説明

水性インクジェット用前処理液

【課題】水性インクジェット印刷用前処理液をカールやコックリングの発生を抑制することが可能であって、裏抜けを抑えて、高い印刷濃度を実現することが可能なものとする。
【解決手段】水性インクジェット印刷用前処理液をC=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい)で表されるリン酸トリエステルを含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録システムの使用に適した水性インクジェット用前処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた印刷用紙に画像を記録するものである。従って、インクジェット記録方式に用いられるインクジェットインクは低粘度である必要があり、それゆえに用紙に印刷した時、表濃度は低くなりやすく、また裏抜けが発生しやすいという問題が潜在している。
【0003】
この問題に対し、インクの噴射に先だって印刷用紙に対し前処理を行うことが提案されている。例えば、特許文献1には水溶性多価金属塩と、所定量の界面活性剤と、高沸点アミンと、ベンゾトリアゾール塩および水を含有する前処理液が記載されている。また、特許文献2には、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1,3−ブチレングリコールおよびイソプレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種のブタン誘導体と、水と、金属塩と、蛍光増白剤とを含有する前処理液が記載されている。
【0004】
しかし、上記特許文献1および2に記載の前処理液はいずれも水を含むために、水を吸収するような紙媒体に使用する場合、カール(凸カール)やコックリング(波打ち)という新たな問題が生じる。また、金属塩を含むため、インクセットとしてインクジェット記録方式に適用した場合、ノズルで金属塩の凝集が生じることが懸念される。一方、出願人は特許文献3において水を含まない前処理液を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−276253号公報
【特許文献2】特開2009−286116号公報
【特許文献3】特開2009−269358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3で提案した前処理液は水性インクで印刷した後のカールやコックリングの発生を抑制するという側面においては優れているものであるが、画像濃度や裏抜けに関しては、最近の高品質の画像要求に答えるためにはさらなる改良が望まれる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、カールやコックリングの発生を抑制することが可能であって、裏抜けを抑えて、高い印刷濃度を実現することが可能な前処理液を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水性インクジェット印刷用前処理液は、C=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい)で表されるリン酸トリエステルを含むことを特徴とするものである。
【化1】

【0009】
前記五員複素環式化合物は、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記カーボネート化合物は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0010】
前記ラクトン化合物はγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記イミダゾリジノン化合物は2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
前記ピロリドン化合物は2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記リン酸トリエステルはリン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルから選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
本発明のインクセットは、上記の水性インクジェット印刷用前処理液と、少なくとも顔料と、水分散性樹脂と、水と、水溶性有機溶媒とを含む水性インクジェットインクとを備えたことを特徴とするものである。
前記水分散性樹脂はウレタン樹脂またはスチレン−アクリル樹脂であることが好ましい。
【0013】
本発明のインクジェット記録方法は、上記の水性インクジェット印刷用前処理液を印刷媒体に付着させた後、該前処理液が付着した印刷媒体上に、少なくとも顔料と、水分散性樹脂と、水と、水溶性有機溶媒とを含む水性インクジェットインクを吐出させることにより印刷を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性インクジェット印刷用前処理液は、C=O結合を有する五員複素環式化合物および/または上記一般式で表されるリン酸トリエステルを含むので、カールやコックリングの発生を抑制することができる。また、水分散性樹脂を含む水性インクジェットインクと組合せて使用することで、画像濃度の向上、裏抜けの抑制を実現することができる。これは、第一に、本発明の水性インクジェット印刷用前処理液が揮発するために裏抜けを抑制することができ、これによって印刷放置後にさらに画像濃度が向上するためであると考えられる。第二に、水性インクジェット印刷用前処理液と水性インクジェットインクに含まれる水分散性樹脂が反応することで、水分散性樹脂に増粘が生じ、これによって画像の発色がよくなるものと考えられる。加えて、本発明の前処理液は固形分を含まないため、インクジェット記録方法で使用した場合にも前処理液がヘッド表面で固化する怖れがないという利点も得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の水性インクジェット印刷用前処理液(以下、単に「前処理液」ともいう。)は、C=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい)で表されるリン酸トリエステルを含むことを特徴とするものである。
【化1】

【0016】
五員複素環式化合物としては、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物を好ましく挙げることができる。
カーボネート化合物としてはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ラクトン化合物としてはγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
【0017】
イミダゾリジノン化合物としては2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
ピロリドン化合物としては2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体を好ましく挙げることができる。
上記誘導体としては、水素原子がフッ素原子または炭素数が1〜4のアルキル基で置換された化合物を例示することができる。
【0018】
上記一般式で表されるリン酸トリエステルは、式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい。具体的には、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリイソプロピル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニルを好ましく挙げることができ、中でも汎用性の観点からすると、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルが好ましい。
【0019】
上記五員複素環式化合物、リン酸トリエステルはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
本発明の前処理液に含まれる、五員複素環式化合物および/またはリン酸トリエステルの配合量は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが一層好ましい。
【0020】
前処理液には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、五員複素環式化合物および/またはリン酸トリエステルと互いに溶解しうる水溶性有機溶剤、たとえばエーテル類、多価アルコール類等を一部に含むことができる。一方、カール抑制効果の観点から、前処理液は実質的に水を含まない構成であることが好ましい。
また、前処理液には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて、後述するインクに含まれると同様の公知の各種添加剤、たとえば界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤等を含むことができる。
【0021】
本発明の前処理液は、少なくとも顔料と、水分散性樹脂と、水と、水溶性有機溶媒とを含む水性インクジェットインク(以下、単に「インク」ともいう。)とを一体としたインクセットとして用いることができる。ここでインクセットとは、前処理液カートリッジとインクカートリッジが複数一体になっているインクカートリッジ自体はもちろんのこと、単独の前処理液カートリッジとインクカートリッジを複数組み合わせて使用する場合も含み、さらに、前処理液カートリッジとインクカートリッジと記録ヘッドを一体としたものも含まれる。
【0022】
インクセットのインクに含まれる水分散性樹脂は、水に安定に分散させるために必要な親水成分が導入された自己乳化型のものでもよいし、外部乳化剤の使用により水分散性となるものでもよい。水分散性樹脂としては、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル−酢酸ビニル樹脂等を好ましく挙げることができ、これらは単独であるいは2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。より具体的には、例えば、第一工業製薬株式会社製のスーパーフレックスシリーズのなかのスーパーフレックス460、460s、470、500M、610、700、株式会社アデカ製アデカボンタイターシリーズのなかのアデカボンタイターHUX−380、290K、290H、三井化学ポリウレタン株式会社製タケラックW−512A6等が挙げられる。これらは、ウレタン骨格を有する水分散性樹脂である。また、ニチゴー・モビニール株式会社製モビニール965、モビニール8055A等が挙げられる。これらは、スチレン−アクリル樹脂である。水分散性樹脂は、インク全量に対し1〜15質量%含まれていることが好ましく、3〜10質量%含まれていることがより好ましい。
【0023】
水溶性有機溶剤としては、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、などのグリコール類、グリセリン、アセチン類、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテルなどのグリコール誘導体、トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオグリコール、スルホランなどを用いることができる。これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。水溶性有機溶剤は、インク全量に対し1〜80質量%含まれていることが好ましく、10〜60質量%含まれていることがより好ましい。
【0024】
顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0025】
さらに、化学的または物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された自己分散性顔料を用いることが好ましい。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性またはカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基などが好ましい。
【0026】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理などが挙げられる。
顔料はインク全量に対し1〜30質量%含まれていることが好ましく、1〜15質量%含まれていることがより好ましい。
【0027】
水は、粘度調整の観点から、インク中に20〜80質量%含まれていることが好ましく、30〜70質量%含まれていることがより好ましい。
インクの粘度は、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において1〜30mPa・sであることが好ましく、3〜15mPa・sであることがより好ましく、さらには約5mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用としては望ましい。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0028】
インクには、必要に応じて、本発明の目的を阻害しない範囲内で、当該分野において通常用いられている各種添加剤を含ませることができる。具体的には、顔料分散剤、消泡剤、表面張力低下剤等として、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤をインクに含有させることができる。
【0029】
インクは、例えばビーズミル等の公知の分散機に全成分を一括又は分割して投入して分散させ、所望により、メンブレンフィルター等の公知のろ過機を通すことにより調製できる。例えば、予め溶剤の一部と顔料の全量を均一に混合させた混合液を調製して分散機にて分散させた後、この分散液に残りの成分を添加してろ過機を通すことにより調製することができる。
【0030】
本発明の前処理液は印刷媒体に付着させた後、この前処理液が付着した印刷媒体上に、上記水性インクジェットインクを吐出させることにより印刷を行うインクジェット記録方法に用いることができる。
印刷媒体としては、様々な種類の紙を使用することができるが、コピー用紙、コピー用再生紙などの普通紙においてより本発明の効果を享受することができる。もちろん、表面処理を行なったコート紙なども用いることができる。
【0031】
印刷媒体への前処理液の付着方法は、特に限定されず、たとえば、インクジェット記録装置を用いてもよいし、ローラーやスプレーなどで必要量を塗布するようにしてもよい。その付着場所は、紙面全体でもよいし、画像形成部のみに選択的に付着させてもよい。あるいは、ベタ画像部分など、単位面積当たりある一定以上のインクが付着する箇所にのみ前処理液を塗布することもできる。
前処理剤の付着量は、単位面積当たりの質量で、インクの付着量の0.5〜7倍程度であることが好ましく、4〜6倍程度であることがより好ましく、約5倍であることが最も好ましい。
【0032】
本発明の前処理液は乾燥速度が速いため、特に乾燥工程を設ける必要はなく、続いて画像形成工程を行なうことができる。
画像形成はインクジェット記録法により行なわれる。インクジェットプリンターは、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を記録媒体に付着させるようにする。
【0033】
以上の記録方法によれば、カール等の用紙変形が有効に防止されるので、用紙搬送性が良好であり、したがって1分間に120枚といった高速印刷にも対応することができる。さらに、本発明に係るインクセットは、ラインヘッド方式のインクジェットプリンターに好ましく使用することができる。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0034】
(実施例および比較例)
下記表1に示す配合(表1に示す数値は質量部である)で前処理液およびインクを調整した。得られた前処理液を印刷用紙(理想用紙IJマット(W)、理想科学工業(株)製)に滴下し、バーコーターで約14μmの膜厚で塗布した。引き続き(前処理液付着から5〜10秒後に)、調整したインクをインクジェットプリンター(EPSON製インクジェットプリンターPX5500)に装填し、解像度1440×1440dpiでベタ画像を印刷し、以下の基準で評価した。
【0035】
(評価)
(印刷濃度)
印刷直後と印刷後3時間後にベタ画像の表面と裏面のOD値を、光学濃度計(RD920、マクベス社製)を用いて測定し、比較例1を基準として比較例1よりもどれだけ向上したかを以下の基準で評価した(マイナスは比較例1よりも低下していることを示している)。
◎:5%以上向上
○:3%以上5%未満
△:−3%以上3%未満
×:−3%未満
【0036】
(カール高さ)
実施例および比較例の前処理液を印刷用紙(5cm×7cmに裁断した理想用紙IJマット(W))に滴下し、バーコーターで約14μmの膜厚で塗布し、用紙角部のカール高さを測定し、前処理液を塗布していない比較例1との変化率を求めた。
各インクの処方と評価の結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の前処理液を用いた実施例はいずれもカールが抑制された。比較例4は水を含む前処理液であるため、許容できないカールが発生した。また、本発明の前処理液で処理した実施例は、水分散性樹脂を含むインクとの組み合わせにおいて裏抜けが抑制されて印刷濃度が高かった。これは本発明の前処理液が揮発するために印刷放置後にさらに画像濃度が向上するためであると考えられる。実際、実施例の表濃度は印刷直後よりも3時間後の方が高くなる傾向があった。また、水性インクジェット印刷用前処理液と水性インクジェットインクに含まれる水分散性樹脂が反応することで、水分散性樹脂に増粘が生じ、これによって画像の発色がよくなり、印刷濃度が高くなったものと考えられる。
【0039】
実施例8は五員複素環式化合物の割合が70%であるため、他の実施例に比べると若干印刷直後のOD値は低かったものの、前処理液で処理をしていない比較例に比べて裏抜けは抑制された。比較例2,3は水を含まない前処理液であるが、この場合にはカールは発生しなかったものの画像濃度は実用には耐えないものであった。
【0040】
以上のように、本発明の水性インクジェット印刷用前処理液は、C=O結合を有する五員複素環式化合物および/または上記一般式で表されるリン酸トリエステルを含むので、カールやコックリングの発生を抑制することができる。また、水分散性樹脂を含む水性インクジェットインクと組合せて使用することで、画像濃度の向上、裏抜けの抑制を実現することができる。加えて、本発明の前処理液は固形分を含まないため、インクジェット記録方法で使用した場合にも前処理液がヘッド表面で固化する怖れがないという利点も得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C=O結合を有する五員複素環式化合物および/または下記一般式(式中、R1、R2、R3はそれぞれ炭素数1〜8の飽和アルキル基または芳香族基であって、前記アルキル基は直鎖であっても分岐していてもよく、R1、R2、R3は同じであっても、異なっていてもよい)で表されるリン酸トリエステルを含むことを特徴とする水性インクジェット印刷用前処理液。
【化1】

【請求項2】
前記五員複素環式化合物が、カーボネート化合物、ラクトン化合物、イミダゾリジノン化合物、ピロリドン化合物から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の水性インクジェット印刷用前処理液。
【請求項3】
前記カーボネート化合物がエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ブチレンカーボネートおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の水性インクジェット印刷用前処理液。
【請求項4】
前記ラクトン化合物がγ−ブチロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ペンタノ−4−ラクトンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の水性インクジェット印刷用前処理液。
【請求項5】
前記イミダゾリジノン化合物が2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジエチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジイソプロピル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジブチル−2−イミダゾリジノンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の水性インクジェット印刷用前処理液。
【請求項6】
前記ピロリドン化合物が2−ピロリドン、N−メチル−ピロリドン、1−エチル−2−ピロリドンおよびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項2記載の水性インクジェット印刷用前処理液。
【請求項7】
前記リン酸トリエステルがリン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項記載の水性インクジェット印刷用前処理液。

【公開番号】特開2013−928(P2013−928A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131893(P2011−131893)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】