説明

水生植物を用いた水処理方法

【課題】水中に残存するさまざまな難分解性有機物を、生物学的フェントン反応を利用してより効率的にかつ低コストで分解・除去する新しい方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、難分解性有機物を含有する被処理水中に水生植物を光照射下に生育させ、この被処理水に二価または三価の鉄イオンの存在下に、水生植物の生体内に存在する過酸化水素と生物学的フェントン反応を行なわせ、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、水生植物を用いた水処理方法である。
被処理水中に二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加し、水生植物中の過酸化水素とフェントン反応を行なわせる。水生植物は、ウキクサ、アオウキクサ、マツモ、ウィローモス、アマゾンフロッグピッドなどが利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェントン反応のメカニズムによって、水生植物を利用して水中に存在する難分解性有機物を分解・除去する水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中などに溶存している窒素化合物やリン化合物および重金属類を除去することを目的として、従来から植物を利用した水の浄化法(植生浄化技術)が提案されている。このような植生浄化技術としては、例えば、浮遊植物を用いた高濃度の栄養塩類を含む畜産排水の浄化や、水生植物が排水中の重金属を吸収蓄積することによる水質浄化などが挙げられる(例えば、非特許文献1および2参照)。
【0003】
一方、産業排水、農業廃水や都市下水などの中には、窒素化合物やリン化合物などのほかに、自然環境の中に排出された場合に微生物による分解等を受けにくく、長期間にわたって環境中に存在し続ける、あるいは環境中に蓄積してゆくいわゆる難分解性有機物が存在している。ところが、上述した従来から植物を利用した水の浄化法ではこのような難分解性有機物はほとんど分解・除去することができなかった。
【0004】
このような難分解性有機物を分解・除去する方法として、従来から活性炭吸着法、オゾン酸化法、紫外線酸化法などの方法が行なわれている。しかし、活性炭吸着法は吸着容量に限界があり一定時間ごとに吸着剤を交換する必要があること、オゾン酸化法は一般細菌や病原性原虫などに対して不活性化すること、設備や運転のコストがかさむこと、紫外線酸化法は濁度や色度などの適用可能な水質に制限があり排水処理の分野では適用範囲が狭いことといった問題があり、これらの方法はまだ十分に満足できる水処理方法とは言えなかった。
【0005】
このような水中の難分解性有機物の分解・除去のために、遷移金属と過酸化水素を反応させて強酸化力を有するヒドロキシラジカルを発生させるフェントン反応を利用する処理方法が提案されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
この方法では、処理する対象となる被処理水を入れた処理槽内にて、pHを酸性に調整した後、過酸化水素水(H)と遷移金属である鉄化合物またはゼロ価鉄を加えて、次の式(1)の化学式に示すようなフェントン反応によってヒドロキシラジカルを発生させる。
Fe2++H→Fe3++HO+HO・ (1)
【0007】
ここで発生したヒドロキシラジカルがラジカル開始剤となり、被処理水中の難分解性有機物から電子を引き抜く、つまり難分解性有機物の共有結合の電子を引き抜くことにより原子間の結合を切断することによって、ほとんど全ての難分解性有機物を酸化分解することができ、最終的には炭酸ガスと水とすることができる。
しかし、この方法は、理論当量の試薬を添加しても反応が十分に進行しないことが多く、試薬量や過酸化水素の使用量が多くなり、処理コストがかさむとともに、処理水中に過酸化水素が残存するためその処理コストがかかるという問題があった(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Cheng,J., B.A.Bergmann,J.J.Classen,A.M.Stomp,andJ.W.Howard, “Nutrient recovery from swine lagoon waterby Spirodela punctata”, Bioresource Tech., 81(1), 81-85(2002).
【非特許文献2】Virendra Kumar Mishra andB.D. Tripathi, “Concurrent removal and accumulation of heavy metals bythe three aquatic macrophytes”, Bioresourse Tech, 99, 7091-7097(2008).
【非特許文献3】瀬野比呂司、村田逞詮、玉川準之助、長谷川裕晃「省エネルギー性に優れ活性炭吸着法に代わり得る難分解性有機物含有廃水の処理システムの開発」、三井造船技報、No.198、34-38頁
【非特許文献4】Tarr, M.A. “ChemicalDegradation Methods for Wastes and Pollutants: Environmental and IndustrialApplications”; (2003), Marcel Dekker Inc., New York
【非特許文献5】Parsons, S. “AdvancedOxidation Processes for Water and Wastewater Treatment”,(2004), IWA Publishing, London
【非特許文献6】Uchida A,Jagendorf A.T.,HibinoT.,TakabeT.“Effects of hydrogenperoxide and nitric oxide on both salt and heat stress tolerance in rice” PlantScience 163 515-523,
【非特許文献7】D.G. Crosby.“Environmentalchemistry of pentachlorophenol”Pure Appl. Chem. 53, 1051-1080 (1981).
【非特許文献8】Tabei, K. and SakakibaraY.“Removal ofEndocrine Disrupting Chemicals by Phytoremediation”Paper M-17, Proceedings ofthe Fifth International Conference on Remediation of Chlorinated andRecalcitrant Compounds, Monterey, CA; Battelle Press. (2006)
【非特許文献9】Zhihui Song and GuolanHuang.“Toxic effects of pentachlorophenol on Lemna polyrhiza” Ecotoxicologyand Environmental Safety, 66, 343-347.(2007)
【非特許文献10】河野雅弘「電子スピン共鳴法」、オーム社(2003年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような状況に鑑み、上述のような水中に残存しているさまざまな難分解性有機物を、フェントン反応を利用してより効率的にかつ低コストで分解・除去する新しい方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意研究し、植物体内に過酸化水素が存在していることに注目して種々検討した結果、驚くべきことにこの植物体内に存在する過酸化水素を利用することによって、植物を用いた生物学的フェントン反応によって水中の難分解性有機物を分解・除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とする発明である。
(1)難分解性有機物を含有する被処理水中に水生植物を光照射下に生育させ、この被処理水中に二価または三価の鉄イオンの存在下に、水生植物の生体内に存在する過酸化水素と生物学的フェントン反応を行なわせ、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、水生植物を用いた水処理方法。
【0012】
(2)難分解性有機物を含有する被処理水中に二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加して、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、前記(1)に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0013】
(3)二価または三価の鉄イオンを生成する物質が、二価または三価の鉄イオンを生成する鉄化合物またはゼロ価鉄のいずれかであることを特徴とする、前記(2)に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0014】
(4)難分解性有機物を含有する被処理水中に三価の鉄イオンを生成する鉄化合物を添加して、水生植物の生体内に存在する過酸化水素により二価の鉄イオンを生成させて、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0015】
(5)難分解性有機物を含有する被処理水中に二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加することなく、生体内に三価の鉄イオンを有する水生植物を光照射下に生育させ、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、前記(1)に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0016】
(6)二価または三価の鉄イオンを生成する物質の添加量が、被処理水に対して鉄の濃度が1mg/L〜2000mg/Lであることを特徴とする、前記(1)ないし(3)のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0017】
(7)二価または三価の鉄イオンを生成する鉄化合物が、二価または三価の鉄の無機塩または有機塩のいずれかであることを特徴とする、前記(1)ないし(6)のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0018】
(8)二価の鉄イオンを生成する鉄化合物が、塩化鉄(II)四水和物、硫酸鉄(II)七水和物、フマル酸鉄(II)および酢酸鉄(II)からなる群から選ばれる鉄化合物であることを特徴とする、前記(7)に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0019】
(9)三価の鉄イオンを生成する鉄化合物が、塩化鉄(III)六水和物、硫酸鉄(III)n水和物、フマル酸鉄(III)および酢酸鉄(III)からなる群から選ばれる鉄化合物であることを特徴とする、前記(7)に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0020】
(10)ゼロ価鉄が、鉄粉、マイクロ鉄粒子またはナノ鉄粒子のいずれかであることを特徴とする、前記(3)に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【0021】
(11)水生植物が、ウキクサ、アオウキクサ、マツモ、ウィローモス、アマゾンフロッグピッド、グランマトフィルム、スペキオスム、スイレン、ロータス、イタドリ、ハマジンチョウ、マングローブ、マコモ、コウガイゼキショウ、アブラガヤ、ガマ、ヒメガマ、イグサ、カンガレイ、アシ、サンカクイ、カキツバタ、ケイヌビエ、タイヌビエ、ヒルムシロ、アサザ、ホテイアオイ、ボタンウキクサ、アカウキクサ、サンショウモ、イチョウウキゴケ、ガボンバおよびリシアからなる群から選ばれる植物のいずれかである、前記(1)乃至(10)のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【発明の効果】
【0022】
従来のフェントン反応を利用する難分解性有機物の除去方法では、十分な反応速度を得るために過剰量の鉄塩などと過酸化水素を水中に添加する必要があったが、本発明の方法においては、水生植物の生体内に存在する過酸化水素を利用するため過酸化水素はまったく添加することなく、二価または三価の鉄イオンを生成する鉄化合物またはゼロ価鉄という二価の鉄イオンを生成する物質を被処理水中に添加する、或いは水生植物の体内に存在する鉄イオンを利用するだけでフェントン反応を行なわせることができる。
【0023】
従って、従来のフェントン反応を利用する方法で問題であった被処理水中に過剰に存在する鉄塩や過酸化水素の後処理を行なう必要がなく、低コストの水処理が可能となった。さらに、数百μg/L程度の低濃度の難分解性有機物を効率的に分解・除去できるという点でも従来にない優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例の(i)で使用した実験装置の説明図である。
【図2】ウキクサ内の過酸化水素を利用したフェントン反応によってペンタクロロフェノールが除去できたことを示すグラフである。
【図3】ウキクサ内の過酸化水素を利用したフェントン反応によってウキクサ内の過酸化水素が消費されたことを示すグラフである。
【図4】実施例の(iii)で使用した実験装置の説明図である。
【図5】リシア内の過酸化水素を利用したフェントン反応によってペンタクロロフェノールが除去できたことを示すグラフである。
【図6】マツモ内の過酸化水素を利用したフェントン反応によってペンタクロロフェノールが除去できたことを示すグラフである。
【図7】実施例の(iv)および(v)で使用した実験装置の説明図である。
【図8】実施例の(iv)の実験で、2,4−ジクロロフェノールの濃度変化を示すグラフである。
【図9】実施例の(iv)の実験で、ノニルフェノールの濃度変化を示すグラフである。
【図10】実施例の(iv)の実験で、4−tert−オクチルフェノールの濃度変化を示すグラフである。
【図11】実施例の(vi)で使用した実験装置の説明図である。
【図12】実施例の(vi)の実験で、水生植物内の過酸化水素の濃度変化を示すグラフである。
【図13】実施例の(vii)の実験で、鉄化合物を添加した場合のESR吸収スペクトルである。
【図14】実施例の(vii)の実験で、鉄化合物を添加しない場合のESR吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明は、水生植物の生体内に、水生植物の湿潤重量1グラムあたり数百ナノモル程度の濃度で過酸化水素が存在していることに着目し、この過酸化水素を利用してフェントン反応を行なわせて、ここで発生する酸化力の強いヒドロキシラジカルによって種々の難分解性有機物を分解・除去することができたものである。
【0026】
本発明の方法では、光照射下に水性植物を種々の難分解性有機物が存在する水中に生育させ、ここに二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加する。二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加して放置しておくだけで、水性植物中の過酸化水素が消費されてフェントン反応が進行し、強い酸化力を有するヒドロキシラジカルが生成され、難分解性有機物が分解される。
【0027】
なお、本発明の方法において、三価の鉄イオンを生成する鉄化合物の場合には次のメカニズムによってフェントン反応が進行する。即ち、光照射下に水性植物を種々の難分解性有機物が存在する水中に生育させ、ここに三価の鉄イオンを生成する鉄化合物を添加すると次の式(2)に示す化学式によって、水生植物の体内に存在する過酸化水素と反応して二価の鉄イオンが再生されてフェントン反応が進行し、難分解性有機物を分解・除去することができる。
Fe3++H→Fe2++HO・+H (2)
【0028】
更には、水生植物としてその体内に十分な量の三価の鉄イオンを有する水生植物を使用した場合には、上記式(2)の反応が水生植物の体内で起こり二価の鉄イオンが生成するため、被処理水中に二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加することなくフェントン反応を進行させることができ、その結果、難分解性有機物を分解・除去することができる。
【0029】
本発明で使用する二価の鉄イオンを生成する鉄化合物とは、水中で二価の鉄イオンを生ずる鉄の化合物であれば特に制限することなく使用することができる。このような二価の鉄イオンを生成する鉄化合物としては、例えば、塩化鉄(II)四水和物、硫酸鉄(II)七水和物、フマル酸鉄(II)、酢酸鉄(II)などが挙げられる。
【0030】
また、本発明で使用する三価の鉄イオンを生成する鉄化合物とは、水中で三価の鉄イオンを生ずる鉄の化合物であれば特に制限することなく使用することができる。このような三価の鉄イオンを生成する鉄化合物としては、例えば、塩化鉄(III)六水和物、硫酸鉄(III)n水和物、フマル酸鉄(III)、酢酸鉄(III)などが挙げられる。
【0031】
また、本発明で使用するゼロ価鉄とは、水中にて二価の鉄イオンを生成する金属鉄そのものをいい、例えば、鉄粉、マイクロ鉄粒子、ナノ鉄粒子などが挙げられる。
【0032】
この二価または三価の鉄イオンを生成する物質の被処理水中への添加量は、被処理水に対して鉄の濃度が1mg/L〜2000mg/Lとなる量である。この添加量が1mg/Lを下回ったり、2000mg/Lを越えると難分解性有機物の除去効率が低下するため好ましくない。
【0033】
水生植物を光照射下に生育させている被処理水に、上記の二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加することによって、既に述べたように二価の鉄イオンの場合には次の式(1)の化学式に示すようなフェントン反応によって、また、三価の鉄イオンの場合には次の式(2)の反応によって二価の鉄イオンが再生され、この二価の鉄イオンと過酸化水素が式(1)の化学式に示すようなフェントン反応を起こすことによって、被処理水中にヒドロキシラジカルを発生させる。
Fe2++H→Fe3++HO+HO・ (1)
Fe3++H→Fe2++HO・+H (2)
ここで発生したヒドロキシラジカル(HO・)がラジカル開始剤となり、被処理水中に存在する難分解性有機物から電子を引き抜くことにより原子間の結合を切断し、ほとんど全ての難分解性有機物を酸化分解することができ、被処理水中に存在する難分解性有機物を除去することができる。フェントン反応を用いれば難分解性有機物を分解できるということは非特許文献4及び非特許文献5に記載されている。
【0034】
本発明の方法では、このフェントン反応を行なわせる被処理水の処理温度は20℃〜30℃の範囲が好ましい。20℃を下回る温度または30℃を超える温度であっても、除去効率は低下するが処理は可能である。
【0035】
また、このフェントン反応を行なわせる被処理水のpHは5〜7の範囲が好ましい。水性植物として酸性の領域で生育する植物、例えばイタドリを用いた場合には、pH5を下回るpHで処理することも可能である。
【0036】
本発明の方法においては、水生植物を光の照射下に水中で生育させてフェントン反応を進行させる。そのために光の照射条件としては、一般的な陽生植物や陽葉の補償点である照度1000ルクス以上が必要であり、3000ルクス以上であることが好ましい。
【0037】
本発明に使用する水生植物は、水中にて生育し、生体内に過酸化水素を有する植物であれば特に制限なく使用することができる。このような水生植物としては、例えば、ウキクサ、アオウキクサ、マツモ、ウィローモス、アマゾンフロッグピッド、グランマトフィルム、スペキオスム、スイレン、ロータス、イタドリ、ハマジンチョウ、マングローブ、マコモ、コウガイゼキショウ、アブラガヤ、ガマ、ヒメガマ、イグサ、カンガレイ、アシ、サンカクイ、カキツバタ、ケイヌビエ、タイヌビエ、ヒルムシロ、アサザ、ホテイアオイ、ボタンウキクサ、アカウキクサ、サンショウモ、イチョウウキゴケ、ガボンバ、リシアなどを使用することができる。
【0038】
このような水生植物は、一般に植物の湿潤重量1グラムあたり50〜700ナノモルの過酸化水素を含んでいるので、本発明の方法においては、この過酸化水素がフェントン反応に利用される。植物の生体内に存在する過酸化水素の量は、西洋わさび由来のペロキシダーゼにより過酸化水素の還元が進行する際に、その過程で生じる生成物の発色を利用することで測定することができる。詳しくは、非特許文献6に記載されている。
【0039】
本発明の方法によって通常の方法では除去が困難な難分解性有機物を効率よく分解除去することができる。この明細書にて用いる「難分解性有機物」とは、自然環境中に排出された場合に微生物等による分解を受けにくく長期間にわたって環境中に存在したり、あるいは環境中に蓄積する有機物のことを意味する。ここで、分解性の程度については、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づく既存化学物質安全性点検により「難分解性」「良分解性」などと判定されている。既存化学物質安全性点検の結果は経済産業省によって公表され、2011年2月現在、1610種類の化学物質の分解性が判断されている。この明細書での難分解性の程度は、この既存化学物質安全性点検により難分解性と判定されたものと同程度の分解性をいう。自然環境において検出される頻度の高い有機ハロゲン化合物、残留農薬、染料、環境ホルモン物質、有機溶剤、各種石油製品、医薬品類、化粧品などがこれに該当する。
【0040】
この難分解性有機物は別の見方をすれば環境汚染物質であり、種々の環境規制として環境基準の項目に挙げられている物質でもある。このような環境規制物質として、例えば、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)記載物質、WHO飲料水ガイドラインの水質基準項目、要監視項目、要調査項目に挙げられている物質、日本の化学物質排出移動量届出制度(PRTR)指定物質、米国の有害物質排出目録(TRI)指定物質などがその対象となり、本発明の方法によって分解除去できる。
【0041】
このような難分解性有機物としては、具体的には、PCB、DDT、ペンタクロロフェノール、ダイオキシンなどの有機塩素化合物;チウラム、シマジン、チオベンカルブ、1,3-ジクロロプロペン、イソキサチオンなどの残留農薬;ジフェニルメタン、4-アミノフェノール、3,3'-ジクロロベンジジンどの染料・顔料;女性ホルモン(E1, E2, E3)、合成女性ホルモン(EE2)、ビスフェノールA、ノニルフェノール、2,4−ジクロロフェノールなどの環境ホルモン物質;カルバマゼピン、イブプロフェン、スルファジアジン、アジスロマイシン、アモキシシリンなどの医薬品類などが挙げられる。
【0042】
本発明の方法では、処理槽の中にて光照射下に上記したような水生植物を生育させ、ここに二価または三価の鉄イオンを生成する物質を加えて、上述の条件のもとに数十時間〜数日間放置する。場合によってはゆっくりした撹拌を行なってもよい。このようにすることによって二価の鉄イオンと水生植物の中の過酸化水素によってフェントン反応が進行する。
【0043】
本発明の水生植物を用いた水処理方法においては、上述のようにフェントン反応を利用して難分解性有機物を分解・除去することができると同時に、富栄養化問題の原因物質である窒素化合物やリン塩などの栄養塩類を水生植物が吸収するため、処理する水中にこれらの栄養塩類が溶解している場合には、これらの栄養塩類をも同時に除去することができる。
【0044】
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
(i)フェントン反応による水中の難分解性有機物の除去
図1に示す実験装置を用い、水生植物による水処理実験を行なった。本実施例では難分解性物質として、既存化学物質安全性点検により「難分解性」と判定され(官報公示整理番号3−2850)、また植物の光合成反応を阻害し、植物によっては分解がきわめて難しく、さらに殺菌剤・除草剤・防腐剤などとして用いられた経緯のある、ペンタクロロフェノールを用いた。このペンタクロロフェノールが植物によっては分解されづらいことなどについては非特許文献7および非特許文献8に詳しく記載されている。
【0046】
処理槽としては、内容積約1リットルの円筒形のガラス製容器を用い、この中に難分解性有機物として100μg/Lの濃度のペンタクロロフェノールを含む被処理水0.5リットルを入れ、ここに水生植物として5gのウキクサを入れ、さらに栄養源として培養液を加えた。培養液には植物の成長に欠かせない三大元素(炭素、水素、酸素)、多量元素(窒素、リン、カリウムなど)、および微量元素(銅、マンガンなど)を含んだものを用いた。更に、ここに二価の鉄イオンを生成する鉄化合物として、塩化鉄(II)四水和物を鉄濃度が2.8mM(156.4mg/L)となるように添加した。この処理槽の上部に蛍光灯を設置し、照度約3000ルクスの光を、明暗条件を16時間/8時間の条件でウキクサに照射しながら、6日間放置した。
【0047】
比較対照として、全く同じ処理槽と被処理水、ウキクサを用い、塩化鉄(II)四水和物を添加せずに、100μg/Lの濃度のペンタクロロフェノールを添加して同様の実験を行なった。
【0048】
実験開始時と実験開始後2日間(48時間)経過したところで二つの処理槽中の被処理水を採取し、その中のペンタクロロフェノールの濃度を測定した。被処理水中のペンタクロロフェノールの含有量は、ジクロロメタンによる液々抽出後、濃縮し、ガスクロマトグラフ質量分析器(GC/MS)を用いて測定した。詳しくは、「環境ホルモンのモニタリング手法(1998)」(第24回日本環境化学会講演集)に記載されている。
【0049】
その結果、塩化鉄(II)四水和物を鉄濃度が2.8mMとなるように添加した本発明の方法では、実験開始時に90.6μg/Lのペンタクロロフェノールが、2日経過後にはほぼゼロとなり、ペンタクロロフェノールの除去効率は98.2%であった。一方、比較対照の塩化鉄(II)四水和物を添加しない場合には、実験開始時に83.6μg/Lのペンタクロロフェノールが、2日経過後に60.7μg/Lとなり、まだかなりの量で残存しており、ペンタクロロフェノールの除去効率は27.4%であった。これらの結果を図2にグラフで示す。
【0050】
この結果から、水生植物としてウキクサを用い、ここに二価の鉄イオンを生成する鉄化合物を加えることによって、フェントン反応が進行し、2日間で難分解性有機物であるペンタクロロフェノールをほぼ完全に分解除去することができたことがわかる。これに対して、同様の方法であっても、二価の鉄イオンを生成する鉄化合物を加えない場合にはフェントン反応がほとんど起こらないためペンタクロロフェノールを十分に分解することができず、まだ被処理水中にかなりの量で残存していることがわかる。
【0051】
(ii)フェントン反応でのウキクサの生体内の過酸化水素の変化
さらに、この二つの水処理方法において、処理槽内の水生植物であるウキクサの生体内の過酸化水素の濃度を測定した。過酸化水素の濃度は、本発明の方法と比較対象のものの実験開始時と実験開始後2日間経過後の、それぞれの処理槽内のウキクサのサンプルを採取して、測定した。
【0052】
塩化鉄(II)四水和物を添加した本発明の方法の場合には、実験開始時に368.7nmol/g湿潤重量であった過酸化水素の濃度が、実験開始後2日間経過後に100.4nmol/g湿潤重量と大きく低下しており、これはフェントン反応が起こることによって過酸化水素が消費されたためと考えられる。一方、塩化鉄(II)四水和物を添加しない比較対照の場合には、実験開始時に368.7nmol/g湿潤重量であった過酸化水素の濃度が実験開始後2日間経過後でもほとんど変化しておらず、このことから塩化鉄(II)を加えない場合にはフェントン反応がほとんど起っていないと考えられる。これらの結果を図3にグラフで示す。
【0053】
(iii)ウキクサ以外の水生植物を用いたフェントン反応による水中の難分解性有機物の除去
図4に示す実験装置を用い、ウキクサ以外の水生植物としてリシアおよびマツモを用いて水処理実験を行なった。処理槽として、内容積約2リットルの円筒形のガラス製容器を用い、この中に難分解性有機物として100μg/Lの濃度のペンタクロロフェノールを含む被処理水1リットルを入れ、ここに水生植物としてリシア又はマツモを、ひとつの処理槽には一種類の水生植物を10g入れた。更に、それぞれの処理槽に二価の鉄イオンを生成する鉄化合物として、硫酸鉄(II)七水和物を鉄濃度が3mM(167.6mg/L)となるように添加した。これらの処理槽の上部に蛍光灯を設置し、照度約3000ルクスの光を、明暗条件を16時間/8時間の条件でリシアおよびマツモに照射しながら、3日間放置した。
【0054】
比較対照として、全く同じ二つの処理槽と被処理水、リシアおよびマツモを用い、硫酸鉄(II)七水和物を添加せずに、100μg/Lの濃度のペンタクロロフェノールを添加して同様の実験を行なった。
【0055】
実験開始時と実験開始後3日間(72時間)経過したところで二つの処理槽中の被処理水を採取し、その中のペンタクロロフェノールの濃度を測定した。
その結果、硫酸鉄(II)七水和物を鉄濃度が3mMとなるように添加した本発明の方法では、実験開始時に89.1μg/Lであったペンタクロロフェノールが、リシアおよびマツモのいずれの場合とも3日経過後にはほぼゼロとなり、ペンタクロロフェノールの除去効率はそれぞれ99.8%、99.7%であった。一方、比較対照の硫酸鉄(II)七水和物を添加しない場合には、実験開始時に70.4μg/Lであったペンタクロロフェノールが、3日経過後にリシアの場合40.6μg/L、マツモの場合52.3μg/Lとなり、まだかなりの量で残存しており、ペンタクロロフェノールの除去効率はそれぞれ42.3%、25.7%であった。これらの結果を図5、図6にグラフで示す。なお、図2と同様に硫酸鉄(II)七水和物を添加しない場合に、ペンタクロロフェノールが若干減少した理由はSong and Huang(2007)が報告しているように、植物への吸着現象によるものと考えられる(非特許文献9参照)。
【0056】
この結果から、水生植物としてリシアまたはマツモを用い、ここに二価の鉄イオンを生成する鉄化合物を加えることによっても、フェントン反応が進行し、2日間で難分解性有機物であるペンタクロロフェノールをほぼ完全に分解除去することができたことがわかる。これに対して、同様の方法であっても、二価の鉄イオンを生成する鉄化合物を加えない場合にはフェントン反応がほとんど起こらないためペンタクロロフェノールを十分に分解することができず、まだ被処理水中にかなりの量で残存していることがわかる。以上よりウキクサ以外の水生植物であっても本発明を適用できることがわかる。
【0057】
(iv)異なる難分解性物質の除去への適用
図7に示す実験装置を用い、水生植物による水処理実験を行なった。この実験では難分解性物質として、既存化学物質安全性点検により「難分解性」と判定された2,4−ジクロロフェノール(官報公示整理番号3−903)、ノニルフェノール(官報公示整理番号3−503)および環境省の報告で微生物による分解が「円滑ではない」とされる4−tert−オクチルフェノールを用いた。
【0058】
処理槽として内容積約8リットルのガラス製水槽3個を用い、このそれぞれの処理槽の中に難分解性有機物として50〜125μg/Lの濃度の2,4−ジクロロフェノール、ノニルフェノール、または4−tert−オクチルフェノールを含んだ被処理水1リットルを入れ、このそれぞれの処理槽に水生植物として10gのウキクサを入れた。更に、このそれぞれの処理槽に二価の鉄イオンを生成する鉄化合物として、硫酸鉄(II)七水和物を鉄濃度が3mM(167.6mg/L)となるように添加した。この処理槽の上部に蛍光灯を設置し、照度約3000ルクスの光を、明暗条件を16時間/8時間の条件で照射しながら、12時間放置した。
【0059】
実験開始時と実験開始後6時間、12時間経過したところでこれらの処理槽中の被処理水を採取し、その中の2,4−ジクロロフェノール、ノニルフェノール、および4−tert−オクチルフェノールの濃度を測定した。被処理水中の2,4−ジクロロフェノール、ノニルフェノール、および4−tert−オクチルフェノールの含有量は、ジクロロメタンによる液々抽出後、濃縮し、ガスクロマトグラフ質量分析器(GC/MS)を用いて測定した。
【0060】
その結果、硫酸鉄(II)七水和物を鉄濃度が3mMとなるように添加した本発明の方法では、実験開始時にそれぞれ、2,4−ジクロロフェノールが52.8μg/L、ノニルフェノール97.26μg/L、4−tert−オクチルフェノールが125.43μg/Lであったものが、6時間経過後にはいずれもほぼゼロとなった。これらの結果をそれぞれ図8、図9、図10にグラフで示す。
【0061】
この結果から、二価の鉄イオンを生成する鉄化合物を加えることによって、フェントン反応が進行し、難分解性有機物である2,4−ジクロロフェノール、ノニルフェノール、および分解性の低い4−tert−オクチルフェノールのいずれについても、数時間でほぼ完全に分解除去することができたことがわかった。
【0062】
(v)フェントン反応における水中の難分解性物質の分解の確認試験
本発明において、難分解性物質であるペンタクロロフェノールが分解されたことを確認するため、図7に示す実験装置を用い、ウキクサによる水処理実験を行なった。ペンタクロロフェノールは分子中に5つの塩素を含み、分解されると5つの塩化物イオンが生じる。この関係を利用してペンタクロロフェノールの分解の定量的な確認を行った。
処理槽として20cm×20cm×20cmの容積約8リットルのガラス製水槽を用い、この中に難分解性有機物として5g/Lの濃度のペンタクロロフェノールを含む被処理水4リットルを入れ、ここに水生植物として35gのウキクサを入れた。更に、ここに二価の鉄イオンを生成する鉄化合物として、硫酸鉄(II)七水和物を鉄濃度が3mM(167.6mg/L)となるように添加した。この処理槽の上部に蛍光灯を設置し、照度約3000ルクスの光を、明暗条件を16時間/8時間の条件でウキクサに照射しながら、3時間放置した。
【0063】
実験開始時と実験開始後3時間経過したところで処理槽中の被処理水を採取し、その中のペンタクロロフェノールの濃度および塩化物イオン濃度を測定した。被処理水中の塩化物イオンはクロム酸カリウムを指示薬とした硝酸銀滴定法(Mohr法)を用いて測定した。塩化物イオンとクロム酸イオンが混在するところに銀イオンが投入された時、先に溶解度積の小さい塩化銀が沈殿する。全ての塩化物イオンが沈殿生成した後にクロム酸銀由来の赤色沈殿(クロム酸銀)が生じるので、その沈殿による赤色が生じた時を滴定の終点とし、要した硝酸銀量から塩化物イオン量を求めた。
【0064】
その結果、硫酸鉄(II)七水和物を添加した本発明の方法では、実験開始時にペンタクロロフェノールが4.74mg/Lであったものが、3時間経過後に2.52mg/Lとなった。一方実験開始時に塩化物イオン濃度が5.82mg/Lであったものが、3時間経過後に7.25mg/Lとなった。
【0065】
除去されたペンタクロロフェノールが完全に分解されたと仮定すると、ペンタクロロフェノールの除去量から生じる塩化物イオンのモル量を算出することができる。すなわち1モルのペンタクロロフェノールが完全に分解されると5モルの塩化物イオンが生じるので、ペンタクロロフェノール除去量(4.74mg/L−2.52mg/L)をペンタクロロフェノールの分子量(266.34g/mol)で除した値を5倍することによって、生じた塩化物イオンのモル濃度である0.0416mol/Lが求められる。一方被処理水中の塩化物イオン濃度の変化が、ペンタクロロフェノールの分解によるものと仮定し、塩化物イオン濃度の増加分をモル量に変換すると0.0403mol/Lと求められる。以上より、塩化物イオン濃度の変化量から求めた値はペンタクロロフェノールの除去量から求めた値の約96.9%であった。すなわち、除去されたペンタクロロフェノールはほぼすべて分解され、その分解量に相当する塩化物イオンが生成されていることがわかる。
【0066】
(vi)水生植物の生体内の過酸化水素濃度
図11に示す実験装置を用い、マツモ、ウィローモス、アマゾンフロッグピッド、ウキクサおよびアオウキクサの5種類の水生植物が難分解性有機物に連続的に曝された場合のそれぞれの生体内の過酸化水素の濃度変化を求めた。ひとつのガラス水槽には一種類の水生植物を入れ、計5つのガラス水槽を用意した。難分解性有機物としては、ペンタクロロフェノール、ビスフェノールA、ノニルフェノール、2,4−ジクロロフェノールおよび4−tert−オクチルフェノールの5種類の物質を用いた。
【0067】
20cm×20cm×20cmの容積約8リットルのガラス製水槽であって、水槽の片側端部のビニルチューブから被処理水を連続的に導入し、反対側端部のビニルチューブから流出するようにした。このガラス製水槽に上記の5種類の水生植物を、それぞれの水槽に対し20gずつ入れた。被処理水には、上記の5種類の難分解性有機物をそれぞれの初期濃度がすべて100μg/Lになるように添加し、更に植物の栄養源として培養液を加えた。培養液には植物の成長に欠かせない三大元素(炭素、水素、酸素)、多量元素(窒素、リン、カリウムなど)、および微量元素(鉄、銅、マンガンなど)を含んだものを用いた。
【0068】
このガラス製水槽の上部に蛍光灯を設置し、照度約3000ルクスの蛍光灯の光を明暗条件を16時間/8時間の条件でこれらの水生植物に照射し、上記の5種類の難分解性有機物を同じ濃度で含む被処理水を水槽の片側端部のビニルチューブから連続的に導入し、反対側端部のビニルチューブから流出させて、水理学的滞留時間(HRT)が5日になるように流量を設定した。
【0069】
この条件で110日間連続して実験を行い、実験開始時と5日後、10日後以降は10日ごとに水槽内の5種類の水生植物のそれぞれのサンプルを採取し、それぞれのサンプルの過酸化水素濃度を測定した。水生植物内の過酸化水素の濃度は上記(ii)と同様の方法によって求めた。
その結果を、図12に示す。この結果より、これらの5種類の水生植物においても、安定して過酸化水素が生体内で生成し、維持されており、植物の種類によらずにこれらの水生植物を用いてフェントン反応によって難分解性有機物を分解除去できることがわかる。
【0070】
(vii)ヒドロキシラジカルの生成に対する検証実験
図12に示したように植物体内には0.1〜0.7mMの過酸化水素が維持されている(水生植物がほとんど水分で構成されているため湿潤重量1グラムを水1cmと近似した)。このような濃度レベルでヒドロキシラジカルが実際に生成されていることを検証するために、きわめて短時間で消滅するヒドロキシラジカルを一旦、スピントラップ剤であるDMPO(5,5−dimethyl−1−pyrroline−N−oxide)に補獲させてDMPO−OHアダクトを生成させ、その電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)の吸収ピークを測定した。過酸化水素が0.1mM、DMPOが1mMの溶液を調製し、鉄の濃度が50mMとなるように硫酸鉄(II)七水和物を添加した場合と添加しない場合について、ESR測定分析を行った。
【0071】
図13、図14はそれぞれ鉄化合物添加および非添加の溶液のESR吸収スペクトルである。両図の両端のピークは参照試料として同時に測定しているマンガンマーカーのピークである。鉄化合物を添加した場合は、図13に示すようにマンガンマーカーの内部にDMPO−OHラジカルアダクト固有の4つのスペクトルが測定された。すなわち、図13の条件では溶液中にヒドロキシラジカルが生成されていることを示している(非特許文献10参照)。一方、鉄化合物を添加しない場合は、図14に示すように該当する吸収スペクトルが存在せず、ヒドロキシラジカルは生成されていないことを示している。このことから、植物により0.1mM程度の過酸化水素が生成されていれば鉄化合物の添加によりフェントン反応を進行させてヒドロキシラジカルを生成することができる。過酸化水素濃度が高い植物を用いれば、(1)式にしたがって、より多くのヒドロキシラジカルを生成させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
水の高度処理、再利用、再生利用は今世紀ますます重要になってくる。本発明の方法は、都市用水、工業用水、水産業用水等々の中に混入し、蓄積してくる難分解性有機物を効率よく分解除去することができ、これらの水の有効利用のために有用であり、産業および生活環境の保全、持続性社会への転換技術として極めて重要である。
【符号の説明】
【0073】
1.処理槽
2.被処理水
3.ウキクサ
4.蛍光灯
5.水生植物
6.流入口ビニルチューブ
7.流出口ビニルチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難分解性有機物を含有する被処理水中に水生植物を光照射下に生育させ、この被処理水に二価または三価の鉄イオンの存在下に、水生植物の生体内に存在する過酸化水素と生物学的フェントン反応を行なわせ、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、水生植物を用いた水処理方法。
【請求項2】
難分解性有機物を含有する被処理水中に二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加して、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、請求項1に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項3】
二価または三価の鉄イオンを生成する物質が、二価または三価の鉄イオンを生成する鉄化合物またはゼロ価鉄のいずれかでることを特徴とする、請求項2に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項4】
難分解性有機物を含有する被処理水中に三価の鉄イオンを生成する鉄化合物を添加して、水生植物の生体内に存在する過酸化水素により二価の鉄イオンを生成させて、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項5】
難分解性有機物を含有する被処理水中に二価または三価の鉄イオンを生成する物質を添加することなく、生体内に三価の鉄イオンを有する水生植物を光照射下に生育させ、難分解性有機物を酸化分解することを特徴とする、請求項1に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項6】
二価または三価の鉄イオンを生成する物質の添加量が、被処理水に対して鉄の濃度が1mg/L〜2000mg/Lであることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項7】
二価または三価の鉄イオンを生成する鉄化合物が、二価または三価の鉄の無機塩または有機塩のいずれかであることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項8】
二価の鉄イオンを生成する鉄化合物が、塩化鉄(II)四水和物、硫酸鉄(II)七水和物、フマル酸鉄(II)および酢酸鉄(II)からなる群から選ばれる鉄化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項9】
三価の鉄イオンを生成する鉄化合物が、塩化鉄(III)六水和物、硫酸鉄(III)n水和物、フマル酸鉄(III)および酢酸鉄(III)からなる群から選ばれる鉄化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項10】
ゼロ価鉄が、鉄粉、マイクロ鉄粒子またはナノ鉄粒子のいずれかであることを特徴とする、請求項3に記載の水生植物を用いた水処理方法。
【請求項11】
水生植物が、ウキクサ、アオウキクサ、マツモ、ウィローモス、アマゾンフロッグピッド、グランマトフィルム、スペキオスム、スイレン、ロータス、イタドリ、ハマジンチョウ、マングローブ、マコモ、コウガイゼキショウ、アブラガヤ、ガマ、ヒメガマ、イグサ、カンガレイ、アシ、サンカクイ、カキツバタ、ケイヌビエ、タイヌビエ、ヒルムシロ、アサザ、ホテイアオイ、ボタンウキクサ、アカウキクサ、サンショウモ、イチョウウキゴケ、ガボンバおよびリシアからなる群から選ばれる植物のいずれかである、請求項1乃至10のいずれかに記載の水生植物を用いた水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−71295(P2012−71295A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53871(P2011−53871)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(392035972)株式会社ヤマト (21)
【Fターム(参考)】