説明

水性消臭剤

【課題】 2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジイル=ジアセタ−ト(以下、BNPAという)を有効成分とし、水を含有する、安全で、かつ安定した消臭効果を発揮する水性の消臭剤、特に汚泥処理用消臭剤を提供する。
【解決手段】 BNPA、溶剤として、プロピレングリコール及びエステル系化合物、界面活性剤として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン及びソルビタン系化合物、並びに水を含有することを特徴とする水性消臭剤。該BNPA5〜40質量%、該溶剤10〜30質量%、該界面活性剤5〜20質量%及び水が残部の10〜80質量%からなることが好ましい。
【効果】 粘度が低く取扱いが容易で安全性が高く、水中で拡散性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性消臭剤に関するものであり、粘度が低く取扱い容易で、貯蔵安定性に優れ、拡散性が良好で安定した消臭効果を発揮し、かつ安全性の高い消臭剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭や工場の排水や下水及び雨水等は、下水道管を通じてポンプ所に集められ、その後下水処理場で処理される。ここで発生した汚泥は、濃縮され、更に脱水助剤等を添加して脱水し、埋立て処分、焼却処分又は資源化処理がされる。有機質汚泥には、汚泥中の溶存酸素が少なく嫌気性微生物による腐敗が始まり硫化水素やメチルメルカプタン等の硫化物系の悪臭ガスを発生し環境上、衛生上の間題となっている。特に開放型汚泥処理施設では、汚泥貯留槽等の各施設から悪臭ガスが気散し、その防止対策に苦慮している。また脱水後の脱水汚泥ケーキも悪臭ガスの発生を続け、最終処分されるまでの貯留や運搬時の作業環境を悪くしている。更に最終埋め立て地においても悪臭が飛散し、付近住民に不快な状態を与え、その脱臭対策は、重要なこととなっている。
【0003】
これらの脱臭対策のために、数多くの殺菌剤や消臭剤が提案されている。これらの殺菌剤や消臭剤の一つとして2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジイル=ジアセタート(以下、BNPAと称する)が知られている(特許文献1及び特許文献2)。この薬剤は、適用に当っては液状組成物として貯蔵、運搬されることが多い。一般に、BNPAは、グリコール類、グリコールエーテル類、アルコール類等の一般有機溶剤やN,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリジノン等の非プロトン性極性溶剤に溶解した製剤として使用されている。
【0004】
また、水性製剤として、活性成分に、溶媒として、アルキル化ナフタレン、界面活性剤として、ポリオキシエチレンキャニスターオイルエーテル及び水を配合した製剤(特許文献3)やポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩及びプロピレングリコールを含む水性製剤(特許文献4)等が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−73942号公報
【特許文献2】特開2005−111389号公報
【特許文献3】特開平5−39202号公報
【特許文献4】特開平5−246810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
有機溶剤等は、一般に引火性があり、これらを多く含む製剤は、消防法による規制の対象となることがあり、また、これらを使用した製剤は、粘度が大きくなり取扱いが容易でなく、水分散性も劣るため、使用場面によっては効果が安定しない場合がある。これらの問題の解決方法として、疎水性薬剤の安定な水性製剤を製造する方法が考えられるが、BNPAに、溶剤や界面活性剤等及び水を用いて一般に農薬の製剤化に採用されている方法(特許文献3等)を用いて製剤しても、BNPAの水性製剤は、化学的安定性が必ずしも良好とは言えず、熱分解や加水分解等の分解を起しやすく、保存中に分離を生じることが多く、貯蔵安定性も劣る。また物理化学性の改善に努めると、消臭効果に問題を生じる。
【0007】
本発明は、BNPAを有効成分とし、水を含有し消防法の規制の対象とならなく安全性が高く、拡散性が良好で粘度が低く取扱いが容易で、貯蔵安定性に優れ、かつ安定した消臭効果を発揮する水性の消臭剤、特に汚泥処理用消臭剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明を概説すれば、本発明は、
(1)BNPA(2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジイル=ジアセタート)、溶剤として、プロピレングリコール及びエステル系化合物、界面活性剤として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン及びソルビタン系化合物、並びに水を含有することを特徴とする水性消臭剤、
(2)該ジアセタート5〜40質量%、該溶剤10〜30質量%、該界面活性剤5〜20質量%、及び水が残部の10〜80質量%からなる(1)項記載の水性消臭剤、
(3)エステル系化合物とプロピレングリコールを、質量比1:3〜3:1の割合で含有する(1)又は(2)項記載の水性消臭剤、及び
(4)ソルビタン系化合物と該ポリアミンを、質量比1:3〜3:1の割合で含有する(1)〜(3)項のいずれか1項記載の水性消臭剤を提供する。
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水を主溶剤とし、グリコール系溶剤及びエステル系溶剤並びにBNPAの配合量に応じて特定の界面活性剤を配合することにより、従来の技術からは予測できない有効成分の安定性が向上し、物理化学的性質が改善され、かつ、優れた消臭効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の消臭剤は、有効成分のBNPAの貯蔵安定性を著しく改善し、また水中での拡散性に優れるため、汚泥に処理した時、有効成分が均一に行渡るため、安定した消臭効果を示し、水を主溶剤とするため、消防法の規制に該当せず安全で、粘度が低く取扱いが容易になったため、汚泥の処理施設全体に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の、消臭剤は、水に特定の溶剤及び界面活性剤と共にBNPAを乳化分散した水中油型製剤である。
【0012】
本発明で使用される溶剤としてのエステル系化合物としては、二塩基酸エステル、例えばコハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等及び炭酸プロピレンが挙げられる。特に炭酸プロピレンが好ましい。また、界面活性剤としてのソルビタン系化合物としては、ソルビタンのアルキルエステル、例えばソルビタンモノラウラート、ソルビタンモノパルミタート、ソルビタンモノステアラート、ソルビタントリステアラート、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート等が挙げられる。
【0013】
有効成分BNPAの配合割合は、適用される施設で充分な効果を発揮するよう合理的に選択されるが、通常は消臭剤全量に対して、5〜40質量%の範囲から適宜選択するのが好ましい。プロピレングリコールの配合割合は、消臭剤全量に対して3〜15質量%であり、より好ましくは5〜10質量%の範囲である。エステル系化合物の配合割合は、消臭剤全量に対して5〜15質量%であり、より好ましくは5〜10質量%の範囲である。両者は、1:3〜3:1の割合で配合するのが好ましい。更に界面活性剤の配合割合は、ソルビタン系化合物及びポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンがそれぞれが2〜10質量%の範囲で調整する。両者の配合割合は、1:3〜3:1とするのが好ましい。この範囲から適宜選択して使用することにより、製剤の安定化のためや使用時に水に添加し速やかに乳化分散する薬剤が得られる。特に成分組成がソルビタンモノオレアートとポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンの混合使用が好ましい。更にプロピレングリコール、炭酸プロピレンを使用によって、適宜組成比を変えることにより、有効成分を良く乳化分散させることができる。
【0014】
本発明の薬剤は、有効成分量が10%以下の場合は、有効成分、溶剤、界面活性剤を均一になるまで混合し、800〜1000rpmで撹拌しながら水を加えて、乳化分散して得ることができる。有効成分量が11%以上の場合は粘度が大きくなることがあり、ホモミキサー等を用いて5000〜12000rpmで撹拌して乳化分散するか、ニーダー等で練りながら水を添加して製造する。有効成分、溶剤、界面活性剤及び適量の水を混合し、ホモミキサー等で撹拌して乳化液を得た後、更に水を添加することにより、粘度上昇がなく乳化分散液として得ることができる。サンドグラインダー等の湿式粉砕器を用いる場合は各原料を一度に仕込んで粉砕することにより乳化分散液として得ることができる。また得られた乳化分散液は必要に応じてろ過をして、より均一な薬剤とすることができる。
【0015】
本発明の薬剤の使用方法には、特に制限はなく、使用場面の対象、目的などに応じて適当な方法を選択すれば良く、例えば、下水処理場等の汚泥濃縮槽、汚泥貯留槽及び凝集剤混合槽等の汚泥の脱水前の各施設に直接投入する方法や、汚泥と薬剤をより効率よく混合するため、これら各施設間を移送する汚泥用の配管に添加点を設けて添加する方法が適用できる。また、脱水後の汚泥、すなわち脱水汚泥ケーキに添加することもできる。
【0016】
本発明の薬剤の添加方法としては、特に限定されず、薬剤を正確に供給できる方法が好ましく、例えば、ダイヤフラム式やプランジャー式定量ポンプ等を用いるのが好ましい。本発明の薬剤の使用量は、汚泥の種類にもよるが、該薬剤中のBNPAが、汚泥量に換算して、50〜1000ppm程度となる量であり、悪臭ガスの発生濃度により、その使用量を適宜増減する。これより多く添加しても薬量に比例した消臭効果の向上がなく経済的でない。本薬剤を現地で水により希釈して使用することも可能である。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例、比較例及び試験例を挙げて説明する。なお、本発明は、これらに限定されるものではない。以下、部とあるのは質量部を示す。
【0018】
表1〜表3に示す各成分を混合して薬剤(実施例及び比較例)を得た。表中、
PGは、プロピレングリコールを、
DPGは、ジプロピレングリコールを、
PEGは、ポリエチレングリコール#200を、
PCは、炭酸プロピレンを、
DBEは、アジピン酸ジメチル10〜25%、グルタル酸ジメチル55〜75%及びコハク酸ジメチル15〜25%混合物を、
DMSは、コハク酸ジメチルを、
DPNは、ジイソプロピルナフタレンを、
SSOは、ソルビタンモノオレアートを、
SPAは、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンを、
SPCは、ポリオキシエチレンキャスターオイルエーテルを、
SPDは、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル及びアルキルベンゼンスルホン酸金属塩混合物(低HLBタイプ)を、
SPEは、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル及びアルキルベンゼンスルホン酸金属塩混合物(高HLBタイプ)を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
試験例1 耐熱性試験
実施例及び比較例に従って調製した薬剤各100gをガラス製容器に入れ、密栓し、50℃の恒温器中に7日間保管した後、HPLCにより、有効成分の残存量を測定し、残存率を求めた。また外観(沈降分離)の状態を観測した。結果を表3に示す。なお、比較例2〜4は、50℃の保管で、物性の劣化が大きく、有効成分の測定を実施しなかった。
【0022】
【表3】

【0023】
試験例2 耐寒性試験
実施例及び比較例に従って調製した薬剤の各100gをガラス製容器に入れ、密栓し、−5℃の恒温器中に7日間保管した後、外観(沈降分離)の状態を観測した。結果を表4に示す。
【0024】
【表4】

【0025】
低温に対して、プロピレングリコールが優れるが、グリセリン、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール#200は、物性の劣化が大きく使用し得ないものである。
【0026】
試験例3 分散性試験
500mlのビーカーに上水400mlを入れ、実施例及び比較例に従って調製した薬剤を1ml加えて、薬剤の乳化分散状態を観察した。実施例1〜4及び比較例1〜12は、速やかに乳化分散するが、比較例13及び14は、底に沈降し分散しなかった。
【0027】
試験例4 消臭効果試験
下水処理場から採取した汚泥スラリー(ケーキ含水率80.1%)に実施例及び比較例に従って調製した薬剤を添加し100rpmで30分撹拌した。その後、高分子凝集剤を添加し凝集及び圧搾を行った各汚泥をテドラーバックに入れ、30℃の恒温槽に保存し、24時間及び72時間後に臭気成分濃度をガス検知管を用いて測定した。その結果を表5に示す。表中のNDは検出限界未満を示す。
【0028】
【表5】

【0029】
試験例5 溶存硫化物の除去試験
蒸留水に水流化ナトリウム溶液を加えて、溶存硫化物の濃度を125ppmに調整する。この液をスターラーで撹拌(200rpm)しながら、各薬剤(有効成分濃度100ppm)を添加した。その後、24時間溶存硫化物の経時的残存を検知管(ガステック検知管No.211M)にて測定した。結果を表6に示す。
【0030】
【表6】

【0031】
以上の試験結果から、界面活性剤として、ソルビタンモノオレアート及びポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンを用いる製剤に比べて、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルとアルキルベンゼンスルホン酸金属塩混合物の使用は、比較例5〜6に示すように、耐熱性が劣り、ポリオキシエチレンキャスターオイルエーテルを使用することは、比較例8〜9について示されるように、耐寒性が不十分であることが分かる。界面活性剤として、ソルビタンモノオレアート及びポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンの混合使用であっても、グリセリン、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール#200を使用する場合、貯蔵安定性が不十分であり(比較例1〜4)、プロピレングリコールが優れた。また、エステル系溶媒を含まない製剤(比較例7、10、11)やアルキル化ナフタレンであるジイソプロピルナフタレンを用いた製剤(比較例12)も耐熱、耐寒性において劣った。更に炭酸プロピレンやコハク酸ジメチル等の溶剤のみを使用した製剤(比較例13、14)は、有効成分の安定性、水分散性が劣った。炭酸プロピレン及び二塩基酸エステル等を配合する製剤は、配合しない製剤(比較例10)に比べ溶存硫化物の除去効果が向上する。炭酸プロピレンや二塩基酸エステル等の配合は、製剤の物性からは好ましくはないが、その他の本発明の溶剤や界面活性剤の調整により可能となり、これにより安定な消臭効果を示し、汚泥の処理施設全体に使用することができることとなった。
【0032】
BNPAを有効成分とし、水、主溶剤として、プロピレングリコール、界面活性剤として、ソルビタンモノオレアート等やポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミンの混合使用で水中油型製剤とすることにより、粘度が低く取扱いが容易で安全性が高く、水中で拡散性に優れるため、汚泥に処理した時、有効成分が均一に行渡るため、安定した消臭効果を示すと同時に、従来の技術からは予想できない程、有効成分の安定性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジイル=ジアセタート、溶剤として、プロピレングリコール及びエステル系化合物、界面活性剤として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン及びソルビタン系化合物、並びに水を含有することを特徴とする水性消臭剤。
【請求項2】
該ジアセタート5〜40質量%、該溶剤10〜30質量%、該界面活性剤5〜20質量%、及び水が残部の10〜80質量%からなる請求項1記載の水性消臭剤。
【請求項3】
エステル系化合物とプロピレングリコールを、質量比1:3〜3:1の割合で含有する請求項1又は2記載の水性消臭剤。
【請求項4】
ソルビタン系化合物と該ポリアミンを、質量比1:3〜3:1の割合で含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の水性消臭剤。

【公開番号】特開2008−86615(P2008−86615A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272443(P2006−272443)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(390034348)ケイ・アイ化成株式会社 (19)
【Fターム(参考)】