説明

水溶液中の銅イオンの検出及び/又は定量方法

【課題】
本発明は、水溶液中の銅イオンの有無を検出する試材及び該銅イオンの濃度をも測定し得る再使用可能な試材を提供することを目的とする。
【解決手段】
基板上に、特定の酸化チタン、すなわちアルコキシチタンを硝酸酸性水溶液中、pH1以下の条件下に加水分解し、100時間以上熟成して得た酸化チタンのゾルを基板上に薄膜として形成させ、100〜600℃で焼成して得た試材であり、且つこの試材を用い、紫外線を照射することにより試材上に銅を析出付着させる。この銅の着色により、銅イオンの検出を行うことができる。更に、その色調の変化により銅イオン濃度を定量することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の銅イオンの存在の有無を検出すると共に、その濃度をも必要に応じて測定することが可能な微量の銅イオンの検出及び/又は定量用試材に関する。また該試材を用いて、銅イオンを検出又はその濃度を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅イオンを含む水溶液は、銅の無電解メッキ浴廃液や、銅合金のピックリング廃液、銅の精錬工程廃液等種々存在し、それらを河川等に排出することは、環境汚染の問題となるため、含有する銅イオンの除去を行う必要がある。通常銅イオンの濃度が比較的大きい場合には、電解処理により銅イオンを還元し、回収除去するが、銅イオン濃度が20mg/l程度以下とすることは困難である。
【0003】
そこで、イオン交換樹脂や、キレート化剤を用いて残りの銅イオンを除去する方法も行われている。このようにして、銅イオンを除去した廃液は、最終的には河川や海に排出されるが、完全に銅イオンが除去されているか否かのチェックを行う必要がある。
【0004】
微量存在する銅イオンの定量分析法としては、従来ヨウ化カリや、チオ硫酸ソーダなど、比較的高価な薬剤を使用する分析方法が知られている。しかし、かかる方法は、高価な薬剤の消費のほか、比較的長時間を要するという問題がある。
【0005】
本発明は、酸化チタンの還元触媒反応を利用し、容易に銅イオンの存在や、その濃度の定量を行うことを提案するものである。
【0006】
酸化チタンを触媒として用いる光化学反応により、銅イオンを還元析出させる方法は、公知である(非特許文献1)。該文献によると、硫酸法で得られた酸化チタンを用い、蟻酸等のドナーの存在下にpH1.35〜4.52でブラックライトを照射することにより、Cu(II)をCu(I)−TiOとして回収することが記載されている。
【0007】
しかしながら、これら文献に記載の方法は反応速度が遅く、しかも高濃度の溶液からの銅イオンの回収を目的としており、本発明の対象である微量の銅イオンの有無や、その濃度を知る方法とは本質的に異なるものである。
【非特許文献1】エンビロメンタル サイエンス アンドテクノロジー 1993年 第27巻 第350頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、銅メッキ浴廃液や、銅合金の洗浄廃液、或いは研究所などからの廃液中の銅イオンの有無及び/又はその濃度の定量を簡便に行う試材を提供するものである。
【0009】
更に、本発明の別の目的は、特殊な酸化チタンの薄膜を用い、銅イオン含有溶液の存在下に紫外線を照射することにより、該薄膜が変色することを利用した銅イオンの検出及び/又は定量方法をも提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1においては、表面に下記方法によって形成させた酸化チタン薄膜を有する基板よりなる微量の銅イオン検出及び/又は定量用試材
(a)pH1以下に保った硝酸酸性水溶液に攪拌しつつアルコキシチタンをゆっくりと注加し、該アルコキシチタンの加水分解生成物のゾルを得る。
(b)次いでこのゾルを100時間以上熟成し、得られたゾルのpHを3〜4に調整する。(c)その後、上記ゾルを基板上に、薄膜状にコートし、乾燥後、100〜600℃で焼成し、該薄膜を基板上に固定する。

を提供する。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載の発明は、上記請求項1の発明においてアルコキシチタンがプロポキシチタン又はブトキシチタンであることを特定した発明に係わる。
【0012】
次に、本発明の請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、酸化チタンゾル形成後の熟成時のpHを3〜4に調整する手段として、隔膜を用いる透析方法によるか又は酸化チタンゾルを水で更新することにより行うことを特定した発明である。
【0013】
更に、請求項4に記載の発明は、請求項1などに示される酸化チタンの薄膜形成方法として、基板を酸化チタンゾル中に浸漬する方法(ディップ法ともいう)を用いることを特定した発明である。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1などに示される酸化チタン薄膜の形成方法として、スピンコート法により塗布する方法を提供するものである。
【0015】
請求項6及び7にあっては、請求項1〜5のいずれかに記載されている微量の銅イオン検出及び/又は定量用試材を用いる銅イオンの検出方法又は定量方法である。すなわち請求項6にあっては、上記請求項1〜5に記載のいずれかの微量銅イオン検出用試材を用い、その表面に被検体銅イオン含有溶液を存在させ、紫外線を照射することにより、該試材が変色することにより銅イオンの存在を認知する方法を提供するものであり、請求項7に記載の発明は、請求項6の発明と同様の手段を行うが、その変色状況(存在させる銅イオン含有溶液中の銅イオン濃度による色の濃淡)を光の透過率に変換し、被検体中の銅イオン濃度を測定する銅イオン濃度の定量方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の方法によって得られる酸化チタンの薄膜を表面に有する基板を用いることによって、簡便な方法で、水溶液中の銅イオンを検出すること或いは、その銅イオン濃度を定量することができる。
【0017】
本発明の最大の特徴は、銅イオン検出及び/又は定量用試材が、繰り返し何度でも使用できることにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、特定の方法によって得られる酸化チタンを表面に薄膜として有する基板よりなる銅イオン検出及び/又は定量試材である。
【0019】
本発明における酸化チタン薄膜の形成方法は、特定の条件下での所謂ゾル−ゲル法によるものである。すなわち、本発明にあっては、アルコキシチタン、好適にはプロポキシチタン又はブトキシチタンを用い、硝酸酸性の水溶液に攪拌しつつ、ゆっくりと注加する。その場合の水溶液のpHは1以下に保たれることが重要である。注入されたアルコキシチタンは、加水分解を受け、酸化チタンのゾルを形成する。
【0020】
このアルコキシチタンの加水分解工程が極めて重要である。
【0021】
すなわち、アルコキシチタンを注加する母液は、硝酸酸性にすることが重要である。勿論、硫酸や塩酸等の鉱酸を用いても、同様にアルコキシチタンの加水分解を行うことは可能であるが、本発明の試材とした場合の活性が低くなる傾向となる。
【0022】
同様に加水分解時のpHも影響を及ぼす。
【0023】
本発明にあっては、反応時のpHは1以下に保つ必要がある。
【0024】
また、アルコキシチタンの注加時には十分な液の攪拌も必要であり、部分的な濃度斑は極力避けなければならない。
【0025】
アルコキシチタンを注加し終わった後、該水溶液は攪拌しながら100時間以上、好ましくは5〜10日間熟成する。この間にも加水分解は、更に進行する。熟成することによりアルコキシチタンを注加した後、一旦生ずる白色の雲状の析出物は消失し、再度透明な溶液となる。
【0026】
また、この熟成期間の間に、セルローズ隔膜やイオン交換膜を用いた透析により、過剰に存在する酸を取り除き、pH3〜4に調整するか又は水により希釈し、pHを3〜4に調整する。
【0027】
熟成時の温度は、特に限定されない。一般に室温乃至30℃程度で、ゆるやかな攪拌を行うのが好ましい。
【0028】
熟成された酸化チタンゾルを含む溶液は基板上に塗布し、乾燥させ薄膜を形成させる。このとき、溶液中の酸化チタンゾルの濃度が薄膜の厚さに影響を及ぼす。一般に溶液中の酸化チタンゾルは1対30〜50(体積比)程度とするのが好ましい。
【0029】
基板材料は特に限定されない。例えば、ステンレス板、ニッケル板などの金属板やガラス盤、アルミナ板等のセラミックス板でよい。
【0030】
透過光による定量を行う場合の基板は、光の透過を必須とするので、透明なガラス板が採用される。
【0031】
これらの基板は、酸化チタン薄膜の形成に先立って、過酸化水素や酸により表面処理や洗剤を入れた水中で30分程度超音波洗浄し、十分水洗いを行った。その後、アセトンで30分程度超音波洗浄し、その後乾燥させる方法等により、親水性を強化しておくことが好ましい。
【0032】
薄膜の形成手段は、特に限定されないが、一般には、ゾル水溶液中に基板を浸漬することにより、形成させるか又はスピンコーターを用いてコートすることもできる。勿論スキージ等により塗布することも可能であるが、可及的に均一な塗膜を形成させるためには、ディップコートかスピンコートが好ましい。
【0033】
基板の表面に形成させる薄膜は基板の一方の面だけでもよいし、また両面に形成させてもよい。スピンコートであれば、片面及び両面にコートすることができるが、ディップコートでは片面をシールしない限り両面コートとなる。銅イオンの定量に用いる場合など透明な基板の場合、両面コートの方が測定時に明確な差異が生じやすいので好ましい場合がある。
【0034】
また薄膜の厚さはゾル溶液中のゾル濃度によってコントロールできるが、一度に厚さの大きい薄膜を得ることは、基板からの薄膜脱離を生じやすくなり、好ましくない。一般に上記したコート法により、基板上にコートされたゾルは、再度同様のコートを繰り返し行うことにより強固な薄膜となる。この繰り返しは乾燥工程後、又は乾燥工程及び焼成工程を経て繰り返し行うことができる。
【0035】
かくして、一般に3〜7回コートしたものが好適に使用される。薄膜厚は、特に限定されないが、一般に0.2〜2μm程度が利用しやすい試材となる。
【0036】
次に、本発明により得られる銅イオンの検出及び/又は定量方法について説明する。
【0037】
本発明の検出試材は、その表面に被検体となる溶液を存在させて、好ましくは実質的に酸素の存在しない雰囲気下に紫外線を照射する。一般には、被検体溶液中に試材を浸漬すればよい。
【0038】
勿論、試材表面に被検体溶液を塗布し、不活性雰囲気中で紫外線を照射する手段でも良い。照射する紫外線は、1mμ〜390mμの範囲の光であり、所謂紫外線(1mμ〜190mμ)のみならず近紫外領域(290mμ〜390mμ)の範囲を含むものとし、特に250〜360mμの波長が得られるブラックライトランプの光が好適に使用される。
【0039】
本発明の試材による銅イオンの検出は、試材表面に存在させた被検体溶液中に銅イオンが存在している場合には、還元され酸化チタン薄膜上に金属銅として析出することにより、透明であった薄膜が着色することにより検出される。着色は一般に茶褐色を呈する。また、この着色の濃淡は被検体溶液中の濃度によく相関する。そして色の濃淡は直接透過光の量に比例する。
【0040】
従って、透明な基板を用いた場合、その透過光量を分光光度計により測定し、あらかじめ用意された検量線を用いて当該溶液中の銅イオン濃度を知ることができる。
【0041】
本発明の銅イオン検出及び/又は定量用試材は、一旦使用した後、これを酸素含有雰囲気下に酸性水溶液に浸漬することにより、沈着した銅イオンが除去され、再度透明な薄膜を再生することができる。このため、繰り返し使用し得るのである。
【実施例1】
【0042】
(ゾル−ゲル法酸化チタンの製造)
硝酸1.3mlを加えた180ml水溶液にチタンテトライソプロポキシド15mlを攪拌下に滴下して加えた。滴下後の溶液のpHは1以下であった。この溶液を室温で攪拌しつつ熟成した。3日後には溶液が透明となった。撹拌は10日間行った。
【0043】
この溶液を透析膜(スペクトラ/ポア社製MWCO3500)を用いて透析により、pHが4以上となるまで酸の除去を行った。
【0044】
この溶液に片面をセロハンテープで覆った酸化インジウムスズガラス(ITO)(8×40mm)を浸漬し、0.5cm/minの速度で引き上げ、30分間風乾する。この操作を5回繰り返し行い、ITO基板の表面に酸化チタンゾルの薄膜を形成させた後、100℃〜400℃にて焼成し、銅イオン検出用試材を得た。
(銅イオン検出及び定量)
上記で得られた試材を用い、銅イオンの検出及び定量試験を行った。
【0045】
サンプルは硝酸銅を用い、銅イオン濃度50ppm〜200ppm、ギ酸ナトリウム0.1M、pH3.6の水溶液とした。
【0046】
これらの各濃度の溶液に、窒素雰囲気中で試材を浸漬し、ブラックライトを照射する。数分後に試料は着色し、それぞれ淡茶色から濃い茶褐色まで得られた。このように着色することにより、サンプル中に銅イオンが存在することが示される。
【0047】
また、得られたサンプルについて分光光度計による光の透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【実施例2】
【0049】
実施例1と同様に行うが、上記透析後の酸化チタンゾルを用いて、スピンコーティング法によりITOガラス(8×40mm)に薄膜を形成する。銅イオン濃度を50ppmとし、焼成は500℃で行う。コーティングを繰り返すことにより、膜厚を増やす。
【0050】
【表2】

【実施例3】
【0051】
実施例2と同様に行うが、スライドガラスを用いる。コートは3回行った。
【0052】
【表3】

【実施例4】
【0053】
実施例2と同様に行うが、銅イオン濃度を50ppmとし、焼成は500℃で行う。銅を析出させた薄膜を硝酸酸性溶液に浸し、銅を銅イオンとして回収した後、再び、同じ実験に用いた。
【0054】
【表4】

【実施例5】
【0055】
実施例2と同様に行う。被処理液のギ酸ナトリウムをシュウ酸ナトリウムに変えて行う。25ppm以下の濃度範囲において、光透過率と銅イオン濃度の間に直線関係が成り立つ。
【0056】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に下記方法によって形成させた酸化チタン薄膜を有する基板よりなる微量の銅イオンを検出及び/又は定量用試材。
(a)pH1以下に保った硝酸酸性水溶液に攪拌しつつアルコキシチタンをゆっくり注加し、該アルコキシチタンの加水分解生成物のゾルを得る。
(b)次いで、このゾルを100時間以上熟成し、上澄液のpHを3〜4に調整する。
(c)得られたゾルを基板上に薄膜状にコートし、乾燥後、100〜600℃にて焼成し、薄膜を基板上に固定する。
【請求項2】
アルコキシチタンがプロポキシチタン又はブトキシチタンである請求項1記載の微量の銅イオンの検出及び定量用試材
【請求項3】
上澄液のpHの調整を透析及び/又は上澄液の水による更新によって行う請求項1記載の微量の銅イオンの検出及び/又は定量用試材。
【請求項4】
酸化チタンゾル中に基板を浸漬することにより薄膜を形成させる請求項1記載の微量の銅イオンの検出及び/又は定量用試材。
【請求項5】
酸化チタンゾルを基板にスピンコート法により塗布して薄膜を形成させる請求項1記載の微量銅イオンの検出及び/又は定量用試材。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の微量の銅イオン検出及び/又は定量用試材表面に被検体銅イオン含有溶液を存在させ、紫外線を照射することにより、該試材を変色させることを特徴とする、被検体中の銅イオンの存在を確認する銅イオンの検出方法。
【請求項7】
請求項6において、透明な基板を用い、銅イオンの存在により変色した試材の変色度割合による光の透過率から被検体中の銅イオン濃度を測定することを特徴とする銅イオン濃度の定量方法。