、管面の内壁曲率は無限に近い。そのため、走査の際に電子ビームを水平方向に等角速度で偏向すると、画面の左右端である水平端部に近い個所ほどリニアリティ(直線性)が伸びてしまい、S字歪みが生じる。S字歪みとは、画面に表示された画像の歪みであって、水平方向における端部のリニアリティが伸び、中央部のリニアリティが縮む歪みである。S字歪みを補正するため、例えばS字補正コンデンサと呼ばれるコンデンサが水平偏向コイルに直列に接続される。S字補正コンデンサが接続されることで、水平偏向コイルに流れる電流(水平偏向電流)が制御される。すなわち、水平偏向コイルに流れる水平偏向電流の単位時間あたりの変化量が制御される。
【0004】
ここで、水平端部で生じるS字歪みによる伸び量は、電子ビームの偏向角をθとするとtanθに比例するが、S字補正コンデンサによる補正量はsinθに比例する。そのため、S字歪みによる伸び量と補正量とには差が生じ、その差が歪みとして残ってしまう。このように、S字歪みを補正することで、一般的にM字歪みと呼ばれる歪みが生じる。
【0005】
M字歪みとは、画面に表示された画像の歪みであって、画面の水平方向における中央部および端部の中間(以下、中間部という)において、リニアリティが伸びる歪みである。しかし、陰極線管装置の管面の内壁曲率が、水平方向の中央部および水平端部であまり変化しないのであれば、生じるM字歪みは小さく、問題にならない。ところが、近年主流になってきた陰極線管装置のパネルは、画面の中央部および中間部においては、内面(管内の面)および外面(管外の面)共にフラットであるが、水平端部においては内面が曲率を有していて、さらに外面がフラットな構成である。つまり、パネルにおいて左右端だけが厚みが大きい構成である。このようなパネルは、コストダウンが可能であり強度も強いという効果を奏するが、M字歪みが顕著に生じるという問題がある。
【0006】
また、陰極線管装置の管面の内面曲率と水平偏向コイルから発生される磁界の偏向中心との差が大きい場合は、コンバージェンス、歪み、消費電力を優先するとインナーピン(内部糸巻き)歪みが顕著に発生する。なお、インナーピン歪みとは、画面に表示された画像の歪みであって、画面の垂直方向における端部(上下端)では水平方向において端部のリニアリティが縮み、垂直方向における中央部では水平方向において端部のリニアリティが伸びる歪みである。
【0007】
図11は、M字歪みおよびインナーピン歪みを説明するための陰極線管装置の画像表示を示す図である。図11(a)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じていない正常な画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図であり、図11(b)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じている画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図である。
【0008】
図11(a)において、画面100に円101a、101bおよび101cが表示されている。円101aは画面100の中央部に表示され、円101cは画面100の水平端部に表示され、円101bは画面100の中央部および水平端部の中間部(以下、単に中間部という)に表示されている。また、画面100には、画面を均等に分割する複数の縦線111が表示されている。なお、図11(a)および図11(b)には画面の垂直方向の中心位置を通る横線も示されている。
【0009】
ここで、図11(a)のように表示された円101a、101bおよび101cおよび縦線111は、M字歪みおよびインナーピン歪みにより、図11(b)に示すように表示される。つまり、画面100の中央部では円102aが表示されている。また、画面100の水平端部では水平方向に縮んだ円102cが表示されている。また、中間部では水平方向に伸びた円102bが表示されている。なお、円102aは若干水平方向に縮んではいるが、略真円であり、歪みは問題にならない。また、縦線112は、画面100の中央部および水平端部では直線であるが、中間部に近づくにつれ、中央部に向かって凸である曲線となる。これらのような歪みは、リニアリティ歪みであるM字歪みおよびインナーピン歪みによるものである。
【0010】
M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正するために、従来から種々の方法が提案されている。例えば、水平偏向電流の単位時間あたりの変化を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、M字歪みを補正するためには、画面中央部および水平端部を電子ビームが走査している際の水平偏向電流の単位時間あたりの変化を大きくし、中間部を電子ビームが走査している際の水平偏向電流の単位時間あたりの変化を小さくすればよい。また、インナーピン歪みを補正する場合も同様に、画面の垂直方向ごとに歪みを打ち消すように水平偏向電流の単位時間あたりの変化を制御すればよい。特許文献1には、このように水平偏向電流を制御し、M字歪みおよびインナーピン歪みを補正する補正回路が開示されている。
【0011】
この従来の補正回路について、図12を参照して説明する。図12は従来におけるリニアリティ歪みを補正する補正回路の構成を示すブロック図である。従来の補正回路200は、陰極線管装置(図示せず)に搭載されていて、水平偏向コイル205は偏向ヨーク(図示せず)の一部である。従来の補正回路200は、水平偏向コイル205と、水平偏向回路203と、トランス204と、S字歪み、M字歪み、インナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正するための補正波形を生成する波形生成部201と、補正波形を補正電圧として出力する出力部202とを備えている。なお、従来の補正回路では水平偏向コイル205が、水平偏向回路203の外部に形成されているが、水平偏向回路203の内部に形成されていてもよい。
【0012】
トランス204の2次巻線側は水平偏向コイル205および水平偏向回路203に接続されていて、1次巻線側には波形生成部201および出力部202が設けられている。波形生成部201が生成する補正波形は、陰極線管装置に入力される垂直同期信号および水平同期信号と同期して陰極線管装置のS字歪み、M字歪み、インナーピン歪み等の歪み特性に応じて、これら歪みを打ち消すような波形である。波形生成部201からの補正波形が、出力部202、トランス204を介して、水平偏向コイル205に入力されると、水平偏向電流の歪みが適切に補正される。
【特許文献1】特開2001−119600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、上記従来の補正回路は、水平偏向回路に加えて、波形生成部や出力部等を設置せねばならない。これらを作製するにはアンプやトランスやIC等の高価な素子が必要となる。そのため、従来の補正回路は、大型化する上に、回路が複雑で高価なものである。さらに消費電力も大きくなるため、使用コストが高くなる。したがって、上記従来の補正回路は実用的ではないという課題があった。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、低コストで作製でき、消費電力も小さく、M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正することができる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の水平偏向回路は、水平偏向コイルと、リニアリティコイルと、S字補正コンデンサとを有し、前記水平偏向コイル、前記リニアリティコイルおよび前記S字補正コンデンサが直列に接続されている水平偏向回路であって、前記S字補正コンデンサと並列に接続されたリニアリティ補正部と、前記リニアリティ補正部を制御する制御部とを備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の陰極線管装置は、上記本発明の水平偏向回路を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低コストで作製でき、消費電力も小さく、M字歪みおよびインナーピン歪み等のリニアリティ歪みを補正することができる水平偏向回路およびそれを備えた陰極線管装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の水平偏向回路は、直列接続されている水平偏向コイル、リニアリティコイルおよびS字補正コンデンサを備え、さらにS字補正コンデンサと並列に接続されたリニアリティ補正部と、リニアリティ補正部を制御する制御部とを備えている。このような構成であるため、本発明の水平偏向回路は、水平偏向コイルに流れる偏向電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。また、リニアリティ補正部および制御部は回路構成が容易であり、かつ設置スペースが少なくてすむので、作製が容易であり、水平偏向回路が大型化することがない。また、アンプやトランスやIC等高価な素子を用いる必要がないために、低コストで作製でき、消費電力も小さい。
【0019】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記リニアリティ補正部は、補正コイルと補正コンデンサとを備えている。それにより、リニアリティ補正部を低価格で作製することができる。
【0020】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、前記補正コンデンサと直列に接続されている。それにより、補正コンデンサに流れる電流量を変調することができる。したがって、水平偏向コイルに流れる電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。
【0021】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、前記補正コンデンサと並列に接続されている。それにより、補正コンデンサの蓄積電荷量(電圧)を制御することができる。したがって、水平偏向コイルに流れる電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。
【0022】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記補正コイルは可変コイルである。それにより、リニアリティ補正を微調整することができる。
【0023】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、電源変調信号により制御されている。このように、水平方向の振幅や、ピンクッション歪みを補正するための電源変調信号を、リニアリティ補正部の制御部の制御信号として用いているため、新たに制御信号作成用の回路を設置する必要がない。したがって、低コスト、低消費電力でインナーピン歪みおよびM字歪み等のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。なお、電源変調信号とは、画面の垂直方向の各個所における水平方向の画像の大きさを制御する信号であり、ピンクッション歪みを補正するための信号も含んでいる。
【0024】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記制御部は、前記電源変調信号を反転させるインバータ素子を備えている。それにより、制御部は電源変調信号を用いて、リニアリティ補正部を制御することができる。
【0025】
また、本発明の水平偏向コイルにおいて、好ましくは、前記S字補正コンデンサの特性および前記リニアリティ補正部の特性は、前記水平偏向コイルに流れる水平偏向電流の周波数に応じて制御されている。それにより、本発明の水平偏向回路は、水平偏向電流の周波数の変化に応じて、最適の補正を行うことができる。例えば、複数の偏向周波数モードを持つTVセットに用いた場合でも、偏向周波数モードに応じて、最適のリニアリティ歪みの補正を行うことができる。
【0026】
また、本発明の陰極線管装置は、上記本発明の水平偏向回路を備えている。それにより、本発明の陰極線管装置は、高画質化が可能である上、低コストで作製でき、消費電力も小さい。
【0027】
以下、本発明の実施形態の具体的な例について、図面を用いて説明する。
【0028】
まず、一般的な水平偏向回路について図9を用いて説明する。図9は、一般的な水平偏向回路の構成を示す回路図である。水平偏向回路は、陰極線管装置に搭載されている。水平偏向回路の水平偏向コイルに電流(以下、水平偏向電流という)が流れることで発生する磁界により、電子ビームは画面の左右方向(水平方向)に偏向される。このように、電子ビームによる走査が行われることで、陰極線管装置の画面に画像が表示される。
【0029】
図9に示されているように、従来の水平偏向回路は直流電源(+B)84と、電源出力トランジスタ90とチョークコイル83と、水平出力トランジスタ82と、共振コンデンサ85と、ダンパーダイオード86と、水平偏向コイル87と、リニアリティコイル88と、S字補正コンデンサ89とを備えている共振回路である。電源出力トランジスタ90のドレインに直流電源84が接続され、ソースにチョークコイル83の一端が接続されている。また、電源出力トランジスタ90のゲートには電源変調信号が入力されている。チョークコイル83の他端は水平出力トランジスタ82のコレクタに接続されている。水平出力トランジスタ82のエミッタは接地されていて、ベースからは水平周期のドライブ信号(水平駆動信号)が入力されている。水平出力トランジスタ82のコレクタは共振コンデンサ85、ダンパーダイオード86および水平偏向コイル87のそれぞれの一端とも接続されている。
【0030】
共振コンデンサ85およびダンパーダイオード86の他端は接地されている。なお、ダンパーダイオード86は接地側から水平出力トランジスタ82のコレクタ側へと向かう方向が順方向となるように接続されている。
【0031】
水平偏向コイル87、リニアリティコイル88およびS字補正コンデンサ89は直列に接続されていて、S字補正コンデンサ89は接地されている。なお、チョークコイル83の代わりにフライバックトランスを用いてもよい。
【0032】
直流電源84からの電圧は、電源出力トランジスタ90を介して、チョークコイル83に入力される。電源出力トランジスタ90のゲートには、電源変調信号が入力されていることから、直流電源84からの電圧に電源変調信号が付加される。電源変調信号は、画面の垂直方向の各個所における水平方向の画像の大きさを制御する信号である。特に、表示された画像において、画面の垂直方向の端部における水平方向の中央部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向の中央部における水平方向の端部のリニアリティが伸びる、ピンクッション歪みを補正するための信号も電源変調信号に含まれている。
【0033】
チョークコイル83に入力された電圧は、チョークコイル83により所望の電圧に変圧される。変圧された電圧は、水平出力トランジスタ82のコレクタ、共振コンデンサ85、ダンパーダイオード86および水平偏向コイル87に入力される。共振コンデンサ85を備えていることで、この水平偏向回路は共振回路である。ダンパーダイオード86は振動現象を抑制する。リニアリティコイル88は、中心のコアが永久磁石等であり、磁気バイアスされていて、非線形の特性を有している。
【0034】
直流電源84から電圧が印加されている状態で、水平出力トランジスタ82のベースに入力されるドライブ信号により水平出力トランジスタ82がスイッチングされることで、水平偏向コイル87には鋸波電流が流れる。それにより、水平偏向コイル87には磁界が発生する。この磁界により、陰極線管装置の管内の電子ビームは左右に偏向され、電子ビームによる走査が行われる。
【0035】
次に、図10を加えて水平偏向回路におけるコレクタ電圧および水平偏向電流について説明する。図10は、時間経過における、水平出力トランジスタのコレクタ電圧および水平偏向電流を示したグラフである。図10(a)は時間経過における水平出力トランジスタのコレクタ電圧を示したグラフであり、図10(b)は時間経過における水平偏向電流を示したグラフである。図10(a)において、縦軸はコレクタ電圧であり、横軸は時間である。また、図10(b)において、縦軸は水平偏向電流であり、横軸は時間である。
【0036】
電子ビームにより、画面左端から画面右端まで走査するのにかかる期間を走査期間とする。走査期間前半では、水平偏向コイル87の偏向磁界により、画面左端から画面中央まで走査する。また、走査期間後半では、画面中央から画面右端まで走査する。走査期間前半および走査期間後半のそれぞれの時間は走査期間の半分である。
【0037】
また、画面左端から画面右端まで走査が完了すると、電子ビームは右端から左端へ瞬時に戻り、再び左端から右端へと走査する。これを繰り返すことで、画面に画像が表示される。電子ビームが右端から左端まで瞬時に戻る期間を帰線期間という。図10(a)および(b)に示されているように、走査期間におけるコレクタ電圧は一定であるが、帰線期間におけるコレクタ電圧はパルス電圧である。コレクタ電圧がパルス電圧であることから、水平偏向電流の時間あたりの変化量は急勾配となる。それにより、電子ビームは瞬時に画面左端に戻ることができる。
【0038】
一般的な放送であるNTSC(National Television System Committee)の走査期間は水平偏向周期の約83%で、帰線期間は水平偏向周期の約17%である。なお、水平偏向周期とは、電子ビームが左端から右端まで走査し、再び左端に戻る期間である。
【0039】
走査期間前半では、水平偏向コイル87によるインダクタンスのエネルギー放出によりダンパーダイオード86を通してS字補正コンデンサ89が充電されながら、水平偏向コイル87には水平偏向電流が流れる。走査期間後半では、S字補正コンデンサ89の電荷放出により、水平偏向コイル87にエネルギーが蓄積されながら、水平偏向コイル87には走査期間前半と逆方向の水平偏向電流が流れる。走査期間前半と、走査期間後半との組み合わせにより画面左端から画面右端まで電子ビームにより走査する。帰線期間において、電子ビームは画面右端から再び画面左端に戻される。したがって、走査期間と帰線期間とでは、同じ電流量が必要である。帰線期間は走査期間の約5分の1であるため、帰線期間においては走査期間より急勾配の電流を水平偏向コイル87に流す必要がある。そこで、帰線期間のコレクタ電圧には大きなパルス電圧が用いられている。このパルス電圧は、水平出力トランジスタ82がスイッチングオフされることにより、水平偏向コイル87と共振コンデンサ85とが共振することで発生する。
【0040】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路について図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の構成を示す回路図である。なお、実施の形態1に係る水平偏向回路は、図9に示された従来の水平偏向回路に、リニアリティ補正部1および制御部2が追加された構成である。そこで、図1において、図9と同一の機能を有する部材については同一の符号を付し、説明を省略する。実施の形態1に係る水平偏向回路は、M字歪み補正(以下、単にM字補正という)、インナーピン歪み補正(以下、単にインナーピン補正という)を行うことができる。つまり、リニアリティ歪み補正(以下、単にリニアリティ補正という)を行うことができる。
【0041】
図1に示されているように、リニアリティ補正部1がS字補正コンデンサ89と並列に接続されている。リニアリティ補正部1は制御部2と接続され、制御部2により制御されている。また、制御部2は電源出力トランジスタ90のゲートと接続されているため、制御部2にも電源変調信号が入力される。
【0042】
リニアリティ補正部1は補正コイル4と補正コンデンサ5とを備え、これらは直列接続されている。また、制御部2は出力トランジスタ6とインバータ7とを備えている。制御部2は、リニアリティ補正部1と直列に接続されている。具体的には、制御部2の出力トランジスタ6のドレインが、補正コンデンサ5の端子のうち補正コイル4と接続されていない端子と接続されている。出力トランジスタ6のソースは接地されていて、ゲートはインバータ7と接続されている。インバータ7は電源出力トランジスタ90のゲートと接続されている。
【0043】
実施の形態1の水平偏向回路において、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流は、リニアリティ補正部1が接続されたことにより、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが発生しないよう補正された水平偏向電流に変調される。具体的には、水平偏向コイル87に流れる水平偏向電流は、従来の水平偏向回路(図9参照)に比べて、画面の水平方向中央部および画面の水平方向端部を電子ビームが走査している際には単位時間あたりの変化が大きく、水平方向中央部および水平方向端部との間の部分(以下、水平方向中間部という)を走査している際には単位時間あたりの変化が小さい。これにより、実施の形態1の水平偏向回路を備えた陰極線管装置は、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが生じず、良好な画像を表示できる。
【0044】
ここで、制御部2には電源変調信号が入力されている。電源変調信号は、水平偏向回路の振幅調整をするために電源変調を行う信号であり、具体的には、画面の垂直方向の各箇所に応じて、画像の水平方向の長さを調整する信号であり、ピンクッション補正信号も含んでいる。また、上述のように、電源変調信号は、電源出力トランジスタ90にも入力されている。
【0045】
リニアリティ補正部1を備えた実施の形態1の水平偏向回路において、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流について具体的に説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路における、電流と電子ビームの走査位置との関係を示すグラフである。図2(a)はリニアリティ補正部が接続されていない場合に水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。図2(b)はM字共振電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。図2(c)はM字補正が行われた水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。図2(d)はインナーピン補正が行われた水平偏向コイルに流れる電流と電子ビームの走査位置との関係を示している。なお、図2(a)、(b)、(c)、(d)において、横軸は画面における走査位置であり、縦軸は電流である。また、図2(b)および図2(c)は、出力トランジスタ6がオン状態であり、リニアリティ補正部1が有効に動作されている場合である。
【0046】
まず、リニアリティ補正部1および制御部2が接続されていない水平偏向回路、すなわち図9に示された従来の水平偏向回路では、水平偏向コイル87には図2(a)に示されているような波形の水平偏向電流が流れる。なお、リニアリティ補正部1が有効に動作されていない場合、例えば制御部2がオフ状態である場合も、同様の波形の水平偏向電流が流れる。
【0047】
次に、リニアリティ補正部1内を流れているM字共振電流について説明する。M字共振電流は、図2(b)に示されているような波形の電流である。図2(b)に示されたM字共振電流の周波数をfとすると、補正コイル4のインダクタンスをLとし、補正コンデンサ5のキャパシタンスをCとした場合、周波数fは次式により表される。
【0048】
f=1/2π(C×L)1/2
この周波数fを水平偏向電流の周波数の2〜2.5倍とすることで、リニアリティ補正部1から流れ出るM字共振電流が、S字補正コンデンサ89を流れる電流と水平偏向コイル87を流れる電流に分流される。それにより、水平偏向コイル87を流れる電流にM字共振電流の一部が合成されて、図2(c)に示される波形の電流となる。なお、周波数fは、水平偏向電流の周波数の2.3〜2.4倍とするとさらに好ましい。それにより、より最適なM字補正を行うことができる。
【0049】
図2(c)に示されているように、図2(a)に示された水平偏向電流に比べて、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流は、水平方向中央部および水平方向端部では傾きが大きい。すなわち、単位時間あたりの水平偏向電流の変化量が大きい。これは、電子ビームの走査速度が速いことを示している。これにより、水平方向中央部および水平方向端部でのリニアリティは伸びる。また、水平方向中間部では、図2(c)に示されているように、水平偏向電流の傾きが、図2(a)に示された水平偏向電流の傾きに比べて小さくなる。すなわち、単位時間あたりの水平偏向電流の変化量が小さく、電子ビームの走査速度は小さいためリニアリティは縮む。このように、水平方向中央部および水平方向端部でのリニアリティは伸び、かつ水平方向中間部でのリニアリティは縮むことから、M字歪みを補正することができる。
【0050】
なお、使用する水平偏向回路により、M字共振電流の周波数fを最適な値をとるように適宜調整すればよい。
【0051】
次に、まず、図2(a)に示されている、リニアリティ補正部1および制御部2が接続されていない場合、すなわち図9に示される従来の水平偏向回路において、水平偏向電流iを示す式は、下記式となる。
【0052】
i=Vsmax×(Cs/Lh)1/2×Sin(t/(Cs×Lh)1/2)
なお、VsmaxはS字補正コンデンサ89の電圧のピーク値であり、CsはS字補正コンデンサ89のキャパシタンスであり、Lhは水平偏向コイル87のインダクタンスである。このように、S字補正コンデンサ89が設置されていることから、水平偏向電流はSin波形となり、S字歪みの補正がなされている。
【0053】
ここで、S字補正コンデンサ89とリニアリティ補正部1が並列に接続されているため、補正コンデンサ5とS字補正コンデンサ89とは並列に接続されている。したがって、制御部2により、リニアリティ補正部1を制御することで、リニアリティ補正部1内の補正コンデンサ5に流れる電流量を制御することができる。補正コンデンサ5に流れる電流量を制御することで、S字補正コンデンサ89に流れる電流を変調させることができる。つまり、S字補正コンデンサ89によるS字歪みの補正の強弱を制御することができる。
【0054】
つまり、S字歪みの補正を弱くすることで、画像の水平方向における端部のリニアリティの縮みを低減できる。また、S字歪みの補正を強くすることで、画像の水平方向における端部のリニアリティの伸びを低減できる。
【0055】
インナーピン歪みとは、画面の垂直方向における端部(以下、上下端部)では水平方向において端部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向における中央部(以下、垂直中央部)では水平方向において端部のリニアリティが伸びてしまう歪みである。したがって、画面の上下端においてはS字歪みの補正を弱くし、画面の垂直中央部においてはS字歪みの補正を強くすればよい。具体的には、上下端部を走査する場合の水平偏向電流を図2(d)に示される実線のような波形に補正し、垂直中央部を走査する場合の水平偏向電流を図2(d)に示される破線のような波形に補正すればよい。
【0056】
S字歪みの補正の強弱を調整するためには、出力トランジスタ6を制御すればよい。電源変調信号は画像の垂直方向における水平方向の長さを制御しているため、この信号を用いることで、インナーピン歪みを補正することができる。なお、電源変調信号はピンクッション歪みを補正するための信号を含んでいる。ピンクッション歪みとは、画像の歪みであって、画面の垂直方向の端部における水平方向の中央部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向の中央部における水平方向の端部のリニアリティが伸びる歪みである。したがって、ピンクッション歪みを補正する信号は、画面の垂直方向における各箇所の水平方向の長さを制御する信号であり、この信号を用いることで、画面の垂直方向における水平方向の長さを制御することができる。したがって、この信号を用いることで、インナーピン歪みを補正することができる。
【0057】
なお、出力トランジスタ6を制御する信号は、ピンクッション歪みを補正する信号を含む電源変調信号が反転された信号である。そのため、制御部2はインバータ7を備え、電源変調信号は反転されてから出力トランジスタに6に入力される。
【0058】
上述のように、実施の形態1の水平偏向回路は、M字補正およびインナーピン補正を行うことができる。このように、実施の形態1の水平偏向回路は、水平偏向回路の振幅調整を行うための電源変調信号を用いて、リニアリティ歪みであるM字歪みおよびインナーピン歪みを補正することができる。したがって、実施の形態1の水平偏向回路において、新たに、補正用の制御信号を作成する必要がない。そのため、アンプやトランスやIC等の高価な素子を必要としない。したがって、実施の形態1の水平偏向回路は、大型化することなく、簡単な構成であり、安価に作製できる。また、消費電力も小さい。また、実施の形態1の水平偏向回路を搭載した陰極線管装置は、高画質化が可能であり、低コストで作製でき、消費電力も小さい。
【0059】
ここで、実際に29型のCRTを搭載したTVセットにおいて、実施の形態1の水平偏向回路を使用した場合の測定結果を示す。図1に示された水平偏向回路において、補正コイル4のインダクタンスを500μHとし、補正コンデンサ5のキャパシタンスを39nFとし、出力トランジスタ6は品番2SK1006を用い、インバータ7は品番MN74HC04を用いた。この測定結果を図3および図4に示す。
【0060】
図3は、リニアリティ歪み率と画面(上端)の水平方向位置との関係を示すグラフであり、図4は、リニアリティ歪み率と画面(中央部)の水平方向位置との関係を示すグラフである。図3の横方向の長さは、画面の水平方向の長さと対応している。図3および図4の横軸に付された数字は、画面の水平方向を16個所に分割して、分割された各領域に左端から順に番号を付した場合の、その番号の位置に対応している。具体的には、図3および図4の横軸の「1」は画面の左端の領域を、「16」は画面の右端の領域を、「8」と「9」との間が画面の中央を示している。なお、歪み率について以下に説明する。まず、画面の水平方向の長さを16等分する信号を陰極線管装置に入力して、実際に表示された16箇所に分割された各領域の水平方向の長さを平均し、その平均値を基準の長さとする。歪みが生じた場合は、水平方向に16個所に分割された画面の各領域に表示されるべき画像が、水平方向に伸びたり縮んだりする。そのため、各領域に表示されるべき画像の水平方向の長さが上記基準の長さから変化する。歪みにより変化した長さと上記基準の長さとの差を、上記基準の長さを基準として百分率で示したものが歪み率である。なお、画像が伸びた場合の歪み率は正であり、画像が縮んだ場合の歪み率は負である。
【0061】
図3は画面の垂直方向の上端位置における水平方向位置と歪み率との関係を示し、図4は画面の垂直方向の中央部位置における水平方向位置と歪み率との関係を示している。なお、比較のため、図9に示された従来の水平偏向回路における測定結果も合わせて図3および図4に示されている。図3および図4において、実線は実施の形態1の水平偏向回路における測定結果であり、破線は従来の水平偏向回路における測定結果である。
【0062】
図3に示されるように、従来の水平偏向回路においては、画面の上端位置で最大8%の歪み率であったが、実施の形態1の水平偏向回路では、最大2%の歪み率であった。また、図4に示されるように、従来の水平偏向回路においては、画面の中央部位置で最大12%の歪み率であったが、実施の形態1の水平偏向回路では、最大3%の歪み率であった。
【0063】
図3および図4からわかるように、実施の形態1の水平偏向回路は、M字歪みおよびインナーピン歪みを十分に補正することができる。したがって、この水平偏向回路を備えた陰極線管装置は高画質化が可能である。また、実施の形態1の水平偏向回路は、S字補正コンデンサ89にリニアリティ補正部1を並列に接続し、リニアリティ補正部に、制御部2を接続するだけなので、水平偏向回路を大型化することなく、作製も容易である。また、リニアリティ補正部1を制御する制御部2は、従来から用いられている電源変調信号により、リニアリティ補正部1を制御する。したがって、実施の形態1の水平偏向回路は、アンプやトランスやIC等の高価な素子を用いる必要がないために、低コストで作製でき、消費電力も小さい。また、同様に、実施の形態1の水平偏向回路を備えた陰極線管装置も、低コストで作製でき、高画質であって、消費電力も小さい。
【0064】
次に、実施の形態1の水平偏向回路の他の回路構成を示す。図5は、本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図である。図5に示された水平偏向回路は、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットに搭載され、水平偏向電流の周波数である偏向周波数に応じてS字補正コンデンサの特性を切り換えることができる。また、リニアリティ補正部1aも偏向周波数に応じて回路構成(特性)が切り換えられる。なお、リニアリティ補正部1aの切り換えには、S字補正コンデンサの切り換え信号を用いている。
【0065】
図5に示された水平偏向回路は、リニアリティ補正部の回路構成が異なる点と、切り換え部であるトランジスタ12、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14を備えている点で、図1に示された水平偏向回路と相違するが、他は同様である。そこで、図5に示された部材のうち、図1に示された部材と同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0066】
ここで、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14は、S字補正コンデンサの切り換え部である。複数の偏向周波数モードを持つTVセットは、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの特性の切り換えを通常行っている。S字切り換えトランジスタ14のベースはトランジスタ12のゲートと接続されている。S字切り換えトランジスタ14のエミッタは接地されていて、コレクタは補助S字補正コンデンサ13の一端と接続されている。また、補助S字補正コンデンサ13はS字補正コンデンサ89に並列に接続されている。S字切り換えトランジスタ14のベースに、偏向周波数に対応してS字補正コンデンサを切り換えるための、S字補正コンデンサ切り換え信号が入力される。それにより、補助S字補正コンデンサ13が有効あるいは無効に切り換わる。補助S字補正コンデンサ13が無効である場合は、S字補正コンデンサ89のみが水平偏向コイル87と直列に接続している。また、補助S字補正コンデンサ13が有効である場合は、S字補正コンデンサ89と補助S字補正コンデンサ13の並列回路が水平偏向コイル87と直列に接続している。このように、偏向周波数により、水平偏向コイル87に直列に接続されているS字補正コンデンサの特性が制御されている。このようにして、偏向周波数モードの切り換えに対応して、S字歪みの最適の補正を行っている。
【0067】
図5に示されたように、リニアリティ補正部1aは、補正コイル4、補正コンデンサ5以外に、補正コンデンサ5に並列となるように接続された補助コンデンサ11を備えている。補助コンデンサ11とトランジスタ12のドレインが接続されている。また、トランジスタ12のソースは接地され、ゲートは、S字切り換えトランジスタ14のベースと接続されていて、トランジスタ12のゲートにはS字補正コンデンサ切り換え信号が入力されている。トランジスタ12は、ゲートから入力されるS字補正コンデンサ切り換え信号によりオン・オフに切り換わり、リニアリティ補正部1aは2種類の回路のいずれかに選択的に切り換わる。具体的には、補正コイル4と補正コンデンサ5との直列回路および補正コンデンサ5と補助コンデンサ11との並列回路と補正コイル4との直列回路の2種類の回路である。S字補正コンデンサ89が、補助S字補正コンデンサ13と並列接続されるか否かで、リニアリティ歪みを補正するための最適なリニアリティ制御部1aの回路構成が異なり、その特性が異なる。
【0068】
このように、図5に示された水平偏向回路では、水平偏向コイル87に直列接続されるのが、S字補正コンデンサ89と補助S字補正コンデンサ13との並列回路か、あるいは、S字補正コンデンサ89のみかに応じて、リニアリティ制御部1aの回路構成が切り換わる。そのため、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットであって、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの切り換えを行っている場合でも、最適なM字補正およびインナーピン補正等のリニアリティ補正を行うことができる。また、補助S字補正コンデンサ13とトランジスタ12との切り換えは、共にS字補正コンデンサ切り換え信号を用いているため、効率的に水平偏向回路を動作させることができる。
【0069】
なお、リニアリティ補正部1aを、2つだけではなく、複数の回路に切り換えることができるようにすることで、複数の偏向周波数モード(プログレッシブ、1080i、480i等)を持つTVセットにおいても最適な補正を行うことができる。なお、切り換え部として、電界効果型トランジスタであるトランジスタ12を用いた水平偏向回路を図示したが、切り換え部は他の構成でもよい。例えばフォトカプラやリレー等を用いて切り換え部を作製すればよい。
【0070】
なお、実施の形態1の水平偏向回路において、補正コイル4を可変コイルとしてもよい。それにより、補正コイル4のインダクタンスは、任意に設定することができる。補正コイル4のインダクタンスを調整することで、水平偏向電流の周波数にかかわらず、最適なリニアリティ補正がなされる。また、補正コイル4のインダクタンスを任意に微調整することができるため、歪み率の微調整も可能である。
【0071】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路について図を用いて説明する。図6は、本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の構成を示す回路図である。なお、図6に示された実施の形態2に係る水平偏向回路は、リニアリティ補正部において制御部からの信号が入力される箇所が異なるが、それ以外は図1に示された実施の形態1の水平偏向回路と同様の構成である。そこで、図6において、図1と同一の機能を有する部材については同一の符号を付し、説明を省略する。
【0072】
図6に示されているように、リニアリティ補正部1bがS字補正コンデンサ89と並列に接続されている。リニアリティ補正部1bは、電源変調信号が入力される制御部2と接続され、制御部2により制御されている。
【0073】
リニアリティ補正部1bは補正コイル4と補正コンデンサ5とを備え、これらは直列接続されている。また、制御部2は出力トランジスタ6とインバータ7とを備えている。制御部2は、リニアリティ補正部1bの補正コンデンサ5と並列に接続されている。具体的には、制御部2の出力トランジスタ6のドレインが、補正コンデンサ5と補正コイル4との連結箇所に接続されている。出力トランジスタ6のソースは接地されていて、ゲートはインバータ7と接続されている。インバータ7は電源出力トランジスタ90のゲートと接続されている。
【0074】
実施の形態2の水平偏向回路において、水平偏向コイル87を流れる水平偏向電流は、リニアリティ補正部1bが接続されたことにより、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが発生しないよう補正された水平偏向電流に変調される。具体的には、水平偏向コイル87に流れる水平偏向電流は、従来の水平偏向回路(図9参照)に比べて、画面の水平方向中央部および画面の水平方向端部を電子ビームが走査している際には単位時間あたりの変化が大きく、水平方向中間部を走査している際には単位時間あたりの変化が小さい。これにより、実施の形態2の水平偏向回路を備えた陰極線管装置は、出力トランジスタ6がオンであれば、M字歪みが生じず、良好な画像を表示できる。
【0075】
なお、リニアリティ補正部1b内を流れているM字共振電流の周波数を、水平偏向電流の周波数の2〜2.5倍とすることで、最適にM字補正を行うことができる。また、M字共振電流の周波数を、水平偏向電流の周波数の2.3〜2.4倍とするとさらに好ましい。それにより、より最適なM字補正を行うことができる。
【0076】
また、実施の形態2の水平偏向回路と同様に、出力トランジスタ6に電源変調信号の反転信号が入力されることにより、補正コンデンサ5の蓄積電荷量(電圧)が調整される。それにより、S字補正コンデンサ89に流れる電流を変調させることができる。つまり、S字補正コンデンサ89によるS字歪みの補正の強弱を制御することができる。したがって、実施の形態1の水平偏向回路と同様に、インナーピン歪みを補正することができる。
【0077】
上述のように、実施の形態2の水平偏向回路は、M字補正およびインナーピン補正を行うことができる。このように、実施の形態2の水平偏向回路は、水平偏向回路の振幅調整を行うための電源変調信号を用いて、リニアリティ歪みであるM字歪みおよびインナーピン歪みを補正することができる。したがって、実施の形態2の水平偏向回路において、新たに、補正用の制御信号を作成する必要がない。そのため、アンプやトランスやIC等の高価な素子を必要としない。したがって、実施の形態2の水平偏向回路は、大型化することなく、簡単な構成であり、安価に作製できる。また、消費電力も小さい。また、実施の形態2の水平偏向回路を備えた陰極線管装置も、低コストで作製でき、高画質であって、消費電力も小さい。
【0078】
次に、実施の形態2の水平偏向回路の他の回路構成を示す。図7は、本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図である。図7に示された水平偏向回路は、図5に示された水平偏向回路と同様に、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットのものである。したがって、水平偏向電流の周波数である偏向周波数に応じてS字補正コンデンサの特性を切り換えることができる。また、リニアリティ補正部1cも偏向周波数に応じて回路構成(特性)が切り換えられる。なお、リニアリティ補正部1cの切り換えには、S字補正コンデンサの切り換え信号を用いている。
【0079】
図7に示された水平偏向回路は、リニアリティ補正部の回路構成が異なる点と、切り換え部であるトランジスタ12、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14を備えている点で、図6に示された水平偏向回路と相違するが、他は同様である。なお、図7に示された部材のうち、図5および図6に示された部材と同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0080】
図7に示された水平偏向回路は、補助S字補正コンデンサ13およびS字切り換えトランジスタ14を有し、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットに搭載される。このように、複数の偏向周波数モードを有するTVセットは、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの特性の切り換えを通常行っている。
【0081】
図7に示されたように、リニアリティ補正部1cは、補正コイル4、補正コンデンサ5以外に、さらに補正コンデンサ5に並列となるように接続された補助コンデンサ11とを備えている。また、トランジスタ12のソースは接地され、ドレインは補助コンデンサ11と接続されている。トランジスタ12のゲートは、S字切り換えトランジスタ14のベースと接続されていて、トランジスタ12のベースにはS字補正コンデンサ切り換え信号が入力されている。トランジスタ12は、ゲートから入力されるS字補正コンデンサ切り換え信号によりオン・オフに切り換わり、リニアリティ補正部1cは2種類の回路のいずれかに選択的に切り換わる。具体的には、補正コイル4と補正コンデンサ5との直列回路および補正コンデンサ5と補助コンデンサ11との並列回路と補正コイル4との直列回路の2種類の回路である。S字補正コンデンサ89が、補助S字補正コンデンサ13と並列接続されるか否かで、リニアリティ歪みを補正するための最適なリニアリティ制御部1cの回路構成が異なり、その特性が異なる。
【0082】
このように、図7に示された水平偏向回路では、水平偏向コイル87に直列接続されるのが、S字補正コンデンサ89と補助S字補正コンデンサ13との並列回路か、あるいは、S字補正コンデンサ89のみかに応じて、リニアリティ制御部1cの回路構成が切り換わる。そのため、2種類の偏向周波数モードを持つTVセットであって、偏向周波数の切り換えに応じて、S字補正コンデンサの切り換えを行っている場合でも、最適なM字補正およびインナーピン補正等のリニアリティ補正を行うことができる。また、補助S字補正コンデンサ13とトランジスタ12との切り換えは、共にS字補正コンデンサ切り換え信号を用いているため、効率的に水平偏向回路を動作させることができる。
【0083】
なお、リニアリティ補正部1aを、2つだけではなく、複数の回路に切り換えることができるようにすることで、複数の偏向周波数モード(プログレッシブ、1080i、480i等)を持つTVセットにおいても最適な補正を行うことができる。なお、切り換え部として、電界効果型トランジスタであるトランジスタ12を用いた水平偏向回路を図示したが、切り換え部は他の構成でもよい。例えばフォトカプラやリレー等を用いて切り換え部を作製すればよい。
【0084】
なお、補正コイル4を可変コイルとしてもよい。それにより、補正コイル4のインダクタンスは、任意に設定することができる。補正コイル4のインダクタンスを調整することで、水平偏向電流の周波数にかかわらず、最適なリニアリティ補正がなされる。また、補正コイル4のインダクタンスを任意に微調整することができるため、歪み率の微調整も可能である。
【0085】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3に係る水平偏向回路について図を用いて説明する。図8は、本発明の実施の形態3に係る水平偏向回路の構成を示す回路図である。なお、図8に示された実施の形態3に係る水平偏向回路は、いわゆるダイオードモジュレーション型の水平偏向回路である。この水平偏向回路は、直流電源(+B)22からの電圧を昇圧して陰極線管高圧部21に供給している。陰極線管高圧部21への電圧は、定電圧でなければならないため、実施の形態1および2の水平偏向回路のように、直流電源(+B)22からの電圧に電源変調信号を付加することができない。そこで、実施の形態3の水平偏向回路は、ダイオードモジュレーション信号により、画面の垂直方向の各個所における水平方向の画像の大きさが制御される。なお、表示された画像において、画面の垂直方向の端部における水平方向の中央部のリニアリティが縮み、画面の垂直方向の中央部における水平方向の端部のリニアリティが伸びる、ピンクッション歪みを補正するための信号も電源変調信号に含まれている。
【0086】
なお、図8において、低電圧電源(+LB)24、リニアリティ補正部1dおよび制御部2d以外の回路は、従来から用いられているダイオードモジュレーション型の水平偏向回路であるため、説明は省略する。
【0087】
トランス23は、直流電源22から供給される電圧の一部を昇圧して、陰極線管高圧部21に供給し、残りは水平偏向回路に供給している。低電圧電源24は、直流電源22よりも低い、例えば12V程度の電圧を供給する。この電圧はフォトカプラ32に供給され、フォトカプラ32を動作させる。
【0088】
実施の形態3の水平偏向回路において、水平偏向コイル27、リニアリティコイル28およびS字補正コンデンサ29は直列に接続されている。リニアリティ補正部1dはS字補正コンデンサ29と並列に接続されている。リニアリティ補正部1dは制御部2dと接続され、制御部2dにより制御されている。
【0089】
リニアリティ補正部1dは補正コイル4dと補正コンデンサ5dとを備え、これらは直列接続されている。また、制御部2dは出力トランジスタ31と、フォトカプラ32と、トランジスタ33と、回路設計上必要である抵抗34とを備えている。制御部2dのトランジスタ33のエミッタは接地されていて、コレクタはフォトカプラ32と接続され、ベースからダイオードモジュレーション信号が入力されている。
【0090】
ダイオードモジュレーション信号は、上述のように、水平振幅を制御する信号であり、ピンクッション歪みを補正する。トランジスタ33のベースにダイオードモジュレーション信号が入力されていることから、フォトカプラ32もダイオードモジュレーション信号で制御されている。また、フォトカプラ32と出力トランジスタ31とは接続されていて、出力トランジスタ31のドレインは補正コンデンサ5dと接続されている。したがって、出力トランジスタ31はダイオードモジュレーション信号に制御され、リニアリティ補正部2dを制御している。
【0091】
実施の形態3の水平偏向回路は上述の構成であるので、実施の形態1の水平偏向回路と同様に、S字補正コンデンサ5dの電流を、画面の垂直方向の位置に応じて変調することができる。それにより、水平偏向コイル27に流れる電流を変調することができ、インナーピン歪みおよびM字歪みの補正を行うことができる。したがって、この水平偏向回路を備えた陰極線管装置は高画質化が可能である。
【0092】
また、実施の形態3の水平偏向回路は、従来のダイオードモジュレーション型水平偏向回路に安価な電子部品を追加することで作製でき、構成も容易であることから、水平偏向回路を大型化することなく、作製も容易である。また、新たに制御信号生成回路等を作製する必要がないため、アンプやトランスやIC等の高価な素子を用いる必要がないために、低コストで作製でき、消費電力も小さい。また、実施の形態3の水平偏向回路を備えた陰極線管装置も、低コストで作製でき、高画質であって、消費電力も小さい。
【0093】
なお、補正コイル4dを可変コイルとしてもよい。それにより、補正コイル4dのインダクタンスは、任意に設定することができる。補正コイル4dのインダクタンスを調整することで、水平偏向電流の周波数にかかわらず、最適なリニアリティ補正がなされる。また、補正コイル4dのインダクタンスを任意に微調整することができるため、歪み率の微調整も可能である。
【0094】
なお、実施の形態1〜実施の形態3で具体的に示した、回路構成や部品の特性は、あくまでも一例であり、本発明はこれらの具体例のみに限定されるものではない。例えば、リニアリティ補正部および制御部は、実施の形態1実施の形態3に示した以外の構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の水平偏向回路は、M字補正およびインナーピン補正等のリニアリティ補正が必要である陰極線管装置に搭載することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の構成を示す回路図
【図2】本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路における、電流と電子ビームの走査位置との関係を示すグラフであって、図2(a)はリニアリティ補正部が接続されていない場合に水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図であり、図2(b)はM字共振電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図であり、図2(c)はM字補正が行われた水平偏向コイルに流れる水平偏向電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図であり、図2(d)はインナーピン補正が行われた水平偏向コイルに流れる電流と電子ビームの走査位置との関係を示す図
【図3】リニアリティ歪み率と画面(上端)の水平方向位置との関係を示すグラフ
【図4】リニアリティ歪み率と画面(中央部)の水平方向位置との関係を示すグラフ
【図5】本発明の実施の形態1に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図
【図6】本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の構成を示す回路図
【図7】本発明の実施の形態2に係る水平偏向回路の他の回路構成を示す回路図
【図8】本発明の実施の形態3に係る水平偏向回路の構成を示す回路図
【図9】一般的な水平偏向回路の構成を示す回路図
【図10】時間経過における、水平出力トランジスタのコレクタ電圧および水平偏向電流を示したグラフであって、図10(a)は時間経過における水平出力トランジスタのコレクタ電圧を示したグラフであり、図10(b)は時間経過における水平偏向電流を示したグラフ
【図11】M字歪みおよびインナーピン歪みを説明するための陰極線管装置の画像表示を示す図であって、図11(a)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じていない正常な画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図であり、図11(b)はM字歪みおよびインナーピン歪みが生じている画像を表示している陰極線管装置の画面を示す図
【図12】従来におけるリニアリティ歪みを補正する補正回路の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0097】
1、1a、1b、1c、1d リニアリティ補正部
2、2d 制御部
4、4d 補正コイル
5、5d 補正コンデンサ
6、31 出力トランジスタ
7 インバータ
11 補助コンデンサ
12、33 トランジスタ
13 補助S字補正コンデンサ
14 S字切り換えトランジスタ
21 陰極線管高圧部
22、84 直流電源(+B)
23 トランス
24 低電圧電源(+LB)
27、87 水平偏向コイル
28、88 リニアリティコイル
29、89 S字補正コンデンサ
32 フォトカプラ
34 抵抗
82 水平出力トランジスタ82
83 チョークコイル
85 共振コンデンサ
86 ダンパーダイオード
90 電源出力トランジスタ
100 画面
101a、101b、101c、102a、102b、102c 円
111、112 縦線
200 補正回路
201 波形生成部
202 出力部
203 水平偏向回路
204 トランス
205 水平偏向コイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平偏向コイルと、リニアリティコイルと、S字補正コンデンサとを有し、前記水平偏向コイル、前記リニアリティコイルおよび前記S字補正コンデンサが直列に接続されている水平偏向回路であって、
前記S字補正コンデンサと並列に接続されたリニアリティ補正部と、前記リニアリティ補正部を制御する制御部とを備えたことを特徴とする水平偏向回路。
【請求項2】
前記リニアリティ補正部は、補正コイルと補正コンデンサとを備えている請求項1に記載の水平偏向回路。
【請求項3】
前記制御部は、前記補正コンデンサと直列に接続されている請求項2に記載の水平偏向回路。
【請求項4】
前記制御部は、前記補正コンデンサと並列に接続されている請求項2に記載の水平偏向回路。
【請求項5】
前記補正コイルは可変コイルである請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の水平偏向回路。
【請求項6】
前記制御部は、電源変調信号により制御されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の水平偏向回路。
【請求項7】
前記制御部は、前記電源変調信号を反転させるインバータ素子を備えている請求項6に記載の水平偏向回路。
【請求項8】
前記S字補正コンデンサの特性および前記リニアリティ補正部の特性は、前記水平偏向コイルに流れる水平偏向電流の周波数に応じて制御されている請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の水平偏向回路。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の水平偏向回路を備えた陰極線管装置。
【請求項1】
水平偏向コイルと、リニアリティコイルと、S字補正コンデンサとを有し、前記水平偏向コイル、前記リニアリティコイルおよび前記S字補正コンデンサが直列に接続されている水平偏向回路であって、
前記S字補正コンデンサと並列に接続されたリニアリティ補正部と、前記リニアリティ補正部を制御する制御部とを備えたことを特徴とする水平偏向回路。
【請求項2】
前記リニアリティ補正部は、補正コイルと補正コンデンサとを備えている請求項1に記載の水平偏向回路。
【請求項3】
前記制御部は、前記補正コンデンサと直列に接続されている請求項2に記載の水平偏向回路。
【請求項4】
前記制御部は、前記補正コンデンサと並列に接続されている請求項2に記載の水平偏向回路。
【請求項5】
前記補正コイルは可変コイルである請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の水平偏向回路。
【請求項6】
前記制御部は、電源変調信号により制御されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の水平偏向回路。
【請求項7】
前記制御部は、前記電源変調信号を反転させるインバータ素子を備えている請求項6に記載の水平偏向回路。
【請求項8】
前記S字補正コンデンサの特性および前記リニアリティ補正部の特性は、前記水平偏向コイルに流れる水平偏向電流の周波数に応じて制御されている請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の水平偏向回路。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の水平偏向回路を備えた陰極線管装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2007−110634(P2007−110634A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301974(P2005−301974)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(503217783)松下東芝映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(503217783)松下東芝映像ディスプレイ株式会社 (176)
【Fターム(参考)】
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