説明

水性樹脂組成物およびその製造方法

【課題】分子量を高くするとともに、界面活性剤の使用量を少なくすることにより優れた物性が得られ、かつ煩雑な製造工程を必要としない水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】平均分子量が37000〜150000の酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部が、界面活性剤2〜30重量部、下記の一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物10〜50質量部、水150〜425質量部の存在下、加熱溶解された後、酸変性塩素化ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1 〜4倍化学当量の割合で加えられた塩基性化合物によって分散されてなることを特徴とする水性樹脂組成物。
一般式(1)
C4H9−(OCH2CH2)n−OH
n :1〜4までの整数

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂の保護や美観のために用いられる水性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリオレフィン樹脂は、比較的安価で、優れた性能、例えば、耐薬品性、耐水性、耐熱性等を有し、自動車部品、電気部品、建築資材、包装用フィルム等の材料として広い分野で使用されている。しかしながら、ポリオレフィン樹脂は、結晶性で且つ非極性であるが故に、塗装や接着を施すことが困難である。そのため、このような難接着性なポリオレフィン樹脂の塗装や接着には、ポリオレフィン樹脂に対して強い付着力を有する塩素化ポリオレフィンを、バインダー樹脂として使用することが行なわれている。
【0003】
しかし、これらバインダー組成物は、ほとんどの場合においてトルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解した形で使用されるため、塗装時に大量の有機溶剤が大気中に放出されることとなり、環境汚染が懸念される。
【0004】
そこで、従来より、有機溶剤を使用せずに溶解できるポリオレフィン樹脂組成物として、塩素化ポリオレフィンおよび界面活性剤を含む水性樹脂組成物が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
特許文献1には、多価アルコールと界面活性剤とを混合加熱した所へ、塩素化ポリオレフィン樹脂を加えてさらに加熱し、その後第一、第二または第三アミンを加えて混合溶融し、形成された溶融塊に段階的に水を加えて所望の水性樹脂組成物を得ることが開示されている。
【0006】
特許文献2には、塩素化ポリオレフィン樹脂と、界面活性剤と、第一、第二または第三アミンと、水とを混合加熱攪拌することによって所望の水性樹脂組成物を得ることが開示されている。
【特許文献1】特表平4−506530号公報
【特許文献2】特表平6−509130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のいずれの水性樹脂組成物の場合も、用いる樹脂の分子量が低いために期待する物性が発現しないといった不都合を生じることとなる。
【0008】
また、特許文献1に示す水性樹脂組成物の場合、溶融塊に段階的に水を加えて所望の組成物を得るため、煩雑な希釈工程が必要となる。
【0009】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、分子量の高い樹脂を用いることにより優れた物性が得られ、かつ煩雑な製造工程を必要としない水性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行なった結果、平均分子量が37000〜150000の酸変性塩素化ポリオレフィン、界面活性剤、下記の一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物、水を加温下で混合した後、所定量の塩基性化合物を添加し、樹脂を分散させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、平均分子量が37000〜150000の酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部が、界面活性剤2〜30重量部、下記の一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物10〜50質量部、水150〜425質量部の存在下、加熱溶解された後、酸変性塩素化ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1 〜4倍化学当量の割合で加えられた塩基性化合物によって分散されてなる水性樹脂組成物である。
一般式(1)
C4H9−(OCH2CH2)n−OH
n :1〜4までの整数
以下本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明に用いられる酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂は、例えば、ポリプロピレンおよびプロピレン- α- オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に、α, β- 不飽和カルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合して酸変性ポリオレフィンを得た後に、この酸変性ポリオレフィンを塩素化して得られるものを用いることができる。
【0013】
ここで、プロピレン- α- オレフィン共重合体とは、プロピレンを主体としてこれとα- オレフィンを共重合したものである。α- オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1- ペンテンなどの、炭素原子数2または4〜20のα- オレフィンが挙げられる。プロピレン- α- オレフィン共重合体におけるプロピレン含有量は、50モル%以上であることが好ましい。プロピレン成分の含有量が50モル%未満であると、ポリプロピレン基材に対する密着性が悪くなる。
【0014】
ポリプロピレンおよびプロピレン- α- オレフィン共重合体にグラフト共重合するα, β- 不飽和カルボン酸およびその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸等が挙げられる。これらの中でも無水マレイン酸、無水イタコン酸が好ましい。
【0015】
酸変性塩素化ポリオレフィンにおけるα, β−不飽和カルボン酸およびその酸無水物成分の含有量は0.4〜10質量%であるのが好ましい。10質量%を超えると、樹脂の親水性が高くなり、目的組成物から得られる塗膜の耐水性が悪化するおそれがある。一方、0.4質量%未満であると、樹脂の分散が困難になる。
【0016】
ポリオレフィンに、α, β−不飽和カルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種をグラフト共重合する方法としては、ラジカル発生剤の存在下で該ポリオレフィンを融点以上に加熱溶融して反応させる方法(溶融法)、該ポリオレフィンを有機溶剤に溶解させた後にラジカル発生剤の存在下に加熱攪拌して反応させる方法(溶液法)などの公知の方法が挙げられる。
【0017】
次に、上記方法で得られた酸変性ポリオレフィンを塩素化して、酸変性塩素化ポリオレフィンを得る。
【0018】
この塩素化は、例えば、塩素系溶媒中に酸変性ポリオレフィンを溶解し、ラジカル発生剤の存在下または不存在下で、塩素含有率が10〜35質量%になるまで塩素ガスを吹き込んで行うことができる。
【0019】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、10〜35質量%であるのが好ましい。10質量%未満であると、樹脂の溶解性が悪いために分散が困難になる。35質量%を越えると、密着性が悪くなる。
【0020】
酸変性塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、37000〜150000であるのが好ましい。37000未満であると密着性が悪くなる。150000を越えると、樹脂の溶解性が悪いために分散が困難になる。なお、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することができる。
【0021】
本発明で用いられる界面活性剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤および両性界面活性剤が挙げられる。このうち分散粒子の粒子径、および目的物から得られる塗膜の耐水性の観点から、ノニオン性界面活性剤やアニオン性界面活性剤を用いるのが好ましく、ノニオン性界面活性剤を用いるのがより好ましい。
【0022】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル。ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシプロピレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンラノリンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンラノリン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレンラノリン脂肪酸エステル、(ポリオキシエチレンオキシプロピレン)ブロックコポリマー等が挙げられる。
【0023】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルキル硫酸エステル類、アルキルアリールポリオキシエチレン硫酸エステル塩類、高級脂肪酸塩類、アルキルアリールスルフォン酸塩類、アルキルリン酸エステル塩類等が挙げられる。
【0024】
これら界面活性剤は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
本発明で使用される界面活性剤は、酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部に対して、2〜30質量部用いる。2質量部未満であると、樹脂の分散が困難となる。一方、30質量部を越えると、目的組成物の耐水性が悪化する。
【0026】
本発明で使用される一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物は、酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部に対して、10〜50質量部用いる。10質量部未満であると、樹脂の分散が困難になる。一方、50質量部を越えると、目的組成物を乾燥させるのに高温、長時間が必要になるおそれがある。また水性媒体に分散させるという本来の目的からずれてしまう。
【0027】
一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物としては、例えば、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert- ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノiso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノn-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノn-ブチルエーテルが挙げられる。
【0028】
これら化合物は、1種単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0029】
本発明において、酸変性塩素化ポリオレフィンを分散させるには塩基性化合物が必要である。これを系内に存在させることにより、酸変性塩素化ポリオレフィンの分散性を向上させることが可能となる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の無機塩基性化合物類、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N- ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、2-アミノ-2- メチル-1- プロパノール、2-ジメチルアミノ-2- メチル-1- プロパノール等のアミン類、アンモニア等が挙げられる。
【0030】
塩基性化合物の添加量は、酸変性塩素化ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量が好ましい。1倍当量未満では、分散が困難になる。また4倍当量を超えると、目的組成物の乾燥物中における残存量が多くなりすぎるおそれがある。
【0031】
酸変性塩素化ポリオレフィンを分散させる際に使用する水の量は、150〜425質量部用いる。150質量部未満であると、分散が困難になる。一方、425質量部を越えると、目的物を乾燥させるのに高温、長時間が必要となるおそれがある。
【0032】
本発明の水性樹脂組成物は、酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部を界面活性剤2〜30質量部、一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物10〜50質量部、水150から425質量部の存在下、加温溶解させた後、酸変性塩素化ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の塩基性化合物を加えて製造される。
【0033】
酸変性塩素化ポリオレフィンを界面活性剤、一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物、水の存在下で加温溶解させる場合の温度は80〜130℃、好ましくは100〜120℃である。
【0034】
次に上記溶解物に塩基性化合物を添加し、樹脂を分散する。塩基性化合物を添加する際の温度は80〜100℃が好ましい。
【0035】
塩基性化合物を添加した後、樹脂を十分に分散させるために加温下で攪拌する必要がある。攪拌時の温度は80〜100℃が好ましい。また攪拌時間は1時間〜6時間、好ましくは2時間〜4時間である。
【0036】
本発明の水性樹脂分散組成物は、そのままでも顔料を混合して使用してもよく、また他の水性樹脂を混合してもよい。
【0037】
本発明の水性樹脂分散組成物は、ポリオレフィン系樹脂に対する密着性に優れているので、塗装や接着の際のプライマーや、塗料および接着剤の用途に有用である。
【発明の効果】
【0038】
本発明によると、分子量の高い樹脂を用いた優れた物性の水性樹脂組成物を提供することができる。また、この水性樹脂組成物は、特殊な装置や煩雑な製造工程を必要とすることなく得ることができ、工業的利用に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
以下において、平均粒子径の測定には、レーザー回折式粒径分布測定機として、マルバーン(MALVERN )社製ゼータサイザーナノZSを用いて行った。
【0041】
製造例1
アイソタクチックポリプロピレン280g、無水マレイン酸13g、ジーtert―ブチルパーオキシド5.6g及びトルエン420gを攪拌器を取り付けたオートクレーブ中に加え、窒素置換を約5分行った後、加熱攪拌しながら140℃で5時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のメチルエチルケトン中に投入し樹脂を析出させた。この樹脂を更にメチルエチルケトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。減圧乾燥後、得られた無水マレイン酸変性ポリオレフィン280g及びクロロホルム2520gを攪拌器を取り付けたオートクレーブ中に加え、窒素置換を約5分間行った後、110℃に加熱し樹脂を充分に溶解させた。次いでtert- ブチルパーオキシ-2- エチルヘキサノエート1.4gを加え、塩素ガスを吹き込んだ。所定の塩素量を吹き込んだ後、反応溶媒であるクロロホルムを減圧下である程度留去し、この高濃度溶液に安定剤としてtert−ブチルフェニルグリシジルエーテルを固形分に対し5%添加した。この溶液を減圧乾燥し、クロロホルムを完全に除去することで塩素含有率が26質量%、無水マレイン酸成分とマレイン酸成分の合計の含有量が1. 0質量%、重量平均分子量が14.3万の無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィンの固形物を得た。
【0042】
製造例2
プロピレン・エチレンコポリマー(エチレン成分含有量=5モル%)280g、無水マレイン酸80g 、ジーtert―ブチルパーオキシド5.6g及びトルエン420gを用いた以外は製造例1と同様の方法にて、塩素含有率が14質量%、無水マレイン酸成分とマレイン酸成分の合計の含有量が5.2質量%、重量平均分子量が3.7万の無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィンの固形物を得た。
【0043】
実施例1(水性樹脂組成物(a)の製造)
冷却器、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口フラスコに、製造例1で得られた酸変性塩素化ポリオレフィン200g 、ジエチレングリコールモノn-ブチルエーテル50g、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル(第一工業製薬株式会社製、商品名:ノイゲンEA- 197、 ノニオン性界面活性剤)30g 、脱イオン水480g 、をそれぞれ仕込み、100℃に保った状態で樹脂を十分溶解させた。この溶液にN,N-ジメチルエタノールアミン5gを加えた。2時間攪拌後冷却することで、樹脂濃度(固形分)が30質量%、平均粒子径が82nmの水性樹脂組成物(a)を得た。
【0044】
実施例2(水性樹脂組成物(b)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、樹脂粒子の平均粒子径が68nmの水性樹脂組成物(b)を得た。
【0045】
比較例1(水性樹脂組成物(c)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%、平均粒子径が30nmの水性樹脂組成物(c)を得た。
【0046】
比較例2(水性樹脂組成物(d)の製造)
各成分の量を表1の組成に変更したこと以外は実施例1と同様の方法により、水性樹脂組成物(d)の製造を試みた。しかしながら、酸変性塩素化ポリオレフィンに対するグリコールエーテルの量が少ないために、分散が行えなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
このようにして得られた水性樹脂組成物(a)〜(c)について、以下の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
密着性
水性組成物25g にスーパーフレックス150HS(第一工業製薬株式会社製ポリウレタンエマルション、固形分38質量%)を80g 、造膜助剤としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル2g、濡れ剤としてサーフィノール420(エアープロダクツジャパン株式会社製)1gを添加し、マグネチックスターラーで30分間攪拌した。このエマルションをイソプロピルアルコールで洗浄したポリプロピレン板(三井ノーブレン社製SB−E3を定法によりプレス成形したもの、100mm×50mm、厚さ2mm)に乾燥塗膜厚が20〜25μm となるようにスプレー塗装した。60℃で10分乾燥後、二液ウレタン塗料を塗装し、90℃で20分間乾燥した。25℃×60%RH の雰囲気下に24時間放置して、これを試験板とした。この試験板に1mm間隔で素地に達する100個のマス目を作り、その上にセロハンテープを圧着させて塗面に対して90度の角度で引き剥がし、マス目の残存数を調べた。
【0050】
耐水性
上記の方法で得られる試験板を40℃の温水に240時間浸漬した後、上記密着性の評価と同様に100個のマス目を作り、同様の方法で評価した。
【0051】
貯蔵安定性
水性樹脂組成物80g を容量100mlの容器に入れて密封し、50℃の雰囲気下に2週間放置し、その粘度変化を下記の評価基準で評価した。
【0052】
○;わずかに増粘(初期粘度に対して2倍以下の粘度)
×;増粘(初期粘度に対して2倍以上の粘度上昇)
【0053】
【表2】

【0054】
表2から明らかなように、本発明に係る水性樹脂組成物(a)、(b)は良好な密着性を示すとともに、耐水性、貯蔵安定性にも優れていることが分かる。
【0055】
これに対し、酸変性塩素化ポリオレフィンと界面活性剤との比が本発明の範囲外で、界面活性剤の量が多い水性樹脂組成物(c)は耐水性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0056】
ポリオレフィン樹脂を含有した水性樹脂組成物として、インキ、接着剤、水性塗料、フロア−ポリッシュ、繊維処理剤、紙処理剤、離型剤、各種バインダー等として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が37000〜150000の酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部が、界面活性剤2〜30重量部、下記の一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物10〜50質量部、水150〜425質量部の存在下、加熱溶解された後、酸変性塩素化ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1 〜4倍化学当量の割合で加えられた塩基性化合物によって分散されてなることを特徴とする水性樹脂組成物。
一般式(1)
C4H9−(OCH2CH2)n−OH
n :1〜4までの整数
【請求項2】
酸変性塩素化ポリオレフィンが、ポリプロピレンおよびプロピレン- α- オレフィン共重合体から選ばれる少なくとも1種に、α, β- 不飽和カルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種を0.6〜10質量% グラフト共重合してなることを特徴とする請求項1に記載の水性樹脂組成物。
【請求項3】
酸変性塩素化ポリオレフィンの塩素含有率が10〜35質量% である請求項1または2に記載の水性樹脂組成物。
【請求項4】
酸変性塩素化ポリオレフィン100質量部を、界面活性剤2〜30質量部、一般式(1)を満たすグリコールエーテル系化合物10〜50質量部、水150〜425質量部の存在下、加温溶解させた後、酸変性塩素化ポリオレフィンのカルボキシル基に対して1〜4倍化学当量の塩基性化合物を加えて得られる水性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−31473(P2007−31473A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212537(P2005−212537)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000222554)東洋化成工業株式会社 (52)
【Fターム(参考)】