説明

水平度検知具

【課題】水ファントム中における放射線検出器の移動水平度の確認が容易に確認できるとともに水平度が数値データとして得られる水平度検知具の実現。
【解決手段】水に浮き、側面に上下の動きを見るためのマーク12が付された浮動子11を上下方向可動に収納する筒体13の側面に前記マーク12の上下動を視ることのできる窓14を設けるとともに、この筒体13を水ファントムの3次元走査器の走査部に取り付けるための取付け部15を設け、前記窓には電子カメラ16を取り付け、前記マーク12を撮影した画像情報をケーブル17を介してコンピュータ18へ送り、その画面上に走査部の位置に対するマーク12の上下位置の数値データを表示させたり、走査部の移動方向とマークの移動方向を直交軸とする座標上にマークの移動軌跡を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用放射線ビームを擬似対象である水中へ垂直に照射し、そのビームの水中における水平方向の放射線吸収線量分布を測定する水ファントム走査器の走査部の移動水平度を検知する技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射性同位元素または粒子加速装置を線源とする放射線を放射線治療に利用するに際し、その放射線ビームの特性を確認するために、水ファントムと言われる水槽の水中における吸収線量の分布を測定することが広く行われている。
その測定は、最も一般的には直方体の水ファントムに走査部を装着し、その走査部に放射線検出器を取り付け水中における放射線場を走査することにより行われ、放射線検出器の出力情報と水中の距離情報とから、水ファントム中の吸収線量分布データを取得している。
【0003】
この測定では、放射線検出器を取り付けた走査部が水面と平行に走査するようにセットアップする必要があり、そのために様々な方法が工夫されている。以下、図を用いて従来の技術と方法を説明する。
【0004】
図6は、水ファントム1に3次元走査器2を設けた斜視図である。
この水ファントム1に水を張る。3次元走査器2は図7に示すように、走査部9を3次元で移動できるようになっており、この走査部9に円筒状の放射線検出器3が水平に取り付けられている。
そして、Y方向ガイド10上における走査部9の移動が水面と平行であるか否かは次のようにして見ていた。
【0005】
まず、Y方向ガイド10の上下位置を、放射線検出器3の円筒中心軸が丁度水面の高さ位置になるようにして固定する。これを図示すると図8の(a)のようになる。即ち、放射線検出器3の中心軸8が水面4と一致するようにする。そして、水ファントム1の外側で水面4よりやや低い位置から視線5のように中心軸8の方向を視ると、水面下の部分は実像が見え上の方は水面下の部分が水面4の下面で全反射された反射像が実像に繋がって見えるのでa−2のようにほぼ真円に見える。
【0006】
これに対して、中心軸8が水面4より下がっている場合にはa−1のように見え、上がっている場合にはa−3のように見える。
従って、Y方向ガイド10上を走査部9を移動させ、観測者も一緒に横(図8の紙面に垂直な方向)移動しつつ、放射線検出器3の正面を見たときの像がずっとa−2のようであれば、走査部9に取り付けられている放射線検出器3は水面4に一致して移動していることになる。しかし、移動するにつれてa−1又はa−3のような像になって来たときは移動方向に向かって下り傾斜又は上り傾斜になっており、水面4と平行な移動ではないことを示すことになる。
【0007】
(a)の場合は、最初に放射線検出器3の中心軸8を水面4に合わせた場合であるが、放射線検出器3の円筒外面の接線が水面4と一致する高さに置いた場合には、(b)のb−2に示すように2つの円が丁度接するように見え、水面4より下へ下がるとb−1のように2つの円が離れて見え、水面4より上へ上がるとb−3のように見える。従って、走査部9をY方向ガイド10に沿って移動させたときに、全移動を通じb−2の像が見えていれば、走査部9は水面4に平行に移動していることになり、b−1やb−3のような像になるようでは水面に対して平行な動きではなく傾斜しているということになる。
【0008】
その他の方法としては、(c)のように放射線検出器3に十字線7が描かれたキャップ6を嵌めて、最初十字線の交点を水面4に合わせて移動させたとき、移動が水面4に平行であれば全移動を通じてc−2のように見えるが、いずれかに傾斜している場合にはc−1或いはc−3のようになる。以上は、走査部9をY方向ガイド10に沿って移動させた場合であるが、Z方向ガイド24をX方向ガイド23に沿って移動させ、走査部9をX方向に移動させたときの水平度チェックも同様に行われる。このときは、放射線検出器3は視線方向に対して前後に移動することになるので、観測者は横方向に移動する必要はない。
【0009】
このようにして、走査部9の移動が水面4に対して平行であるか否かを確かめて、平行でないときには、3次元走査器2のX方向ガイド23やY方向ガイド10の傾きを調整して、走査部9を移動させ視線5で見たときの像がa−2、b−2、c−2に維持されるようにして平行移動を実現している(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】保科正夫、「放射線治療技術の標準」、第1版、株式会社日本放射線技師会出版会、2008.2.1、P.242-244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来の技術においては、走査部の走査軸が水面と平行な面内にセットアップする際最終的には、図8のa−1〜a−3、b−1〜b−3、c−1〜c−3のような像を目視により確認するものであること、およびセットアップの情報が数値として表せないことにより、セットアップの精度が熟練度や個人差により異なることおよびセットアップ時の情報が数値データとして残らないこと並びに精度を上げるためにセットアップに時間がかかるという種々の問題があった。
【0012】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑みて、放射線検出器の移動水平度の確認に関し、従来のように、図8に示したような像の形状変化に対する目視によるものではなく、単純な上下動に対する目視か数値データとして把握できる水平度検知具の実現にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の各手段構成を有する。
本発明の第1の構成は、水ファントムの走査部に取り付けて走査部を移動させることにより走査部の移動水平度を検知するために、下記の手段を具備することを特徴とする水平度検知具である。
(イ)水に浮き側面に上下の動きを見るためのマークが付された浮動子
(ロ)前記浮動子を上下方向可動に収納し、側面に浮動子の前記マークを視ることのできる窓と、走査部に取り付けるための取付け部とを有する筒体
【0014】
本発明の第2の構成は、前記第1の構成において、前記窓の傍に前記浮動子のマークの上下移動量を見るための目盛が付されていることを特徴とする水平度検知具である。
【0015】
本発明の第3の構成は、前記第1の構成又は第2の構成の水平度検知具の前記筒体の窓に前記マークを撮影する電子カメラが取り付けられ、電子カメラからのマークの画像情報と走査部の水平位置情報とを受けて画面上に走査部の位置対マークの上下位置の数値データを表示するか又は走査部の移動方向とマークの移動方向を直交軸とする座標上でマークの軌跡を画像表示するコンピュータを具備することを特徴とする水平度検知具である。
【0016】
本発明の第4の構成は、前記第3の構成において、前記走査部又はそのガイド機構が走査部の前記水平位置情報を発生する水平位置情報発生手段を具備していることを特徴とする水平度検知具である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の構成において、マーク付きの浮動子を収納した窓付きの筒体を軸方向を垂直にして一部水中に入れた状態で筒体を上下に動かした場合、浮動子は水面に対して上下動しないのに対して窓は上下するので、マークと窓は相対的に上下移動し、窓を基準にして視ると恰もマークが上下しているように見える。従って、この筒体を走査部に取り付けて移動させた場合、その移動が水面に平行であれば、マークは静止して見える。
【0018】
これに対して上り傾斜の場合はマークは下がって行き、下り傾斜であればマークは上がって行くように見える。
このように、観測対象の変化がマークの上下動だけであるので、従来の図8におけるような図形の変化を観る場合に較べて見易く、従来よりも小さい傾斜まで検知できるという効果がある。
【0019】
第2の構成は、第1の構成において、窓の傍に目盛を設けてあるので、走査部の横方向移動量に対するマークの上下移動量が数値的に把握できるという効果がある。
【0020】
第3の構成では、筒体の窓に取り付けられた電子カメラからコンピュータへマークの画像情報が送られ、コンピュータへ走査部の位置情報を入力すると、水平位置対マーク上下位置の数値データ又は走査部の移動方向とマークの移動方向を直交軸とする座標上にマークの軌跡がコンピュータの画面上に表示されるので、見易い客観的な数値データとして残すことができ、操作者の熟練を必要とせずまた個人差も生じないという効果がある。
【0021】
第4の構成では、走査部の位置データは、走査部又はX方向ガイドやY方向ガイドが具備している水平位置情報発生手段からコンピュータへ位置情報が自動的に送られるので、位置読み取りやコンピュータへの入力操作等の手間が不要になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明第1の構成の実施例の斜視図である。(実施例1)
【図2】本発明第3の構成の実施例の斜視図である。(実施例2)
【図3】図2における浮動子組立ておよび電子カメラ部分の断面図である。
【図4】浮動子組立てにミラー組立てを取り付け電子カメラを垂直に取り付けた例を示す図である。
【図5】水ファントムに取り付けられた3次元走査器に図2の構成を取り付けた斜視図である。
【図6】水ファントムに設けられた3次元走査器の走査部に放射線検出器を取り付けた状態の斜視図である。
【図7】3次元走査器における走査部の3次元移動を示す斜視図である。
【図8】放射線検出器の横移動が水面と平行であるか否かを確認する従来の確認方法説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態は、水ファントムおよびそれに設けられる3次元走査器は、そのまま用いるものであり、走査部に取り付けられる放射線検出器に代えて本発明の水平度検知具を取り付けて走査部を横移動させて観測することにより行うものである。
走査部への取り付けは、走査部の放射線検出器挿入取付け穴へ、本発明水平度検知具の筒体に設けられている円柱状の取付け部を挿入して取り付けるのが簡単であるが、その他の取付け構造であってもよい。
【0024】
水平度検知の仕方としては、本発明第1の構成又は第2の構成の水平度検知具を用いて、操作者が浮動子のマークの上下の動きを目視することにより行う場合と、本発明第3の構成又は第4の構成のように、筒体に電子カメラを取り付け、浮動子のマークを撮像しその画像データを、走査部の位置データとともにコンピュータへ入力し、水平位置対マークの上下位置の数値データ表を画面上に表示させたり、走査部の移動方向とマークの移動方向を直交軸とする座標上にマークの移動軌跡を画像表示させたりする。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明第1の構成の実施例の斜視図である。
構成は、浮動子11と筒体13とからなり、筒体13の中へ浮動子11を収納した状態のものを浮動子組立て20と呼んでいる。浮動子11の側面にはマーク12が設けられており、このマーク12の筒体13に対する相対上下動を観測することにより水平度を検知する。
【0026】
また、浮動子11の側面には突起19が設けられている。
その目的は、浮動子11を筒体13に収納した状態で、水ファントムの水中へ浸した場合に浮動子の側面が筒体13の内壁面に水を介して密着或いは吸着されて、自由な上下動ができなくなるのを防止するため、浮動子11の側面と筒体13の内壁面との間に隙間ができるように設けられているものである。
【0027】
筒体13の側面には、収納された浮動子11のマーク12の上下動が観測できる窓14が設けられている。
下部の方には浮動子組立て20を、3次元走査器2の走査部9の放射線検出器取付け用の穴へ挿入して固定するための取付け部15が設けられている。
【0028】
このような浮動子組立て20を図6の走査部9へ放射線検出器3に代えて取り付け、水ファントム1に所定のレベルまで水を張る。次いで、浮動子11のマーク12が筒体13の窓14から見えるようにY方向ガイド10の高さ位置を調整する。
【0029】
その状態でマーク12を見ながら走査部9をY方向ガイド10に沿って移動させる。筒体の移動が水面に平行即ち水平ならば窓から見えるマーク12の上下動はない。
換言すれば、窓14から見えるマーク12に上下動が認められなければ、筒体の移動は水平であるということになる。
【0030】
以上に対して、Y方向ガイド10が水平から傾いている場合には、走査部9を移動させて行くと筒体13の上下位置は高くなって行くか低くなって行くかする。
これに対して浮動子11自体の水面に対する上下位置は変動がないので、浮動子11のマーク12を筒体13の窓14から見ていると、筒体13が高くなって行くときは、窓14から見ているマーク12は下がって行くように見え、筒体13が低くなって行くときは、マーク12は上がって行くように見える。
【0031】
従って、窓14越しにマーク12の上下動の有無を見ることによって走査部9が水平に動いているか否かを知ることができ、更に上下動の大きさを見ることにより傾きの程度を知ることができる。
窓14の片側或いは両側に目盛を刻んでおく(本発明第2の構成)ことにより、マーク12の上下動の量を数値的に把握することができ、走査部9の移動距離は容易に知ることができるから、その数値と上下動の数値とから、傾斜角度を算出することができる。
以上のことは、Z方向ガイド24をX方向ガイド23に沿って移動させた場合も同様である。
【0032】
図8に示した、従来の水平確認方法が、実像とその全反射像が繋がった像の形状の変化を観察し判断するのに対し、本願発明の水平度検知具による場合にはマーク12の単なる上下移動を見るだけでよいので、従来法では見極めにくかった僅かな傾きでも検知できるという利点があるうえ、従来法では傾きの数値データが得られなかったのに対し、窓に目盛を付けることにより傾きを数値的に把握できるという利点がある。
【実施例2】
【0033】
図2は、本発明第3の構成の実施例の斜視図である。
その構成は、図1の構成に対して、筒体13の窓14に電子カメラ16を取り付け、マーク12の画像情報をケーブル17を介してコンピュータ18に接続したものである。ケーブルに代えて無線で伝達してもよい。コンピュータ18ではその画像情報からマーク12の上下位置情報を抽出し、別途コンピュータ18へ例えば手操作によって入力される走査部9の位置情報とから水平位置対上下位置の数値データ群を画面上に記録表示したり、走査部の移動方向とマークの移動方向を直交軸とする座標上にマークの移動軌跡を表示して水平走査ガイドの傾斜を視覚的に表示させる。
【0034】
この構成によれば、従来方法或いは前記第1の構成におけるように走査部を移動させたとき操作者の眼も一緒に移動させるということは必要がなくなり、コンピュータ18の画面を見ているだけで、傾斜の有無・程度が一目瞭然ということになる。
【0035】
なお、走査部9の位置データのコンピュータ18への入力に関しては、前述のように手入力でもよいが、走査部9或いはY方向ガイド10やX方向ガイド23に取り付けられた水平位置情報発生手段からの出力をコンピュータ18へ接続するようにしておいてもよい(本発明第4の構成)。
【符号の説明】
【0036】
1 水ファントム
2 3次元走査器
3 放射線検出器
4 水面
5 視線
6 キャップ
7 十字線
8 中心軸
9 走査部
10 Y方向ガイド
11 浮動子
12 マーク
13 筒体
14 窓
15 取付け部
16 電子カメラ
17 ケーブル
18 コンピュータ
19 突起
20 浮動子組立て
21 ミラー
22 ミラー組立て
23 X方向ガイド
24 Z方向ガイド






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
水ファントムの走査部に取り付けて走査部を移動させることにより走査部の移動水平度を検知するために、下記の手段を具備することを特徴とする水平度検知具。
(イ)水に浮き側面に上下の動きを見るためのマークが付された浮動子
(ロ)前記浮動子を上下方向可動に収納し、側面に浮動子の前記マークを視ることのできる窓と、走査部に取り付けるための取付け部とを有する筒体
【請求項2】
前記窓の傍に前記浮動子のマークの上下移動量を見るための目盛が付されていることを特徴とする請求項1記載の水平度検知具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の水平度検知具の前記筒体の窓に前記マークを撮影する電子カメラが取り付けられ、電子カメラからのマークの画像情報と走査部の水平位置情報とを受けて画面上に走査部の位置対マークの上下位置の数値データを表示するか又は走査部の移動方向とマークの移動方向を直交軸とする座標上でマークの軌跡を画像表示するコンピュータを具備することを特徴とする水平度検知具。
【請求項4】
前記走査部又はガイド機構が走査部の前記水平位置情報を発生する水平位置情報発生手段を具備していることを特徴とする請求項3記載の水平度検知具。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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