説明

水洗式便器

【課題】便鉢内の洗浄水の水面を良好に低下させることができる水洗式便器を提供する。
【解決手段】水洗式便器は、便鉢2と、便鉢2の下流側に連通し、便鉢2とともに封水部Hを形成する便器排水路5と、便器排水路5の下流側に連通し、洗浄水が滞留する滞留部Rとを有する便器本体1を備えている。また、水洗式便器は、便鉢2に洗浄水を供給する洗浄水供給装置10と、便器排水路5から空気を吸引し、かつ便器排水路5へ空気を排出する吸排気装置20と、洗浄水供給装置10及び吸排気装置20を制御する制御装置30とを備えている。便器排水路5には、封水部Hの洗浄水と滞留部Rの洗浄水とにより閉鎖空間が形成されている。制御装置30は、吸排気装置20が便器排水路5から閉鎖空間の空気を吸引する時に、洗浄水供給装置10が便鉢2へ洗浄水を供給しない便鉢内水面低下モードを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水洗式便器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の水洗式便器が開示されている。この水洗式便器は、便鉢と、便鉢の下流側に連通し、便鉢とともに封水部を形成する便器排水路とを有する便器本体を備えている。また、水洗式便器は洗浄水供給装置を備えている。この洗浄水供給装置は、便鉢の上部開口の周縁に設けられたリムに洗浄水を供給した後、便鉢の下端に設けられ、便器排水路に向けて開口するジェット口に洗浄水を供給する。ジェット口から洗浄水が噴出すると、便器排水路内にサイホン作用が発生し、封水部の洗浄水は便器排水路の下流へ排出される。洗浄水供給装置によるジェット口への洗浄水の供給が終了すると、サイホン作用が終了する。その後に洗浄水供給装置によりリムへ供給される洗浄水の水量を少なくすることにより、便鉢内の洗浄水の水面を通常の待機時の水面よりも低くすることができる。
【0003】
このような構成である従来の水洗式便器では、便鉢内の洗浄水の水面を通常の待機時の水面よりも低くして便鉢内面を掃除することができる。このため、通常の待機時の水面近傍の便鉢面をブラシ等で容易に掃除することができ、水垢を良好に取り除くことができる。また、ブラシ等で便鉢面を掃除する際に生じる水跳ねを少なくすることができる。
【0004】
また、この水洗式便器は、大便及び男子小便を行う際に、便鉢内の洗浄水の水面を通常の待機時の水面よりも低くすることにより、便鉢内の洗浄水の跳ね返りを少なくすることができる。
【0005】
【特許文献1】特開平11−350578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の水洗式便器では、便鉢内の洗浄水の水面を低下させるために、ジェット口から洗浄水を噴出させなければならず、節水性及び静音性に欠ける。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、便鉢内の洗浄水の水面を良好に低下させることができる水洗式便器を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の水洗式便器は、便鉢と、該便鉢の下流側に連通し、該便鉢とともに封水部を形成する便器排水路と、該便器排水路の下流側に連通し、洗浄水が滞留する滞留部とを有する便器本体と、
該便鉢に洗浄水を供給する洗浄水供給装置と、
該便器排水路から空気を吸引し、かつ該便器排水路へ空気を排出する吸排気装置と、
該洗浄水供給装置及び該吸排気装置を制御する制御装置とを備えた水洗式便器において、
前記便器排水路には、前記封水部の洗浄水と前記滞留部の洗浄水とにより閉鎖空間が形成され、
前記制御装置は、前記吸排気装置が該便器排水路から該閉鎖空間の空気を吸引する時に、前記洗浄水供給装置が前記便鉢へ洗浄水を供給しない便鉢内水面低下モードを有していることを特徴とする。
【0009】
この水洗式便器では、便鉢内水面低下モードが実行されると、洗浄水供給装置による便鉢への洗浄水の供給を行なわずに吸排気装置により便器排水路から閉鎖空間の空気が吸引され、その負圧力により封水部の洗浄水が滞留部側に流出する。これにより、便鉢内の洗浄水の水面を低下させることができる。このように、便鉢内の洗浄水の水面を低下させる際に、洗浄水供給装置により便鉢へ洗浄水を供給せず、また、吸排気装置は便器排水路から閉鎖空間の空気を吸引する音をほとんど発生させないため、この水洗式便器は節水性及び静音性に優れている。
【0010】
したがって、本発明の水洗式便器は、便鉢内の洗浄水の水面を良好に低下させることができる。
【0011】
滞留部は、便鉢内水面低下モードが実行された後も滞留する洗浄水により水封され得る。この場合、滞留部の下流側から上流側に臭気が逆流することが防止される。このため、便鉢内の洗浄水の水面を低下させて便鉢内面の掃除等を行う際に、封水部の洗浄水が滞留部側へ押し出され、封水部の水封が切れてしまっても、滞留部の下流側から水洗式便器が設置されたトイレ室内に臭気が逆流してしまうことを防止することができる。
【0012】
便鉢内水面低下モードは、吸排気装置が便器排水路から閉鎖空間の空気を吸引した後に便器排水路へ空気を排出し得る。この場合、吸排気装置により便器排水路から空気が吸引され、封水部の洗浄水が滞留部側に流出した後に便器排水路の上流側に残存する洗浄水が便鉢側に押し戻される。このため、封水部の洗浄水は滞留部側へ押し出され難くなり、封水部の水封が切れにくくなる。このため、封水部の下流側からトイレ室内に臭気が逆流してしまうことを防止することができる。
【0013】
制御装置は、便鉢内水面低下モードの実行により便鉢内の水面が低下した後、洗浄水供給装置により便鉢に洗浄水が供給され、便鉢内の水面が上昇位置まで上昇した後、吸排気装置を作動させて便器排水路から閉鎖空間の空気を吸引し、その後、洗浄水供給装置の便鉢への洗浄水の供給を停止し、吸排気装置が便器排水路へ空気を排出する便鉢内水面復帰モードを有し得る。この場合、便鉢内水面低下モードの実行後に、便鉢内の洗浄水の水面を通常の便器洗浄と同じ上昇位置まで上昇させて、サイホン作用を発生させ、通常の便器洗浄時と同様に便鉢を覆水する。このため、封水部や滞留部の洗浄水の量及び閉鎖空間の空気の量等を通常の待機時と同じ状態に確実に復帰させることができるため、その後の便器洗浄を良好に行うことができる。
【0014】
便鉢内水面低下モードは、吸排気装置が便器排水路から閉鎖空間の空気を吸引する前に洗浄水供給装置を作動させ、便鉢に設定量の洗浄水を供給し得る。この場合、滞留部の洗浄水が何らかの理由により減少したり、水封が切れていたりしても、便鉢内水面低下モードの実行初期に滞留部に洗浄水が供給されることにより、滞留部が確実に水封される。このため、閉鎖空間を確実に形成することができる。よって、吸排気装置が便器排水路から空気を吸引すると負圧力が生じ、便鉢内の洗浄水の水面を確実に低下させることができる。また、滞留部が待機時に空気を流通可能に形成されていても、便鉢内水面低下モードの実行初期に滞留部に洗浄水が供給されることにより、滞留部を水封することができる。これにより、閉鎖空間を形成することができる。このため、吸排気装置が便器排水路から閉鎖空間の空気を吸引すると負圧力が生じ、便鉢内の洗浄水の水面を確実に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の水洗式便器を具体化した実施例1及び2を図面を参照しつつ説明する。
【実施例1】
【0016】
実施例1の水洗式便器は、図1に示すように、便器本体1と、洗浄水供給装置10と、吸排気装置20と、制御装置30とを備えている。
【0017】
便器本体1は、便鉢2と、便器排水路5と、滞留部Rとを有している。便鉢2の上部周縁には、リム3が設けられている。便鉢2の下端には、水平面上で開口する流出口4が設けられている。流出口4には、便器排水路5が連通している。便器排水路5は、上昇流路6と下降流路7とから構成されている。上昇流路6と便鉢2とにより、洗浄水が滞留する封水部Hが形成されている。
【0018】
下降流路7は、上昇流路6の上昇端に設けられた開口に連通する便器排水管40により形成されている。便器排水管40の下流端の開口は、排水接続具50を介して図示しない床面に引き出された排水管の接続口に連通される。便器排水管40は、上面に吸排気装置20を接続する連通管41が設けられている。
【0019】
排水接続具50は、筐体51と、筐体51内に配置される内部配管52とを有している。筐体51は、上面に設けられ、便器排水管40の下流端部とパッキンPを介して接続される流入口51Uと、下面に設けられ、排水管に接続される流出口51Dとを有している。内部配管52は、流入口51Uに連続する下降流路52Aと、下降流路52Aの下流端に連続し、筐体51内に開口する下流口52Cを有する上昇流路52Bとから構成されている。内部配管52は、下降流路52Aと上昇流路52Bとから形成され、洗浄水が滞留する滞留部Rを有している。滞留部Rは、滞留する洗浄水により完全に水封される。これにより、便器本体1に形成される封水部Hの下流側と、滞留部Rの上流側との間の便器排水路5及び内部配管52には、閉鎖空間が形成される。また、滞留部Rの下流側から上流側に臭気が逆流することが防止される。このため、便鉢2の内面を掃除する際等に封水部Hの水封が切れたとしても、滞留部Rの下流側から水洗式便器が設置されたトイレ室内に臭気が逆流してしまうことを防止することができる。
【0020】
洗浄水供給装置10は、図示しない水道管に連通されている。また、洗浄水供給装置10には、図示しないストレーナ装置、定流量弁、開閉弁及びバキュームブレーカが上流側から順に配置されている。洗浄水供給装置10の下流側には、ノズル11が接続されている。このノズル11の下流端は、リム3に連通している。ノズル11の先端から吐水される洗浄水は、リム3を旋回しながら便鉢2内へ流出し、便鉢2内に旋回流を発生させる。開閉弁は、開弁及び閉弁される際、徐々に吐水流量が増加及び減少するようなものを採用し、急激な弁の開閉によりウォーターハンマー現象が生じないようにされている。
【0021】
吸排気装置20は、吸排気タンク21と、駆動装置22とを有している。吸排気タンク21は、鍋形状のハウジング21H内に上下方向に移動可能な隔膜21Dが設けられている。ハウジング21Hの下面には、吸排気管21Pが設けられている。吸排気管21Pは、便器排水管40の連通管41に挿入され接続されている。駆動装置22は、上下方向に長い筒形状のケース本体22Hと、ケース本体22H内に上下方向に移動可能な隔膜22Dと、隔膜22Dを下方から押上可能な円盤形状の押上板22Aを有する棒状体22Bと、押上板22Aを上下動させるモーター22Mとを有している。吸排気タンク21の隔膜21Dによって区画された上側の上部空間24と、駆動装置22の隔膜22Dによって区画された下側の下部空間25とは、接続管23によって接続されている。
【0022】
吸排気装置20では、モーター22Mが回転し、棒状体22Bが上方に延びることにより、押上板22Aが上方に押し上げられ、駆動装置22の隔膜22Dが上昇位置に移動する。これにより、吸排気タンク21の上部空間24の空気が駆動装置の下部空間25に吸引され、吸排気タンク21の隔膜21Dは上昇位置に移動する。このようにして、吸排気タンク21が便器排水路5から閉鎖空間の空気を吸引する。また、モーター22Mが回転し、棒状体22Bが下方に縮むことにより、押上板22Aが下降し、駆動装置22の隔膜22Dが下降位置に移動する。これにより、駆動装置22の下部空間25の空気が吸排気タンク21の上部空間24に押し込まれ、吸排気タンク21の隔膜21Dは下降位置に移動する。このようにして、吸排気タンク21が便器排水路5へ空気を排出する。また、駆動装置22の隔膜22Dが下降しない限り、吸排気タンク21の隔膜21Dは上昇位置に維持される。
【0023】
制御装置30は、図示しないリモコンからの信号により洗浄水供給装置10と吸排気装置20とを制御する。つまり、制御装置30は、洗浄水供給装置10を構成する開閉弁の開閉と、吸排気装置20の駆動装置22に組み込まれたモーター22Mの回転とを制御することができる。また、制御装置30は記憶装置を有し、洗浄水供給装置10及び吸排気装置20の複数の制御モードを記憶し、実行させることができる。
【0024】
以上の構成を有する本発明の水洗式便器において、便鉢2内の水面を低下させる便鉢内水面低下モードの実行及び便鉢2内の水面を通常の待機時の水面に復帰させる便鉢内水面復帰モードの実行について説明する。
【0025】
[待機時(図1)]
図1に示すように、便器本体1の封水部Hには、洗浄水が上昇流路6の上昇端の開口下部6Aの高さまで滞留している。このため、便鉢2内の水面Lは、上昇流路6の上昇端の開口下部6Aの高さの待機位置に位置している。また、排水接続具50の内部配管52の滞留部Rは、滞留する洗浄水により完全に水封されている。このため、封水部Hの下流側と、滞留部Rの上流側との間の便器排水路5及び内部配管52には、閉鎖空間が形成されている。また、封水部H及び滞留部Rにより、滞留部Rより下流側の臭気が水洗式便器を設置したトイレ室内に逆流してしまうことを防止している。吸排気タンク21の隔膜21D及び駆動装置22の隔膜22Dは、下降位置に配置されている。
【0026】
[排水工程(図2)]
図示しないリモコンに設けられた便鉢内水面低下ボタンが操作されると、制御装置30は、便鉢内水面低下モードを実行する。便鉢内水面低下モードが実行されると、図9のA時点からB時点の間に、図2に示すように、駆動装置22のモーター22Mが回転し、押上板22Aを上方に押し上げ、隔膜22Dを上昇位置に移動させる。これにより、吸排気タンク21の隔膜21Dも上昇位置に移動し、便器排水路5から閉鎖空間の空気を吸引する。この際に生じる負圧力によって封水部Hの洗浄水が滞留部R側に流出する。このため、便鉢2内の洗浄水の水面Lは、流出口4に向けて下降する。
【0027】
吸排気タンク21の隔膜21Dが上昇位置に移動した後も、図9のB時点からC時点の間において、封水部Hの洗浄水は滞留部R側に流出する。この際、便鉢2内の洗浄水の水面Lが低くなるにつれて、封水部Hの上流側より下流側の水位が徐々に高くなるため、封水部Hの洗浄水には上昇流路6内から便鉢2方向に戻ろうとする作用が徐々に強くなる。このため、封水部Hから滞留部R側に流出する洗浄水の流量は徐々に少なくなる。一方、滞留部Rに流入する洗浄水の流量が少なくなるにつれて、待機時よりも上昇した滞留部Rの上流側の水位は、徐々に低下する。これにより、滞留部Rの上流側と下流側との水位差が徐々に小さくなるため、滞留部Rの洗浄水には上流から下流側に流れようとする作用が徐々に弱くなる。これため、滞留部Rに封水部H内の洗浄水を引き込む力も弱くなるため、さらに封水部Hの洗浄水が滞留部R側に流出する洗浄水量は少なくなる。
【0028】
[安定工程(図3)]
図9のC時点において、図3に示すように、封水部Hの上流側と下流側の水位差により生じる上昇流路6内の洗浄水が便鉢2方向に戻ろうとする作用と、滞留部Rの上流側と下流側の水位差により生じる滞留部R内の洗浄水が下流側に流出しようとする作用とが均衡した状態になると、封水部H内の洗浄水は、滞留部R側に流出しなくなり、便鉢2内の水面は、流出口4よりも低い位置で停止する。滞留部Rは、排水接続具50の流出口51Dに連通する排水管内の圧力変動の影響を受ける。滞留部Rが下流側の圧力変動の影響を受けると封水部Hとの均衡が崩れるおそれがあるため、図9のC時点からD時点まで、吸排気タンク21の隔膜21Dを上昇位置に維持し、封水部H内の洗浄水を安定させる。
【0029】
[低下水面形成工程(図4)]
図9のD時点からE時点の間に、図4に示すように、駆動装置22のモーター22Mが回転し、押上板22Aを下方に下降させ、隔膜22Dを下降位置に移動させる。この際、隔膜22Dを上昇位置から下降位置に移動させるのに要する時間は、便鉢内水面低下モードの実行初期に隔膜22Dを下降位置から上昇位置に移動させるよりも長く設定されている。これにより、吸排気タンク21の隔膜21Dも下降位置に移動し、便器排水路5へ空気を排出する。すると、上昇流路6内の洗浄水は便鉢2側に押し戻され、便鉢2内の水面Lは流出口4より僅か高くなる。また、上昇流路6内の洗浄水の水位は、上昇流路6の上昇端の開口下部6Aよりも低くなる。このため、封水部Hの洗浄水は、滞留部R側に押し出され難くなるため封水部Hの水封が切れ難くなる。よって、便鉢2の内面を掃除する際等に、封水部Hの下流側から水洗式便器が設置されたトイレ室内に臭気が逆流してしまうおそれを少なくすることができる。一方、滞留部Rの上流側の水位は低下し、待機状態と同じ水位にもどる。
【0030】
このように、実施例1の水洗式便器では、便鉢内水面低下モードが実行されると、洗浄水供給装置10による便鉢2への洗浄水の供給が行われずに吸排気装置20により便器排水路5から閉鎖空間の空気が吸引され、その負圧力により封水部Hの洗浄水が滞留部R側に流出する。これにより、便鉢2内の洗浄水の水面を低下させることができる。この際、洗浄水供給装置10により便鉢2へ洗浄水を供給せず、また、吸排気装置20は便器排水路5から閉鎖空間の空気を吸引する音をほとんど発生させないため、この水洗式便器は節水性及び静音性に優れている。
【0031】
したがって、実施例1の水洗式便器は、便鉢2内の洗浄水の水面を良好に低下させることができる。
【0032】
便鉢内水面低下モードの実行により、便鉢2内の洗浄水の水面が低下した後、リモコンに設けられた洗浄ボタンが操作されると、制御装置30は、便鉢2内の水面を待機時と同じにする便鉢内水面復帰モードを実行し、その後の便器洗浄を良好に行えるようにする。
【0033】
[便鉢内洗浄水増加工程(図5)]
便鉢内水面復帰モードは、図10のV時点からW時点の間において、洗浄水供給装置10の開閉弁を開弁し、ノズル11からリム3を介して便鉢2内に洗浄水を供給する。便鉢2への洗浄水の供給流量は、洗浄水供給装置10の開閉弁が開弁した数秒後には一定流量となる。この一定流量は、後述するサイホン作用が発生した後、便鉢2内の水面Lが流出口4の近傍まで下降した際に便器排水路5を経由して排水接続具50から排水される洗浄水の排水流量と略等しい流量に設定されている。洗浄水供給装置10から便鉢2に洗浄水が供給されると、図5に示すように、便鉢2内の洗浄水の水面Lは上昇位置まで徐々に上昇する。この上昇位置は、上昇流路6の上昇端の開口下部6Aを越えているため、封水部Hから洗浄水が滞留部Rに溢出している。このため、滞留部Rの上流側の水位が上昇し、滞留部Rは確実に水封される。この工程では、吸排気タンク21の隔膜21D及び駆動装置22の隔膜22Dは、下降位置に配置されている。
【0034】
[サイホン発生工程(図6)]
図10のW時点において、便鉢2内の洗浄水の水面Lが上昇位置まで上昇し、図6に示すように、駆動装置22のモーター22Mが回転し、押上板22Aを上方に押し上げ、隔膜22Dを上昇位置に移動させる。これにより、吸排気タンク21の隔膜21Dも上昇位置に移動し、便器排水路5から閉鎖空間の空気を吸引する。この際に生じる負圧力と、便鉢2内の洗浄水の位置エネルギーとの相乗効果により、便鉢2内の洗浄水が旋回しながら勢いよく便器排水路5内に流入し、強力なサイホン作用が発生する。図10に示すように、便鉢2内の洗浄水の水面は、W時点からX時点の間に、急激に流出口4の近傍まで下降する。
【0035】
サイホン作用は、便鉢2内の洗浄水の位置エネルギーも利用するため、サイホン作用が発生した時点が最も強力であり、便鉢2内の洗浄水の水面Lが下降するに従い弱くなる。このため、便器排水路5を経由して排水接続具50から排水される洗浄水も、水面Lが下降するに従い減少する。上述したように、洗浄水供給装置10から便鉢2へ供給される洗浄水の流量は、便鉢2内の洗浄水の水面Lが流入口4の近傍まで下降した際の排水流量と略等しい流量に設定されているため、X時点で、便鉢2に対する洗浄水の供給流量と排出流量とは均衡する。
【0036】
[サイホン維持工程(図7)]
図10のX時点からY時点において、吸排気タンク21の隔膜21Dは上昇位置に維持される。また、洗浄水供給装置10から便鉢2へ供給される洗浄水は、X時点から設定時間、一定流量に維持される。これにより、図7に示すように、封水部Hでは、便鉢2内の洗浄水の水面Lの水位Aと便器排水路5の下流端近傍の水位Bとの水位差が維持される。また、溜水部Rでは、便器排水路5の下流端近傍の水位Bと内部配管52の下流口52Cにおける水位Cとの水位差が維持される。このため、便鉢2内の洗浄水の水面Lが流入口4の近傍に維持されながら、サイホン作用が維持される。X時点から設定時間経過後に、洗浄水供給装置10の開閉弁が閉弁され、便鉢2に供給される洗浄水の流量は、徐々に減少する。
【0037】
[覆水工程(図8)]
図10のY時点からZ時点において、駆動装置22のモーター22Mが回転し、押上板22Aを下方に下降させ、隔膜22Dを下降位置に移動させる。隔膜22Dを上昇位置から下降位置に移動させるのに要する時間は、サイホン発生工程において隔膜22Dを下降位置から上昇位置に移動させるよりも長く設定されている。これにより、吸排気タンク21の隔膜21Dも下降位置に移動し、便器排水路5へ空気を排出する。Y時点で便器排水路5へ空気が排出され始めると、その影響により直ちにサイホン作用は終了する。この際、流出口4から空気が便器排水路5内へ入らないため、サイホン作用の終了の際に破封音は生じない。その後、洗浄水供給装置10から供給される洗浄水により、便鉢2内の洗浄水の水面Lが待機位置に復帰し、覆水が完了する。
【0038】
このように、実施例1の水洗式便器では、制御装置30により便鉢内水面復帰モードが実行されると、通常の便器洗浄と同じように便鉢2内の洗浄水の水面を上昇位置まで上昇させてサイホン作用を発生させ、その後、便鉢2は覆水される。このため、封水部Hや滞留部Rの洗浄水の量及び閉鎖空間の空気の量等を通常の待機時と同じ状態に復帰させることができるため、その後の便器洗浄を良好に行うことができる。
【実施例2】
【0039】
実施例2の水洗式便器は、実施例1と同様の構成を有し、便鉢内水面低下モードにおける洗浄水供給装置10の作動が実施例1の水洗式便器とは相違するのみである。また、便鉢内水面復帰モードは実施例1の水洗式便器と同様である。実施例2の水洗式便器において、便鉢内水面低下モードの洗浄水供給装置10の作動について相違する点を説明する。
【0040】
実施例2の水洗式便器では、図9に示される排水工程前に洗浄水供給装置10が便鉢2に設定量の洗浄水を供給する。排水工程以後は、実施例1の水洗式便器と同様に洗浄水供給装置10は便鉢2に洗浄水を供給しない。このようにすると、排水工程の前に封水部Hから洗浄水が滞留部Rに流出する。このため、滞留部Rの洗浄水が何らかの理由により減少していたり、水封が切れていたりしていても、滞留部Rは確実に水封される。よって、閉鎖空間が確実に形成され、吸排気装置20が便器排水路5から閉鎖空間の空気を吸引すると負圧力が生じ、便鉢2内の洗浄水の水面を確実に低下させることができる。排水工程の前に洗浄水供給装置10が便鉢2に供給する洗浄水の量は、滞留部Rの洗浄水を水封する程度の少量で良く、その際の洗浄水の流水音はほとんど発生しないため、節水性及び静音性に優れている。
【0041】
したがって、実施例2の水洗式便器も、便鉢2内の洗浄水の水面を良好に低下させることができる。
【0042】
以上において、本発明を実施例1及び2に即して説明したが、本発明は上記実施例1及び2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0043】
例えば、便器本体1は、便鉢2、便器排水路5及び滞留部Rが一体に形成されたものでも良い。
また、吸排気装置20は、吸引タンク21の隔膜21Dを電気駆動により上下動させて、便器排水路5から空気を吸引し、かつ便器排水路5へ空気を排出してもよい。
また、滞留部の洗浄水の上方に、洗浄水の供給により水封可能な隙間が形成され、空気が流通するようにされていてもよい。
また、便鉢内水面低下モードにおいて、吸引タンク21の隔膜21Dの上昇高さを変更することができるようにしてもよい。この場合、便鉢2内の洗浄水の水面Lが低下する幅を変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1及び2の水洗式便器の待機時を示す模式図である。
【図2】実施例1及び2の便鉢内水面低下モードにおける排水工程を示す模式図である。
【図3】実施例1及び2の便鉢内水面低下モードにおける安定工程を示す模式図である。
【図4】実施例1及び2の便鉢内水面低下モードにおける低下水面形成工程示す模式図である。
【図5】実施例1及び2の便鉢内水面復帰モードにおける便鉢内洗浄水増加工程を示す模式図である。
【図6】実施例1及び2の便鉢内水面復帰モードにおけるサイホン発生工程を示す模式図である。
【図7】実施例1及び2の便鉢内水面復帰モードにおけるサイホン維持工程を示す模式図である。
【図8】実施例1及び2の便鉢内水面復帰モードにおける覆水工程を示す模式図である。
【図9】実施例1の便鉢内水面低下モードを示すタイミングチャートであるである。
【図10】実施例1及び2の便鉢内水面復帰モードを示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0045】
1…便器本体
2…便鉢
5…便器排水路
10…洗浄水供給装置
20…吸排気装置
30…制御装置
H…封水部
R…滞留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便鉢と、該便鉢の下流側に連通し、該便鉢とともに封水部を形成する便器排水路と、該便器排水路の下流側に連通し、洗浄水が滞留する滞留部とを有する便器本体と、
該便鉢に洗浄水を供給する洗浄水供給装置と、
該便器排水路から空気を吸引し、かつ該便器排水路へ空気を排出する吸排気装置と、
該洗浄水供給装置及び該吸排気装置を制御する制御装置とを備えた水洗式便器において、
前記便器排水路には、前記封水部の洗浄水と前記滞留部の洗浄水とにより閉鎖空間が形成され、
前記制御装置は、前記吸排気装置が該便器排水路から該閉鎖空間の空気を吸引する時に、前記洗浄水供給装置が前記便鉢へ洗浄水を供給しない便鉢内水面低下モードを有していることを特徴とする水洗式便器。
【請求項2】
前記滞留部は、前記便鉢内水面低下モードが実行された後も滞留する洗浄水により水封されている請求項1記載の水洗式便器。
【請求項3】
前記便鉢内水面低下モードは、前記吸排気装置が前記便器排水路から前記閉鎖空間の空気を吸引した後に該便器排水路へ空気を排出する請求項1又は2記載の水洗式便器。
【請求項4】
前記制御装置は、前記便鉢内水面低下モードの実行により該便鉢内の水面が低下した後、前記洗浄水供給装置により該便鉢に洗浄水が供給され、該便鉢内の水面が上昇位置まで上昇した後、前記吸排気装置を作動させて前記便器排水路から前記閉鎖空間の空気を吸引し、その後、該洗浄水供給装置の該便鉢への洗浄水の供給を停止し、該吸排気装置が該便器排水路へ空気を排出する便鉢内水面復帰モードを有している請求項1乃至3のいずれか1項記載の水洗式便器。
【請求項5】
前記便鉢内水面低下モードは、前記吸排気装置が前記便器排水路から前記閉鎖空間の空気を吸引する前に前記洗浄水供給装置を作動させ、前記便鉢に設定量の洗浄水を供給する請求項1乃至4のいずれか1項記載の水洗式便器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−249909(P2009−249909A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98978(P2008−98978)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】