説明

水性塗料組成物

【課題】湿気が多く、しかも採光が十分でない洗面所、浴室、トイレ等の部位においても、優れた抗菌性能を発揮することができる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】合成樹脂エマルション(a)、アミノ基を有するオルガノシロキサン化合物(b)、及び銀系抗菌剤(c)を含有し、前記合成樹脂エマルション(a)の固形分100重量部に対し、前記オルガノシロキサン化合物(b)を1〜100重量部、前記銀系抗菌剤(c)を0.01〜5重量部含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性に優れた塗膜が形成可能な水性塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変化や健康志向の高まりにより、一般家庭、職場及び公共施設等において環境改善の努力がなされている。環境改善の対象としては、ホルムアルデヒド等の揮発性有機化合物(VOC)、タバコの煙、花粉や、カビその他の菌類などが挙げられる。このうち、菌類の除去方法としては、高機能化した除塵フィルターを搭載する空気清浄機や光触媒作用を利用した製品が広く普及している。
【0003】
空気清浄機には、HEPAまたはULPAと呼ばれる捕集能力の高いフィルターを搭載するものや、電気的に発生させたイオンを空気中に放出することで浮遊する菌類を不活性化するものなど、積極的に菌類の捕集または不活性化を目的としたものがある。このような空気清浄機は、ファンを回すことで空気の対流を積極的に起こし、大量の空気を短時間に処理することも可能である。
しかし、空気清浄機では、捕集した菌類がフィルター上で濃縮されることや、モーター、イオン発生装置等に電気エネルギーを必要とすることが問題となる。そのため、フェルターの清浄化メンテナンスが不可欠であり、また、リビングや事務所等の常時、人が活動する部屋以外では利用されないのが実情である。
【0004】
一般的に、カビ等の菌類は高湿度環境で繁殖しやすく、建物内においては、洗面所、浴室、トイレ等において繁殖しやすい。これらの部位の壁には、抗菌剤・防カビ剤配合の塗料、壁紙等が施工されるのが一般的である。このような塗料の一例として、特許文献1(特開平4−300975号公報)には、抗菌作用を有する金属またはそのイオンを担持する無機質抗菌剤を含有してなる抗菌塗料が記載されている。しかしながら、このような抗菌塗料を壁面に塗装しても、その抗菌作用は、塗膜表面に偶発的に付着した菌類にはたらくのみであり、抗菌性の点では未だ改善の余地がある。
一方、可視光応答型の光触媒を配合した塗料や壁紙で、壁面に抗菌性を付与させる手法も知られている。しかしながら、トイレ等は建物の中でも採光が困難な部位に配置されることが多く、しかも省エネルギー対策として、使用時以外は電灯を消すことが多いため、十分な性能が発揮され難い場合がある。
【0005】
【特許文献1】特開平4−300975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような問題点に鑑みなされたものであり、湿気が多く、しかも採光が十分でない洗面所、浴室、トイレ等の部位においても、優れた抗菌性能を発揮することができる水性塗料組成物を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、合成樹脂エマルション(a)、アミノ基を有するオルガノシロキサン化合物(b)、及び銀系抗菌剤(c)を必須成分として含有する水性塗料組成物に想到し、かかる水性塗料組成物の形成塗膜では、これらの成分の相乗作用によって優れた抗菌性能が発揮されることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.合成樹脂エマルション(a)、
アミノ基を有するオルガノシロキサン化合物(b)、及び
銀系抗菌剤(c)を含有し、
前記合成樹脂エマルション(a)の固形分100重量部に対し、前記オルガノシロキサン化合物(b)を1〜100重量部、前記銀系抗菌剤(c)を0.01〜5重量部含むことを特徴とする水性塗料組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性塗料組成物によれば、優れた抗菌性能を発揮する塗膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
本発明の水性塗料組成物は、合成樹脂エマルション(a)、アミノ基を有するオルガノシロキサン化合物(b)、及び銀系抗菌剤(c)を必須成分として含有するものである。
【0012】
このうち、合成樹脂エマルション(a)(以下「(a)成分」という)は結合材としてはたらく成分である。具体的に(a)成分としては、例えば、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等の樹脂成分からなる合成樹脂エマルションが使用できる。(a)成分は、水を媒体とする乳化重合法等の公知の重合方法によって得ることができる。これら(a)成分は架橋反応性を有するものであってもよい。また(a)成分の形態は特に限定されず、1液型、2液型のいずれであってもよい。
【0013】
(a)成分の最低造膜温度は、適宜設定することができる。(a)成分の最低造膜温度を5℃以下、さらには0℃以下に設定すれば、造膜助剤等の混合量を削減することができ、内装仕上げ用として好適な低VOC(低揮発性有機化合物)塗料を得ることができる。
【0014】
本発明組成物における(b)成分は、アミノ基を有するオルガノシロキサン化合物(b)(以下「(b)成分」という)である。本発明では、(b)成分が必須成分として含まれることにより、優れた抗菌性能を発揮することが可能となる。
このような効果が得られる理由は明確ではないが、(b)成分が菌類を捕集する性能を有していること、及び(b)成分のアミノ基が銀イオンと結合しやすい性質を有していることが寄与しているものと推察される。さらに、水を媒体とする本発明組成物においては、(b)成分が塗膜表面に配向しやすく、塗膜表面に(b)成分と銀イオンがリッチな状態になり、塗膜表面に捕捉された菌類に対し抗菌作用がはたらくとのサイクルにより、効果的な抗菌作用が得られるものと考えられる。
【0015】
本発明組成物における(b)成分は、通常下記式(1)、(2)で示される単位を有するものである。
【0016】
【化1】

【化2】

(式中、Rは同一または異なって、アルキル基、アリール基、アラルキル基を示し、Rはアルキレン基、オキシアルキレン基を示す。Xはアミノ基示す。m,nは1以上の整数である。)
【0017】
(b)成分のアミノ基としては、例えば−NH、−NHCH、−N(CH、−NH(CHNH、−NH(CHNHCH、−NH(CHN(CH等が挙げられる。
【0018】
(b)成分の形態は、水中に分散した形態であれば特に制限されず、界面活性剤を用いた強制乳化型エマルション、あるいは自己乳化型エマルションのいずれであってもよい。
【0019】
(b)成分の混合比率は、(a)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で通常1〜100重量部、好ましくは2〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部である。(b)成分が1重量部より少ない場合は、抗菌性能において十分な効果を得ることができない。(b)成分が100重量部より多い場合は、塗膜の耐汚染性等が低下するおそれがある。
【0020】
本発明組成物では、上述の(b)成分と併せて銀系抗菌剤(c)(以下「(c)成分」という)を使用する。このような(c)成分としては、有機系または無機系の銀化合物、銀化合物が基体粒子に担持された化合物等が挙げられ、市販品を使用することもできる。
(c)成分としては、銀イオン状態のものと金属銀状態のものが広く知られている。一般に、前者は、細菌の細胞膜または、菌体内のタンパク質と反応することにより抗菌性を示し、後者は、光によって銀が励起されて生成する活性酸素種が抗菌性を示すとされている。このうち本発明における(c)成分としては、前者の銀イオンを有する銀系抗菌剤が好適である。このような銀イオンは錯体の状態であってもよい。
【0021】
本発明における(c)成分としては、特に銀イオンが担持された無機化合物が好適である。銀イオンを担持させる無機化合物としては、例えば、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられ、この中でも特にゼオライトが好適である。
これらの無機化合物に銀イオンを担持させる方法は、公知の方法を用いればよく、例えば物理吸着または化学吸着により担持させる方法、イオン交換反応により担持させる方法、結合剤により担持させる方法、銀化合物を無機化合物に打ち込むことにより担持させる方法、蒸着、溶解析出反応、スパッタ等の薄膜形成法により無機化合物の表面に銀化合物の薄層を形成させることにより担持させる方法等が挙げられる。このような銀系抗菌剤の粒子径は、通常0.01〜10μm程度である。
【0022】
(c)成分の混合比率は、(a)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で通常0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜3重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。(c)成分が0.01重量部より少ない場合は、抗菌性能において十分な効果を得ることができない。(c)成分が5重量部より多い場合は、酸化還元反応等に起因する変色が生じるおそれがある。またコスト面で不利となる。
【0023】
本発明組成物では、上述の成分に加え、含窒素環化合物を含有することが望ましい。このような含窒素環化合物を含むことにより、抗菌スペクトルのみならず抗菌活性を相乗的に高めることができる。
含窒素環化合物としては、例えば、トリアジン系化合物、チアゾール系化合物、イソチアゾール系化合物、イミダゾール系化合物等が挙げられる。但し、このような含窒素環化合物のうち、分子中に塩素原子を含むものは、塗料の変色を引き起こすおそれがあるため、その使用は避けたほうがよい。
含窒素環化合物の混合比率は、(a)成分の固形分100重量部に対し、固形分換算で通常0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜3重量部、より好ましくは0.05〜1重量部である。
【0024】
本発明組成物は、上述の成分以外に、着色顔料、体質顔料、骨材、繊維、造膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、吸着剤、光触媒等を、本発明の効果を阻害しない程度に含有することもできる。本発明組成物は、これらの成分を常法により均一に混合して製造することができる。
【0025】
本発明組成物は、新築工事、改装工事等に使用可能であり、天井や壁面等の建築物内装面に適用することが可能である。特に、洗面所、浴室、トイレ等において好適である。
建築物内装面に使用される基材としては、一般的な建材として用いられているものであれば特に限定されないが、例えば、石膏ボード、珪酸カルシウム板、スレート板、押出成形板、タイル、合板、金属板、プラスチック板、コンクリート、モルタル等が挙げられる。
本発明の内装用塗料組成物は、このような基材に対し、直接塗装することもできるし、何らかの表面処理(シーラー、サーフェーサー、フィラー、パテ等による下地処理等)を施した上に塗装することも可能である。
【0026】
塗装方法としては、ハケ塗り、コテ塗り、スプレー塗装、ローラー塗装等種々の方法により塗装することができる。また、ロールコーター、フローコーター等を用いてプレコートすることもできる。塗付量は、特に限定されないが、通常0.1〜1kg/m程度である。また、塗装時には、本発明組成物を水で希釈することもできる。希釈割合は、通常0〜50重量%程度である。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。なお、実施例においては以下の原料を用いて塗料を製造した。
【0028】
・合成樹脂エマルション(アクリル樹脂エマルション、固形分50重量%、最低造膜温度0℃)
・着色顔料:酸化チタン(平均粒子径0.3μm)
・体質顔料:重質炭酸カルシウム(平均粒子径8μm)
・分散剤:ポリカルボン酸系分散剤
・増粘剤:会合性ポリマー系増粘剤
・消泡剤:シリコーン系消泡剤
・オルガノシロキサン化合物:アミノ基含有ジメチルシロキサン化合物の乳化分散体(固形分55重量%)
・銀系抗菌剤:銀イオン担持ゼオライトの水スラリー(有効成分20重量%、平均粒子径3μm)
・含窒素環化合物:イソチアゾリン系化合物(有効成分4重量%)
【0029】
(試験1)
合成樹脂エマルション200重量部に対し、着色顔料130重量部、体質顔料100重量部、分散剤5重量部、増粘剤5重量部、消泡剤2重量部、オルガノシロキサン化合物66重量部を常法により均一に混合して試料Aを作製した。
また、試料Aの配合においてオルガノシロキサン化合物を33重量部としたものを試料Bとした。
また、試料Aの配合においてオルガノシロキサン化合物を削除したものを試料Cとした。
【0030】
300mm×224mm×3mmのフレキシブル板に、エポキシ系水性シーラーを塗付量0.15kg/mでスプレー塗装し、標準状態(温度23℃・相対湿度50%)で4時間乾燥後、上記試料を塗付量0.25kg/mでスプレー塗装し、標準状態で7日間養生したものを試験片とした。以上の方法で得られた試験片に1分間殺菌灯照射を行った後、試験片をトイレ内の壁面に立てかけて暴露試験を開始した。暴露3ヶ月経過した時点で、ぺたんチェック25サブロー寒天培地(栄研器材(株)製)を塗膜表面に押しつけ、37℃雰囲気にて培養し、真菌の検出を行った。評価は培地表面に占めるコロニーの割合で5段階評価とした(5:検出されず、4:培地の1〜20%、3:培地の20〜60%、2:培地の60〜80%、1:培地の80〜100%)。
その結果、試料Aが「1」、試料Bが「2」、試料Cが「3」となり、オルガノシロキサン化合物の混合量増加に伴い、真菌が多く検出される結果となった。
【0031】
(実施例1)
前記試料Aに、さらに銀系抗菌剤1重量部、含窒素環化合物0.5重量部を配合することにより塗料を作製した(表1)。得られた塗料につき、以下の方法で各試験を実施した。
【0032】
1.暴露試験
300mm×224mm×3mmのフレキシブル板に、エポキシ系水性シーラーを塗付量0.15kg/mでスプレー塗装し、標準状態(温度23℃・相対湿度50%)で4時間乾燥後、塗料を塗付量0.25kg/mでスプレー塗装し、標準状態で7日間養生したものを試験片とした。以上の方法で得られた試験片に1分間殺菌灯照射を行った後、試験片をトイレ内の壁面に立てかけて暴露試験を開始した。暴露1ヶ月、及び暴露3ヶ月経過した時点で、ぺたんチェック25サブロー寒天培地(栄研器材(株)製)を塗膜表面に押しつけ、37℃雰囲気にて培養し、真菌の検出を行った。評価は培地表面に占めるコロニーの割合で5段階評価とした(5:検出されず、4:培地の1〜20%、3:培地の20〜60%、2:培地の60〜80%、1:培地の80〜100%)。
【0033】
2.抗菌試験
50mm×50mm×1mmのアルミ板に塗料を塗付量0.25kg/mでスプレー塗装し、標準状態にて7日間養生したものを試験片とした。得られた試験片につき、JIS Z2801(2000)に準拠して抗菌試験を実施し、抗菌活性を算出した。なお、この抗菌試験においては、比較例1の塗料(試料B)をブランクとした。
【0034】
試験結果を表2に示す。実施例1では、いずれの試験においても優れた結果を得ることができた。
【0035】
(実施例2)
表1に示す配合に従って塗料を作製した。この配合は、前記試料Aに銀系抗菌剤1重量部を混合したものである。得られた塗料につき、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0036】
(比較例1)
表1に示す配合に従って塗料を作製した。この配合は前記試料Bと同一である。得られた塗料につき、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0037】
(比較例2〜4)
表1に示す配合に従って塗料を作製した。得られた塗料につき、実施例1と同様の試験を実施した。結果を表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂エマルション(a)、
アミノ基を有するオルガノシロキサン化合物(b)、及び
銀系抗菌剤(c)を含有し、
前記合成樹脂エマルション(a)の固形分100重量部に対し、前記オルガノシロキサン化合物(b)を1〜100重量部、前記銀系抗菌剤(c)を0.01〜5重量部含むことを特徴とする水性塗料組成物。

【公開番号】特開2007−246576(P2007−246576A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68500(P2006−68500)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000180287)エスケー化研株式会社 (227)
【Fターム(参考)】