説明

水生生物用超音波検査装置及び水生生物用超音波検査方法

【課題】超音波の走査を行うことなく、水生生物の生体内情報を低コストで確実に得ることができる水生生物用超音波検査装置を提供すること。
【解決手段】魚類雌雄判別装置10のプローブケースの先端部に超音波振動子14が設けられている。超音波振動子14は、複数のパルス信号によってパルス励起されることで超音波を魚体に向けて照射するとともに、その魚体からの反射波を受信して電気信号に変換する。マイコン27は、受信回路23及び信号処理回路24を介して反射波信号を取得し、反射波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のピークレベルを検出する。マイコン27は、LED駆動回路25により表示ディスプレイ15を駆動することで、ハーモニクス成分のピークレベルに応じた個数のLEDを点灯させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して水生生物の生体内情報を検査する水生生物用超音波検査装置、及び水生生物用超音波検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、水中音響計測技術として、医療用超音波診断装置を利用した計測方法が検討されている。医療用超音波診断装置を用いれば、解像度の高い超音波画像(Bモード画像)を非接触で得ることができる。よって、水生生物の外形やその生体内組織の形状及び運動をリアルタイムで観察することができ、水生生物の生態をより詳しく調査することができる。
【0003】
また、生鮮食品としての魚類は、雌雄で商品価格が著しく異なるものがある。一般的に販売されている魚類において、例えばサケはその外形形状の違いから雌雄判別が可能であるが、例えば、スケトウダラやマダラについては、外形形状からは雌雄判別が困難である。スケトウダラやマダラについて体内への触診を行えば雌雄判別は可能であるが、その触診は衛生上の問題から好ましくなく、雌雄判別を行わない状態で市場に出荷されているのが現状である。この雌雄判別に医療用超音波診断装置を利用すれば、魚の商品価値を下げることなく、非接触で正確に判別することが可能となる。
【0004】
因みに、特許文献1には、超音波装置を用いて鮮魚の超音波画像を取得しその鮮魚の品質検査を非破壊的に行う手法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−155692号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リニアプローブやコンベックスプローブなどの超音波プローブを用いて超音波の電子走査を行う医療用超音波診断装置は、視野の広い鮮明な超音波画像(Bモード画像やMモード画像など)が得られるという利点を有するが、非常に高価であるという欠点を有している。そのため、上記のように鮮魚の品質や魚の雌雄などの水生生物の生体内情報を得る検査装置として利用するのは実用的ではない。従って、鮮魚の品質や魚の雌雄などを検査するためにより安価な専用の検査装置の開発が望まれている。
【0006】
特許文献1の超音波装置においても、鮮魚の超音波画像を取得するために超音波の走査手段やその走査手段を制御するための処理回路などが必要であり、装置コストが高くなる。
【0007】
また、超音波の手動走査を行って、擬似断層画像を取得する技術も検討されているが、この技術では、手動による超音波走査を所定速度に保つことが困難であるため、正確な断層画像を得ることが困難となる。さらに、断層画像を生成するための処理回路が必要となるため装置コストが高くなるといった問題も生じてしまう。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波の走査を行うことなく、水生生物の生体内情報を低コストで確実に得ることができる水生生物用超音波検査装置、及び水生生物用超音波検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、超音波を水生生物に照射し、得られた反射波の非線形性に基づいて前記水生生物の体内組織の状態を非破壊的に検査する水生生物用超音波検査装置であって、連続した複数のパルス信号を出力するパルス発生回路と、前記複数のパルス信号によってパルス励起されて超音波を前記水生生物に向けて照射するとともに、前記水生生物からの反射波を受信して電気信号に変換する超音波振動子と、前記超音波振動子で変換した反射波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルを検出する検出手段と、前記検出手段で検出したピークレベルに応じて得られる生体内情報を表示可能な表示装置とを備えたことを特徴とする水生生物用超音波検査装置をその要旨とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、パルス発生回路から連続した複数のパルス信号が出力され、その複数のパルス信号によって超音波振動子がパルス励起されることにより、水生生物に向けて超音波が照射される。この超音波は、複数パルスのバースト波として水生生物に照射されるため、超音波の非線形現象を確実に起こすことができる。そして、水生生物で反射された超音波が超音波振動子で受信されて電気信号に変換される。また、検出手段により、超音波振動子で変換された反射波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルが検出される。そして、表示装置により、そのピークレベルに応じて得られる水生生物の生体内情報が表示される。このように超音波検査装置を構成すれば、従来技術のように超音波の走査を行わなくても水生生物の生体内情報を確実に得ることができる。従って、超音波検査装置において、超音波走査手段やその超音波走査のための処理手段を設ける必要がなく、装置構成の簡素化が可能となるため、装置コストを低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、超音波を水生生物に照射し、得られた反射波の非線形性に基づいて前記水生生物の体内組織の状態を非破壊的に検査する水生生物用超音波検査装置であって、連続した複数のパルス信号を出力するパルス発生回路と、前記複数のパルス信号によってパルス励起されて超音波を前記水生生物に向けて照射する第1の超音波振動子と、前記第1の超音波振動子と所定の間隔をあけて配置され、前記第1の超音波振動子から照射され水生生物を透過した超音波を受信して電気信号に変換する第2の超音波振動子と、前記第2の超音波振動子で変換した超音波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルを検出する検出手段と、前記検出手段で検出したピークレベルに応じて得られる生体内情報を表示可能な表示装置とを備えたことを特徴とする水生生物用超音波検査装置をその要旨とする。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、パルス発生回路から連続した複数のパルス信号が出力され、その複数のパルス信号によって第1の超音波振動子がパルス励起されることにより、水生生物に向けて超音波が照射される。この超音波は、複数パルスのバースト波として水生生物に照射されるため、超音波の非線形現象を確実に起こすことができる。そして、水生生物を透過した超音波が第2の超音波振動子で受信されて電気信号に変換される。また、検出手段により、第2の超音波振動子で変換された反射波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルが検出される。そして、表示装置により、そのピークレベルに応じて得られる水生生物の生体内情報が表示される。このように超音波検査装置を構成すれば、従来技術のように超音波の走査を行わなくても水生生物の生体内情報を確実に得ることができる。従って、超音波検査装置において、超音波走査手段やその超音波走査のための処理手段を設ける必要がなく、装置構成の簡素化が可能となるため、装置コストを低減することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記水生生物に接触した状態で配置され、前記超音波の整数倍の周波数または整数分の1倍の周波数で前記水生生物を振動させる超音波振動手段を備えることをその要旨とする。
【0014】
請求項3に記載の発明によれば、超音波振動手段によって超音波の整数倍の周波数または整数分の1倍の周波数で水生生物が振動されるため、超音波の非線形現象が発生しやすくなり、超音波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のピークレベルが大きくなる。従って、水生生物の生体内情報をより正確に得ることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記水生生物は魚であり、前記検出手段で検出した少なくとも1つのピークレベルの検出パターンに応じて魚の雌雄判別を行う判別手段を備え、前記表示装置は、前記判別手段で判定された魚の雌雄を表示することをその要旨とする。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、検出手段で検出した少なくとも1つのピークレベルの検出パターンに応じて、判別手段により魚の雌雄判別が行われる。そして、その判別結果としての魚の雌雄が表示装置に表示される。このようにすれば、魚の商品価値を下げることなく迅速に雌雄判別を行うことができる。なお、複数のピークレベルの検出パターンに応じて判別手段により魚の雌雄判別を行えば、判別精度を向上させることが可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、超音波を水生生物に照射し、得られた反射波の非線形性に基づいて前記水生生物の体内組織の状態を非破壊的に検査する水生生物用超音波検査方法であって、連続した複数のパルス信号に基づいて超音波振動子を駆動して超音波を前記水生生物に向けて照射するとともに、超音波振動子で受信した前記水生生物からの反射波信号または透過波信号を取得するステップと、前記反射波信号または前記透過波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のうちの少なくとも1つのピークレベルを検出するステップと、前記検出手段で検出した少なくとも1つの信号レベルに応じて得られる生体内情報を表示装置に表示させるステップとを含むことを特徴とする水生生物用超音波検査方法をその要旨とする。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、連続した複数のパルス信号によって超音波振動子がパルス励起されることにより、水生生物に向けて超音波が照射される。この超音波は、複数パルスのバースト波として水生生物に照射されるため、超音波の非線形現象を確実に起こすことができる。そして、水生生物で反射された超音波または水生生物を透過した超音波が超音波振動子で受信されて電気信号に変換されることで反射波信号または透過波信号が取得される。また、超音波振動子で変換された反射波信号または透過波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルが検出され、そのピークレベルに応じて得られる水生生物の生体内情報が表示装置に表示される。このようにすれば、従来技術のように超音波の走査を行わなくても水生生物の生体内情報を確実に得ることができる。従って、超音波走査手段やその超音波走査のための処理手段を設ける必要がなく、装置構成の簡素化が可能となるため、超音波検査装置の装置コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳述したように、請求項1〜5に記載の発明によると、超音波の走査を行うことなく、水生生物の生体内情報を低コストで確実に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
[第1の実施の形態]
【0021】
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態における魚類雌雄判別装置10(水生生物用超音波検査装置)を示す概略構成図である。
【0022】
図1に示されるように、魚類雌雄判別装置10は、先端部11と本体部12とを有する携帯型のプローブケース13と、プローブケース13の先端部11に収納される超音波振動子14と、プローブケース13の本体部12の上面の中央に設けられる表示ディスプレイ15と、プローブケース13の本体部12の側面に設けられる操作ボタン16と、プローブケース13の本体部12内に収納される処理回路部18とを備えている。
【0023】
プローブケース13は、作業者が把持可能なペンシル型の形状を有し、先端部11や本体部12などの各部材の接続箇所をシール部材(図示略)で密閉した防水型のケースである。
【0024】
超音波振動子14は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる薄膜圧電素子であり、パルス励起されることにより、例えば中心周波数が3.5MHz、焦点距離が60mmの超音波を魚体20(水生生物)に向けて照射する。本実施の形態の超音波振動子14は、送受波兼用の素子であり、魚体20で反射した超音波(反射波)を電気信号に変換する。
【0025】
表示ディスプレイ15としては、カラー表示が可能なLED15A,15B,15Cを複数配列したLEDアレイが用いられている。なお、本実施の形態の表示ディスプレイ15では、赤色に発光するLED15Aと黄色に発光するLED15Bと緑色に発光するLED15Cとが本体部12の長手方向に沿って規則正しく配列されている。
【0026】
図2に示されるように、超音波振動子14、表示ディスプレイ15及び操作ボタン16は、処理回路部18に電気的に接続されている。具体的には、処理回路部18は、パルス発生回路21、送信回路22、受信回路23、信号処理回路24、LED駆動回路25、I/F回路26、マイコン27(マイクロコンピュータ)等を備える。
【0027】
パルス発生回路21は、連続した複数のパルス信号を出力する。送信回路22は、パルス発生回路21から出力されるパルス信号に基づいて、超音波振動子14を駆動するための駆動パルスを出力する。そして、駆動パルスによって超音波振動子14がパルス励起されると、その超音波振動子14から複数パルスの超音波(バースト波)が出力される。なお、本実施の形態では、バースト波に含まれるパルス数は100〜120個程度であり、超音波振動子14から最初に発せられた超音波がその焦点位置に到達したタイミングでパルス信号の出力が停止するように設定されている。これにより、魚類雌雄判別装置10において、超音波の送受信波が重ならないようになっている。
【0028】
受信回路23は、図示しない信号増幅回路を含み、超音波振動子14で受信された反射波信号(エコー信号)を増幅して信号処理回路24に入力する。
【0029】
信号処理回路24は、図示しない検波回路やA/D変換回路などを備える。信号処理回路24は、反射波信号を抽出して、その反射波信号の電圧値(アナログ値)をA/D変換し、その変換後のデジタルデータをマイコン27に入力する。
【0030】
マイコン27は、各種の演算処理を行うCPU28や処理プログラムやデータを記憶するメモリ29などを含んで構成されていて、装置全体を統括的に制御する。マイコン27が実行する処理プログラムとしては、反射波信号の中からハーモニクス成分またはサブハーモニクス成分のピークレベルを検出するためのプログラムや、表示ディスプレイ15の各LED15A,15B,15Cを駆動制御するためのプログラムなどを含む。
【0031】
LED駆動回路25は、マイコン27からの制御信号によって動作し、表示ディスプレイ15の各LED15A,15B,15Cを所定の点灯パターンで駆動制御する。
【0032】
I/F回路26は、外部装置31(具体的には、パソコン)との間で信号の授受を行うためのインターフェース(具体的には、USBインターフェース)である。本実施の形態では、パソコン31からI/F回路26を介して駆動電源が供給されるようになっている。また、魚類雌雄判別装置10で取得した反射波信号に関するデータをパソコン31に転送し、そのパソコン31を利用して、データ解析をより厳密に行うことができるようになっている。
【0033】
さらに、本実施の形態において、マイコン27に内蔵されるメモリ29は、データの書き換えが可能なメモリ(例えば、フラッシュメモリ)を含み、マイコン27は、I/F回路26を介してパソコン31とデータ通信を行うことにより、そのメモリ29に記憶されている処理プログラムやデータの内容を書き換えることができるよう構成されている。
【0034】
次に、魚類雌雄判別装置10を用いて魚体20の雌雄判別を行うための具体的な方法について説明する。
【0035】
まず、作業者は、水槽19を海水で満たし、その水槽19の海水中に検査対象となる魚体20(死後まもない個体または麻酔をした生体)を入れる(図1参照)。そして、作業者は、魚類雌雄判別装置10のプローブケース13の先端部11を海水中に挿入し、その先端部11を魚体20に向けた状態で操作ボタン16を押す。より詳しくは、超音波の焦点位置と魚体20の生殖腺の部位20A(図1参照)とが一致するよう魚類雌雄判別装置10を移動させ、その位置で操作ボタン16を押す。これにより、雌雄判別のための処理が開始される。なお図1では、容器である水槽19に魚体20を入れて水中で魚体20にプローブケース13を当てる例を示しているが、これに代えて大気中で直接魚体20にプローブケース13を当てるようにしてもよい。
【0036】
具体的には、マイコン27は、操作ボタン16の操作信号を検出して、パルス発生回路21を動作させることにより、100〜120パルス程度の連続したパルス信号を送信回路22に供給する。送信回路22ではそれらパルス信号に基づいて複数の駆動パルスが生成され、各駆動パルスが超音波振動子14に供給される。これにより、超音波振動子14が振動して、複数パルスからなるバースト波の超音波が魚体20に向けて照射される。そして、魚体20で反射した超音波が超音波振動子14で受信され、超音波振動子14によって反射波が電気信号(反射波信号)に変換される。その反射波信号は、受信回路23で増幅された後、信号処理回路24に入力される。
【0037】
信号処理回路24では、反射波信号の検波処理やA/D変換処理といった信号処理が行われ、デジタル信号に変換された反射波信号がマイコン27に供給される。マイコン27は、反射波信号をもとに、その反射波信号の周波数成分を得るためのフーリエ変換処理を行う。そして、マイコン27は、その変換後のデータに基づいて、超音波のハーモニクス成分(高調波成分)のピークレベルを定量的に検出する。なおここでは、例えば、超音波振動子14から照射された超音波の2倍の周波数(7MHz)のハーモニクス成分のピークレベルを検出する。そして、マイコン27は、LED駆動回路25に制御信号を出力してその駆動回路25により表示ディスプレイ15を駆動することで、ハーモニクス成分のピークレベルに応じた個数のLED15A,15B,15Cを点灯させる。
【0038】
なお、魚の魚卵は油分を多く含んでいるため、魚卵を有する雌の魚体20ほどハーモニクス成分のピークレベルは大きくなる。従って、作業者は、表示ディスプレイ15におけるLED15A,15B,15Cの点灯数に応じて魚体20の雌雄を判別することが可能となる。
【0039】
因みに、図3(a)には、空気を含む水における音響特性の非線形性の測定結果を示し、図3(b)には、脱気した水における音響特性の非線形性の測定結果を示している。ここでは、周波数が580KHzの超音波を照射し、その反射波信号に含まれるハーモニクス成分(高調波成分)やサブハーモニクス成分(分調波成分)を測定した。なお、図中の数字は、ハーモニクス成分の次数を示し、1/2はサブハーモニクス成分を示している。図3(a),(b)に示されるように、ハーモニクス成分やサブハーモニクス成分のピークレベルは、水に含まれる気泡に大きく依存し、脱気した水では、ピークレベルが低くなる。特に、偶数のハーモニクス成分のピークレベルが低く抑えられている。このようにハーモニクス成分のピークレベルを測定することにより、水に含まれる空気の有無を判定することができる。
【0040】
同様に、魚体20における卵の油成分によって、測定されるハーモニクス成分のピークレベルが異なることから、そのピークレベルの違いにより魚体20の雌雄判別を行うことが可能となる。
【0041】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0042】
(1)本実施の形態の魚類雌雄判別装置10では、魚体20に向けて超音波を照射し、得られた反射波信号に含まれるハーモニクス成分のピークレベルに応じて表示ディスプレイ15の各LED15A,15B,15Cを点灯させることにより、魚体20の雌雄判別を行うようにした。この場合、従来技術のように超音波画像を得るために超音波の走査を行う必要がなく超音波走査手段やその超音波走査のための処理手段を省略することができる。その結果、魚類雌雄判別装置10の構成を簡素化することができ、装置コストを低減することができる。
【0043】
(2)従来の医療診断装置において、超音波の非線形現象を利用したハーモニックイメージでは、超音波画像の解像度を上げるために送信のパルス幅を狭くする必要があり、十分な非線形性を得ることは困難であった。これに対して、本実施の形態の魚類雌雄判別装置10では、100〜120パルスの超音波(バースト波)が魚体20に照射されるので、超音波の非線形現象を確実に起こすことができる。また、魚類雌雄判別装置10では、医療診断装置のような超音波パワーの厳しい規制がないため、非線形現象を起こすために十分な大きさの振幅を有する超音波を使用することができる。その結果、反射波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のピークレベルが大きくなるため、魚体20の雌雄判別を確実に行うことができる。
【0044】
(3)本実施の形態の魚類雌雄判別装置10は、ペンシル型の装置であるため、持ち運びが容易で操作し易い。従って、魚体20の商品価値を落とすことなく、その魚体20の雌雄判別を迅速に行うことができる。また、魚類雌雄判別装置10は、小型装置であるため消費電力が少なく、ランニングコストを抑えることができる。
【0045】
(4)本実施の形態の魚類雌雄判別装置10は、ハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分を含む反射波信号のデータをパソコン31に転送することができる。従って、様々な種類の魚について反射波信号を取得し、その反射波信号のデータをパソコン31に転送することにより、魚の種類に応じたサンプリングデータとしてパソコン31に蓄積することが可能となる。そして、パソコン31により、蓄積したデータを解析することで、雌雄判別のためのより正確なデータを得ることが可能となる。
[第2の実施の形態]
【0046】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図4に基づき説明する。
【0047】
図4に示されるように、本実施の形態の魚類雌雄判別装置10Aでは、送信用の超音波振動子41(第1の超音波振動子)と受信用の超音波振動子42(第2の超音波振動子)とを備えている。この魚類雌雄判別装置10Aにおいて、送信用の超音波振動子41はプローブケース13の先端部11に設けられ、受信用の超音波振動子42、送信用の超音波振動子41と所定の間隔をあけて配置されている。本実施の形態では、プローブケース13の先端部11にコ字状のアーム部44が接続され、そのアーム部44の先端に受信用の超音波振動子42が固定されている。また、本実施の形態の魚類雌雄判別装置10Aは、第1の実施の形態と同様に、表示ディスプレイ15、操作ボタン16、及び処理回路部18を備えている。
【0048】
図5に示されるように、処理回路部18において、送信回路22が送信用の超音波振動子41に接続され、受信回路23が受信用の超音波振動子42に接続されている。なお、処理回路部18における他の構成は、上記第1の実施の形態と同じである。
【0049】
本実施の形態の魚類雌雄判別装置10Aでは、送信用の超音波振動子41と受信用の超音波振動子42との間に検査対象となる魚体20が配置され、その状態で、送信用の超音波振動子41から超音波が魚体20に向けて照射される。そして、魚体20を透過した超音波が受信用の超音波振動子42で受信され、電気信号(透過波信号)に変換される。その透過波信号は、受信回路23で増幅された後、信号処理回路24に入力される。
【0050】
信号処理回路24では、透過波信号の検波処理やA/D変換処理といった信号処理が行われ、デジタル信号に変換された透過波信号がマイコン27に供給される。マイコン27は、透過波信号の周波数成分を得るためのフーリエ変換処理を行い、その変換後のデータに基づいて、超音波のハーモニクス成分のピークレベルを定量的に検出する。そして、マイコン27は、LED駆動回路25に制御信号を出力してその駆動回路25により表示ディスプレイ15を駆動することで、ハーモニクス成分のピークレベルに応じた個数のLED15A,15B,15Cを点灯させる。
【0051】
このように魚類雌雄判別装置10Aを構成しても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
[第3の実施の形態]
【0052】
次に、本発明を具体化した第3の実施の形態を図6に基づき説明する。
【0053】
本実施の形態では、第1の実施の形態の魚類雌雄判別装置10に加えて、超音波振動装置51を備えている。つまり、魚類雌雄判別装置10と超音波振動装置51とによって水生生物用超音波検査装置が構成されている。
【0054】
具体的には、超音波振動装置51は、海水W1とともに魚体20を入れる容器52と、その魚体20を予備振動させるための超音波振動板53と、超音波振動板53を振動させるための駆動回路54と、超音波振動板53と対向する位置に配置される反射板55と、反射板55の位置を調整するための調整機構56とを備える。
【0055】
超音波振動板53は、圧電材料からなる振動板であり、駆動回路54から出力される駆動パルスによって振動する。なおここでは、魚類雌雄判別装置10が照射する超音波の2倍の周波数(例えば、7MHz)で超音波振動板53が振動する。また、反射板55は、調整機構56の調整ツマミ56Aを操作することで水平方向に移動可能に構成されている。
【0056】
そして、超音波振動板53と反射板55との間に魚体20を配置し、調整機構56の調整ツマミ56Aを操作するによって反射板55を超音波振動板53側に移動させる。これにより、反射板55と超音波振動板53との間に魚体20を挟み込んで固定する。この状態で、超音波振動板53を駆動することにより、魚体20が振動される。また、反射板55を設けることにより、魚体20内において定在波が起きるため、その魚体20が効率よく振動される。
【0057】
また、魚類雌雄判別装置10は、容器52の上部において、プローブケース13の先端部11が魚体20に向くよう傾斜した状態で固定されている。なおここでは、超音波振動子14から照射される超音波の焦点位置と魚体20の生殖腺の部位20Aとが一致するよう魚体20が配置されている。
【0058】
本実施の形態では、超音波振動装置51によって魚体20を予備振動させた状態で、魚類雌雄判別装置10の操作ボタン16を押すことにより、魚体20の雌雄判別が行われる。このように、魚体20を予備振動させることで、超音波の非線形現象が発生しやすくなるため、検出されるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のピークレベルが大きくなる。従って、魚体20の雌雄判別をより正確に行うことができる。
【0059】
なお、本発明の各実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0060】
・上記第2の実施の形態において、送信用の超音波振動子41を第1の実施の形態と同様に送受信兼用の超音波振動子として用い、その送受信兼用の超音波振動子41を用いて魚体20からの反射波信号を取得するよう構成してもよい。この場合、超音波振動子41で取得した反射波信号と超音波振動子42で取得した透過波信号との2つの超音波信号を併用することにより、雌雄判別をより厳密に行うことが可能となる。例えば、魚体20内に浮き袋があったり、空気が溜まっていたりした場合、超音波は透過しなくなり誤判定の可能性があるが、反射波信号と透過波信号との2つの超音波信号を取得して雌雄判別を行えば、その誤判定を確実に回避することができる。
【0061】
・上記第3の実施の形態において、超音波振動板53は、超音波の2倍の周波数で振動するものであったが、これに限定されるものではなく、3倍、4倍などの整数倍の周波数や整数分の1倍の周波数で振動するよう構成してもよい。このようにしても、超音波の非線形現象が発生しやすくなるため、魚体20の雌雄判別を正確に行うことができる。なお、超音波振動板53を用いて魚体20を確実に振動させることができる場合には、超音波振動板53と対向配置される反射板55やその調整機構56を省略してもよい。
【0062】
・上記各実施の形態では、ハーモニクス成分のピークレベルに基づいて、表示ディスプレイ15の各LED15A,15B,15Cを点灯させ、各LED15A,15B,15Cの点灯数によって魚体20の雌雄判別を行うものであったが、これに限定されるものではない。例えば、判別手段としてのマイコン27が、ハーモニクス成分のピークレベルに基づいて魚体20の雌雄判別を行い、その判別結果に応じた所定の点灯パターンで表示ディスプレイ15の各LED15A,15B,15Cを点灯させてもよい。具体的には、ハーモニクス成分のピークレベルが基準レベルよりも大きいか否かで雌雄判別を行い、その雌雄判別の結果、雌の魚であると判定した場合には、例えば、赤色のLED15Aを点灯させ、雄の魚であると判定した場合には、例えば緑色のLED15Cを点灯させるように構成する。なお、基準レベルとしては、魚の種類に応じて設定された基準値であって、マイコン27のメモリ29に予め記憶されたデータを使用する。
【0063】
・上記各実施の形態では、ハーモニクス成分の1つのピークレベルに基づいて雌雄判別を行うものであったが、これに限定されるものではなく、複数のピークレベルに基づいて雌雄判別を行ったり、各ピークレベルの検出パターンに応じて雌雄判別を行ったりしてもよい。具体的には、ハーモニクス成分の各ピークレベルの総和を算出し、その算出値と所定の基準レベルとを比較することにより、雌雄判別を行うようにしてもよい。また、ハーモニクス成分の各ピークレベルの大小関係を比較することにより、雌雄判別を行ってもよい。勿論、サブハーモニクス成分のピークレベルに基づいて雌雄判別を行うように構成してもよい。
【0064】
また、検査する魚の種類に応じて、雌雄判別に用いるハーモニクス成分の種類や個数を変更してもよい。なおこの場合、検査に先立ち、魚類雌雄判別装置10とパソコン31との間でデータ通信を行い、マイコン27のメモリ29に記憶されている処理プログラムやデータをその魚の種類に応じて適宜書き換えるようにする。
【0065】
・上記実施の形態の魚類雌雄判別装置10,10Aでは、表示装置として、複数のLED15A,15B,15Cからなる表示ディスプレイ15を設けるものであったが、これに限定されるものではなく、図7に示す魚類雌雄判別装置10Bのように、魚体20の雌雄を通知可能な表示ランプ61,62を設けてもよい。すなわち、この魚類雌雄判別装置10Bでは、表示ディスプレイ15の代わりに、魚が雄であると判定した場合に点灯させる雄用表示ランプ61と、雌であると判定した場合に点灯させる雌用表示ランプ62とが設けられている。このように魚類雌雄判別装置10Bを構成すれば、検査した魚体20の雌雄を作業者に的確に通知することができる。
【0066】
・上記各実施の形態では、魚類雌雄判別装置10,10A,10Bに具体化するものであったが、魚類の雌雄判別以外に、水生生物の生体内情報を得るための超音波検査装置として具体化してもよい。具体的には、例えば、魚卵の商品価値がある魚類においてその卵巣の成熟度を検査する装置や、マグロなどの魚体の脂肪含有率を検査する装置として具体化してもよい。なお、魚卵や卵巣としては、例えば、いくら(サケの魚卵)、キャビア(チョウザメの魚卵)、すじこ(サケやマスの卵巣)、たらこ(スケトウダラの卵巣)などを挙げることができる。また、水生生物としては、サケなどの魚類以外に、ホタテ、カニ、イカなどの無脊椎動物であってもよい。
【0067】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0068】
(1)請求項1乃至4のいずれか1項において、作業者が把持可能な携帯型のプローブケースを備え、そのプローブケース内に前記パルス発生回路、超音波振動子、検出手段、及び表示装置が設けられることを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【0069】
(2)請求項1乃至4のいずれか1項において、前記パルス発生回路は、前記超音波振動子から最初に発せられた超音波パルス信号がその焦点位置に到達したタイミングで前記複数のパルス信号の出力を停止することを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【0070】
(3)請求項3において、前記超音波振動手段は、前記水生生物に接触した状態で配置される振動板と、その振動板と対向する位置に配置される反射板とを有することを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【0071】
(4)請求項4において、前記判別手段は、前記検出手段で検出したハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルを予め設定された基準レベルと比較し、その比較結果に基づいて、前記魚の雌雄判別を行うことを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【0072】
(5)技術的思想(4)において、前記基準レベルは、前記魚の種類に応じて設定されることを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態の魚類雌雄判別装置を示す概略構成図。
【図2】第1の実施の形態における魚類雌雄判別装置の電気的構成を示すブロック図。
【図3】(a)は、空気を含む水におけるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のピークレベルを示す説明図、(b)は、脱気した水におけるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のピークレベルを示す説明図。
【図4】第2の実施の形態の魚類雌雄判別装置を示す概略構成図。
【図5】第2の実施の形態における魚類雌雄判別装置の電気的構成を示すブロック図。
【図6】第3の実施の形態の水生生物用超音波検査装置を示す概略構成図。
【図7】別の実施の形態の魚類雌雄判別装置を示す概略構成図。
【符号の説明】
【0074】
10,10A,10B…水生生物用超音波検査装置としての魚類雌雄判別装置
14…超音波振動子
15…表示装置としての表示ディスプレイ
20…水生生物としての魚体
21…パルス発生回路
27…検出手段及び判別手段としてのマイコン
41…第1の超音波振動子としての送信用の超音波振動子
42…第2の超音波振動子としての受信用の超音波振動子
51…超音波振動手段としての超音波振動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を水生生物に照射し、得られた反射波の非線形性に基づいて前記水生生物の体内組織の状態を非破壊的に検査する水生生物用超音波検査装置であって、
連続した複数のパルス信号を出力するパルス発生回路と、
前記複数のパルス信号によってパルス励起されて超音波を前記水生生物に向けて照射するとともに、前記水生生物からの反射波を受信して電気信号に変換する超音波振動子と、
前記超音波振動子で変換した反射波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルを検出する検出手段と、
前記検出手段で検出したピークレベルに応じて得られる生体内情報を表示可能な表示装置と
を備えたことを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【請求項2】
超音波を水生生物に照射し、得られた反射波の非線形性に基づいて前記水生生物の体内組織の状態を非破壊的に検査する水生生物用超音波検査装置であって、
連続した複数のパルス信号を出力するパルス発生回路と、
前記複数のパルス信号によってパルス励起されて超音波を前記水生生物に向けて照射する第1の超音波振動子と、
前記第1の超音波振動子と所定の間隔をあけて配置され、前記第1の超音波振動子から照射され水生生物を透過した超音波を受信して電気信号に変換する第2の超音波振動子と、
前記第2の超音波振動子で変換した超音波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分の少なくとも1つのピークレベルを検出する検出手段と、
前記検出手段で検出したピークレベルに応じて得られる生体内情報を表示可能な表示装置と
を備えたことを特徴とする水生生物用超音波検査装置。
【請求項3】
前記水生生物に接触した状態で配置され、前記超音波の整数倍の周波数または整数分の1倍の周波数で前記水生生物を振動させる超音波振動手段を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の水生生物用超音波検査装置。
【請求項4】
前記水生生物は魚であり、前記検出手段で検出した少なくとも1つのピークレベルの検出パターンに応じて魚の雌雄判別を行う判別手段を備え、前記表示装置は、前記判別手段で判定された魚の雌雄を表示することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水生生物用超音波検査装置。
【請求項5】
超音波を水生生物に照射し、得られた反射波の非線形性に基づいて前記水生生物の体内組織の状態を非破壊的に検査する水生生物用超音波検査方法であって、
連続した複数のパルス信号に基づいて超音波振動子を駆動して超音波を前記水生生物に向けて照射するとともに、超音波振動子で受信した前記水生生物からの反射波信号または透過波信号を取得するステップと、
前記反射波信号または前記透過波信号に含まれるハーモニクス成分及びサブハーモニクス成分のうちの少なくとも1つのピークレベルを検出するステップと、
前記検出手段で検出した少なくとも1つの信号レベルに応じて得られる生体内情報を表示装置に表示させるステップと
を含むことを特徴とする水生生物用超音波検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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