説明

水洗便器の固定構造

【課題】 スカート部を備えた水洗便器を床面に固定する場合に螺子等の固定部材が便器本体の外側面に露出せず外観上見栄えがよく、水洗便器の取り替え、排水ソケットのメンテナンス等による床面からの取り外し作業が容易に行なうことができる水洗便器の固定構造を提供すること。
【解決手段】 排出口を排水ソケット内に差し込んで水密状態を保持して前後左右方向に移動可能でスカート部を備えた水洗便器を床面に固定する固定構造であって、スカート部の内側の床面に配置して固定する固定片とこの固定片から略水平方向に突出した固定ピンとを有する固定部材と、スカート部の内側に一体成形で構成した内壁部に固定ピンが差し込まれる固定ピン差込部とを備え、固定部材を床面の所定位置に固定し、排出口を排水ソケット内に差し込んで水洗便器を床面に載置した後便器の後方側に移動させることにより固定ピンを固定ピン差込部に進入させて係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカート部を備えた水洗便器の床面への固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スカート部を備えた水洗便器の床面に固定する固定構造として、水洗便器の前方側の1ヶ所と後方側の2ヶ所で床面に固定している。そして前方側の1ヶ所はスカート部内側で床面に固定した固定片に対して、スカート部に設けた貫通穴に外側から螺子を貫通して固定片に螺子込んで固定している。(例えば、特許文献1参照)
【0003】
また、スカート部の内側に固定部を差し込む穴を設けて、床に固定した固定板の一端を差し込んで固定する構造がある。(例えば、特許文献2参照)
【0004】
上記特許文献2の固定構造について、図12、図13に基づいて説明する。図12は便器構成を一部破断して示す説明図であり、図13は図12に示す便器を床面に施工する様子を示した図である。図12に示すように、便座32と洗浄水用のロータンク33を備えた便器31の便器排水管34を排水管35に挿入した状態で、前方部を略L字型金具36によって、また後方の固定部46を木ネジ37によって床面38に固定する。略L字型金具36は、図13に示したように、床面当接面39と上方ハネ上げ片40とからなっており、床面当接面39には、これを床面38に木ネジで固定するためのネジ穴41が設けられている。
【0005】
略L字型金具36を用いて便器31を取付け固定するには、まず便器31を床面38に据え付ける前に、排水管35を床面38よりも高い位置で切断し、この切断部にゴムジョイント42を配設する。次に、略L字型金具36を木ネジ43によって床面38に固定する。この時、略L字型金具36の固定位置は、その上方ハネ上げ片40が、図12に示した便器31の前方内壁面44のスリット45に挿入されるように位置取りする。
【0006】
このようにして略L字型金具36を固定した後に、略L字型金具36の上方ハネ上げ片40が便器31の前方内壁面44のスリット45に挿入され、かつ便器排水管34の先端が排水管35のゴムジョイント42に嵌合するように便器31を床面38上に据え付ける。この段階で、便器31の前方部は略L字型金具36によって固定された状態となる。便器の後方部に設けた固定部46から木ネジ37を打ち込み、便器31の後部を床面38に固定する。こうして便器31の取付けは完了する。
【0007】
特許文献1の水洗便器の固定構造においては、従来の水洗便器に比べ、左右、前方部の3点で床面に確実に固定することができるが、前方部に貫通孔が開くことでデザイン上の美観を損なうことや、スカート部を伝って滴下した小便が貫通孔からスカート部の内部に入り込み床染みを作ってしまう問題がある。
【0008】
また、特許文献2の水洗便器の固定構造においては、固定ビス用の穴は不要となるがこの構造では水洗便器と排水管との接続を固定した後では、水洗便器と固定板の接続が難しく、また水洗便器と固定板の接続した後では排水管との固定が出来ず、施工の際には水洗便器と固定板と排水管を同時にセットすることが必要となり、施工時の取り付け余裕が非常に狭くなる恐れがあった。
【0009】
【特許文献1】特開平9−21161
【特許文献2】実開平5−10587
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、スカート部を備えた水洗便器を床面に固定する場合に、固定用の螺子等の固定部材が便器本体の外側面に露出せず外観上見栄えがよく、しかも水洗便器と排水管とを接続した状態で固定部材に固定する作業が容易に行なえる水洗便器の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1記載の本発明は、排出口を排水ソケット内に差し込んで水密状態を保持して前後左右方向に移動可能でスカート部を備えた水洗便器を床面に固定する水洗便器の固定構造であって、前記スカート部の内側の床面に配置して固定する固定片とこの固定片から略水平方向に突出した固定ピンとを有する固定部材と、前記スカート部の内側に内壁部を一体成形で構成しこの内壁部に前記固定ピンが差し込まれる固定ピン差込部とを備え、前記固定部材を床面の所定位置に固定し、前記排出口を前記排水ソケット内に差し込んで前記水洗便器を床面に載置した後便器の後方側に移動させることにより前記固定ピンを前記固定ピン差込部に進入させて係止することを特徴とする。
【0012】
上記のように構成された本発明においては、水洗便器の外周面からの貫通穴を貫通するような螺子および化粧キャップが不要となるため、水洗便器の外観意匠性が向上する。そして、排出口を排水ソケット内に差し込んで水密状態を保持して前後左右方向に移動可能であるため水洗便器を便器後方側にずらした状態で床面に載置し、その後便器前方側に移動させることにより固定ピンを固定ピン差込部の容易に差し込むことができる。また、水洗便器を取り外す場合は水洗便器を便器後方側にずらして固定ピンを固定ピン差込部から引き抜いた状態にして、上方に持ち上げて水洗便器の排出口を排水ソケットから引き抜いて移動させる。
【0013】
また、請求項2記載の本発明は、前記固定部材は前記固定ピンの床面からの高さ位置を調節する高さ位置調節機構を備えていることを特徴とする。
上記のように構成された本発明においては、水洗便器の内側壁に設けた固定ピン差込部の高さ位置が水洗便器の製造過程で多少ずれていた場合でも、高さ位置調節機構により固定ピンの高さ位置を固定ピン差し込み部の高さ位置に合せることができる。
【0014】
また、請求項3記載の本発明は、前記固定ピンにその突出方向と反対方向から力が作用した場合、前記固定ピンの突出長さを縮小させる突出長さ縮小機構を備えていることを特徴とする。
上記のように構成された本発明においては、固定ピンが固定ピン差込部に入り込んで突き当たった後、固定ピンの突出長さを縮小することで更に水洗便器を便器後方側に移動することができる。それにより、例えば水洗便器を後方の壁面に近接して配置することが可能となり、水洗便器の前方空間が広いトイレ空間を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、スカート部を備えた水洗便器の床面に固定する場合に、固定部材が便器本体の外側面に露出せず外観上見栄えがよく、水洗便器の床面への固定作業、床面からの取り外し作業を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明に係る水洗便器の固定構造の実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明に係る第1の実施形態の水洗便器の固定構造を説明する断面図、図2は図1の固定部材と排水ソケットの位置関係を示した図、図3は図1の水洗便器を床面に載置する前の状態図、図4は図1の水洗便器の後方図、図5は図1の水洗便器の上面図である。図6、図7はそれぞれ第1の実施形態の固定部材の側面方向からの中央断面図及び正面方向の中央断面図である。
【0017】
水洗便器Aは陶器製で、図1に示すように排泄物受け面であるボウル部1、ボウル部1の上部開口縁を形成するリム部2、ボウル部1の後方に設けられたタンク部9、ボウル部1の外側に設けられたスカート部10、水洗便器Aの前方側のスカート部10の内側に設けられた内壁部10a、ボウル部1の下部の開口から連設した上昇管路3aと立下管路3bからなるトラップ3を一体的に形成している。そして、内壁部10aには後述する固定ピンと対向した位置に固定ピンが差し込まれる貫通した固定ピン差込孔10bを穿設している。
【0018】
立下管路3bの開口端と接続する排水ソケット5は、胴体部4と、その上に載設した嵌合部品8と、弾性部材で形成したパッキン7とにより構成されている。パッキン7の一端部は嵌合部品8の内側面まで延設し、他端部は胴体部4の上部外側面まで延設して嵌合部品8と胴体部4との間をシールしている。そして、パッキン7は前記一端部と他端部との間にたるみを持たせた形状部、または蛇腹形状部を設けて嵌合部品8が胴体部4の上縁部を前後左右方向に移動できるようにしている。
【0019】
固定部材6は、床面FLに固定するための床固定部14、床固定部14から立設した固定ピン支持部13、固定ピン支持部13から略水平に突出した固定ピン12から構成している。固定ピン支持部13は床固定部14に配設した雌螺子部(図示しない)と螺合する雄螺子部材11に連結しており、固定ピン支持部13を回転させることによって固定ピン12の高さ位置を変更できようにしている。また、床固定部14の左右には貫通孔14a、14aが設けられており、この貫通孔14a、14aを通して床固定ねじ15、15を床にねじ込んで固定している。
【0020】
次に、水洗便器Aを床面に固定する手順について説明する。図2に示すように、まず床面FLに所定の取り合い寸法に従って、排水ソケット5と固定部材6を固定する。この時、排水ソケット5を構成する部品である嵌合部品8は、胴体部4の上縁部の一方、図2では固定部材6側に片寄せ状態にしてパッキン7により片寄せ状態の位置を保持してある。
次に、水洗便器Aの固定ピン差込穴10bの水洗便器Aの下端からの高さを事前に測定し、固定ピン12の高さ位置と固定ピン差込穴10bの位置が合わない場合には、固定ピン12の高さを雄螺子部材11と床固定部14に配設した雌螺子部(図示しない)によって固定ピン12が固定ピン差込穴10bに嵌挿可能な位置に調整する。
【0021】
次に、図3に示すように水洗便器Aを真上から排水ソケット5及び固定部材6を覆い隠すようにして、排水ソケット5のパッキン7に立下管路3bの開口端を差し込んだ後床面FL上に設置させる。この時、固定部材6及び固定ピン12は水洗便器Aのスカート部10の内側に配置した状態となっている。
【0022】
排水ソケット5の胴体部4と嵌合部品8はパッキン7を介して固定されているため前後左右方向にずらすことができ、立下管路3bと接続した状態で水洗便器Aを前方側に移動することができ、これにより、固定ピン12が固定ピン差込穴10bに差し込まれる。その後、水洗便器Aの後方側の左右を固定ねじ16、16により床面FLに固定する。床面FLに対して固定ピン12と後方側の左右2ヶ所で固定できるため、がたつきのない固定ができる。
また、水洗便器Aを取り替える場合でも上記逆の手順を行なうことにより、床面FLから容易に水洗便器Aを取り外すことができる。
【0023】
(第2の実施形態)
次に、固定部材の別の実施形態について説明する。図8、図9はそれぞれ第2の実施形態の固定部材の側面方向からの中央断面図及び正面方向の中央断面図である。固定部材の床固定部及び固定ピン支持部の高さを調整する構造については、第1の実施形態と同様であるので同じ符号を付して説明を省略する。
この実施形態の固定部材66は、固定ピン支持部24の中央部に行き止まり状の固定ピン収容穴29を穿設している。固定ピン収容穴29内に圧縮コイルバネ27を配置し、圧縮コイルバネ27の端部に底板28を連結し、底板28に固定ピン22を固定している。そして、固定ピン22の先端部に押圧力が作用すると底板28と固定ピン22の一部が固定ピン収容穴29内に収容された状態となる。
【0024】
第1の実施形態の場合と同様に、排水ソケット5と固定部材66を図10に示すように所定の取り合いにて床面FLに固定する。水洗便器Aを真上から排水ソケット5及び固定部材6を覆い隠すようにして、排水ソケット5のパッキン7に立下管路3bの開口端を差し込んだ状態で床面FLに載置する。その後、水洗便器Aを前方側に移動することにより、図11に示すように固定ピン22が固定ピン差込穴10bに差し込まれる。この第2の実施形態の構成では固定ピン22が、固定ピン差込穴10bの内側の壁に突き当たっても固定ピン支持部24の固定ピン収容穴29内に押し込まれて固定ピン22の突出長さが縮小してゆくため任意の位置で固定できる。尚、突き当たった状態では圧縮コイルバネ27により固定ピン22は底板28を介して押し戻す力がかかっているため、仮に施工をやり直す場合でも固定ピン22は自動的に初期位置に戻る。
【0025】
この構成により、施工調整範囲を広くとれ、排水管の立ち上げ位置がずれていても楽に施工できるようになる。また、タンク部9を壁面に近接若しくは突き当てるように設置することもでき、タンク部9と壁面29との隙間を小さくすることで、設置時の見栄えを向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の水洗便器の固定構造を説明する断面図
【図2】図1の排水ソケットと固定片の位置関係を示した図
【図3】図1の水洗便器を床面に載置する前の状態図
【図4】図1の水洗便器の後方図
【図5】図1の水洗便器の上面図
【図6】第1の実施形態の固定部材の側面方向からの中央断面図
【図7】第1の実施形態の固定部材の正面方向の中央断面図
【図8】第2の実施形態の側面方向からの中央断面図
【図9】第2の実施形態の固定部材の正面方向の中央断面図
【図10】第2の実施形態の固定片部材と排水ソケットの位置関係を示した図
【図11】第2の実施形態の水洗便器の固定構造を説明する断面図
【図12】特許文献2に記載の便器構成を一部破断して示す説明図
【図13】図12に示す便器を床面に施工する様子を示した図
【符号の説明】
【0027】
A…水洗便器
1…ボウル部
2…リム部
3…トラップ部
3a…上昇管路
3b…立下管路
4…胴体部
5…排水ソケット
6、66…固定部材
7…パッキン
8…嵌合部品
9…タンク部
10…スカート部
10a…内壁部
10b…固定ピン差込穴
11…高さ調整ねじ
12、22…固定ピン
13、24…固定ピン支持部
14…床固定部
15…固定ねじ
16…固定ねじ
27…固定ピン収容穴
28…底板
29…圧縮コイルバネ
31…便器
32…便座
33…ロータンク
34…便器排水管
35…排水管
36…略L字型金具
37、43…木ネジ
38…床面
39…床面当接面
40…上方ハネ上げ片
41…ネジ穴
42…ゴムジョイント
44…前方内壁面
45…スリット
46…固定部












































【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出口を排水ソケット内に差し込んで水密状態を保持して前後左右方向に移動可能でスカート部を備えた水洗便器を床面に固定する水洗便器の固定構造であって、
前記スカート部の内側の床面に配置して固定する固定片とこの固定片から略水平方向に突出した固定ピンとを有する固定部材と、
前記スカート部の内側に内壁部を一体成形で構成しこの内壁部に前記固定ピンが差し込まれる固定ピン差込部とを備え、
前記固定部材を床面の所定位置に固定し、前記排出口を前記排水ソケット内に差し込んで前記水洗便器を床面に載置した後便器の後方側に移動させることにより前記固定ピンを前記固定ピン差込部に進入させて係止することを特徴とする水洗便器の固定構造。
【請求項2】
前記固定片は前記固定ピンの床面からの高さ位置を調節する高さ位置調節機構を備えていることを特徴とする請求項1記載の水洗便器の固定構造。
【請求項3】
前記固定ピンにその突出方向と反対方向から力が作用した場合、前記固定ピンの突出長さを縮小させる突出長さ縮小機構を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の水洗便器の固定構造。

































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−328833(P2006−328833A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154783(P2005−154783)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】