説明

水溶性固形描画材

【目的】 本発明は、画用紙などの被描画面に描画後、水を含む筆で描画跡をなぞるなどして、描画跡に水を加えることによって水彩絵の具で描画したような状態を形成できる水溶性固形描画材を提供することを目的とする。
【構成】 少なくとも顔料とワックスと常温で固体の界面活性剤とフィトステロールとを含有する水溶性固形描画材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画用紙などの被描画面に描画後、水を含む筆で描画跡をなぞるなどして、描画跡に水を加えることによって水彩絵の具で描画したような状態を形成できる水溶性固形描画材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紙面上の描画跡に水を付与すると、描画跡の一部が水に溶けたようになって、水彩画のような表現ができる固形描画材は、配合の一部に水溶性樹脂と共に常温で固体の界面活性剤を使用(特許文献1)したり、特定の界面活性剤やワックスを使用(特許文献2)しており、これによって水が付与された場合に描画跡が水に溶けて水彩画のような表現を実現している。
【特許文献1】特開平03−153778号公報
【特許文献2】特開昭63−199775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の水溶性固形描画材では、界面活性剤の親水性作用によってワックス成分を含めて水に親和するようになされているので、着色成分である顔料が紙の繊維内に浸透してしまい、水を付与した部分の発色性が劣ってしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
即ち、本発明は、少なくとも顔料とワックスと常温で固体の界面活性剤とフィトステロールとを含有する水溶性固形描画材を要旨とする。
【発明の効果】
【0005】
フィトステロールは水を抱水する機能があり、描画跡に水が付与されると顔料を取り囲んだ形で存在するフィトステロールが抱水して膨潤し、顔料が紙面に浸透し難くなり、発色を損なわないものと推察される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のフィトステロールは、植物ステロールとも呼ばれ、ステロールに分類される一群の化合物で、植物に含まれるフィトケミカルの一種である。化学構造的には、ステロールの骨格にヒドロキシ基を持つため、両親媒性を持っている。特有の臭気のある白色固体で、水に溶けないがアルコールには可溶であり、抱水性を有している。フィトステロールは、β−シトステロール、カンペステロール、スティグマステロール、ブラシカステロール等の種類がある。フィトステロールの水溶性描画材全量に対する使用量は、水溶性描画材全量に対して、1重量%以上10重量%以下であり、さらに好ましくは2重量%以上8%重量以下である。10重量%以上使用すると、水溶性描画材のタッチが硬くなる。
【0007】
顔料は、特に限定無く使用できる。有機顔料としては、C.I.PIGMENT RED2、同3、同5、同8、同17、同22、同31、同38、同41、同48:1、同48:2、同48:3、同49、同50:1、同53:1、同57:1、同58:2、同60、同63:1、同63:2、同64:1、同88、同112、同122、同123、同144、同146、同149、同166、同168、同170、同176、同177、同178、同179、同180、同185、同190、同194、同202、同206、同207、同208、同209、同211、同213、同216、同245、同254、同255、同264、同270、同272、C.I.PIGMENT ORANGE 5、同10、同13、同16、同36、同40、同43、同61、同64、同71、同73、C.I.PIGMENT VIOLET 19、同23、同31、同33、同36、同37、同38、同50、C.I.PIGMENT BLUE 2、同9、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:5、同15:6、同16、同17、同22、同25、同28、同29、同36、同60、同66、同68、同76、C.I.PIGMENT BROWN 23、同25、同26、C.I.PIGMENT YELLOW 1、同3、同12、同13、同24、同83、同93、同94、同95、同97、同99、同108、同109、同110、同117、同120、同128、同139、同147、同151、同153、同166、同167、同173、C.I.PIGMENT GREEN 7、同10、同36、C.I.PIGMENT BLACK 7等が挙げられる。これらの有機顔料は1種又は2種以上混合して使用することができ、その使用量は、インキ組成物全量に対して1重量%以上45重量%以下使用でき、十分な筆跡濃度を得る為に、好ましくは6重量%以上40重量%以下である。使用量が、少ないと筆跡が薄くなり、多くなるとインキのボールペン先からの追従性が悪くなりカスレがでたりインキが吐出しなくなることがある。
【0008】
また、無機顔料としては、黒色酸化鉄、ファーネストブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、黄色酸化鉄、赤色酸化鉄、群青、紺青、コバルトブルー、チタンイエロー、ターコイズ、モリブデートオレンジ、酸化チタン等の無機顔料が挙げられる。
これらの無機顔料は、1種又は2種以上混合して使用することができ、その使用量は、インキ組成物全量に対して1重量%以上50重量%以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは10重量%以上40重量%以下である。
【0009】
その他の顔料として、蛍光顔料、パール顔料、蓄光顔料、金属顔料、複合金属顔料、金属酸化物顔料等を使用しても良い。例えば、蛍光顔料としては、FZ−5000シリーズ(シンロイヒ(株)製)などが挙げられる。パール顔料としては、パールグレイズMRY−100や同ME−100等(日本光研化学(株)製)が挙げられる。蓄光顔料としては、GSS(根本特殊化学(株))などが挙げられる。また、金属顔料としては、筆跡の色と異なる光輝感を醸し出す目的として使用するもので、アルミニウム粉やブロンズ粉、亜鉛粉等が、具体例として、市販されているアルミニウム粉末としては、スーパーファインNo.22000、同No.18000、ファインNo.900、同No.800(以上、大和金属粉工業(株)製)等が挙げられる。
これらの顔料は、1種又は2種以上混合して使用することができ、その使用量は、インキ組成物全量に対して1重量%以上45重量%以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは10重量%以上40重量%以下である。
【0010】
ワックスは、塗布性能を向上するために使用するものであって、蜜ろう、鯨ろう、虫白ろう等の動物系ワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう等の植物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックスといった天然ワックスや、フィッシャートロプシュワックス、低分子量ポリエチレン及びこれらの誘導体、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスの各々の誘導体、セチルアルコール、ステアリン酸、ポリエチレングリコールステアレート、カスターワックス等の合成ワックス等が挙げられる。これらのワックスは、単独又は2種以上適宜混合しても使用できる。その使用量は、水溶性固形描画材全量に対して5〜50重量%が好ましい。但し、石油系ワックス、低分子量ポリエチレン及びこれらの誘導体は、一部の無機顔料と併用した場合、部分的に凝集を起こすこともあるので、このような凝集の発生しないよう適宜組み合わせることが必要である。
【0011】
常温で固体の界面活性剤は、固形描画材を水溶化するために使用するものであって、具体的には、アルキルリン酸塩、アニオン系ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ノニオン系のグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリポリオキシエチレン・ポリオキプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられ、単独又は2種以上適宜混合して使用できる。特にポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアラキニルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、ポリオキシエチレンカルナウビルエーテル、ポリオキシエチレンセリルエーテル、ポリオキシエチレンモンタニルエーテル、ポリオキシエチレンミリシルエーテル等が挙げられる。各々のポリオキシエチレンのモル数は、吸湿と可溶化のバランスから20〜50モル位が好ましく、アルキル基の炭素数も吸湿と可溶化のバランスより16〜22が好ましい。このポリオキシエチレンアルキルエーテルは、単独又は2種以上適宜混合して使用できる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの使用量は、水溶性固形描画材全量に対して10〜40重量%が好ましい。これは、10重量%より少ないとその効果が充分に得られない場合があり、また、40重量%より多いと描画材表面にベトツキが発生し易くなる為である。
【0012】
上記各成分以外、必要に応じて、増量剤若しくは充填剤として従来公知のマイカ、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、シリカ、硫酸バリウム等の体質顔料を水溶性固形描画材全量に対して5〜50重量%用いたり、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂を用いたりすることもできる。
【0013】
本発明の水溶性固形描画材は、上記各成分を加熱攪拌混合し、また必要に応じてニーダー、ロールミル等の混練機で混練し、これを冷却し粉砕ペレット化し、このペレットを、射出・圧入若しくは押し出し成形機を用いて成形し得る。
【実施例】
【0014】
実施例1
三菱カーボンMA100(三菱化学(株)製) 15重量部
カルナバロウ((株)セラニカNODA製) 34重量部
ポリオキシエチレン(20)ミリスチルエーテル( ( )内の数値は、ポリオキシエチレンのモル数を示す。以下、同じ) 37重量部
フィトステロール−FKF(エーザイフード・ケミカル(株)製) 4重量部
MSタルク(日本タルク(株)製) 10重量部
上記成分を100〜120℃で加熱混合攪拌し、クーリングベルトで冷却し、粉砕してペレット化する。このペレットをプランジャー方式の押出し成形機を用い、50℃で直径7.5mmの円柱状に押し出し、冷却後、長さ120mmに切断して黒色水溶性固形描画材を得た。
【0015】
実施例2
クロノスチタンKA−10(アナターゼ型酸化チタン、チタン工業(株)製) 6重量部
シアニンブルー4937(フタロシアニンブルー、大日精化工業(株)製) 5重量部
カスターワックスA(硬化ヒマシ油、日本油脂(株)製) 27重量部130゜Fパラフィンワックス(日本精蝋(株)製) 5重量部
ポリオキシエチレン(25)セチルエーテル 28重量部
フィトステロール−FKF(エーザイフード・ケミカル(株)製) 5重量部
ホワイトンB(炭酸カルシウム、白石カルシウム(株)製) 19重量部
ステアリン酸(小倉合成工業(株)製) 5重量部
上記成分を実施例1と同様になして赤色水溶性固形描画材を得た。
【0016】
実施例3
チタニックスJA−3(アナターゼ型酸化チタン、テイカ(株)製) 3重量部
セイカファーストカーミン6B 1476 T−7(カーミン6B、大日精化工業(株)製)
9重量部
花王T−1ワックス(ジヘプタデシルケトン、花王(株)製) 18重量部
キャンデリラワックス(東亜化成(株)製) 7重量部
ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル 22重量部
ポリオキシエチレン(30)ベヘニルエーテル 6重量部
フィトステロール−FKF(エーザイフード・ケミカル(株)製) 5重量部
MSタルク(日本タルク(株)製) 30重量部
上記成分を実施例1と同様になして赤色水溶性固形描画材を得た。
【0017】
実施例4
クロノスチタンKA−10(前述) 5重量部
ウォッチングレッド(日本ピグメント(株)製) 10重量部
牛脂硬化油(ワックス)(小倉合成工業(株)製) 10重量部
サンワックス(ポリエチレンワックス、三洋化成工業(株)製) 3重量部
ポリオキシエチレン(25)ラウリルエーテル 28重量部
フィトステロール−FKF(エーザイフード・ケミカル(株)製) 5重量部
ホワイトンB(炭酸カルシウム、白石カルシウム(株)製) 22重量部
ステアリン酸(小倉合成工業(株)製) 2重量部
マイカ 10重量部
ノバテックLL(低密度ポリエチレン樹脂、日本ポリエチレン(株)製) 5重量部
上記成分を実施例1と同様になして赤色水溶性固形描画材を得た。
【0018】
実施例5
クロノスチタンKR380(ルチル型酸化チタン、チタン工業(株)製) 2重量部
セイカイエローGH(ハンザイエローG、大日精化工業(株)製) 10重量部
12−ヒドロキシステアリン(ワックス)(KFトレーディング(株)製) 13重量部
モンタンワックス (クラリアントジャパン(株)製) 10重量部
ポリオキシエチレン(15)グリセリンステアリン酸エステル 29重量部
フィトステロール−FKF(エーザイフード・ケミカル(株)製) 6重量部
ホワイトンB(炭酸カルシウム、白石カルシウム(株)製) 20重量部
MSタルク(日本タルク(株)製) 10重量部
上記成分を実施例1と同様になして黄色水溶性固形描画材を得た。
【0019】
実施例6
チタニックスJA−3(アナターゼ型酸化チタン、テイカ(株)製) 8重量部
群青#2000(群青、第一化成工業(株)製) 15重量部
魚油硬化油(ワックス)((株)共和テクノス製) 13重量部
カスターワックス A(硬化ヒマシ油、日本油脂(株)製) 3重量部
ポリオキシエチレン(40)セチルエーテル 26重量部
フィトステロール−FKF(エーザイフード・ケミカル(株)製) 5重量部
ホワイトンB(前述) 30重量部
上記成分を実施例1と同様になして青色水溶性固形描画材を得た。
【0020】
比較例1
実施例1において、フィトステロール−FKFを除き、その分カルナバロウを追加した以外は実施例1と同様になして黒色水溶性固形描画材を得た。
【0021】
比較例2
実施例2において、フィトステロール−FKFを除き、その分カスターワックスAを追加した以外は実施例2と同様になして青色溶性固形描画材を得た。
【0022】
上記実施例1〜6及び比較例1〜2で得られた水溶性固形描画材を用いて、水溶け性試験、伸び試験を行なった。結果を表1に示す。
【0023】
発色試験:画用紙に水溶性固形描画材を用い、塗布圧300g±100gで幅2cm、長さ5cmの区間に塗布する。水を含ませた絵筆(10号画筆、ぺんてる(株)製)を用い幅2cmの描画跡に対して上下に3cmづつの区間を3往復させる。画用紙を乾燥した後、カラーコンピューター(Model SM−4、スガ試験機(株)製)にて、溶け出した部分の色のY値と彩度を測定した。尚、Y値は、数値が小さいほどが濃く、色によって異なるので、同じ色同士で比較すると、数値が小さいほうが濃いことを示す。彩度は、数値がおおきいほど、鮮やかであることを示し、黒色の場合、無彩色なので、割愛した。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料とワックスと常温で固体の界面活性剤とフィトステロールとを含有する水溶性固形描画材。
【請求項2】
前記界面活性剤として、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを使用する請求項1に記載の水溶性固形描画材。

【公開番号】特開2009−132822(P2009−132822A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310864(P2007−310864)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】