説明

水産練り製品の製造方法

【課題】-40℃よりも高温の冷凍貯蔵によっても品質を維持した長期保存が可能な水産練り製品の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態に係る水産練り製品の製造方法は、水産物を調理して魚肉等を取り出す調理工程(S11)と、魚肉等の水産原料をすり潰して肉糊を生成するらい潰工程(S12)と、肉糊を所定の形状に成形する成形工程(S13)と、肉糊をゲル化する坐り工程(S14)と、ゲル化した肉糊を冷凍して冷凍半製品を生成する冷凍工程(S15)と、冷凍半製品を冷凍流通させる冷凍流通工程(S16)と、冷凍流通した冷凍半製品を解凍する解凍工程(S17)と、解凍した半製品を加熱して水産練り製品を生成する加熱工程(S18)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚肉のすり身を主原料とする水産練り製品の保存方法に関し、特に、冷凍保存を活用した水産練り製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉のすり身を主原料とし、練って整形した後に、加熱して製造する水産練り製品としては、蒲鉾、ちくわ、はんぺん、つみれ、薩摩揚げ、じゃこてん等が広く知られている。
【0003】
水産練り製品の一般的な製造方法は、まず原料の魚をさばいて頭と内臓を除去する(調理工程)。次に、魚肉に食塩等を加えてすり潰して肉糊を作った(らい潰工程)後に、肉糊を所定の形状に成形する(成形工程)。続いて、成形された肉糊を焼いたり、蒸したり、茹でたり、揚げたりするなどして加熱すると(加熱工程)、水産練り製品が出来上がる。
【0004】
水産練り製品の製造方法は、例えば、下記特許文献1乃至2に開示されている。
【特許文献1】特開2005−34028号公報
【特許文献2】特開2007−60968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、水産練り製品は冷蔵流通が主流であるため、貯蔵できるのが一週間程度と短く、長期保存が困難であった。-40℃以下の冷凍処理を行えば、製品の品質を保ったまま長期間貯蔵することが出来るので、遠隔地への供給も可能であるが、-40℃以下で冷凍貯蔵する設備は非常にコストがかかり、中小企業等にとっては負担が重いため、現状では一般的な流通工程に普及していない。
【0006】
一方、-15〜-20℃程度の冷凍貯蔵であれば、比較的低コストで実現可能であるが、解凍後の練り製品に、ドリップが出たり、弾力が弱くなったり、内部に多数の空洞ができてしまい、品質が劣化してしまうといった問題がある。これは、内部の水分が凍ってしまうことに起因する。
【0007】
このように、従来の水産練り製品では、長期保存が困難であったため、盆や正月等の需要期の前にあらかじめ作り置きしておくことや、海外等の遠隔地への供給が困難であり、せっかくの販売機会を逃さざるを得なかった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、-40℃よりも高温の冷凍貯蔵によっても品質を維持した長期保存が可能な水産練り製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る水産練り製品の製造方法は、魚肉等の水産原料をすり潰して肉糊を生成するらい潰工程と、前記肉糊をゲル化する坐り工程と、前記ゲル化した肉糊を冷凍して冷凍半製品を生成する冷凍工程と、前記冷凍半製品を冷凍流通させる冷凍流通工程と、前記冷凍流通した冷凍半製品を解凍する解凍工程と、前記解凍した半製品を加熱して水産練り製品を生成する加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る水産練り製品の冷凍半製品の製造方法は、魚肉等の水産原料をすり潰して肉糊を生成するらい潰工程と、前記肉糊をゲル化する坐り工程と、前記ゲル化した肉糊を急速に冷凍して冷凍半製品を生成する冷凍工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る水産練り製品の製造方法によれば、-15℃や-20℃等の比較的高温の冷凍貯蔵によっても品質の劣化を抑えて長期間の保存が可能となり、需要期前の作り置きや海外等の遠隔地への供給を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る水産練り製品の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態では、水産練り製品のうち、加熱工程として「揚げ」を行う「じゃこてん」を例に挙げて説明する。
【0013】
まず、S11において、原料となるホタルジャコの調理を行い、ホタルジャコの頭と内臓を除去する(調理工程)。ホタルジャコは、鮮魚を用いても良いし、冷凍魚を解凍して用いても良い。
【0014】
続いて、S12に進み、S11で調理した魚肉に食塩、氷、グルソー、グルコース、でんぷん等の調味料を加え、らい潰機(臼)で20〜30分程度すりながら混ぜ合わせ、肉糊(塩ずり身)を生成する(らい潰工程)。ここで、氷を加えることで、らい潰工程における摩擦熱により肉糊の温度が上昇するのを抑えることができる。なお、後述する坐り工程おいて、肉糊をゲル化させるためには、少なくとも塩と氷(水)を加えることが必要である。
【0015】
次に、S13において、S12で生成した肉糊を、型等を用いて所定の形状に成形する(成形工程)。本実施形態では、直径3cm、高さ20〜25cmの円筒形の塩化ビニル製ケーシング内に肉糊を詰め込むことで成形を行った。なお、以降の工程は、ケーシングに入れたままで行った。
【0016】
また、後述する坐り工程を行った後に成形を行うと、坐り工程により形成された高分子ゲルの三次元網目構造が壊され、弾力性が損なわれるため、本成形工程により成形が完了するまでは、坐りが行われないようにすることが望ましい。よって、本実施形態では、S11〜S13の各工程を、坐りが進まないように、10℃以下の環境で行うようにした。もちろん、高分子ゲルを破壊しない成形であれば、坐り工程の後で行っても良く、例えば、切断による成形であれば坐り工程の後に行っても問題ない。
【0017】
続いて、S14に進み、S13で成形された肉糊を、5℃の環境下に15時間そのまま置いておき、ゲル化させる(坐り工程)。具体的には、肉糊の詰められたケーシングを、5℃の冷蔵庫の中に15時間保管した。この坐り工程においては、肉糊の主成分であるミオシンが多量化し、高分子ゲルによる三次元構造が形成され、肉糊が弾力性のあるゲルに変わる。
【0018】
なお、坐りには、低温坐りと高温坐りがあり、一般に、低温坐りは0〜20℃の環境で行われ、高温坐りは20〜50℃の環境下で行われるケースが多い。坐り工程の時間は、高温坐りでは短時間(例えば、15〜30分)で良いが、低温坐りの場合には長時間(例えば、10〜24時間)行う必要がある。
【0019】
原料である魚の種類によっては、高温坐りでなければゲル化しないものもあり、その場合には、高温坐りを行う必要がある。本実施形態では、既存の冷蔵設備を有効活用すると共に、雑菌の繁殖を防止すべく、低温坐りを行った。
【0020】
続いて、S15では、S14で得られた高分子ゲルを-20℃で急速冷凍させる(冷凍工程)。本実施形態では、-20℃の冷凍庫内に設置したエタノール溶液内にゲル化した魚肉入りケーシングを浸して急速冷凍を行った。本実施形態では、S15の冷凍工程を経て生成されたものを水産練り製品の半製品とする。
【0021】
ここで、急速冷凍とは、最大氷結晶生成温度帯を短時間(通常、30分以内)で通過させる冷凍あり、最大氷結晶生成温度帯とは、冷やされた物質の内部の水分が凍っていく家庭で、氷の結晶が大きく成長しようとする-1〜-5℃の温度帯のことである。この最大氷結晶生成温度帯を素早く通過(急速冷凍)すれば、氷の結晶が大きく成長するのを防止できる。
【0022】
次に、S16では、S15で得られた水産練り製品の冷凍半製品を冷凍のまま流通・貯蔵させる(冷凍流通工程)。本実施形態に係る冷凍半製品の状態であれば、少なくとも3ヶ月は品質を維持することが可能である。よって、盆や正月の需要期前の作り置きや、冷凍コンテナによる船便を利用した海外への輸出も可能である。
【0023】
なお、冷凍流通・貯蔵させる際の冷凍温度は、冷凍半製品の品質を保持するために、少なくとも-15℃以下であることが望ましく、-20℃以下であれば十分である。よって、本実施形態によれば、従来のように、冷凍水産練り製品の品質を保持するために、高価且つ高ランニングコストの-40℃以下の冷凍設備を使用しなくても良い。
【0024】
続いて、S17では、冷凍半製品の解凍を行う(解凍工程)。具体的には、5℃の冷蔵庫で一晩寝かせれば良い。なお、解凍後、最終的な形状を整えるために、所定の形状にカットしても良い。但し、上述したように、既に坐り工程を経てゲル化しているので、高分子ゲルを破壊するような成形を行ってはならない。
【0025】
続いて、S18では、S17では解凍したものを油で揚げる油ちょうを行う(加熱工程)。本実施形態では、円筒形のケーシング内に詰められているので、塩化ビニル製のケーシングを破って解凍された肉糊を取り出してから加熱工程を行う。この加熱工程により最終的な水産練り製品であるじゃこてんが完成する。
【0026】
このように加熱工程を行うことで、上記坐り工程においてゲル化した肉糊の三次元網目構造が、さらに強固な構造となり、さらに弾力性が増す。
【0027】
なお、上記解凍工程及び加熱工程は、冷凍半製品を入手して解凍後に水産練り製品の販売を行う業者が行っても良いし、冷凍半製品のまま業者が販売を行い、冷凍半製品を購入した消費者が解凍及び加熱を行っても良い。例えば、冷凍製品として販売する場合には、販売業者はそのまま水産練り製品の冷凍半製品を販売し、購入した消費者が解凍及び加熱工程を行うことになり、一方、冷蔵及び常温製品として販売する場合には、業者が解凍工程及び加熱工程を行った後に、水産練り製品の完成品として販売することになる。
【0028】
以上、本実施形態に係る水産練り製品(じゃこてん)の製造方法について説明したが、本実施形態によれば、坐り工程を経た冷凍半製品の状態で冷凍流通及び冷凍貯蔵させることで、-40℃以下に冷凍しなくても、冷凍半製品の品質を長期間保持することができる。そして、この冷凍半製品を解凍・加熱して完成した水産練り製品の品質も、冷凍工程を経ない水産練り製品の品質に劣らない品質を維持できる。
【0029】
ここで、従来の通常の製造工程で製造されたじゃこてんを急速冷凍して冷凍貯蔵した場合の品質状態と、本実施形態におけるじゃこてんの冷凍半製品を冷凍貯蔵した場合の品質状態とを、図面を参照して比較する。
【0030】
図2は、従来のじゃこてんを冷凍貯蔵して解凍した後の顕微鏡断面写真であり、図2(a)は、-15℃で3ヶ月冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真、図2(b)は、-20℃で3ヶ月冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真、図2(c)は、-40℃で3ヶ月冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真である。図3は、本実施形態に係るじゃこてんの冷凍半製品を冷凍貯蔵して解凍した後の顕微鏡断面写真であり、図3(a)は、-15℃で3ヶ月冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真であり、図3(b)は、-20℃で冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真である。
【0031】
図2(a)及び図2(b)に示すように、加熱工程を経て水産練り製品を完成させてから-15℃や-20℃程度で冷凍したものは、氷結晶が成長して3ヶ月後には多くの大きな空洞が形成されてしまっている。但し、図2(c)に示すように、水産練り製品の完成品であっても、-40℃の低温で冷凍した場合には、空洞の発生が少なく、品質の劣化が少ない。
【0032】
一方、図3(a)及び図3(b)に示すように、本実施形態に係る肉糊を坐らせてから加熱工程の前に冷凍した水産練り製品の冷凍半製品であれば、-15℃や-20℃程度で冷凍した場合であっても、空洞の発生が少なく、冷凍貯蔵による品質の劣化が少ない。
【0033】
以上、本実施形態に係る水産練り製品の製造方法について説明したが、本実施形態のように冷凍半製品の状態で冷凍流通や冷凍貯蔵を行えば、ある程度品質を保持した長期間の冷凍保存が可能になり、盆や正月等の需要期の前にあらかじめ作り置きしておいたり、海外等の遠隔地への供給が可能となる。
【0034】
また、本実施形態に係る冷凍半製品であれば、-15℃や-20℃の比較的高温な温度での冷凍保存であっても品質の保持が可能であるため、既存の冷凍設備を流用したり、比較的低コストで冷凍設備を設置したりできると共に、ランニングコストを抑えることもできる。
【0035】
以上、本実施形態について詳細に説明したが、本発明の実施形態は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、原料としてはホタルジャコ等の魚だけでなく、イカやタコ等、他の水産原料を用いることができるし、複数の水産原料を混ぜ合わせて使用しても良い。
【0036】
また、本実施形態では、肉糊の温度を下げるために、らい潰工程において水分として氷を加えたが、もちろん液体の水を加えるようにしても良い。なお、本明細書では、水とは固体の氷も含むものである。
【0037】
また、本実施形態では、既存の設備を活用するために坐り工程を低温坐りで行ったが、高温坐りで行っても良い。高温坐りであれば坐り工程を短時間で行うことができる。なお、低温坐りは、0〜10℃で10〜24時間行うのが望ましい、高温坐りは、30〜50℃で15〜30分行うのが望ましい。
【0038】
また、本実施形態では、水産練り製品のうち、じゃこてんを例に挙げて説明したが、もちろん本発明は、蒲鉾、ちくわ、はんぺん、つみれ等の他の水産練り製品にも適用可能であることは言うまでもない。
【0039】
また、本実施形態では、冷凍工程において、ケーシングをエタノール内に漬ける急速冷凍を行ったが、ケーシングをそのまま冷凍庫内に保存する緩慢凍結であっても良い。但し、急速冷凍のほうが空洞の発生を抑えることができるので、急速冷凍による冷凍のほうが望ましい。
【0040】
緩慢冷凍による本変形例の場合の冷凍後の状態を図4に示す。図4は、本実施形態の変形例に係るじゃこてんの冷凍半製品を冷凍貯蔵して解凍した後の顕微鏡断面写真であり、図4(a)は、-15℃で3ヶ月冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真であり、図4(b)は、-20℃で冷凍貯蔵して解凍した後の断面写真である。図3の急速凍結の場合と比較すると、若干空洞が多いが、図2の従来の場合と比較すると、格段に空洞の数が少なく、本変形例によっても一定の品質が保持されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、本実施形態に係る水産練り製品の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2は、従来のじゃこてんを冷凍貯蔵して解凍した後の顕微鏡断面写真である。
【図3】図3は、本実施形態に係るじゃこてんの冷凍半製品を冷凍貯蔵して解凍した後の顕微鏡断面写真である。
【図4】図4は、本実施形態の変形例に係るじゃこてんの冷凍半製品を冷凍貯蔵して解凍した後の顕微鏡断面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚肉等の水産原料をすり潰して肉糊を生成するらい潰工程と、
前記肉糊をゲル化する坐り工程と、
前記ゲル化した肉糊を冷凍して冷凍半製品を生成する冷凍工程と、
前記冷凍半製品を冷凍流通させる冷凍流通工程と、
前記冷凍流通した冷凍半製品を解凍する解凍工程と、
前記解凍した半製品を加熱して水産練り製品を生成する加熱工程と、
を備えることを特徴とする水産練り製品の製造方法。
【請求項2】
魚肉等の水産原料をすり潰して肉糊を生成するらい潰工程と、
前記肉糊をゲル化する坐り工程と、
前記ゲル化した肉糊を急速に冷凍して冷凍半製品を生成する冷凍工程と、
を備えることを特徴とする水産練り製品の冷凍半製品の製造方法。
【請求項3】
前記坐り工程は、低温坐り工程であることを特徴とする請求項2記載の水産練り製品の冷凍半製品の製造方法。
【請求項4】
前記冷凍工程は、急速に冷凍を行う急速冷凍工程であることを特徴とする請求項2又は3記載の水産練り製品の冷凍半製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−136165(P2009−136165A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313174(P2007−313174)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(592134583)愛媛県 (53)
【出願人】(507398268)有限会社安岡蒲鉾店 (1)
【Fターム(参考)】