説明

水産養殖システムから出る魚廃棄物を改変UASBリアクタを用いてメタンに変換する方法

塩水又は汽水を用いた水産養殖システム中で生ずる含塩有機固形物又は有機性廃棄物からなる汚泥の処理プロセスを記載する。本プロセスは、嫌気条件下で稼働する改変リアクタの使用を含み、含塩有機固形物の消化によりメタンを生成する。充填基材を含めるように従来のリアクタを改変することで、以前には知られていなかった含塩廃棄物の消化が実現される。更に、有機固形物の消化によるメタン生成プロセスを提供する。また、水産養殖システムへの改変リアクタの導入及び使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に、再循環海洋水産養殖システムにおける含塩汚泥(saline sludge)の消化、より具体的には、メタンを含むバイオガスを生ずる、そのような消化における改変リアクタの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、魚の乱獲及び環境悪化により、世界の商業的漁獲高が驚くべき速度で減少している。国連食糧農業機構(FAO)によれば、現在、世界の商業目的の海洋漁業生物種のほぼ70%が完全に漁獲、乱獲されているか、大幅に減少してしまっている。
【0003】
現在、海産食品の需要は水産業から可能な供給を超えている。予想される人口増加に基づけば、全世界の海産食品需要は2025年までに2倍になると予測される。したがって、水産製品の需要と供給の間で、海産食品の不足が増え続ける。最も好ましい予測でも、2025年における世界の海産食品需要は、商業的漁業の漁獲高の2倍になると推定されている。
【0004】
同じ傾向は米国にも存在する。米国人1人当たりの海産食品の消費量は、1984年から1994年の間に25%上昇し、今も増え続けている。2006年における平均的米国人の魚介類消費量は16.5ポンド(約7480グラム)であった。その結果、米国は輸入海産食品に大きく依存するようになった。米国は世界で日本に次いで大きな海産食品輸入国である。魚類輸入品の価格は1985年から1994年の間にほぼ80%上昇し、120億米国ドル近い記録的レベルに達した。その結果、食用海産品の貿易赤字は70億米国ドルとなった。これは天然産物の中で石油に次いで大きな米国の貿易赤字の原因となっており、全農産物の中で最大の赤字である。
【0005】
海洋魚類の養殖は世界で最も急成長している魚類生産分野の1つである。水産製品に対する世界的な需要の増加を満たし、米国漁業の貿易赤字を逆転させる唯一の道が、海洋水産養殖システム(制御環境下での水生生物の養殖)によるものであることは非常に明確である。このような状況に応答し、世界の水産養殖による生産量は急速に伸びている。世界の海産食品供給における水産養殖の割合は1984年から1994年の間に12%から19%に増加している。米国の水産養殖による生産量も1980年代及び1990年代の間に着実に成長を続けており、最も急成長している農業分野である。しかし、近年の米国産業の成長にも関わらず、米国で消費された海産食品のうち、国内の水産養殖によるものはたった10%であり、米国の水産養殖生産の価値は世界で10番目でしかない。
【0006】
全世界で、魚製品の需要と供給の間の増大するギャップを埋めるためには、水産養殖の生産量が今後25年間で3〜4倍に増加する必要があると予想されている。このような状況から、環境持続可能性を有すると同時に魚類を大量生産する商業的に存立可能な改良された水産養殖システムを開発する切実な動機が存在する。
【0007】
この分野の大きな欠点は、魚糞便及び食べ残し飼料の分解による沿岸地域の有機/無機汚染という形での海洋環境への悪影響である。そのような懸念に対して、環境への影響を低減するために、閉鎖型(closed)再循環システムを用いて海洋魚類養殖を内陸部に移す傾向がある。そのようなシステムは、水を保全し、閉鎖ループ内での汚水処理を可能にし、排水の放出制御が向上することで、環境へのシステムの影響を低減する。
【0008】
閉鎖型再循環水産養殖システムのほとんどは、硝化/脱窒プロセスによる生物学的窒素除去及び機械的固形物除去を含む。米国では、有機物の排出に対する厳格な規則が新規に設けられたことにより、水産養殖業界は固形廃棄物の処理を運転の一部に組み込もうとしている。かかる処理では、凝集/凝固プロセスを用い、汚泥を減容した後、堆肥化して土壌に散布する。しかし、海水及び汽水から生じた汚泥は塩分濃度が高いため、堆肥としての利用が制限され、埋立地及び廃棄物放出流の汚染の原因となっている。
【0009】
再循環水産養殖システムから出るのは主に有機物であり、食べ残し飼料及び魚糞便材料に由来する懸濁物質からなる。魚飼料の30〜40%(w/w)が最終的に有機性廃棄物になると推定されている(Beveridge, M. C., Phillips, M.J., Clark, R.M., 1991. A quantitative and qualitative assessment of west from aquatic animal production; in D.E. Burne and J.R. Tomasso (Eds.), Aquaculture and water quality (pp. 506-533))。100トンの魚生物量を有し且つ1日の給餌率が魚重量の2%である水産養殖施設では、年間220〜290トンの乾燥有機性廃棄物が全浮遊物質(TSS)として生ずる。回収される廃棄物の沈澱後の実際の体積はその10倍大きく、2200〜2900mに達し得る。100トンのサケの養殖場で放出される窒素、リン、及び糞便物質の量は、それぞれ20,000人、25,000人、及び65,000人分の未処理下水中に含まれる栄養素廃棄物とほぼ等しいと計算されている(Hardy, R.W. 2001. Aquaculture Magazine 26: 85-89)。
【0010】
水産養殖施設から出る固形廃棄物のリサイクルに用いられる最も一般的な2つの方法は、土壌施用及び堆肥化である(Ewart, J.W., Hankins, J, A., Bullock, D. 1995. State policies for aquaculture effluents and solid wastes in the northeast region. Bulletin No. 300)。水産養殖施設の立地及び地方の規則によっては、水産養殖施設は制限のあるコストの高い選択肢しか汚泥排出に利用できないことがあるEwartらは、肥料及びその他の有機性廃棄物(排水を含む)を土壌施用して農作物に施肥することは、米国のほとんどの州で、重金属、病原体、及びその他の汚染物質の量並びに土壌施用量を制限する規則により管理されていることが示されている。具体的には施用量は、流出又は地下水の汚染若しくは塩化を防ぐために、栄養素含量、土壌型、及び植物の栄養素取込み特性に基づいている(Chen, S., Coffin, D.E., Malone, R.F., 1997. Sludge production and management for recirculating aquaculture system. J.World Aquacult. Soc. 28: 303-315;Ewartら)。臭気問題も、人口集中地域における土壌施用を制限している。施設から廃棄又は再利用するための別の場所への汚泥の輸送は、汚泥管理コストの大きな要素となっている。なぜなら、濃縮汚泥は90%超が水分であるからである(Black and Veatch, L.L.P. 1995. Wastewater Biosolids and Water Residuals: Reference Manual on Conditioning, Thickening, Dewatering, and Drying. CEC Report CR-105603. The Electric Power Research Institute, Community Environment Center, Washington University, St. Louis, MO及びReed, S.C., Crites, R.W., Middlebrooks, E.J. 1995. Natural Systems for Waste Management and Treatment, 2nd ed. McGraw-Hill, New York)。
【0011】
塩水を用いた水産養殖施設の汚泥廃棄問題は更に厄介である。塩分濃度が高いため、淡水を用いる水産養殖システムの汚泥廃棄で最も一般的な2つの方法である土壌施用又は堆肥化に海洋汚泥は用いることができない。網で囲った海中養殖から内陸の再循環水産養殖システムへの将来的シフトは、処理の必要な大量の含塩汚泥を生ずると予想されている。現時点でこの問題に取り組まなければ、将来これが「ボトルネック」効果となり、内陸再循環システムでの海洋魚類生産の潜在的成長を阻むことになるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、塩水を用いた水産養殖システムから出る汚泥処理及びかかる汚泥処理を組み込んだ改良型再循環水産養殖システムが必要とされており、これにより、環境への影響を低く抑えつつ、質の良い魚種を高収量で得ることができるようになるだろう。本発明は、このようなニーズを満たし、且つ更なる利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
本発明は一般的に、環境への影響を低く抑えつつ、質の良い魚種を高収量で生産するための、再循環海洋水産養殖システムにおける含塩汚泥の消化に関する。
【0014】
一態様では、本発明は、メタンを生成する嫌気性リアクタの使用を含む、水産養殖システムで生ずる含塩有機固形物の消化方法を提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、水産養殖システムで生ずる含塩有機固形物の消化を含む、メタンガスの生成方法を提供する。
【0016】
更に別の態様では、本発明は、水性媒体中での運転を含み、嫌気性リアクタを用いて水性媒体から含塩有機固形物を除去してメタンを生成することを更に含む、海洋魚種を生産するための閉鎖型再循環海洋水産養殖プロセスシステムを提供する。
【0017】
更に別の態様では、本発明は、海洋魚種を生産するための閉鎖型再循環海洋水産養殖プロセスにおける改変UASBリアクタ(当該改変UASBリアクタは、微生物バイオフィルムの堆積に適した組成の材料を含み且つ体積に対する表面積の割合が大きい充填材料を含む)の使用を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、上向流(upflow)リアクタを含む上向流嫌気性消化メタン生成システムを提供し、当該上向流リアクタは、リアクタ下部に入口、リアクタ上部に出口、リアクタ内に、汚泥固形物床を下部に含む含塩媒体(saline medium)、及びリアクタ内に、メタン生成バイオフィルムを有する複数の支持体を備え、該メタン生成バイオフィルムにより該固形汚泥が嫌気性消化されて生成するメタン含有ガスを回収するためのガス回収アセンブリを有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の方法に用いられる例示的な改変上向流嫌気性汚泥床(UASB)リアクタのモデルを示す図である。
【図2】本発明の方法における嫌気性水処理ループの一部としてメタンを生成するための改変UASBリアクタが組み込まれた再循環水産養殖システムの好ましい構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、海洋水産養殖システムによって生ずる塩分含有汚泥の処理方法に関する。本発明はまた、塩分含有汚泥の消化によるメタンの生成に関する。更に本発明は、海洋水産養殖システムから出る塩分含有汚泥の消化及びメタンガスの生成のための嫌気性リアクタに関する。本発明はまた、再循環海洋水産養殖システムにおけるかかるリアクタの使用に関する。
【0021】
一般的に、海洋水産養殖システムは、魚類等の海洋生物の養殖に用いられるシステムである。かかる養殖は、所望の生産量を最大限にするために、制御条件下で実施される。かかるシステムを用いて魚類を養殖する場合、所望の生産量は、任意選択により、水産養殖媒体の体積当たりの魚重量測定値として測定される。密度の高い魚収量が得られるシステムが特に望ましい。
【0022】
光照射計画、塩分濃度、温度、pH等の特性を種々に変更した典型的な海洋水産養殖システムが米国特許第6,443,097号に記載されている。かかる水産養殖システムを用いると、廃棄物の発生が少ないという特性及び海洋水産養殖プロセスの水性媒体源として市水(municipal. water)を使用し易いことにより、かかるシステムの開発前には水産養殖生産施設の配置が商業的に現実的でなかった都市環境及び同様な立地で、商業目的の栽培漁業を運転することが可能となる。
【0023】
水産養殖システムは、多種多様な海洋種の水産養殖生産に幅広く応用可能であり、そのような海洋種としては、例えばゴウシュウマダイ(ヨーロッパヘダイ、Suparus aurata)、ハドック、リードフィッシュ(Calamoichthys calabaricus)、チョウザメ(sturgeon)(Acipenser transmontanus)、スヌーク(snook)(Centropomus undecimalis)、ブラックシーバス(Centropristis striata)、サクラマス(masu salmon)、タイセイヨウサケ(Atlantic salmon)、ニジマス、モンクフィッシュ(monkfish)、ソール、パーチ、ティラピア、フラウンダー、マヒマヒ、シマスズキ(striped bass)、シャッド(shad)、カワカマス(pike)、ホワイトフィッシュ、メカジキ(swordfish)、レッドスナッパー(red snapper)、バラマンディ、ターボット(turbot)、レッドドラム(red drum)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
再循環水産養殖システムは種々の具体的形態の実施形態が可能であるが、通常、水産養殖プロセスの特定の段階(種親の馴化、産卵、卵の孵化、幼魚の飼育、稚魚の養成、生育用の水性媒体をそれぞれが含むタンクのアセンブリを備え、補助的な固形物除去フィルター、活性微生物群が結合したバイオフィルター、酸素(又は酸素含有ガス)源、並びに水産養殖プロセスシステムの各タンクの酸素、塩分濃度、温度、露光、pH、及び二酸化炭素を監視及び制御するための自動制御ユニットを備える。水産養殖プロセスシステムはまた、オゾン化/消毒ユニット、泡沫分離(泡沫ブレーカー又は消泡)ユニット、鹹水生成ユニット、自動給餌ユニット、生検施設、捕獲/パッケージ化施設等の補助的施設を任意選択により備えていてもよい。
【0025】
再循環海洋水産養殖プロセスシステムは、専用の建物又はその他の構造物に収容されてよい。本プロセスは市水を利用することができるため、栽培漁業の運転場所として従来考えられていた他の地域に比べて施設を維持するための輸送費及びインフラ費がはるかに安い市街地又は郊外地域に水産養殖システムを置くことができる。
【0026】
本発明のプロセスの実施において水性媒体を入れるために使用するタンクは如何なる好適な種類のタンクであってもよいが、耐食性材料で作製されていることが好ましい。タンクは、蒸発を抑えるために覆われていてもよいし、本発明の所与の用途の必要又は所望に応じて、覆われていなくてもよい。
【0027】
タンク内の水性媒体の塩分濃度は、塩分濃度プローブ及びそれに関連する制御部等の電気化学的監視装置を用いて、あるいは塩分濃度を所望の値又は所定の運転範囲内に維持するための当該技術分野で公知のその他種々の好適な手段を用いて、適切なレベルに調節することができる。
【0028】
タンクは、照明システム等に電力を供給するために必要に応じて好適な電源に接続されていてよい。照明システムに連結されている電源は、水産養殖システム用の監視制御モジュールに連結されていてもよい。かかる監視制御モジュールは、タンク内容物に照射する光を可変的に制御するように配置してよく、具体的には光強度及び光周期(露光期間)の長さを制御する。
【0029】
あるいは、又は更に、監視制御モジュールの配置は、溶存酸素プローブ、熱電対、pHセンサー、流量モニター、流量制御弁、塩分検知器、酸素供給デバイス、酸/塩基ディスペンサー、自動飼料ディスペンサー等の監視制御要素とモジュールを適切に接続して、水(水性媒体)温度、水中の溶存酸素(DO)濃度、水のpH、飼料(栄養素)の分配、緑水藻類(green water algal)状態、塩分濃度、タンクへの水の流入排出速度等のシステム運転におけるその他のパラメータを監視制御するような配置であってよい。
【0030】
水産養殖プロセスシステムの運転において、タンク外部での処理のために、水性媒体はシステムポンプによって水産養殖タンクから再循環ループ又は集回流路(flow circuit)中へと送液されてもよい。例えば、水性媒体は、タンクから濾過ユニット、例えばビーズフィルタータンクへと流れてもよく、そこで、水中に懸濁されている固形物がビーズ濾材に捕捉されて水性媒体から除去される。
【0031】
かかる濾過ユニットは、例えば、20ミクロンより大きな粒径の微粒子を除去するように配置してよい。ビーズフィルターは、フィルターの定期的バックフラッシュを実施するための電子制御部、例えば所定の間隔でバックフラッシュを行うためのサイクルタイマー制御部、濁度センサー等の固形物監視装置、及び/又はその他の自動制御手段を備えることが有利であり、これらの具備は当業者の能力範囲内である。
【0032】
濾過ユニットは、沈殿物を除去し、また、濾過タンク上に浮遊するタンパク質性材料を除去するためのタンパク質スキマーと連結していてもよい。
【0033】
ビーズフィルターの代わりに、又はそれに加えて、例えばメンブレンフィルター、沈殿槽、清澄器、固形物遠心分離器、フィルタープレス等の多数のその他の種類の機械式フィルターを固形物除去に使用することができる。
【0034】
機械式濾過の後、機械式フィルターで濾過された水(ろ液)は、次いで、移動床バイオフィルターへと送液されて嫌気条件下で硝化されてもよく、それにより、水性媒体中に存在するアンモニア(NH)又はNHはNO、次いでNO)に変換され、その後、任意選択により脱窒バイオフィルター中で嫌気条件下で脱窒される。任意選択により脱窒された後、水性媒体中の溶存酸素レベルを好適にするため、例えば濃度を少なくとも3ppm、好ましくは3〜7ppmにするために、水性媒体は再酸素化されてもよい。得られた処理水は水産養殖タンクに再循環される。
【0035】
再循環ループ中で、フィルターから放出された水を、連結された水産養殖タンク中の水産養殖媒体を所与の温度に維持するための必要に応じて、任意選択により選択的に加熱又は冷却することができる。例えば、かかる水性媒体は、円筒多管式熱交換器等の熱交換器へと流れてもよく、そこで循環水性媒体は熱交換液(例えばグリコール/水溶液)によって適宜加熱又は冷却される。熱交換液は、供給源容器から熱交換器の通路を循環してもよく、供給源容器では、液体は、水性媒体の所望の熱交換加熱又は冷却の必要性に応じて所望の温度に維持されている。
【0036】
このようにして、水産養殖タンク中の水を、プロセスシステム中で生育中の特定の魚種に適当な所望の温度に維持することができる。
【0037】
再循環集回流路において、副流ループ(side stream loop)を備えることが有利であり、副流ループは、溶解した有機化学種がオゾン又は酸素との接触によって除去される処理ユニットを通って水性媒体を流すために運転されるポンプを含む。かかる処理ユニットは、任意選択により、連結された処理ユニットタンク中の液体表面から浮遊タンパク質物質を除去するためにタンパク質スキマーを備えていてもよい。次いで、処理水は、水産養殖タンクに返送される前に、再利用される水性媒体のイオン交換、pH調整、及び/又はその他の処理のために配置されたポリッシング槽を通って送液されてもよい。
【0038】
フィルター又はタンクのいずれかからのオーバーフロー及び水産養殖プロセスシステム中のフィルターからの廃棄固形物は、水及び固形物が塩素等の消毒薬で処理される廃棄物タンクに送液されてもよい。次いで、消毒されたオーバーフロー/固形物は最終的な廃棄処理のために、水産養殖システムから例えば公共下水システム、曝気池(aeration pond)、又はその他の放流水域に放出され得る。
【0039】
本明細書に記載の海洋水産養殖システムを運転すると廃棄物を生ずる。本明細書で用いて「有機固形物」及び「有機性廃棄物」との用語は互換可能である。かかる廃棄物は、水産養殖システムの水環境内の固形物質又は液状廃棄物を含んでもよい。廃棄物は、以下のいずれか又は全てからなり得る:含塩有機固形物、魚飼料、魚糞便物質、及び死骸、鱗、皮、内臓等の魚の一部。したがって、海洋水産養殖システム中の廃棄物は、システムを汚染する有機固形物からなる。海洋水産養殖システムが塩水を含む場合、廃棄物も塩を含み、有機固形物は含塩有機固形物となる。
【0040】
本発明の一実施形態では、廃棄物は本明細書に記載の嫌気性リアクタを用いて分解され得る。かかるリアクタは水産養殖システム内に組み込まれてもよい。本明細書において、「嫌気性」という語は、酸素非存在下における廃棄物の分解を指して使用される。
【0041】
淡水を用いた水産養殖システムから有機性廃棄物を除去するために利用されるリアクタの1つに上向流嫌気性汚泥床(UASB)がある。UASBは、淡水を用いた水産養殖システム内で、そこに含まれる廃棄物含有水性媒体を嫌気性処理するために利用することができる。従来のUASBリアクタは、廃棄物含有水性媒体がリアクタに進入するための入口を備える。廃棄物グラニュールから汚泥が形成され、廃棄物グラニュールは巨大微生物凝集体として速い沈降速度で形成されるため、リアクタの底部に沈着し、システムの洗浄に抵抗性を示す。汚泥が蓄積し、更に廃棄物含有水性媒体がリアクタに供給されると、微生物と水性媒体の基質との反応によって汚泥の嫌気性分解並びに二酸化炭素及びメタンを含むバイオガスの生成が起こる。この反応は以下のようにまとめられる。
【0042】
【化1】

【0043】
海洋水産養殖の環境中には塩分が存在するため、塩水を用いた水産養殖システム中に堆積した塩分含有汚泥の分解には、従来のUASBリアクタは有効ではない。しかし、本発明は、高塩分有機固形物の嫌気性分解を起こすのに有効な改変UASBを提供する。本発明の改変UASBの例を図1に示す。
【0044】
本発明の改変UASBリアクタは、図1に示すように、廃棄物を含有する水性媒体が流入するための入口を備え、「汚泥床」中に充填された汚泥からなる底層、充填基材で覆われた汚泥ブランケット、及び上側液体層を含む。リアクタの最上部近傍にはバッフルが設けられ、汚泥の嫌気性分解により生成したバイオガスをガスキャップへ、次いで容器の最上部から外部へと導く。処理済の水性媒体から汚泥を分離するために沈殿器スクリーンが設けられ、処理済の水性媒体を排出するための出口が設けられている。
【0045】
本明細書に記載の改変UASBリアクタにおいて、「充填基材(packing substrate)」は「充填材料」とも呼ばれ、有機固形物の固定化に使用される。改変リアクタ中に存在する充填材料は、体積に対する表面積の割合が大きな材料を含むことが好ましい。充填材料は、メタン生成性の微生物コンソーシアム(発酵体、酢酸生成微生物(acetogen)、及びメタン生成微生物)を含む微生物バイオフィルム形成のための基材となり、大きな表面積を提供することでコンソーシアムによるメタン生成を向上させる。
【0046】
例示的な実施形態では、固形物濃度が3〜4%の、塩分を含む海水が入口から改変リアクタに供給され、汚泥床及び活性細菌マットで覆われた充填床中を上方へと流れる。沈殿器スクリーンにより処理水から汚泥が分離され、バイオガスが容器最上部に収集される。
【0047】
本明細書に記載の改変UASBリアクタが標準的UASBリアクタと異なる点は、前述したように充填基材上にバイオフィルムが形成される点であり、巨大微生物凝集体が別個のグラニュールを形成することで汚泥が固定されるという点ではない(これは標準的リアクタでも起こる)。
【0048】
排水から回収された固形物の嫌気性消化は、公共排水処理システムにおける一般的なユニット運転であり、また、メタン生成のための汚泥固形物の嫌気性消化も公知であるが、塩分は淡水での嫌気性消化に使用される慣用の微生物叢に悪影響を与えるため、これまで嫌気性消化は海水又は高塩分濃度を特徴とするその他の水には応用することができないと考えられていた。
【0049】
したがって、微生物介在性の嫌気性消化に、微生物種への悪影響無しに塩水又は海水中の含塩汚泥が利用できるということは驚くべきことであり、予測不可能であった。本発見は、リアクタに含まれる支持体上のバイオフィルム中にメタン生成微生物を用い、効率の高い方法で実施化された。支持体は、任意の好適な種類、サイズ、及び形状であってもよく、例えば、所望のメタン生成微生物のバイオフィルムが上で成長可能なプラスチック材料又はポリマー材料で形成された支持体を含むことができる。
【0050】
支持構造体上でのバイオフィルム形成を誘導するためのプロセス条件は、リアクタ内で種々のプロセス条件(温度、圧力、流速、滞留時間等)で連続運転を実施して、水産養殖システムに用いるリアクタ中でバイオフィルムが形成されるのに適した条件のプロセス一式を決定するという簡単な方法で容易に決定可能であり、当業者の能力範囲内である。
【0051】
したがって、本発明は、上記改変UASBリアクタを用いて水産養殖システム中の含塩有機固形物を高効率で消化する方法を提供する。
【0052】
別の実施形態では、本発明は、上記改変UASBリアクタを用いた、含塩有機固形物から形成された含塩汚泥からのメタン生成を提供する。含塩廃棄物を含有する水性媒体が、流入液から改変リアクタに供給され、汚泥床及び充填基材を通って上方へと流れる。水性媒体内の有機固形物は充填基材に付着し、表面積が最大化された微生物バイオフィルムを形成し、別の基材との反応が可能になる結果、メタンが生成される。
【0053】
更に別の実施形態では、本発明は、上記改変UASBリアクタを組み込んだ海洋再循環水産養殖プロセスシステムを提供する。更に別の実施形態では、本発明は、水産養殖システム中での上記改変UASBリアクタの使用を提供する。
【0054】
更に別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載される上向流リアクタを含む上向流嫌気性消化発生システムを提供する。好ましい実施形態では、リアクタは、リアクタの下部に入口を備え、リアクタの上部に出口を備える。リアクタはまた、下部に含塩溶媒及び汚泥固形物の床を含むことが好ましい。更に、リアクタ内にはメタン生成バイオフィルムを有する複数の支持体がある。システムは、汚泥固形物の嫌気性消化の結果としてメタン生成バイオフィルムにより生成されたメタン含有ガスを回収するように構成されたガス回収アセンブリを含む。
【0055】
濾過された任意の淡水源を用いて、淡水(補給水(make-up water))を水産養殖プロセスに供給してもよく、例えば井戸水又は河川水等を適切に殺菌した後に用いることができる。塩素化された市水が淡水源である場合、例えば水を複数の砂媒体(multi‐sand medium)、次いで活性炭を通すことで、水を最初に処理して塩素を除去することが望ましい。
【0056】
水産養殖プロセスの施設は、プロセスに用いる水性媒体用の淡水及び塩水の貯留所を備えていてもよい。塩水の生成は、水産養殖施設中で塩水生成機を用いて行うことができ、混合室で微量ミネラルの導入及び塩水の混合を行い、例えば自然の海水又はそれより高い塩分濃度の含塩水性媒体が形成される。得られた含塩水性媒体はその後、水産養殖プロセスの各工程で種々に所望されるように、そのままの濃度又は希釈された(低塩(hyposaline))形態で、プロセス中に用いることができる。
【0057】
水産養殖システムは、パイプ、管、マニホールド、流量制御弁、流量制限オリフィス(restricted flow orifice)要素、弁アクチュエータ及び弁調節器(これらは如何なる適切な種類であってもよく、空気圧駆動式アクチュエータ、電気機械式アクチュエータ、ソレノイド弁等の要素を含む。)の形態の適当な集回流路(flow circuitry)を備えていてもよく、集回流路は、中央制御ユニット又はアセンブリを含むか又はこれらに作動可能に接続されていてよい。
【0058】
運転中、水産養殖タンクから出た水性媒体は、閉鎖型再循環ループ中を循環して水性媒体処理複合体(例えばビーズフィルター、バイオフィルター、オゾン化ユニット、タンパク質スキマー等の設備からなる)へと流れ、外部再循環ループ中で処理された後、水産養殖タンクへと再循環されることが好ましい。
【0059】
このようにして、本プロセスシステムは、システム運転中に水性媒体の所望の体積回転率が得られるように有利に配置され、水産養殖タンクから出た流れは連結された液体再循環ループを通って水産養殖タンクへと戻り、必要に応じた廃棄物除去及び補給水添加が行われる。再循環ループ及び構成要素ポンプを適切に配置することで、水産養殖タンク中で実施される特定の運転のため、適切な水産養殖タンク液体体積回転速度が達成され得る。例えば、プロセスは、種々の具体的実施形態で所望されるように、水産養殖タンク中の水の全容量が1時間に約1.5〜約5回、例えば1時間に2〜4回、又は1時間に3〜4回の速度で補充されるように運転することができる。
【0060】
水産養殖タンクに連結された液体再循環ループは、バイオフィルターを備えていることが望ましく、バイオフィルターはタンク液体中に懸濁された状態で保持されている移動床フィルター中に微生物支持媒体を含むことが好ましい。バイオフィルター中での液体の循環は、ゴム製円盤膜等の多孔質要素を介して空気を拡散させて微生物支持媒体を回転(tumble)及び混合することで行われ得る。ガスの注入及び結果として起こるガスで惹起される混合により、バイオフィルム中の微生物群と種々の溶解代謝物質の接触が増加する。それにより、水産養殖システム中で再循環される大量の水を処理する際のバイオフィルターの洗浄作用が増大し、運転効率が高くなる。
【0061】
水産養殖プロセスシステム中の各水産養殖タンクは、温度、pH、溶存酸素、塩分濃度、流速、光強度、光周期の長さを、特定の水産養殖プロセス及び用いられる魚種に適した特定の好ましい最適値又は特定の最適範囲内に制御するためにコンピュータで監視することが好ましい。バイオフィルターにおいて、監視は、バイオフィルター支持体要素上の微生物叢を、流速の速い再循環ループ中で水性媒体を高速で浄化するのに適した固体数に維持するように有利に実施される。
【0062】
かかる目的のために、適切な感知要素、監視要素、制御要素が、CPU又はその他のコンピュータ又は自動制御/監視ユニットに相互接続されて、例えば、流速、光照射、溶存酸素濃度、温度、pH等のプロセスパラメータの監視制御、及び/又はシステムフィルターの逆洗(backwash)、プロセスタンクの充填/排出、飼料/栄養素材料の分配、加熱/冷却システムの始動等のプロセス運転を行うため、組み込まれた監視制御モジュールが提供される。
【0063】
全水産養殖プロセスにおいて、フィルターのバックフラッシュを行うため、また、流速、溶存酸素濃度、温度、pH等を監視制御するために、マイクロプロセッサ又はコンピュータシステムを用いた電子制御部を利用してもよい。オーバーフロー及び沈殿した又はフィルターから逆洗された固形物を含む廃棄物は、前述したように、消毒されて最終的に下水に放出されるか、又は別の廃棄若しくは処理プロセスを受ける。
【0064】
最適な運転では、本発明の水産養殖プロセスは、1日の水交換量(1日の水交換量とは、正味補給分として水産養殖システムに導入される水及びシステムから正味排出分として廃棄物廃棄システムに放出される水を意味する。)が10%未満となるように実施される。本水産養殖プロセスシステムはこの点において、システムの通常運転中に外部環境との間で水の正味の交換量が非常に少ないため、「閉鎖型」再循環水産養殖システムである。かかる少ない水消費レベルが可能なのは、水を再循環させて連続的に浄化するという特徴による。正味の廃棄物発生量は最小限に抑えられ、施設運転中に生ずる正味廃棄物は、地方の下水、汚水処理施設、排水処理施設に容易に適応可能である。
【0065】
以下の実施例は本発明の説明のみを意図するものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0066】
改変UASBリアクタが組み込まれた再循環海洋水産養殖システム
本発明は、メタンガスを生成する、含塩有機固形物の消化方法を説明する。本発明は、メタンガスの生成方法をも説明する。更に、本発明は、かかる改変リアクタを用いた水産養殖プロセスを説明する。
【0067】
図2に示すように、本明細書に記載の改変UASBリアクタを、新規の海洋再循環水産養殖システム中に、水及び固形物の嫌気性処理ループ部分として組み込んだ。リアクタの性能を、130日間の魚生育期間中、汚泥消化及びメタン生成効率の点から評価した。改変UASBリアクタは、全130日間の運転期間中、バイオガスの安定した生成を示した。更に、バイオガスの組成を分析した結果、高濃度(50%超)のメタンが示され、これはリアクタ中の非常に効率的なメタン生成活性を示している。汚泥消化性のパラメータは、UASBリアクタに供給された有機固形物の80%超が消化されたことを示していた。
【0068】
本発明を上記実施例との関連で説明したが、種々の修正及び変更も本発明の真意及び範囲に包含されると理解される。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性リアクタの使用及びメタン生成を含む、水産養殖システムで生ずる含塩有機固形物の消化方法。
【請求項2】
前記有機固形物が魚飼料及び魚糞便材料のいずれかを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水産養殖システムが、塩水を用いた海洋水産養殖システム及び汽水を用いた水産養殖システムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記嫌気性リアクタが改変上向流嫌気性汚泥床(UASB)リアクタである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記UASBリアクタが、微生物バイオフィルムが堆積するのに適した組成の材料を含む充填材料を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記改変UASBリアクタの使用によりバイオガスが生成する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオガスがメタンを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
水産養殖システムにより生ずる含塩有機固形物の消化を含む、メタンガス生成方法。
【請求項9】
前記有機固形物が魚飼料及び魚糞便材料のいずれかを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記水産養殖システムが、塩水を用いた海洋水産養殖システム及び汽水を用いた水産養殖システムから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記有機固形物の消化が嫌気性リアクタの使用を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記嫌気性リアクタが改変上向流嫌気性汚泥床(UASB)リアクタである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記UASBリアクタが、微生物バイオフィルムがその上に堆積するのに適した組成の材料を含む充填材料を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
海洋魚種を生産するための閉鎖型再循環海洋水産養殖プロセスであって、水性媒体中での運転を含み、嫌気性リアクタを用いて前記水性媒体から含塩有機固形物を除去し、メタンが生成されることを更に含む、プロセス。
【請求項15】
前記有機固形物が魚飼料及び魚糞便材料のいずれかを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水産養殖システムが、塩水を用いた海洋水産養殖システム及び汽水を用いた水産養殖システムから選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記嫌気性リアクタが改変上向流嫌気性汚泥床(UASB)リアクタである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記UASBリアクタが、微生物バイオフィルムの堆積に適した組成の材料を含み且つ体積に対する表面積の割合が大きい充填材料を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
海洋魚種を生産するための閉鎖型再循環海洋水産養殖プロセスにおける改変UASBリアクタの使用であって、前記UASBリアクタは微生物バイオフィルムが堆積するのに適した組成の材料を含む充填材料を含む、使用。
【請求項20】
前記有機固形物が魚飼料又は魚糞便材料のいずれかを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記水産養殖システムが、塩水を用いた海洋水産養殖システム及び汽水を用いた水産養殖システムから選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
上向流リアクタを含む上向流嫌気性消化メタン生成システムであって、前記上向流リアクタは、前記リアクタ下部に入口、前記リアクタ上部に出口、前記リアクタ中に、汚泥固形物床を下部に含む含塩溶媒、及び前記リアクタ中に、メタン生成バイオフィルムを有する複数の支持体を備え、前記汚泥固形物の嫌気性消化の結果として前記メタン生成バイオフィルムにより生ずるメタン含有ガスを回収するように構成されたガス回収アセンブリを有する、システム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−532246(P2010−532246A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506443(P2010−506443)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/061219
【国際公開番号】WO2008/131403
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(504067859)ユニバーシティー オブ メリーランド バイオテクノロジー インスティテュート (3)
【Fターム(参考)】