説明

水棲生物養殖装置および水耕栽培装置

【課題】水棲生物の生理活性機能を高め、繁殖力を旺盛にし、また高密度で飼育することができる、水棲生物養殖装置、水棲生物養殖方法および水棲生物養殖用水、並びに、根腐れなどを防止し、花や実などの生育に優れる水耕栽培装置、水耕栽培方法および水耕栽培用培養液を提供する。
【解決手段】養殖用水を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを養殖用水に散気する手段とを備える魚介類養殖装置を用いて、養殖用水に水素酸素混成ガスを散気させながら、海水魚、淡水魚、貝類、甲殻類などの水棲生物を養殖する。また、培養液を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを培養液に溶解させる手段とを備える水耕栽培装置を用いて、植物体を水耕栽培する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水棲生物養殖装置、水棲生物養殖方法および水棲生物養殖用水、並びに水耕栽培装置、水耕栽培方法および水耕栽培用培養液に関する。さらに詳しくは、本発明は、水棲生物の生理活性機能を高め、成長力および繁殖力を旺盛にし、また高密度で飼育することができる、水棲生物養殖装置、水棲生物養殖方法および水棲生物養殖用水、並びに、根腐れなどを防止し、花や実などの生育に優れる水耕栽培装置、水耕栽培方法および水耕栽培用培養液に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類、甲殻類、海草、海藻、水草、水棲哺乳類などの水棲生物を水槽内で飼育繁殖させるためには水質管理が必要である。特に高価な魚介類、甲殻類は水質環境の変化に敏感である。
従来、水質管理の手段として、水槽内の水をろ過によって浄化する方法が知られている。このろ過手段に活性炭を用いることも行われている。しかし、ろ過による水浄化だけでは満足する効果は得られていない。
【0003】
ろ過以外の水浄化方法として、例えば、特許文献1には、水中に電流を流して魚貝類や甲殻類が排泄するアンモニアを分解する方法が開示されている。
特許文献2には、水槽内の水を汲み上げ、電解室に導き、該電解室で電気分解を行って酸素と水素に分け、分離された酸素を水槽に戻すことによって、生物が排出する糞や尿に含まれるアンモニアを酸化し硝酸や亜硝酸に変化させ、また、酸素の滅菌作用によって、微生物を減少させ、ひいては脱臭作用をなすことが開示されている。
特許文献3には、活性炭が分散する高圧水中で酸素と水素を燃焼させ、該燃焼により活性炭を燃焼させて活性炭超微粒子が分散した水を得、該活性炭超微粒子の分散液を観賞魚又は魚介類の飼育用の水の浄化補助水として活用することが記載されている。しかしながら、この燃焼反応では一酸化炭素が生成するおそれがあり、浄化補助水に一酸化炭素が含まれて生物に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
その他に、オゾンを水槽内に導入して滅菌および脱臭する方法、酸素富化装置から生成される酸素富化空気を水槽中の水に曝気する装置(特許文献4)、一重項酸素(活性酸素)を水に接触させて水を活性化する方法(特許文献5)などが提案されている。
しかしながら、これら酸素またはオゾンによる水浄化方法でも、高密度飼育を行うと、水棲生物の排泄物から生じるアンモニア、亜硝酸、硝酸塩などを分解浄化しきれないので、それらが水槽内に残留して生物に悪影響を及ぼすので水替えを頻繁に(例えば、日に一回の頻度で)行わなければならない。また高密度飼育は水棲生物にストレスを与えるので、喧嘩や虐めが起き、水棲生物が死んでしまうことがある。このように、従来の方法では、水棲生物を健康体に維持し、高密度で飼育し、繁殖させることは手間がかかり容易でなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−150995号公報
【特許文献2】特開平10−165955号公報
【特許文献3】特開2002−66541号公報
【特許文献4】特開2004−305035号公報
【特許文献5】特表2002−531249号公報
【0006】
一方、園芸農作物などの栽培において、植物体を健康に育て、収穫量を多くするためには、土質の管理が必要である。しかしながら、土質管理は、手間や時間が掛かる。近年、土を用いずに、植物体の成長に必要な養分やミネラルを含んだ培養液で、植物体を栽培する方法(一般に、水耕栽培、養液栽培と呼ばれる。以下、本明細書では水耕栽培と記載する。)が注目を集めている。
ところで、養液(肥料)の入った水中に根を生長させる水耕栽培方式では、植物の根が水中に伸びていくことで、根が酸欠を起こして植物体を弱らせることがある。また、水そのものが不衛生になり、腐敗することがある。そこで、水中に酸素(空気)をエアポンプ等で散気して、水に動きを与える方法(特許文献6);培養液を根に噴霧する方法;培養液を緩やかな傾斜を持つ平面上に薄く(少量ずつ)流下させる方法(特許文献7);ロックウール(岩綿)などの土以外の固形培地を用いる方法などが行われている。しかしながら、これら従来の方法でも、温度上昇とともに水生菌の繁殖が旺盛となり、植物体を弱らせることがあった。
【0007】
【特許文献6】特開2007−75054号公報
【特許文献7】特開2007−89489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、水棲生物の生理活性機能を高め、成長力および繁殖力を旺盛にし、また高密度で飼育することができる、水棲生物養殖装置、水棲生物養殖方法および水棲生物養殖用水、並びに、根腐れなどを防止し、花や実などの生育に優れる水耕栽培装置、水耕栽培方法および水耕栽培用培養液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、水棲生物の養殖や陸生植物の水耕栽培において酸素だけを供給した場合に、ラジカル化した酸素(いわゆる活性酸素)が、水棲生物や植物体に悪影響を及ぼし、機能障害や細胞死を引き起こし、加齢を早めるということに気づいた。
そこで、本発明者らは、さらに検討した結果、水素酸素混成ガスを養殖用水に散気し、その水中で水棲生物を養殖することによって、水棲生物の生理活性機能が高まり、繁殖力が旺盛になり、また高密度で飼育しても健康体を維持できることを見出した。
また、本発明者らは、水素酸素混成ガスを培養液に散気し、該培養液に、植物体の根を接触させて、植物体を水耕栽培することによって、植物体の花色が鮮やかになり、また、実の生育に優れていることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討し完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明によって、養殖用水を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを養殖用水に溶解させる手段とを備える、水棲生物用養殖装置、
散気手段を養殖水域に配置し、該散気手段に水素酸素混成ガスを供給して前記養殖水域に前記ガスを散気し、前記養殖水域に生息する水棲生物を養殖する方法、および 水素酸素混成ガスを養殖用水に溶解させてなる水棲生物養殖用水が提供される。
また、本発明によって、培養液を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを培養液に溶解させる手段とを備える水耕栽培装置、
水素酸素混成ガスを培養液に溶解させてなる液に、植物体の根を接触させて、植物体を育成する水耕栽培方法、および 水素酸素混成ガスを培養液に溶解させてなる水耕栽培用培養液が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(水棲生物養殖装置)
本発明の水棲生物養殖装置は、養殖用水を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを養殖用水に溶解させる手段とを備えるものである。なお、本明細書において養殖とは、水棲生物を人工的に育てることをいう。本発明の装置に用いられる養殖用水を貯える手段は、特に制限されず、例えば、水槽、生簀、配管、浄化槽などが挙げられる。
【0012】
本発明に用いられる水素酸素混成ガスとしては、水素と酸素とが混合されたガスと;特開2004−204347号公報、特許第3130014号公報、特開平10−266900号公報などに記載される水の電気分解によって得られる混成ガスと;が挙げられる。
【0013】
水素酸素混成ガスの一態様である、水素と酸素とが混合されたガスは、例えば、水素ガスボンベおよび酸素(または空気)ガスボンベからそれぞれ供給して混合したものであってもよい。水素と酸素とが混合されたガス中の、水素と酸素との割合は、水棲生物の種類、水棲生物を生息させるための手段の形状等によって適宜選択でき、特に制限されないが、通常1モル:99モル〜99モル:1モルが好ましく、5モル:95モル〜95モル:5モルがより好ましく、1.5モル:1モル〜3モル:1モルが特に好ましい。なお、水素酸素混成ガスとして水素と酸素とが混合されたガスを用いる場合には、水素と酸素との混合を、養殖用水に溶解させる前に行ってもよいし、養殖用水に水素ガスと酸素ガスとを別々に供給し養殖用水中で行ってもよい。
【0014】
一方、水素酸素混成ガスの別態様である、水の電気分解によって得られる混成ガス(以下、簡単のために、SHG(スーパーハイブリッドガス)と呼ぶことがある。)は、通常、水素および酸素を2モル:1モルの割合で含むが、養殖用水にSHGを溶解させるときに、水素側または酸素側の供給量を調整して水素と酸素との割合を任意に変えることができる。例えば、SHG中の水素と酸素との割合を1モル:99モル〜99モル:1モルにすることができる。
【0015】
詳細は不明だが、SHGには活性酸素(または発生期の酸素)および活性水素(または発生期の水素)が含まれていると考えられている。また、SHGはそれぞれ電荷を担持した水素と酸素が水分子と直接結合しているとも考えられている。活性酸素(または発生期の酸素)および活性水素(または発生期の水素)は、それぞれ、マイナス(負)電荷およびプラス(正)電荷を有している。この活性酸素が養殖用水中の成分の酸化に、活性水素が養殖用水中の成分の還元に寄与し、この酸化と還元のバランスによって、養殖用水を浄化、滅菌、活性化させているものと推測される。したがって、本発明においては、水素酸素混成ガスのうちSHGを用いる方が好ましい。
【0016】
SHGは、特開2004−204347号公報、特許第3130014号公報、特開平10−266900号公報などに記載の方法または装置によって得ることができる。例えば、上下が密閉されたほぼ円筒状の電気分解槽に、水酸化カリウムなどの導電性物質を溶解した水を入れ、該槽内に一定間隔で交互に配置された円筒状を成す複数枚の陽極および陰極に電気を流し、水を電気分解する。酸素発生側の陽極と水素発生側の陰極との間には仕切りがなく、電気分解で発生した直後の酸素及び水素がすぐに混合するようにして、SHGを得ることができる。またSHG発生装置は市販されており、例えば、ブラウンガス発生機(B.E.S.T. KOREA社製)、E&Eガス発生装置(ベストワールド社製)などがある。
【0017】
次に、上記方法によって得られた水素酸素混成ガスを養殖用水に溶解させる。養殖用水は、水棲生物の種類に応じて適宜選択することができ、海水、汽水、淡水などが挙げられる。なお、養殖用水にはミネラル分などが含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0018】
水素酸素混成ガスの溶解方法は特に限定されない。例えば、多数個の微細な通気孔が穿孔された散気管(ディフューザー)を、水槽の中や生簀の中などの養殖水域または取替用養殖用水のストックタンク中に配置し、該管を通して水素酸素混成ガスを供給し、通気孔から微細な気泡として養殖用水に散気する方法;養殖用水を循環させるポンプ等を利用して水素酸素混成ガスを巻き込む方法が挙げられる。
なお、散気管は通気孔が穿孔されたものであれば特に制限されないが、微細な気泡を散気できるという観点から、通気孔の形成された円筒状の通気管と、この通気管の外周面に沿ってセラミックなどの粒子を集積形成させた多孔体とから構成されるものが好ましい。
【0019】
水素酸素混成ガスの供給量は、水棲生物の種類、水棲生物を生息させるための手段の形状等によって適宜選択でき、特に制限されないが、養殖用水1m3あたり、1時間に、好ましくは平均0.1〜1000リットル、より好ましくは10〜500リットル、特に好ましくは平均50〜500リットルである。供給は連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。例えば、1m3の養殖用水に、1時間掛けて300リットル供給し、次いで1時間ガスの供給を止め、再び1時間掛けて300リットル供給するという繰り返しで間欠的に供給してもよい。
【0020】
水素酸素混成ガスを輸送する手段は、特に限定されない。水素ガス単独で輸送する場合、水素脆性が発生して配管や接続部などの金属部分が脆くなる。酸素ガス単独で輸送する場合は、配管や接続部を酸化し、強度低下若しくは脆さを生じさせる。また水素と酸素の混合ガスを輸送する場合には、それぞれのガスによる上記のような作用が配管や接続部に及び、通常のガス管では長時間の使用に耐えられないことがある。また、水素と酸素の混合ガスは、その混合条件によって、外部からの電磁誘導や静電誘導を引き金とした爆発的な反応を起こすことがあった。
【0021】
一方、水の電気分解によって得られる混成ガス(SHG)は非常に安定性が高く、通常のガス管を用いて輸送しても、水素ガス単独、酸素ガス単独、若しくは水素と酸素の混合ガスを輸送する場合に生じるような、配管や接続部への作用が起きないので、通常のガス管の使用で良い。また、SHGは外部からの電磁誘導や静電誘導を引き金とした爆発的な反応が起きにくい。その理由は、SHGが水素分子または酸素分子が水分子に直接結合した構造をしたガスであるからである。混成ガス(SHG)中の水分子は、その水素結合の大なる為に、気化潜熱が大きく、自ずから爆発的反応を抑制していると考えられる。この様に水素酸素混成ガス(SHG)を通常の金属、可塑性材料のパイプ等で当該装置に輸送できることも、本発明の特長である。
【0022】
本発明の水棲生物養殖装置には、ろ過装置、水温計および水温調節器、pH測定器、照明装置、ポンプ、配管などの水棲生物を飼育するために従来から使われている器具および装置がさらに含まれていてもよい。
【0023】
本発明の水棲生物養殖装置および養殖方法並びに水棲生物養殖用水を適用可能な水棲生物は特に制限されない。例えば、マグロ、サケ、タラ、ヒラメ、カレイ、タイ、カツオ、ウナギ、フグ、マスなどの食用魚類;イセエビ、クルマエビ、タラバガニ、タカアシガニ、ズワイガニなどの甲殻類;イカ、タコ;アワビ、サザエ、シジミ、ハマグリ、アサリなどの貝類;エンゼルフィッシュ、ネオンテトラ、鯉、金魚などの観賞用魚類;ディスカス、アロワナ、コリドラスなどの熱帯魚;イルカ、オルカ、トド、アシカ、ラッコなどの水棲哺乳類;マツモ、パールグラス、キクモ、セリ、クロモ、スターレンジなどの水草;ワカメ、コンブ、アサオ、ヒジキ、スギノリ、モズクなどの海藻;アマモ、スガモなどの海草などが挙げられる。
【0024】
(水耕栽培装置)
本発明の水耕栽培装置は、培養液を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを培養液に溶解させる手段とを備えるものである。
本発明に用いられる培養液は、従来の水耕栽培に用いられる培養液の中から、栽培される植物体に応じて適宜選択すればよい。培養液には、原料水と、必要に応じて植物体の栄養素になる有機肥料や無機肥料などが含まれている。さらに、培養液には、殺菌剤、殺虫剤、発根剤などが必要に応じて含まれていてもよい。培養液に用いる原料水は、植物体の生育を害しないものであれば、特に制限されない。なお、本発明においては、培養液中の原料水以外の成分は、水素酸素混成ガスを溶解させた後に、添加してもよい。
【0025】
本発明に用いられる培養液を貯える手段は、水耕栽培の形態に応じて適宜選択できる。例えば、湛液型水耕では、栽培ベッド自身が培養液を貯える手段として用いられる。薄膜水耕では、傾斜面に供給するための培養液を貯留しているタンク等を用いることができる。
【0026】
水素酸素混成ガスを製造する手段、および水素酸素混成ガスを培養液に溶解させる手段は、養殖用水が培養液に換わった以外は前記水棲生物養殖装置において説明したものと同様のものである。水素酸素混成ガスの供給量は、植物体の種類、培養液を貯える手段の形状等によって適宜選択でき、特に制限されないが、培養液1m3あたり、1時間に、好ましくは平均0.1〜1000リットル、より好ましくは平均10〜500リットル、特に好ましくは平均50〜500リットルである。供給は連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。例えば、15分間供給して45分間供給を停止するという繰り替えしで間欠的に供給してもよいし、昼間の時間だけ供給し夜間は供給を停止するという供給方法でもよい。なお、水素酸素混成ガスとして水素と酸素とが混合されたガスを用いる場合には、水素と酸素との混合を、培養液に溶解させる前に行ってもよいし、培養液に水素ガスと酸素ガスとを別々に供給し培養液中で行ってもよい。
【0027】
本発明の水耕栽培装置では、植物体の種類に応じて、土以外の固形培地を備えていてもよい。固形培地としては、ロックウール;バーミキュライトなどの礫、砂などが挙げられる。さらに、本発明の水耕栽培装置には、照明装置、水温計および水温調節器、pH測定器、寒暖計、湿度計、ポンプ、配管、防霜ファン、温室、ろ過装置などの水耕栽培に従来から用いられている器具または装置を設けることができる。
【0028】
本発明の水耕栽培装置および方法並びに水耕栽培用培養液を適用可能な植物体は、特に限定されない。例えば、唐辛子、パプリカ、メロン、ゴーヤー、スイカ、カボチャ、ブルーベリー、イチゴ、ナス、トマト、ブドウなどの果菜類;レタス、ルバーブ、水菜、ハーブ、大根菜、わさび菜、べんり菜、青梗菜、パクチョイ、キャベツ、アブラナ、春菊、空芯菜、小松菜、白菜、セルタス、ターサイ、ミツバ、野沢菜、ほうれん草、ネギなどの葉菜類;ブロッコリー、カリフラワー、フキノトウなどの花菜類;モヤシ、豆類;バラなどの花卉類;稲、麦などの穀類;レンコンなどの根菜類;ヒヤシンス、クロカッス、チューリップなどの球根類が挙げられる。
【0029】
本発明の水耕栽培方法では、前記植物体の根を、水素酸素混成ガスを培養液に溶解してなる液に接触させて、植物体を育成する。液を根に接触させる方法としては、例えば、根を液に浸漬する方法;根に液を噴霧する方法;固体培地表面や傾斜面に根を張らせ、そこに液を流す方法;ロックウール(岩綿)などの固形培地の毛細管現象を利用して液を根回りに供給する方法などがある。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1
ろ過装置付き水槽(1200mm×600mm×600mm)の底に散気管を配置し、散気管の一方の端を通気管でSHG発生装置に繋いだ。水槽に約0.4m3の水を入れ、水温を26〜30℃の範囲に制御した。水の電気分解槽からなるSHG発生装置で水素酸素混成ガスを製造し、そのガスを1時間掛けて120リットル供給と1時間供給停止とを繰り替えして間欠的に供給し、水中に散気させた。そして、この水槽に生後10ヶ月のエンゼルフィッシュ2尾(オス1尾、メス1尾)を入れ飼育を開始した。えさとして冷凍赤虫を与えた。
【0032】
約3年間の飼育の結果、約2週間に1回の頻度で産卵し、産卵したうちの約5割が孵化した。エンジェルフィッシュは成魚になるのに一般に生後10〜12ヶ月要すると言われているが、本実施例では第一世代(初代)の親魚からはじまって第7世代までの繁殖ができた。すなわち、飼育期間と世代数に基づく単純計算で、孵化から成魚になるまでの期間が平均6ヶ月であったことになる。
本実施例で用いた生後約4年になる初代親魚は未だに繁殖力が衰えず、未だに産卵を続けている。
【0033】
一般的に、エンゼルフィッシュを高密度で飼育すると、ストレスによる喧嘩や虐めが起きて、ほとんどが死んでしまう。しかし、本実施例では、旺盛な繁殖力によって水槽内がエンジェルフィッシュで過密状態になったが、ほとんどのエンジェルフィッシュが健康体を維持できた。
【0034】
本発明によれば、卵に与えるストレスが大幅に減り、孵化率が従来法に比べ、大幅に高くなった。さらに、本発明によれば、卵を容易に孵化でき、稚魚の育成が誰でも容易にできるようになる。
【0035】
実施例2
海洋生物の海老および烏賊のそれぞれを、海水で実施例1と同様に水素酸素混成ガスを散気して養殖を行った。空気を散気しただけの方法で養殖したものにくらべ、本発明の方法で養殖したものは、生育が良く、活きがよく、身が引き締まっていた。
【0036】
水棲生物の排泄物等による水質の劣化は水棲生物の種に関わらず同じように起きる。水質劣化は、水棲生物に程度の差はあるとしても同じような悪影響をもたらすので、実施例1および2で行った水棲生物以外の水棲生物に本発明を適用した場合でも、本実施例のように養殖用水の水質が改善され、同様の効果がもたらされると考えられる。
【0037】
実施例3
プラスチック製の本体容器とカゴ鉢を設置するための穴が3つあいた蓋(植付台)とからなる栽培タンクに、カゴ鉢を3個設置し、該カゴ鉢にヒヤシンスの球根各1球ずつを置いた。
球根の底部すれすれに接するくらいに培養液(原料水と肥料)を栽培タンクに入れた。発根するまでは暗所に置いた。根が伸びてきたら、根の半分が浸る程度の水位に培養液の量を調節し、蛍光灯の明かりだけで栽培した。培養液に用いた原料水は、SHG発生装置で製造した水素酸素混成ガスを散気管を通して水道水に散気させて得たものである。
比較のために、培養液用の原料水として水道水をそのまま用いたもの、および井戸水をそのまま用いたもので、水耕栽培を、同時に同じ気候環境下で行った。なお、培養液は、それぞれ同時に、定期的に交換した。
【0038】
約3ヶ月経過後、3つの栽培方法によってヒヤシンスはほぼ同時期に開花した。水道水と井戸水で栽培したヒヤシンスの花は薄紫色(藤色)をしていた。一方、本発明の方法で栽培したヒヤシンスは、花が濃い紫色をしていた。本発明の方法によってヒヤシンスの生理機能が活性化され、花色が濃く鮮やかになることがわかった。また、本発明の方法によって栽培されたヒヤシンスは、水道水や井戸水で栽培したヒヤシンスに比べ、開花から花が萎れるまでの期間が、2倍程度、長かった。
【0039】
実施例4
実施例3と同様に、プラスチック製の本体容器とカゴ鉢を設置するための穴が3つあいた蓋(植付台)とからなる栽培タンクに、カゴ鉢を3個設置し、該カゴ鉢にヒヤシンスの球根各1球を置いた。
球根の底部すれすれに接するくらいに培養液(水道水と肥料)を栽培タンクに入れた。発根するまでは暗所に置いた。根が伸びてきたら、根の半分が浸る程度の水位に培養液の量を調節し、蛍光灯の明かりだけで栽培した。この間、培養液に、SHG発生装置で製造した水素酸素混成ガスを散気管を通して間欠的に散気させ続けた。培養液の腐敗、根腐れは生じなかった。実施例3と同様に、鮮やかな濃い紫色の花が咲いた。
【0040】
培養液の腐敗による植物体の酸欠や根腐れは、程度の差はあるが植物体の種に関わらず同じように起き、同様の悪影響を植物体に及ぼす。したがって、実施例3および4で行った植物体以外の植物体に本発明を適用した場合でも、本実施例のように培養液の水質が改善され、同様の効果がもたらされると考えられる。
【0041】
本発明の水棲生物養殖装置を用いて育てた水棲生物は、病気に罹りにくく、繁殖力が旺盛である。本発明の水棲生物養殖方法によれば、高密度で水棲生物を飼育しても、健康体を維持できる。本発明の水棲生物養殖用水を用いると、水替えの頻度を少なくできるので、水棲生物に与えるストレスが減り、孵化率などを高くすることができる。
本発明の水耕栽培装置若しくは水耕栽培用培養液を用いて栽培した植物は、根腐れなどを起こさず、花や実などの生育に優れている。また、花の寿命を長くできる。
【0042】
本発明の水棲生物養殖方法および水耕栽培方法によって、このような優れた効果を奏する理由は定かではないが、次のような作用機序が推定される。酸素呼吸をする生物にはミトコンドリアが存在する。このミトコンドリアは、呼吸によって取り入れた酸素をエネルギーに変換する細胞内小器官である。酸素をエネルギーに変換する際には水素が必要で、酸素と水素との反応にはATP合成酵素による電子伝達が関与しているといわれている。従来のように酸素(空気)だけを供給した場合には酸素に直接電子が伝達され、その結果活性酸素が発生してしまう。この活性酸素は細胞やDNAを破壊してしまうといわれている。本発明のように酸素と水素とを供給すると、酸素への電子伝達が水素を介することになるので、反応が穏和となる。また、最近の研究(Ohta etal. "Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals" Nature medicine 2007.5.7発行、URL:http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/abs/nm1577.html)によれば、水素はラット中の酸素ラジカルを減らし、治療的抗酸化作用を示すことが判ってきている。このような作用機序によって水棲生物や陸生植物の老化(活力低下)が防止され、本発明の効果が発現するものと推定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖用水を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを養殖用水に溶解させる手段とを備える、水棲生物用養殖装置。
【請求項2】
散気手段を養殖水域に配置し、該散気手段に水素酸素混成ガスを供給して前記養殖水域に前記ガスを散気し、前記養殖水域に生息する水棲生物を養殖する方法。
【請求項3】
水素酸素混成ガスを養殖用水に溶解させてなる水棲生物養殖用水。
【請求項4】
培養液を貯える手段と、水素酸素混成ガスを製造する手段と、該ガスを培養液に溶解させる手段とを備える、水耕栽培装置。
【請求項5】
水素酸素混成ガスを培養液に溶解させてなる液に、植物体の根を接触させて、植物体を育成する水耕栽培方法。
【請求項6】
水素酸素混成ガスを培養液に溶解させてなる水耕栽培用培養液。

【公開番号】特開2009−22211(P2009−22211A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188667(P2007−188667)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(507243463)
【出願人】(507243094)
【Fターム(参考)】