説明

水熱還元プロセスによるコバルトナノ粒子の合成法

【課題】触媒、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクスなどの広範な分野での利用が期待されている、結晶性に優れたコバルトナノ粒子を、より均一の粒度のものとして、簡単な手法で、低コストに且つ安定的に製造する技術を提供する。
【解決手段】高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界水中でコバルト元素含有前駆体を還元剤を用いて水熱還元するプロセスを、界面活性剤存在下に行い、コバルト元素含有前駆体からコバルトナノ粒子を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、例えば、亜臨界ないし超臨界水中での水熱還元プロセス、特には界面活性剤支援水熱還元プロセスによるコバルトナノ粒子の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属などのナノメーターサイズの超微粒子(例えば、ナノ粒子)は、触媒、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクスなどの広範な分野での利用が期待されている。ナノメーターサイズの粒子を使用している材料は、その極度に小さなサイズに付随して生ずる興味深い特性を示すことが多いことが知られている。このような材料は工学的、電子的、機械的、および化学的特性の幾つかにおいて、既存のバルク材料とは異なる性質を示すことが報告されている。特に磁性ナノ粒子への注目が高まりを見せており、精力的に研究が行われつつある。
【0003】
磁性ナノ粒子を含めた金属ナノ粒子が示す特性の中で注目される魅力的な性質は量子的な性質、磁気光学的な性質と密接に関連しており、光ファイバセンサー、光スイッチ、光絶縁、情報記憶などを含む産業および科学における応用に深く関係している。
本発明者らのグループは、これまでに、コバルトナノ粒子を超臨界水熱合成により製造する技術を報告している〔非特許文献1〕。そこでは、コバルトナノ粒子は、バッチ式反応器で340℃や380℃とした水熱還元プロセスにより界面活性剤を使用したりあるいは使用することなく合成されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】大原智、樋高英嗣、張静、梅津光央、名嘉節、阿尻雅文、「コバルトナノ粒子の超臨界水熱合成」、粉体および粉末冶金、54 (2007), 635-638
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
様々な用途に利用することが期待されている金属コバルトナノ粒子を、より均一の粒度のものとして、簡単な手法で、低コストに且つ安定的に製造する技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題解決を目標として鋭意研究を積み重ねた結果、超臨界水熱合成において還元剤としてはギ酸を分解せしめるなどして超臨界水熱還元条件を整え、様々な有機修飾剤を、保護並びに機能付与のために使用せしめて、その反応速度、結晶構造並びに形態的変化について調査研究を行った。その結果、非常に良好な結晶状コバルトナノ粒子を合成することに成功すると共に、ある種の条件とすることで、該コバルトナノ粒子の形状・形態を制御することができることを見出すのに成功した。
本発明は、次のものを提供する。
〔1〕高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界水中での水熱還元プロセスを、界面活性剤存在下に行い、コバルト元素含有前駆体からコバルトナノ粒子を合成することを特徴とする方法。
〔2〕前記コバルト元素含有前駆体が、コバルト塩含有水溶液であり、還元剤がギ酸であり、界面活性剤がオレイルアミンであり、水熱還元プロセスに供給される出発原料混合物の調製が、不活性気体の雰囲気下でなされていることを特徴とする上記〔1〕に記載の方
法。
〔3〕生成物コバルトナノ粒子の単離及び/又は洗浄処理が、不活性気体の雰囲気下でなされていることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生成物たるコバルトナノ粒子の形状・形態を制御することができ、非常に良好な結晶状コバルトナノ粒子を合成することが可能である。本発明方法で得られる結晶状コバルトナノ粒子は、粒度の均一性が優れており、且つ、結晶性も優れており、品質が優れており、工学的、電子的、機械的、および化学的特性に関して、優れた機能を期待でき、エレクトロニクス材料、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクス材料、触媒材料などとして有用である。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明で得られたCoNPsのXRDパターンを示す。(□):fccコバルト、(○):hcpコバルト
【図2】修飾剤としてオレイルアミンを使用し、380℃で合成された修飾されているコバルトNPsのTEM像を示す。図中、スケールは、100 nmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、特には亜臨界ないし超臨界水中での水熱還元プロセス、特には界面活性剤支援水熱還元プロセスによる前駆体からコバルトナノ粒子(ナノ結晶金属コバルト、ナノ結晶状金属コバルトナノ粒子)を合成する技術(製造方法及びその生産物)を提供する。
【0010】
本発明では、例えば、温度200℃以上、圧力4.0MPa以上のアルコール又はその含水混合
溶媒を反応溶媒として、触媒無添加で、合金ナノ粒子(金属間化合物ナノ粒子を包含する)を短時間で合成する方法及びそれにより得られる生成物ナノ粒子に関するものである。
本発明の方法では、反応溶媒として、上記の高温高圧状態にある亜臨界流体、又は超臨界流体が用いられる。水の臨界温度は374.2℃、臨界圧力は22.12MPaであるので、これを
参考に選択でき、具体的には、亜臨界水(250℃以上、15.0MPa以上)、超臨界水(375℃
以上、22.0MPa以上)、又は、亜臨界又は超臨界状態にある水-有機溶媒混合物が例示され、好適には、臨界点以上の水(374.2℃以上、22.12MPa以上)、超臨界水-有機溶媒混合物(350℃以上、20.0MPa以上)が用いられる。
【0011】
水-有機溶媒混合物中の有機溶媒含量は、例えば、20容量%以下、ある場合には15容量
%以下、好ましくは10容量%以下、さらに好ましくは7.0容量%以下、より好ましくは5.0容量%以下、さらには2.0容量%以下、ある場合には1.5容量%以下、また好ましくは1.0
容量%以下、さらにまた好ましくは0.7容量%以下、もっと好ましくは0.5容量%以下であるものが挙げられる。反応溶媒としては、水、有機溶媒や無機溶媒を任意の割合で含むことができ、具体的には、有機溶媒として、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸などの有機酸類、メチルアミン、エチルアミンなどの有機アミン類等、無機溶媒としてアンモニア、二酸化炭素等を含むこともできる。還元剤とし
て、ギ酸、シュウ酸などが配合されていてもよく、特に好適にはギ酸が添加される。
【0012】
本発明で基質であるコバルト金属前駆体としては、目的コバルト元素を含有している金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができ、例えば、コバルト(Co)を含有している金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができる。金属塩としては、塩酸などのハロゲン酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、そしてギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸などの有機酸との塩などが包含される。金属化合物としては、アセチルアセトンなどのジケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、クラウンエーテルなどのエーテルなどとの化合物などが包含される。金属錯体としては、配位子として、ハロゲン、アミン(有機アミンを含む)、カルボニル、シアノ、ヒドロキシ、酸素、窒素、硫黄などを含有する有機配位子などを含有するものが包含される。該Co含有合金前駆体としては、硝酸コバルト、水酸化コバルト、酢酸コバルト、シュウ酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどが挙げられる。硝酸コバルトの水溶液をCo供与合金前駆体として好適に使用できる。
【0013】
本発明では、水熱還元プロセスは、界面活性剤存在下に行われる、すなわち、界面活性剤支援水熱還元プロセスである。ナノ粒子形成の反応場に存在する界面活性剤としては、所望のナノ粒子を形成できる反応場を提供するものが使用される。例えば、当該分野で知られた界面活性剤としては、形成するナノ粒子を安定化する作用のあるものを好適に使用できるし、高温高圧の液相で有機修飾剤として機能するものも好適に使用できる。該界面活性剤としては、例えば、有機カルボン酸類、有機窒素化合物類、有機硫黄化合物類、有機リン化合物類などが挙げられる。本発明では、特に有機窒素化合物類を好適に使用できる。該有機窒素化合物類としては、例えば、有機アミン類、有機アミド化合物類、窒素含有複素環式化合物類などが挙げられる。
【0014】
有機アミン類としては、1級アミン類、2級アミン類及び3級アミン類のいずれであってもよいが、好ましくは1級アミン類、2級アミン類が挙げられる。有機アミン類としては、例えば、脂肪族アミン類などが挙げられ、1級脂肪族アミン類、2級脂肪族アミン類を挙げることができる。アミン類の炭素数は、本発明の目的効果を著しく損なわない限り特に限定されないが、例えば、通常は8以上、好ましくは14以上、より好ましくは16以上で、また、通常24以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。代表的な脂肪族アミン類としては、例えば、オレイルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクチルアミン等のアルキルアミン類、アニリン等の芳香族アミン、メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン等の水酸基含有アミン類、さらにそれらの誘導体などが挙げられる。窒素含有複素環式化合物類としては、例えば、窒素原子を1〜4個含有している飽和又は不飽和の3〜7員環を有する複素環式化合物類が挙げられるが、当該化合物はさらに複素原子として硫黄原子、酸素原子などを含有していてもよい。代表的な窒素含有複素環式化合物類としては、例えば、ピリジン、ルチジン、コリジン、キノリン類などが挙げられる。有機アミン類は好適に使用でき、特に好ましいものとしては、オレイルアミンが挙げられる。
【0015】
本発明においては、上記基質及び反応溶媒を反応容器に導入して所定の反応時間で合成を実施する。この場合、上記反応器としては、例えば、バッチ式の高温高圧反応容器、及び連続式の流通式高温高圧反応装置が使用することができるが、本発明は、これらに特に制限されるものでない。
本発明では、供給原料の調製の段階から、水熱還元プロセス中、さらに、生成物の単離・洗浄処理、また、生成物の保存を、不活性気体雰囲気下、例えば、アルゴン気体雰囲気中で行うことが、好適である。こうした雰囲気は、還元性の雰囲気を保障するものあるい
はコバルト金属ナノ粒子の表面の酸化を避けることのできるものであればよいが、良質なコバルトナノ粒子形成において利点のあるものである。
【0016】
本発明では、合金前駆体の種類及びその使用量、合金前駆体の組成、上記亜臨界流体、超臨界流体の含水比、温度及び圧力条件、反応時間を最適化することにより、短時間で、効率良く、反応生成物を合成することができる。典型的な態様では、本発明では、例えば、基質である合金前駆体及び反応溶媒を密封可能な高温高圧反応器中に入れて密封し、該反応器を高温にできる振動式加熱装置に設置し、所定の温度に加熱し、それらの反応時間を変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。本発明の反応時間は、1分間〜6時間、例えば、好ましくは15分間〜4時間、さらには20分間〜3時間の範囲が好適である。上記反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。また、本発明では、例えば、基質である合金前駆体及び反応溶媒を流通式高温高圧装置に導入し、それらの反応時間を変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。
【0017】
本発明の方法では、一段階のプロセスで、しかも、高速に、簡単な操作・装置で実施できるため、反応プロセスを効率化することができる。本発明の合成方法は、電池用電極材料、電子素子原料や半導体原料などの電気・電子材料となる高機能材料であるコバルト金属ナノ粒子を効率良く、大量に高速で生産することを可能にするものとして有用である。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0018】
〔ナノ粒子の合成〕
イン・サイチュ表面修飾を行う水熱合成法には、5mlの内容積を有する管状耐圧反応器
(ハステロイ製)を使用した。前駆体の調製並びに試薬を反応器(リアクター)に導入する処理は、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中ですべて行った。それぞれの条件下に、酢酸コバルト(II)の水溶液を該反応器に入れた。該酢酸コバルト(II)を還元するため、ギ酸を使用した。水の存在下でギ酸は良好に水素(H2)と二酸化炭素(CO2)に分
解する。
コバルトの表面の修飾のためには、各種の修飾剤を添加して用いた。反応器を密封した後、グローブボックスより取り出し、次に350℃又は400℃の温度(内部の温度はそれぞれ340℃又は380℃である)に保持されている電気式の加熱炉にその反応器をセットした。反応を5〜60分間行った後、水浴(24℃)にその反応器を漬けることにより、冷却して反応
を止めた。冷却後、ヘキサンにより(修飾剤なしの場合はメタノールにより)生成粒子を集めた。得られた生成物を一回遠心してヘキサンを除去し、次にメタノールを使用してデカンテーションと遠心処理の組合せを3回行って精製した。最後に、シクロヘキサン又はメタノールを用いて生成物を集め、グローブボックス中に置かれたデシケーター中で乾燥した。
【0019】
〔結果及び解析〕
コバルトナノ粒子は、様々な反応時間並びに様々な反応温度でもって合成せしめられた。得られた粒子の重量を電子天びんで測定した。また、反応器の器・壁に付着し易い非常に小さな粒子は、硝酸溶液(1:3の容量比)を使用して集め、原子吸光分析(AAS: Atomic Absorption Spectroscopy)により分析を行った。両方の分析結果より、コバルトの
ナノ粒子(nano particles: NPs)が得られていることが確認された。得られた粒子をX
線回折法(XRD)により分析したところ、六方最密充填構造(hcp: hexagonal close-packed)コバルト又は面心立方構造(fcc: face-centered cubic)コバルトを示す典型的なピークが認められた。得られたコバルトNPsのうちの一つのXRDパターンを図1に示す。修飾を受けているコバルトNPsのTEM(透過型電子顕微鏡)のイメージを図2に示す。
本発明の方法で、結晶性において優れており、且つ、個々の粒子が極めて均一な粒形・粒子サイズを有している、コバルトナノ粒子が得られていることが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明により、触媒、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクスなどの広範な分野での利用が期待されている、非常に良好な結晶状コバルトナノ粒子を、該コバルトナノ粒子の形状・形態を制御して、簡単な手法で、低コストに且つ安定的に製造できる。したがって、コバルトナノ粒子が発揮する工学的、電子的、機械的、および化学的特性の利用が可能となり、その優れた機能を期待でき、エレクトロニクス材料、記憶材料、発光材料、オプトエレクトロニクス材料、触媒材料などとして応用できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界水中での水熱還元プロセスを、界面活性剤存在下に行い、コバルト元素含有前駆体からコバルトナノ粒子を合成することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記コバルト元素含有前駆体が、コバルト塩含有水溶液であり、還元剤がギ酸であり、界面活性剤がオレイルアミンであり、水熱還元プロセスに供給される出発原料混合物の調製が、不活性気体の雰囲気下でなされていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生成物コバルトナノ粒子の単離及び/又は洗浄処理が、不活性気体の雰囲気下でなされていることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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