説明

水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液

【課題】 性路面標示塗料用硬化促進剤である金属化合物が周辺に飛散することを防ぐ、性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を提供する。
【解決手段】 硬化促進剤は、水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶である金属化合物である。硬化促進剤分散液は、金属化合物を溶媒に分散させたものであり、金属化合物の分散割合としては、10から80重量%が好ましい。硬化促進剤が水性路面標示塗料に硬化促進剤分散液として散布されることによって、硬化促進剤が周辺に飛散することを防ぎつつ、水性路面標示塗料を十分に成膜・硬化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、路面に塗布する水性路面標示塗料に関し、塗料の成膜・硬化性を促進することを目的とする水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性路面標示塗料は、揮発性有機化合物を多く含有する溶剤系路面標示塗料に替わって種々提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1(特許第3049642号公報)には、トラフィックペイントに適した水性の急速硬化性組成物の開示がある。特許文献1の主たる特徴は、(a)0℃以上のTgを有する陰イオン的に安定化された乳化重合体、(b)アミン基またはイミン基を含有するモノエチレン性不飽和単量体の単量体単位を20〜100重量%含む、付加重合された水溶性または水分散性多官能性アミン重合体、および(c)本質的にすべての多官能性アミン重合体が非イオン性状態にある点まで組成物のpHを上昇させるのに十分な量の揮発性塩基の、(a)、(b)、(c)を含有させたものであった。特許文献1の発明では、水性のトラフィックペイントの結合材成分と配合成分により急速硬化性を得られるようにしている。
【0004】
特許文献2として示す、特許第3300458号公報には、水性の路面標示用組成物の開示がある。特許文献2の主たる特徴は、分子量10,000〜100,000の樹脂からなる固形分を45%以上含み、かつ0〜50℃のガラス転移温度を有した機械的安定性の優れたエマルションと、顔料、充填剤、およびその他塗料用添加剤からなる塗料であって、エマルション固形分と、顔料、充填剤、およびその他塗料用添加剤との重量比率が、100:200〜100:900に構成され、更に該塗料中の不揮発分が、70重量%以上であり、かつ該塗料中に反応性官能基として炭素−炭素二重結合を少なくとも分子内に二個有するモノマーまたはそのオリゴマーを含むことにあった。特許文献2の発明では、塗料の固形分と不揮発分の他、結合材成分の分子量、Tg、反応性官能基の種類に特徴を持つようにしている。
【0005】
特許文献3として示す、特開2004−182917号公報は、本件出願人が出願人に一人となる発明であり、水性の路面標示用塗料組成物の開示がある。特許文献3の主たる特徴は、エマルション系の水性塗料中に、無機充填材(顔料を除く。)が配合されてなる路面標示用の塗料組成物において、前記無機充填材の一部として、モース硬度5以上を示す硬質無機充填材が、塗面に耐摩耗性を付与可能な量配合されてなることにあり、路面標示用塗料の耐摩耗性を改良したものにあった。
【0006】
水性路面標示塗料は水分が蒸発しないと塗膜の成膜が行われないため、乾燥時間は、塗布の際の気温や湿度といった周囲の環境に大きく依存するものである。特に湿度が高い環境下の施工においては、水性路面標示塗料は乾燥時間に数時間程度要することがあり、係る時間、道路の交通規制を行わなければならないという問題がある。
【0007】
上記の水性路面標示塗料の乾燥時間の問題を解決するためにいくつかの提案がなされている。例えば、特許文献4(特開2004−244467号公報)では、路面に塗布された路面標示用水性塗料の塗膜上に路面標示用水性塗料定着剤を散布する路面標示の形成方法が開示されている。そして、路面標示用水性塗料定着剤として、酸化カルシウム、酸化バリウム及び酸化ストロンチウムなどの水と反応することで発熱可能な無機化合物粒子が開示されている。
【0008】
特許文献5として示す、特開2007−107278号公報には、路面標示用水性塗料の定着を促進する水性塗料定着剤として、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムが開示されている。また、水性塗料定着剤と水性塗料を同時に路面に塗布し、ガラスビーズを散布する路面標示形成方法が開示されている。また、スプレーから吐出された路面標示用水性塗料が通過する容器内に、移送された水性塗料定着剤を散布させ、水性塗料に水性塗料定着剤を混合させ、容器外に飛散抑制する機能を具備した塗装装置も開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第3049642号公報
【0010】
【特許文献2】特許第3300458号公報
【0011】
【特許文献3】特開2004−182917号公報
【0012】
【特許文献4】特開2004−244467号公報
【0013】
【特許文献5】特開2007−107278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献4(特開2004−244467号公報)及び特許文献5(特開2007−107278号公報)に記載された発明においては、定着剤が無機化合物粒子であるため、定着剤使用の際に、周辺に定着剤としての無機化合物が飛散する恐れがある。
【0015】
この発明は、上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、水性路面標示塗料用硬化促進剤使用の際に、水性路面標示塗料用硬化促進剤である金属化合物が周辺に飛散することを防ぐ水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液は、水性路面標示塗料用硬化促進剤である金属化合物を溶媒に分散させたものであることを要旨とする。
【0017】
請求項2に記載の発明の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液は、請求項1に記載の発明において、塗布時の気温での溶媒の蒸気圧が15mmHg以上300mmHg以下であることを要旨とする。
【0018】
請求項3に記載の発明の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液は、請求項1または請求項2に記載の発明において、金属化合物が、水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶であることを要旨とする。
【0019】
請求項4に記載の発明の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液は、請求項1ないし請求項3の何れかの項に記載の発明において、金属化合物が、亜鉛酸化物またはマグネシウム酸化物またはこれら混合物を主成分とすることを要旨とする。
【0020】
請求項5に記載の発明の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液は、請求項1ないし請求項4の何れかの項に記載の発明において、分散液中の金属化合物含有量が10重量%以上80重量%以下であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明によれば、請求項1に記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を用いることにより、塗料の硬化性を促進することができることに加え、硬化促進剤分散液の塗布の際に、金属化合物が周辺に飛散することを防ぐことができる。また、液状物となっているため塗布量の調整が容易となる。
【0022】
請求項2の発明によれば、請求項2に記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を用いることにより、請求項1の発明の効果に加え、溶媒が適度に揮発するため塗料の硬化性を遅らすことがなく、また、溶媒が瞬時に揮発することがなく硬化促進剤が粉として周辺に飛散することもない。
【0023】
請求項3の発明によれば、請求項3に記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を用いることにより、請求項1または請求項2の発明の効果に加え、溶媒に分散させることができ、また、塗料の成膜・硬化性を促進することができる。
【0024】
請求項4の発明によれば、請求項4に記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を用いることにより、請求項1ないし請求項3の何れかの発明の効果に加え、市場において大量に流通しているため、より好適に使用することができる。
【0025】
請求項5の発明によれば、請求項5に記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液を用いることにより、請求項1ないし請求項4の何れかの発明の効果に加え、硬化促進剤分散液を散布されることによって塗料が十分に成膜・硬化させることができ、また、硬化促進剤分散液における硬化促進剤の分散が安定であるため硬化促進剤の沈降を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液(以下、「本発明の硬化促進剤分散液」という)について詳細に説明する。
【0027】
本発明の硬化促進剤分散液は、金属化合物を溶媒に分散させたものであることを特徴とするものである。前記金属化合物は、水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶であることが好ましい。この硬化促進剤分散液を用いることにより、塗料の硬化性を促進することができることに加え、硬化促進剤分散液の塗布の際に、金属化合物が周辺に飛散することを防ぐことができる。
【0028】
水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶である金属化合物とは、これを用いることにより、溶媒に分散させることができ、また、塗料の成膜・硬化性を促進することができるものである。
【0029】
水に不溶とは、金属化合物が、故意に他の物質を溶解させた水溶液ではない水に不溶であることをいう。水は、他の物質が溶けていることによって溶解力が増す性質を有している。したがって、故意に他の物質を溶解させた水溶液ではない水にまで不溶であることを要するものではない。なお、水は非常に物質を溶かしやすい液体であるため、1×10−3(g/100g・HO)以下の溶解は、本発明では水に不溶であるとする。アルカリ水溶液に可溶であるとは、金属化合物が、故意に他の物質を溶かすことによってアルカリ性に調整された水溶液に可溶であることをいう。詳しくは、アルカリ水溶液の水素イオン濃度(以下、pHとする。)が8以上で可溶であるものが好ましい。
【0030】
本発明に用いられる塗料は、硬化促進剤である金属化合物が散布されることによって成膜・硬化する合成樹脂エマルションを結合材として含有する水性路面標示塗料である。この水性路面標示塗料は、揮発性塩基を含有することにより塗料のpHが10以上12以下の範囲に調整されていることが好ましい。
【0031】
金属化合物が散布されることによって成膜・硬化する合成樹脂エマルションとは、金属酸化物が溶けることによって生じる金属イオンによって合成樹脂エマルションが成膜・硬化する合成樹脂エマルションである。具体的には、陰イオンによって安定化された乳化重合体を含有する合成樹脂エマルションであり、陰イオンとしては、陰イオン性界面活性剤、陰イオン性官能基又はアニオン性官能基などが好適に使用されたものである。この合成樹脂エマルションを用いた水性路面標示塗料に、金属化合物が散布されることによって、塗料の成膜・硬化性を促進することができる。この塗料に金属化合物を散布することによって、金属化合物が塗料に溶け、金属化合物の金属が陽イオンとなって、陰イオンによって安定化された乳化重合体を含有する合成樹脂エマルションが不安定になり、成膜・硬化すると考えられるからである。
【0032】
本発明の硬化促進剤としての金属化合物として、金属酸化物または金属水酸化物が挙げられ、これらの中には水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶である性質を有するものが多く、塗料の成膜・硬化性を促進することができる。
【0033】
本発明の硬化促進剤としての金属酸化物として、亜鉛酸化物、カドミウム酸化物、マグネシウム酸化物、ベリリウム酸化物が挙げられ、具体的には、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウムを使用することができる。また、金属水酸化物として、水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化銅を使用することができる。これらは1種類単独でも2種類以上を混合しても本発明の硬化促進剤として使用することができる。これらは、水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶である性質を有し、水に不溶であるため、水などの溶媒に金属化合物を容易に分散させることができる。なお、水に不溶であることは、水よりも極性の小さい有機溶媒にも不溶であることを示している。これら金属化合物の中でも、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化亜鉛および水酸化マグネシウムが市場において一般に流通しており価格が安価であるため、本発明の硬化促進剤として好適に使用することができ、特に酸化亜鉛および酸化マグネシウムは、市場において大量に流通しているため、より好適に使用することができる。
【0034】
金属化合物の平均粒子径は、0.2〜200μmであることが好ましい。好適に硬化促進剤を溶媒に分散させることができ、塗料が成膜・硬化してなる塗膜の仕上がりも良いためである。この粒子径が0.2μm未満だと本発明の硬化促進剤として溶媒に分散させた場合に、硬化促進剤が凝集を起こす恐れがある。一方、200μm超だと塗料に散布した際に硬化促進剤が粒子として残り、塗膜の仕上がりが良くならない恐れがある。より好ましくは、平均粒子径が0.5〜10μmにある硬化促進剤である。上記の利点に加え、入手が容易となるからである。
【0035】
本発明における溶媒とは、金属化合物を分散させる液体をいい、水または有機溶媒を問わないが、金属化合物を溶かすことなく分散させるために、水または水よりも極性の小さい有機溶媒が好ましい。また、金属化合物を水性路面標示塗料に溶解させるため、溶媒は水性塗料に溶けるものであるものが好ましい。有機溶媒であっても水に分散することができる極性を有する有機溶媒であれば、本発明における溶媒として使用することができる。本発明における溶媒の例としては、水、有機溶媒として、低級アルコール、低級ケトン、低級カルボン酸およびこれら混合物およびこれら混合物と水との混合物が挙げられる。
【0036】
本発明に使用される溶媒は、塗布時の気温でのその蒸気圧が15〜300mmHgである溶媒が好ましい。
【0037】
この蒸気圧の溶媒を用いることにより、溶媒が適度に揮発するため水性路面標示塗料の硬化性を遅らすことがなく、また、溶媒が瞬時に揮発することがなく硬化促進剤が粉として周辺に飛散することもない。15mmHg以下だと、硬化促進剤分散液塗布の際に塗料に溶けた溶媒の揮発に時間を要し、塗料の成膜・硬化性を促進することにはならない恐れがある。
【0038】
一方、300mmHg以上だと、硬化促進剤分散液塗布の際に塗料に硬化促進剤分散液が溶ける前に溶媒が揮発し、硬化促進剤である金属化合物が周辺に飛散する恐れがある。より好ましくは、その蒸気圧が20〜200mmHgである溶媒である。この範囲の蒸気圧に入る溶媒を用いたときには、水だけを溶媒とするときに比べ、その揮発性が大きく、塗料表面の乾燥をより短時間とすることができる。
【0039】
本発明に使用される溶媒の具体例として、水(17.5mmHg、20℃)、メタノール(97.5mmHg、20℃)、アセトン(184.5mmHg、20℃)、エタノール(43.9mmHg、20℃)などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。なお、蒸気圧の値は、東京理科大学大江修造氏の「重要物質の蒸気圧計算プログラム」を用いて計算したものである。また、20℃以外において、通常使用される温度の蒸気圧を下記表1に示した。
【0040】
【表1】

【0041】
なお、溶媒が2成分以上の混合物である場合の蒸気圧は、近似的にラウールの法則に従い求めることができる。
【0042】
【数1】


式1において、Piは個々の液体の蒸気圧の分圧、Piは成分iの純液体での蒸気圧、χiはそのモル分率であり、混合物である場合の蒸気圧は、各成分の蒸気圧の和である全蒸気圧PTotalとなる。
【0043】
また、溶媒は、温度によってその蒸気圧が変化するものであるため、温度によって溶媒を使い分けることが好ましい。表1に具体例で挙げた溶媒の蒸気圧を記載するが、温度の高い夏場では水やエタノールが好適に使用でき、一方、温度の低い冬場では、メタノールやアセトンが好適に使用することができる。また、加熱等することで硬化促進剤分散液の温度を一定に保つことによって、蒸気圧を一定に保つこともできる。
【0044】
分散とは、硬化促進剤である金属化合物が、水または有機溶媒からなる溶媒の中に、微粒子状になって一様に散在している状態をいう。なお、本発明においては、金属化合物の一部が溶解していても水性路面標示塗料が成膜・硬化する限りにおいては問題となるものではない。
【0045】
本発明の硬化促進剤分散液は、金属化合物を溶媒に分散させたものであり、硬化促進剤の分散割合としては、10〜80重量%程度が好ましい。硬化促進剤分散液を散布されることによって水性路面標示塗料が十分に成膜・硬化させることができ、また、硬化促進剤分散液における硬化促進剤の分散が安定であるため硬化促進剤の沈降を防ぐことができる。10%未満だと硬化促進剤分散液が散布された水性路面標示塗料が十分に成膜・硬化しない恐れがあり、一方、80重量%超だと、硬化促進剤分散液における硬化促進剤の分散が不安定になり硬化促進剤の沈降が生じる恐れがある。より好ましくは、15〜60重量%である。
【0046】
硬化促進剤分散液には、分散液の安定性や作業性を向上させるために、分散剤、湿潤剤、消泡剤、凍結防止剤、増粘剤などを必要に応じて加えることができる。また、適宜、充填剤、着色顔料、を添加することもできる。
【0047】
分散剤としては、カルボン酸系やスルホン酸系のアンモニウム塩系やナトリウム塩系などを使用することができる。湿潤剤は、アニオン系、ノニオン系をなどを使用することができる。消泡剤としては、シリコーン系、ポリエーテル系、脂肪酸エステル系、ワックス系、金属石鹸系などを使用することができる。凍結防止剤としては、アルコール類、グリコール類などを適宜使用することができる。増粘剤は、沈降防止の効果もあり、メチルセルロース系、ヒドロキシエチルセルロース系、ウレタン系などが好適に使用することができる。
【0048】
本発明に用いられる塗料は、本発明の硬化促進剤が散布されることによって成膜・硬化する合成樹脂エマルションに、充填材として炭酸カルシウム、着色顔料として二酸化チタンなどを混合させた塗料である。本発明に用いられる塗料には塗料物性及び作業性などを向上させるために、分散剤、湿潤剤、消泡剤、凍結防止剤、増粘剤及び成膜助剤を必要に応じて加えることができる。なお、本発明に用いられる塗料は、本発明の硬化促進剤が散布されることによって、塗料の成膜・硬化性を促進することができるものであるが、本発明の硬化促進剤が散布されない場合であっても、塗料の成膜・硬化性が促進されないだけであって塗料が成膜・硬化することに変わりはない。
【0049】
また、本発明に用いられる塗料は、揮発性塩基を含有することにより塗料のpHが10以上12以下の範囲に調整されたものである。塗料のpHが10以上12以下の範囲にあることによって、塗料物性が劣ることなく、塗料に本発明の硬化促進剤を容易に溶かすことができる。なお、pHが10未満では、本発明の硬化促進剤が十分に溶けない恐れがあり、一方、pHが12を越える値では、添加される揮発性塩基の量が多くなり、水性路面標示塗料として粘度、固形分といった塗料物性が劣る恐れがある。
【0050】
揮発性塩基とは、塗料の成膜・硬化の際に揮発する塩基をいう。揮発性塩基を用いることによって、成膜した塗料に塩基が残ることがないため、塗料が成膜・硬化した塗膜の耐水性・耐アルカリ性といった塗膜物性が良好なものとなる。一方、塗料の成膜・硬化の際に揮発しない塩基を用いた場合には、塗料が成膜・硬化した塗膜に塩基が残るため、耐水性、耐アルカリ性といった、塗膜物性が満たされない恐れがある。好ましい揮発性塩基は、入手が容易なアンモニア水で、沸点は約40℃(25%)である。その他、低級アルキルアミン、エチレンジアミンなど、またはこれらの混合物も好適に使用することができる。
【0051】
本発明の硬化促進剤分散液は、水性路面標示塗料の塗布と同時に同じ路面の箇所に噴霧あるいは塗布するものである。これにより、本発明に用いられる塗料と本発明の硬化促進剤分散液に含まれる硬化促進剤成分を好適に反応させることができ、塗料の成膜・硬化を促進することができる。なお、本発明の塗布方法は、これに限定されることなく、例えば、本発明の硬化促進剤分散液を、本発明に用いられる水性路面標示塗料の塗布に際し予め散布する方法であっても、路面に塗布された本発明に用いられる水性路面標示塗料上に後から散布する方法であっても、水性路面標示塗料に本発明の硬化促進剤を好適に反応させることができる限り、同じように塗料の成膜・硬化性を促進することができる。
【0052】
水性路面標示塗料の塗布には、エアースプレー、圧送スプレーなどを用いて行うことができ、本発明の硬化促進剤分散液も液体であるため同様にエアースプレー、圧送スプレーなどを用いて容易に塗布を行うことができる。
【0053】
本発明の硬化促進剤分散液の水性路面標示塗料への散布量は、硬化促進剤である金属化合物が塗料に対し0.5〜5重量%程度であることが好ましい。塗料を好適に成膜・硬化させることができ、また、塗料が成膜・硬化した塗膜の物性が満たされたものとなるからである。0.5重量%未満だと塗布された塗料を十分に成膜・硬化することができない恐れがあり、一方、5重量%以上だと塗料が成膜・硬化した塗膜の視感反射率が劣るといった、塗膜の物性が満たされない虞がある。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例及び比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【0055】
表2において実施例及び比較例の塗料配合を示し、表3に硬化促進剤分散液の配合と下記試験方法による試験結果を記載している。なお、塗料の結合材としての合成樹脂エマルションには、ローム・アンド・ハース社製の「Fastrack53」を使用した。この合成樹脂エマルションは、本発明の硬化促進剤によって成膜・硬化する合成樹脂エマルションである。
【0056】
塗膜の乾燥時間は、JIS K 5665(路面標示用塗料)のタイヤ付着性に準拠し、塗料の塗布後1分毎にタイヤ付着性を測定し、タイヤに塗膜が付着しなくなる時間を測定した。なお、硬化促進剤分散液は塗料と共にエアースプレーで塗布した。
【0057】
硬化促進剤の飛散は、硬化促進剤分散液をエアースプレーで塗布した際に、溶媒が揮発することによって硬化促進剤が粉として周辺に飛散しているか否かを目視によって判断した。
【0058】
以下に、実施例及び比較例の試験結果を記載するが、比較例については、上記の試験項目のうち効果が認められない又は試験として不合格の項目のみ記載する。
なお、JIS K 5665(路面標示用塗料)2種に規定されている試験項目の内、上記に示した試験項目以外は、実施例及び比較例の全てにおいて、不合格となるような満たされない結果は確認できなかった。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
実施例1から実施例4
溶媒として実施例1及び実施例3では水を、実施例2及び実施例4ではメタノールを使用した。硬化促進剤として実施例1及び実施例2では酸化亜鉛を、実施例3及び実施例4では酸化マグネシウムを使用した。分散液の温度は、実施例1及び実施例3では夏場を想定した35℃の環境下で行い、実施例2及び実施例4では冬場を想定した5℃の環境下で行った。
(乾燥時間)
5ないし6分で塗料が乾燥し、著しい乾燥促進効果が見られた。
(硬化促進剤の飛散)
硬化促進剤が粉として周辺に飛散することはなかった。
【0062】
比較例1
硬化促進剤は使用しなかった。また、冬場を想定した5℃の環境下で行った。
(乾燥時間)
硬化促進剤を使用しないと、乾燥に15分を要し乾燥が促進されることはない。
【0063】
比較例2
硬化促進剤として炭酸カルシウムを使用した。また、冬場を想定した5℃の環境下で行った。
(乾燥時間)
炭酸カルシウムは、水性路面標示塗料に溶けることはなく、乾燥が促進されることはない。
【0064】
比較例3
硬化促進剤として酸化亜鉛を使用し、硬化促進剤分散液中に9%含有するものを用いた。また、冬場を想定した5℃の環境下で行った。
(乾燥時間)
乾燥時間に20分を要した。塗料に揮発分たるメタノールが多く混合し、十分に成膜・硬化しなかったためと考えられる。
【0065】
比較例4
硬化促進剤として酸化亜鉛を使用した。硬化促進剤分散液中に91%含有するものを用いた。また、冬場を想定した5℃の環境下で行った。
(試験結果)
硬化促進剤分散液における硬化促進剤の分散が不安定になり、硬化促進剤の沈降をおこし、エアースプレーで塗布することができなかった。
【0066】
比較例5
溶媒として水を、硬化促進剤として酸化亜鉛を使用した。分散液の温度は、冬場を想定した5℃の環境下で行った。
(乾燥時間)
乾燥時間に25分を要した。水の5℃の蒸気圧が6.5mmHgであるため、塗料に混合することによって、成膜・硬化が遅れたものと考えられる。
【0067】
比較例6
溶媒としてメタノールを、硬化促進剤として酸化亜鉛を使用した。分散液の温度は、50℃の環境下で行った。
(硬化促進剤の飛散)
メタノールが瞬時に揮発したため、硬化促進剤が粉として周辺に飛散した。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性路面標示塗料用硬化促進剤である金属化合物を溶媒に分散させたものであることを特徴とする水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液。
【請求項2】
塗布時の気温での溶媒の蒸気圧が15mmHg以上300mmHg以下であることを特徴とする請求項1記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液。
【請求項3】
金属化合物が、水に不溶でありアルカリ水溶液に可溶であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液。
【請求項4】
金属化合物が、亜鉛酸化物またはマグネシウム酸化物またはこれら混合物を主成分とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液。
【請求項5】
分散液中の金属化合物含有量が10重量%以上80重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の水性路面標示塗料用硬化促進剤分散液。



【公開番号】特開2009−149817(P2009−149817A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330737(P2007−330737)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】