説明

水性樹脂分散体の製造方法

【課題】 ナノサイズの粒径を有しかつ低分子量である水性樹脂分散体を、有機溶剤や連鎖移動剤を使用せずに、且つ凝集物の生成等がなく安定に得る方法を提供する。
【解決手段】 酸基を有する重合性不飽和単量体及び水酸基を有する重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体混合物を100℃以上で乳化重合した後、得られた重合物のガラス転移温度以上の温度に保持した状態で中和する水性樹脂分散体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性塗料等に有用な水性樹脂分散体の製造方法に関し、さらに詳しくは、ナノサイズの粒径を有し、且つ、低分子量の水性樹脂分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全、安全衛生等の観点より、塗料、接着剤、粘着剤、紙加工剤等、各種被覆剤等の無公害化、安全衛生化が強く求められている。従って、例えば塗料を例に取ると、従来の有機溶媒を用いた有機溶媒系塗料に代わり水性塗料の用途が拡大されている。
【0003】
水性塗料に使用されている水性塗料用樹脂の1つとして、酸基を有する重合性不飽和単量体を含む重合性不飽和単量体の混合物を乳化重合、あるいは懸濁重合することによって得られる水性樹脂分散体が知られている。しかしながら、上記手法で得られた水性アクリルエマルジョンは、樹脂の分子量が重量平均分子量で数十万以上と大きく、また、分散体の粒子径が大きいために、水性塗料用樹脂として用いた場合、基材への付着性や塗膜のレベリング性が不充分となり易い欠点がある。そこで、基材への付着性や塗膜のレベリング性を向上させるために、低分子量で、かつ、ナノサイズ、具体的には、分散体の粒子径が100nm以下である水性樹脂分散体が求められている。
【0004】
水性樹脂分散体を低分子量化するためには、連鎖移動剤を添加する方法が一般に知られているが、チオール系連鎖移動剤は臭気等が残存したり、塗膜化した際にレベリング性に劣るなどの欠点がある。αメチルスチレンは臭気等の問題はないが、相当量添加しないと効果が得られず、また、レベリング性等に影響がでる問題は解消されない。
これに対し、連鎖移動剤を使用せずに低分子量の水性樹脂分散体を得る方法として、115℃以上で乳化重合した手法が知られている(例えば特許文献1参照)。この手法を用いることで、連鎖移動剤を使用することなく、重量平均分子量が30,000程度の低分子量の水性樹脂分散体を得ることができる。
【0005】
一方、ナノサイズ、好ましくは100nm以下の粒子径を有する水性樹脂分散体を得る方法として、親油性の重合性不飽和単量体と親水性の重合性不飽和単量体を含む重合性不飽和単量体の混合物を、重合性官能基を有するノニオン系界面活性剤存在下で乳化重合する手法や(例えば特許文献2参照)、連鎖移動剤存在下に、水酸基含有重合性不飽和単量体および酸基含有重合性不飽和単量体を含む重合性不飽和単量体の混合物を100℃以下で乳化重合して得られたアクリルエマルジョンに、50℃以上で塩基性化合物および有機溶剤を加えて熟成したことによって、アクリルエマルジョンを微粒子化した手法が知られている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法では、ナノサイズの粒子径を得るための具体的な記載がないため、ナノサイズの粒子径を得ることは困難であった。また時として凝集物が多々発生し、安定な水性アクリルエマルジョンが得られないといった問題があった。
また特許文献2や特許文献3に記載の方法は、低分子量のアクリルエマルジョンを得るためには実質的には連鎖移動剤を使用せねばならず、臭気が残存したり塗膜化した際にレベリング性に劣る問題があった。さらに、文献3の方法では中和の際に有機溶剤を必要とするので得られる水性樹脂分散体に有機溶剤が混在し、無公害化の面から好ましくない場合がある。
【特許文献1】WO98/16561号公報
【特許文献2】特開平11−116850号公報
【特許文献3】特開平08−283613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ナノサイズの粒径を有しかつ低分子量である水性樹脂分散体を、有機溶剤や連鎖移動剤を使用せずに、且つ凝集物の生成等がなく安定に得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、酸基を有する重合性不飽和単量体及び水酸基を有する重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体混合物を100℃以上で乳化重合した後、得られた該重合物のガラス転移温度以上の温度に保持した状態で中和する水性樹脂分散体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ナノサイズの粒子径を有しかつ低分子量である水性樹脂分散体を、有機溶剤や連鎖移動剤を使用せずに、且つ凝集物の生成等がなく安定に得ることができる。具体的には、本発明により、粒子径が10nm〜100nmの範囲であり、重量平均分子量が3,000〜200,000であるである水性樹脂分散体を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(重合性不飽和単量体)
本発明で使用する重合性不飽和単量体は、酸基を有する重合性不飽和単量体及び水酸基を有する重合性不飽和単量体を使用する以外は特に限定されず、公知のラジカル重合性単量体を使用することができる。
酸基を有する重合性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、又はシトラコン酸等の不飽和モノ−あるいはジカルボン酸;該ジカルボン酸と1価のアルコールとを反応させて得たα,β−エチレン性不飽和カルボン酸類;パラスチレンスルホン酸(p−スチレンスルホン酸)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート等のスルホン酸類などのような、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、亜燐酸基、次亜燐酸基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体が挙げられる。これらの酸基を有する重合性不飽和単量体は単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0011】
当該酸基含有重合性不飽和単量体の使用量としては、重合性不飽和単量体の混合物の総量に対して酸価に換算して2mgKOH/g以上となるような量が好ましく、3mgKOH/g以上、さらに好ましくは5mgKOH/g以上となるような量が好ましい。酸価が2mgKOH/g未満の場合には、親水性成分が不足することにより、ナノサイズの水性樹脂分散体が得られ難い傾向にある。
【0012】
また、水酸基を有する重合性不飽和単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、「プラクセル FAもしくはFMモノマー」〔ダイセル化学(株)製の、カプロラクトン付加モノマーの商品名〕、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類、またはこれらとε−カプロラクトンとの付加物等の、各種の水酸基含有重合性化合物などがあげられる。
【0013】
当該水酸基を有する重合性不飽和単量体の使用量としては、重合性不飽和単量体の混合物の総量に対して水酸基価に換算して3mgKOH/g以上が好ましく、5mgKOH/g以上となるような量が好ましい。水酸基価が3mgKOH/g未満の場合には、親水性成分が不足することにより、ナノサイズの水性樹脂分散体が得られ難い傾向にある。
【0014】
本発明で使用するその他の公知の重合性不飽和単量体としては、特に限定はないが、例えば、スチレン、p−tert−ブチルスチレンもしくはビニルトルエン等の、各種の芳香族系ビニル系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソ−(i−)プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等の、各種の(メタ)アクリレート類;マレイン酸、フマル酸もしくはイタコン酸等の、各種の不飽和ジカルボン酸と1価アルコールとのジエステル類;酢酸ビニル、安息香酸ビニル、「ベオバ」(オランダ国シェル社製の、「分枝状脂肪族カルボン酸のビニルエステル」の商品名)等の、各種のビニルエステル類;
【0015】
「ビスコート 8F、8FM、17FM、3Fもしくは3FM」[大阪有機化学(株)製の、含フッ素系アクリルモノマーの商品名]、パーフルオロシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジ−パーフルオロシクロヘキシルフマレートまたはN−i−プロピルパーフルオロオクタンスルホンアミドエチル(メタ)アクリレート等の(パー)フルオロアルキル基含有の、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、(メタ)アクリレート類もしくは不飽和ポリカルボン酸エステル類などのような、各種の含フッ素重合性化合物;(メタ)アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルもしくはフッ化ビニリデン等の、各種のオレフィン類などのような、官能基を持たない、各種のビニル系モノマー類;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドもしくはアルコキシ化N−メチロール化(メタ)アクリルアミド類等の、各種のアミド結合含有ビニル系モノマー類;
【0016】
ジアルキル〔(メタ)アクリロイロキシアルキル〕ホスフェート類もしくは(メタ)アクリロイロキシアルキルアシッドホスフェート類、ジアルキル〔(メタ)アクリロイロキシアルキル〕ホスフフェート類、〔(メタ)アクリロイロキシアルキル〕ホスファイト類もしくは(メタ)アクリロイロキシアルキルアシッドホスファイト類;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の、各種のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルエトキシシラン、α−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランもしくはトリメチルシロキシエチル(メタ)アクリレートなどをはじめとして、さらには、「KR−215もしくはX−22−5002」[信越化学工業(株)製の商品名]等の、各種のシリコン系モノマー類、等が挙げられる。これらの重合性不飽和単量体は単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0017】
(乳化剤)
本発明においては乳化重合する際に乳化剤を使用する。本発明で使用する乳化剤としては、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤のいずれであっても良く、特に限定はない。例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、アルキルフェニルポリオキシエチレンサルフェートナトリウム塩ないしはアンモニウム塩等の、各種のアニオン乳化剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン・ブロック共重合体等の、各種のノニオン乳化剤等が挙げられる。これらの乳化剤は単独で使用しても良いし、あるいは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0018】
また、p−スチレンスルホン酸ナトリウムまたは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムなどをはじめ、「アデカリアソープ NE−10もしくはNE−20」[旭電化工業(株)製の商品名]、「アクアロン HS−10、HS−20、RN−20あるいはRN−50」[第一工業製薬(株)製の商品名]、「エレミノール JS−2もしくはRS−30」[三洋化成工業(株)製の商品名]、「ラテムルS−120もしくはS−180」[花王(株)製の商品名]、「アントックス MS−60」[日本乳化剤(株)製の商品名]等のいわゆる反応性乳化剤を使用してもよい。これらの乳化剤は、重合性不飽和単量体との相性や重合時の温度、あるいは所望とする塗膜物性等に応じて適宜選択することが可能である。
【0019】
前記乳化剤の使用量としては、得られる水性樹脂分散体を塗料として適用した場合における塗膜諸物性を考慮して、重合性不飽和単量体の混合物の総量100質量部に対して、0.1〜10質量部なる範囲内が好ましく、0.2〜3質量部の範囲がなお好ましい。
【0020】
(重合開始剤)
本発明で使用する重合開始剤としては、特に限定されず、通常乳化重合に使用される水溶性の重合開始剤を使用することができる。中でもラジカル重合開始剤が好ましい。具体的には、例えば、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の各種のパーオキサイド;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムまたは過硫酸アンモニウム等の各種の過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリル、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]の2塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]またはその2塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]の2塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−アミノフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]の2塩酸塩または2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)の2塩酸塩などのような、種々のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0021】
前記重合開始剤の使用量は、使用する重合性不飽和単量体の混合物の総量100質量部に対して0.05〜50質量部の範囲内が好ましく、0.2〜30質量部の範囲内が更に好ましく、0.5〜10質量部の範囲内が特に好ましい。
【0022】
また、前記過硫酸塩または過酸化物と、鉄イオン等の、各種の金属イオン、ナトリウムスルホオキシレートホルムアルデヒド、ピロ亜硫酸ソーダまたはL−アスコルビン酸などのような、種々の還元剤とを組み合わせて用いる、いわゆるレドックス系開始剤を使用することも可能である。
【0023】
(乳化重合法)
本発明においては、前記酸基を有する重合性不飽和単量体及び水酸基を有する重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体混合物を、水中で、乳化剤の存在下に乳化重合させる。具体的には例えば、乳化剤を溶解した水中に、重合性不飽和単量体の全量を該重合反応の初期の段階に仕込んでおき、次に重合開始剤を加えて重合反応を行う方法や、乳化剤を溶解した水中に、重合性不飽和単量体の全量と重合開始剤との混合物を滴下して重合反応を行う方法や、乳化剤を溶解した水中に、予め乳化剤で水中に乳化させた重合性不飽和単量体とラジカル重合開始剤との混合物を滴下して重合反応を行う方法等が挙げられる。このときの重合温度を100℃以上とすることで、低分子量の重合物を得ることができる。このとき、反応混合物が沸騰あるいは蒸発するのを防ぐ目的で、反応容器として密閉型圧力反応装置を使用するのが好ましい。ここで、密閉型圧力反応容器とは、オートクレーブのような耐圧性の密閉型反応容器を指し、撹拌機、加減圧装置、不活性ガス導入口が付属していることが好ましい。具体的には、特許文献1に記載されているような、100℃〜170℃、好ましくは105℃〜150℃の範囲内の温度で乳化重合せしめることにより、質量平均分子量が3,000〜200,000の水性アクリルエマルジョンを安定に得ることができる。
100℃以下で乳化重合を行った場合は、目的の分子量の水性アクリルエマルジョンを得ることが困難であり、また、170℃以上で乳化重合を行った場合は、低分子量化は達成できるものの多量の凝集物が発生し、安定な水性アクリルエマルジョンを得ることが困難となる傾向にある。
【0024】
(中和反応)
前記乳化重合法により得た水性アクリルエマルジョンを、該重合物のガラス転移温度(以下Tgと略す)に保持した状態で塩基性化合物により中和させることで、ナノサイズの水性樹脂分散体を得ることができる。
中和に使用する塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウム等の各種の金属水酸化物、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、イソプロピルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、2−アミノー2−メチルプロパノール、2−(ジメチルアミノ)−2−メチルプロパノール、モルホリイン、n−メチルモルホリンもしくはN−エチルモルホリン等の、各種の有機アミン類が挙げられる。
中和量は特に限定がある訳ではないが、得られる水性アクリルエマルジョン中の酸基を有する重合性不飽和単量体に対して、50〜300%の範囲内が適切である。(但しここでいう酸価は、最初に仕込む酸基を有する重合性不飽和単量体を含む重合性不飽和単量体全量中の酸価とする)塩基性化合物による酸基の中和率を適宜調整することで、微粒子の粒子径を調節することが可能である。
前記塩基性化合物の添加法としては、特に限定はなく、例えば、水で希釈した塩基性化合物を滴下するといった手法を取れば良い。
【0025】
中和時の、該重合物のTgは、得られた重合物をサンプリングして直接測定してもよいが、煩雑であることから、本発明においては、仕込んだ重合性不飽和単量体のホモポリマーのTgから計算し算出したTgを、具体的には以下のFoxの式により算出されたTgを、本発明における「重合物のTg」とする。
【0026】
【数1】

【0027】
中和時に、該重合物のTg以上に保持する方法としては、特に限定されず、反応容器を水、又はオイルを用いた汎用の恒温槽に浸漬し、温度調節ユニットで中和温度に設定すればよい。
【0028】
中和時の温度は、塗料用に汎用的に使用される重合性不飽和単量体のホモポリマーのTgから判断して、85℃以上であれば、ほぼ効果を得ることが可能であり、有機溶剤の不存在下であっても安定なナノサイズの水性樹脂分散体を得ることができる。
【0029】
また、中和後、その温度状態で保持する即ち熟成時間を設けることは、安定な微粒子状の水性樹脂分散体を得るために好ましい。熟成時間は、中和時の温度や使用する重合性不飽和単量体によって適宜選択すればよく、特に限定はないが、通常1時間〜5時間程度熟成することが好ましい。
【0030】
また、前記塩基性化合物を加えた後、発泡現象が生じる場合は、必要に応じて、消泡剤等を添加することができる。また、本発明においては、有機溶剤を添加しなくても安定なナノサイズの水性樹脂分散体が得られることが特徴であるが、使用することを排除するものではなく、必要に応じて適宜添加してもよい。しかしながら本発明で得られた水性樹脂分散体を塗料として使用する場合には、添加した有機溶剤はそのまま塗料溶媒となるために、使用量はごく少量にとどめておくことが望ましい。またVOC規制に係る有機溶剤は使用しないことが好ましい。
その他必要に応じ、増粘剤、消泡剤、顔料、分散剤、染料、防腐剤等を必要に応じて添加しても良い。
【0031】
本発明の製造方法により、なぜナノサイズの水性樹脂分散体が得られるのかは定かではないが、以下のように推定している。即ち本発明では、乳化重合した後、得られた重合物のTg以上の温度に保持した状態で中和する。中和工程の際にTg以上の温度に保持することで、該重合物はゴム状態となり、中和に使用する塩基性化合物が該重合物即ち樹脂粒子内部にまで浸透すると考えられ、粒子表面だけでなく粒子内部の酸性基まで中和反応が進行すると考えられる。その結果、酸性基を有する樹脂分散体が一部溶解(可溶化)され,結果的に酸性基を有する樹脂が新たな界面を形成し、より小さな粒子が形成されると考えられる。
【0032】
本発明の製造方法で得られた水性樹脂分散体は、平均粒子径が10〜100nmの範囲であり、得られる重合物の重量平均分子量が3,000〜200,000の範囲であり、そのまま、熱可塑性の水性塗料として使用することができる。また、該樹脂分散体に、架橋剤もしくは硬化剤等の添加剤を加えることにより、熱硬化性の水性塗料に使用することもできる。
本発明の製造方法により得た水性樹脂分散体は、塗料、接着剤、粘着剤、紙加工剤等、各種被覆剤等の用途に好適に用いられ、基材への密着性やレベリング性に優れる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、特に断わりのない限り「部」、「%」は質量基準である。
なお、分子量、粒径は、下記の方法により測定した。
【0034】
(分子量)
得られた水性樹脂分散体の分子量は、東ソー株式会社製のゲルパーミエーション・クロマトグラフィー「HLC−8220」(カラムはTSK−GELを使用(東ソー株式会社製)により測定された値とし、数平均分子量(以下Mnと略す)、質量平均分子量(以下Mwと略す)共にTSK標準ポリスチレン換算とした。詳細な条件は下記の通りである。
測定温度:40℃
溶媒:THF(1級) 和光純薬工業株式会社製
溶媒流速:毎分1ミリリットル
試料注入量:50マイクロリットル
【0035】
(粒径)
レーザー粒子径解析システム「FPAR−1000」〔大塚電子(株)製品の機器名〕により平均粒子径を測定した。
【0036】
<実施例1 水性樹脂分散体(a)の合成>
反応容器に、脱イオン水200部及びアニオン性反応性乳化剤「アクアロンHS−10」〔旭電化工業(株)製の、ノニオン性の反応性乳化剤の商品名であって、有効成分が約100%なるもの〕6部を仕込み、撹拌溶解した後、スチレン200部、n−ブチルアクリレート150部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート2.8部、メタクリル酸47.2部の混合液を添加し、撹拌機を用いて撹拌することで、重合性単量体混合物の乳化液(a)を得た。
【0037】
次に、圧力計、温度計、撹拌機、窒素ガス導入管および滴下ポンプを備えた密閉型圧力反応装置に、脱イオン水300部と「アクアロンHS−10」2部を仕込み、窒素置換した後、密閉して130℃まで昇温し、前記乳化液(a)の5%を密閉型圧力反応装置へ添加し、さらに10%過酸化水素水溶液20部を添加した。130℃を保ったままの状態で前記乳化液(a)の残りと10%過酸化水素水溶液60部を3時間かけて滴下し、その後、同温度で2時間保持して水性アクリルエマルジョンを得た。得られた水性アクリルエマルジョンは重合転化率が高く、また、凝集物もなく安定に重合を行うことができた。
【0038】
その後、85℃に保持した状態で、25%N,N−ジメチルエタノールアミン水溶液195.7部を30分かけて滴下し、同温度で1時間攪拌を行った。その後室温にまで冷却して、200メッッシュ濾布で濾過をすることによって、不揮発分が34.0%の水性樹脂分散体(a)を得た。濾過による凝集物の乾燥質量は、原料である重合性不飽和単量体の総質量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mn9,300、Mwは30,200、分子量分布(Mw/Mn)は3.2であった。平均粒子径は87nmであった。
なお、水性樹脂分散体(a)に使用したラジカル重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、23.5℃である。
【0039】
<実施例2 水性樹脂分散体(b)の合成>
使用する重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、塩基性化合物の種類と量、乳化重合温度、中和温度、及び中和率を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が42.5%の水性樹脂分散体(b)を得た。濾過による凝集物の乾燥質量は、重合性不飽和単量体の総質量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mn20,500、Mwは178,000、分子量分布(Mw/Mn)は8.7であった。平均粒子径は97nmであった。
なお、水性樹脂分散体(b)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、45.5℃である。
【0040】
<実施例3 水性樹脂分散体(c)の合成>
使用する重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、塩基性化合物の種類と量、乳化重合温度、中和温度、及び中和率を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が30.6%の水性樹脂分散体(c)を得た。濾過による凝集物の乾燥質量は、重合性不飽和単量体の総質量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mn5,200、Mwは23,100、分子量分布(Mw/Mn)は4.4であった。平均粒子径は69nmであった。
なお、水性樹脂分散体(c)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、23.6℃である。
【0041】
<実施例4 水性樹脂分散体(d)の合成>
使用する重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、塩基性化合物の種類と量、乳化重合温度、中和温度、及び中和率を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が29.2%の水性樹脂分散体(d)を得た。濾過による凝集物の乾燥質量は、重合性不飽和単量体の総質量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mn4,100、Mwは49,200、分子量分布(Mw/Mn)は12.0であった。平均粒子径は46nmであった。
なお、水性樹脂分散体(d)に使用したラジカル重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、74.7℃である。
【0042】
<実施例5 水性樹脂分散体(e)の合成>
使用する重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、塩基性化合物の種類と量、乳化重合温度、中和温度、及び中和率を表1に記載の通りに変更した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が32.9%の水性樹脂分散体(e)を得た。濾過による凝集物の乾燥質量は、重合性不飽和単量体の総質量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mn1,700、Mwは3,800、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。平均粒子径は93nmであった。
なお、水性樹脂分散体(d)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、13.2℃である。
【0043】
<比較例1 水性樹脂分散体(A)の合成>
使用する重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、塩基性化合物の種類、および量、または、乳化重合温度、中和温度、中和率を表2に記載の通りに変更(即ち、重合温度を100℃未満である80℃として)した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が35.6%水性樹脂分散体(A)を得た。濾過による凝集物の乾燥重量は、重合性不飽和単量体の総重量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mnは25,300、Mwは288,300、分子量分布(Mw/Mn)は11.4であった。平均粒子径は122nmであった。
なお、水性樹脂分散体(A)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、21.1℃である。
この結果、重合温度が100℃未満では、得られる水性樹脂分散体のMwは20万以上のものとなってしまい、粒子径も122nmと大きいものが得られた。
【0044】
<比較例2 水性樹脂分散体(B)の合成>
使用するラジカル重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、塩基性化合物の種類、および量、または、乳化重合温度、中和温度、中和率を表2に記載の通りに変更(即ち、中和温度をTg未満である45℃として)した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が30.6%の水性樹脂分散体(B)を得た。濾過による凝集物の乾燥重量は、重合性不飽和単量体の総重量の0.01%以下と非常にわずかであり、臭気は殆ど感じかった。また、Mnは6,400、Mwは44,300、分子量分布(Mw/Mn)は6.9であった。平均粒子径は145nmであった。
なお、水性樹脂分散体(B)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、46.2℃である。
この結果、中和温度がTg未満では、得られる水性樹脂分散体の粒子径が大きくなってしまった。
【0045】
<比較例3 水性樹脂分散体(C)の合成>
使用するラジカル重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、塩基性化合物の種類、および量、または、乳化重合温度、中和温度、中和率を表2に記載の通りに変更(即ち、連鎖移動剤を使用)した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が40.8%の水性樹脂分散体(C)を得た。濾過による凝集物の乾燥重量は、重合性不飽和単量体の総重量の0.01%以下と非常にわずかであった。また、Mnは9,700、Mwは21,100、分子量分布(Mw/Mn)は2.2であった。平均粒子径は94nmであった。
なお、水性樹脂分散体(C)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、7.3℃である。
【0046】
<比較例4 水性樹脂分散体(D)の合成>
使用するラジカル重合性不飽和単量体、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、塩基性化合物の種類、および量、または、乳化重合温度、中和温度、中和率を表2に記載の通りに変更(即ち、連鎖移動剤を使用)した以外は実施例1と同様にして、不揮発分が35.4%の水性樹脂分散体(D)を得た。濾過による凝集物の乾燥重量は、重合性不飽和単量体の総重量の0.01%以下と非常にわずかであったが、メルカプタンに由来する臭気が非常に強かった。また、Mnは11,300、Mwは27,400、分子量分布(Mw/Mn)は2.4であった。平均粒子径は70nmであった
なお、水性樹脂分散体(D)に使用した重合性単量体混合物のFoxの式によるTgは、62.9℃である。
【0047】
本発明の実施例、比較例を表1、表2にまとめた。また、物性評価としてレベリング性を評価した。レベリング性については下記の方法で評価した。
【0048】
(レベリング性)
前記実施例及び前記比較例で得られた水性樹脂分散体を、6ミルのアプリケーターを用いてABS板上に塗装した。塗装の後に、15分間静置した後、80℃で30分間汎用の乾燥機で以って乾燥を行い塗装板を得た。該塗装板を室温で1日静置した後、塗膜表面を目視で観察し、評価を行った。
評価基準は次に示す通りである。
5 :平滑性良好
4 :わずかに痕跡が見られる
3 :少し痕跡が見られる
2 :塗膜全体に痕跡が見られる
1 :塗膜に異常が見られる
【0049】
【表1】

【0050】
表中の略名は、以下の通りである。
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
アクアロンHS−10:(有効成分100%)
ネオゲンSC−F:(有効成分60%)
STK-199:(有効成分70%)
N,N−DMEA:N,N−ジメチルエタノールアミン
【0051】
【表2】

【0052】
表中の略名は、以下の通りである。
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
アクアロンHS−10:(有効成分100%)
ネオゲンSC−F:(有効成分60%)
STK-199:(有効成分70%)
N,N−DMEA:N,N−ジメチルエタノールアミン
【0053】
この結果、実施例1〜5で得られた水性樹脂分散体は、平均粒子径が10〜10nmの範囲であり、Mwが3000〜200,000の範囲であり、且ついずれもレベリング性に優れていた。比較例1で得られた水性樹脂分散体は、分子量が200000を超えてしまいややレベリング性に劣った。また比較例2で得られた水性樹脂分散体は粒子径が大きく、やはりレベリング性に劣った。比較例3及び4はいずれも連鎖移動剤を使用した例であるが、いずれもレベリング性に劣った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を有する重合性不飽和単量体及び水酸基を有する重合性不飽和単量体を含有する重合性不飽和単量体混合物を100℃以上で乳化重合した後、得られた重合物のガラス転移温度以上の温度に保持した状態で中和することを特徴とする水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項2】
前記乳化重合温度が100℃〜170℃の範囲である、請求項1に記載の水性樹脂分散体の製造方法。
【請求項3】
前記中和時の保持温度が85℃以上であり、且つ有機溶剤の不存在下において中和する請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体の製造方法。

【公開番号】特開2010−7015(P2010−7015A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170366(P2008−170366)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】