説明

水溶性近赤外蛍光材料およびマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料

【課題】近赤外光を発光し生体内イメージング法において用いることができる、量子収率の高い水溶性近赤外蛍光材料、さらには、光(蛍光)イメージング、MRI、SPECTなどを用いるマルチモーダル生体内イメージング法において用いることができる、量子収率の高いマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料を提供すること。
【解決手段】近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、および、この半導体量子ドットの表面を被覆する被覆層、を有する、水溶性近赤外蛍光材料であって、この被覆層は、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類から構成される層である、水溶性近赤外蛍光材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光を発光し、生体内イメージング法において用いることができる、量子収率の高い水溶性近赤外蛍光材料、およびマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫学の分野は、ここ数年の間に大きく発展を遂げている生命科学分野の1つである。従来は、生体から別途取り出した細胞を用いて免疫反応の検討がなされていた。これに対して最近は、細胞を別途取り出すことなく、生体内において免疫反応を可視化し、実際の生体免疫反応を調べるという技術(生体内イメージング法)が検討されている。生体を個体レベルで非侵襲的にイメージングする方法として、MRI(核磁気共鳴画像法)、X線CT、PET(ポジトロン断層法)、SPECT(単一光子放射断層撮影)等が、医学分野において癌の診断または血管造影に用いられている。また最近では、近赤外光を用いた光(蛍光)イメージング法が高感度測定法として注目されている。
【0003】
これらの生体内イメージング法においては、生体内に存在する癌組織または臓器にコントラストをつけて癌組織または臓器を可視化し、他部分とコントラストをつけてより明確に視認できるようにするため、しばしば造影剤が用いられる。例えば光イメージングにおいては蛍光性の微粒子または化合物が造影剤として用いられており、MRIにおいては核の緩和時間に影響を与えるガドリウムまたは鉄イオンなどの常磁性物質が造影剤として用いられており、PETにおいては陽電子崩壊する化合物が造影剤として用いられており、そしてPETにおいては99Tc、67Ga、68Gaといった放射性同位元素が造影剤として用いられている。このように、これらのイメージング技術においては、各イメージング技術それぞれの特性にあわせた、化学構造および特性がそれぞれ異なる造影剤を、各イメージング技術に応じて用いる必要がある。癌組織を特異的に検出するための造影剤は、MRI、PET、SPECTなどではすでに実用化されている。その一方で光イメージングにおいては造影剤の開発は非常に遅れているという問題がある。
【0004】
一方で、癌などの腫瘍部位を、光(蛍光)イメージング、MRI、PET、SPECTといった複数のイメージング技術によってマルチモーダルイメージングすることによって、画像から得られる情報の信頼性は従来に比べて格段に向上するといわれている(Nature Photonics, 487-489, 2007年)。このようなマルチモーダルイメージングにおいては、光(蛍光)イメージング、MRI、PET、SPECTといったすべてのイメージング測定法において共通に使用できる、つまり全てのイメージング測定法に対して標的対象(癌組織など)を特異的にコントラスト化および可視化することができる、マルチモーダル造影剤を使用することが必要となる。
【0005】
ところで蛍光プローブを用いる光イメージングにおいては、原理的には1分子レベルの検出が可能であり非常に高感度であるという優れた特性を有している。また、光イメージングで用いられる光イメージング装置は、価格が安くコンパクトであり、移動も比較的自由にできるという利点がある。そのため、病院での使用など臨床分野における潜在的汎用性が非常に高いものである。しかしながら現状においては、光(蛍光)イメージング装置は臨床レベルでの実用化には至っていない。光(蛍光)イメージング装置の臨床レベルにおける実用化の技術的条件としてあげられるのが、検出感度の向上と3次元での画像化であり、そのためには高感度な光造影剤が必要とされている。また生体内における光イメージングの使用においては、光の散乱による空間分解能の低下が問題となる。そのため、光イメージング技術を生体内で用いる場合は、MRI、PETまたはSPECTと併用することが望ましいと考えられる。そしてこれらの技術を併用することによって、生体内における3次元での正確な位置情報が得られることとなり、癌組織などの標的対象をより正確に検出することが可能となる。
【0006】
これまでに報告されている、光イメージング、MRI、PETおよびSPECTにおいて用いることができるマルチモーダル造影剤のほとんどが、可視部領域で発光する蛍光材料を使ったものである。しかしながら可視部領域の光は、生体内光イメージング法における使用には適していない。生体には、ヘモグロビンなどをはじめとする、可視光を吸収する内在性色素が数多く存在するため、可視光はほとんど透過しないからである。唯一、生体組織を透過できる光は、700〜900nmの近赤外光である。
【0007】
近赤外の蛍光材料として、シアニン系の有機色素(特にインドシアニン)が一般的に用いられている。しかしながらシアニン系有機色素は、水中での蛍光の量子収率は1%程と極めて低い。ここで量子収率とは、光化学反応において、1個の分子が1個の光量子を吸収し、それにより分子が反応(発光)する割合を示す値である。そのため、光イメージングにおいては、少量の使用での可視化が可能となる、より高輝度である近赤外蛍光材料の開発が望まれている。シアニン系の有機色素はまた、励起光により退色してしまうという欠点もある。
【0008】
より高輝度であり耐退色性のある蛍光材料の候補として最も有望であると考えられているものが、半導体量子ドットである。ここで「半導体量子ドット」とは、数nm〜数十nmほどの大きさの結晶であり、その結晶内に電子を閉じこめる性質を有する結晶をいう。なお半導体量子ドットは、半導体ナノ結晶とも言われることがある。ここ数年の間に、半導体量子ドットを利用した造影剤の合成研究が盛んになってきている。例えば以下に示す1)〜9)の文献は、半導体量子ドットを用いた造影剤についての論文である。
1) W. B. Beng and Y. Zang, "Multifunctional quantum-dot-based magnetic chitosan particles", Adv. Materials, 17, 23756-2380(2005);
2) H. Gu et al., "Direct synthesis of a bimodal nanosponge based on FePt and ZnS", Small, 4, 402-406(2005);
3) S. Santra et al., "Synthesis of water-dispersible fluorescent, radio-opaque, and paramagnrtic CdS:Mn/ZnS quantum dots: a multifunctional probe for bioimaging", J. Am. Chem. Soc., 127, 1656-1657(2005);
4) W. J. M. Mulder et al., "Quantum dots with a paramagnetic coating as a bimodal molecular imaging probe", Nano Lett., 6, 1-6(2006);
5) H. Yang et al., "GdIII-functionalized fluorescent quantum dots as multimodal imaging probes", Adv. Materials, 18, 2890-2894(2006);
6) G. A. F. van Tilborg et al., "Annexin A5-conugated quantum dots with a paramagnetic lipidic coating for the multimodal detection of apoptic cells, Bioconjugate Chem., 17, 865-868(2006);
7) L. Prinzen et al., "Optical and magnetic resonance imaging of cell deth and plateket activation using annexin A5-functionalized quantum dots", Nano Lett, 7, 93-100(2007);
8) W. B. Tan and Y. Zhang, "Multi-functional chitosan nanoparticles encapsulating quantum dots and Gd-DTPA as imaging probes for bio-applications", J. Nanosci. Nonotechnol.7, 2389-2393(2007);
9) S. Wang et al., "Core/shell quantum dots with high relaxivity and photoluminescence for multimodality imaging, J. Am. Chem. Soc., 129, 3848-3856(2007);
しかしながら上記1)〜9)の文献に開示される量子ドットは、可視部領域で発光する量子ドットである。そしてこのような量子ドットは、生体内における光イメージング法に用いることは非常に困難である。上述の通り生体内には、可視光を吸収するヘモグロビンまたはフラビンなどの内在性色素が多量に存在するため、可視光(400〜650nm)はほとんど透過しないからである。そして上記1)〜9)の文献はまた、生体透過性が良好である近赤外発光の量子ドットを使ったマルチモーダル造影剤については開示していない。
【0009】
一方、マルチモーダル造影剤の製造において出発物質とすることができる疎水性近赤外半導体量子ドットについては、以下の文献10)〜19)に開示されている。
10) M. A. Hines, G. D. Scholes, "Colloidal PbS Nanocrystals with size-tunable near-infrared emission: observation of post-synthesis self-narrowing of the particle size distribution", Adv. Materials, 21, 1844-1849(2003);
11) R. E. Bailey, S. Nie, " Alloyed semiconductor quantum dots: tuning the optical properties without changing the particle size", J. Am. Chem. Soc., 125 7100-7106(2003);
12) S. Kim et al., "Type II quantum dots: CdTe/CdSe(core/shell) and CdSe/ZnTe(core/shell) heterostructures", J. Am. Chem. Soc., 125 11466-11467(2003);
13) S. Kim et al., "Near-infrared fluorescent type II quantum dots for sentinel lymph node mapping", Nat. Biotech., 22, 93-96(2004);
14) R. E. Baily et al., "A new class of far-red and near-infrared biological labels based on alloyed semiconductor quantum dots", J. Nanosci. Nanotech., 6, 569-574(2004);
15) S.-W. Kim, et al., "Engineering InAsxP1-x /InP/ZnS III-V alloyed core/shell quantum dots for the near-infrared", J. Am. Chem. Soc., 127 10526-10523(2005);
16) W. Jiang et al., "Optimizing the synthesis of red- to near-IR-emitting CdS-capped CdTexSe1-x alloyed quantum dots for biomedical imaging", Chem. Mater., 18, 4845-4854(2006);
17) B.-R. Hyu, et al.,"Near-infrared fluorescence imaging with water-soluble lead salt quantum dots", J. Phys. Chem. B, 111, 5726-5730(2007);
18) H. Qian et al., "High-quality and water-soluble near-infrared photoluminescence CdHgTe/CdS quantum dots prepared by adjusting size and composition", J. Phys. Chem. C, 111, 7918-7923(2007);
19) S. Hinds et al., "Nir-emitting colloidal quantum dots having 26% luminescence quantum yield in buffer solution", J. Am. Chem. Soc., 129, 7218-7219(2007);
【0010】
このように上記文献10)〜19)は疎水性近赤外半導体量子ドットについて開示している。一方、疎水性近赤外量子ドットを水溶化し、生体内イメージング用の光造影剤として応用した例は少ない。疎水性近赤外量子ドットを水溶化した例として、2004年Bawendiらのグループは、タイプII型の近赤外量子ドットをホスフィンオリゴマーで被覆することにより、リンパ節イメージング用の光造影剤を開発している(上記文献13))。また、Nieらは2004年、合金型の近赤外量子ドットをメルカプト酢酸により表面被覆することによって水溶性の高輝度量子ドットを得ている(上記文献14)、なおこの文献14)には、イメージングデータに関する記載はない)。しかしながらこれらの方法はいずれも、毒性が問題となるホスフィンまたはメルカプト酢酸を被覆剤として用いている。そのためこれらの方法によって得られた量子ドットを生体内イメージング用として用いるには、生体毒性が問題となる。
【0011】
米国特許出願公開2005/0220714号明細書(特許文献1)には、光およびMRIの造影機能を持つ常磁性イオンドープ型半導体ナノ粒子が記載されている。これは可視部発光のデュアルモーダル量子ドットである。一方でこの特許文献1は、近赤外領域で発光する量子ドットについては記載していない。
【0012】
米国特許出願公開2005/0265922号明細書(特許文献2)には、光、MRI、PET、SPECTなどの造影機能をもつマルチモーダルナノ粒子の構造、製造法に関する概念的な内容が記載されている。一方で、特許文献2には、このようなマルチモーダルナノ粒子を具体的に合成したという実施例は示されていない。
【0013】
米国特許出願公開2007/0269382号明細書(特許文献3)には、常磁性イオンドープ型の多機能造影剤が記載されている。一方でこの特許文献3は、近赤外領域で発光する量子ドットについては記載していない。
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開2005/0220714号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開2005/0265922号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開2007/0269382号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、近赤外光を発光し生体内イメージング法において用いることができる、量子収率の高い水溶性近赤外蛍光材料、さらには、光(蛍光)イメージング、MRI、SPECTなどを用いるマルチモーダル生体内イメージング法において用いることができる、量子収率の高いマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、および
この半導体量子ドットの表面を被覆する被覆層、
を有する、水溶性近赤外蛍光材料であって、
この被覆層は、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびこのアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類から構成される層である、
水溶性近赤外蛍光材料、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0017】
上記半導体量子ドットが、CdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)からなる、コアシェル構造の半導体量子ドットであるのが好ましい。
【0018】
また、上記被覆ペプチド類が、システイン、グルタチオン、γ−Glu−ベンジル−Cys−Val、β−Asp−Cys−Gly、Glu−Cys−Gly、Asp−Cys−Gly、γ−Glu−Gly−Cys−Gly、β−Asp−Gly−Cys−Gly、Glu−Gly−Cys−Gly、Asp−Gly−Cys−Glyからなる群から選択されるペプチド類であるのが好ましい。
【0019】
上記水溶性近赤外蛍光材料は、平均粒径が2〜50nmであり、かつ単分散であるのが好ましい。
【0020】
本発明はまた、
表面が配位性有機化合物によって被覆された、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットと;システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびこのアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類と;を、溶媒中で混合する、ペプチド類被覆工程、
を包含する、水溶性近赤外蛍光材料の製造方法も提供する。
【0021】
本発明はまた、上記水溶性近赤外蛍光材料の製造方法によって製造される、水溶性近赤外蛍光材料も提供する。
【0022】
本発明はさらに、
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、
この半導体量子ドットの表面を被覆する、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびこのアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類から構成される層である、被覆層、
この被覆層に化学結合した、元素包接基、および
この元素包接基に包接された、Gd(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Cu(II)、Cr(III)、Co(II)、Ni(II)、Dy(III)、Tb(III)、Nd(III)、Fe64Cu、67Ga、68Ga、99mTc、90Y、153Sm、166Ho、186Re、188Re、165Dy、111In、201Tc、18F、77Br、123I、124I、125I、126I、131I、201Tlからなる群から選択される元素、
を有する、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料、も提供する。
【0023】
本発明はさらに、
上記水溶性近赤外蛍光材料の製造方法により得られた水溶性近赤外蛍光材料の、被覆層中に存在する反応性官能基と、元素包接基含有化合物と、を化学結合させる、元素包接基導入工程、
導入された元素包接基に、Gd(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Cu(II)、Cr(III)、Co(II)、Ni(II)、Dy(III)、Tb(III)、Nd(III)、Fe64Cu、67Ga、68Ga、99mTc、90Y、153Sm、166Ho、186Re、188Re、165Dy、111In、201Tc、18F、77Br、123I、124I、125I、126I、131I、201Tlからなる群から選択される元素を導入する、元素導入工程、
を包含する、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料の製造方法、も提供する。
【0024】
本発明はさらに、上記マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料の製造方法によって製造される、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料も提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、有機性色素と比較して輝度が高い半導体量子ドットを有している。そして水中における分散性が良好であり安定性も高いという利点、さらにペプチド類で被覆されているため生体親和性が高いという利点、を有する。そのため本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、生体内イメージング法に好適に用いることができる、生体内光イメージング法における高輝度近赤外造影剤である。本発明の水溶性近赤外蛍光材料はさらに、製造工程が簡単であり、大量合成が可能であるという利点もある。
本発明においてはさらに、この水溶性近赤外蛍光材料を用いてマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料を調製することができる。このマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、光イメージング、MRI、SPECTなどの同時測定を可能とするマルチモーダル造影剤である。本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、光、MRI、SPECTによるマルチモーダルメージングの実現を可能とするものであり、生体内イメージングの技術発展に大きく寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
水溶性近赤外蛍光材料
本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、および
この半導体量子ドットの表面を被覆する被覆層、
を有する。以下、各構成について順次説明する。
【0027】
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット
本発明の水溶性蛍光材料に含まれる半導体量子ドットは、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットが用いられる。本発明における近赤外半導体量子ドットは、バンドギャップが近赤外領域にある金属化合物から構成される。半導体量子ドットでは、電子状態が価電子帯と伝導帯からなるバンド構造をなし、基底状態で電子は価電子帯を占有している。バンドギャップ(価電子帯と伝導帯のエネルギー差)より大きなエネルギーの光を吸収することにより、価電子帯にある電子は伝導帯に励起され、粒子内には電子と正孔の対(エキシトン)が形成される。この電子と正孔の対が再結合するとき光として放射されるのが半導体量子ドットにおける蛍光である。その蛍光波長は、半導体量子ドットのバンドギャップの大きさに依存する。近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットとして、半導体量子ドットコアと、そしてこの半導体量子ドットコアを被覆するシェル部とを有する、いわゆるコアシェル構造の半導体量子ドットが好ましく用いられる。
【0028】
半導体量子ドットコアとして、II−VI族化合物半導体、III−V族化合物半導体またはIV族半導体が好ましく用いられる。III−V族化合物半導体として、例えば、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb、AlAs、AlP、AlSb、AlS等が挙げられる。II−VI族化合物半導体として、例えば、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS、HgSe、HgTe等が挙げられる。IV族半導体として、Ge、Si、Pb、さらにPbS、PbSe等が挙げられる。これらの半導体を1種で用いてもよく、また2種以上を用いてもよい。さらに、これらの半導体は2種以上の半導体からなる合金であってもよく、または混晶であってもよい。
【0029】
半導体量子ドットコアとして、II−VI族化合物半導体を用いるのがより好ましく、CdSe、CdTeまたはこれらの混合物、合金もしくは混晶を用いるのがさらに好ましい。これらの半導体は、結晶粒径の制御性に優れ、また高い発光性能を有するからである。特に、CdSeおよびCdTeの混合物、合金もしくは混晶を用いるのが好ましい。これらの混合物、合金もしくは混晶は、SeおよびTeの比率を調整することによって、発光帯をより高波長域へ調整することができるからである。特に、半導体量子ドットコアが、CdSe1−xTe(式中x=0.2〜1であり、より好ましくは0.2〜0.8である)である場合は、その発光帯の範囲が、光(蛍光)イメージングにより適した範囲となり、より好ましい。
【0030】
半導体量子ドットコアの調製方法として、例えば下記方法が挙げられる。
(1)原料水溶液を非極性有機溶媒中の逆ミセルとして存在させ、逆ミセル相中にて結晶成長させる方法(逆ミセル法)。例えばB.S.Zouら;Int.J.Quant.Chem.,72巻,439(1999)に記載されている、公知の方法である。比較的安価かつ化学的に安定な塩を原料とすることができ、しかも水の沸点を超えない比較的低温で行われるため、工業生産に適した方法である。但し、下記のホットソープ法の場合に比べて現状技術では発光特性に劣る場合がある。
(2)熱分解性原料を高温の液相有機媒体に注入して結晶成長させる方法(ホットソープ法)。例えば前記のJ.E.B.Katariら著の文献に記載される、公知の方法である。上記の逆ミセル法に比べて粒径分布と純度に優れた半導体結晶粒子が得られ、そして得られる生成物は発光特性に優れ有機溶媒に通常可溶であるという特徴がある。ホットソープ法における液相での結晶成長の過程の反応速度を望ましく制御する目的で、半導体構成元素に適切な配位力のある配位性有機化合物が、液相成分(溶媒と配位子を兼ねる)として選択される。このような配位性有機化合物の例としては、トリアルキルホスフィン類、トリアルキルホスフィンオキシド類、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のω−アミノアルカン類などが挙げられる。
(3)酸塩基反応を駆動力として半導体結晶やその前駆体を、水やエタノールなどのプロトン性溶媒中において100℃以下程度の比較的低い温度で生成させる工業生産に適した方法(ゾル−ゲル法)。
【0031】
上記調製方法のうち、(2)ホットソープ法を用いるのが好ましい。発光特性がより優れる半導体量子ドットコアを調製することができるからである。また、L. Qum and X. Peng, J. Am. Chem. Soc., 124, 2049(2002)においても、トリアルキルホスフィンオキシド類によって被覆された半導体量子ドットの調製方法が開示されている。
【0032】
半導体量子ドットコアは、約1nm〜約50nmの粒径を有するのが好ましく、約1nm〜約20nmの粒径を有するのがより好ましく、約1nm〜約5nmの粒径を有するのがさらに好ましい。上記範囲の粒径を有することによって、良好な発光特性を有する水溶性蛍光材料を得ることができる。
【0033】
半導体量子ドットコアを被覆するシェル部は、バンドギャップ(禁制帯幅)が、半導体量子ドットコアのバンドギャップよりも大きな半導体を含む。シェル部にこのような半導体を用いることによって、半導体量子ドットにエネルギー的な障壁が形成され、これにより良好な発光性能が得られることとなる。詳しくは、シェル部の半導体のバンドギャップが、コア部のバンドギャップより大きいことによって、コアで生じた電子と正孔の対がコア部にとじこめられ、これにより半導体表面には出てこなくなる。そのため、光吸収によって生じた電子と正孔が、半導体表面でクエンチされることなく、再結合し蛍光として放射されることとなり、これにより良好な発光性能が得られることとなる。例えばシェル部を有さない、コア部のみの量子ドットである場合は、電子と正孔が半導体表面で酸素や水分子でクエンチされてしまい、これにより蛍光強度および輝度が小さくなると考えられる。
【0034】
シェル部に好ましく用いられる半導体は、用いられる半導体量子ドットコアのバンドギャップにも依存するが、例えばZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、MgS、MgSe、GaAs、GaN、GaP、GaAs、GaSb、HgO、HgS、HgSe、HgTe、InAs、InN、InP、InSb、AlAs、AlN、AlP、AlSbからなる群から選択される1種またはそれ以上の半導体、またはそれらの合金もしくは混晶が好ましく用いられる。
【0035】
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットとして、より好ましくは、CdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)、CdTeコア/CdSeシェル、CdSeコア/CdSシェル、CdSeコア/ZnSシェル、InAsコア/CdSaシェル、CdSコア/CdTeSeシェル、CdHgTeコア/CdSシェルからなる、コアシェル構造の半導体量子ドットが挙げられる。これらの半導体量子ドットは、生体内イメージング法の使用においてより好適な範囲の発光帯を有しているからである。
【0036】
コアシェル構造を有する半導体量子ドットは、2段階方法により好ましく調製される。これは、上記方法により得られた半導体量子ドットコアに、シェル部に含まれる半導体の溶液を添加することにより、半導体量子ドットコアを被覆するシェル部を形成することができる。なおこの調製方法は、B. O. Dabbousi, J. Rodriguez-Viejo, F.V. Mikulec, J. R. Heine, H. Mattoussi, R. Ober, K.F. Jensen, M. G. Bawendi, J. Phys. Chem. B, 101, 9463(1997)などに記載されており、公知である。
【0037】
コアシェル構造を有する半導体量子ドットは、約1nm〜約100nmの粒径を有するのが好ましく、約1nm〜約40nmの粒径を有するのがより好ましく、約1nm〜約10nmの粒径を有するのがさらに好ましい。上記範囲の粒径を有することによって、近赤外範囲おける発光帯を得ることができる。
【0038】
本発明で用いられる、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットの発光帯は、波長700〜1400nmの範囲であるのが好ましく、波長700〜900nmの範囲であるのがより好ましい。上記範囲の波長の光、特に波長700〜900nmの範囲の光は、生体に対して優れた透過性を示すからである。波長が700nm未満である場合は、ヘモグロビンなどの可視光を吸収する生体内在性色素によって吸収されてしまい、生体を透過することができない。一方で、波長が900nmを超えると、水分子の振動吸収が生じ、透過率は再び低下する傾向にある。そして1400nmを超えるとほとんど透過しなくなる。本発明で用いられる、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットの発光帯の波長が上記範囲であることによって、光による生体内イメージング法において良好に用いることができる、近赤外領域で蛍光を発する高輝度な光造影剤が得られることとなる。
【0039】
本発明においては、半導体量子ドットとして、その表面を配位性有機化合物で被覆されているものが用いられる。配位性有機化合物として、例えば、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)などのトリアルキルホスフィンオキシド類、トリオクチルホスフィン(TOP)、トリブチルホスフィン(TBP)などのトリアルキルホスフィン類、またはヘキサデシルアミンなどのω−アミノアルカン類などが挙げられる。半導体量子ドットはその表面の反応性が非常に高いため、一般にトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)またはトリオクチルホスフィン(TOP)などの配位性有機化合物によって表面が被覆され、安定化されている。しかしながら、配位性有機化合物によって被覆された半導体量子ドットは疎水性が非常に高く、クロロホルムやヘキサンなどの有機溶媒にしか分散させることができない。そしてこのように水には分散させることができない、配位性有機化合物によって被覆された半導体量子ドットは、本発明においては被覆層によって被覆されることによって、水に分散させることが可能となる。
【0040】
なお、本発明においては、近赤外領域における高い発光性能からコアシェル型の半導体量子ドットが好ましく用いられるが、近赤外領域において高い発光性能を有する半導体量子ドットであればコアシェル型のものに限定されるものではない。例えば、ドープ型半導体量子ドットなどを用いてもよい。
【0041】
被覆ペプチド類
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットは、上述したとおり、その表面にトリオクチルホスフィンオキシドまたは長鎖アルキルアミンなどの配位性有機化合物が結合しており、疎水性が高く水には不溶である。そのため、この半導体量子ドットを生体で使用するためには、半導体量子ドットに水溶化処理を行い水溶性とし、生体での分散安定性を向上させる必要がある。さらには、生体で用いる材料であるため、水溶化処理に用いる処理剤は毒性の低いものである必要がある。
【0042】
本発明においては、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットを水溶化するため、被覆物として、アミノ酸であるシステイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される、システインまたはペプチド(被覆ペプチド類)を用いることとした。なお本明細書における「ペプチド類」および「被覆ペプチド類」には、上記ペプチドおよびシステインが含まれることとする。そしてこの被覆ペプチド類を、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットの被覆処理剤として用いることによって、水中分散性および生体親和性が高く、そして生体毒性の低い水溶性近赤外蛍光材料が得られることとなった。
【0043】
本発明で用いられる被覆ペプチド類は、システイン残基を有することによって、システイン残基中のチオール基が近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットの表面に配位し、これにより被覆ペプチド類が半導体量子ドットの表面を被覆することとなる。そして被覆ペプチド類はチオール基以外にも幾つかの親水基を有するため、半導体量子ドットの表面が被覆ペプチド類によって被覆されることによって水分散性が向上することとなる。被覆ペプチド類はまたペプチド類であることから、生体親和性が高く、生体に対する安全性が高い。さらにペプチド類が有するアミノ基およびカルボキシル基が半導体量子ドット被覆層表面に存在することとなるため、抗体または蛋白質などの様々な生体分子の修飾が可能となるという優れた利点も有している。
【0044】
上記システイン残基を有するペプチドは、1〜4のアミノ酸残基から構成されこのアミノ酸残基中に1つのシステイン残基が含まれるペプチドであるのがより好ましい。2〜8のアミノ酸残基から構成され、そしてこのアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドの具体例として、例えば以下のペプチドが挙げられる:
γ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン(還元型))、
γ−Glu−ベンジル−Cys−Val、
β−Asp−Cys−Gly、
Glu−Cys−Gly、
Asp−Cys−Gly、
γ−Glu−Gly−Cys−Gly、
β−Asp−Gly−Cys−Gly、
Glu−Gly−Cys−Gly、
Asp−Gly−Cys−Gly、
など。本発明においては、被覆ペプチド類として、システインまたはグルタチオン(還元型)を用いるのがさらに好ましい。システインは、必須アミノ酸の1種であり安全性が高く、また安価であるため、生体内光イメージングにおける使用に特に適しているからである。またグルタチオン(還元型)は、生体由来のペプチドであり安全性が高く、ペプチドの中では安価であり、さらにプロテアーゼ耐性を有するため、生体内光イメージングにおける使用に特に適しているからである。
【0045】
水溶性近赤外蛍光材料およびその調製
本発明の近赤外蛍光材料は、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットの表面が被覆層によって被覆された構造を有する。この近赤外蛍光材料は、表面が配位性有機化合物によって被覆された、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットと、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類とを、溶媒中で混合することによって調製することができる(ペプチド類被覆工程)。混合方法は特に限定されるものではなく、任意の混合方法を用いることができる。
【0046】
表面が配位性有機化合物によって被覆された、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットと被覆ペプチド類との混合における温度は、特に限定されるものではない。例えば0〜70℃、好ましくは10〜60℃、より好ましくは室温〜60℃など、の穏やかな条件下であっても良好に混合することができる。混合時間は、超音波処理を用いる場合は、例えば2秒〜30分の間で適宜選択することができる。超音波処理を用いない場合は、例えば10分〜24時間の間で適宜選択することができる。
【0047】
混合に用いられる溶媒は、任意の有機溶媒、そして有機溶媒と水溶媒の混合溶媒などを用いることができる。用いることができる有機溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの有機溶媒は1種のみを単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。これらのうち、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒などが作業性の面などから特に好ましく用いられる。
【0048】
混合に用いられる半導体量子ドットと被覆ペプチド類との重量比は、用いる半導体ナノ結晶の粒径にも依存するが、一般に1:1〜1:100程であり、1:1〜1:50であるのがより好ましい。
【0049】
半導体量子ドットと被覆ペプチド類との混合処理により得られた生成物は、必要に応じて精製操作(透析または濾過など)を行ってもよい。また、半導体量子ドットと被覆ペプチド類との混合処理により得られた生成物に対して、カリウムt−ブトキシド、リチウムジイソプロピルアミド、カリウムヘキサメチルジシラジド、リチウム2,2,6,6−テトラメチルピペリジドなどの強塩基を加えてもよい。これらの強塩基を加えることによって、被覆ペプチド類のC末端カルボン酸(COOH)を脱プロトン化することができ、これにより中性の水に容易に溶解・分散させることができるからである。なおこれらの強塩基を用いない場合であっても、得られた生成物は、アルカリ水溶液(例えば0.1MのNaOH水溶液またはKOH水溶液など)に溶解・分散させることができる。
【0050】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、約2nm〜約100nmの粒径を有するのが好ましく、約2nm〜約50nmの粒径を有するのがより好ましい。水溶性近赤外蛍光材料の平均粒径が上記範囲であることによって、良好な発光特性を得ることができる。本発明の水溶性蛍光材料の粒径の測定には、レーザーを用いた動的光散乱法または蛍光相関分光法(FCS)を用いて求めている。ここで動的光散乱法は、溶液中の粒子のブラウン運動を光散乱法により検出し、粒子の大きさを算出する方法である。また蛍光相関分光法は、蛍光強度の揺らぎの自己相関からその分子の大きさを評価する方法である。蛍光相関分光法(FCS)を用いて水溶性蛍光材料の粒径を測定することによって、被覆層をも含めた水溶性蛍光材料自体の大きさが評価できるという利点がある。動的光散乱装置としてMalvern社またはシンメックス株式会社の動的光散乱装置などを用いることができる。またFCS測定装置として、例えば浜松ホトニクス社の蛍光相関分光装置などを用いることができる。
【0051】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、単分散であるのがより好ましい。本明細書において「水溶性近赤外蛍光材料が単分散である」とは、上記動的光散乱法によって測定した平均粒径、および蛍光相関分光法(FCS)によって測定した平均粒径の粒径ピークが1つのピークを示すものであり、かつ、上記動的光散乱法によって測定した平均粒径と、蛍光相関分光法(FCS)によって測定される平均粒径とが高割合で一致することを意味する。なお、水溶性近赤外蛍光材料が単分散でない場合、つまり粒径のばらつきが大きい場合は、発光スペクトルがブロードになり輝度が劣ることとなるという不具合がある。
【0052】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料においては、水溶性近赤外蛍光材料に含まれる半導体量子ドットが、CdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)からなるコアシェル構造の半導体量子ドットであって、被覆層がシステインまたはグルタチオン(還元型)であるのが特に好ましい。半導体量子ドットとしては、可視領域に発光帯を有するものも存在する。しかしながら、可視領域に発光帯を有する半導体量子ドットを、システインまたはグルタチオンで被覆すると、蛍光の量子収率が被覆前と比較して1/10〜1/20までに低下してしまうという問題がある。これに対して、近赤外領域に発光帯を有するCdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)からなるコアシェル構造の半導体量子ドットを、システインまたはグルタチオンで被覆した場合は、蛍光の量子収率が被覆前と比較して6/10程度にしか低下せず、蛍光量子収率が高い割合で保持できることが明らかとなった。可視領域に発光帯を有する上記コアシェル構造の半導体量子ドットをシステインまたはグルタチオンで被覆する場合は、可視領域に発光帯を有する半導体量子ドットをシステインまたはグルタチオンで被覆する場合と比較して蛍光量子収率が低下しない理由は明らかではない。しかしながらこの蛍光量子収率の結果は、CdSe1−xTeコア/CdSシェルからなるコアシェル構造の半導体量子ドットを、システインまたはグルタチオンで被覆するという組み合わせが、水溶性近赤外蛍光材料の調製に非常に適していることを裏付けするデータである。
【0053】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、生体内での使用が可能である近赤外領域に発光帯を有し、かつこの発光性能が高く、高輝度であり、さらに耐退色性が優れるという特徴を有している。本発明の水溶性近赤外蛍光材料はさらに、その表面が被覆ペプチド類によって被覆されている。そしてこの被覆ペプチド類は、幾つかの親水基を有するため、水分散性が高いという性質を有する。また、被覆ペプチド類はアミノ酸またはペプチドであることから、生体親和性が高く、生体に対する安全性が高い。特に本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、従来から用いられているインドシアニン系の近赤外蛍光試薬と比較して、輝度が10〜100倍ほど高いためより高感度であり、かつ励起光により退色しないため、光(蛍光)イメージングの長時間測定を可能とするという優れた利点を有している。なお本発明の水溶性近赤外蛍光材料の輝度が、インドシアニン系の近赤外蛍光試薬の輝度と比較して100倍ほどにも高くなる理由として、(1)インドシアニン系の近赤外蛍光試薬の量子収率が1%程度であるのに対して、本発明の水溶性近赤外半導体量子ドットの量子収率は10%以上であること、および(2)本発明の水溶性近赤外半導体量子ドットのモル吸光係数は、インドシアニン系の近赤外蛍光試薬のモル吸光係数と比較して10倍ほどであること、が挙げられる。このため[(1)の量子収率が10倍であること]×[(2)モル吸光係数が10倍であること]=[輝度が100倍]となり、本発明の水溶性近赤外蛍光材料の輝度が、インドシアニン系の近赤外蛍光試薬の輝度と比較して100倍ほどにも高くなることとなる。そしてこのような優れた特徴を有する本発明の水溶性近赤外蛍光材料を光(蛍光)イメージングの造影剤として用いることによって、価格が安くコンパクトであり移動も比較的自由にできるという利点がある、光(蛍光)イメージングの検出感度を向上させることができる。従って本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、光(蛍光)イメージングの臨床レベルでの実用化および普及に大きく寄与するものである。本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、遺伝子改変によるヒト病態モデルの作成が盛んに行われているマウス等小動物での生体内イメージング用近赤外造影剤として用いることができる。本発明の水溶性近赤外蛍光材料はまた、将来的には、乳癌または甲状腺癌の検出、センチネルリンパ節のイメージングなど、ヒトを対象とした医療診断分野での生体内イメージングにおける使用が考えられる。
【0054】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料はさらに、被覆ペプチド類が有するアミノ基およびカルボキシル基が半導体量子ドット被覆層表面に存在するため、抗体、リガンドまたは薬物などの様々な成分を水溶性近赤外蛍光材料に修飾することが可能となるという優れた利点も有している。例えば、水溶性近赤外蛍光材料に抗体またはレセプターに対するリガンドを結合させて導入することによって、生体内における、腫瘍または特定組織の光(蛍光)イメージングが可能となるという利点がある。また、例えば、水溶性近赤外蛍光材料に薬物を結合させ導入することによって、生体内における、薬物動態の光(蛍光)イメージングが可能となるという利点がある。これらの抗体、リガンドまたは薬物の水溶性近赤外蛍光材料への導入は、以下の元素包接基導入において用いることができる縮合剤を用いて、元素包接基導入手順と同様に、簡便に行うことができる。さらには、上記水溶性近赤外蛍光材料に包接基含有基を導入し、次いで特定の元素を導入することによって、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料を得ることもできる。これについては以下の「マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料およびその調製」において詳述する。
【0055】
なお、従来技術として、半導体量子ドットを蛍光プローブとして使用するため、半導体量子ドットの表面を親水的官能基で化学修飾することにより、水溶性の半導体量子ドットを得る研究が行われている。このような化学修飾法として、以下の2つのタイプが挙げられる。第1のタイプは、チオール系の両親媒性化合物により、半導体量子ドット表面の疎水的被覆剤を置換して水溶化する方法であり、第2のタイプは、両親媒性のポリマーにより半導体量子ドット表面を被覆し水溶化する方法である。第1のタイプの方法においては、粒子サイズの小さい水溶半導体量子ドットを得ることができるものの、発光効率が著しく低下するという欠点がある。また第2のタイプの方法によって得られる水溶性半導体量子ドットは、第1のタイプの方法に比べて発光効率は一般に高くなるが、粒子サイズが大きくなってしまう問題がある。さらに、第1のタイプの方法では、製造工程において、毒性または腐食性を有するチオール系の試薬を使用する必要があり、そのため製造設備などのコストがかかるという問題もある。また第2のタイプの方法では、用いられるポリマー系被覆剤が高価であること、そして水溶性半導体量子ドットの調製に長時間を要することなどの問題もある。
【0056】
これに対して本発明においては、まず、近赤外領域に発光帯を有しかつ高輝度である半導体量子ドットを、上記配位性有機化合物によって被覆された状態で調製し、次いで得られた半導体量子ドットを、上記被覆ペプチド類によって被覆することによって調製することを特徴とする。これにより、得られるペプチド類被覆半導体量子ドットは表面をペプチド類の単分子層で覆われた構造となり、そして近赤外領域に発光帯を有し、かつ発光効率に優れており高輝度であるという性能が達成されることとなる。
【0057】
上記の通り、本発明においては、近赤外領域に発光帯を有しかつ高輝度である半導体量子ドットを、上記配位性有機化合物によって被覆された状態で調製し、次いで得られた半導体量子ドットを、上記被覆ペプチド類によって被覆することによって調製することを特徴とする。ペプチド類被覆半導体量子ドットの調製方法の他の例として、例えば、配位性有機化合物による被覆を経ることなく、量子ドット調製の際に、直接、ペプチド類被覆を行う手法も考えられる。しかしながら、現在のところ、このような方法によって、近赤外領域に発光帯を有するペプチド類被覆半導体量子ドットが調製されたという報告は全くなされていない。さらにこのような、量子ドット調製の際に、直接、ペプチド類被覆を行う手法は、量子ドットがコア構造の量子ドットでないと困難であるという問題がある。つまり、コアシェル構造の量子ドットにおいては、量子ドット調製の際に、直接、ペプチド類被覆を行うことは困難である。さらに、量子ドット調製の際に直接ペプチド類被覆を行う手法によって得られるペプチド類被覆量子ドット(例えば可視領域に発光帯を有するペプチド類被覆量子ドット)は、量子ドットの蛍光スペクトルの半値幅が広く、そして輝度が低いという、性能上の欠点がある。
【0058】
これに対して本発明においては、上記の通り、近赤外領域に発光帯を有しかつ高輝度である半導体量子ドットを、配位性有機化合物によって被覆された状態で調製し、次いで得られた半導体量子ドットを、被覆ペプチド類によって被覆することによって調製することを特徴とする。これにより、得られるペプチド類被覆半導体量子ドットは表面をペプチド類の単分子層で覆われた構造となり、そして近赤外領域に発光帯を有し、かつ発光効率に優れており高輝度であるという性能が達成されることとなる。本発明における方法による利点は以下の通りである。
1)ペプチド類で被覆された近赤外半導体量子ドットの合成が可能である。
2)輝度の高い水溶性近赤外半導体量子ドット(インドシアニングリーンの量子収率が1%程度であるのに対して、本発明の水溶性近赤外半導体量子ドットの量子収率は10%以上である)の合成が可能である。
3)反応時間および温度による半導体結晶のサイズ制御が容易であり、発光波長のピークを700〜850nmに有する近赤外半導体量子ドットの合成が可能である。
4)合成に用いる反応前駆体の調製が容易で、合成手順が簡便である。
5)水溶性近赤外半導体量子ドットの大量合成が容易である。
【0059】
マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料およびその調製
本明細書におけるマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料とは、光(蛍光)イメージング、MRI、SPECTといった複数(2またはそれ以上)のイメージング技術によるマルチモーダルイメージングに用いることができる水溶性近赤外蛍光材料を意味する。そして本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、
この半導体量子ドットの表面を被覆する、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよびアミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類から構成される層である、被覆層、
この被覆層に化学結合した、元素包接基、および
元素包接基に包接された元素、
を有する。つまり、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットが被覆層によって被覆された上記の水溶性近赤外蛍光材料に、さらに、元素包接基が導入されており、そしてこの元素包接基に元素が包接された構造を有する。そしてこのマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、下記工程:
水溶性近赤外蛍光材料の、被覆層中に存在する反応性官能基と、元素包接基含有化合物と、を化学結合させる、元素包接基導入工程、
導入された元素包接基に、元素を導入する、元素導入工程、
によって調製することができる。
【0060】
元素包接基の導入に用いられる元素包接基含有化合物は、元素包接基を有しており、かつ、被覆層中に存在する反応性官能基(アミノ基またはカルボン酸基など)と反応する基を有している化合物であれば、特に制限なく用いることができる。本発明で用いることができる元素包接基含有化合物として、具体的には以下の化合物が挙げられる。なお元素包接基含有化合物は、後に導入する造影剤としての元素の種類および大きさに応じて、適宜選択することができる。
【0061】
【化1】

【0062】
上記の元素包接基含有化合物は、何れもカルボン酸基を有している。このカルボン酸基は、被覆層中に存在する反応性官能基(アミノ基)と縮合反応してアミド結合を形成する。これにより、反応性官能基が被覆層に化学結合されることとなる。なお本明細書における「元素包接基」は、上記元素包接基含有化合物と、被覆層中に存在する反応性官能基(アミノ基)とが化学結合した際における、元素包接基含有化合物の残基であって、元素包接基が形成する三次元的な空間中に、元素を閉じ込める性質を有する基を意味する。
【0063】
被覆層中に存在する反応性官能基と、元素包接基含有化合物と、を化学結合させて、元素包接基を導入する反応には、通常知られている縮合剤を用いることができる。用いることができる縮合剤として、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)などのカルボジイミド系縮合剤、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリン塩酸塩などのトリアジン系縮合剤など、さらにはアミニウム系縮合剤、ホスホニウム系縮合剤、ジヒドロキノン系縮合剤などを用いることができる。これらの反応において、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)、N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)などの脱水縮合添加剤を用いてもよい。
【0064】
また、上記元素包接基含有化合物は、活性エステルなどの誘導体であってもよい。例えば元素包接基含有化合物がDOTAである場合は、DOTA−NHS−エステル(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸モノ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)などの活性エステルを用いることができる。このような活性エステルを用いることによって、縮合剤を用いることなく、被覆層に元素包接基をより簡便に導入することができるという利点がある。
【0065】
この元素包接基導入工程に用いられる溶媒は、水、または水と必要に応じた有機溶媒との混合物が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。反応温度および反応時間などの反応条件は、被覆ペプチド類の種類等によって適宜選択することができる。例えば反応温度0〜40℃、反応時間5分〜24時間の範囲で適宜選択することができる。
【0066】
こうして導入された元素包接基に、造影剤として用いることができる元素を包接させることによって、マルチモーダル水溶性赤外蛍光材料が得られることとなる。導入される元素の種類は、MRI(核磁気共鳴画像法)、X線CT、SPECT(単一光子放射断層撮影)などの各イメージング法において造影剤として用いることができる元素であれば特に限定されない。例えばMRIにおいて造影剤として用いることのできる元素として、Gd(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Cu(II)、Cr(III)、Co(II)、Ni(II)、Dy(III)、Tb(III)、Nd(III)、Feなどの常磁性元素または強磁性元素が挙げられる。
例えばSPECTにおいて造影剤として用いることができる元素として、64Cu、67Ga、68Ga、99mTc、90Y、153Sm、166Ho、186Re、188Re、165Dy、111In、201Tc、18F、77Br、123I、124I、125I、126I、131I、201Tlなどの放射性同位元素が挙げられる。
これらの造影剤としての元素の導入は、元素包接基が導入された水溶性近赤外蛍光材料を水中に分散させた溶液へ、上記元素塩の水溶液を添加するなどといった方法によって、簡便に導入することができる。
【0067】
本発明のマルチモーダル水溶性赤外蛍光材料の概念構造式を以下に示す。なお以下の式はあくまでも概念構造式であり、元素包接基の数などは下記概念構造式に限定されるものではない。
【0068】
【化2】

【0069】
本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、上記した水溶性近赤外蛍光材料の利点(近赤外領域に発光帯を有し、発光性能が高く、高輝度であり、耐退色性に優れ、生体親和性および生体安全性が高い)を備えつつ、さらに、光(蛍光)イメージング法と、MRI(核磁気共鳴画像法)、X線CTまたはSPECT(単一光子放射断層撮影)などとを組み合わせたマルチモーダルイメージングの造影剤として用いることができるという、優れた利点を有している。本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料を、マルチモーダルイメージングにおいて造影剤として用いることによって、生体内における3次元での正確な位置情報が得られることとなり、癌組織などの標的対象をより正確に検出することができるという利点がある。このように本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、光(蛍光)イメージング法と、MRI、X線CTまたはSPECTなどとを組み合わせたマルチモーダルイメージングを可能とするものであり、生体内イメージングの技術発展に大きく寄与するものである。
【実施例】
【0070】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0071】
実施例1
システイン被覆水溶性近赤外半導体量子ドット(水溶性近赤外蛍光材料)の調製
疎水性近赤外半導体量子ドットCdSe0.75Te0.25/CdS(コア/シェル構造)を、R. E. Bailey, J. B. Strausburg, S. Nie, J. Nanosci. Nanotech. 4 569(2004)の方法を改良し、1段階で合成した。
酸化カドミウム(CdO)20mgとステアリン酸250mgを25ml三口フラスコに入れアルゴン雰囲気下で300℃に熱し、酸化カドミウムを溶解した。一旦温度を150℃に下げ、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)2gとヘキサデシルアミン(HAD)2gを加えた。再び混合物を300℃に熱し5分間放置した。次に、溶液を撹拌しながら0.5mlのSe/Te前駆体(Se 25mgとTe 13mgを溶解したテトラブチルホスフィン溶液)を注射器で素早く加えた。直ちに溶液の温度を250℃に下げ、結晶成長の進行具合を蛍光スペクトルよりモニターした。約5分後、波長770−790nm付近にピークを有する半導体結晶が生成した。蛍光スペクトルにより半導体結晶の生成を確認後、反応を停止させるため温度を200℃に下げた。
次にCdSシェル部の形成反応を行った。溶液を撹拌しながら200℃において、0.25mlのCd/S前駆体(CdO 150mgおよび硫黄 40mgを溶解したトリオクチルホスフィン溶液 10ml)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、溶液の温度を100℃に下げて1時間撹拌した。その後、温度を60℃に下げクロロホルム20mlを加えた。さらにメタノール20mlを加えCdSe0.75Te0.25/CdS半導体結晶を析出させた。得られた半導体結晶は疎水性が高く、水には溶解しない。結晶は遠心器により分離し、室温で乾燥させた。
得られた、CdSe0.75Te0.25/CdS結晶 5mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解し、室温でこれにシステイン水溶液(20mg/ml)1mlを滴下した。滴下終了後、溶液の温度を60℃にして約5分間放置した。生じた沈殿を遠心器により分離し、上澄み溶液を除いた。生じた沈殿物に、カリウムt−ブトキシド10mgおよび水2mlを加え、30秒間超音波処理し溶解させた。溶液は、黒褐色の水溶液になった。この溶液をホウ酸緩衝液(pH8.2)で透析し、過剰のカリウムt−ブトキシドを除いた。透析した溶液を0.2ミクロンのフィルターで濾過することにより、単分散のシステイン被覆近赤外半導体量子ドット(CdSe0.75Te0.25/CdS)である水溶性近赤外蛍光材料の水溶液を得た。
【0072】
システイン被覆による蛍光スペクトル変化
トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)などの配位性有機化合物で被覆された疎水性量子ドットを配位子交換により水溶化する場合、問題となるのが著しい輝度の低下である。たとえば、CdSe/ZnS量子ドットをチオール系化合物であるメルカプトプロピオン酸などで被覆する場合には、蛍光輝度が約1/10から1/20までに減少することが報告されている(Chem. Commun., 2829-2931(2005))。本発明における被覆法の有効性を確認するため、システイン被覆した場合の近赤外半導体量子ドット(CdSe0.75Te0.25/CdS)の蛍光スペクトル変化を日本分光FP-6200により測定した(図8)。その結果、被覆後の蛍光輝度は被覆前に比べ約65%という高い割合で保持されることが明らかとなった。また、蛍光ピークは3nm短波長にシフトしたのみでスペクトル幅はほとんど変化しなかった。このことは、システイン被覆による水溶化に際して、被覆前の近赤外半導体量子ドットの蛍光スペクトル特性が保持されたことを示している。
【0073】
実施例2
グルタチオン被覆水溶性近赤外半導体量子ドット(水溶性近赤外蛍光材料)の調製
実施例1と同様に調製した、CdSe0.75Te0.25/CdS結晶 5mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解し、室温でこれに還元型グルタチオン水溶液(20mg/ml)1mlを滴下した。滴下終了後、溶液の温度を60℃にして約5分間放置した。生じた沈殿を遠心器により分離し、上澄み溶液を除いた。生じた沈殿物に、カリウムt−ブトキシド10mgおよび水2mlを加え、30秒間超音波処理し溶解させた。溶液は、黒褐色の水溶液になった。この溶液をホウ酸緩衝液(pH8.2)で透析し、過剰のカリウムt−ブトキシドを除いた。透析した溶液を0.2ミクロンのフィルターで濾過することにより、単分散のグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドット(CdSe0.75Te0.25/CdS)である水溶性近赤外蛍光材料の水溶液を得た。
【0074】
グルタチオン被覆水溶性近赤外半導体量子ドットの蛍光スペクトル
グルタチオン被覆した場合の近赤外半導体量子ドット(CdSe0.75Te0.25/CdS)の蛍光スペクトル変化を日本分光FP-6200により測定した(図9)。この場合も、システインで被覆したときと場合と同様、蛍光輝度は約65%という高い割合で保持されたことが確認された。またグルタチオン被覆後、蛍光波長のピークは5nm長波長にシフトするがスペクトル幅はほとんど変化しない。この事から、グルタチオン被覆の場合もシステイン被覆の場合と同様に、水溶化に際し被覆前の近赤外半導体量子ドットの蛍光スペクトル特性は保持されると結論できる。
【0075】
水中での粒径および分散性の評価
グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットのサイズおよび分散性は、動的光散乱装置(Malvern, Nano-ZS)および蛍光相関分光装置(浜松ホトニクス、C9413−01MOD)を用いて評価した。633nmのHe−Neレーザーを用いた動的光散乱法によって、水中におけるグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットの流体力学的粒径を測定した。その結果、粒径は、約10nmであった(図1)。また、水中における分散性の評価は蛍光相関分光法装置により評価した。グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットの水中における蛍光相関曲線はほぼ単一成分の並進拡散に基づく相関関数で近似でき、拡散時間は0.4msであった(図2)。この値から見積もられる、グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットの流体力学的粒径は、動的光散乱法により得られる結果とほぼ一致し、単分散粒子として存在していると結論できる。
【0076】
実施例3
グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットへの牛血清アルブミンの修飾
実施例2のグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットのリン酸緩衝液(1μM,pH=7.4)4mlに、クロスカップリング試薬であるEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩)50μl(10mM)を加えた。10分後、牛血清アルブミン(10mg/ml)1mlを加え、30分間インキュベーションした。その後、透析膜(分子量10万)を用いて、過剰のEDCおよび牛血清アルブミンを除き、牛血清アルブミンを表面修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットを得た。
【0077】
実施例4
グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットへの抗体の修飾
実施例2のグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットのリン酸緩衝液(0.1μM,pH=7.4)20μlに、クロスカップリング試薬であるEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩)2.5μl(0.1mM)を加えた。10分後、Anti−UCAM−1抗体(70μg/ml)20μlを加え、30分間インキュベーションした。その後、透析膜(分子量20万)を用いて、過剰のEDCおよび抗体を除き、抗体を表面修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットを得た。
【0078】
実施例5
グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットへのGd−DOTA錯体の修飾によるデュアルモーダル(光/MRI)造影剤(マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料)の合成
実施例2のグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットCdSe0.75Te0.25/CdSの1μM溶液 5ml(25mM ホウ酸緩衝液、pH=8.2)に、DOTA−NHS−エステル(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸モノ−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル;米国、macrocyclics社)水溶液(20mg/ml) 1mlを室温で加え、撹拌しながら30分反応させた。その後、溶液を25mM ホウ酸緩衝液(pH=8.2)で透析し、未反応のDOTA−NHS−エステルを除いた。この溶液に0.1mMのGdCl水溶液 1mLを滴下しながら加えた。過剰のGd2+イオンを除くため、25mM ホウ酸緩衝液(pH=8.2)で再び透析した。中性付近でGd−DOTA錯体修飾グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットを安定化させるため、1%の牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液で透析し溶液交換をした。上記手順により、Gd−DOTA錯体を修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドット(マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料)を調製した。
【0079】
吸収および蛍光特性
図3は、実施例5により得られたGd−DOTA錯体を修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットおよびインドシアニングリーン(ICG)の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを測定した結果である。グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットの吸収スペクトルは、近赤外から可視部領域にわたり連続的な吸収を示すため、この領域すべての波長での励起が可能である。一方、インドシアニングリーンでは780nmにピークをもつ吸収体を示し、励起波長もまた780nmの領域に限られる。
例えば745nmで励起した場合、グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットの発光の量子効率はインドシアニングリーンに比べ約10倍高い。インドシアニングリーンの量子収率(Photochem. Photobio. 72, 392-398(2000))が1%程度であるのに対して、グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットの量子収率は約12%と見積もられる。また、光退色性に関しては、図4に示すように、グルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットにおいては、時間により退色していくインドシアニングリーン(ICG)と比較して、785nmの半導体レーザーによる励起光照射によってもほとんど退色しないという、優れた蛍光特性を有している。
【0080】
マウスでの光造影効果
本発明によるGd−DOTA錯体修飾近赤外半導体量子ドットの光造影効果を確認するため、マウスでの蛍光イメージングを行った。蛍光イメージングには島津製作所製Clavivo OPT特型を使用した。励起光源として758nmの半導体レーザーを受光には845nmの干渉フィルターを使用し10秒間露光した。図5は、実施例4により得られたGd−DOTA錯体を修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットを、10μMの濃度で用いた場合における、マウスリンパ節と大腿動静脈血管を蛍光イメージングした結果を示すものである。図5から、本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料のマウスにおける光造影剤としての有効性が確認できる。
【0081】
MRI造影効果
本発明によるGd−DOTA錯体修飾近赤外半導体量子ドットのMRI造影効果を確認するため、T強調画像を取得した。撮像装置は、Bruker社製AVANCE 500WB (11.7T) であり、グラジエントエコー法により撮像した。図6には、従来法により報告されているマンガンドープ型の量子ドットおよびハロトランスフェリン(鉄イオン含有)修飾量子ドットと、実施例4により得られたGd−DOTA錯体を修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットのT強調画像を示した。測定条件は、測定領域を2.0cm、平面内分割数を256×256、スライス厚を0.5mm、繰り返し時間を47ms、エコー時間を5.3ms、積算回数を32回で、所要時間は、6分である。図6から明らかなように、本発明におけるGd−DOTA錯体を修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットは、従来技術により作製した量子ドットに比べて極めて高いMRI造影効果が認められた。
【0082】
マウスでの近赤外蛍光とMRIによるデュアルモーダルイメージング
本発明によるGd−DOTA錯体修飾近赤外半導体量子ドットのデュアルモーダル(光/MRI)造影機能を確認するため、これを含むファントムをマウス腹腔に埋め込み、近赤外光およびMRIによるデュアルモーダルイメージングを行った。得られた結果を図7に示す。図7から明らかなように、実施例4により得られたGd−DOTA錯体を修飾したグルタチオン被覆近赤外半導体量子ドットを用いることにより、近赤外光およびMRIいずれのイメージング法においても明瞭にマウス腹腔内のファントムの存在が確認できた。近赤外光イメージングにおいては、生体内での光散乱が伴うために3次元的な正確な位置情報は得られない。しかし、MRIでイメージングすることによりマウス腹腔内のファントムの位置が正確に求められる。これらの結果は、本発明によるマルチモーダル近赤外半導体量子ドットを利用することによって、生体のデュアルモーダル造影が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、生体内での使用が可能である近赤外領域に発光帯を有し、かつこの発光性能が高く、高輝度であり、耐退色性が優れ、さらに水分散性が高く、生体親和性が高く、生体に対する安全性が高いという利点を有する。そのため本発明の水溶性近赤外蛍光材料は、光(蛍光)イメージングの造影剤として好適に用いることができる。
また、本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、上記した水溶性近赤外蛍光材料の利点(近赤外領域に発光帯を有し、発光性能が高く、高輝度であり、耐退色性に優れ、生体親和性および生体安全性が高い)を備えつつ、さらに、光(蛍光)イメージング法と、MRI(核磁気共鳴画像法)、X線CTまたはSPECT(単一光子放射断層撮影)などとを組み合わせたマルチモーダルイメージングの造影剤として用いることができるという、優れた利点を有している。本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料を、マルチモーダルイメージングにおいて造影剤として用いることによって、生体内における3次元での正確な位置情報が得られることとなり、癌組織などの標的対象をより正確に検出することができるという利点がある。本発明のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料は、光(蛍光)イメージング法と、MRI、X線CTまたはSPECTなどとを組み合わせたマルチモーダルイメージングを可能とするものであり、生体内イメージングの技術発展に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例2の水溶性近赤外蛍光材料の、水中における流体力学的粒径の測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例2の水溶性近赤外蛍光材料の、蛍光相関分光法装置による蛍光相関曲線を示すグラフである。
【図3】実施例5のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料(Gd−DOTA錯体修飾近赤外半導体量子ドット)およびインドシアニングリーン(ICG)の吸収スペクトルおよび蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例5より得られたマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料(Gd−DOTA錯体修飾近赤外半導体量子ドット)およびインドシアニングリーン(ICG)の光退色性を示すグラフである。
【図5】実施例5のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料(Gd−DOTA錯体修飾近赤外半導体量子ドット)を、10μMの濃度で用いた場合における、マウスリンパ節と大腿動静脈血管を蛍光イメージングした画像である。
【図6】従来法により報告されているマンガンドープ型の量子ドットおよびハロトランスフェリン(鉄イオン含有)修飾量子ドットと、実施例2の水溶性近赤外蛍光材料のT強調画像である。
【図7】実施例5のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料をマウス腹腔に埋め込み、近赤外光およびMRIによるデュアルモーダルイメージングを行った画像である。
【図8】実施例1における、近赤外半導体量子ドットのシステイン被覆による蛍光スペクトルの変化を示すグラフである。
【図9】実施例2における、近赤外半導体量子ドットのグルタチオン被覆による蛍光スペクトルの変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、および
該半導体量子ドットの表面を被覆する被覆層、
を有する、水溶性近赤外蛍光材料であって、
該被覆層は、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよび該アミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類から構成される層である、
水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項2】
前記半導体量子ドットが、CdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)からなる、コアシェル構造の半導体量子ドットである、請求項1記載の水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項3】
前記被覆ペプチド類が、システイン、グルタチオン、γ−Glu−ベンジル−Cys−Val、β−Asp−Cys−Gly、Glu−Cys−Gly、Asp−Cys−Gly、γ−Glu−Gly−Cys−Gly、β−Asp−Gly−Cys−Gly、Glu−Gly−Cys−Gly、Asp−Gly−Cys−Glyからなる群から選択されるペプチド類である、請求項1または2記載の水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項4】
平均粒径が2〜50nmであり、かつ単分散であることを特徴とする、請求項1〜3何れかに記載の水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項5】
表面が配位性有機化合物によって被覆された、近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドットと;システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよび該アミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類と;を、溶媒中で混合する、ペプチド類被覆工程、
を包含する、水溶性近赤外蛍光材料の製造方法。
【請求項6】
前記半導体量子ドットが、CdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)からなる、コアシェル構造の半導体量子ドットである、請求項5記載の水溶性近赤外蛍光材料の製造方法。
【請求項7】
前記被覆ペプチド類が、システイン、グルタチオン、γ−Glu−ベンジル−Cys−Val、β−Asp−Cys−Gly、Glu−Cys−Gly、Asp−Cys−Gly、γ−Glu−Gly−Cys−Gly、β−Asp−Gly−Cys−Gly、Glu−Gly−Cys−Gly、Asp−Gly−Cys−Glyからなる群から選択されるペプチド類である、請求項5または6記載の水溶性近赤外蛍光材料の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7いずれかに記載の水溶性近赤外蛍光材料の製造方法によって製造される、水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項9】
近赤外領域に発光帯を有する半導体量子ドット、
該半導体量子ドットの表面を被覆する、システイン、および2〜8のアミノ酸残基から構成されおよび該アミノ酸残基中に1またはそれ以上のシステイン残基が含まれるペプチドからなる群から選択される被覆ペプチド類から構成される層である、被覆層、
該被覆層に化学結合した、元素包接基、および
該元素包接基に包接された、Gd(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Cu(II)、Cr(III)、Co(II)、Ni(II)、Dy(III)、Tb(III)、Nd(III)、Fe64Cu、67Ga、68Ga、99mTc、90Y、153Sm、166Ho、186Re、188Re、165Dy、111In、201Tc、18F、77Br、123I、124I、125I、126I、131I、201Tlからなる群から選択される元素、
を有する、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項10】
前記半導体量子ドットが、CdSe1−xTeコア/CdSシェル(式中x=0.2〜1である)からなる、コアシェル構造の半導体量子ドットである、請求項9記載のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項11】
前記被覆ペプチド類が、システイン、グルタチオン、γ−Glu−ベンジル−Cys−Val、β−Asp−Cys−Gly、Glu−Cys−Gly、Asp−Cys−Gly、γ−Glu−Gly−Cys−Gly、β−Asp−Gly−Cys−Gly、Glu−Gly−Cys−Gly、Asp−Gly−Cys−Glyからなる群から選択されるペプチド類である、請求項9または10記載のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料。
【請求項12】
請求項5〜7いずれかに記載の方法により得られた水溶性近赤外蛍光材料の、被覆層中に存在する反応性官能基と、元素包接基含有化合物と、を化学結合させる、元素包接基導入工程、
導入された元素包接基に、Gd(III)、Mn(II)、Mn(III)、Fe(II)、Fe(III)、Cu(II)、Cr(III)、Co(II)、Ni(II)、Dy(III)、Tb(III)、Nd(III)、Fe64Cu、67Ga、68Ga、99mTc、90Y、153Sm、166Ho、186Re、188Re、165Dy、111In、201Tc、18F、77Br、123I、124I、125I、126I、131I、201Tlからなる群から選択される元素を導入する、元素導入工程、
を包含する、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料の製造方法。
【請求項13】
請求項12記載のマルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料の製造方法によって製造される、マルチモーダル水溶性近赤外蛍光材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−280630(P2009−280630A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130884(P2008−130884)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】