説明

水性塗料用洗浄液およびその利用

【課題】 水性塗料を迅速かつ適切に除去する性能に優れた洗浄液を提供する。
【解決手段】 本発明の洗浄液は、該洗浄液全体を100質量%として以下の(A)〜(C):
(A).水溶性グリコールエーテル 2.5〜25質量%;および (B).水と(C).水溶性アミンとの合計 75〜97.5質量%、ただし(C).水溶性アミンの割合は2質量%以下である;を含む。さらに低級アルコールを含有してもよい。この洗浄液は、例えば、塗装機130の塗装ヘッド132に付着した水性塗料142を洗い流す用途に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料用の洗浄液に関し、詳しくは、塗装プロセスに関連して生じる水性塗料付着物から該水性塗料を洗い流すための洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体パネル等の塗装において、複数の塗料に対して共通の塗装機を使用し、それら複数の塗料を必要に応じて切り替える塗装態様が採用されている。このような塗装態様では、被塗装物(ワーク)に付与される塗料の切り替えを迅速かつ確実に行うことが求められる。例えば、塗料を切り替える際に塗装機のヘッド(塗料吐出部)を一旦洗浄することにより、塗料の切り替えに要する時間の短縮、塗装品質の向上等を図ることができる。
【0003】
一方、近年では環境負荷への配慮等の観点から水性塗料の使用が励行されている。特許文献1には、塗料の切替時に塗料供給機器等を湯で洗浄する技術が記載されている。しかし、水や湯による洗浄では洗浄対象物(塗料供給機器等)を洗浄する性能が不足しがちである。また、洗浄対象物から除去された塗料が塊状となりやすく、かかる塊状の塗料が塗料切替後のワークにおける塗装不良(いわゆるブツの発生)等を引き起こす虞がある。このため洗浄作業を慎重に行う必要がある。このような事情から、水(湯の場合を含む。)による洗浄によって塗装効率の更なる向上を図ることは困難であった。また、洗浄剤に関する従来技術文献として例えば特許文献2〜5が挙げられるが、これらは水性塗料の洗浄を特に意図した洗浄剤ではないため、上述のような用途に対する適性が不十分であった。
【0004】
【特許文献1】特開平11−300245号公報
【特許文献2】特開2003−313596号公報
【特許文献3】特開2000−8080号公報
【特許文献4】特開平10−17900号公報
【特許文献5】特開平8−165499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水性塗料の塗装プロセス等に関連して生じる水性塗料付着物(例えば塗装機の塗装ヘッド)から該水性塗料を迅速かつ適切に除去する性能に優れた洗浄液を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、水性塗料付着物(塗装機等)を迅速かつ適切に洗浄することのできる洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、水性塗料を洗い流すための洗浄液であって、該洗浄液全体を100質量%として、以下の割合で(A)〜(C)の成分:
(A).水溶性グリコールエーテル 2.5〜25質量%;および
(B).水と(C).水溶性アミンとの合計 75〜97.5質量%、ただし(C).水溶性アミンの割合は2質量%以下である;を含む水性塗料用洗浄液が提供される。好ましくは、(C).成分(すなわち水溶性アミン)の割合は0.01〜2質量%であり得る。
かかる組成の洗浄液によると、洗浄対象物(水性塗料が付着した物品)から水性塗料をスムーズに除去することができる。また、洗浄対象物から除去された塗料を該洗浄液に適切に溶解または分散させることができるので上記除去された塗料の洗浄対象物への再付着等が起こりにくい。したがって洗浄対象物を効率よく(適切に)洗浄することができる。
【0007】
前記(A).成分の好適例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のようなエチレンオキサイド系のグリコールエーテル、および、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のようなプロピレンオキサイド系のグリコールエーテルが挙げられる。前記(A).成分が上記のようなエチレンオキサイド系および/またはプロピレンオキサイド系のグリコールエーテルである洗浄液が好ましい。特に好ましい例としてエチレングリコールモノブチルエーテルおよび/またはエチレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。(C).成分の好適例としてはアミノアルコール(N,N−ジメチルエタノールアミン等)が挙げられる。
【0008】
ここに開示される水性塗料用洗浄液の一つの好ましい態様として、該洗浄液全体を100質量%として、以下の割合で(A)〜(C)の成分:
(A).エチレングリコールモノブチルエーテル 5〜20質量%;
(B).水 79〜89.9質量%;および、
(C).水溶性アミノアルコール 0.1〜1質量%、ただし(B).成分と(C).成分との合計が80〜90質量%;を含む洗浄液が例示される。
【0009】
ここに開示される洗浄液の好ましいいくつかは、前記(A).〜(C).成分のみから実質的に構成される洗浄液であり得る。このような洗浄液は、組成がシンプルであり、かつ優れた洗浄性能を発揮し得るので好ましい。ここに開示される洗浄液の好ましい一つの態様は、上述したいずれかの組成を有し、かつ消防法上の非危険物に該当する洗浄液である。このような洗浄液は取扱性が良好である。また、該洗浄液の使用、保管、搬送、製造等に係る設備費用を抑えることができる。
【0010】
本発明はまた、水性塗料の塗装プロセスに関連して生じる水性塗料付着物を洗浄する方法を提供する。その洗浄方法では、上述したいずれかの水性塗料用洗浄液を洗浄対象物(水性塗料付着物)に供給して該対象物に付着した水性塗料を洗い流す。かかる方法によると、洗浄対象物に付着した塗料を該対象物から迅速かつ適切に除去することができる。
【0011】
ここに開示される一つの発明は、水性塗料の塗装に用いられる塗装機を洗浄する方法であって、上述したいずれかの水性塗料用洗浄液を該塗装機に供給して該塗装機に付着した水性塗料を洗い流す塗装機洗浄方法である。この洗浄方法は、例えば、複数の塗料に対して共通に使用される塗装機に対して、該複数の塗料の切り替え時等に好ましく実施される。かかる洗浄方法によると、塗装機に付着した水性塗料を迅速かつ適切に除去することができる。例えば、除去された塗料の塗装機への再付着や、塗料切り替え後のワーク(被塗装物)における塗装不良の発生等が効果的に抑制され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書によって開示されている技術内容と該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0013】
本発明の水性塗料用洗浄液は、水性塗料が付着している洗浄対象物から該水性塗料を除去する用途に適した洗浄液である。ここで水性塗料とは、溶剤型塗料と対比される用語であって、典型的には、水または水を主成分とする媒体(水性媒体)に、塗装成分(顔料、ビヒクル等)を分散および/または溶解させた性状を有する。一般に水性塗料は、被塗装物の表面に付与された後、水性媒体の除去(すなわち塗料の乾燥)および塗装成分の硬化(以下、これを「塗料の硬化」ということもある。)を経て強固な塗膜を形成する。本発明の洗浄液は、硬化前の水性塗料が付着している洗浄対象物から該水性塗料を洗い落とす(洗い流す)用途に好適である。上記硬化前の塗料とは、硬化(架橋反応等)が不十分な状態にある塗料(典型的には、硬化が実質的に進行していない塗料)をいう。例えば、自動車の車体パネル等の塗装に用いられる熱硬化型の水性塗料では、一般に110〜160℃程度で凡そ10〜30分間の加熱(焼付け)を行って塗料を硬化させる。このような熱硬化型水性塗料は、積極的な加熱処理を行わない場合(例えば常温付近の温度域に保持された場合)には、通常は乾燥してから数時間経過しても上記硬化前の状態にあり、したがって本発明の適用対象となり得る。本発明の水性塗料用洗浄液は、例えば、外部から熱や紫外線等のエネルギーを与えて硬化させる態様で使用されるタイプの水性塗料であって該塗料を硬化させるための積極的な処理(加熱、紫外線照射等)が行われていない塗料を、各種の洗浄対象物(塗装機等)から除去する用途に好適である。
【0014】
ここに開示される水性塗料用洗浄液は、必須成分として、水溶性グリコールエーテル((A).成分)を含有する。例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、オリゴアルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、オリゴアルキレングリコールジアルキルエーテル、オリゴアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール等のグリコールエーテルから選択される一種または二種以上を使用することができる。
【0015】
上記アルキレングリコールモノアルキルエーテルは、炭素原子数2〜4(好ましくは2〜3)のアルキレングリコールの有する水酸基のうち一つが炭素原子数2〜4のアルコキシ基に置き換えられた構造の化合物であり得る。かかるアルキレングリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
上記オリゴアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、炭素原子数2〜4(好ましくは2〜3)のアルキレングリコールが2〜6単位程度重合(縮合)した構造に相当するオリゴアルキレングリコールにおいて、その水酸基の一つが炭素原子数2〜4のアルコキシ基に置き換えられた構造の化合物であり得る。かかるオリゴアルキレングリコールモノアルキルエーテルの具体例としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0016】
上記アルキレングリコールジアルキルエーテルは、炭素原子数2〜4(好ましくは2〜3)のアルキレングリコールの有する二つの水酸基がそれぞれ炭素原子数2〜4のアルコキシ基に置き換えられた構造の化合物であり得る。上記オリゴアルキレングリコールジアルキルエーテルは、炭素原子数2〜4(好ましくは2〜3)のアルキレングリコールが2〜6単位程度重合(縮合)した構造に相当するオリゴアルキレングリコールにおいて、その二つの水酸基がそれぞれ炭素原子数2〜4のアルコキシ基に置き換えられた構造の化合物であり得る。アルキレングリコールジアルキルエーテルまたはオリゴアルキレングリコールジアルキルエーテルの具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
オリゴアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコールとしては、炭素原子数2〜4のオキシアルキレン単位(ユニット)を有する化合物が好ましい。例えば、該オキシアルキレン単位の繰り返し数(すなわち重合度)が2〜6程度のオリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、オリゴプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を使用することができる。
本発明における(A).成分を構成するグリコールエーテルの好適例としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のようなエチレンオキサイド系のグリコールエーテル、および、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のようなプロピレンオキサイド系のグリコールエーテルが挙げられる。例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)および/またはエチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)の使用が好ましい。(A).成分としてエチレングリコールモノブチルエーテルを用いることが特に好ましい。
【0017】
ここに開示される洗浄液は、一種または二種以上の低級アルコールを含有する組成であり得る。例えば、洗浄液全体の10質量%以下(典型的には、0.01〜10質量%)の割合で低級アルコールを含有してもよい。かかる低級アルコールとしては、炭素原子数1〜5のアルコールが好ましく、炭素原子数2〜4のアルコールがより好ましい。本発明に使用し得る低級アルコールの具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコールが挙げられる。特にイソプロピルアルコール(IPA)が好ましい。
【0018】
ここに開示される洗浄液は、一種または二種以上の水溶性アミン((C).成分)を含有する組成であり得る。ここでいうアミンとは分子中に一以上のアミノ基(置換アミノ基でもよい。)を有する化合物を意味する。本発明における(C).成分を構成する水溶性アミンの好適例としては各種のアミノアルコールが挙げられる。かかるアミノアルコールの具体例としては、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチル−N,N−ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。例えば、N,N−ジメチルエタノールアミンを好ましく使用することができる。(C).成分として使用し得る他の水溶性アミンとしては、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等が例示される。
【0019】
ここに開示される水性塗料用洗浄液は、上記(A).成分を、該洗浄液剤全体に対して2.5〜25質量%(好ましくは5〜20質量%)の割合で含有する。また、ここに開示される水性塗料用洗浄液は、上記(B).成分と(C).成分とを合わせて、該洗浄剤全体に対して75〜97.5質量%(好ましくは79〜89.9質量%)の割合で含有する。この場合、上記洗浄液は、該洗浄液全体に対して2質量%以下、好ましくは0.01〜2質量%(特に好ましくは0.1〜1質量%)の割合で上記(C).成分を含有することができる。上記(B).成分および上記(C).成分を含む組成の洗浄液とすることによって、よりよい洗浄効果が発揮され得る。特に、水性媒体の大部分が失われた状態(例えば、ほぼ乾燥した状態)の水性塗料を洗浄する場合には、上記(C).成分の使用により洗浄効果を顕著に向上させ得る。
【0020】
(A).成分の割合が上記範囲よりも多すぎる洗浄液、または、(B).成分と(C).成分との合計割合が上記範囲よりも少なすぎる洗浄液は、洗浄対象物に付着している水性塗料を該洗浄対象物上で凝集させる傾向にある。かかる凝集状態となった塗料は洗浄対象物の表面に粘りついてしまい、該対象物からのスムーズな(速やかな)除去が困難となる。
一方、(A).成分の割合が上記範囲よりも少なすぎる洗浄液、または、(B).成分と(C).成分との合計割合が上記範囲よりも多すぎる洗浄液では、洗浄対象物の表面から水性塗料を除去する性能が低下しやすくなる。また、該洗浄液に対する水性塗料の分散性および/または溶解性が低下しがちとなるため、除去された水性塗料が塊状(粉状、フレーク状等)となりやすい。このような塊状の塗料は、洗浄対象物への再付着や飛散等を生じたり、さらには塗料切替後のワークにおけるブツの発生等を引き起こす原因となり得る。(A).〜(C).の含有割合が上記範囲にある洗浄液によれば、かかる不都合が生じることを回避して、迅速かつ適切な洗浄を実現することができる。
【0021】
ここに開示される水性塗料用洗浄液は、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、上記(A).〜(C).成分以外の補助成分をさらに含有することができる。好ましくは、ここに開示される洗浄液は低級アルコールを含む組成であり得る。この場合には、該低級アルコールの含有割合を、洗浄液全体の例えば10質量%以下(典型的には0.01〜10質量%)とすることが好ましい。あるいは、上記(A).成分の一部を低級アルコールに置き換え、上記(A).成分と低級アルコールとの合計割合が、洗浄液全体の例えば2.5〜25質量%(より好ましくは10〜20質量%)となるものが好ましい。
また、かかる低級アルコール以外の補助成分をさらに含有していてもよい。通常は、その合計含有量が洗浄液全体の5質量%(より好ましくは3質量%、さらに好ましくは1質量%)を超えないことが好ましい。
ここに開示される洗浄液の一つの好ましい態様では、該洗浄液が上記(A).〜(C).成分(あるいは、上記(A).〜(C).成分および低級アルコール)のみから実質的に構成される。換言すれば、該洗浄液が上記(A).〜(C).成分以外の成分(あるいは、上記(A).〜(C).成分および低級アルコール以外の成分)を実質的に含有しない。このような洗浄液は、組成がシンプルであり、かつ優れた洗浄性能を発揮し得るので好ましい。
【0022】
ここに開示される水性塗料用洗浄液の好ましい一態様として、例えば、以下の成分:
水溶性グリコールエーテル(例えばエチレングリコールモノブチルエーテル) 10〜15質量%;
低級アルコール(例えばイソプロピルアルコール) 5〜10質量%、ただし水溶性グリコールエーテルと低級アルコールとの合計が15〜20質量%;
水 79〜84.5質量%;および、
水溶性アミン(例えば水溶性アミノアルコール) 0.5〜1質量%、ただし水と水溶性アミンとの合計が80〜85質量%;
から実質的に構成される水性塗料用洗浄液が挙げられる。
【0023】
本発明の洗浄液は、水性塗料の塗装プロセスに関連して生じ得る各種の水性塗料付着物を洗浄する用途に好ましく使用することができる。そのような塗料付着物(洗浄対象物)の一例として、被塗装物(ワーク)に水性塗料を付与する水性塗料塗装機が挙げられる。ここで「塗装機」とは、いわゆる塗装ロボットを包含する概念であって、固定式および移動式のいずれのタイプであってもよく、静電塗装、エアスプレー塗装等のいずれの塗装方法に用いられる塗装機であってもよい。上記洗浄液による洗浄対象物の他の例として、このような塗装機に水性塗料を供給または補充するための設備・器具等が挙げられる。例えば、該塗装機に水性塗料を供給する配管、該配管を通じて塗装機と連結された塗料タンク、該塗装機に水性塗料を補充するカートリッジ(例えば、注射器タイプのカートリッジ)等の洗浄に用いられる洗浄液として好適である。また、塗装作業を行う空間(塗装ブース等)を区画する壁面、換気用のフード等のような、塗装環境を構成する設備に付着した水性塗料を除去するための洗浄液として用いてもよい。
【0024】
ここに開示される洗浄液は、塗装機の各部(塗装ヘッド、該ヘッドに塗料を供給する塗料供給路等)に付着した水性塗料を除去するための洗浄液として好ましく使用することができる。特に、複数の塗料に対して共通に使用される塗装機において、該塗装機の塗装ヘッド(特に塗料吐出口および/またはその周辺)等に付着した水性塗料を除去するための洗浄液として好適である。例えば、遠心力による霧化(遠心霧化)を利用した塗装機の塗装ヘッド(ベル)を洗浄するための洗浄液として好ましい。
【0025】
洗浄対象物に付着している水性塗料の種類(用途、硬化の方式等)は特に限定されない。本発明の洗浄液は、自動車の車体パネル塗装用の水性塗料(特に中塗り塗料および/または上塗り塗料)を除去するための洗浄液として特に適している。例えば、自動車の車体パネル塗装工程において、自動車パネル塗装用の水性塗料が付着した各種洗浄対象物(特に塗装ヘッド)から該水性塗料を除去する用途に好適である。また、本発明の洗浄液は、意図的な硬化(焼付け)処理が施されていない熱硬化型水性塗料を各種洗浄対象物から除去する用途に好適である。
【0026】
ここに開示される水性塗料用洗浄液は、典型的には、希釈したり濃縮したりすることなく、そのままの濃度で使用される。かかる希釈または濃縮により(A).〜(C).成分の含有割合が上記範囲から外れると、本来の洗浄効果を十分に発揮できなくなる虞がある。
本発明の洗浄液を用いて洗浄対象物を洗浄する態様は特に限定されず、該洗浄対象物と該洗浄液とを何らかの方法で接触させればよい。例えば、洗浄対象物を洗浄液に浸漬する方法、洗浄対象物に洗浄液を吹き付ける方法等を採用することができる。
【0027】
以下、図面を参照しつつ、本発明の水性塗料用洗浄剤の好適な使用態様(すなわち洗浄方法)の一例を説明する。
図4(a)に示すように、ワーク(例えば自動車の車体パネル)122,124,126を搬送するライン110の近傍に、塗装ヘッド132を備えた塗装機130が設置されている。この塗装ヘッド132から噴霧(例えば遠心噴霧)される水性塗料(例えば、熱硬化型の水性塗料)142によってワーク124が塗装される。なお、図4(a)に示す段階では、ワーク122はすでに塗装(塗料の付与)を終えている。
ワーク124の塗装が終わると、ライン110によって各ワークが左方向に搬送される(図4(b))。ここで、洗浄ノズル15a,15bから塗装ヘッド132に水性塗料用洗浄液16を吹き付け、塗装ヘッド132に付着した水性塗料142を洗い流す。なお、図4(b)では、洗浄ノズル15aによって主に塗装ヘッド132の内側(塗料吐出口側)を洗浄し、洗浄ノズル15bによって主に塗装ヘッド132の外側を洗浄する例を示しているが、洗浄ノズルの設置態様(数、位置、向き等)はこれに限定されるものではない。その後、次のワーク126が塗装機130の設置位置に搬送される。ワーク124の塗装が終了してからワーク126の塗装を開始するまでの間に、図示しない塗料切替機構によって、塗装ヘッド132に供給される水性塗料の種類が切り替えられる。そして、ワーク124とは異なる色の水性塗料144がワーク126に塗装される(図4(c))。
【0028】
このように、塗装機(例えば、該塗装機の塗装ヘッド)から供給(例えば噴霧)される水性塗料によってワークを塗装する工程、該ワークの塗装を終えた塗装機に水性塗料用洗浄液を供給して(例えば吹き付けて)該塗装機を洗浄する工程、その洗浄された塗装機から次のワークに新たな水性塗料を供給(例えば噴霧)して該ワークを塗装する工程、を繰り返すことによって、複数の塗料を迅速かつ適切に切り替えつつ、次々にワークを塗装することができる。なお、上記の例ではワーク毎に異なる水性塗料を付与(塗装)する場合について説明したが、本発明の洗浄液または洗浄方法は、一つのワークを複数の水性塗料で塗装する場合にも適用され得る。また、塗装機(塗装ヘッド)の洗浄は、水性塗料の切り替え時のみならず、例えば、異なるワークに同種の水性塗料を供給する場合にも実施することができる。
【0029】
以下、本発明に関する実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0030】
<実施例1>
(A).成分としてのエチレングリコールモノブチルエーテル、低級アルコールとしてのイソプロピルアルコール(IPA)、(B).成分としての水、および(C).成分としてのN,N−ジメチルエタノールアミンを、それぞれ表1に示す割合で配合して洗浄液No.1〜20を調製した。なお、これらの洗浄液は、いずれも消防法上の非危険物に該当する。
【0031】
【表1】

【0032】
得られた洗浄液の性能を以下の洗浄試験により評価した。すなわち、図1に示すように、長さ100mm、幅50mm、厚さ0.5mmのアルミニウム製のテストパネル12を用意し、その一端(下端)から長さ50mmの範囲に水性塗料14を塗布した。
なお、水性塗料14としては以下に示す三種の水性塗料を用いた。これらの塗料は、テストパネルへの塗布から5分後にはまだ濡れた(ウエットな)状態であった。
塗料a:関西ペイント株式会社製の熱硬化型水性塗料、商品名「WBC−710T」、カラーコード8P4。
塗料b:日本ペイント株式会社製の熱硬化型水性塗料、商品名「アクアレックス−2000」、カラーコード8Q6。
塗料c:関西ペイント株式会社製の熱硬化型水性塗料、商品名「WP−300T」、カラーコード300T8105。
【0033】
各水性塗料を塗布したテストパネル12を室温で5分間乾燥させた後、テストパネル12の下半分(すなわち、水性塗料14が塗布された部分)を洗浄液16に静かに浸漬して3分間放置した。このようにして3分間の洗浄を行った後、洗浄液16からテストパネル12を静かに引き上げ、洗浄後の表面状態を目視にて観察することにより、各洗浄剤の洗浄性能を評価した。
また、各水性塗料を塗布したテストパネル12を室温で乾燥させる時間を60分間に変更した点以外は上記と同様にして洗浄試験を行った。各塗料は、テストパネルへの塗布から60分後にはほぼ乾燥した(ただし熱硬化はしていない)状態であった。
【0034】
上記洗浄性能の評価は、テストパネル12の表面から水性塗料14が十分に除去されているか、テストパネル14から除去された水性塗料14が洗浄液16に適切に溶解および/または分散しているか、除去された水性塗料14がテストパネル12に再付着していないか、の三点を重視して行った。
水性塗料の塗布から洗浄までの時間(乾燥時間)を5分とした場合の評価結果を表2に、乾燥時間を60分とした場合の評価結果を表3に示した。なお、これらの表中には、使用した洗浄液の種類(サンプルNo.)とともに、その洗浄液の組成を「(A):IPA:(B)+(C)」として示している。
【0035】
表2および表3中の「◎」は評価結果が特に良好であったことを、「○」は評価結果が良好であったことを示している。かかる評価結果に該当する代表例として、塗料aを塗布して5分間乾燥させたテストパネルをNo.10の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図2(a)に、塗料aを塗布して60分間乾燥させたテストパネルをNo.9の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図3(a)に示した。
一方、評価結果の「×(1)」は、テストパネル上で水性塗料が凝集していたことを表している。かかる評価結果に該当する代表例として、塗料aを塗布して5分間乾燥させたテストパネルをNo.8の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図2(b)に、塗料aを塗布して60分間乾燥させたテストパネルをNo.8の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図3(b)に示した。
評価結果の「×(2)」は、テストパネルから水性塗料が十分に除去されていなかったことを示している(洗浄不良)。かかる評価結果に該当する代表例として、塗料aを塗布して5分間乾燥させたテストパネルをNo.12の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図2(c)に、塗料aを塗布して5分間乾燥させたテストパネルをNo.6の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図3(c)に示した。
評価結果の「×(3)」は、テストパネルから剥離した水性塗料がテストパネルに再付着していたこと、および/または、該水性塗料が洗浄液中において肉眼で明らかに認識される塊(粉、フレーク等)を形成していたことを示している。この評価結果に該当した例では、テストパネルから水性塗料がモザイク状に剥離する現象がしばしば観察された。かかる状態を示す代表例として、塗料aを塗布して60分間乾燥させたテストパネルをNo.17の洗浄液で洗浄した後の表面状態を図3(d)に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表2から判るように、ウエットな状態の水性塗料を洗浄した場合、(A)成分とIPAとの合計の含有割合が多すぎる洗浄液(No.1,2,7,8,13,14,18,19)は、いずれもテストパネル表面で水性塗料が凝集してしまい、テストパネルから水性塗料を十分に除去することができなかった。また、No.6,12,17,20の洗浄液は、満足な洗浄性能が得られないか、あるいは洗浄性能が不安定なものであった。
一方、No.3,4,5,9,10,11,15,16の洗浄液は、ウエットな状態の水性塗料a〜cのいずれに対しても良好な(適切な)洗浄性能を示した。IPAを使用した洗浄液(No.9,10,11,15,16)では、IPAを含まない洗浄液(No.3,4,5)に比べて洗浄性能がさらに向上する傾向にあった。
【0039】
また、表3から判るように、ほぼ乾燥した状態の水性塗料を洗浄した場合には、(A)成分とIPAとの合計の含有割合が多すぎる洗浄液(No.1,2,7,8,13,14,18,19)では、ウエットな状態の水性塗料を洗浄した場合よりも水性塗料の凝集がさらに顕著となり、いずれもテストパネルから水性塗料を十分に除去することができなかった。また、No.6,12,17,20の洗浄液では、洗浄不良、モザイク状の剥離等の現象がさらに顕著となった。一方、No.3,4,5,9,10,11,15,16の洗浄液は、他の洗浄液と比較して明らかに良好な(適切な)洗浄性能を示した。
【0040】
<実施例2>
(A).成分としてのエチレングリコールモノブチルエーテル、低級アルコールとしてのイソプロピルアルコール(IPA)、(B).成分としての水、および(C).成分としてのN,N−ジメチルエタノールアミンをそれぞれ表4に示す割合で配合して、(C).成分の含有割合の異なる三種類の洗浄液(No.21〜23)を調製した。これらの洗浄液は、いずれも消防法上の非危険物に該当する。これらの洗浄液の洗浄性能を実施例1と同様の手法により評価した。その結果を表4に併せて示した。
【0041】
【表4】

【0042】
この表から判るように、水性塗料a〜cのいずれに対しても、洗浄液に(C).成分を含有させることにより洗浄効果が明らかに向上した。なお、乾燥時間を60分として同様の洗浄試験を実施したところ、同様に(C).成分の使用により洗浄効果が向上する傾向がみられた。特に、水性塗料aに対しては洗浄効果が顕著に向上した。
【0043】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書に説明した技術要素は、単独で或いは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】洗浄試験の方法を示す説明図である。
【図2】5分間乾燥させた水性塗料を洗浄した結果の一部を示す図であって、(a)は洗浄状態が良好である例を、(b)は塗料が凝集した状態の例を、(c)は洗浄不良の状態の例を示している。
【図3】60分間乾燥させた水性塗料を洗浄した結果の一部を示す図であって、(a)は洗浄状態が良好である例を、(b)は塗料が凝集した状態の例を、(c)は洗浄不良の状態の例を、(d)は塗料がモザイク状に剥離した状態の例を示している。
【図4】(a)〜(c)は、本発明の洗浄液の使用態様を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0045】
12 テストパネル
14 水性塗料
16 洗浄液(水性塗料用洗浄液)
122,124,126 ワーク(被塗装物)
130 塗装機
132 塗装ヘッド(洗浄対象物)
142,144 水性塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料を洗い流すための洗浄液であって、該洗浄液全体を100質量%として以下の(A)〜(C):
(A).水溶性グリコールエーテル 2.5〜25質量%;および
(B).水と(C).水溶性アミンとの合計 75〜97.5質量%、ただし(C).水溶性アミンの割合は2質量%以下である;
を含む水性塗料用洗浄液。
【請求項2】
前記(C).成分の割合が0.01〜2質量%である、請求項1に記載の洗浄液。
【請求項3】
前記(A).成分がエチレンオキサイド系および/またはプロピレンオキサイド系のグリコールエーテルである、請求項1または2に記載の洗浄液。
【請求項4】
前記(A).成分がエチレングリコールモノブチルエーテルおよび/またはエチレングリコールモノエチルエーテルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の洗浄液。
【請求項5】
前記(C).成分がアミノアルコールである、請求項1から4のいずれか一項に記載の洗浄液。
【請求項6】
水性塗料を洗い流すための洗浄液であって、該洗浄液全体を100質量%として:
(A).エチレングリコールモノブチルエーテル 5〜20質量%;
(B).水 79〜89.9質量%;および、
(C).水溶性アミノアルコール 0.1〜1質量%、ただし(B).成分と(C).成分との合計が80〜90質量%;
を含む水性塗料用洗浄液。
【請求項7】
前記(A).〜(C).成分のみから実質的に構成される、請求項1から5のいずれか一項に記載の洗浄液。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の洗浄液を水性塗料付着物に供給して該付着した水性塗料を洗い流すことを特徴とする洗浄方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の洗浄液を塗装機に供給して該塗装機に付着した水性塗料を洗い流す塗装機洗浄方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−83351(P2006−83351A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272081(P2004−272081)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(591050796)豊田化学工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】