説明

水溶性金属加工油剤およびその使用方法

【課題】塩素、硫黄あるいはリンを含有する化合物を配合しなくとも難加工材に対して優れた加工性を発揮でき、工具寿命を延ばすことの可能な水溶性金属加工油剤を提供する。
【解決手段】下記のA成分、B成分、C成分およびD成分を配合してなる水溶性金属加工油剤であって、前記A成分の配合量が、油剤全量基準で10質量%以上であり、前記B成分の配合量が、油剤全量基準で5質量%以上であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸、および、リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のうち少なくともいずれか1種
(B)1価または多価アルコールと1価のカルボン酸との脱水縮合物であるエステル化合物
(C)アミン化合物
(D)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削や研削などの金属加工を行う際に使用される水溶性金属加工油剤およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工や研削加工には、鉱物油、動植物油あるいは合成油に対し、界面活性を持つ化合物を配合して水溶性油剤とし、これを水で希釈することにより、いわゆるO/W型エマルジョンなどとして用いられる場合が多い。
一方、界面活性を持つ化合物の代表的なものとしては、脂肪酸アミン塩やポリオキシアルキレングリコール、あるいはそのモノ、ジエーテル化合物などが挙げられる。例えば、水溶性油剤に求められる消泡性や耐腐敗性能を満足させる目的でリシノール酸重合物のアミン塩などを配合することが提案されている(特許文献1参照)。また、切削加工や研削加工の効率を高める目的で、従来塩素化パラフィンが配合されてきたが、人体に有害なダイオキシンが発生する恐れなどが指摘され、代替物として硫黄やリンなどの化合物を配合することが提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平2−5799号公報
【特許文献2】特開昭60−141795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、リシノール酸重合物のアミン塩と鉱物油を配合して得られる油剤では、チタン合金などの難削材を加工した場合、潤滑性の不足などにより加工工具への負荷が高くなり、工具寿命が短くなるなどの問題がある。また、特許文献2のように、硫黄やリンなどを配合すると、環境や人体への影響が懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、塩素、硫黄あるいはリンを含有する化合物を配合しなくとも難加工材に対して優れた加工性を発揮でき、工具寿命を延ばすことの可能な水溶性金属加工油剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、下記のような水溶性金属加工油剤およびその使用方法を提供するものである。
(1)下記のA成分、B成分、C成分およびD成分を配合してなる水溶性金属加工油剤であって、前記A成分の配合量が、油剤全量基準で10質量%以上であり、前記B成分の配合量が、油剤全量基準で5質量%以上であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(A)リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸、および、リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のうち少なくともいずれか1種
(B)1価または多価アルコールと1価のカルボン酸との脱水縮合物であるエステル化合物
(C)アミン化合物
(D)水
(2)上述の(1)に記載の水溶性金属加工油剤において、該加工油剤が切削加工用または研削加工用であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(3)上述の(2)に記載の水溶性金属油剤において、該加工油剤がエンドミル加工用であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(4)上述の(1)から(3)までのいずれか1つに記載の水溶性金属加工油剤が難加工材の加工用であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(5)上述の(4)に記載の難加工材がチタン、チタン合金、ニッケル合金、マグネシウム合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、および高マンガン鋼のいずれかであることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
(6)上述の(1)から(5)までのいずれか1つに記載の水溶性金属加工油剤を、使用時の濃度が3体積%以上となるように水で希釈して使用することを特徴とする水溶性金属加工油剤の使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の水溶性金属加工油剤によれば、加工工具と加工材との摩擦低減効果に優れており、チタンやチタン合金のようないわゆる難加工材に適用した場合であっても、工具寿命を大幅に延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水溶性金属加工油剤(以下、「本油剤」ともいう)は、下記のA成分、B成分、C成分、およびD成分を配合してなることを特徴とする。すなわち、本油剤は、使用時に水で希釈することを前提とした原液である。
(A)リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸、および、リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のうち少なくともいずれか1種
(B)1価または多価アルコールと1価のカルボン酸との脱水縮合物であるエステル化合物
(C)アミン化合物
(D)水
【0009】
まず、A成分について説明する。A成分は、リシノール酸(12−ヒドロキシオクタデカ−9−エノン酸)を脱水重縮合することにより得られる。リシノール酸を例えば、不活性雰囲気下200℃程度に加熱すると脱水重縮合が始まり、重縮合脂肪酸が得られる。このような重縮合脂肪酸を本発明におけるA成分として使用できる。
【0010】
また、A成分は、リシノール酸を脱水重縮合させることにより得られる重縮合脂肪酸のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる重縮合脂肪酸であってもよい。このような重縮合脂肪酸は、上述したリシノール酸の脱水重縮合体にさらに1価のカルボン酸を加えて脱水重縮合を行うことにより得られる。
この反応に用いられる1価のカルボン酸としては、飽和カルボン酸でも不飽和カルボン酸でもよいが、炭素数の小さいカルボン酸が未反応物として残留した場合、不快臭や金属腐食の原因となるおそれがあることことから炭素数4以上のカルボン酸が好ましい。飽和カルボン酸としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸およびリグノセリン酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、およびドコサヘキサエン酸などが挙げられる。
【0011】
次にB成分について説明する。B成分は、1価または多価アルコールと1価のカルボン酸との脱水縮合物である。すなわち、B成分はエステル化合物である。1価または多価アルコールとしては特に制限はなく、種々のアルコールが適用可能である。1価のアルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n−またはイソプロピルアルコール、各種ブチルアルコール、各種ペンチルアルコール、各種ヘキシルアルコール、各種オクチルアルコール、各種デシルアルコール、各種ドデシルアルコールなどの脂肪族1価アルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコールなどの脂環式1価アルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどの芳香脂肪族アルコールなどが挙げられる。
【0012】
2価のアルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチレングリコール、テトラメチレングリコールなどの脂肪族アルコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルコールが挙げられる。3価のアルコールとしては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン、1,3,5−ペンタントリオールなどの脂肪族アルコール、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサントリメタノールなどの脂環式アルコールなどが挙げられる。4価以上のアルコールとしては、例えばペンタエリスリトール、ジグリセリン、トリグリセリン、ソルビトール、ジペンタエリスリトールなどの脂肪族アルコールなどを挙げることができる。
1価のカルボン酸としては、A成分を製造する際に用いられた1価のカルボン酸を適用することができる。
【0013】
次にC成分について説明する。C成分は、アミン化合物である。このようなアミン化合物としては、1級、2級および3級アミンのいずれであってもよく、さらにアルコールアミンであってもよい。
1級アミンの例としては、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2−アミノ−1−ブタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミンなどを挙げることができる。
2級アミンの例としては、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、ジベンジルアミン、ジエタノールアミン、ピペラジン、ジイソプロパノールアミン、ステアリルエタノールアミン、デシルエタノールアミン、ヘキシルプロパノールアミン、ベンジルエタノールアミン、フェニルエタノールアミン、およびトリルプロパノールアミンなどを挙げることができる。
【0014】
3級アミンの例としては、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリシクロヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリラウリルアミン、トリステアリルアミン、トリオレイルアミン、トリベンジルアミン、メチルジシクロヘキシルアミン、ジオレイルエタノールアミン、ジラウリルプロパノールアミン、ジオクチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジヘキシルプロパノールアミン、ジブチルプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、ステアリルジプロパノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、オクチルジプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、シクロヘキシルジエタノールアミン、ベンジルジエタノールアミン、フェニルジエタノールアミン、トリルジプロパノールアミン、キシリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどを挙げることができる。
これらのアミン化合物は、A成分(カルボン酸)とアミン塩を構成し、水溶性を向上させるとともに潤滑性に寄与する。
【0015】
本油剤を構成するD成分は水である。特に、蒸留水のような高純度の水である必要はなく、水道水でよい。
本油剤は、上述のA成分からD成分までの4成分を配合してなることを特徴とする。ただし、A成分の配合量は、油剤全量基準で10質量%以上であり、20質量%以上であることが好ましく30質量%以上であることがより好ましい。A成分の配合量が10質量%未満であると、後述する希釈率とも関係するが、摩擦低減効果や工具寿命延長効果が十分得られないおそれがある。
【0016】
また、B成分の配合量は、油剤全量基準で5質量%以上であり、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。B成分の配合量が5質量%未満であると、後述する希釈率とも関係するが、摩擦低減効果や工具寿命延長効果が十分得られないおそれがある。
【0017】
本油剤(原液)を製造する際は、上述のA成分、B成分およびC成分に対し、D成分として水を加えて調製する。原液調製用の水の割合は5質量%以上、75質量%以下程度が好ましい。水の割合が5質量%未満であると、A成分からC成分までの溶解が困難となり、原液の調製が煩雑となる。また、原液調製用の水の割合が75質量%を超えると、原液としての保管量や輸送量が過大となりハンドリング性が低下する。
【0018】
上述の原液は、使用時にさらに水で希釈されるが、本油剤の濃度が、3体積%以上となるように希釈することが好ましく、希釈時のより好ましい濃度は5体積%以上であり、さらに好ましい総濃度は10体積%である。水による希釈時における濃度が3体積%未満であると、摩擦低減効果や工具寿命延長効果が十分に得られないおそれがある。
ただし、本発明では、原液であっても希釈液であってもすべての配合成分が均一に溶解することを必須とするものではない。従って、エマルジョンのような分散形態であってもよい。
【0019】
なお、本油剤に対しては、本発明の目的を阻害しない範囲でさらに他の成分を配合することができる。例えば、潤滑性向上剤、金属不活性化剤、消泡剤、殺菌剤および酸化防止剤等を配合することができる。
潤滑性向上剤としては、鉱物油、合成油、植物油、有機酸、および界面活性剤等が挙げられる。
鉱物油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油またはナフテン系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、これらの留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、具体的には溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油などが挙げられる。
合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどのアルキルアロマ系化合物、シリコーン油、フッ素系オイル(例えば、フルオロカーボン、パーフルオロポリエーテルなど)などが挙げられる。
植物油としては、例えば、綿実油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ひまわり油、やし油、パーム油、トール油、大豆油、ヒマシ油、亜麻仁油等が挙げられる。
【0020】
有機酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩等がある。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの四級アンモニウム塩等がある。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのエーテルや、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのエステル、脂肪酸アルカノールアミドのようなアミドが挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン系としてアルキルベタインなどが挙げられる。
【0021】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、およびチアジアゾール等が挙げられる。
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤、ホスファイト等のリン系酸化防止剤、さらにモリブデン系酸化防止剤が挙げられる。
殺菌剤としては、例えば、トリアジン系防腐剤、アルキルベンゾイミダゾール系防腐剤などが挙げられる。
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。
【0022】
本発明の水溶性金属加工油剤は、前記したようにその使用目的に応じて適当な濃度になるよう適宜水に希釈して、切削加工、研削加工をはじめ、打抜き加工、研磨、絞り、抽伸、圧延等の各種の金属加工分野に好適に利用することができる。そして、本発明の水溶性金属加工油剤は、潤滑性に非常に優れるため、いわゆる難加工材の加工に適している。具体的には、チタン、チタン合金、ニッケル合金、マグネシウム合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、および高マンガン鋼などの難加工材の加工に好適である。特にこのような難加工材のエンドミル加工用として好ましく用いることができる。
本発明においては、塩素、硫黄あるいはリンを含有する化合物をさらに配合することを必ずしも否定しないが、環境負荷や人体への悪影響を考慮すれば、これらの元素を含有する化合物の配合は基本的に控えるべきである。本発明は、塩素、硫黄あるいはリンを含有する化合物を配合しなくとも難加工材に対して優れた加工性を発揮できるところに特徴がある。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
〔実施例1から7まで、比較例1から8まで〕
表1、2に示す配合処方により水溶性金属加工油剤(原液)を調製した。各成分の詳細は以下の通りである。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
1)リシノール酸を窒素気流下、200℃で加熱脱水縮合し、さらにラウリン酸を加え、加熱脱水縮合することにより、酸価:85mgKOH/g、水酸基価:9mgKOH/g、けん化価:200mgKOH/gの脱水重縮合脂肪酸1を得た。
2)リシノール酸を窒素気流下、200℃で加熱脱水縮合することにより、酸価:52mgKOH/g、水酸基価:20mgKOH/g、けん化価:196mgKOH/gの脱水重縮合脂肪酸2を得た。
3)ナフテン系鉱物油、40℃動粘度:26mm/s
【0027】
前記した配合処方の原液を水で希釈した後、以下の各特性について評価を行った。評価結果を表1、2に示す。
<摩擦低減効果>
往復動摩擦試験機を用い、下記条件で摩擦部分を摺動させて摩擦実験を行ない、最終摺動時における摩擦係数を測定した。
試験球 : 直径 3/16インチ、材質 超硬
試験板 : 材質 チタン合金(Ti−6Al−4V)
荷重 : 1.96N(200gf)
摺動速度: 20mm/s
摺動距離: 40mm
摺動回数: 10回
実験温度: 25℃
希釈濃度: 10体積%(水による希釈)
(実施例1の原液については、希釈濃度5体積%および2.5体積%についても測定を行った。)
塗布液量: 0.05ml
【0028】
<切削性(エンドミル加工)>
立型マシニングセンターを用いて下記条件でエンドミル加工を行い、工具の逃げ面摩耗が0.2mmを超過するか、工具欠損が生じた場合を工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を比較した。
使用設備 :立型マシニングセンターNV5000α1/A40 森精機製作所製
被削材 :Ti-6AL-4V、φ150×30mm、形状・円板
インサート :XOMX090308TR−ME06、F40M(S30種)SECO TOOLS製
カッター :Helical Micro Turbo
R217.69−2020.3−016−09.2SECO TOOLS製
ホルダ :HSK63AミーリングチャックCT20A NTツール製
切削速度 :55m/min
切り込み :ap(工具軸方向)=2mm、ae(工具径方向)=16mm
送り :0.1mm/tooth
給油方法 :外部給油、3.7L/min
希釈濃度 :10体積%(水による希釈)
【0029】
〔評価結果〕
表1に示すように、本発明の水溶性金属加工油剤は、所定の3成分を所定の量だけ配合してなるので、摩擦係数が小さく、難加工材を加工した際にも工具寿命が長いことが理解できる。なお、実施例1の原液については、希釈濃度5体積%の場合の摩擦係数が0.23であり、希釈濃度2.5体積%の場合の摩擦係数が0.29であった。
一方、表2に示すように、所定の3成分を配合していないか、仮に配合していたとしても、その配合量が所定の範囲にない油剤では、摩擦係数が高く、工具寿命も短い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のA成分、B成分、C成分およびD成分を配合してなる水溶性金属加工油剤であって、
(A)リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸、および、リシノール酸を脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のアルコール性水酸基と1価のカルボン酸とを脱水縮合させることにより得られる縮合脂肪酸のうち少なくともいずれか1種
(B)1価または多価アルコールと1価のカルボン酸との脱水縮合物であるエステル化合物
(C)アミン化合物
(D)水
前記A成分の配合量が、油剤全量基準で10質量%以上であり、
前記B成分の配合量が、油剤全量基準で5質量%以上である
ことを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性金属加工油剤において、
該加工油剤が切削加工用または研削加工用であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項3】
請求項2に記載の水溶性金属加工油剤において、
該加工油剤がエンドミル加工用であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤が難加工材の加工用であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項5】
請求項4に記載の難加工材がチタン、チタン合金、ニッケル合金、マグネシウム合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金、ステンレス鋼、および高マンガン鋼のいずれかであることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の水溶性金属加工油剤を、
使用時の濃度が3体積%以上となるように水で希釈して使用することを特徴とする水溶性金属加工油剤の使用方法。

【公開番号】特開2011−111593(P2011−111593A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272050(P2009−272050)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】