説明

水洗大便器

【課題】停電時であっても、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な洗浄水の量を確保することができる水洗大便器を提供する。
【解決手段】本発明の水洗大便器は、ボウル部12と、洗浄水を吐出するリム吐水口18及びジェット吐水口16と、排水トラップ管路14とを備えた便器本体2と、洗浄水を貯水する貯水タンク32と、洗浄水をリム吐水口に給水すると共に貯水タンクに補給してジェット吐水口に供給する洗浄水供給手段40であって、この洗浄水供給手段が電源から供給される電力により駆動される洗浄水供給手段と、を有し、洗浄水供給手段は、貯水タンクに貯水された洗浄水を加圧してジェット吐水口に供給する加圧ポンプ34を備え、この加圧ポンプは、その作動中に停電したとき、その回転部52(48,46a,50a)の慣性力による回転によって、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な量(Q1+Q2)の洗浄水をジェット吐水口に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水洗大便器に係り、特に、加圧した洗浄水によって洗浄される水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載されているように、リム吐水は、水道水を直接リム吐水口から吐水させ、一方、ジェット吐水は、便器本体内に収納されたタンクに貯水された洗浄水をポンプで加圧し、この加圧された洗浄水をジェット吐水口から吐出させて、ボウル部を洗浄するようにした水洗大便器が知られている。
【0003】
【特許文献1】特許第2800421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載された水洗大便器は、タンクに貯水された洗浄水をポンプで加圧してジェット吐水口から吐出するようにしているので、水道水の圧力変動の影響を受けず、低水圧の地域や場所でも使用できるという利点がある。
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されたような、電源から供給される電力により作動するポンプによって洗浄水の供給する水洗大便器においては、ポンプが作動中、即ち、サイホン作用により排水トランプ管路から汚物を排出しているときに、万一、停電した場合には、ポンプによるジェット吐水が直ちに停止されるため、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な洗浄水(封水)の量を確保することができないような状況となる。この場合には、排水トラップ管路が接続される下水管と便器のボウル部とが連通し、悪臭が便器内に入り込むという問題が発生する。この問題は、水洗大便器の製品化の際には、必ず解決しなければならない重要な問題である。
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、停電時であっても、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な洗浄水(封水)の量を確保することができる水洗大便器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明は、加圧した洗浄水によって洗浄される水洗大便器であって、ボウル部と、洗浄水を吐出するリム吐水口及びジェット吐水口と、排水トラップ管路とを備えた便器本体と、洗浄水を貯水する貯水タンクと、洗浄水をリム吐水口に給水すると共に貯水タンクに補給してジェット吐水口に供給する洗浄水供給手段であって、この洗浄水供給手段が電源から供給される電力により駆動される洗浄水供給手段と、を有し、洗浄水供給手段は、貯水タンクに貯水された洗浄水を加圧してジェット吐水口に供給する加圧ポンプを備え、この加圧ポンプは、その作動中に停電したとき、その回転部の慣性力の回転によって、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な量の洗浄水をジェット吐水口に供給するように構成されていることを特徴としている。
このように構成された本発明においては、加圧ポンプが作動して貯水タンクに貯水された洗浄水を加圧してジェット吐水口に供給しているときに、万一、停電した場合であっても、加圧ポンプの回転部の慣性力による回転によって必要な量の洗浄水をジェット吐水口に供給し、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、加圧ポンプは、少なくともその回転部の慣性力による回転によって供給される洗浄水の量により排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができるように、その回転部の慣性力が設定されている。
このように構成された本発明においては、加圧ポンプの回転部の慣性力による回転によって、少なくとも排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる洗浄水の量を供給できるようになっているので、停電時でも、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる。
【0009】
本発明において、好ましくは、加圧ポンプは、その回転部の慣性力による回転によって供給される洗浄水の量と排水トラップ管路内の戻り洗浄水の量との合計により、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができるように、その回転部の慣性力が設定されている。
このように構成された本発明においては、加圧ポンプの回転部の慣性力による回転によって供給される洗浄水の量と排水トラップ管路内の戻り洗浄水の量との合計により、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な洗浄水の量は、700ccから1300ccの範囲の量である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水洗大便器によれば、停電時であっても、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止するために必要な洗浄水(封水)の量を確保することができ、その結果、下水管から便器内に悪臭が入り込むことを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、添付図面を参照して、本発明の実施形態による水洗大便器を説明する。
先ず、図1乃至図4により、本発明の一実施形態による水洗大便器の構造を説明する。ここで、図1は、本発明の実施形態による水洗大便器の側面図であり、図2は図1に示す水洗大便器の平面図であり、図3は本発明の実施形態による水洗大便器を示す全体構成図であり、図4は本発明の実施形態による水洗大便器に使用される加圧ポンプを示す部分断面図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態による水洗大便器1は、便器本体2と、この便器本体2の上面に配置された便座4と、便座4を覆うように配置されたカバー6と、便器本体2の後方上部に配置された局部洗浄装置8と、を備えている。さらに、便器本体2の後方には、機能部10が配置されており、この機能部10はサイドパネル10aにより覆われている。
【0014】
便器本体2には、汚物を受けるボウル部12と、このボウル部12の底部から延びる排水トラップ管路14と、ジェット吐水を行うジェット吐水口16と、リム吐水を行うリム吐水口18が形成されている。
ジェット吐水口16は、ボウル部12の底部に形成されており、排水トラップ管路14の入口に指向してほぼ水平に配置され、洗浄水を排水トラップ管路14に向けて吐出するようになっている。
リム吐水口18は、ボウル部12の左側上部後方に形成されており、ボウル部12の縁に沿って洗浄水を吐出するようになっている。
【0015】
排水トラップ管路14は、入口部14aと、この入口部14aから上昇するトラップ上昇管14bと、このトラップ上昇管14bから下降するトラップ下降管14cとからなり、トラップ上昇管14bとトラップ下降管14cとの間が頂部14dとなっている。
【0016】
本実施形態による水洗大便器1は、洗浄水を供給する水道に直結されており、水道の給水圧力によりリム吐水口18から洗浄水が吐出される。また、ジェット吐水に関しては、後述するように、機能部10に内蔵された貯水タンク32に貯水された洗浄水を加圧ポンプ34によって加圧して、大流量でジェット吐水口16から吐出させるようになっている。
【0017】
次に、図3により、本実施形態による水洗大便器1の機能部10を詳細に説明する。
図3に示すように、機能部10には、定流量弁20と、電磁弁22と、リム吐水用バキュームブレーカ24と、リム吐水用フラッパー弁26が設けられている。さらに、給水路19には、タンクへの給水とリム吐水を切り替える切替弁28と、貯水タンク32と、加圧ポンプ34と、ジェット吐水用バキュームブレーカ36と、ジェット吐水用フラッパー弁38と、水抜栓39が内蔵されている。また、機能部10には、電磁弁22の開閉操作、切替弁28の切換操作、及び、加圧ポンプ34の回転数や作動時間等を制御するコントローラ40が内蔵されている。
【0018】
定流量弁20は、止水栓42a、ストレーナ42b、及び分岐金具42cを介して入水口20aから流入した洗浄水を、所定の流量以下に絞るためのものである。本実施形態においては、この定流量弁20は、洗浄水の流量を16リットル/分以下に制限するようになっている。また、定流量弁20を通過した洗浄水は、電磁弁22に流入し、電磁弁22を通過した洗浄水は、切替弁28により、リム吐水口18又は貯水タンク32に供給されるようになっている。
【0019】
電磁弁22は、コントローラ40の制御信号により開閉され、供給された洗浄水を切替弁28に流入させ、又は停止させるようになっている。
また、切替弁28は、コントローラ40の制御信号により切り替えられ、電磁弁22を介して流入した洗浄水をリム吐水口18から吐出させ、又は、貯水タンク32に流入させるようになっている。
【0020】
リム吐水用バキュームブレーカ24は、切替弁28を通過した洗浄水をリム吐水口18へ導くリム側給水路18aの途中に配置され、洗浄水のリム吐水口18からの逆流を防止している。また、リム吐水用バキュームブレーカ24は、ボウル部12の上端面よりも上方に配置され、これにより、逆流を確実に防止している。さらに、リム吐水用バキュームブレーカ24の大気開放部から溢れた洗浄水は、戻り管路24aを通って貯水タンク32に流入するようになっている。
【0021】
リム吐水用フラッパー弁26は、リム吐水用バキュームブレーカ24の下流側のリム側給水路18aに配置され、洗浄水のリム吐水口18からの逆流を防止している。本実施形態においては、リム側給水路18aにリム吐水用バキュームブレーカ24とリム吐水用フラッパー弁26を直列に配置することによって、より確実に洗浄水の逆流を防止している。
【0022】
貯水タンク32は、ジェット吐水口16から吐水すべき洗浄水を貯水するように構成されている。なお、本実施形態において、貯水タンク32は、約2.5リットルの内容積を有する。
【0023】
さらに、本実施形態においては、タンク給水路32aの先端(下端)は貯水タンク32より上方の位置に開口されており、貯水タンク32からタンク給水路32aへの逆流を防止している。また、貯水タンク32の内部には、上端フロートスイッチ32b及び下端フロートスイッチ32cが配置されており、貯水タンク32内の水位を検出できるようになっている。上端フロートスイッチ32bは、貯水タンク32内の水位が所定の貯水水位に達するとオンに切り替わり、コントローラ40はこれを検知して、電磁弁28を閉鎖させる。一方、下端フロートスイッチ32cは、貯水タンク32内の水位が所定の水位まで低下するとオンに切り替わり、コントローラ40はこれを検知して、加圧ポンプ34を停止させる。
【0024】
また、貯水タンク32の上部には、その上端の開口部を覆うように蓋体32dが取り付けられており、蓋体32dの外周と貯水タンク32上部の内壁面の間は水密的に接合されている。さらに、蓋体32dには、円形の穴が設けられこの穴を取り囲むように、筒体32eが上方に向けて延びるように取り付けられている。
【0025】
また、貯水タンク32の壁面32gは、蓋体32dよりも上方まで延びており、貯水タンク32の筒体32eから溢れた洗浄水は、蓋体32dの上に溜まるようになっている。さらに、貯水タンク32の蓋体32dよりも上方の壁面32gには、排水通路32fが接続されており、蓋体32dの上に溜まった洗浄水をボウル部12に排出できるようになっている。
【0026】
加圧ポンプ34は、貯水タンク32に貯水された洗浄水を加圧して、ジェット吐水口16から吐出させるためのものである。加圧ポンプ34は、貯水タンク32の下部から延びる洗浄水管路34aにより接続され、貯水タンク32内に貯水された洗浄水を加圧する。なお、本実施形態においては、加圧ポンプ34は、貯水タンク32内の洗浄水を加圧して、洗浄水を最大約120リットル/分の流量でジェット吐水口16から吐出させるようになっている。
【0027】
また、洗浄水管路34aの途中には、逆止弁であるジェット吐水用フラッパー弁38及び水抜栓39が設けられている。これらのジェット吐水用フラッパー弁38及び水抜栓39は、加圧ポンプ34よりも下方の、貯水タンク32の下端部付近の高さに配置されている。このため、水抜栓39を開放することにより、メンテナンス時等に貯水タンク32内及び加圧ポンプ34内の洗浄水を排出することができる。また、貯水タンク32と加圧ポンプ34の間にジェット吐水用フラッパー弁38を配置することにより、貯水タンク32内の水位が加圧ポンプ34の高さよりも低くなった場合に、洗浄水が加圧ポンプ34から貯水タンク32に逆流し、加圧ポンプ34内の洗浄水が抜けるのを防止している。また、加圧ポンプ34の下方には、水受けトレイ2aが配置されており、結露した水滴や漏水を受けるようになっている。
【0028】
一方、加圧ポンプ34の流出口は、洗浄水管路34bを介して、ボウル部12底部のジェット吐水口16に接続されている。この洗浄水管路34bの途中は、上方に向けて凸型に形成されており、この凸型部分の最も高い部分である洗浄水管路頂部44は、貯水タンク32からジェット吐水口16に至る洗浄水管路の中で最も高い部分になっている。さらに、図3に示すように、洗浄水管路34bの洗浄水管路頂部44よりも下流側は、上述したジェット吐水口16と同じレベル(高さ)に設定されている。
【0029】
ジェット吐水用バキュームブレーカ36は、加圧ポンプ34及び洗浄水管路頂部44の下流側から分岐した分岐管路36aに接続されており、ボウル部12内の溜水が貯水タンク32側へ逆流するのを防止すると共に、それらの間の縁切りを行うようになっている。また、ジェット吐水用バキュームブレーカ36の大気開放部から溢れた洗浄水は、戻り管路36bを通って貯水タンク32に流入するようになっている。
【0030】
コントローラ40は、使用者による便器洗浄スイッチ(図示せず)の操作により、電磁弁22、切替弁28、加圧ポンプ34を順次作動させ、リム吐水口18及びジェット吐水口16からの吐水を順次開始させて、ボウル部12を洗浄する。さらに、コントローラ40は、洗浄終了後、電磁弁22を開放し、切替弁28を貯水タンク32側に切り替えて洗浄水を貯水タンク32に補給する。貯水タンク32内の水位が上昇し、上端フロートスイッチ32bが規定の貯水量を検出すると、コントローラ40は、電磁弁22を閉鎖して給水を停止する。
【0031】
上述した図3に示す本実施形態においては、切替弁28を切替えることにより、リム側給水路18aを経由してリム吐水口に洗浄水を供給し、また、タンク給水路32aを経由して貯水タンク32に洗浄水を補給するようにしている。
しかしながら、本実施形態においては、変形例として、上述した図3に示す電磁弁22及び切替弁28に代えて、リム吐水用電磁弁及びタンク給水用電磁弁を設けるようにしても良い。具体的には、このリム吐水用電磁弁は、定流量弁20の下流側に設けられ、リム側給水路18aに接続されている。また、タンク給水用電磁弁は、定流量弁20の下流側に設けられ、タンク給水路32aに接続されている。さらに、これらのリム吐水用電磁弁及びタンク給水用電磁弁の開閉操作(ON及びOFF操作)は、コントローラ40からの制御信号により行われる。
【0032】
次に、図4により、本実施形態の加圧ポンプ34について詳細に説明する。加圧ポンプ34は、ポンプ本体46を備え、このポンプ本体46は、回転軸48を介して電動モータ(DCモータ)50に直結されている。また、ポンプ本体46はインペラ46aを備え、電動モータ50はローター50aを備え、これらのインペラ46a及びローター50aが回転軸48に取り付けられている。これらの回転軸48、インペラ46a、及び、ローター50aが、加圧ポンプ34の回転部52となっている。
詳細は後述するように、加圧ポンプ34の作動中に停電した場合であっても、この加圧モータ34の回転部50の慣性力による回転によって、排水トラップ管路14とボウル部12との連通を封止するために必要な量の洗浄水を供給することができるようになっている。
【0033】
次に、上述した本発明の実施形態による水洗大便器1の作用(動作)を説明する。先ず、図5により、水洗大便器1による基本動作を説明する。
図5に示すように、待機状態(時刻t0〜t1)において、便器洗浄スイッチ(図示せず)が操作されると、1回目のリム吐水(前リム洗浄)が開始される(時刻t1)。即ち、使用者が便器洗浄スイッチ(図示せず)を操作すると、コントローラ40は電磁弁22に信号を送って開放させると共に、切替弁28をリム吐水口18の側に切り替え、水道の給水圧力によりリム吐水口18から洗浄水を吐出させる。電磁弁22が開放されると、水道から供給された洗浄水が止水栓42a、ストレーナ42b、分岐金具42cを経て入水口20aから定流量弁20に流入する。定流量弁20では、水道の給水圧力が高い場合には、通過する洗浄水の流量が所定流量に制限され、給水圧力が低い場合には、洗浄水は流れを制限されることなくそのまま通過される。定流量弁20を通過した洗浄水は、電磁弁22、切替弁28を通過し、リム吐水用バキュームブレーカ24、リム吐水用フラッパー弁26、リム側給水路18aを通って、ボウル部12上部の後方左側に開口したリム吐水口18から吐出される。リム吐水口18から吐出された洗浄水は、ボウル部12内を旋回しながら下方へ流下し、ボウル部12の内壁面が洗浄される。
【0034】
その後(時刻t2)、ジェット吐水が開始され、さらに、同時に、貯水タンク32への洗浄水の補給も開始される。
先ず、コントローラ40は、加圧ポンプ34に信号を送ってこれを起動させ、ポンプ回転数をN1に保持する。加圧ポンプ34が起動されると、貯水タンク32内に貯水されていた洗浄水は、ジェット吐水用フラッパー弁38、水抜き栓39を通って加圧ポンプ34に流入し、加圧される。加圧ポンプ34によって加圧された洗浄水は、洗浄水管路34bの洗浄水管路頂部44を通って、ボウル部12底部に開口したジェット吐水口16から吐出される。
このとき、洗浄水管路34bの洗浄水管路頂部44付近に滞留していた空気は、分岐管路36aを通ってジェット吐水用バキュームブレーカ36に到達し、その大気開放部から放出される。
【0035】
ジェット吐水口16から吐出された洗浄水は排水トラップ管路14内に流入し、排水トラップ管路14を満水にしてサイホン現象を引き起こす。このサイホン現象により、ボウル部12内の溜水及び汚物は、排水トラップ管路14に吸引され、排水管Dから排出される。ここで、本実施形態においては、加圧ポンプ34は、最初にポンプ回転数N1で回転するため(時刻t2〜t3)、加圧力が大きくなり、洗浄水を75リットル/分〜120リットル/分の範囲内の大流量でジェット吐水口16から吐出させることができ、それにより、排水トラップ管路14内のサイホン現象が急速に引き起こされ、ボウル部12内の溜水及び汚物は素早く排出される。
【0036】
その後(時刻t3)、ポンプの回転数をN2まで低下させることにより、加圧力を少し低下させて、洗浄水を60リットル/分〜70リットル/分の範囲内の大流量で継続してジェット吐水口16から吐出させる。
さらに、ポンプの回転数N2は、ジェット吐水が汚物を排水トラップ管路14の頂部14dまで搬送するために必要な流速(約2.5メートル/秒以上)となるような値である。
【0037】
本実施形態においては、このように、大流量のジェット吐水が続けて供給されるため、排水トラップ管路14の入口部14aから吸入される空気の量は少なくなり、さらに、ジェット吐水が排水トラップ管路14の入口部14aの下壁面に衝突し、それによりの入口部で旋回流が発生し、その旋回流により、入口部が水シールされ、これにより、サイホン作用が持続することになる。このように、先に発生したサイホン作用が保持された状態で、続けて供給される大流量のジェット吐水により、押し出し作用が生じ、この押し出し作用により、ボウル部に残る浮遊系の汚物を素早く排出することができる。
【0038】
なお、本実施形態においては、図5において、破線で示すように、ポンプ回転数をN2に低減させずに回転数N1のまま保持するようにしてもよい(時刻t3〜t4)。
【0039】
さらに、本実施形態においては、ポンプの回転数N2によるジェット吐水の終了時(時刻t4〜t5)に、ジェット吐水口からの吐水が漸減するように加圧ポンプの回転数を制御するようにしている。
これにより、サイホン作用が急激に途切れることにより生じる大きなサイホン切れ音の発生を防止することができる。
【0040】
このようにして加圧ポンプ34を所定時間(時刻t2〜t5)作動させることにより、洗浄水がジェット吐水口16から吐出され、貯水タンク32内の貯水量は概ねゼロになる。加圧ポンプ34が停止されることによりジェット吐水口16からの吐水は停止される(時刻t5)。これにより、ジェット吐水用バキュームブレーカ36から、洗浄水管路内に大気が導入され、ボウル部12内の溜水と貯水タンク32内の洗浄水が縁切りされる。
【0041】
本実施形態においては、ジェット吐水の間(時刻t2〜t5)、同時に、貯水タンク32へ洗浄水が補給されるようになっている。このとき、コントローラ40は、電磁弁22を開放状態に維持しながら、切替弁28に信号を送って、これをタンク側に切り替える。電磁弁22が開放されているので、入水口20aから流入した洗浄水は、定流量弁20、電磁弁22、切替弁28、タンク給水路32aを通過して、タンク給水路32aの先端から貯水タンク32内に流入する。
【0042】
次に、ジェット吐水が終了したとき(時刻t5)、コントローラ40は、電磁弁22に信号を送って、これを再び開放させ、リム吐水口18からの2回目の吐水(後リム洗浄)を開始させる。リム吐水口18からの2回目の吐水によりボウル部12内の溜水の水位は上昇し、所定のリム吐水時間経過後(時刻t6)、ボウル部12内は所定の溜水水位に到達する。
【0043】
2回目のリム吐水終了後(時刻t6)、再び、貯水タンク32の洗浄水が補給される。このとき、上述したように、コントローラ40は、電磁弁22を開放状態に保持した状態で、切替弁28に信号を送って、これをタンク側に切り替え、貯水タンク32内に流入する。
【0044】
貯水タンク32内に洗浄水が補給され、貯水タンク32内の水位が規定の貯水水位に達すると、フロートスイッチ32bがONになる。フロートスイッチ32bがONになると、コントローラ40は電磁弁22に信号を送り、これを閉鎖させる。
ここで、図5に示された時刻t1〜t7の値は、t1=0秒、t1〜t2=10秒、t2〜t5=2秒、t5〜t6=11秒、t6〜t7=16秒が好ましい。
【0045】
次に、図6乃至図8により、本実施形態による水洗大便器による加圧ポンプが作動中に停電になった場合の動作を説明する。ここで、図6は、本実施形態による水洗大便器の加圧ポンプ作動中に停電になったときのポンプ回転数を示すタイムチャートであり、図7は、大便器使用後の通常の溜水水位(溜水量)である水洗大便器を示す断面図であり、図8は、排水トラップ管路とボウル部の封水を行うために必要な最低溜水水位(最低溜水量又は最低封水量)である水洗大便器を示す断面図であり、図9は、本実施形態による水洗大便器の停電時の動作を示す水洗大便器の一連の断面図である。
【0046】
先ず、図7に示すように、大便器使用後の通常の溜水水位(溜水量)は、ボウル部12の溜水が排水トラップ管路14の頂部14dまで溜まっているレベルAの位置にある。
また、図8に示すように、排水トラップ管路14とボウル部12の封水を行うために必要な最低溜水水位(最低溜水量又は最低封水量)は、溜水が排水トラップ管路14の入口部14aの上端部14eまで溜まっているレベルBの位置である。
【0047】
次に、図6及び図9により、本実施形態による水洗大便器による加圧ポンプ作動時に停電になった場合の動作を説明する。
先ず、図9(a)は待機状態を示し(図6の時刻t0〜t1)、ボウル部12に水が貯留された状態となっている。このときの貯水タンク32の水位はレベルL1となっている。
【0048】
次に、リム吐水を経て、図9(b)に示すように、ジェット吐水が開始される(図6の時刻t2)とポンプが回転数N1にて回転し、大流量のジェット流により排水トラップ管路内が満水となる。その後(図6の時刻t3)も大流量のジェット吐水が続けて供給されるため、これにより、サイホン作用が持続することになる。このときの貯水タンク32の水位は、例えば、レベルL2となっている。
【0049】
ここで、サイホン作用が発生しているとき(図6の時刻t3〜t5)、即ち、加圧ポンプ34が作動中に、停電となった場合(図6の時刻t8)には、図9(c)に示すように、加圧ポンプ34の電動モータ50はその機能が直ぐに停止する。このときの貯水タンク32の水位はレベルL3となっている。このとき、洗浄水管路34bに取り付けられたジェット吐水用バキュームブレーカ36により、洗浄水管路34b内に大気が導入され、サイホン作用が消滅し、これにより、排水トラップ管路14のトラップ上昇管14b内の洗浄水量Q1の残水C(図9(d)参照)がボウル部12に戻り、封水の一部として作用するようになっている。
【0050】
次に、図9(d)に示すように、ポンプ本体34aは、停電によりモータ34cの機能が停止した後も、加圧ポンプ34の回転部52(=回転軸48+インペラ46a+ローター50a)の質量による慣性力により、予め設定した回数分回転して、停止するようになっている。具体的には、図6に示すように、時刻t8で停電が発生した場合には、その後の時刻t9までポンプ本体46が必要な回数だけ回転するようになっている。この回転部52の慣性力による回転によって、貯水タンク32内の洗浄水が洗浄水管路34bへ供給され、この洗浄水により、洗浄水管路34b内の加圧ポンプ34と洗浄水管路頂部44との間に残っていた洗浄水がボウル部12側に押し出される。このとき、図9(d)に示すように、貯水タンク32の水位はレベルL4まで下がる。このように、停電後、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力による回転によって、洗浄水量Q2(加圧タンク内のレベル3とレベルL4の間の洗浄水量)がボウル部12に供給されるようになっている。
【0051】
次に、図9(e)は、停電後に、ポンプ本体46の回転が停止した状態を示している。この状態では、上述したように、ボウル部12には、排水トラップ管路14のトラップ上昇管14b内の洗浄水量Q1と、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力による回転によって供給された洗浄水量Q2との合計量の洗浄水量(Q1+Q2)が封水として溜まっている。このときの封水のレベルDは、排水トラップ管路14とボウル部12の封水を行うために必要な最低溜水水位(最低溜水量又は最低封水量)である上述したレベルB(図8参照)の位置と同じか又はそれより高いレベルとなっている。
【0052】
なお、上述した実施形態による水洗大便器においては、排水トラップ管路14とボウル部12の封水を行うために必要な最低溜水水位(最低溜水量又は最低封水量)を確保するために、排水トラップ管路14のトラップ上昇管14b内の洗浄水量Q1と、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力の回転によって供給された洗浄水量Q2との合計量の洗浄水量(Q1+Q2)を溜水(封水)として使用した。しかしながら、本実施形態においては、水洗大便器の構造等により、排水トラップ管路14のトラップ上昇管14b内の洗浄水量Q1が大きく変動する等の場合には、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力の回転によって供給される洗浄水量Q2により、必要な洗浄水量を供給して、排水トラップ管路14とボウル部12の封水を行うために必要な最低溜水水位(最低溜水量又は最低封水量)を確保するようにしても良い。この場合には、加圧ポンプ34の回転部52(=回転軸48+インペラ46a+ローター50a)の質量を調整し、停電時に、その慣性力により、上述した必要な量の洗浄水を供給できるようにする必要がある。
【0053】
以上説明したように、本実施形態による水洗大便器によれば、加圧ポンプ34が作動して貯水タンク32に貯水された洗浄水を加圧してジェット吐水口16に供給しているときに、万一、停電した場合であっても、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力で必要な数だけ回転して、必要な洗浄水の量を供給できるようにしているので、その必要な量の洗浄水をジェット吐水口に供給し、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる。その結果、下水管から便器内に悪臭が入り込むことを防止することができる。
【0054】
また、本実施形態においては、停電した場合であっても、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力を調整して、排水トラップ管路内の戻り洗浄水の量Q1と加圧ポンプ34の回転部52の慣性力による回転によって供給される洗浄水の量Q2との合計により、排水トラップ管路14とボウル部12との連通を封止するようにしているので、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる。
【0055】
さらに、本実施形態においては、停電した場合であっても、加圧ポンプ34の回転部52の慣性力を調整して、少なくともその慣性力による回転によって供給される洗浄水の量により排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができるようにしているので、排水トラップ管路とボウル部との連通を封止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態による水洗大便器の側面図である。
【図2】図1に示す水洗大便器の平面図である。
【図3】本発明の一実施形態による水洗大便器を示す全体構成図である。
【図4】本発明の一実施形態による水洗大便器に使用される加圧ポンプを示す部分断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による水洗大便器における基本動作を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の一実施形態による水洗大便器の加圧ポンプ作動中に停電になったときのポンプ回転数を示すタイムチャートである。
【図7】大便器使用後の通常の溜水水位(溜水量)である水洗大便器を示す断面図である。
【図8】排水トラップ管路とボウル部の封水を行うために必要な最低溜水水位(最低溜水量又は最低封水量)である水洗大便器を示す断面図である。
【図9】本発明の一実施形態による水洗大便器の停電時の動作を示す水洗大便器の一連の断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1 水洗大便器
2 便器本体
10 機能部
12 ボウル部
14 排水トラップ管路
16 ジェット吐水口
18 リム吐水口
18a リム側給水路
20 定流量弁
22 電磁弁
28 切替弁
32 貯水タンク
34 加圧ポンプ
34b洗浄水管路
36 ジェット吐水用バキュームブレーカ
40 コントローラ
46 ポンプ本体
46a インペラ
48 回転軸
50 電動モータ
50a ローター
52 回転部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧した洗浄水によって洗浄される水洗大便器であって、
ボウル部と、洗浄水を吐出するリム吐水口及びジェット吐水口と、排水トラップ管路とを備えた便器本体と、
洗浄水を貯水する貯水タンクと、
洗浄水を上記リム吐水口に給水すると共に上記貯水タンクに補給して上記ジェット吐水口に供給する洗浄水供給手段であって、この洗浄水供給手段が電源から供給される電力により駆動される上記洗浄水供給手段と、を有し、
上記洗浄水供給手段は、上記貯水タンクに貯水された洗浄水を加圧して上記ジェット吐水口に供給する加圧ポンプを備え、この加圧ポンプは、その作動中に停電したとき、その回転部の慣性力による回転によって、上記排水トラップ管路と上記ボウル部との連通を封止するために必要な量の洗浄水を上記ジェット吐水口に供給するように構成されていることを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
上記加圧ポンプは、少なくともその回転部の慣性力による回転によって供給される洗浄水の量により上記排水トラップ管路と上記ボウル部との連通を封止することができるように、その回転部の慣性力が設定されている請求項1記載の水洗大便器。
【請求項3】
上記加圧ポンプは、その回転部の慣性力による回転によって供給される洗浄水の量と上記排水トラップ管路内の戻り洗浄水の量との合計により、上記排水トラップ管路と上記ボウル部との連通を封止することができるように、その回転部の回転の慣性力が設定されている請求項1記載の水洗大便器。
載の水洗大便器。
【請求項4】
上記排水トラップ管路と上記ボウル部との連通を封止するために必要な洗浄水の量は、700ccから1300ccの範囲の量である請求項1乃至3の何れか1項記載の水洗大便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−174944(P2008−174944A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8240(P2007−8240)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】