説明

水底敷設マット及び底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法

【課題】底質の状態の如何を問わず、かつ、覆砂層の厚みの増大を来たすこと無く、効率的に底質中の疎水性化学物質の溶出を抑える。
【解決手段】水底敷設マット10は、底質16の表面に敷設されることで、底質16の表面を覆い隠すことから、覆砂18の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐことができる。又、底質16が軟弱な場合であっても、水底敷設マット10が覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂18の底質16内への埋没を防ぐことができる。更に、高有機物含有材料である高分子材シート14の疎水性化学物質捕捉機能によって、底質16から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐものである。よって、水底敷設マット10を覆い隠す程度の薄い覆砂層18を設置することで、底質中の疎水性化学物質の溶出を、十分に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底質中の疎水性化学物質の溶出防止技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリブチルスズ化合物(TBT)は、過去において、船底塗料等の防汚剤として広く使用されていたが、後に内分泌かく乱物質であることが明らかとなり、現在は使用が規制されている。その結果、海水中のTBT濃度は低濃度になって来ているものの、疎水性化学物質であることから、特に港湾域においては、海底の堆積物中のTBT含有濃度が依然として高く、水質への溶出や、堆積物の摂食などの経路による生態系への影響が懸念されている。なお、同様の問題を抱える疎水性化学物質には、ダイオキシン類、多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons, PAH)等も含まれる。
さて、汚染底質からの、TBT等の疎水性化学物質の溶出による汚染の拡大防止対策としては、従来から、汚染底質の浚渫、改質、置換、覆砂等、種々の対策が採られている(例えば、特許文献1)。又、本発明者らの実験により、TBT等の疎水性化学物質を、高有機質の物質により捕捉可能であることが確認されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−2393265(請求項1、図1〜図4)
【非特許文献1】山崎智弘,坂元信裕,林しん治,中村由行著,2007年,「アオサのTBTに対する取り込み速度および分解特性に関する実験」,第41回日本水環境学会年会公演集,p.32
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、汚染底質からの疎水性化学物質の溶出による汚染の拡大防止対策として、従来から採用されている、汚染底質の浚渫、改質、置換等の工法は、大規模港湾域等に対し広範囲にわたる対策を行うためには、莫大な費用が必要となる。
一方、汚染底質の表面を覆砂で覆い隠す工法は、底質上に砂を設置する際に、汚染された浮泥が水中に巻き上がり、覆砂層上に再堆積してしまうため、十分な対策効果が得られない。又、底質が軟弱な場合には、覆砂層が底質内に埋没してしまい、所定の効果を得るためには、覆砂層を相当に厚くする必要がある。しかしながら、覆砂層の厚みの増加は、材料及び施工コストの増大を来たし、かつ、港等では水深が浅くなることにより、船舶の航行に支障を来たすことにもなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、底質の状態の如何を問わず、かつ、覆砂層の厚みの増大を来たすこと無く、効率的に底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えることにある。
上記課題を解決するために、本発明は、疎水性化学物質を効率的に捕捉することが可能な、高有機物含有素材を含む水底敷設マットを提供するものである。
又、本発明は、底質の表面に、高有機物含有素材を含む水底敷設マットや高有機物層を施工した後に覆砂層を形成することで、汚染された浮泥の水中への巻き上がりを防ぎ、かつ、覆砂層の厚みの増大を招くことなく、効率的に底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)透水性を有し、少なくとも表裏いずれか一層又は中間層が、高有機物含有材料で構成された水底敷設マット(請求項1)。
本項に記載の水底敷設マットは、底質の表面に敷設されることで、底質の表面を覆い隠すことから、覆砂の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐことができる。又、底質が軟弱な場合であっても、当該水底敷設マットが覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂の底質内への埋没を防ぐことができる。更に、高有機物含有材料の疎水性化学物質捕捉機能によって、底質から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐものである。よって、当該水底敷設マットを覆い隠す程度の薄い覆砂層を設置することで、底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えることができる。
なお、当該水底敷設マットは、その全体が高有機物含有材料で構成されたものであっても良い。
【0008】
(2)少なくとも一部に、高分子材シートが含まれる水底敷設マット(請求項2)。
本項に記載の水底敷設マットは、底質の表面に敷設されることで、底質の表面を覆い隠すことから、覆砂の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐことができる。又、底質が軟弱な場合であっても、当該水底敷設マットが覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂の底質内への埋没を防ぐことができる。更に、高有機物含有材料からなる高分子材シートの疎水性化学物質捕捉機能によって、底質から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐものである。よって、当該水底敷設マットを覆い隠す程度の薄い覆砂層を設置することで、底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えることができる。
【0009】
(3)透水性土木シートと高分子材シートとが一体に重ね合されてなる水底敷設マット(請求項3)。
本項に記載の水底敷設マットは、底質の表面に敷設されることで、底質の表面を覆い隠すことから、覆砂の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐことができる。又、底質が軟弱な場合であっても、当該水底敷設マットが覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂の底質内への埋没を防ぐことができる。更に、高有機物含有材料からなる高分子材シートの疎水性化学物質捕捉機能によって、底質から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐものである。よって、当該水底敷設マットを覆い隠す程度の薄い覆砂層を設置することで、底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えることができる。なお、透水性土木シートと高分子材シートとは、一体に重ね合されていることから、底質の表面への敷設の際の作業工数が増大することはない。
【0010】
(4)透水性土木シート若しくは高分子材シートの内部の少なくとも一層が、高有機物含有材料により構成されている水底敷設マット(請求項4)。
本項に記載の水底敷設マットは、底質の表面に敷設されることで、底質の表面を覆い隠すことから、覆砂の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐことができる。又、底質が軟弱な場合であっても、当該水底敷設マットが覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂の底質内への埋没を防ぐことができる。更に、内部の少なくとも一層を構成する高有機物含有材料の疎水性化学物質捕捉機能によって、底質から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐものである。よって、当該水底敷設マットを覆い隠す程度の薄い覆砂層を設置することで、底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えることができる。なお、高有機物含有材料は、当該水底敷設マットの内部に包含されていることから、底質の表面への敷設の際の作業工数が増大することはない。又、かかる内部層に、活性炭やアオサ等の植物系素材、粘土・シルト等のシート材への加工が困難な、高有機物含有材料を用いることが可能となる。
【0011】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項記載の水底敷設マットを、底質の表面に敷設し、該水底敷設マットを覆砂で覆うことを特徴とする底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法(請求項5)。
本項に記載の底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法は、上記(1)から(4)のいずれか1項記載の水底敷設マットを、底質の表面に敷設することで、底質の表面を覆い隠すことにより、後の覆砂の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐものである。又、底質が軟弱な場合であっても、当該水底敷設マットが覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂の底質内への埋没を防ぐことができる。更に、上記(1)から(4)のいずれか1項記載の水底敷設マットが備える、高有機物含有材料の疎水性化学物質捕捉機能によって、底質から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐことができる。その結果として、覆砂層については、当該水底敷設マットを覆い隠す程度の薄い層を設置することとすれば良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明はこのように構成したので、底質の状態の如何を問わず、かつ、覆砂層の厚みの増大を来たすこと無く、効率的に底質中の疎水性化学物質の溶出を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面に基づいて説明する。
図1には、本発明の実施の形態に係る水底敷設マット10と共に、水底敷設マット10を用いた底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法が模式的に示されている。水底敷設マット10は、透水性土木シート12と、高分子材シート14とが一体に重ね合された構造を有している。ここで、透水性土木シート12には、ジオテキスタイル等が用いられる。又、高分子材シート14には、不織布やポリウレタン等が用いられる。そして、透水性土木シート12と、高分子材シート14とが、工場にて予め一体に加工され、ロール状にされて、敷設現場に搬入されるものである。
そして、水底敷設マット10を底質16の表面に敷設し、その後、水底敷設マット10を覆砂18で覆うものである。
【0014】
なお、底質16の表面に水底敷設マット10を敷設する工法は任意であるが、ここでは、特許第3108802号公報に記載のシート敷設工法を採用している。この工法においては、図5に示されるように、水底敷設マット10を巻回してなるマットロールがクローラクレーン2のクレーン2aに吊下した吊具5に支持される。この吊具5の位置は、GPSおよび超音波測量システムによりマット敷設船3上で監視されるようになっており、また、マット敷設船3は、ワイヤ6を操作するウインチ7により位置決めおよび操船される。なお、図5中、符号8で示される部分は、外部にGPSアンテナ8aを、内部に各種制御機器(図示略)をそれぞれ装備したコントロール室であり、このコントロール室8内でクローラクレーン2およびウインチ7の動作が集中的に制御されるようになっている。また、吊具5には、水底敷設マット10の敷設状態を監視する水中カメラ9が設置されている。
【0015】
一方、図2に示される水底敷設マット20は、その全体が高分子材シートで構成されたものである。具体的には、図1の水底敷設マット10における透水性土木シート12と同等の強度を確保することが可能な厚み、すなわち、底質16が軟弱な場合であっても、水底敷設マット20が覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂18の底質16内への埋没を防ぐことができる厚みの、高分子材シートが用いられる。
【0016】
又、図3に示される水底敷設マット22は、透水性土木シート若しくは高分子材シートからなる外皮層24に包まれる内層26が、高有機物含有材料により構成されたものである。高有機物含有材料としては、活性炭やアオサ等の植物系素材、粘土・シルト等が用いられる。
【0017】
なお、図2、図3に示される水底敷設マット20、22の敷設する工法についても、図1に示される水底敷設マット10と同様に任意であり、底質16の表面に水底敷設マット20、22を敷設し、その後、水底敷設マット20,22を覆砂18で覆う工法も、図1に示される水底敷設マット10と同様である。
【0018】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。すなわち、本発明の実施の形態に係る水底敷設マット10、20、22は、底質16の表面に敷設されることで、底質16の表面を覆い隠すことから、覆砂18の設置に際し、汚染された浮泥の水中への巻き上げを防ぐことができる。又、底質16が軟弱な場合であっても、水底敷設マット10、20、22が覆砂の重みを受けて荷重分布を均一化することで、覆砂18の底質16内への埋没を防ぐことができる。
更に、高有機物含有材料である高分子材シート14、20又は内層26の、疎水性化学物質捕捉機能によって、底質16から溶出する疎水性化学物質の水中への拡散を防ぐものである。よって、水底敷設マット10、20、22を覆い隠す程度(例えば、30cm程度)の薄い覆砂層18を設置することで、底質中の疎水性化学物質の溶出を、十分に抑えることができる。従って、材料及び施工コストの増大を抑え、かつ、港等では覆砂層が厚くなることにより水深が浅くなってしまうことを、回避することが可能となる。
【0019】
なお、図1の水底敷設マット10は、透水性土木シート12と高分子材シート14とが、一体に重ね合されたものであることから、底質16の表面への敷設の際の作業工数が増大することはない。又、全体が高分子材シートからなる図2の水底敷設マット20も、当然に底質16の表面への敷設の際の作業工数が増大することはない。更に、図3の底質敷設マット22においても、内層26を構成する高有機物含有材料は、水底敷設マット22の内部に包含されていることから、底質16の表面への敷設の際の作業工数が増大することはない。又、図3の底質敷設マット22の場合には、活性炭やアオサ等の植物系素材、粘土・シルト等のシート材への加工が困難な高有機物含有材料を用いることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る水底敷設マットと共に、この水底敷設マットを用いた底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る、別構造の水底敷設マットと共に、この水底敷設マットを用いた底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る、さらに別構造の水底敷設マットと共に、この水底敷設マットを用いた底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態において採用することが可能な、水底敷設マットの敷設法を示す模式図である。
【符号の説明】
【0021】
10、20、22:水底敷設マット、 12:透水性土木シート、14:高分子材シート、16:底質、18:覆砂、24:外皮層、26:内層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透水性を有し、少なくとも表裏いずれか一層又は中間層が、高有機物含有材料で構成された水底敷設マット。
【請求項2】
少なくとも一部に、高分子材シートが含まれることを特徴とする請求項1記載の水底敷設マット。
【請求項3】
透水性土木シートと高分子材シートとが一体に重ね合されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の水底敷設マット。
【請求項4】
透水性土木シート若しくは高分子材シートの内部の少なくとも一層が、高有機物含有材料により構成されていることを特徴とする請求項1記載の水底敷設マット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の水底敷設マットを、底質の表面に敷設し、該水底敷設マットを覆砂で覆うことを特徴とする底質中の疎水性化学物質の溶出防止工法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−308831(P2008−308831A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155488(P2007−155488)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】