説明

水硬性組成物の加工性を向上させるための組成物およびその使用

本発明は、水硬性組成物のための少なくとも1種の減水剤と、少なくとも1種のポリアルキレングリコールとを含む組成物と、さらに、水硬性組成物の加工性の向上のため、特に加工時間の延長のためのその組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリート技術の分野に関する。本発明は、水硬性組成物のための少なくとも1種の減水剤(Verfluessiger)と少なくとも1種のポリアルキレングリコールとを含む組成物、および水硬性組成物の加工性、特に加工時間を伸ばすためのその組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの製造は非常に複雑な工程である。コンクリートは、セメント、コンクリート骨材(たとえば、砂利または砂)、および水から製造される。セメントは水が液体または気体状態であるとにかかわらず、水に対して非常に敏感であることが知られており、なぜなら、セメントは水硬性、すなわち、短時間のうちに水の影響で硬化して非常に安定な固体をもたらすからである。
【0003】
コンクリートへのさらなる加工においては、セメント材料は、骨材および化学添加剤と混合される。たとえば、セメントは、水、石、およびさらなる添加剤と攪拌機中で混合される。液状または粉状の混和剤を添加することによって、化学的および/または物理的観点からコンクリートの特性を向上することが意図されている。したがって、混和剤は、たとえば、コンクリートの流動性、粘度、打設挙動、および硬化挙動に影響を及ぼしうる。
【0004】
いわゆるコンクリート減水剤の使用はずっと以前から知られている。たとえば、欧州特許第1138697B1号明細書または同1061089B1号明細書は、エステルと場合によってはアミド側鎖とを有する(メタ)アクリレートポリマーが、コンクリート減水剤として適していることを開示している。ここでは、このコンクリート減水剤は混和剤としてセメントに添加され、あるいは粉砕前にセメントに添加されて、それらから製造されるコンクリートまたはモルタルの大きな可塑化もしくは水必要量の低減をもたらす。
【0005】
米国特許第5,556,460号明細書は、収縮低減剤として使用するためのセメント混和剤を記載しており、その混和剤は、少なくとも1種のオキシアルキレングリコールと少なくとも1種の櫛状ポリマーとを含み、オキシアルキレングリコールの質量割合は少なくとも50%である。
【0006】
欧州特許出願公開第1149808A2号公報は、減水剤として使用するためのセメント混和剤を記載しており、この混和剤はポリアルキレングリコールAとコポリマーBとを含み、A/Bの質量比が0.02〜0.3であり、かつポリアルキレングリコールAの平均分子量Xと、コポリマーBのポリアルキレングリコール側鎖単位の平均分子量Yが、0.9<(X/Y)<1.1を満足する。これらの範囲内でのみ、この混和剤は満足できる流動挙動と満足できる収縮低減を有している。
【0007】
高温において、またはコンクリートの輸送中に、コンクリートがあまりにも急速に硬化して、加工(Verarbeitung)にはもはや適さなくなるおそれがある。加工可能性、すなわち、コンクリートの加工時間(Verarbeitungszeit)を引き延ばすために、遅延剤が用いられる。しかし、公知の遅延剤は、それらが同時に硬化開始までの時間をも遅延させるという欠点をもっている。このことは、特に、加工後に速やかな硬化が望まれる場合に不利である。
【特許文献1】欧州特許第1138697B1号明細書
【特許文献2】欧州特許第1061089B1号明細書
【特許文献3】米国特許第5,556,460号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1149808A2号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
[本発明のまとめ]
本発明の目的は、したがって、水硬性組成物の加工時間を延ばすための組成物およびそのような組成物の使用を提供することであり、これは従来技術の欠点を克服し、かつ硬化時間は引き延ばさない。この目的は、独立請求項に記載した組成物および使用によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
驚くべきことに、式(I)の少なくとも1種の置換または非置換ポリアルキレングリコールと、水硬性組成物のための少なくとも1種の減水剤であって式(II)の少なくとも1種のポリマーAを含有するものとを含む請求項1に記載した組成物が、水硬性組成物の加工時間を引き延ばし、かつその流動挙動を向上させるために非常に適していることを発見した。特に、式(II)のポリマーAと、式(I)の少なくとも1種のポリアルキレングリコールとの組み合わせによって、公知の遅延剤の欠点が除去され、硬化時間は引き延ばされないこと、さらに加えてポリマーAの有利な効果がさらに向上されうることを驚くべきことに発見した。本発明の組成物はしたがって、従来の遅延剤に代えて用いることができ、それにより、減水剤として及び加工時間を引き延ばすための組成物として同時に作用する。
【0010】
[好ましい態様の説明]
本発明は、加工時間を延ばすための組成物及びその使用に関する。本発明の組成物は、式(I)の少なくとも1種の置換または非置換ポリアルキレングリコールと、式(II)の少なくとも1種のポリマーAを含むかまたはポリマーAからなる、水硬性組成物のための少なくとも1種の減水剤とを含むか又はこれらのみからなる。
【0011】
上記式(I)の置換又は非置換ポリアルキレングリコールは、
11-O-(R12-O)-(R13-O)-R14 (I)
(式中、
11はH又はC〜C20アルキルであり、
12はC〜Cアルキレンであり、
13はC〜Cアルキレンであり、
14はH又はC〜C20アルキルであり、
xは0〜500であり、
yは0〜500であり、
x+y>20であり、かつ式(I)のポリアルキレングリコールの分子量Mは2000〜20000g/molである。)
【0012】
好ましい態様においては、R12=R13である。
【0013】
さらに好ましい態様においては、R11及びR14は互いに独立して、H又はメチルもしくはブチルであり、好ましくはHであり、R12及びR13はエチレン又はプロピレンであり、好ましくはエチレンであり、好ましくはR12=R13である。R12及びR13も互いに異なっていてもよく、ブロックコポリマーとして存在しても又はランダムに配列されていてもよい。
【0014】
特に好ましい態様においては、式(I)のポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)、又はポリプロピレングリコール(PPG)である。ポリエチレングリコール(PEG)又はメトキシポリエチレングリコール(MPEG)が特に好ましい。
【0015】
式(I)の2種以上のポリアルキレングリコールの混合物も好適であり、特に、ポリエチレングリコール(PEG)及びメトキシポリエチレングリコール(MPEG)の混合物、又は異なる分子量Mを有する複数のポリエチレングリコール(PEG)の混合物、又は異なる分子量Mを有する複数のメトキシポリエチレングリコール(MPEG)の混合物が好適である。
【0016】
典型的には、上記ポリアルキレングリコールの分子量Mは、2000〜20000g/mol、好ましくは3000〜10000g/mol、特に好ましくは4000〜6000g/molである。4000〜6000g/molの分子量を有するポリアルキレングリコールが特に好ましく、特に、4000〜6000g/molの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)又はメトキシポリエチレングリコール(MPEG)が好ましい。特に良好な結果は、5000〜6000g/molの分子量を有するポリアルキレングリコールを用いて得られる。x+yの値は、好ましくは40〜150であり、なおさらに好ましくは50〜100である。
【0017】
本発明との関連では、「分子量」は重量平均分子量Mを意味するものとして理解される。
【0018】
好適な減水剤は、水硬性組成物を可塑化し又はそれらの水の必要量を低減するために適した減水剤である。本発明との関連では、「減水剤」は、超減水剤(これはしばしば流動化剤ともいわれる)を意味するものとしても理解される。
【0019】
本発明の減水剤は、少なくとも1種のポリカルボキシレートエーテル(PCE)を含むか又はポリカルボキシレートエーテルのみからなる。好ましくは、減水剤は、少なくとも1種の下記式(II)のポリマーAを含むか、又はそれのみからなる。
【0020】
【化1】

【0021】
式中、Mは互いに独立して、H、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価又は三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基である。ここ及び以下では、「互いに独立して」の語は、各場合に、置換基が同じ分子内で異なる可能な意味を有することができることを意味する。したがって、たとえば、式(II)のポリマーAにおいて、カルボキシル基とナトリウムカルボキシレート基を同時に有すること、すなわち、この場合のRに対してH及びNaが「互いに独立して」の意味である。
【0022】
第一にイオンMが結合しているのがカルボキシレートであり、第二に多価イオンMの場合には、電荷が対イオンによって釣り合いがとれていなければならないことは、当業者には明らかである。
【0023】
さらに、置換基Rは互いに独立して、水素又はメチルである。このことは、ポリマーAが置換ポリ(アクリレート)、ポリ(メタクリレート)、又はポリ((メタ)アクリレート)であることを意味する。
【0024】
さらに、置換基R及びRは互いに独立して、C〜C20のアルキル、シクロアルキル、アルキルアリール、又は-[AO]-Rである。ここで、AはC〜Cのアルキレン基であり、RはC〜C20のアルキル、シクロヘキシル、又はアルキルアリール基であり、nは2〜250、特に8〜200、特に好ましくは11〜150、さらに好ましくは15〜80の値を有する。好ましくは、置換基R及びRは、特にRは、-[AO]-R、すなわちポリアルキレングリコール基であり、AはC及び/又はCのアルキレン基であり、したがって、AOはエチレンオキシド(EO)、及び/又はプロピレンオキシド(PO)単位である。ポリマーA中のエチレンオキシド(EO)、プロピレンオキシド(PO)、及び任意のブチレンオキシド(BuO)単位の配列は、ブロックとして及び/又はランダムに配置されうる。nの値は、R及びRの分子量が実質的に3000g/molより大きくならないように選択されることが好ましく、好ましくはMは1000〜3000g/molである。したがって、nは、好ましくは15〜80の値、さらに好ましくは20〜70の値を有する。
【0025】
置換基Rは、さらに−NH、−NR、又は−ORNRである。ここで、R及びRは互いに独立して、H、又はC〜C20のアルキル、シクロアルキル、又はアルキルアリールもしくはアリール基、又はヒドロキシアルキル基又はアセトキシエチル(CH3-CO-O-CH2-CH2-)、又はヒドロキシイソプロピル(HO-CH(CH3)-CH2-)、又はアセトキシイソプロピル基(CH3-CO-O-CH(CH3)-CH2-)であるか、あるいはR及びRは一緒になって、モルホリン又はイミダゾリン環を作るために−NRの窒素が環の一部である環を形成する。ここで、さらに、置換基R及びRは互いに独立してC〜C20のアルキル、シクロアルキル、アルキルアリール、アリール、又はヒドロキシアルキル基であり、Rは直鎖状又は分岐状のC〜Cのアルキレン基、特にC〜Cのアルキレンの異性体、好ましくは、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、又は-C(CH3)2-CH2-である。
【0026】
最後に、指数a、b、c、及びdは、式(II)のポリマーA中のこれらの構造要素のモル比である。これらの構造要素は互いに以下の比を有する。
a/b/c/d=(0.05〜0.9)/(0.05〜0.9)/(0〜0.8)/(0〜0.5)
特に、a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.5)/(0〜0.1)
好ましくは、a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.3)/(0〜0.06)
a+b+c+dの合計は1である。c+dの合計は0より大きいことが好ましく、好ましくは0.0001〜0.8、より好ましくは0.0001〜0.1、最も好ましくは0.001〜0.02である。
【0027】
典型的には、式(II)のポリマーAの割合は、減水剤の全質量を基準にして10〜100質量%、特に25〜50質量%である。残りは、たとえば、溶媒、特に水、及びさらなる添加剤であってよい。
【0028】
ポリマーAの調製は、以下のそれぞれのモノマー:
【化2】

のフリーラジカル重合によって、又は下記式(IV):
【化3】

のポリカルボン酸のいわゆるポリマー類似体反応によって、行うことができる。
【0029】
ポリマー類似体反応においては、このポリカルボン酸は、相当するアルコール又はアミンでエステル化又はアミド化される。このポリマー類似体反応の詳細は、例えば、欧州特許第1138697B1号明細書の第7頁第20行から第8頁第50行及びその実施例に、あるいは欧州特許第1061089B1号明細書の第4頁第54行から第5頁第38行及びその実施例に開示されている。それらの変形の一つにおいては、欧州特許出願公開第1348729A1号公報の第3頁から第5頁及びその実施例に記載されているように、ポリマーAは固体状態の凝集体として調製できる。
【0030】
上記ポリマーの特に好ましい態様は、c+d>0、特にd>0であることを発見している。特に-NH-CH2-CH2-OHがR基として特に有利であることが判明している。そのようなポリマーAは、除去可能な、化学的に結合したエタノールアミンを有している。このエタノールアミンは、極めて有効な腐食防止剤である。この腐食防止剤が化学的に結合している結果として、それを単に混合した場合と比較して臭気が非常に低減される。さらに、そのようなポリマーAは顕著に強力な流動化特性も有していることを発見した。
【0031】
本発明の組成物は、溶液、分散液、又は粉末であることが好ましい。さらなる態様では、本発明の組成物は、さらなる添加剤、好ましくは有機溶媒又は水を含んでいてもよい。本発明の組成物は、水性分散液又は溶液、特に水性溶液であることが好ましい。
【0032】
特に好適な有機溶媒は、アルコール類、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、多価アルコール(例えば、エチレングリコール、グリセロール)、ポリエーテルポリオール(例えば、ポリエチレングリコール)、及びエーテルアルコール(例えば、ブチルグリコール、メトキシプロパノール)、及びアルキルポリエチレングリコールのみならず、アルデヒド、エステル、エーテル類、アミド、ケトン(特にアセトン、メチルエチルケトン)、炭化水素、特に、メチルエステル類、エチルエステル類、イソプロピルエステル類、ヘプタン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、揮発油、及びそれらの混合物も好ましい。酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、もしくはヘプタン、又はそれらの混合物が好ましい。
【0033】
水は、さらなる添加剤として特に好ましい。水及び有機溶媒の総量を基準にして、50質量%超、好ましくは65質量%超、特に80質量%超の水含有量を有する水-アルコール混合物がさらに好ましい。
【0034】
さらなる添加剤の例は、コンクリート技術においてよく知られた添加剤、特に、界面活性剤、熱及び光安定剤、離型剤、クロム還元剤(Chromatreduzierer)、染料、消泡剤、促進剤、遅延剤、さらなる腐食防止剤、空気導入剤及び脱気剤、気孔形成剤、揚水(Pumphilfsmittel)助剤、粘度調節剤、撥水剤、又はチキソ性付与剤、又は収縮低減剤である。
【0035】
ポリアルキレングリコールの割合は、本組成物の総乾燥質量を基準にして、典型的には1〜70質量%、好ましくは10〜50質量%、特に好ましくは15〜45質量%、より好ましくは15〜40質量%、特に好ましくは25〜40質量%である。総乾燥質量は、水又は溶媒なしの組成物質量を意味するものとして理解される。
【0036】
減水剤の割合、特にポリマーAの割合は、本組成物の総乾燥質量を基準にして、典型的には30〜99質量%、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは55〜85質量%、なおさらに好ましくは60〜85質量%、特に好ましくは60〜75質量%である。
【0037】
特に好ましい態様では、本発明の組成物は、少なくとも1種の4000〜6000g/molの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)又はメトキシポリエチレングリコール(MPEG)と、少なくとも1種の式(II)のポリマーを含む(式中c+d>0、好ましくはd>0であり、Rは-[AO]n-R、すなわちAがC及び/又はCアルキレン基であり、AOがエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)単位であり、nの値はRの分子量が実質的に3000g/molより大きくならないように選択され、好ましくはMが1000〜3000g/molである)。したがって、式(I)のフリーのポリアルキレングリコールと、ポリマーA中のポリアルキレングリコール基Rとの間の平均分子量の比は、1.2より大きく、特に1.3より大きい。好ましくは、ポリアルキレングリコールの割合は、組成物の総乾燥質量を基準に、15〜45質量%、特に25〜40質量%であり、かつ式(I)のポリアルキレングリコールと、上記減水剤、特に式(II)のポリマーとの間の質量比は、0.17〜0.7、好ましくは0.33〜0.7である。
【0038】
水又は有機溶媒なしの本発明の粉状組成物も好ましい。
【0039】
さらなる側面では、本発明は、本発明の上記組成物と、さらに少なくとも1種の水硬性バインダーとを含むか、あるいはそれらのみからなる水硬性組成物に関する。この水硬性バインダーは、好ましくは無機バインダーであり、例えば、セメント、石膏、フライアッシュ、シリカヒューム、スラグ、スラグ砂、石膏石灰、又は生石灰などである。好ましい水硬性バインダーは、少なくとも1種のセメント、特に、欧州規格(Euronorm)EN197に準拠する少なくとも1種のセメント、又は無水石膏、半水石膏、二水石膏の形態の硫酸カルシウム;又は水酸化カルシウム、を含む。ポルトランドセメント、スルホアルミネートセメント、及び高アルミナセメント、特にポルトランドセメントが好ましい。セメント類の混合物が特に良好な特性を導きうる。速硬化(早強性)のためには、特にセメント含有速効性バインダーが使用され、これは、少なくとも1種の高アルミナセメント又は別のアルミネート源(例えば、無水石膏、半水石膏、又は二水石膏の形態の、アルミネート供与性クリンカー及び任意に硫酸カルシウムなど);及び/又は水酸化カルシウムを含むことが好ましい。セメント、特にポルトランドセメントは、水硬性バインダーの構成成分として好ましい。低クロメート(chromatarmer)セメントが特に好ましい。本水硬性組成物は、好ましくはコンクリートである。
【0040】
本発明の組成物は、本発明の組成物の割合が、水硬性バインダーの質量を基準にして0.05〜3質量%、好ましくは0.1〜1.5質量%、特に好ましくは0.2〜1質量%となるように水硬性バインダー中に計量されることが好ましい。
【0041】
本発明の組成物の調製は、式(I)のポリアルキレングリコールを、式(II)の少なくとも1種のポリマーAを含むか又は少なくとも1種のポリマーAのみからなる少なくとも1種の減水剤と混合することによって行われ、その手順において最初にポリアルキレングリコール又は最初に減水剤のいずれが存在するかの問題はいかなる役割も演じない。水性組成物の調製は、本減水剤の調製時に、特に式(I)のポリマーAの調製時に、水を添加することによって、あるいは本減水剤とポリアルキレングリコールを続いて水と混合することによって行われる。本発明の組成物は、粉末、透明又は不透明な溶液又は分散液として、すなわち、エマルション又は懸濁液として存在してよい。
【0042】
無水水硬性組成物の加工のためには、必要な量の水を添加し、混合物を加工する。必要とされる水の量は、当業者によって通常用いられる水/セメント比(w/c値)に主に左右される。本減水剤又はポリアルキレングリコールは、同時に、又は任意の所望の順序で、水硬性組成物、好ましくは無水コンクリートミックスに、混合水の添加前、混合水の添加と同時、又は混合水の添加後に添加でき、あるいは最初に減水剤と混合水、次にポリアルキレングリコールを水硬性組成物に添加することができる。この水との接触後に、本水硬性組成物は硬化する。
【0043】
さらなる側面では、したがって本発明は、本発明の組成物を含む、水で硬化された水硬組成物、好ましくはコンクリートに関する。
【0044】
さらなる側面では、本発明は、従来の減水剤を含む水硬性組成物と比較して、水硬性組成物の加工時間を延ばすため、かつ流動特性を向上させるための、本発明の組成物の使用に関する。特に、本発明の組成物を含む水硬性組成物の硬化時間は、従来の遅延剤を含む水硬性組成物と比較して引き延ばされない。
【0045】
「加工時間」又は「加工可能時間」は、水硬性組成物、好ましくは生(フレッシュ)コンクリートが加工可能である間の時間を表す。「加工可能」は、混合、輸送、デリバリー、及び指示された場所での導入時、及び続いての打設及び表面の処理時の、水硬性組成物、好ましくはフレッシュコンクリートの挙動を示す。加工性は、数値でのコンシステンシーを用いて測定可能な時限で表すことができる。例えば、コンシステンシーは、スランプ、成形性の程度、流動性、又は気泡含有量を試験することによって測定できる。生コンクリートの場合、規格EN12350に準拠した試験法を行うことが好ましい。
【0046】
好ましい態様では、加工時間は、式(I)のポリアルキレングリコールなしで従来の減水剤を含む通常の水硬性組成物の対応する加工時間と比較して、10%超、好ましくは20〜70%、より好ましくは25〜50%延長される。
【0047】
本発明はさらに、少なくとも1種の本発明の組成物を含むコンクリート建築物に関する。このコンクリート建築物は、ビル建築又は土木の構造物、特に、ビルディング、トンネル、道路、又は橋梁であることが有利である。
【0048】
本発明の上記組成物は、水硬性組成物のための減水剤及び加工延長剤として同時に働くという利点を有する。本減水剤の効果は、ポリアルキレングリコールの添加によってなおさらに向上される。このことは非常に驚くべきことであり、なぜなら、ポリアルキレングリコール単独では、水硬性組成物においていかなる可塑化効果も有しないからである。
【実施例】
【0049】
本発明を、実施例を参照してさらに詳細に説明する。
【0050】
1.1 使用した原料
【表1】

【0051】
1.2 使用したポリマーA
【表2】

【0052】
表3に記載したポリマーAは、公知の方法で、ポリ(メタ)アクリル酸と、対応するアルコール及びアミンとのポリマー類似体反応を用いて調製した。ポリマーA−1はNaOHによる部分的に中和された形態(M=H、Na)で存在する。
【0053】
ポリマーAは、これらの例においては水溶液として用いた。ポリマー(A−1、A−2、及びA−3)の含有量は、40質量%である。これらの水溶液を、A−1L、A−2L、及びA−3Lという。以下の表に記載したAの濃度は、各場合において、ポリマーAの含有量に基づいている。
【0054】
【表3】

【0055】
2.1 モルタルの流動挙動
0〜8mmの粒径、約320kg/mのポルトランドセメントCEM I 42.5、及び0.4のw/c値をもつモルタルを調製した。混合水の添加時に、表4に記載したポリマーAを0.32%と、表4に記載した量のポリアルキレングリコールとを同時に添加した。記載したパーセント割合は、各場合において、セメントを基準にした、ポリマーAの乾燥質量と、ポリアルキレングリコールの重量に関する。ポリマーAとポリアルキレングリコールは他の記載がない限りは添加の前に水に溶かし、無水のモルタルミックスに混合水とともに、40%濃度溶液で添加した。
【0056】
流動挙動を調べるために、ミリメートル単位でのスランプ(SLU)を、様々な時間に、コーン除去後に、衝撃あり(wI)と衝撃なし(woI)とで、両方ともDIN18555に準拠して測定した。加えて、気泡量(空気)をEN196に準拠して測定した。
【0057】
【表4】

【0058】
表4は、本発明によるポリアルキレングリコール含有モルタルの加工性が、60分後でさえなお非常に良好であることを示している。モルタルは、衝撃あり(wI)の試験で130mmより大きなスランプ値である場合は、容易に加工可能であると考えられる。200g/molのMを有するPEG200をポリアルキレングリコールとして用いた場合は、モルタルは60分後にはもはや容易に加工できない。一方、4000〜6000g/molの分子量Mを有するポリアルキレングリコール、特にPEG5000、PEG6000、MPEG5000、とりわけ特にMPEG5000を用いて顕著な結果が得られる。特に良好な結果は、ポリアルキレングリコール及び減水剤すなわちポリマーAの合計乾燥質量を基準にして、15〜45質量%の量で、特に25〜40質量%の量で用いたポリアルキレングリコールによって得られた。
【0059】
2.2 コンクリートの流動挙動
0〜32mmの粒径、約320kg/mのポルトランドセメントCEM I 42.5、及び0.43のw/c値をもつコンクリートを調製した。混合水の添加時に、表5及び表6に記載したポリマーAとポリアルキレングリコールとを同時に添加した。記載したパーセント割合は、各場合において、セメントを基準にした、ポリマーAの乾燥質量、又はポリアルキレングリコールの乾燥質量に関する。ポリマーAとポリアルキレングリコールは添加の前に水に溶かし、コンクリートミックスに対し、混合水とともに、40%濃度溶液として添加した。
【0060】
流動挙動を調べるために、ミリメートル単位でのスランプ(SLU)を、様々な時間にDIN12350に準拠して測定した。加えて、気泡量(空気)をEN12350に準拠して測定し、EN12390に準拠した圧縮強度を測定した(表5及び6を参照されたい)。
【0061】
【表5】

【0062】
表5は、本発明によるポリアルキレングリコール含有コンクリートの加工性が、減水剤だけしか含まないコンクリートと比べて、60分後でさえなお非常に良好であることを示している。このコンクリートの場合の加工可能性の限度は、約30cmのスランプである。ポリアルキレングリコールなしでは、コンクリートは60分後でちょうど加工可能であるだけであるのに対して、MPEG5000を含むコンクリートは60分後でもなお容易に加工可能である。加えて、10℃で1日後の圧縮強度は、ポリアルキレングリコールの添加の結果として、いかなる強度の低下もないことを示している。
【0063】
【表6】

【0064】
表6は、本発明のポリアルキレングリコール含有コンクリートの加工性が、減水剤だけしか含まないコンクリートと比較して、3時間後でさえ、なお非常に良好であることを示している。この組成物のコンクリートのスランプが40cm未満に下がったときに、加工性の限度に達する。ポリアルキレングリコールなしのコンクリートの場合には、この値には約4時間後に達し;ポリアルキレングリコールを含むコンクリートの場合には、この値には約6時間後にのみ達する。MPEG5000を用いて顕著な結果が得られた。したがって、ポリマーAを用いる減水剤とポリアルキレングリコールとを含む組成物を、調製時に添加したコンクリートの加工時間は、ポリマーAを用いる減水剤のみを調製時に添加したコンクリートと比較して、約50%引き延ばされることがここでは示されている。
【0065】
3.硬化時間の比較
0〜32mmの粒径、約320kg/mのポルトランドセメントCEM I 42.5、及び0.43のw/c値を用いてコンクリートを調製した。混合水の添加時に、ポリマーAと、ポリアルキレングリコールもしくはグルコン酸ナトリウムとを、表7に記載した量で同時に添加した。記載したパーセント割合は、各場合において、セメントを基準にした、ポリマーAの乾燥質量、又はポリアルキレングリコールの乾燥質量もしくはグルコン酸ナトリウムの乾燥質量に関する。ポリマーA、及びポリアルキレングリコール又はグルコン酸ナトリウムは、添加の前に水に溶かし、コンクリートミックスに対し、混合水とともに、40%濃度溶液として添加した。
【0066】
硬化時間は、コンクリートミックスの最大温度(Tmax)を決定することによって測定した。本発明の組成物を含むコンクリートミックスの硬化時間を、従来の遅延剤、例えば、グルコン酸ナトリウム又はデンプン誘導体を含むコンクリートミックスの硬化時間と比較した。表7は、従来の遅延剤を含むコンクリートミックスの硬化時間が、減水剤のみを含むコンクリートミックスと比較して引き延ばされていること、あるいは、減水剤とポリアルキレングリコールを含むコンクリートミックスの硬化時間は、ポリアルキレングリコールなしのものと同程度であることを示している。
【0067】
【表7】

【0068】
もちろん、本発明は、提示し且つ記載した実施例に限定されない。本発明の上記特徴は、各場合に記載した組み合わせにおいてだけでなく、その他の変形及び組み合わせにおいて、且つその他の変更を伴いあるいは分離して、本発明の範囲から離れることなく、用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)の少なくとも1種の置換又は非置換ポリアルキレングリコールと、水硬性組成物のための少なくとも1種の減水剤とを含む組成物であって、
前記式(I)は以下の:
11-O-(R12-O)-(R13-O)-R14 (I)
[式中、
11はH又はC〜C20アルキルであり、
12はC〜Cアルキレンであり、
13はC〜Cアルキレンであり、
14はH又はC〜C20アルキルであり、
xは0〜500であり、
yは0〜500であり、
x+y>20であり、かつ式(I)のポリアルキレングリコールの分子量Mは2000〜20000g/molである。]であり;かつ、
前記減水剤が下記式(II):
【化1】

[式(II)中、
Mは互いに独立して、H、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価又は三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり、
Rは、各Rは互いに独立して、水素又はメチルであり、
及びRは互いに独立して、C〜C20のアルキル、シクロアルキル、アルキルアリール、又は-[AO]-Rであり(ここで、AはC〜Cのアルキレンであり、RはC〜C20のアルキル、シクロヘキシル、又はアルキルアリール基であり、nは2〜250である)、
は、−NH、−NR、又は−ORNRであり(ここで、
及びRは互いに独立して、H、又はC〜C20のアルキル、シクロアルキル、又はアルキルアリールもしくはアリール基であるか;
又はヒドロキシアルキル基であるか、
又はアセトキシエチル(CH3-CO-O-CH2-CH2-)、又はヒドロキシイソプロピル(HO-CH(CH3)-CH2-)、又はアセトキシイソプロピル基(CH3-CO-O-CH(CH3)-CH2-)であるか、
あるいはR及びRは一緒になって環を形成し、前記環においては−NRの窒素が、モルホリン又はイミダゾリン環を作るための一部であり、
はC〜Cのアルキレン基であり、
及びRは、互いに独立して、C〜C20のアルキル、シクロアルキル、アルキルアリール、アリール、又はヒドロキシアルキル基であり、
式中、a、b、c、及びdはモル比であり、かつ、a/b/c/d=(0.05〜0.9)/(0.05〜0.95)/(0〜0.8)/(0〜0.5)であり、a+b+c+dの合計は1である。]
の少なくとも1種のポリマーAを含むか又は少なくとも1種のポリマーAのみからなる、組成物。
【請求項2】
前記Rが、-[AO]-R基であり、nが15〜80である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.5)/(0〜0.1)、好ましくは、a/b/c/d=(0.1〜0.9)/(0.1〜0.9)/(0〜0.3)/(0〜0.06)であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
c+dが0より大きいことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
式(I)において、R12がR13であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
式(I)のポリアルキレングリコールが、ポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール(MPEG)、又はポリプロピレングリコール(PPG)、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)、であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリアルキレングリコールの分子量Mが、4000〜6000g/mol、好ましくは5000〜6000g/mol、であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
分散液、溶液、又は粉末であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
水性溶液であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
さらなる添加剤、好ましくは有機溶媒又は水を追加して含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポリアルキレングリコールの割合が、組成物の総乾燥質量を基準にして、15〜45質量%、好ましくは25〜40質量%であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記の少なくとも1種の減水剤の割合が、組成物の総乾燥質量を基準にして、55〜85質量%、好ましくは60〜75質量%であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物と少なくとも1種の水硬性バインダーとを含む水硬性組成物。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物を含み、水で硬化された水硬性組成物。
【請求項15】
水硬性組成物の加工時間を引き延ばすための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
式(I)のポリアルキレングリコールなしで減水剤を含む水硬性組成物の通常の加工時間と比較して、10%超、好ましくは20〜70%、より好ましくは25〜50%、加工時間が延長されることを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
a)式(I)のポリアルキレングリコールを、式(II)の少なくとも1種のポリマーAを含むか又は少なくとも1種のポリマーAのみからなる少なくとも1種の減水剤と混合するステップ、
を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物を含むコンクリート建築物。
【請求項19】
ビル建築又は土木の構造物、特に、ビルディング、道路、橋梁、又はトンネルであることを特徴とする、請求項18に記載のコンクリート建築物。

【公表番号】特表2009−518269(P2009−518269A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543849(P2008−543849)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069495
【国際公開番号】WO2007/065952
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(504274505)シーカ・テクノロジー・アーゲー (227)
【Fターム(参考)】